Catégories:“2006年”

Catégories: / / /

 [amazon]
第二次世界大戦末期。「大きな町」からおかあさんに連れられて「小さな町」にやって来た双子の「ぼくら」は、おばあちゃんに預けられることに。「大きな町」は昼も夜も襲撃を受けて、もう食糧も手に入らないのです。近隣の人々に「魔女」と呼ばれるおばあちゃんは粗野で吝嗇。働かなければ食べ物はもらえません。はじめはおばあちゃんに従うことを拒否する「ぼくら」ですが、1人で黙々と働くおばあちゃんを見るうちに、働くことを決意します。

立て続けにファンタジーを読んでいたので、今度は全然違う作品を。とは言ってもまだまだ翻訳物が続きます。これは随分前にもろりんさんにオススメされていた作品。字が大きすぎてツライ~と敬遠していたハヤカワepi文庫なんですが、気がついたらすっかりのめりこんでしまいました。解説によると、「大きな町」とはおそらくハンガリーのブタペストであり、「小さな町」は、ハンガリーのオーストリア国境近くに存在する小さな町。双子の少年の日々が、日記風に綴られていく作品です。

まず、少年たちの冷静なまなざしと淡々とした語り口がとても印象に残る作品。と思ったら、これは彼らの作文の練習によるものだったんですね。生き抜くために、「練習」と称して自分たち自身を鍛え上げようとする少年たち。祖母や他の人々から受ける暴力や罵詈雑言に耐えるためには、「体を鍛える練習」と「精神を鍛える練習」。お互いに殴り合いをしたり罵詈雑言を浴びせて、痛みを感じなくなることを覚えます。様々な状態を知るためには、「乞食の練習」と「盲と聾の練習」。時には断食をしてみることも。そして普通の勉強もします。正書法、作文、読本、暗算、算数、記憶の学習には、父親の辞書と祖母の聖書を利用。しかしそれらは全て彼らにとっては生きていくための方策を学ぶ手段。彼らは自分たちの哲学に従って行動しているだけで、たとえ聖書を暗記するほど読んではいても、信じているわけではありませんし、お祈りもしません。
2人の作文のただ1つのルールは、「真実でなければならない」。極力感情を排除して、客観的に冷静に事実のみを書いていくんですが、この作品はそんな2人の作文そのままの作品。でも感情を排除することによって、逆に静かで圧倒的な迫力が出るんですね。強制収容やナチスドイツによるユダヤ人虐殺などの事実が、まるで浮かび上がってくるようです。ごくごく簡潔な文章なのに、雄弁な文章よりも余程ずっしりと響いてきます。戦争を扱った作品は多いですが、こういう作品は初めて。もうびっくり。私は基本的に戦争物は苦手なんですが、これは本当に良かったです! こんな凄い作品だったとは、もっと早く読めば良かったわー。読み終わった途端、また最初から読み返してしまいました。続編だという「ふたりの証拠」「第三の嘘」も、早く買ってこなくては!

それにしても、ハヤカワepi文庫のラインナップいいですねえ。今手元にあるのは、ボリス・ヴィアンの「心臓抜き」だけなんですが、他の作品も俄然読みたくなってきました。大人買いしてしまいそう。(笑) (ハヤカワepi文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「悪童日記」アゴタ・クリストフ
「ふたりの証拠」「第三の証拠」アゴタ・クリストフ

+既読のアゴタ・クリストフ作品の感想+
「昨日」アゴタ・クリストフ
「文盲 アゴタ・クリストフ自伝」アゴタ・クリストフ
「どちらでもいい」アゴタ・クリストフ

| | commentaire(8) | trackback(4)
Catégories: /

[amazon] [amazon] [amazon] [amazon]
アラン史略全4巻。アランという架空の場所を舞台にした異世界ファンタジー。
ファンタジーとは言っても魔法はないし、想像上の存在も登場してなくて、舞台が架空の場所だという程度ですね。作者は女性なんですが、全体的に男性的で硬派な雰囲気。まるで無骨な石造りの部屋に掛けられた重厚なタペストリーを見ているような感覚。派手な色合いこそないけれど、落ち着いた色合いでしっかりと情景が描き出されていきます。まるで中世の物語を読んでいるみたい。でも考えてみたら、アーサー王伝説などの方が余程、魔法の気配が濃厚なんですよね。(笑)
でも、そんな雰囲気は悪くないんですが、訳文が...。この物語にはきっと良く似合ってるんでしょうけど、まるで日本の戦国時代の小説を読んでるような文章に馴染めなくて、読むのにかなり時間がかかっちゃいました。だって、どう考えても欧米のファンタジーの舞台設定なのに、主役の1人の一人称が「それがし」だなんて。しかも「奉行所」なんて出てきても... そこにいるのは、金髪碧眼の金さんですか。(苦笑) 「北の娘」で会話が関西弁やら薩摩弁に訳されているのも、私にはダメでした。そういう方言ってイメージが掴み易くて、きっととても便利なんでしょうけど、こういう使い方は勘弁して欲しいです。もちろん、国内作家さんの作品で、その土地の人間に方言をしゃべらせる分には構わないんですが、それも作家さん自らがネイティブ、もしくはそれに近い場合に限って欲しいですし...。(大阪に住んだことのない作家さんの書く妙な関西弁に、何度鳥肌が立ったことか) まあ、この作品では、京都弁だの大阪船場の商人言葉などが、きちんと使い分けられているようなんですが...。そういう部分で気を取られてしまって話の流れに乗れないっていうのも、勿体ない話ですね。
そしてこの重厚な雰囲気の中に、突然奔放な愛情表現が登場してびっくり。「アランの舞人」では、もしかしてこの作品ってBLだったのか?!とびっくりするような場面も。一体どういう意図があってそういう場面が描かれたんだろうと思ったんですが、巻末の作者のインタビューによると、どうやらこのシリーズでは、その部分が一番最初に書かれたらしく... そうか、そうだったのか。(がっくり)

「冬の狼」「アランの舞人」「北の娘」の間はそれぞれ時間が100年ほど流れていて、読み終えてみると、チアリという、舞人であり闘う者たちの興亡を描いた作品だったことが分かるのですが... でも結局何だったのかしら? それぞれの重厚な情景は印象に残ったんですが、結局何を訴えていたのか、今ひとつ掴めないまま終わっちゃいました。(ハヤカワ文庫FT)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: / / /

4150200629.jpg 4150200637.jpg 4150200645.jpg[amazon] [amazon] [amazon]
ウィラン・サーガ全3巻。オーストラリアの原住民・アボリジニの青年を主人公にしたファンタジーです。
オーストラリアのファンタジーとは珍しいですね。もしかしたら私、ファンタジーに限らず、オーストラリアを舞台にした小説を読むのって初めてかもしれません。そういえばオーストラリア出身の作家さんというのも全然知らないし。
オーストラリアといえば南半球。当たり前のことなんですが、北半球とはまるで逆なんですよね。私が生まれ育った日本は北半球の国だし、読んでる本もほとんど北半球の人間によって書かれた本ばかり。「北国」と聞けば反射的に「寒い」と思うし、「春」と聞けば、まず4月や5月頃を思い浮かべてしまうので、最初は少し戸惑いました。南に向かう旅が「どんどん寒くなる」と書いてあってもピンと来ないし、10月末が夏だっていうのにも、「...えっ?」状態。確かに半年ずらすと4月末。うちの辺りではそろそろ半袖を着始めたりしますけど... でも夏って言うには早いですよねえ。なんて未だに思っちゃう部分はあるんですが、馴れてしまえば大丈夫。アボリジニの伝承に伝わる土着の精霊たちなどが多く登場して、現代のオーストラリアという舞台にしっくりと馴染んでるのを見てると、北半球のファンタジーには見られない個性がとても楽しかったです。
でもアボリジニのことも精霊たちのことも大地のことも、とても興味深かったし、面白かったんですけど... 物語としては、あと一歩踏み込みが足りないというか、最後の詰めが甘い気も...。オーストラリアの土着の精霊には馴染みが薄いから、それだけで面白く読んでしまうんですけど、欧米のファンタジーでいくらエルフだのドワーフだのが沢山登場しても、それだけじゃあ話にならないですもんね。そういう意味では、精霊たちが舞台背景で終わってしまって、今ひとつ生かしきれてないような、勿体ない印象が残ってしまいました。アボリジニの、大地に根ざして生きる民としてのメッセージ性は十分感じられたし、色々と考えさせられるのだけど... この作家さん自身は、アボリジニではないわけで。
でも、それはともかくとして、アボリジニについてはもっと何か本を読んでみたくなりました。日本の作家さんでは、上橋菜穂子さんが興味を持ってらっしゃると聞いたことがあるんですけど、守り人シリーズにも、アボリジニの影響が色々とあったりするのかな。調べてみると、「隣のアボリジニ」という本があるので、今度読んでみようかしら。アイヌやインディアンもそうだけど、アボリジニの歴史にも、なかなか凄まじいものがありそう。これはノンフィクションなのかな? そうだったらいいな。(ハヤカワ文庫FT)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: / /

  [amazon] [amazon]
金属や妖魔を操る魔法使い・レジークは、織物や生物を操る美しい女魔法使い・デリヴェヴに結婚を断られ、逆にデリヴェヴに憎まれていると思い込んでしまいます。"織り姫"のデリヴェヴはその気になれば、レジークの着ている服を操ることすら可能。いつデリヴェヴに攻撃されるか心配になったレジークは、デリヴェヴの魔力を避けるため、自分の得意分野である黄金を紡いで、肌着を作って身につけることに。しかし秘密裏に作るためには、デリヴェヴや手先の蜘蛛たちの気をそらす必要がありました。レジークは、普段は14歳の金髪の少女の姿をしている炎の妖魔・ギルドラムに青年騎士の外見を与え、デリヴェヴの住むスピンウェブ城へと送り出します。計画は予想以上に上手くいき、デリヴェヴと青年騎士は愛し合い、そして騎士が去った後、デリヴェヴは息子を産んでクレイと名付けることに。

何冊かハズレの作品が続いてちょっとげんなりしてたんですけど、これはいいです。こういう作品は大好き! こういう作品と出会えるなら、多少ハズレがあったとしても我慢できるわ~。
ええと、全ては大勘違い野郎のレジークのせいで始まったという、ちょっと凄い話なんですが...
何といっても妖魔のギルドラムがいいです。本来なら人間を愛することなんてできないはずの妖魔なのに、デリヴェヴを愛してしまい、しかもクレイに父性愛まで抱いてしまうギルドラム。レジークに呪縛されながらも、陰に日向にクレイを助けるギルドラムの姿が何とも言えません。忠誠と愛情の板ばさみになっちゃうところの切ないこと! でもそのギルドラムの普段の姿は、14歳の金髪の少女なんですよね... と書くと、ものすごく妙な話と思われそうなんですが... この話、説明だけじゃあ、どうやっても妙な話としか思ってもらえないかも(^^;。
いやあ、生物学上の父親なんて何ほどのものじゃないですね。最後に真相を知ったデリヴェヴの態度、男らしいわ~!(違)

この物語で描かれている世界観もとても好みだし、デリヴェヴの蜘蛛や植物を使った魔法、レジークの火や金属を使った魔法の場面も素敵でした。完璧に悪役のレジークだけど、金で指輪を作る場面は好きです。私も手伝いたくなってしまったではないですか。(でも鋳造しかしないのね) この作品には続編もあって、そちらも入手済みなのでぜひ近いうちに読みたいです。家に置いてきてしまったのが悔やまれます。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のフィリス・アイゼンシュタイン作品の感想+
「妖魔の騎士」上下 フィリス・アイゼンシュタイン
「氷の城の乙女」上下 フィリス・アイゼンシュタイン

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: / /

 [amazon]
古代バビロンの研究をしている考古学者のフォーサイスがジョン・ケントンに送ってきたのは、巨大な石盤。ケントンは早速、石盤に刻まれた古代楔状文字の碑文を調べ始めます。そこにあったのは、光の女神イシュタル、暗黒神ネルガル、知恵をもたらす青の神ナブ、そしてザルパニトとアルサルという名前。そして調べているうちに、ケントンは石盤の中に何かが閉じ込められていたことに気づきます。それは宝石で作られた1隻の魔法の船でした。

古代バビロンの石盤から美しい帆船が出てくる辺りはとても素敵だし、気づいたらケントン自身がその船に乗り込んでいたという展開も、かなり好きなパターン。女神イシュタルは暗黒神ネルガル、知恵の神ナブ、そしてその巫女や神官たちという設定も異国情緒たっぷり。でも、魅力的な設定の割に、物語自体はどうも...。主人公がつまらなさ過ぎです。考古学好きの普通の青年の人生が一変してしまうという辺りはまだしも、奴隷になって帆船を漕ぐうちに、頭の中まですっかり筋肉になってしまったみたい。彼が考えているのは、シャラーネという美女のことばっかりだし、それ以外のことでは仲間と一緒にやりたい放題。ケントンが逞しくなった途端に優しくなるシャラーネの造形も含めて、あまりに男性作家的な物語の展開にはがっかりです。(ハヤカワ文庫FT)

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: / /

4150200416.jpg [amazon]
仲間で騙されてフロリダ拘置所に入れられる羽目になったヒバートは、バークスという男の手引きで、同房のスカーラッチと一緒に脱走。3人はスカーラッチの情婦・カーロッタと共に、広い湿原に逃げ込みます。マングローブの藪を進んでいくうちに4人が辿り着いたのは、神殿のような石造りの建物の廃墟。その廃墟の奥にある池には、金色の光に包まれた目に見えない階段がありました。その階段を上った先は、異世界コーイア。そこは訪れた人間が、魂のままの真の姿に変身するという場所。そしてヒバートは、以前から夢に見続けてきた、白髪の賢そうな老人に出会うことに。

ハネス・ボクは、元々SF的な怪奇ファンタジーのイラストレーターなのだそう。さすがイラストレーターだけあって、異世界コーイアの色彩鮮やかな情景がとても美しいです。特に最後の狂気の密林での描写は、真に迫ってる! そんな情景が鮮やかに浮かんでくる作品は大好きなんですが...
肝心の主人公の相手役となる女性の造形が浅すぎてがっかり。こんな、相手の本質を見ようともしない傲慢な女性なんて放っておけばいいのに!って思っちゃいました。相手が絶世の美女なら、中身がどんな性格でも構わないのかしら! そして一旦そう思ってしまうと、どの人間もすごく底が浅く感じられてきちゃう。異世界の造形がとても素敵だっただけに、ものすごーく残念です。(ハヤカワ文庫FT)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: /

[amazon]
アンドレシアと呼ばれる惑星に問題が起こり、探査隊が派遣されることになります。アンドレシアは、まだ幼年期の文明にある惑星。その豊かな資源に目をつけた、まだ若い文明の「帝国」の探検隊が、新たにここを植民地にしようと見事な森林地帯をパワーショベルで切り拓いていたのです。探査隊の任務は、自分たちの存在を悟らせずに、アンドレシアから帝国軍を撤退させることなのですが...。

木樵りの青年たちが出会った「仙女」が、実は他の惑星からやってきた異星人だった?!という設定が面白い作品。各地に伝わるおとぎ話に登場する妖精や何かも、実は宇宙人だったのか? なんて思ってしまいそうになる説得力です。でもこの話、高度な発達を遂げた文明の下で教育を受けてるエレーナという少女の視点から書かれていくのがネック...。エレーナは、自分の属してる文明が高度だからといって、アンドレシアや帝国を見下してるんですよね。アンドレシアの原住民の青年の方が、本質的な意味では彼女よりもずっと賢いのに! まあ、彼女の成長物語という意味ではそれでいいんでしょうけど、知識は持ってても、本質的に頭の悪いエレーナには終始イライラ。エレーナじゃなくて、作者の「神の視点」から書いてくれたら、もう少し楽しめたかもしれないのに。それに彼女の視点からだとファンタジーというよりSF。やっぱりSFは苦手だわ... ツラかったです。(ハヤカワ文庫FT)

| | commentaire(0) | trackback(0)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.