2009年2月 Archive

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JJ・リディは、両親と妹との4人暮らし。父は詩人で母は音楽家。母の家は代々音楽家の家系で、毎週のようにケイリーと呼ばれるアイルランド伝統のダンスパーティが開かれているのです。JJ自身もフィドルやフルートの演奏者として、ハーリングの選手として、アイリッシュ・ダンスの踊り手として、数々の賞を手に入れてきていました。しかし最近どうにも時間がないのです。父が母と出会い、母の実家の農家に移り住んだ時に夢見ていたのは牧歌的な生活。しかし今では日々農作業に追われ、詩作などまったくする余裕がない状態。そしてリディ家だけでなく、この一帯に住む大人も子供も同じ問題に悩まされていました。

毎日のように時間にに追われて「時間が足りないー」「もっと時間が欲しいー」と言っている現代人は多いはず。という私もやりたいことが多すぎて、1日24時間じゃあ到底足りない状態。でも「時間が足りない」というのは、単なる比喩的な表現での話。1日はちゃんと24時間あると納得した上で、そんなことを言ってます。ま、言ってしまえば、自分の能力を超えて欲張りすぎなんですよね、私の場合は。まさか本当に時間がなくなっているとは考えたこともありません。でもこの作品の中では、本当に時間がなくなってしまうんです。となると、ミヒャエル・エンデの「モモ」を思い出すんですが、そういうのとはまたちょっと違っていて...。いや、結果としてはかなり似た状況とも言えるんですけど、誰も他人の時間の花を奪おうとしているわけではありませんし。(笑)
アイルランドのファンタジーはチェックしてるつもりでいたんですけど、これはすっかり抜け落ちてました。まさかこんなところにあったとは! この続編の題名が「プーカと最後の大王(ハイキング)」で、それを見るまで全然気づいてなかったんです。まさか「ティル・ナ・ノグ」まで出て来ようととはーっ。時間不足に嘆く普通の世界と時間の存在していないティル・ナ・ノグの関係も面白かったし、それぞれの住人たちがまたいいんですよねえ。そして最初から最後までずっとアイルランドの伝統音楽がずっと流れ続けてるという意味では、以前読んだチャールズ・デ・リント「リトル・カントリー」(感想)みたいな雰囲気。もうほんとリバーダンスが目の前に浮かんできます。色んな曲の楽譜が入ってるので、詳しい人はもっと楽しめそう。そしてスーザン・プライスの「500年のトンネル」(感想)もなんとなく思い出しながら読んでたんですけど、それはこの表紙のせいかな? 前半こそちょっと引っかかる部分もあったんですけど、後半はそんなことなかったし、終わってみれば結構面白かった! 伏線の効いた解決も気持ち良かったので、ぜひ続きも読んでみようと思います~。(創元ブックランド)


+シリーズ既刊の感想+
「時間のない国で」上下 ケイト・トンプソン
「プーカと最後の大王(ハイキング)」ケイト・トンプソン

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トロイア戦争に10年、そしてエーゲ海を彷徨うこと10年。20年の留守の後にオデュッセウスが見出したのは、オデュッセウスだけをひたすら待っていたペネロペイア。従妹であるトロイアのヘレネほど美しくはないものの、ペネロペイアは頭が良く貞節な妻、とホメロスの「オデュッセイア」では伝えられていますが... ペネロペイアと、オデュッセウスの帰還の後吊るし首にされた12人の女中たちが冥界で語る、また別の「オデュッセイア」の物語。

以前読んだ「侍女の物語」がとても面白かったマーガレット・アトウッド。あれは旧約聖書のエピソードを元にしてたんですけど、こちらはギリシャ神話。ホメロスの「オデュッセイア」(感想)です。先日読んだベルンハルト・シュリンク「帰郷者」(感想)に続いての「オデュッセイア」ネタ。ギリシャ・ローマ時代の目ぼしい作品はほとんど読んでしまっているので、こういうところでも読めるなんて嬉しいです~。これは英国のキャノンゲイト社が主催する「新・世界の神話」企画の一環なのだそう。世界の超一流の作家たちによる神話が毎年数作ずつ刊行されて、2038年には100冊目が配本される予定なのだとか。これまた楽しそうな企画ですよね。

で、この作品、ペネロペイアが中心となって語り、その合間に処刑された12人の女中たちがギリシャ悲劇のコロス風に歌い、終盤では現代的な裁判が行われたりと工夫はあるんですが...
うーん、ちょっと描きこみ不足ですかね。どうも圧倒的に枚数が少なすぎた気がします。なんでこんなに軽く流してしまうんだろう? もしかしたら枚数制限でもあったのかな? オデュッセウスの遍歴の中の一つ目の巨人キュクロプスとの戦いが、実は酒場の片目のあるじとの勘定の不払いをめぐる争いだったとか、女神カリュプソとの愛の日々は、実は高級娼館で寄居虫になってただけだったとか、そういうのはいいんですけど... そういうのを出すんであれば、ペネロペイア側もそれに応じてもっと変化させて欲しかったし、それでも敢えて「気高い方のバージョン」を信じるというんだったら、それ相応の作りにして欲しかった気がしますねえ。なんだか中途半端。マーガレット・アトウッドなら本当はもっと全体的に作りこむことができたはずなのに! それだけの力がある人だと思うのに! 目新しさがなくてとっても残念。そもそもこの題名自体、意味が分かりませんよね... このシリーズの他の作品も読んでみようと思ってるのだけど、他のもこんな感じだったら悲しいなー。(角川書店)


+既読のマーガレット・アトウッド作品の感想+
「侍女の物語」マーガレット・アトウッド
「ペネロピアド」マーガレット・アトウッド

+既読の新・世界の神話シリーズ作品の感想+
「ペネロピアド」マーガレット・アトウッド
「永遠を背負う男」ジャネット・ウィンターソン
「恐怖の兜」ヴィクトル・ペレーヴィン

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読売新聞に連載されていたというファンタジー&SF作品の読書案内。「小谷真理のファンタジー&SF玉手箱」からの改題。

語り口からすると小中学生辺りの子供が対象としか思えないんですが、挙げられている作品は大人でも楽しめる作品ばかり。むしろ小中学生にはちょっと手ごわいんじゃ... という作品も混ざっているので、高校生辺りが対象なのかな? ファンタジーやSFの中でも幅広いジャンルから満遍なく選んでいるという印象です。私はファンタジーはともかくとしてSF作品には疎いんですけど、そんな私でも題名を知っている作品ばかりですから、かなりの名作・定番作品のラインナップとも言えそう。
どれも平易な語り口での紹介なのですが、それだけにその本の良さを素直に表しているように思います。そしてポイントを鋭く突いていますね。例えば超定番の筒井康隆「時をかける少女」。これはラベンダーのような香りと共にタイムスリップしてしまうという話。

ラベンダーは、香水に使われる植物の名前ですから、なんだかちょっと大人っぽくてロマンティックな印象がありますね。未知の世界に足をふみこんでしまった少女の冒険物語は、はじめて大人の世界をのぞきこんでしまったときの、あの胸がときめくような、高揚感をもっています。大人になってから昔をなつかしむときには決まって、青春時代の思い出がいちばん強烈に思い出されますから、時間小説と青春小説が重なりあうのはそんなに不思議なことではないのでしょう。子どもから大人になるということ自体が、時間の区切りをジャンプすることなのかもしれませんね。

確かに私もこのラベンダーという言葉にとても惹かれた覚えがあります。この本を読んだ小学生の頃は、ラベンダーの香りなんて知らなかったんですが、知らないなりにも、確かに大人っぽくてロマンティックなイメージがあったし、確かにそういう香りを感じてワクワクしてました。...この本を読んでると、そういう素直なわくわくドキドキ感をいつまでも大切にしたいものだなあと改めて実感してしまいます。
大野隆司氏の猫版画も、それぞれの本の雰囲気がよく出ていて楽しいです。(中央公論新社)


+既読の小谷真理作品の感想+
「ファンタジーの冒険」小谷真理
「星のカギ、魔法の小箱」小谷真理

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東京創元社で刊行中のラング童話集の7冊目。巻によってフランス系のお話が多かったり、北欧系が多かったり、南欧系が多かったりと少しずつ色合いが違うんですが、今回はエストニアやセルビア、リトアニア、ルーマニアといった東欧の話が多くて楽しかったです。民話としてはフランスやドイツ辺りの話が一般的な認知度が一番高いと思うんですけど、どこの話が好きかと言われれば、私は北欧が一番好き。そして東欧も好き。どこがどう違うのかは、読んでいても今ひとつ分かってないんですけどね。全部のお話を混ぜて、好きなのを適当にピックアップしていったら、多分北欧や東欧のお話が集まるはず。
そして今回「おおっ」と思ったのは、スワヒリの話が登場していたこと。「あるガゼルの物語」「人食いヌンダ」「ハッセブの話」の3つがスワヒリの話。でも「あるガゼルの物語」は「長靴をはいた猫」みたいな感じだし、小道具的には確かにアフリカなんだけど、どれも普通にヨーロッパの民話と同じように読めてしまいそうな話。それほどアフリカの特徴が出てるというわけではないです。むしろ王様を「スルタン」と呼んでるので、トルコかペルシャかってイメージになってしまうんですが... これは元々の話が英語で書かれた時点でそうなってしまったということなんでしょうね。...あ、でも今スワヒリって具体的にどこなんだろうと思って調べたら、「スワヒリ」という言葉は、アラビア語で「海岸に住む人」という意味なんだそうです。ということは、アラビア語の「スルタン」という言葉を使うのは、当たらずとも遠からず? スワヒリ語はケニア・タンザニア・ウガンダといった東アフリカの国で公用語となってるようですが、スワヒリという国はないんですね。知らなかった。(東京創元社)


+シリーズ既刊の感想+(東京創元社版)
「あおいろの童話集」「あかいろの童話集」アンドルー・ラング編
「みどりいろの童話集」アンドルー・ラング編
「きいろの童話集」アンドルー・ラング編
「ももいろの童話集」アンドルー・ラング編
「はいいろの童話集」アンドルー・ラング編
「むらさきいろの童話集」アンドルー・ラング編
「べにいろの童話集」アンドルー・ラング編
「ちゃいろの童話集」アンドルー・ラング編
「だいだいいろの童話集」アンドルー・ラング編
「くさいろの童話集」アンドルー・ラング編

+シリーズ既刊の感想+(偕成社文庫版)
「みどりいろの童話集」「ばらいろの童話集」アンドルー・ラング

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200年ほど前、30年戦争が起きた頃。今は廃墟となっている城はヴィッティングハウゼンの宮殿と呼ばれ、そこにはクラリッサとヨハンナという美しく優しい姉妹が住んでいました... という「高い森」他、全4編が収められた本。

去年の年末にチョコちょこさんに「出ましたね!」と教えて頂いていたのだけど、実際に入手できたのはずっと遅くなってしまったこの本。後付を見ると2008年12月24日になってましたが、その頃私の周囲では、影も形も見当たりませんでしたよ! ネット書店に出たのも随分遅かったはず。いえ、多少待たされても手にすることができれば、それでオッケーなのですが~。
今回のこの本は、シュティフターの作品に共通する主題である「森」に着目して編んだという短編集。モルダウの流れるボヘミア南部の森、自然の美しさと恐ろしさを併せ持つ森は、シュティフターの故郷だということもあって作品によく登場しますが、ここに収められた作品もそうです。最初の「高い森」と表題作「書き込みのある樅の木」は中編で、次の「最後の1ペニヒ」が短編、そして「クリスマス」がエッセイ。

読んでいると気持ちが穏やかになるような気がしてくるシュティフターの作品でも、一層静けさを感じるものだったように思います。本当にしんと静まり返った森の中にいるような気がして、なんだか怖くなってしまう... 作品には森で暮らす人々のことが書かれているんですが、本当の主人公は森そのものなのかもしれませんね。
美しくも哀しいロマンティックな「高い森」もいいんですけど、私が好きなのはやっぱり表題作かな。訳者解説を読むと、シュティフターの同時代の人々には酷評されていたようですが... どうやら違う点にばかり目を向けていたようですね。そうじゃないのに! でもこの結末が雑誌版ではまた違っていたと知って驚きました。この本に収められている結末の方が断然いいです。だってそれが次の「最後の1ペニヒ」に繋がっていくんですもん。そう、この並び順がまたとても素敵なのです。(松籟社)


+既読のシュティフター作品の感想+
「水晶 他三篇 石さまざま」シュティフター
「森の小道・二人の姉妹」シュティフター
「晩夏」上下 シュティフター
「ナレンブルク 運命に弄ばれた人々の城」A.シュティフター
「石さまざま」上下 アーダルベルト・シュティフター
「森ゆく人」アーダルベルト・シュティフター
「書き込みのある樅の木」アーダルベルト・シュティフター

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1985年に、ハーヴァード大学で6回の講義をすることになり、カルヴィーノが選んだ主題は「次の千年紀に保存されるべきいくつかの文学的な価値」。カルヴィーノの急逝により、その講義が実現することはありませんでしたが、これは事前にカルヴィーノが書き上げていた、6回のうちの5回分の講義の草稿を本にしたものです。

以前カルヴィーノの「なぜ古典を読むのか」を読んだ時に、題名通りの内容は最初の1章だけで、後はバラバラの文章の寄せ集めなんだなあーとちょっとがっかりしてた時に、overQさんがこっちの本の方がまとまった文学話になってますよ!と教えて下さった本。それから随分時間が経ってしまいましたが、ようやく読めましたー。

カルヴィーノが21世紀の文学に必要だと考えていたのは、「軽さ」「速さ」「正確さ」「視覚性」「多様性」。この5つのキーワードを通して、ギリシャ神話やオウィディウス、ルクレーティウスといった古代の文学から20世紀の文学までを考察しながら、カルヴィーノの目指してきたところを示しつつ、それが同時に21世紀以降の文学への提言ともなっている論です。こういうキーワードで文学を考えるのって、斬新だし面白いですね。これは案外文学以外にも広く通じるキーワードなんじゃないかしら。そしてこの本から感じられるのは、文学に対するカルヴィーノの真摯で愛情たっぷりの態度。
どれも面白かったんだけど、一番印象に残ったのは最初の「軽さ」かな。常々カルヴィーノの作品には、身ごなしの軽さを感じてましたしね。そんなカルヴィーノが小説を書き始めてすぐに気づいたのは、小説の素材となる様々な出来事と、文章を活気付かせる軽妙さの間に大きな隔たりがあるということ。それからは常にこの重さ、とりわけ物語の構造や言葉から重さを取り除こうとしてきたといいます。ここでの「軽さ」とはもちろん軽薄さではなくて、思慮深い軽やかさ。文章に取り付いて世界をじわじわと重苦しく不透明にしてしまう重さから逃れるためには、別の視点、別の論理、別の認識と検証で世界を見直さなければならないというんですね。カルヴィーノが作家として発表した1作目が、パルチザンでの体験を元にしたという「くもの巣の小道」ですものね。そういった経歴の持ち主だということも、大きな要因なんでしょう。
書かれていなかった6回目は「一貫性」になるはずだったようです。これはメルヴィルの「書記バートルビー」に触れる予定だったということしか分かってなくて... もう読むことができないなんて、とっても残念。(朝日新聞社)


+既読のイタロ・カルヴィーノ作品の感想+
「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ
「不在の騎士」イタロ・カルヴィーノ
「レ・コスミコミケ」イタロ・カルヴィーノ
「なぜ古典を読むのか」イタロ・カルヴィーノ
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
「イタリア民話集」上下 カルヴィーノ
「魔法の庭」イタロ・カルヴィーノ
「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ
「マルコヴァルドさんの四季」カルヴィーノ
「冬の夜ひとりの旅人が」イタロ・カルヴィーノ
「柔かい月」イタロ・カルヴィーノ
「カルヴィーノの文学講義」イタロ・カルヴィーノ
「パロマー」カルヴィーノ
「くもの巣の小道」イタロ・カルヴィーノ
「むずかしい愛」カルヴィーノ

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紀元前265年、シチリアの第一の強国・シラクサがメッシーナに進攻し、メッシーナはローマに救援を要請。ローマはメッシーナとは同盟関係になく、しかもローマの軍団はいまだ海を渡ったことがないにもかかわらず、メッシーナの要請を受諾することを決定します。もしローマが断れば、メッシーナがカルタゴに頼ることは目に見えており、カルタゴがメッシーナを手に入れると、ローマまでもが危うくなってくるのです。結果的にメッシーナとシラクサを手に入れたローマにカルタゴが強い危機感を抱き、第一次ポエニ戦役(紀元前264~紀元前241)が勃発することに。

ローマとカルタゴとの間に闘われたポエニ戦役を中心に対外戦争の時代を描く巻。第一次ポエニ戦役の勃発する紀元前264年から、スペイン全土を領有することになる紀元前133年までの130年間を、プロセスを丹念に追いながらみていきます。カルタゴといえば、ローマの祖・アエネイアスと恋に落ちたディードの国~。なんですけど、ここではそういった伝説的なことには全く触れないんですね。「ローマは一日にして成らず」の時とは違って、今回はアレクサンダー大王のことなんかもきちんとしたスタンスで書かれていたように思います。

いや、この巻はほんと面白かった。面白いとは聞いてたんですけど、ほんとすっごく面白かった。子供の頃にハンニバルの本を読んだことがあるんですけど、そもそも戦争物は好きじゃなかったし、印象に残ってるといえば、せいぜい象ぐらいだったんです、私。(汗)
でも海軍どころか輸送船すら持っていなかったローマが、地中海最強の艦隊を擁する海運国カルタゴに対するために船を作って船の漕ぎ手を育成して、陸戦が得意なローマ軍ならではという工夫を凝らして... なんて読んでるとほんとワクワクしてしまいます。やっぱりこの柔軟さがローマの武器なんですねー。そして2人の対照的な男たち。まずは孤高の男・ハンニバル。彼に最後まで付き従った兵士たちにとって、ハンニバルは父親のようなものだったのではないでしょうか。兵士たちはハンニバルの背中を親父の背中のように見て育っていったに違いない。そしてハンニバルの好敵手・スキピオ。こちらは孤高なハンニバルとは対照的な、人の心を掴むのが上手い大らかで人懐こい青年。彼ら2人の姿が対照的に描き出されていて、それだけポエニ戦役の明暗がはっきりと現れているような気がします。

そして今回もローマの特徴として色々出てきたんですけど... 敗軍の将に責任を求めないこととか、軍の総司令官である執政官に一度任務を与えて送り出したら最後、元老院ですら口出しはしないこととかね。戦争続きで国庫が空になっても、簡単に増税したりしないとかね。でも旧敵国にとってはとても温情なはずの措置も、一歩間違えると弱腰と間違えられちゃう。ここで塩野七生さんが強調しているのは、こういった「穏やかな帝国主義」が成功するには、双方共に納得して許容している必要があるということ。確かにそうかもしれないなあ。そして紀元前146年、ローマはそれまでの「穏やかな帝国主義」から「厳しい帝国主義」に方針を転換することになるんですが、この辺りが納得できるのは、確かにこれまでのプロセスを丹念に見てきたからこそなんですね。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず」1・2 塩野七生
「ローマ人の物語 ハンニバル戦記」3~5 塩野七生
「ローマ人の物語 勝者の混迷」6・7 塩野七生
「ローマ人の物語」8~10 塩野七生 「ガリア戦記」カエサル
「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前」8~10 塩野七生(再読)
「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以降」11~13 塩野七生
「ローマ人の物語 パクス・ロマーナ」14~16 塩野七生
「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」17~20 塩野七生
「ローマ人の物語 危機と克服」21~23 塩野七生
「ローマ人の物語 賢帝の世紀」24~26 塩野七生
「ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず」塩野七生

+既読の塩野七生作品の感想+
「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」「レパントの海戦」塩野七生
「チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷」塩野七生

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