Catégories:“2006年”

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キャロル・リ-ド監督、オーソン・ウェルズ主演で有名な映画「第三の男」の原作。
映画は随分前に一度観たきりなんですが、それでもあの主題曲やオーソン・ウェルズの存在感、プラターの観覧車、最後にアンナが歩み去っていく場面など、すごく強い印象が残ってるんですよね。それに比べると、この原作本には、残念ながらそれだけの力が感じられなかった気がします...。原作とは言っても、映画が作られる前から存在していた小説ではなくて、純粋に映画のために書かれた作品とのことなので、映画さえ良ければ別に構わないし、それが正解だと思うんですけど... 例えばオーソン・ウェルズの、「ボルジア家の30年の圧制はミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、そしてルネッサンスを生んだが、スイスの 500年のデモクラシーと平和は何を生んだ? 鳩時計さ。」という台詞がないと淋しいです!(これはオーソン・ウェルズが考えた台詞なのだそう) それにラストも全然違う! 映画の方がいいです! そもそも本におけるアンナの描写は、「美しくはないけれど、正直そうな顔」。アンナ役のアリダ・ヴァリって、かなり美人さんじゃありませんでしたっけ?(しかもあの存在感ってば) でも、逆にアメリカ・ソ連・フランス・イギリスという4大国によって分割されていた当時のウィーンの状態は、本を読んで初めて良く分かりました。すごいことになってたのね...。
この映画がお好き方には、キャロル・リードとの間の話し合いによって映画が出来上がっていく過程を書いた序文も興味深いのではないでしょうか。ラストシーンのことについても、言及されています。(ハヤカワepi文庫)


+既読のグレアム・グリーン作品の感想+
「第三の男」グレアム・グリーン
「おとなしいアメリカ人」グレアム・グリーン
「負けた者がみな貰う」グレアム・グリーン
「権力と栄光」グレアム・グリーン
「事件の核心」「二十一の短篇」グレアム・グリーン
「ブライトン・ロック」グレアム・グリーン
「ヒューマン・ファクター」グレアム・グリーン

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35年もの間ダーリントン卿に執事として仕え、卿が亡くなった今は、屋敷を買い取ったアメリカ人のファラディの執事となっているスティーヴンス。父親の代からの執事であり、執事としての高い矜持を持っています。しかし多い時には28人の召使がいたこともあるというこの屋敷に、今はスティーヴンスを入れて4人の人間しかいないのです。そんな時に思い出したのは、ダーリントン卿の時代に女中頭として働いていたミス・ケントンのこと。結婚して仕事をやめ、ミセス・ベンとなっている彼女は今はコーンウォールに住んでおり、先日届いた手紙では、しきりに屋敷を懐かしがっていました。丁度ファラディがアメリカに一時帰国することになり、その間、何日かドライブ旅行をしたらいいと勧められたスティーヴンスは、彼女に会いに行くことに。

ああ、なんて美しい作品なんでしょう。要はドライブしながら色々なことを回想していくだけなんですけど、良い小説とはこういうもののことを言うのかも、なんて思いながら読みました。
華やかななりし時代のスティーヴンスの仕事ぶり、執事としての誇り、執事に大切な品格の話なども興味深いですし、気さくにジョークを飛ばす今の主人に戸惑い、ジョークを言うことも自分に求められている仕事なのかと真剣に考えてしまうスティーヴンスの姿が楽しいです。慇懃でもったいぶっていて、少々頑固な、古き良き英国の執事の姿が浮かび上がってきます。一番楽しかったのは、スティーヴンスとミス・ケントンのやりとり。最初はことごとく意見が対立し、冷ややかなやり取りをする2人なんですが、かっかしてる2人の可愛いこと~。
最後の夕暮れの場面もいいんですよねえ。この場面にスティーヴンスのこれまでの人生が凝縮されて、重ね合わせられているようでした。最高の執事を目指し、プロであることを自分に厳しく求めすぎたあまり、結局、自分自身の人生における大切なものを失ってしまったスティーヴンス。老境に入り、些細なミスを犯すようになったスティーヴンスは、おそらく今の自分を亡き父親の姿とダブらせていたことでしょうね。もちろんスティーヴンスの中で美化され、真実から少しズレてしまっている出来事も色々とあるのでしょうけれど、無意識のうちにそうせざるを得なかったスティーヴンスの人生の斜陽に、イギリスという国の斜陽も重なってきます。第二次世界大戦が終わって10年(という設定)、アメリカがどんどん台頭し、現在の主人もアメリカ人。こうなってみると、戦前に屋敷で行われた重要な会議の場面でのやりとりも皮肉...。イギリスでは最早、本物の執事が必要とされない時代になりつつあります。
そんな中で、「ジョークの技術を開発」するなどと言ってしまうスティーヴンスの姿が、切ないながらも可笑しくて、また良かったです。(ハヤカワepi文庫)


+既読のカズオ・イシグロ作品の感想+
「日の名残り」カズオ・イシグロ
「遠い山なみの光」カズオ・イシグロ
「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ
「浮世の画家」カズオ・イシグロ
「私を離さないで」カズオ・イシグロ
「充たされざる者」カズオ・イシグロ

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近未来のアメリカが舞台。キリスト教の原理主義者の一派がクーデターを起こして、ギレアデ時代が始まります。その頃、中絶を含めた様々な産児制限や性病の流行、環境変化によって、白人種の出生率が急落しており、それを憂慮していた彼らは、全ての女性から仕事と財産を没収。再婚の夫婦と未婚者の私通は全て姦通だとして子供を取り上げ、妊娠可能な女性を選び出して「侍女」としての教育を施し、子供のいない支配者階級の男性の家に派遣。彼女たちは出産のための道具とされることになったのです。

侍女たちはくるぶしまで届く赤い衣装を纏い、顔の周りには白い翼のようなものが付けられて、周囲とは遮断されています。私物と言えるようなものは一切持てませんし、部屋からも自殺や逃亡に使えそうな道具は慎重に取り除かれています。もちろん日々の行動に自由はなく、その存在に人間性などこれっぽっちも求められていません。まさに「二本足を持った子宮」。
各個人からその個性を奪い取るには、名前と言葉を取り去るのが一番効果的なのね... というのが、この作品を読んで最初に感じたこと。単なる出産する道具である侍女たちの名前は「オブ+主人の名」。この物語を語っているのは「オブフレッド」と呼ばれる女性ですし、他にも「オブグレン」だの「オブウォーレン」だのがいます。日々決められた通りに行動し、侍女同士での挨拶ややり取りも決められた通りの言葉のみ。

一見荒唐無稽な設定なんですが、考えて見れば十分あり得る未来。この作品は1985年に書かれているので、それから20年経ったことになるのですが、世界的な状況はますます悪化するばかり。十分通用するどころか、ますますこの設定が現実的になっているのかも...。それでも子供や夫を奪われて「侍女」となった女たちは、そうなる以前の暮らしを覚えているんですが、次世代の「侍女」たちは、元々そのような自由な世界が存在していたなど知る由もなく... その辺りには全然触れられてなかったんですけど、そういうのもちょっと読みたかったなあ。
でも、ここまで管理社会となって、人々も大人しく従ってるんですが(でないと、すぐに処刑されちゃうので)、そんな中でもやっぱり人間的な感情が垣間見えるんですよね。特に子供ができない夫婦にとって、侍女はありがたい存在のはずなんですが、そう簡単に割り切れるものでもなく...。水面下で入り乱れる感情も面白かったです。(ハヤカワepi文庫)

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フランス大使館から東京日仏学院に転職、その後レストランオーナーシェフを務めたのち、現在はレストランプロデュースや料理家、商品開発、ハウジング、講演、執筆活動など多才ぶりを見せるパトリス・ジュリアンさんのエッセイ。たらいまわし企画第21回「教えてください!あなたのフランス本」でLINさんが挙げてらした本です。(記事

この1冊にパトリス・ジュリアンさんの日々の生活に対する様々な拘りが詰まっていて、「こういう部分に拘るのねー」とか「分かる分かる、そうだよね」「それはちょっと違うんじゃ?」が楽しかったし、大学時代に入り浸ってたFOB COOPを始めとして、知ってる場所が意外と沢山登場したのも懐かしかったんですが、もう少し早く出会ってたら、もっと楽しめたかも。言ってみれば、読んで啓発されて、自分なりのスタイルを作り上げる一助となるような本だと思うんですが、今の私の場合、曲りなりにも生活スタイルも自分自身も確立してしまってるので...。「なるほど」と思いながらも、どこか客観的に読んでしまう部分も多かったような気がします。
とは言っても、「自分」を探している時に読むと、大きな影響を受けそうな本。(もちろん、そっくりそのままこの本の真似をしても仕方ないですが!) 生活がマンネリに感じられたり、何か迷いが出てきた時に読み返すと、また新鮮な気持ちに戻れそうです。(幻冬舎文庫)

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自分の元に集った貧乏芸術家たちに現金収入を得る必要が出てきたアナイス・ニンが、ヘンリー・ミラーの勧めで、好事家の老人の注文に応じて書き始めたエロティックな小品13編。匿名で書かれていた作品は、死の間際にアナイス・ニンの正式な作品として認められたのだそう。

結構エロティックなんですけど、女性らしい繊細な描写で描かれているので、男性作家が書いた時のような直接的な生々しさは全然なし。どこか遠くの出来事という感覚で読める作品集です。これを読んでる時に思い出したのが、長野まゆみさんの「雨更紗」。あの雰囲気にどこか似ているような気がします。
こういったエロティックさが、果たして注文主の老人を満足させたのかどうかは、かーなり疑問なんですけど...(笑) アナイス・ニンが書いたというところに意義があったのかしら。私自身は結構好きです。アナイス・ニンのほかの作品はどんな感じなのか、興味が湧いてきました。日記が読んでみたいなあ。(新潮文庫)

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「悪童日記」(感想)に始まる3部作の、2作目と3作目。早速買ってきて読んだんですが... いやあ、もうびっくり。もうすっかり振り回されてしまいました。でも、色々書きたいことはあるんですけど、下手なことを書いたらネタバレになりかねないので、ここにはあまり書けそうにないです... それでも今度の2冊は「悪童日記」とは、また雰囲気がまるで違っていて驚かされたし、途中何度「これまで読んできたものは一体...?!」となったことか。全部読み終えてみると、「悪童日記」の「ぼくら」が痛々しすぎる...。好き嫌い度で言えば「悪童日記」がダントツで好きなんですが、この2作も面白かったです。
「悪童日記」は独立して読める作品だし、これ1冊だけで満足するというのもアリだと思うんですが、「二人の証拠」を読む時は、続けて「第三の嘘」が読めるように手元に用意しておくことをオススメします。「悪童日記」1冊だけ読んで終わりにするか、もしくは3冊全部読むかどちらかしかないですよ、これは。「二人の証拠」を読んで「第三の証拠」を読まないというのはありえないー!(ハヤカワepi文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「悪童日記」アゴタ・クリストフ
「ふたりの証拠」「第三の証拠」アゴタ・クリストフ

+既読のアゴタ・クリストフ作品の感想+
「昨日」アゴタ・クリストフ
「文盲 アゴタ・クリストフ自伝」アゴタ・クリストフ
「どちらでもいい」アゴタ・クリストフ

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崖に沿った小道を歩いていた精神科医・ジャックモールは、白い家から叫び声がするのを聞き、急いでその家の中へ。そこには出産を間近に控えたクレマンチーヌが、陣痛に苦しんでいました。出産の手助けをするジャックモール。出産は無事済んで、3人の男の子が生まれます。そしてジャックモールはそのままその家に留まることに。

ジャックモールは生まれた時から成人であり、精神分析医。生まれたのはこの前年で、身分証明書には、名前の横に《精神科医。空(から)。満たすべし》と印刷されています。思い出も過去も持たない空っぽの彼が、人々の願望や欲望で自分を満たそうとするんですが...
この村自体は、とても変わった場所なんですよね。老人市では老人たちが競に掛けられているし、家具屋では小僧を虐待。死んだ小僧はあっさりと川に流されてます。そしてそういった行動をする村人たちの「恥」は、赤い水が流れる小川で「ラ・グロイール」と呼ばれる男が全て拾い上げています。恥を知る心配はいらない村人たちにとって、教会は魂の安らぎを得る場所ではなく、物質的な恵みを求める場所。
ジャックモールがここに来てから、カレンダーも狂ってしまったようですし、何かが微妙にずれ続けていきます。それが、出産した時は息子たちを厄介なものとしか思っていなかったクレマンチーヌの、息子が何か危険な目な遭うんじゃないかという強迫観念を募らせていくのと重なって、もうどんどん捩れていっちゃう。そして読んでるうちにその捩れにすっかり巻き込まれてしまうんだけど、こういうのって理屈抜きに物凄く好きです。先日読んだ「日々の泡」(感想)以上に妙な話だし、こうやって書いてても状況説明をしてるだけで終わっちゃってるんですけど、ものすごく吸引力があって一旦読み始めたら止まりませんでした。
本国では1953年に発表された作品。50年前に書かれたとは思えないほど、現代的、今日的な作品です。ボリス・ヴィアンってつくづく凄い人だったんだなあ。この人の作品と出会えて良かった! またそのうち他の作品を読んでみようと思います。(ハヤカワepi文庫)


+既読のボリス・ヴィアン作品の感想+
「日々の泡」ボリス・ヴィアン
「心臓抜き」ボリス・ヴィアン
「アンダンの騒乱」「ヴェルコカンとプランクトン」ボリス・ヴィアン

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