2009年2月 Archive

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妻と娘が1人おり、パリとローマにアパートを持っている中年男性のパロマー氏。時には浜辺や動物園に行き、時には街角で買い物をして、時には竜安寺の石庭を眺め、時にはメキシコにあるトルテカ族のかつての首都トゥーラの遺跡を見学するパロマー氏。そんなパロマー氏が様々なものを観察する不連続な短編集。「パロマー氏の休暇」「街のパロマー氏」「パロマー氏の沈黙」という3部それぞれが3章ずつに分かれて、そのそれぞれに3つずつの短編が入っています。

3つずつの短編はそれぞれ「視覚による経験」「人類学的もしくは広義の文化的要素」「より思索的経験」という3種類のの主題領域に則って書かれていて、作品全体を縦に読むだけでなく、横に読むことができるようになっているんだそうです。という3つの違いは、一読しただけでは、ああ確かに言われてみれば、程度だったんだけど...(汗)
パロマー氏がしているのは、もっぱら観察して考えること。例えば浜辺で波について、胸を露にして日光浴をしている女性について、傾きかけた陽射しについて、あるいは街で買い物をしている時に鵞鳥の脂肪が詰まった小瓶を見ながら、店頭に置かれた様々なチーズを見ながら、肉屋のカウンターの向こうを見ながら、詳細に観察、そして思索します。浜辺や自宅のように人気のないところで思索している分にはあまり他人の迷惑にはならないんですけど、街角の商店では後ろに並んでいる人たちに睨まれて、慌てて詰まらないものを買ってみたり。

最後の方で読書に関する文章があって、私はそれが好きでした! 「冬の夜ひとりの旅人が」や「なぜ古典を読むのか」に直接繋がるような部分。そうそう、「冬の夜ひとりの旅人が」を読んだ時にkotaさんに、私には「パロマー」がおすすめかもしれないし、まったくおすすめできないかもしれない、と教えて頂いていたのでした。というのはここの部分があるからじゃなくて、この本全体のことだと理解してるのですが。
このパロマー氏は、カルヴィーノ自身なんですかね? いやー、やっぱり妙な作品だったわー。このパルマー氏が普段何の仕事をしているのかは明らかじゃないんですけど、周囲の迷惑も顧みないその深い思索、その詳細さ、そして横道への逸れぶりが可笑しいんです。でも読んでると、ほらほら面白くないでしょ?と言われてる気がしてならなくて。でもこういうのってoverQさんの仰る「部分>全体」を思い出しちゃう。詳細な「部分」は「全体」を凌駕するということを実践してみせた作品だったのかな?(笑)(岩波文庫)


+既読のイタロ・カルヴィーノ作品の感想+
「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ
「不在の騎士」イタロ・カルヴィーノ
「レ・コスミコミケ」イタロ・カルヴィーノ
「なぜ古典を読むのか」イタロ・カルヴィーノ
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
「イタリア民話集」上下 カルヴィーノ
「魔法の庭」イタロ・カルヴィーノ
「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ
「マルコヴァルドさんの四季」カルヴィーノ
「冬の夜ひとりの旅人が」イタロ・カルヴィーノ
「柔かい月」イタロ・カルヴィーノ
「カルヴィーノの文学講義」イタロ・カルヴィーノ
「パロマー」カルヴィーノ
「くもの巣の小道」イタロ・カルヴィーノ
「むずかしい愛」カルヴィーノ

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ノックの音がしてキャスリンが目覚めたのは午前3時24分。夫はロンドンに行ってて留守、娘のマティは自分の部屋で寝ているはず。キャサリンはゆっくり起き上がって階下に降り、裏口のライトをつけます。そこにいたのは見知らぬ男。「ミセス・ライアンズですね?」と言われた瞬間、彼女は何が起きたか悟ります。パイロットである夫の操縦する飛行機が墜落したのです。それはアイルランド沖での出来事でした。

結婚16年目。15歳年上の夫・ジャックと15歳の娘・マティとの幸せな生活に突然起きた出来事とは、旅客機の墜落事故。その事故で100人以上の乗客が亡くなり、様々な憶測が飛び、残されたキャスリンと娘のマティに様々なことが降りかかってくることになります。
少しずつ読み進めている新潮クレストブックスですが、去年は手に取るのがばったり止まっちゃってたんですよね。それはこの作品で躓いていたせいだったのでした。なんとなく古い順から読んでいて、この本は文庫落ちしてるので文庫を買ってたんですけど、飛行機事故の話がどうしてもダメな私。(ついでにいえば、地震物もダメ) しかも本からなんだか苦手そうだなという匂いがぷんぷんと...。いや、それならそれであっさり飛ばしてしまえばいいようなものなんですが...。(それなのになんで買うんだ、私ってば)

で、実際読んでみて。やっぱり思ってた通りの作品でした。この展開も、やっぱり好みじゃなかったです。それでも一気に読ませられる作品ではありましたけどね。
良く知っているはずの人間が知らない面を持っているなんてよくあることだし、いくら一緒にいる時間が長くても、血が繋がってたとしても、1人の人間を完全に理解できたと思うなんて、やっぱり驕りだと思うんですよねえ。(新潮文庫)

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百貨店の寝具売場に勤めながら百科事典の執筆に勤しみ、最近<ロンリー・ハーツ読書倶楽部>に讃歌した「小さな男」。そしてラジオのパーソナリティで、最近日曜の深夜1時からの2時間の生番組に抜擢されたばかりの34歳の静香。そんな2人のそれぞれの物語。

「小さな男」と静香の2人の小さなエピソードが沢山積み重なってできている物語。この2人、仕事も行動範囲も全然違うし、一見何も接点もないんですよね。もちろん物語なんで、どこかでクロスするんだろうなと思いながら読むわけだし、序盤で早速「ミヤトウ」さんが接点だと分かることになるんですけど、でもそうそうストレートに繋がっていくわけではありません。もっと小さいところから、少しずつ少しずつ、ゆるやかに重なっていく感じ。シンクロしているといえばしているし、気がつかなければ気がつかない程度。そのゆるゆる感が素敵。

印象に残ったのはこの言葉。

結局、いちばん残しておきたいものはいつでもこうしてこぼれ落ちてゆく。人の記憶なんてそんなものだ。(中略) 代わりに、どうでもいいことばかりが克明に記録されてゆく。

この言葉ね、本の感想を書くのも一緒だなーと思って。でも、確かに私もどうでもいいことばかり克明に記録してるんですけど、後で見たらちゃんとその時のことが思い出せるんです。だから、それはそれでいいような気もしてます。

あと私が気に入ったのは、古書店ならぬ古詩集屋の午睡屋。ここの店長は、昭和30年代の時刻表や「熱帯果実図鑑」「卓上灯製作の実際」といった本を「詩集です」と断言しつつ、「つまり、いったい何が詩で、何が詩ではないか、という根源的な問題に関わっているのです」なんて澄ました顔で説明しちゃう白影くん。彼に言わせれば、詩集とは静かな声を閉じ込めたもので、詩集屋というのは静かな声を売る店なんですって。そういう風に考えるのも、なんだかとっても素敵ですね。 (マガジンハウス)


+既読の吉田篤弘作品の感想+
「百鼠」吉田篤弘
「78」「十字路のあるところ」吉田篤弘
「という、はなし」吉田篤弘
「空ばかり見ていた」吉田篤弘
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」吉田篤弘
「小さな男*静かな声」吉田篤弘
Livreに「フィンガーボウルの話のつづき」「つむじ風食堂の夜」「針がとぶ」の感想があります)

+既読のクラフト・エヴィング商會の感想+
「アナ・トレントの鞄」クラフト・エヴィング商會
「犬」「猫」クラフト・エヴィング商會プレゼンツ
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

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子供たちがコリーみたいな犬と遊んでいるのを見て、12歳の時に父親が買った犬を思い出す「私」。家では家畜用の働き者の若い犬を必要としていたのです... という表題作「冬の犬」他、全8編の短編集。

「灰色の輝ける贈り物」と同じく、カナダのケープ・ブレトン島が舞台となっている短編集。どうやら「灰色の輝ける贈り物」が「Island」という短編集の前半の8編で、こちらの「冬の犬」が後半の8編のようですね。その前半の8編と同じく、とても静かなのがまず印象に残ります。静謐で、でも生きる力に満ちた物語。この「生きる力」は、時には激しくて驚くほど。そして死。その背景にあるのは、厳しすぎるほど厳しい自然の姿。「赤毛のアン」のプリンス・エドワード島とは隣り合わせのはずなのに、なんでこんなに違うんだろう... と思わずにはいられません。気候的にもそれほど違わないはずなのに、ここまで違うとは。生き生きとした躍動感あふれる「赤毛のアン」とは対照的な、こちらはずっしりと貧しさと孤独がのしかかってくるような生活。「赤毛のアン」が春から初夏にかけての明るいイメージだとすれば、こちらは厳寒の冬の暗いイメージ。
どれも違う家族のことを描いているんですが、どれも同じ家族のことを書いているようでもあり... もちろんアリステア・マクラウドもその中の1人なんでしょうね。故郷スコットランドのハイランドやゲール語の存在がその根底に流れていて、故郷を離れなければならなかった深い悲哀を漂わせながらも、同時に時の流れを感じさせます。(新潮クレストブックス)


+既読のアリステア・マクラウド作品の感想+
「灰色の輝ける贈り物」アリステア・マクラウド
「冬の犬」アリステア・マクラウド
「彼方なる歌に耳を澄ませよ」アリステア・マクラウド

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敵との対決に自分の存在が邪魔になると感じたケイティは、ニューヨークでの仕事を辞めて、故郷であるテキサス州コブの町へと帰ることに。そして実家の肥料店を手伝い始めるのですが、魔法とは縁のないはずだったコブで、妙なことが立て続けに起き始めたのです。ケイティはマーリンに事情を説明して相談することに。

「(株)魔法製作所」シリーズの4作目。この翻訳が出るのが待ちきれなくて、去年「Don't Hex with Texas」を読んでしまってるので再読になります。いやあ、やっぱり面白かった。そして原書でもちゃんと話が分かってたことを確認できて、ほっとしました。英文自体はあっさりしててあんまり難しくなかったんですけどね。やっぱり不安だったので...
ケイティの家族総出演が楽しくて、特におばあちゃんがいい味出してて、オーウェンが相変わらず素敵で、イドリスが相変わらず間抜けで... という辺りは以前感想を書いた時と一緒。そして原書の出版社が5作目の出版を保留してるというのが、やっぱりショック。以前そんな話を聞きましたが、まだそうなんですか。でもオーウェンの生い立ちとか敵の黒幕とか、まだまだわかってないことがいっぱいだし、作者本人は出版に意欲的だそうだし、これは出版社を替えてでもぜひ出していただきたい!...なーんて簡単に言えるようなことではないんでしょうけど。出版社側の理由としては、1作目に比べて後続巻の売り上げ部数が期待するほど伸びてないからだそうです。1作目の売り上げはいまだに順調だというのになぜ? しかも日本にまで翻訳されて快調に売れてるというのに! この辺りが日本での出版事情とはちょっと違うところなんですね。あー、続編、読みたいよぅ。こんな風に読んでて幸せになれる作品って貴重ですよぅ。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ニューヨークの魔法使い」シャンナ・スウェンドソン
「赤い靴の誘惑」シャンナ・スウェンドソン
「おせっかいなゴッドマザー」シャンナ・スウェンドソン
「Don't Hex with Texas」Shanna Swendson
「コブの怪しい魔法使い」シャンナ・スウェンドソン

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紀元前146年カルタゴを滅亡させ、名実共に地中海の覇者となったローマ。しかし人間も都市も国家も帝国も、いつかは滅亡するもの。この時建国600年を経過していたローマに新たな難問が降りかかろうとしていました。第二次ポエニ戦役中に元老院に集中した権力が戦後もそのまま継続され、ローマ社会の貧富の差が拡大します。それは、かつてのように貴族に対して平民が政治上の権力の平等を求めるという段階を超えてしまっていたのです。紀元前2世紀後半のローマに現れたグラックス兄弟からマリウス、スッラの時代を経て、紀元前63年にオリエントを平定し終わったポンペイウスの時代までを見ていきます。

国外の問題が片付いたかと思えば、国内の問題が勃発するローマ帝国。「共通の敵」がいる間は強かった結束も、平和になるとお互いのことが気になってくるのはよくあること。「共通の敵」というのは、もしかしたら必要悪なのかもしれないですね。でもこの時点で既に建国から600年のこの時代だというのが驚き。日本だと徳川幕府でもこの半分の300年しか続いてないんですものねえ。
前の巻のみたいなワクワクする爽快感はないし、華やかなスキピオとカエサルの時代に挟まれてどちらかといえば地味だと思うんですけど、こういう時代をしっかり理解しておくことが、これからのローマの在り方を理解する上で重要になってくるような気もします。
それにしても、古代ローマ物は名前が同じ人物が多くて覚えにくいなーと思ってましたが、元々名前のバリエーション自体が少なかったとは。男性の個人名はガイウス、ティベリウス、グネウス、アッピウス、ルキウス、プブリウス、マルクス程度だったんですって。少なッ。で、5人目からはクイントゥス、セクストゥス、セッティムス、オクタヴィウス、デキウスって、ほんとそのまんま五郎・六郎・七郎... じゃないですか。しかも女性の個人名ともなると、家門名の語尾変化形に過ぎなかったとか。あれだけ神々の多い国なのに、しかもその神々が身近な存在なのに、その名前を借りようとは思わなかったんですね~。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず」1・2 塩野七生
「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」3~5 塩野七生
「ローマ人の物語 勝者の混迷」6・7 塩野七生
「ローマ人の物語」8~10 塩野七生 「ガリア戦記」カエサル
「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前」8~10 塩野七生(再読)
「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以降」11~13 塩野七生
「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ」14~16 塩野七生
「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」17~20 塩野七生
「ローマ人の物語 危機と克服」21~23 塩野七生
「ローマ人の物語 賢帝の世紀」24~26 塩野七生
「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」塩野七生

+既読の塩野七生作品の感想+
「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」塩野七生
「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」塩野七生

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大晦日にユカがふと目覚めると、枕元に置いておいたクレヨンの箱がからっぽ。なんとクレヨンたちがカメレオンを囲んで会議をしていました。シルバー王妃の12の悪い癖を直さないと城には戻らないとゴールデン王が家出をしてしまったというのです... という「クレヨン王国の十二ヶ月」。そして学校の春休み、5年1組では岩戸山の自然公園で星座の観察が行われることになりノブオも参加。しかしノブオと右田先生はなぜか犬猿の仲で... という「クレヨン王国のパトロール隊長」。

なんとクレヨン王国シリーズは今まで読んだことがなくて、これが初めて。石堂藍さんの「ファンタジーブックガイド」に載ってたので、いずれは読もうと思ってたんですけど、ようやく読めました。
「クレヨン王国の十二ヶ月」は、シリーズの1作目。城を出てしまったゴールデン王を探すためにシルバー王妃と小学2年生のユカが12の町を旅する物語。これはこれでとても可愛いんですけど、やっぱり童話ですしね。散らかし癖、お寝坊、嘘つき、自慢屋、欲しがり癖、偏食、意地っ張り、げらげら笑いのすぐ怒り、けちんぼ、人のせいにする、疑い癖、お化粧3時間という12の悪い癖を直すという教訓話だし... 王様がいなくなると1年で世界の色が失われて人間も地球も滅びてしまうというのに、それでも家出してしまう王様というのがまた納得しづらいところ。シルバー王妃とユカが旅する12の町は12の月の町で、それぞれの町の色が決まってて、そういうのは本当はとってもそそる設定のはずなんですけど... 私にはちょっと可愛らしすぎて、小学校の頃に出会っていればもっと楽しめただろうになーって思ってしまいました。
でも「クレヨン王国のパトロール隊長」がすごく良かった! こちらは小学校5年生のノブオの成長物語です。現実の世界でも色々あって大変なノブオがクレヨン王国に来て、ここでもさらに大変な状況に巻き込まれてしまうというなかなか厳しい物語。心がもう限界まで来ちゃってるのに、そんなノブオに対してクレヨン王国は表面的になだめて解決するんじゃなくて、抜本的な荒療治をするんです。これがなかなかすごい。クレヨン王国のシリーズには作品が沢山あるけど、「ファンタジー・ブックガイド」にこのタイトルが挙げられてたのが分かるなあ。あとがきを読んでみると、この「パトロール隊長」と「クレヨン王国月のたまご」が、シリーズの中でも一番ファンレターが届く作品なんだそうです。納得。いずれ「月のたまご」も読んでみようっと。(講談社青い鳥文庫)

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Note


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