Catégories:“2007年”

Catégories: /

 [amazon]
ヘンリ・ライクロフトは、純粋に作家として暮らしたいと思いながらも、長い間、貧乏のためにブック・レヴューや翻訳や論文といった詰まらない下請けを引き受けることを、余儀なくされていました。しかし50歳の時に知人から年間300ポンドの終身年金を遺贈され、突如悠々自適の生活を送ることができるようになったのです。ライクロフトは早速ロンドンの家を引き払い、イギリス中で最も愛しているデヴォン地方へ。そして5年余りの穏やかな生活を経て急逝。ライクロフトの死後、デヴォン地方に移ってからの日記らしき原稿ノートが出てきて、ギッシングがその遺稿を整理して出版することになります。

長年の貧乏暮らしから、思いがけない遺産相続を境に生活が一変したヘンリ・ライクロフトという作家の遺稿を出版した、という形式の小説。先日読んだ「読書の腕前」(感想)に、「およそ読書人と呼ばれる人の本棚に、これがないことはありえない」なんて書かれていた本です。引用されていた文章に惹かれるものがあったし、南イングランドの美しい自然の中で散歩と読書に明け暮れる日々だなんていいなあ、と読み始めたら、これが本当に良かった! 何が良かったって、私にとって一番良かったのは、ヘンリ・ライクロフトという人物の存在感ですね。いやね、読み始めてかなりの間、実在の人物のことを書いているのかと思い込んでいたんです。でもそう思って読んでもまるで違和感のないほど、造形がしっかりと立体的。多分周囲の人には、それほど個性的に感じられない、どちらかといえば全然目立たない人物のはずなのに、過去の出来事や現在考えていることを通して、ヘンリ・ライクロフトという人物像や人生観が浮かび上がってくるようで、これがすごく良かった。
もちろん、自然とのふれあいや本の話もすごく楽しかったです。こんな風に季節の移り変わりを敏感に感じながら、好きなだけ本を読む生活ってほんと羨ましいー。万事心得た家政婦さんがいるので、日常の瑣末なことには全然煩わされないで済むんですよね。その分ライクロフトは、毎日の散歩の中で見かけた花の名前を本で調べて、その美しさや香りを十分楽しんでます。「私は昔ほど本を読まない」という言葉も印象的でした。そうそう、そうなんだよね、今はどんどん新しい本を読んでる私もじきに読み方が変わって、好きな本だけを毎日読み返すようになるはず...。その日が来た時、ライクロフトみたいに自然に親しみながら毎日を心穏やかに暮らせるといいなあ。でも南イングランドじゃないし、今ひとつ雰囲気が出ないかもしれないな。(笑)(岩波文庫)

| | commentaire(6) | trackback(1)
Catégories: / /

  [amazon] [amazon]
太一郎と多恵が深川の海辺大工町に開いたのは、料理屋「ふね屋」。しかしふな屋に移ってきて間もなく、1人娘のおりんが高熱で寝付いてしまいます。おりん自身ですら、もう死ぬのかもしれないと思うほど酷い病状の中で、ある時冷たい手を感じておりんが目を開けると、目の前にいたのは、おりんに向かってあかんべえをしている女の子。夢の中でおりんが立っていたのは、三途の河原。そこには焚き火をしているおじいさんがいて、まだおりんの時ではないと言います。そして目が覚めると枕元には見知らぬ按摩がいて、おりんは体中を揉み解されて...。おりんの熱はようやく下がり、ふな屋は晴れて旗揚げの日を迎えることに。

なんと5人のお化けがいるというふな屋を舞台にした時代ファンタジー。時にはそのお化けが見える人もいるけれど、全部見えるのはおりんだけという設定。
おりんちゃんがとても健気で素直で、でも時々妙に大人っぽいことを言ったりして可愛らしい~。それに亡者たちが個性的でいいんですよね。若くて美形なお侍の玄之介、腕が確かな按摩の笑い坊、艶やかな色気のある女はおみつ、おりんを見るたびにあかんべえをする小さな女の子はお梅、大酒飲みで刀を持って暴れるおどろ髪のお侍... おりんとお化けたちの交流が楽しかったです。特に気に入ってたのは、おみつ。
最初は皆を早く成仏させてあげたいと考えるおりんなんですけど、みんな自分がどうやって死ぬことになったのか、肝心な部分の記憶を失っているので、なかなか上手くいきません。それでも生前持っていた黒い思いのおかげで、同じように黒い思いを持つ人間のことはよく理解できるし、諭してあげることはできるんですよね。こういうところが、宮部みゆきさんの時代物の特徴かも。救いがあって暖かくて、だから私は現代物より時代物の方が好きなのかもしれません。現代物だと、そういう風に人を救ってあげようと姿勢ってあまりないように思うんですよね。
なぜ亡者が見えるのか、という辺りもすごく好きでした!
ただ、お化け騒動がようやく片付いたところで、肝心のふね屋の商売はまだ軌道に乗ってないんですよね。それどころかまだまだどん底状態。これからきっとちゃんと立て直すんでしょうけど... 次はお化けは抜きでも仕方ないんですけど、お店の話をぜひとも書いて頂きたいものだなあ。(新潮文庫)


+既読の宮部みゆき作品の感想+
「ICO 霧の城」宮部みゆき
「あかんべえ」上下 宮部みゆき
Livreに、これ以前の作品の感想があります)

| | commentaire(0) | trackback(1)
Catégories: /

 [amazon]
半年前に結婚して以来、すれ違いがちな生活を送っているジェーンとマーク。その日もマークは大学の会議で遅くなるはずで、そう考えた途端、ジェーンは憂鬱になります。そして、その日の朝刊に載っている写真を見た時にジェーンが思い出したのは、その前の晩の夢でした。それは外国人らしい男とが四角い小部屋で来客者と話しているうちに、いきなり来客者が男の首をを取り外したという夢と、数人の男が墓地のような所から老人の死骸を掘り出すという夢。夢の中で首を取り外されていたのは、ギロチン処刑されたアラブ系の科学者・アルカサンだったのです。一方、マークは有力者であるフィーヴァーストーン卿に能力を認められ、国立統合実験機関NICEへの就職を提示されて舞い上がっていました。

C.S.ルイスのSF3部作、3作目。完結編です。
1冊目では火星へ、2冊目では金星へと行ったランサムなんですが、この3冊目ではなかなか登場しないんですよね。こちらの話の中心となっているのは、マークとジェーン・スタドック夫妻。しかもこの2人が敵味方となっているそれぞれの組織から勧誘されることになります。今まではSF3部作とは言っても、どちらかといえばファンタジーっぽかったんですが、この3作目には他の惑星への旅がないというのに、とてもSFらしい作品になってました。もちろんキリスト教的部分も健在ですが。
今までの火星や金星の描写がとても好きだったので、今回は他の惑星への旅がなくて、すごく残念。地球が舞台となった途端、どうも現実的になり過ぎてしまったというか何というか、全然雰囲気が違うんですよねえ。もちろんこれまでの話の流れからいけば、最後は地球で締めくくるというのはすごく順当だと思うんですが...。アーサー王伝説との絡みなんかもあるし、終盤になるとすごく神秘的な場面もあったりするんですが、どうも全体的にサスペンス小説になってしまったような感じで、私には前2冊の方がずっと面白かったです。一般的には、これが一番読みやすいかもしれないな、とも思うんですけどね。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「マラカンドラ」「ペレランドラ」C.S.ルイス
「サルカンドラ」C.S.ルイス

+既読のC.S.ルイス作品の感想+
「顔を持つまで 王女プシケーと姉オリュアルの愛の神話」C.S.ルイス
「悪魔の手紙」C.S.ルイス
「喜びのおとずれ C.S.ルイス自叙伝」C.S.ルイス
「カスピアン王子のつのぶえ」他 C.S.ルイス

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: / /

  [amazon] [amazon]
徒歩旅行で丘陵地帯を訪れていたケンブリッジ大学の言語学者ランサムは、道で出会った女性に頼まれて、ある家の中に入り込みます。その女性の頭の弱い息子ハリーがその家で働いており、時間になっても帰って来ないのをとても心配していたのです。その家は物理学者のウェストンの家。そして一緒にいたのは、ランサムの学生時代の友人のディヴァイン。ランサムは何とかハリーを無事に家に戻させるものの、何かを企んでいた2人によって薬を盛られ、眠り込んでしまいます。そして次に気づいた時、ランサムはなんと宇宙船の中にいたのです...。

ナルニアシリーズが大好きだったC.S.ルイスのSF作品。ナルニアの方は、小学校3年ぐらいで読み始めて以来、もう何度読んだか分からないぐらい読んでいて、今でも文章がまるごとするっと出てきてしまうぐらいなんですけど、こちらのシリーズには手を伸ばしてなかったんですよね。今更...?って感じもあるんですが、すごく面白かったと聞いたので、やっぱり読んでみることに。SFはあんまり得意じゃないし、大丈夫かなあ... なんて心配しながらだったんですけど、そういう意味では全然問題ありませんでした! 確かに火星とか金星とかに行っちゃうSFではあるんですけど、私が苦手とするSF的要素(というのが何なのか、自分でも今ひとつ分ってないんですけど)が全然なくて、しかも火星とか金星とかの描写がものすごく素敵で~。
でも、ナルニアでも感じた方は多いと思いますが、こちらもかなり神学的な部分があるんです。最初はほとんど感じられないんですが、「マラカンドラ」の終盤近く、ランサムが火星における神のような存在と話す辺りからむくむくと...。ここで地球のことにも触れられていて、私にはそれがものすごく面白かったです。そして「ペレランドラ」で描かれているのは、原罪と楽園喪失について。これもすごく面白かった。もしイヴが知恵の木の実を食べなかったら? 知恵の木の実を食べる前の無邪気な状態と今の状態と、どちらが幸せ? ミルトンの「失楽園」(感想)なんかでは、楽園から追放されたアダムとイヴに何かほっとしてるものを感じてしまったんですけど...(笑) あと聖書の創世記だと、まるでイヴがあっという間に誘惑に負けてしまったみたいに書かれてるんですけど、この作品の中の悪魔の執拗な誘惑はものすごくリアルで、その辺りにもすごく説得力がありました。でもこういうキリスト教的部分というのは、好みがはっきり分かれるところでしょうね。
私はちくま文庫で読んだんですが、そちらは入手不可能のようなので、今流通している原書房版にリンクしておきますね。題名も変わっていてびっくりですが。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「マラカンドラ」「ペレランドラ」C.S.ルイス
「サルカンドラ」C.S.ルイス

+既読のC.S.ルイス作品の感想+
「顔を持つまで 王女プシケーと姉オリュアルの愛の神話」C.S.ルイス
「悪魔の手紙」C.S.ルイス
「喜びのおとずれ C.S.ルイス自叙伝」C.S.ルイス
「カスピアン王子のつのぶえ」他 C.S.ルイス

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: / /

 [amazon]
弥子は異次元だのUFOだののことを考えては、友達の麻紀には「もっと大人になりなよ」なんて言われてる小学校4年生。学校帰りに塾に直行する麻紀と別れると、ついつい人魚亭へと足が向いてしまいます。そこは「お帰りなさい」と迎えてくれて、美味しい紅茶を飲ませてくれる真波さんのお店。そんなある日、街の"いこいの森美術館"に「"ししゅうする少女"という絵を盗むという予告状が届いて、街中が大騒ぎ。予告状の差出人は、昭和20年代から30年代にかけてこの街で活躍していたという怪盗・銀ぎつね。"ししゅうする少女"は、画家もモデルも分からないながらも、街では一番人気の絵なのですが...。

「カフェかもめ亭」(感想)と同じ風早市が舞台の物語。こちらも美味しい紅茶と素敵なマスターがいる喫茶店が中心となっていて、まるでカフェかもめ亭の元となっているような物語なんですねー。違うのは、カフェかもめ亭では訪れるお客さんの話す不思議なことが中心となっていること、こちらは"ししゅうする少女"を巡る昔の恋物語と、風早の街に伝わる様々な言い伝えが中心となっていること、かな。ほんと色んな言い伝えや噂があるんです。近い時代のものでは、昭和の怪盗・銀ぎつねや謎の秘密結社、港を根城にする泥棒組織の噂、昔からの言い伝えでは、風早の民を守る山の女神と竜宮の女神、妙音岳に隠された財宝、そして真奈姫川の伝説など... 風早を巡る色々な歴史が重層的に重なり、それを人魚亭の真波さんの存在が1つにまとめているよう。弥子はこの街に引っ越してきてまだ1年なんですが、きっとこの街に縁の深い人間なんでしょうね。弥子の両親がこの街の出身とか? 戦争も絡んだ暗い歴史も明らかになるんですが、怪盗銀ぎつねや"黒犬団"の登場で、児童書らしい明るく楽しい冒険物語になっています。「かもめ亭」に比べると対象年齢が低めなので、どうしても私には「かもめ亭」の方が上になってしまうのだけど、こういった言い伝えのある場所やその話は大好き。(しかもこういう、ちょっぴり不思議なお店の話も大好き)
この中に登場する学生作家の「潤さん」は、「百年目の秘密」にも登場していて、潤さんが子供の頃に体験した不思議な経験の話が読めるのだそう。ぜひ読んでみようと思いまーす。(小峰書店)


+シリーズ既刊の感想+
「ささやかな魔法の物語 カフェ・かもめ亭」村山早紀
「人魚亭夢物語」村山早紀
「コンビニたそがれ堂」村山早紀
「百年めの秘密」
「やまんば娘、街へゆく」「七日間のスノウ」村山早紀

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: /

 [amazon]
今回ルパンが押し入ったのは、代議士のドーブレックの住むマリー=テレーズ荘。しかし無人のはずの別荘に、召使のレオナールが残っていたのです。ルパンの手下に縛り上げられたレオナールは自力で縄を解いて警察に電話をかけてしまい、それを知った手下のヴォシュレーがレオナールを殺してしまいます。そして駆けつけた警察にヴォシュレーと、ルパンの腹心の部下・ジルベールの2人が殺人容疑で逮捕されてしまうことに...。2人を必ず助け出すと誓うルパン。ジルベールは逮捕される寸前、ルパンに水晶の栓を渡していました。しかしその水晶の栓は、ルパンが隠れ家の暖炉の上に置き、ほんの少し目を離した隙に消えてしまったのです。

ルパンといえば、常に自信たっぷり相手を煙に巻いて手玉に取るというイメージがあるんですが、この作品のルパンはいつもとは逆の立場になってしまう場面が多くてびっくり。(子供の頃にも読んでるはずなんですけど、話を全然覚えてないので...) 代議士のドーブレックは、実は相当の好敵手だったのですねー。手下を助けようと打つ手はことごとく裏をかかれ、巧みな変装は見破られ、いつもは自分が言うような、相手をからかうような台詞を今回は全部相手に取られてしまいます。しかも何度も思わせぶりに登場する「水晶の栓」が、何の意味を持つかというのも、なぜ手に入れるたびに消えうせてしまうのかも、ルパンには全然分からないままなんです。(なので読者にも分からないまま) 事情が分かってからは分かってからで、2人の手下がギロチン台にかかる日が刻々と近づいて、最後はルパンが勝つと分かっていてもドキドキ...。
翻弄され続けるルパンの姿はあんまりカッコよくないですし、そもそもこの作品に登場するルパンって、子供の頃に思い描いていたようなスマートで上品な紳士ではないんですよね。そういえば、ハヤカワ文庫HMの新訳はどれもそうだったかも...。きっと台詞の訳仕方に左右されてるんでしょうけどね。でもこの緊迫感だけは、子供の頃に読んだ時と変わらないです(ハヤカワ文庫HM)


+シリーズ既刊の感想+
「怪盗紳士ルパン」「カリオストロ伯爵夫人モーリス・ルブラン
「奇岩城」モーリス・ルブラン
「水晶の栓」モーリス・ルブラン

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: /

 [amazon]
高校時代の同級生から芝居の案内が送られてきたのがきっかけで、11歳年上の女優・大庭妙子と付き合うことになった田中孝。妙子念願の「あわれ彼女は娼婦」のアナベラ役を見に父と劇場へと向かうのですが... という「父のお気に入り」他、全3編。

1作目2作目に共通点がないので、まるで関連性のない3作かと思いきや...! 実はそうではなかったんですね。読み終えてみると、3つの作品が綺麗に円を描いていました。まさに題名通りの「ラ・ロンド」。主題があり、異なる旋律を挟んで、少し変形した主題が繰り返されます。
久々の服部まゆみさんの作品だったんですが、いや、もう、服部まゆさんならではの濃厚な美しさを持った作品でした。「父のお気に入り」では、中学時代の同級生・河合さんが可哀想過ぎて、これだけは何とも言えないのですが... それでも作品世界はとても素敵。少しずつ微妙にズレながら重なっていく人間関係の描き方は、服部まゆみさんならではで、ぞくぞくぞわぞわ。やっぱり服部まゆみさんの描く世界は美しい~。やっぱり大好きな作家さんです。(文藝春秋)


+既読の服部まゆみ作品の感想+
「ラ・ロンド 恋愛小説」服部まゆみ
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

| | commentaire(0) | trackback(1)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.