Catégories:“2006年”

Catégories: /

 [amazon]
女だてらに戯作者を志すお夢が今追っかけているのは、江戸の豪商・紀伊国屋文左衛門。蜜柑船を江戸に運んで一夜にして大儲けし、さらに材木商として幕府ご用達となって一代の栄華を誇りながらも、財産をつぎ込んだ貨幣改鋳が中止になり、一夜にして全財産を失ったと言われる紀伊国屋文左衛門。しかし店を畳んで隠棲して4年、まだまだ吉原で豪遊し続けているのです。そんなある日、お夢は謎の夜鷹に命を狙われ、あやういところで暗闇留之介と名乗る浪人に命を助けられることに。

誰もが一度は名前は聞いたことがあるような豪商、紀伊国屋文左衛門について面白可笑しく書きながら、新たな考察を付け加えていく1冊です。お夢が戯作を書くために推理していくという意味では、歴史ミステリと言えそう。紀伊国屋文左衛門の表向きの顔と本当の素顔、表向きの黒幕と本当の黒幕、本当はそこで何が起きていたのかを探り出していきます。下は町の講釈師や物売りといった町人から、上は6代将軍家宣の正室・天照院までが、お夢に向かって紀伊国屋文左衛門の逸話や自分の推理を語っちゃうんですよね。その部分はフォントも変えられていて、まるで講談でも聞いているような気分。お夢自身が大奥にも入り込むことになるので、舞台も幅広いし、8代将軍吉宗とじかに対決してしまうし、戯曲や講談などに登場する一心太助と大久保彦左衛門までもが登場! 実際の時代とは少しずれてますが、その辺りもきちんと解説済みなのが、米村さんらしいところ。(笑)
ただ、賑やかで楽しいし、突拍子もない真相にもその気にさせられてしまうのが凄いなあって思うんですが、どうしても退屈姫君のシリーズと比べてしまうんですよね。これ1冊しか知らなかったらもっと楽しめるでしょうに、あちらと比べてしまうと、どうしても増長に感じられてしまう部分が... 仕方ないこととはいえ、それがちょっと残念でした。(新潮文庫)


+既読の米村圭伍作品の感想+
「退屈姫君 海を渡る」米村圭伍
「おんみつ蜜姫」「退屈姫君恋に燃える」米村圭伍
「紀文大尽舞」米村圭伍
Livreに「風流冷飯伝」「退屈姫君伝」「面影小町伝」の感想があります)

| | commentaire(2) | trackback(3)
Catégories: /

 [amazon]
ヒトミとアカコは漫才コンビ。大学の時に出会ってから8年、コンビを組んで2年。半年前、売れない芸人たちと一緒に喫茶店でライブをしていた時にスカウトされて、プロに転向。その日の若手お笑いたちのクリスマス・ライブが初舞台でした。しかし2人ともすっかりあがってしまい、客席の凍りつくような無反応に撃沈してしまいます。

第16回小説すばる新人賞を受賞したという、山本幸久さんのデビュー作。山本幸久さんは「幸福ロケット」(感想)がとても良くて、こっちも読んでみようと思ってたんですけど、随分遅くなってしまいました。
アカコやヒトミは有名人になりたくて、その手段として漫才を選んだのではなくて、2人で漫才をやるのが本当に好きで漫才をやっているというコンビ。途中多少波風は立つものの、基本的に自分たちのことがよく分かってるせいか、自分たちの進むべき道に悩むわけでもなく、才能の壁にぶち当たるわけでもなく、芸人の世界のドロドロとした部分に巻き込まれてにっちもさっちも行かなくなるわけでもなく... 初舞台こそ撃沈しますけど、全体を通して見れば、順調すぎるほど順調なんですよね。2人が本調子を出してしっかりやりさえすれば、それだけ客に受けるようになるという感じなのが、ちょっと綺麗事すぎるような気もしましたが...。でも2人のお互いに対する暖かい友情や、マネージャーの永吉や、アカコの祖母の「頼子さん」、自衛隊上がりのヘアメイクアップアーティストの白縫といった面々の暖かい視線に包まれて、気持ち良く読める作品でした。

作品の中で一番印象に残ったのは、終盤、マネージャーの永吉がテレビに出ていた2人についてコメントする場面。やっぱりテレビの方が映える人間、舞台の方が映える人間というのはいるんでしょうね。以前吉本の舞台を見に行った時は、テレビでも見る芸人さんが、舞台でもそのまんまなのにちょっと驚いたんですけど、永吉が言ってる部分は、やっぱり舞台から先に見ないと気がつかない部分なんでしょうねー。ちょっとその辺り、見比べてみたいという興味が...(笑)(集英社文庫)


+既読の山本幸久作品の感想+
「幸福ロケット」山本幸久
「笑う招き猫」山本幸久

| | commentaire(2) | trackback(1)
Catégories: /

 [amazon]
博多の長浜にラーメンとおでん、そしてカクテルを出す屋台を営むテッキこと鴨志田鉄樹。そして、その屋台にいつもやって来てはツケで飲んでいくのは、テッキの高校時代からの腐れ縁で、今は結婚相談所の調査員をしているキュータこと根岸球太。博多の街を舞台に、2人が様々な巻き込まれていくハードボイルド連作短編集。

北森鴻さんの本はかなり読んでますが、こうやって読むのはとても久しぶり。以前はコンプリートする勢いで読んでたはずなんですけど、私の中でミステリ熱が冷めてきたこともあって、ここ2年ほどの間に出た本は全然読んでないんですよね。でも、それ以前のは全部読んでるはず... いや、この作品を抜かしてですが。なぜこれだけ抜けてたかといえば、なんでなんでしょうね。どこかとっつきにくい雰囲気が漂ってたせいなんですよね。(私にとって、です) 図書館で見かけても、なんとなくスルーしてしまってました。でも文庫になったのを機に読んでみたら、意外なほど読みやすくてびっくり!

テッキとキュータの2人の視点が交互に登場して、物語が進んでいきます。2人は高校時代からの腐れ縁で、どちらも29歳。東京の大学を中退して博多に戻って来たテッキは冷静沈着、むしろ老成した雰囲気。使う言葉は標準語。そして常にお気楽で女好き、頭で考えるよりも先に口が出るタイプのキュータは人情家。言葉は博多弁。この2人が好対照となっていて楽しいし、オフクロこと華岡結婚相談所の所長・華岡妙子や、魔女のような雰囲気の歌姫も、独特の存在感を放っていますねー。一見して硬質な雰囲気だし、扱う事件はそれぞれに重いんですけど、狂言回し(?)のキュータのおかげか、その重さがいい感じで和らげられていて、とても読みやすかったです。それでも最後はかなり苦い結末で、驚かされましたが...。
今年の10月に出ている「親不孝通りラプソディー」は、この2人の高校時代のエピソードみたいですね。この本の中でも一度思わせぶりなことが書かれていたので、その話なんでしょう。またそちらも読んでみようっと。(講談社文庫)


+既読の北森鴻作品の感想+
「共犯マジック」北森鴻
「蜻蛉始末」北森鴻
「親不孝通りディテクティブ」北森鴻
「螢坂」北森鴻
「瑠璃の契り」北森鴻
「写楽・考」北森鴻
「暁の密使」北森鴻
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

| | commentaire(4) | trackback(2)
Catégories: /

 [amazon]
中庭が隠れ家のようなカフェ・レストランになっている小さな古いホテル。そこを訪れた「女」は、待っていた「サングラスの女」と共にワインを飲み、鴨とチコリのサラダを食べながら、以前この同じ中庭で開かれた小さなティー・パーティのことを話し始めます。それは脚本家・神谷華晴のために開かれたパーティの話。神谷は大の紅茶党で、その日も貰ったばかりのカップを片手に客の間を泳ぎ回り、ひっきりなしに紅茶を飲んでいました。しかしその手からは突然カップが落ちて...。カップからは毒が検出されます。誰も紅茶に毒を入れた形跡も目撃証言もなく、警察は自殺と断定。それでも「女」は真相に気付いたのです。そしてその時、「サングラスの女」の口からは、突然糸のような血の筋が流れ、その身体は崩れ落ちて...。

いやあ、面白かった。演劇という意味では「チョコレート・コスモス」(感想)の延長線上にあるような作品なんですけど、雰囲気としては、むしろ「夏の名残りの薔薇」(感想)でしょうか。演劇ミステリですね。「チョコレート・コスモス」ほどの興奮はなかったんですが、こういうのもすごく好き~。
でもとても面白かったのだけど、とても分かりづらくもありました。同じ場面、同じ台詞が何度も繰り返し繰り返し、少しずつ形を変えながら登場、何層にも入れ子になっているのです。ゆっくり読んではいたんだけど... 一体どこからどこまでが現実で、どこからが芝居で、どこからが芝居の中で演じられている芝居なのやら、まるで不思議のアリスの国に迷い込んだみたい。内側だと思っていたものが、気がつけば外側になっていて、外側だと思っていたものは、いつの間にか内側になり、現実と虚構が螺旋階段のように絡み合ってグルグル上っていくような...。まだ掴みきれてない部分があるので、これはもう一回、今度はメモを取りながら読んだ方がよさそうです。

そしてこの作品には、神谷という脚本家が登場するんですが、これは...? 芝居の演出で芹澤という名前もちらっと出てきて、こちらは「チョコレート・コスモス」で登場したあの人と同一人物だと思うんですが、神谷の方はどうなんでしょう? 「チョコレート・コスモス」の神谷とは年齢も食い違いそうだし、別人のような気もするのだけど...? 「チョコレート・コスモス」の本が手元にないので、細かい部分が確かめられませんー。(新潮社)


+既読の恩田陸作品の感想+
「夏の名残りの薔薇」恩田陸
「小説以外」恩田陸
「ユージニア」恩田陸
「蒲公英草紙」「光の帝国」恩田陸
「酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記」恩田陸
「ネクロポリス」上下 恩田陸
「エンド・ゲーム」恩田陸
「チョコレートコスモス」恩田陸
「中庭の出来事」恩田陸
「朝日のようにさわやかに」恩田陸
「木洩れ日に泳ぐ魚」恩田陸
「いのちのパレード」恩田陸
「猫と針」恩田陸
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

| | commentaire(12) | trackback(5)
Catégories: /

 [amazon]
時々遊びに来ていたデブで不細工なねこが、その日赤い首輪をしているのを見て、「ぼく」はこっそり首輪の下に短い手紙を書いた紙を押し込むことに。すると次にその猫がやって来た時、そこには返信が挟まっていて... という表題作「モノレールねこ」他、全8編が収められた短編集。

いやー、やっぱり菊池健さんの描かれる絵は、加納朋子さんの作品にぴったりですね。この表紙の猫、パズルになってるんですよー。可愛い! そして中身もとても加納朋子さんらしい作品集でした。どれも人と人との絆をテーマにした物語。
縁あって親子や友達、恋人、そして夫婦になる人々。それは単なる偶然のめぐり合わせかもしれませんが、深く関わり合うような関係を築くには、やはり何かしら不思議な、偶然以上のものが潜んでいるような気がします。住んでいる場所も育った環境もまるで違う男女2人でも、縁さえあれば、知り合って恋に落ち結婚することもありますし、それとは逆に、似たような場所と環境で育ってお互いのことを知っていても、特に深く関わり合うことなくすれ違っていく人々もいるわけですし。やっぱり人間同士が深く関わりあうには、何かの「縁」が必要なんでしょう。そしてその「縁」が人同士を結びつけ、愛情や信頼関係を育てていくのでしょうねー。時には近すぎるからこそ、なかなか上手くいかないこともありますが、少しずつ築き上げて確立した絆は強いですし、その「縁」が本物なら、たとえ何十年のブランクがあっても再びめぐり合えるはず。
どの作品の絆もそれぞれに違ったものですし、短編同士には繋がりが全くないのですが、共通するのはその暖かさ。ああ、久しぶりに加納朋子さんらしい作品を読んだ気がします。良かったです~。(文藝春秋)


+既読の加納朋子作品の感想+
「てるてるあした」加納朋子
「ななつのこものがたり」加納朋子
「モノレールねこ」加納朋子
「ぐるぐる猿と歌う鳥」加納朋子
Livreに、これ以前の全作品の感想があります。

| | commentaire(8) | trackback(4)
Catégories: / /

  [amazon] [amazon]
アフリカと南アメリカの港を巡る1ヶ月のクリスマス・クルーズを終えて、リスボンへと向かっていた巨大客船・ポセイドン号が、海底地震による激しい津波によって転覆。船体はさかさまになり、あちらこちらで犠牲者が続出します。生き残ったのは、ダイニングルームにいた船客たちなどわずか数十名のみ。いつ助けが来るのか、いつまで船は沈まずに耐えられるのか、一切分からない状況の下で、そのまま助けを待っているつもりのない人々は、スコット牧師の先導で、かつて船底だった部分へと上り始めます。

1972年の「ポセイドン・アドベンチャー」、2006年の「ポセイドン」と2度に渡って映画化された作品の原作。私も「ポセイドン・アドベンチャー」はテレビでやってるのを観たことがありますが、あのパニック映画の原作を書いたのが、「ジェニィ」や「トマシーナ」のポール・ギャリコだったとはびっくり! ポール・ギャリコだって、ファンタジー系の作品ばかり書いているというわけではないけれど、でもやっぱりイメージ的には、そっち系なんですよね。でも、ポール・ギャリコ自身は元々はスポーツライターだったのだそう。そしてこの作品も、表面上はパニック物なんですけど、それぞれの人物の描き方・掘り下げ方は、やっぱりポール・ギャリコならではでした。

映画の方は実はあんまり良く覚えてないんですが、でも割とすっきりとした... というのは言葉が変ですが、ストレートなパニック物に作られていたような記憶があります。最後も感動のラストだったような... いかにもハリウッド映画らしい感じですね。皆を先導する牧師は、牧師というにはアウトロー的なところがあって、でもそこが逆に強いリーダーシップを発揮して、皆を先へ先へと導いていたような。でも原作では、ちょっと違ってました。(映画の方の私の記憶が間違ってる可能性も十分にありますが!) 原作のスコット牧師は、プリンストン大学時代からのフットボールの名選手。オリンピックでも2度の金メダルを獲得していた、全米のスター。今までの人生で、何も挫折を知らずにここまで来てしまったような人物なんです。そんなスターが、なんで牧師という職業を選んだのか? まずそこからして興味をそそります。そしてスコットがタイタニック号の転覆という出来事を神からの試練と受け取るのはいいんですけど、そこでまるで神に挑戦するかのような、神に対して取引を申し出ているかのような祈りの言葉を唱えるんです。この部分は、おそらく日本人が読むよりも欧米人が読んだ方がショッキングなんじゃないでしょうか。それ以外にも色々あって、表面上は非の打ち所のない人物なのに、でも実はつかみ所のない不思議な人物なんですよねえ。今まで自信満々で「勝ち組」としての人生を歩んできたスコットと、牧師としてのスコットがどうしても相容れなくて、まさにその部分が彼を自滅させたようにも見えてきます。それだけにラストは映画のような「感動のラスト」ではなくて、ほろ苦いラスト。あ、もちろんスコット牧師だけでなく、他の面々の部分の描き方・掘り下げ方も「ほろ苦さ」に繋がるものなんですよね。パニック部分も面白いんですが、とにかく人間的興味に引かれて読み進めた作品でした。(ハヤカワ文庫NV)


+既読のポール・ギャリコ作品の感想+
「トマシーナ」ポール・ギャリコ
「セシルの魔法の友だち」ポール・ギャリコ
「マチルダ ボクシング・カンガルーの冒険」ポール・ギャリコ
「われらが英雄スクラッフィ」ポール・ギャリコ
「幽霊が多すぎる」ポール・ギャリコ
「猫語の教科書」ポール・ギャリコ
「ハリスおばさんパリへ行く」「ハリスおばさんニューヨークへ行く」他2冊 ポール・ギャリコ
「七つの人形の恋物語」「スノーグース」ポール・ギャリコ
「トンデモネズミ大活躍」「ほんものの魔法使」ポール・ギャリコ
「ポセイドン」上下 ポール・ギャリコ
「ザ・ロンリー」ポール・ギャリコ
「「きよしこの夜」が生まれた日」ポール・ギャリコ
Livreに「ジェニィ」の感想があります)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: /

[amazon]
近頃どうも身体の具合が良くないという話をしていた、ジョージとハリスと「ぼく」の3人。ハリスとジョージは時々眩暈を感じ、自分が何をしているか判らないことがあると言い、「ぼく」は明らかに肝臓の調子が良くないのです。ハリスは、自分たちには休息が必要だと言い、ジョージがそれなら河へ行こうと言い、3人と犬のモンモランシーは、テムズ川をボートで遡る計画を立てます。

2週間ほどのボート旅行の顛末が面白可笑しく描き出されていくユーモアたっぷりの作品。でも表向きには、あくまでも真面目な雰囲気なんですよね。真面目くさった調子で妙なことを言い、真面目に文句を言っているのが逆に可笑しいといった感じのユーモア。「ぼく」が、薬の広告やそういった本を読んで、全ての症状が自分に当てはまるような気になってしまう部分とか、お湯を沸かす時に、「こっちが熱心に待っていることが、湯沸しに判ると、絶対に沸騰しようとしないものなのだ」という部分に、にやりとさせられる人は多いのではないでしょうかー。その他にもイギリス人らしいユーモアが満載。これが1889年に書かれたというのだからびっくり。100年以上経ってるのに、全然古くないんですね。
でもテムズ川流域や登場する人々の情景は、古き良きイギリスといった感じ。読んでいたら、ケネス・グレーアムの「たのしい川べ」を思い出しました。やっぱりイギリスの人は川遊びが好きなんでしょうね。確かルイス・キャロルが「不思議の国のアリス」を作ったのも、アリスのモデルになった少女たちと一緒に川遊びに行った時のことだし、川遊びの場面が出てくる物語も多いような。...と言いつつ、今咄嗟に思い出したのは、あとは「くまのプーさん」ぐらいなんですが。

ただ、今の私は、いかにもイギリスらしいユーモアの気分ではなかったんですよね... それが残念。もっと違う時に読めば良かった。やっぱり読む時期は重要だー。(中公文庫)

| | commentaire(2) | trackback(0)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.