Catégories:“2006年”

Catégories: /

 [amazon]
「風の王国」シリーズ7冊目。サイドストーリーの短編4編と、イラストを描いてらっしゃる増田メグミさんのまんが2編、全6編が収められています。

「小説+まんが」ということで、最初は読むのを躊躇っていて、結局8冊目の長編を先に読んじゃったんですけど、色々なサイド・ストーリーが読めて、結果的には面白かったです。まんがとは言っても以前から挿絵を描いてらっしゃる増田メグミさんの作品なので、違和感もなかったですし。本当はあまり小説とまんがを1冊の本にして欲しくはないのだけど。
今回面白かったのは、翠蘭と朱玉の出会いとなった「天河の水」と、吐蕃へ嫁ぐことが決まった翠蘭が後宮で過ごす日々を描いた「花の名前」。特に「花の名前」は、李世民(唐の太宗皇帝)の宮廷でのエピソードが描かれるだけに、中国歴史物好きとしては堪らないものがありました~。ここに登場する李世民の妃・楊妃は、隋の煬帝の娘。そして同じく登場する武才人は、後の則天武后(武則天)。後に皇位争いに巻き込まれて、謀反人として自殺させられた呉王李恪も登場するし、3代目高宗皇帝になる晋王李治まで! 後々のことを思うと、少し複雑な気持ちになっちゃうんですけどね。(コバルト文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「風の王国」1~4 毛利志生子
「風の王国 月神の爪」毛利志生子
「風の王国 河辺情話」毛利志生子
「風の王国 朱玉翠華伝」毛利志生子・増田メグミ
「風の王国 目容の毒」毛利志生子
「風の王国 花陰の鳥」毛利志生子
「風の王国 波斯の姫君」毛利志生子・増田メグミ
「風の王国 初冬の宴・金の鈴」毛利志生子
「風の王国 嵐の夜」上下 毛利志生子
「風の王国 星の宿る湖」毛利志生子

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: /

  [amazon] [amazon]
昭和最終年度に成立・施行された、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律「メディア良化法」。それに対抗して、既存の「図書館の自由に関する宣言」から発展して成立された「図書館の自由法」。そして、それから30年が経過した近未来の日本が舞台。
現在メディア良化委員会に法的に対抗できるのは、唯一図書館のみであり、良化委員会のエスカレートする検閲に対抗するために、図書館も防衛力をアップ。全国の主要な公共図書館は警備隊を持つに至っていました。防衛員配属を第一志望として図書館に採用された笠原郁は、女性ながらも持って生まれた運動神経と陸上部で培った基礎体力で、厳しい新入隊員訓練を乗り切り、エリートと言われる図書館特殊部隊に特殊防衛員として配属されることに。

有川さんの作品は以前「海の底」を読んだだけなんですが、いや、相変わらずなんですね。雰囲気全然変わってないじゃん... というか、そのまんま! やっぱり怪獣特撮映画系の方なのでしょうか。図書館の話なのに、いきなり軍事訓練からなんか始まってびっくり。そしてこの作品が、「図書館の自由に関する宣言」から出来たと知って、さらにびっくり。ある日、図書館に掲げられているこの宣言に気づいて、見ているうちに興味が湧いて、調べ始めたのだそうです。そうそう、「図書館の自由に関する宣言」だの中小レポートだの、私も司書資格を取る時に勉強したよー!

もちろんここに描かれている設定は、現実にはあり得ないですよね。一体なんで、こんな武力行使になっちゃったんですか。良化特務機関と図書館が早くから火器を導入していたなんて。さらにはこの両団体の戦闘に関しては超法規的措置がとられていて、人がどんどん死んでも関知されないなんて!
しかも、ここまで言論統制が行われているような世の中なのに、人々の生活自体は今とほとんど変わりないんです。「検閲」「焚書」なんていうと、思想弾圧に直結しているイメージなんですが、全体的にはみんな相変わらずのほほんとしていて、政治には無関心。平和な暮らしのごく一部分的にだけ、まるで戦時下のような状態があって、でもその状態にもすっかり慣れてしまった... というアンバランスさが何とも怖いです。...作品の中に登場する「本を焼く国ではいずれ人を焼く」という言葉は、元はハイネの言葉でしたっけ。

「図書館戦争」はバトル物。ゴレンジャーのノリ。とっても予想しやすい展開なんですけど、楽しいです。ただ、図書館の話なのに図書館での普通の仕事の場面はほとんどないし、主人公以外の登場人物たちの本への思いも全然伝わってこないんですよね。それが残念... と思っていたら、そういうのは続編の「図書館内乱」に描かれていました。こちらはシリーズ化が決定したせいもあってか、キャラ萌え方向に徹していて、さらにラブコメ。現実的なバトルの代わりに、丁々発止の心理戦。ここまで「売れる小説」に徹しているというのも凄いですね。でも、図書館的にはタイムリーな、新聞・雑誌の閲覧制限問題なんかもちゃんと織り込まれていました。
色々と印象的なシーンはあったんですが、その中で私が一番反応してしまったのは、郁の両親が娘の働いてる姿を図書館に見に来ることになって、実は戦闘部署だなんて言えないままだった郁が、シフトを変更してもらって図書館の通常業務をする場面。郁の父親が、なんと郁とその同期の男の子(超優等生)と上司にそれぞれレファレンスを申し込んで、3人の能力を比べる場面があるんです。こんなこと普通する? 自分の親にこんなことされたら...!(と、ついつい郁の身になってしまう私)
そして「図書館内乱」の中に登場していた、「レインツリーの国」という作品も有川さんが書かれて、今月末に新潮社から発売になるそうです。こっちは恋愛小説みたい。さすがにこちらは、今までの有川さんと、全然雰囲気が違うのでしょうか。(メディアワークス)

ちなみに「図書館の自由に関する宣言」とは、以下の通りです。

一、図書館は資料収集の自由を有する
二、図書館は資料提供の自由を有する
三、図書館は利用者の秘密を守る
四、図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。


+既読の有川浩作品の感想+
「海の底」有川浩
「図書館戦争」「図書館内乱」有川浩
「阪急電車」有川浩

| | commentaire(2) | trackback(1)
Catégories: / / /

 [amazon]
3巻(感想)に続く、エウリピデスの悲劇作品集。収録作品は、「エレクトラ」「タウリケのイピゲネイア」「ヘレネ」「フェニキアの女たち」「オレステス」「バッコスの信女」「アウリスのイピゲネイア」「レソス」「キュクロプス」の9作。

全体的に3巻の方が面白かった気がします。「タウリケのイピゲネイア」も、先日読んだ岩波文庫版(感想)の方が断然良かったし。とは言っても、この作品の場合は、多分訳の問題ではなくて脚注の問題なんですよね。岩波文庫版の脚注の入り方が、ほんと絶妙だったんですもん。うるさくなく、でも知っておくといい情報を確実に伝えてくれて。こちらのちくま文庫版は脚注がとても少なくて、これはこれでとても読みやすいんですが、それだけに「へええ、そうなんだ」的な部分が少ないのが寂しい。だからといって、岩波文庫全般に脚注が絶妙かといえば、そうとは言えないところが難しいのですが... 多すぎて、本文の邪魔になるものも多いので。(笑)

9作中、トロイア戦争関連が7作。特にアガメムノン一家を巡る作品が多くて、とても興味深かったです。まず前述の「アウリスのイピゲネイア」は、出帆を待つギリシア軍が風凪のために数ヶ月足止めを食らった時に、アガメムノンの娘・イピゲネイアが生贄として犠牲になった物語。これがアガメムノン家の悲劇の元凶となっています。(もっと遡れば、アガメムノンがクリュタイメストラを先夫から奪い、その子を殺したこと、さらに父や先祖の所業なんかもありますが) そしてアガメムノンが殺害されるアイスキュロスの「アガメムノーン」(感想)に続く形で、「エレクトラ」「オレステス」「タウリケのイピゲネイア」といった作品群があります。アイスキュロスの作品群にも、この「アガメムノーン」と3部作になる「供養する女たち」「慈愛の女神たち」といった作品があるので、ここはぜひ読み比べてみたいところ。
そして設定として面白いのは、「ヘレネ」。実はヘレネはトロイアへは連れ去られておらず、神々によってエジプトに匿われていたという話。トロイアに連れ去られたのは、空気から作った似姿。でも人間は誰もそんなことを知らず、ギリシャ軍もその空気のヘレネを取り返すために奮闘していた、というわけです。こういう風にヘレネを庇うような作品って時々ありますね。やっぱり美女は得なのかー!

最後の作品「キュクロプス」は、完全な形で現在までに残されている唯一のサテュロス劇。サテュロス劇とは、滑稽卑俗な所作と歌によって演じられる劇で、古代ギリシアの悲劇競演の際には、悲劇が3作上演され、最後にサテュロス劇が演じられて観客たちの緊張を解いたのだそうです。日本の能における狂言のような存在なんですかねえ? 本の形で読む限り、それほど滑稽卑俗といった感じはしないのですが、狂言だって今の時代に見たら、そんな感じはしないですものね。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ギリシア悲劇I」アイスキュロス
「ギリシア悲劇II」ソポクレス
「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス
「ギリシア悲劇IV」下 エウリピデス

+既読のエウリピデス作品の感想+
「タウリケーのイーピゲネイア」エウリーピデース
「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス
「ギリシア悲劇IV」下 エウリピデス

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: / /

 [amazon]
その地方では珍しいプラチナブロンドから、「銀」と呼ばれて育ったアイネイアスは、美しく利発な少年。父・アンキセスらの薫陶を受け、年毎に俊敏な若者として成長していきます。そしてアイネイアスが12歳の時、トロイアに10年前に現れたのは、ずっと行方不明となっていた王子・パリス。10年ぶりに現れたパリスは失踪した当時とは違い、見るからに立派な若者に成長していました。そして数年後、パリスが父・プリアモス王の命を受けてギリシアへと旅立つことになり、アイネイアスも同行することに。そしてその旅の途上で立ち寄ったスパルティで、パリスはメネラオスの妃・ヘレネに出会うのです。

アイネイアスの視点から描くトロイア戦争。以前、ギリシャ物を読み始めた頃に、風待屋のsa-ki さんに教えて頂いた本です。
いや、面白かったです。一気に読んでしまいましたー。全体的な構成としては、主にホメロスの「イリアス」「オデュッセイア」、そしてウェルギリウスの「アエネーイス」を繋げて、その合間にギリシア悲劇などに描かれている細かいエピソードを丹念に掬い取っていっているようですね。
でも、読み始めてまず目につくのは、そういった本家作品とは違って、こちらはあくまでも人間が主体の物語であること。神々に関しては名前のみの登場で、「イリアス」のように戦局を左右したり、人間を助けたりはしません。ギリシア神話では愛と美の女神・アプロディテの息子とされるアイネイアスなんですが、ここではイディ山の神官がそういう託宣を下しただけ。しかも宣託は「愛と美の女神の息子」というだけで、アプロディテの名前は出ていないんです。これは、当時のトロイアがギリシャと同じ神々を信じていたとは、阿刀田さんには考えられなかったから。そしてトロイア戦争の発端となる「パリスの審判」に関しても、パリスの夢の中の出来事を耳にした人間が噂として広めただけ。さらに「イリアス」では、トロイア戦争の期間は10年間、千艘を越したギリシャの軍勢は10万とされていますが、この作品の中ではかなり縮小されています。トロイア城址の規模から考えても、実際10万もの大軍が10年もかけて攻めるほどの城砦ではないのだそうです。戦争は戦争として現実にあったにしても、やっぱりホメロスが描くトロイア戦争は、あくまでもホメロスの時代の知識を基にしていますものね。トロイア人とギリシア人は同じ民族ではないのだから、同じ言葉を話し、同じ神々を信じていたわけではないだろうというのも、私も以前から感じていたことです。
そういう意味で、この「新トロイア物語」は、とても現実的な物語となっています。阿刀田さんご自身が書かれている通り、「古代史を舞台にした、現代の日本人アイネイアスの物語」というのが相応しいかも。この作品が書かれた頃は、まだ外国の歴史的ヒーローを小説化した作品がほとんどなかった時代だったそうで、時々妙に武士道的な匂いがするのが可笑しいんですけどね。(笑)

「ホメロス」や「オデュッセイア」みたいな、神々が当たり前のように登場するのも夢があって大好きなんですが、こういうのもいいですね。神々を登場させないために阿刀田さんが凝らしている工夫も、とても面白かったです。特に印象に残ったのは、残虐なアガメムノンのやり口。トロイアに首尾よく攻め込むための策略や様々な計算、そしてその挙句自分自身に降りかかってきた災難など、ギリシャ悲劇に描かれているアガメムノン関係を複数読んだ上でも、すごく説得力がありました。説得力があるといえば、パリスとヘレネの末路も。いかにもあり得そうです。あ、でもパリスが意外といいヤツだったなあ。哀愁漂ってたし。(「パリス=あほ男」がすっかり定着してたので)

やっぱりここまで来たら、「アエネーイス」も読まねばー! 岩波文庫版が絶版なので、古本で探してたんですけど、やっぱり図書館で借りちゃおうかな。ちょっと迷い中です。それにしても、こういう古典作品を絶版にするのは、やめて欲しいですね。爆発的に売れることは、まずないでしょうけど、需要はなくならないんですから。って、それだけじゃあ全然ダメなのかな、やっぱり。(講談社文庫)


+既読の阿刀田高作品の感想+
「新トロイア物語」阿刀田高
「ギリシア神話を知っていますか」「私のギリシャ神話」阿刀田高
「ホメロスを楽しむために」阿刀田高
「旧約聖書を知っていますか」阿刀田高

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: /

 [amazon]
新しい町に引っ越したオーリィは、すれ違う人が皆、「3」と1つ白く印刷された茶色い紙袋を持っているのに気づきます。それは近所のサンドイッチ屋の袋。アパートの大家の「なかなかおいしいわよ」の言葉に、ある日買ってみたオーリィは、その美味しさに驚き、それから毎日のようにそのサンドイッチ屋に通いつめ、とうとうそのサンドイッチ屋で働くことに。

のんびりとした主人公を取り囲む、安藤さんやその息子のリツくん、大家のマダム、濃い緑色のベレー帽をかぶった女性... 素敵な人たちがそれぞれに前を向いて進んでいて、それでいて全然あくせくしたりしていなくて、あくまでも自然体。そんな穏やかな空気が流れているのが気持ちの良い作品。彼らは彼ら自身の人生の主役ではあるんですが、主役の華やかさというよりは、脇役的な味わいを持った人々。それが古い日本映画に、ひたすら脇役として登場している「松原あおい」の姿に重なりますし、物語の最後にオーリィ君が作る、主役不在のスープにも重なります。それぞれに主張がありすぎないからこそ、お互いを引き立てあって醸し出した味わいは格別なんですねえ。登場するのは日本人ばかりなのに、パリの街角が思い浮かぶようなお洒落な雰囲気なのが素敵。(表紙のデザインもフランスのお料理本みたい!?) とても暖かくて懐かしい雰囲気で、美味しいスープのほんわかした湯気がとても良く似合います。
「3」のサンドイッチもとても美味しそうだし、オーリィ君のスープも美味しそう。食べてみたーい。そしてあのレシピも素敵ですねえ。ぜひ試してみたいです。あ、でもレシピだけ先に見ようとしちゃダメですよー。(暮らしの手帖社)


+既読の吉田篤弘作品の感想+
「百鼠」吉田篤弘
「78」「十字路のあるところ」吉田篤弘
「という、はなし」吉田篤弘
「空ばかり見ていた」吉田篤弘
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」吉田篤弘
「小さな男*静かな声」吉田篤弘
Livreに「フィンガーボウルの話のつづき」「つむじ風食堂の夜」「針がとぶ」の感想があります)

+既読のクラフト・エヴィング商會の感想+
「アナ・トレントの鞄」クラフト・エヴィング商會
「犬」「猫」クラフト・エヴィング商會プレゼンツ
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: /

 [amazon]
世話になった伯父の隆正に憧れて、警察の仕事を選んだ松宮は、現在は警視庁捜査一課の刑事。練馬の少女死体遺棄事件で練馬署の加賀恭一郎と組むことになります。加賀は隆正の息子。しかし胆嚢と肝臓が癌に冒されて余命いくばくもない隆正の病室に、加賀は近づこうともしないのです。割り切れない思いを抱えながらも、一緒に聞き込みを始める松宮。一方、少女を殺したのは14歳の直巳。パートを終えて家に帰ってきた母親の八重子は、リビングに死体があるのを見て驚き、直巳の将来のことを考えて、夫の昭夫と共に直巳を守ろうと決意を固めるのですが...。

加賀恭一郎物です。ミステリ作品ですが、単に事件を解けばいいというだけのミステリではありませんでした。嫁姑問題や老人介護問題、家族の絆など、家族や家の問題が織り込まれてます。馬鹿親子には、ほんと嫌な思いをさせられますが、事件の解決が、加賀に対する松宮の心情的なわだかまりの解決と見事に重なっているところがいいですねー。加賀も、「刑事というのは、真相を解明すればいいというものではない。いつ解明するか、どのようにして解明するか、ということも大切なんだ」という言葉通りの解決をしてくれますし。
ただ、重いテーマを扱いながらもとても読みやすいんですが、それだけに本当はもっと深いところまで書きたかったのではないかという気も...。270ページというのは、短すぎたのでは? もう少しじっくり書いて欲しかったな。

それにしても、海外物(特に古典)を続けて読んでいて、ふと日本の現代物に戻ると、なんて読みやすい! ほんと毎回のようにびっくりします。海外物の場合、カタカナの固有名詞を覚えるのが大変だし、特にギリシャとかインドとか、固有名詞をきっちり押さえておかないと、すぐワケが分からなくなっちゃうので、食い入るように読むというせいも大きいのですが... 東野さんの作品は元々読みやすいから尚更なんでしょうけどねー。(講談社)


+シリーズ既刊の感想+
「卒業」「眠りの森」「どちらかが彼女を殺した」「悪意」「私が彼を殺した」「嘘をもうひとつだけ」......ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「赤い指」東野圭吾

+既読の東野圭吾作品の感想+
「ちゃれんじ?」東野圭吾
「さまよう刃」東野圭吾
「黒笑小説」東野圭吾
「容疑者Xの献身」東野圭吾
「さいえんす?」東野圭吾
「夢はトリノをかけめぐる」東野圭吾
「たぶん最後の御挨拶」東野圭吾
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

| | commentaire(2) | trackback(1)
Catégories: / / /

 [amazon]
エウリピデスのギリシャ悲劇集。エウリピデスは、アイスキュロス、ソポクレスと並ぶギリシャ三大悲劇詩人の1人です。ここには「アルケスティス」「メデイア」「ヘラクレスの子供たち」「ヒッポリュトス」「アンドロマケ」「ヘカベ」「救いを求める女たち」「ヘラクレス」「イオン」「トロイアの女」の10編が収録されています。

この中でエウリピデスの代表作といえば「メデイア」や「ヒッポリュトス」「アンドロマケ」辺り。特に「メデイア」は有名ですよね! 蜷川幸雄演出の「王女メディア」の元本でもあります。簡単な筋としては、伝説の黄金の羊の毛皮を取りに行ったイアソンは、コルキスの王女メデイアの助けを借りて目的を達成。その後メデイアとの間に2人の子供もできるんですけど、心変わりして他の王女と結婚しようとするんですね。で、怒ったメデイアはその王女と父親、自分が生んだ2人の子供まで犠牲にして、イアソンに復讐するというもの。怖いです。

でも、私がこの中で一番気に入ったのは「メデイア」ではなくて、悲劇と呼ぶには少々微笑ましすぎるような「アルケスティス」。これはペライの王アドメトスに死が迫った時、「代わりに死ぬ者さえあればアドメトスは救われる」という約束をアポロンが運命の女神たちから取り付けてくるんです。でも誰も身代わりに死のうなんてせず、ただ1人申し出たのは王妃のアルケスティスでした、という話。

最初は、老い先短いアドメトスの両親が、なぜ我が子のために死のうとはしないのか!という部分が強調されるんですね。王妃アルケスティスもそんなことを言いながら死んでいきますし。確かに親が子の身代わりになるという話はよくありますし、ほんの数年早くなるだけなのに、そんなに死ぬのが嫌なの? という気にさせられます。でもそれぞれの人物のやりとりを読んでいると、様々な人間の思惑が見えてきて面白いんです。やはり人間は死を恐れるもの。いくら年を取ったからといって、それが薄れるわけではなく。

アドメトス王の父親・ペレスが王妃の葬儀にやって来て、息子と激しい口論になるんですが、その時のペレスの「この世の生は短かろうと思うにつけ、その恋しさはひとしおなのだ。」「もしも御身に自分の命が愛(かな)しいなら、皆も同じく愛(かな)しかろう」という言葉に説得力があります。身代わりに死ぬのを拒否するペレスは、親らしいとは言えなくても、とても人間的ですよね。そして逆にこの2人のやり取りから浮かび上がってくるのは、アドメトスの身勝手さ。親が老い先短いからといって、親の死を望む息子っていうのは、如何なものでしょうか! 天の理を曲げてまで、自分が生き残ろうとしてる時点で、既におかしいんです。今は妻の死を盛大に嘆いてるんですけど、こういった人は、1年もすれば新しい妻を迎えるんだろうなあ...。(しかも妻相手に嘆く言葉は、「こんなことしなければ良かった」ではなくて、「捨てないでくれ」「置いていかないでくれ」「私はこれからどうすればいいのだ」ばかり・笑)
そして、妻自身も純粋な愛情から死んだとも思えないのがポイント。死に際の言葉を読み返してみると、生き続けようとアドメトスの両親への恨みを口にして、まるで当て付けに死んでいくみたいでもあるし、世間体を気にしての行動のようでもあるし(賢妻はかくあるべき?)、「父なし児となった和子たちと一緒に生きながらえて行きたいとは思いませず」という言葉は、もしかして夫が死んで貧しい惨めな暮らしをするぐらいなら死んだ方がマシ、と思ってるのでしょうか?! 自分の死後、子供がいつか継母にいじめられるんじゃないかと心配してるんですけど、子供たちの行く末が本当に心配だったら、生き続けたいという思いもあるものなのでは...? こちらも自分のことしか考えてないです。死に際だから仕方ないのかもしれないですけど、そういう時こそ本質が出るとも言えますね。

...と、そんな感じで人間の内部を抉り出されていくのが楽しい作品。でも最後の展開は打って変わって可笑しいんです。ヘラクレス、いい人ねっ。八方丸く収まってめでたしめでたし。馬鹿夫婦は勝手にやってくれ、と笑えます。(悲劇じゃないじゃん)

3大詩人の中では、一番とっつきやすいのがエウリピデスのような気がします。どこかに「昼メロみたい」という評がありましたが、そうでしょうか! まあ、今の時代に読めば、そう思う人もいるかもしれないですけど、こちらが本家本元でしょう。人間の本質をすごく見抜いいて楽しいです。既存の神話に結構大胆な解釈を加えてるところも面白いですし。このシリーズは全4巻で、1巻がアイスキュロス、2巻がソフォクレス、3巻4巻がエウリピデス。比べて読めば、もう少しはっきり掴めてくると思います。
と言いつつ、文庫で700ページ以上という分厚い本なので、続けざまに読むのはちょっとしんどい...。休み休み行きますね。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ギリシア悲劇I」アイスキュロス
「ギリシア悲劇II」ソポクレス
「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス
「ギリシア悲劇IV」下 エウリピデス

+既読のエウリピデス作品の感想+
「タウリケーのイーピゲネイア」エウリーピデース
「ギリシア悲劇III」上 エウリピデス
「ギリシア悲劇IV」下 エウリピデス

| | commentaire(3) | trackback(0)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.