Catégories:“2006年”

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瀬名垣太一は、古書店「無窮堂」の三代目店主・本田真志喜を訪ねます。太一は店舗を持たない古本卸売り業者で、真志喜とは子供の頃からのつきあい。今度M県の山奥に買い付けに行くので、真志喜に付き合ってくれるよう頼みに来たのです... という「水底の魚」、2人の高校時代を描いた「水に沈んだ私の村」、そして文庫書き下ろしの「名前のないもの」の3編。

読み終えてから、三浦しをんさんが直木賞を受賞したことを聞いてびっくり。そうだったんですかー。いや、実は誰が候補になってるのかというのも知らなくて...(要するに関心がない) 森絵都さんとダブル受賞なんですね。おめでとうございます。
ということで、別にタイミングを狙ったわけじゃないんですけど、三浦しをんさんです。この文庫が出た時、装幀が可愛かったので買おうかなと思ったこともあったんですが、そんんなこんなしてるうちに、ボーイズラブっぽい...という話も入ってきて...(笑) でも古本屋の話だと聞いてまた気になってみたり...(笑) タイミング良く本を頂いたので早速読んでみました。

古本業界や稀覯本をめぐる収書家たちにまつわる話となると、まず紀田順一郎さんの「古本屋探偵の事件簿」を思い出すんですが(これはとにかく濃かったー)、この作品もそういった古本業界にまつわるエピソードが面白かったです。太一の父親は、古本屋で少しでも価値のありそうな本を漁って専門店に持って行ったり、廃棄場に捨てられている本をこっそり拾って古本屋に売りに行く、古本業界では「せどり」と呼ばれて嫌われる業者。その辺りの話も面白かったし、M県の奥に買い付けに行った時の話がいい! 亡くなった旦那さんの本に対する奥さんの思いとか、蔵書の中からたった1冊の本を選んだ時に真志喜たちがつけた理由とか、そしてその決着とか。親族たちとのやりとりも良かったし... 図書館の本に対する真志喜の言葉にはどっきり。
全体に流れる透明感のある静かな雰囲気も好きでした。でも真志喜と太一の関係については、どうなんだろう。2人が共有した過去の出来事や、そこから受けた傷、そして負い目、その辺りはとても良かったと思うんですが、ボーイズラブ的な雰囲気に関してだけは、今ひとつ。思わせぶりな雰囲気だけで、そのままフェイドアウトなんですもん。この曖昧さがいいのかもしれませんが、中途半端に逃げたとしか思えなくて。これで終わらせてしまうぐらいなら、最初からそんな雰囲気にしなければ良かったのに。それか逆に、真正面から全てを書ききって欲しかった。...まあ、そうなると読者をかなり限定してしまいそうですが(^^;。
でもひっかかったのはその部分ぐらいで、あとはとても面白かったです。(角川文庫)


+既読の三浦しをん作品の感想+
「しをんのしおり」三浦しをん
「月魚」三浦しをん

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トロイア戦争関係の作品は色々ありますが、そもそものトロイア戦争の発端となった、パリスがヘレネーを連れ去った事件について書いているのは、このコルートスの「ヘレネー誘拐」だけなのだそうです。そして一緒に収められているのは、「ヘレネー誘拐」とは対照的に、トロイア最後の日を描いた、トリピオドーロスの「トロイア落城」。こちらには「トロイアの木馬」の製作過程、そしてアカイア軍がトロイアを攻め落とす様子が詳細に描かれています。

どちらも叙事詩としてはとても短い作品。「ヘレネー誘拐」には、もう少ししっかり書き込んで欲しい部分もありましたが... 不和の女神エリスの投げ込んだ黄金の林檎に「一番美しい女神へ」みたいな言葉がないので、なぜ3人がいきなり林檎を欲しくなったのか分からないし、しかもなぜいきなりパリスが審判を務めることになったのかも分からないんですよね。でもパリスとヘレネーの場面はやっぱり面白かったです。最後には、ヘレネーの娘のヘルミオネーも登場しますし。そして「トロイア落城」は、マリオン・ジマー・ブラッドリーのファイアーブランドにとても近くて、「これこれ、こういうのが読みたかったのよ」。
会話文、特に女性の言葉の訳し方にはひっかかってしまったんですが(女性の一人称が全ての「あたし」だなんて!)、全体的には面白かったです。注釈の入れ方もとても分かりやすいですね。例えば岩波文庫の注釈の入れ方って、オーソドックスだけど、読みづらいことも多いんですよね。最後にまとめて注釈のページがあるというのもそうなんですが、作品そのものに関する説明だけでなく、訳出上のことまで書かれていたりして、どれが本当に必要な注釈なんだか分からなくなってしまいます。何でもかんでも注釈がついてたら、そのたびに読むのを中断させられてしまって、流れを楽しむどころじゃなくなっちゃいますし。

解説では、クイントゥスの「トロイア戦記」が何度となく引き合いに出されてました。こちらも読んでみなくっちゃいけないですね。でもまずは「イリアス」にいきます。ちょっとしんどそうだけど... これまでギリシャ神話は好きでも、トロイア戦争にはほとんど興味がなかったはずなんですが、気がついたらすっかりハマってますね。(笑)(講談社学術文庫)

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ハンサムでも秀才でもないハロルド・シェイの造形から(馬面で、目が中央に寄りすぎてるらしいです)、アンチ・ヒロイック・ファンタジーという言葉が生まれたという、ハロルド・シェイのシリーズ全4巻。主人公のハロルド・シェイが、北欧神話、エドマンド・スペンサーの「妖精の女王」、コールリッジの「クブラ・カーン」、アリオストの「狂えるオルランド」、フィンランドの叙事詩「カレワラ」、そして最後にアイルランド神話の世界に飛び込む冒険物語です。

実はこれまで、なかなか話に入れなくて4~5回ほど挫折してたんですが、ようやく読めました。一旦話に入ってしまえば、結構面白かったです。まず面白いのは、日常の生活からファンタジーの世界への行き方。主人公のハロルド・シェイは心理学者なので、移動が魔法ではないんです。使うのは「Pが非Qと同値であれば、Qは非Pを含意するが...」という、「論理方程式」。6枚の紙に書かれた公式全神経を集中するだけで、神話の世界へと旅立ってしまうんだからびっくり。でももちろん、事はそれほど簡単ではありません。最初はクフーリンやマブ女王の時代のアイルランドに行くはずだったのに、気がつけばそこは北欧神話の世界。しかも、行った先の世界の法則に従わなくちゃいけないんですよね。20世紀の物理学や化学の法則みたいにまだ発見されてないものは、存在しないのも同じ。持参したマッチや銃は使い物にならなくなってますし、英語の本も理解できなくなってるのに気付くハロルド・シェイ。頭の中で自分の名前のスペルを思い浮かべても、浮かんでくるのはルーン文字だけ。(笑)

ただ、北欧神話やアイルランド神話は好きだし、「妖精の女王」も最近読み返したし(感想)、叙事詩ではなく、簡易な物語に書き直されていたとはいえ「カレワラ」も読んだし(感想)、「クブラ・カーン」は大学の時に一目惚れした作品なんですが(これは、コールリッジがインスピレーションを得て作品を書き始めた時に突然の来客があり、仕事を中断してるうちにその詩思は消え失せてしまった、ということで有名な作品。その来客が本当に怨めしい!)、「狂えるオルランド」だけは未読のままだったんですよね。それが惜しかったです。イタロ・カルヴィーノの「宿命の城」(感想)を読んだ時から、読みたいと思ってたんですが... 「妖精の女王」にも大きく登場してたのに...。でも名古屋大学出版局発行の本は12,600円なんて値段がついてるので到底買えないし、市内の図書館にも置いてないし、抄訳が載ってる本も3冊ほど教えて頂いたのに、どれも市内の図書館になく... いえ、いずれは絶対に読みますが!

4冊の中で一番面白かったのは1冊目。雰囲気に馴染むのに時間はかかったけど、ラグナロク直前の北欧神話の世界に一度馴染んでしまえば、あとはユーモアたっぷりで楽しかったです。もう少し長くしして、じっくり読ませて欲しかったぐらい。でも2~4冊目は、ラブロマンスなんかもあるんですけど... ハロルド・シェイが冒険慣れした分、ちょっと物足りなかったかも。代わりに加わった狂言回しの人物には苛々させられたし。それにどの世界も、結局似たような感じですしね。そういう意味ではちょっとマンネリ気味でした。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のディ・キャンプ&プラット作品の感想+
「妖精の王国」ディ・キャンプ&プラット
「神々の角笛」「妖精郷の騎士」「鋼鉄城の勇士」「英雄たちの帰還」ディ・キャンプ&プラット

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最近sa-ki さんに教えて頂いた本が続いてますが、これもそうです。たらいまわし企画・第24回「五感で感じる文学」で出してらした本。実は、池澤夏樹さんの作品を読むのは初めて。以前、須賀敦子さんが、「本に読まれて」の中で池澤さんの作品を何度も取り上げてらして、気になってたんですけど、なかなか機会がなく... ようやく読めました。

これは南の島に住むティオという12歳の少年を中心にした連作短編集。ティオは、父親がホテルを経営しているので、ジープを運転して父親と一緒に空港にお客を迎えに行ったり、観光客を山に案内したりもするんですけど、基本的に長閑な日々を送ってます。(観光客の案内や世話自体も、長閑な感じなんですが) そもそも、この島の人間は、政府や学校みたいなところで働いているんでなければ、大抵は気の向くままに海で魚を採ったり、山の畑を耕したりという暮らしぶりなんですよね。そして、そんなティオの島では時々、島の神さまや精霊の存在を感じさせる不思議な出来事が起こります。そういった出来事は、案外大きなことだったりするんだけど、でもあまりに自然なので、気がつかない人は気がつかないまま通り過ぎちゃう。この自然さは、例えば沖縄の人がマブイを持っているというような感じに近いかなあ...。不思議なことが起きるという意味ではファンタジー作品と言えるんですけど、どちらかといえば、もっと普通の、本当にあった話を聞くような感覚で読んでました。
私が読んだ本ば文庫本でしたけど、元々は児童書として刊行された本なんですね。道理で... という柔らかさが心地良いです。読んでいると、青い空と白い雲、眩しい陽射し、そよぐ風、真っ青な海といった、南国ならではの情景が目の前に広がるよう。なんだか、自分まで長閑に島の生活を送ってるような気がしてきてしまいます。日々の生活で、肩凝りのような状態になってた心が、柔らかく揉みほぐされるような感じ。
10編の短篇が収められているんですが、私が一番好きだったのは、受け取った人が必ず訪ねずにはいられないという絵はがきを作る、絵はがき屋のピップさんの話。あ、でもこれは不思議なことがごく自然に起きる話ではなくて、一番「書かれたファンタジー」っぽい作品なんですけどね。でもこのピップさんが、この1編だけにしか登場しないのは残念だったなあ。あと、「星が透けて見える大きな体」も好き。長閑な雰囲気が一変、この1編だけ現実の厳しさが迫ってくるような「エミリオの出発」も好きです。(文春文庫)


+既読の池澤夏樹作品の感想+
「南の島のティオ」池澤夏樹
「スティル・ライフ」池澤夏樹
「真昼のプリニウス」池澤夏樹
「夏の朝の成層圏」池澤夏樹
「バビロンに行きて歌え」池澤夏樹
「神々の食」池澤夏樹

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10年にも渡る攻防の末、トロイアの都イーリオンを攻め落とし、王妃クリュタイメーストラーに松明で報せを送ったアガメムノーン王は、イーリオンで捕えた王女・カッサンドラーを伴って凱旋し、妃の待つ王宮へと向かいます。しかし王宮に入る直前、予言者でもあるカッサンドラーが、王妃クリュタイメーストラーによってアガメムノーン王と自分が殺されることを予言するのです。

マリオン・ジマー・ブラッドリーの「ファイアーブランド」を読んで(感想)、ギリシャ物が読みたくなったところにこれを見つけたので、早速読んでみました。ギリシャ悲劇です。こんなの読んでたら、「また、反応できないような本を読んで~!」と言われてしまいそうですが... 最近、ネットのお友達に会うたびにそう言われてるような気が(^^;。
ここに登場するクリュタイメーストラーとは、トロイア戦争の発端となったヘレネーの姉妹。アルゴス王アガメムノーンの王妃です。そしてクリュタイメーストラーが自分の夫を殺そうと考えたのは、アガメムノーンが自分たちの娘・イピゲネイアを、アカイアー軍の戦勝のために生贄に捧げてしまったことへの恨み、そして10年間夫が留守だった間、自分自身が浮気をしていたこと。
題名は「アガメムノーン」になってますが、この作品の主人公はどう見てもその妻・クリュタイメーストラーです。

この作品を読んで一番面白かったのは、有名な伝説を悲劇に仕立てただけに、観客が事の結末を知ってるということ。だからクリュタイメーストラーの心にもない台詞を聞いて、逆にその欺瞞を感じ取るんですよね。(一種の倒叙... とは言えない? 笑) 中には結構面白い演出もありました。この悲劇はB.C.458年に実際に初上演されたそうなんですが、これって演じられてるのを観るのも結構面白そう。どんな風に演じられてたのか、観てみたくなっちゃいます。(もちろん古代ギリシャ語で演じられても、何が何やらさっぱり分からないですが) それにとても普遍的なんですね。結局、戦争というものも、それぞれ登場人物たちのドロドロした感情も、今も昔も変わらないわけだし... カッサンドラーの、予言の言葉から死を恐れずに宮殿に入るまでの一連の言動はとても哲学的で、そういったところもとても面白かったです。...ただ、古典作品の例に漏れず、この作品も訳注がとても多いんですよね。最初の1回目はその注釈を全部見ながら読むし、あまり面白くないんです。2度目3度目と読み返してるうちに、ぐんぐん面白くなるのですが。

そしてこの作品を読むと、やっぱりブラッドリーの描いたクリュタイメーストラーは魅力的だったなって、改めて思いました。「ポセイドーンの審判」の最後にちらっと登場しただけだったんですけど、存在感も抜群でしたしね。この「アガメムノーン」は、娘を殺されたクリュタイメーストラーに半ば同情しているようでいて、やっぱり男の論理って感じだし... こういった古典作品(聖書含)は男性の視点から書かれてることの方が圧倒的に多いので、同じ出来事を色んな視点、特に現代女性の視点から描きなおすと、まるで違った部分が見えてきて、新鮮だし面白いですね。(岩波文庫)


+既読のアイスキュロス作品の感想+
「アガメムノーン」アイスキュロス
「ギリシア悲劇I」アイスキュロス

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アーサー王伝説を、アーサー王の異父姉にあたるモーガン・ル・フェイの目を通して描いた「アヴァロンの霧」が、物凄く面白かったマリオン・ジマー・ブラッドリー。こちらの作品は、トロイア戦争が題材です。トロイアの王女で、パリスの双子の妹のカッサンドラーの視点から描いていきます。元は「ファイアーブランド」という1冊の本だったものを、日本で刊行するために、「太陽神の乙女」「アプロディーテーの贈物」「ポセイドーンの審判」という3冊に分けたもの。
ブラッドリーの作品らしく、これもフェミニズム全開でした。女性が強いです。ちょっと男性が情けなさすぎるんですけど、物語そのものは面白かった。ブラッドリーにかかると、こんなに女性が生き生きしてくるんだなあと、改めてびっくり。

全体的な構造としては、「アヴァロンの霧」と同じく、大地の女神を信仰する女性たちと、その世界の終焉といった感じですね。徐々に母系から父系社会へと移行しつつある世界です。古くからの女神がないがしろにされるようになり、男性の論理に都合の良い神々が台頭。かつては自分の手で国を治めていた女王たちは、気がついたら自分の夫に権力を握られているという寸法。でも男性は外で働き、女性は家を守るという観念が浸透していくのと同時に、男性の庇護下にいることで満足する女性たちの姿が目立ってきます。主人公のカッサンドラーを始めとして、自分の足で立つことを望む女性たちもまだまだいるのですが。
いくらフェミニズムとは言っても、ここまで男性をこき下ろしてしまうというのもどうかなあと思うんですけど... これで男性がもっと魅力的だったら、言うことないのになあ。アキレウスに至っては、ただの戦狂いなんですよね。やっぱり「アヴァロンの霧」は、この辺りのバランスがすごく良かったように思います。でもこちらの作品の最後は、男性と女性が協力して築き上げる世界の予感を感じさせるんです。どうしたのかな、ブラッドリー、心境の変化?
井辻朱美さんによる解説も面白かったです。「アヴァロンの霧」を「源氏物語」、こちらを「風と共に去りぬ」に喩えててびっくり!(笑)

この作品を読んでたら、無性にギリシャ神話と「イーリアス」が読みたくなったんですけど、手元にあったのはギリシャ神話だけ。こちらのトロイ戦争周辺の部分は再読したんですが、記述が少ないし、そっけなさすぎて物足りない! やっぱり「イーリアス」かなあ。私が気が付いただけでもかなり設定が違うので、今、読んだらどんな感じがするのか気になります。こういう時に本が手元にないというのは痛い...
しかも、それを読んだら、「オデュッセイア」も読みたくなりそうなんですけど、こっちも手元にないんです。「オデュッセイア」繋がりで、ジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」(こっちは未読)も読んでみたいんですが... とは言っても、続けざまに読むのはきつそうなので、そこまで辿りつくのはいつのことになるやら、ですが。(笑)(ハヤカワ文庫FT)


+既読のマリオン・ジマー・ブラッドリー作品の感想+
「白き手の巫女」「龍と鷲の絆」「希望と栄光の王国」マリオン・ジマー・ブラッドリー
「太陽神の乙女」「アプロディーテーの贈物」「ポセイドーンの審判」マリオン・ジマー・ブラッドリー
Livreに「アヴァロンの霧」の感想があります)

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魔法使いのルッフィアモンテが望んだのは、地球の端っこにささやかな、ありとあらゆる風の流れ込むおもちゃのような街を作ること。そしてできたのが風街。沢山の夢が吹き寄せられてくる風街にやって来たマーチ博士が書き綴った短編集です。

風待屋のsa-ki さんに教えて頂いた本。海外ファンタジー作品を多数訳してらっしゃる井辻朱美さんご自身のファンタジー作品は一体どのような物語なのだろうと、ワクワクしながら手に取りました。
まず、神話や古今東西の有名ファンタジーのモチーフがいっぱいで楽しい! 風街ができるきっかけになったのも、魔法使いが鶴の仙人に連れられて行った北方の神々の鍛冶場がきっかけだし、この鍛冶場に置いてあるのが、不老不死の仙丹を焼き上げる太上老君の竃、そして風街を作りたいという望みを叶えたのは、北欧神話の神の1人ロキなんですもん。思いっきりクロスオーバーしています。(笑)
街の裏には《夜》の山脈があり、《夜》に通じる道は、まがまがしい夢が漂い出てくる《妖神たちの小路》... という街の周辺も魅力的なんですが、それ以上に街そのものが素敵。とっても不思議なことが、ごく自然に存在してますし、魅力的なお店も沢山。鞄屋の自慢は、物を出したあと、鞄の口の中へ鞄の底を突っ込めば、くちがねだけになってしまうという鞄だし、開くたびに美しい女の絵が涙を流す傘があったり、毎回違う割れ方をして、毎日新しい自分を発見できるタマゴ鏡なんていうのがあったり...。その他にも、子供の成長に合わせて育つ刺青とか、姿を変える黒ウサギとか、夜の流星が落ちた跡を嗅ぐ犬とか、雨天のみ開館の映画館とか... 《夜》から飛んできた、よい匂いのする夢を拾って売る掃除夫の話なんていうのも素敵。
人間も動物もそれ以外の不思議な存在も一緒くたになって暮らしている風街の物語は、連作短編集とはいっても、それぞれの物語に連続性はそれほどなくて、まるで夢の場面場面のスケッチを見ているよう。少し強い風が吹いたら忘れてしまいそうなほどの淡々とした夢です。でもそのスケッチを眺めていると、明るく透明感のある情景がどんどん拡がっていきます。
メアリー・ポピンズが来るのは、実はこの世界から? 一番強い火星猫の名前が、「スーパーカリフラジリスティックエクスピーアールイードーシャス」なんですよ。(笑) 「ロビン・グッドフェロウがチョコレットの中に閉じ込められた珍事件」というのは、稲垣足穂の「チョコレット」? 神話や古今東西の有名ファンタジーのモチーフがいっぱいで、そういうのを探すのも楽しいところ。登場人物もそれぞれに魅力的だし、読んでいると自分まで風街にいるような気がしてしまう、そんな風に居心地のいい物語でした。画像が出ないのが残念なんですが、安江恵美さんの挿画もこの雰囲気にぴったり。楽しかったです~。(アトリエOCTA)


+既読の井辻朱美作品の感想+
「風街物語 完全版」井辻朱美
「エルガーノの歌」「パルメランの夢」井辻朱美
「幽霊屋敷のコトン」「トヴィウスの森の物語」井辻朱美
「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」井辻朱美
「遙かよりくる飛行船」井辻朱美
「ファンタジーの森から」「ファンタジーの魔法空間」井辻朱美
「夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり」井辻朱美
「魔法のほうき」井辻朱美
「ファンタジー万華鏡」井辻朱美

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