Catégories:“ファンタジー”

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大学3年の由布は、伯母が営む小さな飲み屋・雁木亭でアルバイト中。そんなある日、由布が開店前の掃除をしていた時にやって来たのは、雁木亭の常連の1人、浜中。浜中は息子のいる茨城に引っ越すことになり、挨拶にやって来たのです。伯母は店の奥にある井戸の水を由布に汲ませ、その水を浜中に飲ませます。その井戸の水には不思議な言い伝えがあり、潮ノ道を出る時にこの水を飲んでおけば、必ずまたこの地に戻って来られるというのです... という「帰去来の井戸」他、全7編の連作短篇集。

お久しぶりの更新です... が、すみません、まだ復活したというわけではないのです。まだまだ充電中なのですが~。
光原百合さんの本が出たので! 出たら感想を書くとお約束してたので! それと1つ下の記事は、いただいた本のお礼がてらの感想です。

このシリーズは「オール讀物」に不定期に掲載されていて、その時にほとんどの作品を読んでいるのですが、通して読むのは今回が初めて。光原百合さんの潮ノ道を舞台にしたファンタジーのシリーズです。もうほんと大好きで、本になるのが待ち遠しかったんですよー。通して読めて嬉しい! あ、でも、表題作の「扉守」以降はブログに感想を書いてるんですが、1作目の「帰去来の井戸」は、どうやら今回初めてだったみたいです。それに「桜絵師」も読んでない... これは「小説現代」に掲載だったんですね。いやん、知らなかった!(というより、教えて頂いたのに頭からすっぽり抜けてしまっていたのかも...)

今回、本のタイトルが「扉守」となっているのが、実は少し意外だったのです。てっきり「潮ノ道幻想譚」とかその手のタイトルになるかと思いこんでいて、作品の1つのタイトルが本全体のタイトルになるとは思ってなくて。でも改めて通して読んでみて、なんとなく分かったような気がしました。1作ずつ読んでいた時は気がついてなかったんですけど、「扉守」はシリーズの方向性を決定づけた作品というか... それまでの「帰去来の井戸」も「天の音、地の声」も、言ってしまえば十分そういう作品だったんですけど、ここまではっきりとは定まってなかったような気がしますね。なんというか、ここでしっかりと楔を打ち込まれた... というのは言葉の使い方を間違えてるような気もしますが(汗)、そんな印象がありました。
どの話もそれぞれに良かったし、すごく好きな場面が色々と。例えば「帰去来の井戸」の小舟の場面とか... 冴え冴えとした満月の光が水に映るのが感じられてとても素敵。あと「天の音、地の声」の、夕暮れの中の宵闇色の猫とか、「ピアニシモより小さな祈り」の終盤の和音が響く場面とか。...あ、夜の場面ばかりだ。そうか、だからこの本の表紙絵は夜のイメージだったのか。(と、今頃納得してみたり) あ、でも「桜絵師」の満開の桜の場面もとても素敵だったなあ。満開の桜って、とても美しいんだけど美しいだけじゃない何かがありますよね。そんなイメージにぴったりで。そして話としては、最後の「ピアニシモより小さな祈り」が一番好きかな。私自身がピアノに思い入れがあるせいが大きいかもしれませんが、読んでいるとじんわりと胸が熱くなります。でもどの話もそれぞれに大好き。零さんのピアノも実際に聴いてみたいし、サクヤさんたちの芝居も観たいし、行雲さんの絵も見てみたい。満月の夜の小舟も見てみたくてたまらない... どの話を読んでも、潮ノ道に行ってみたくて堪らなくなります。まだまだ続いて欲しいシリーズです。(文藝春秋)


+既読の光原百合作品の感想+
「ありがと。 あのころの宝もの十二話」ダ・ヴィンチ編集部編(「届いた絵本」)
オール讀物11月号(文藝春秋)(「扉守」)
小説NON 11月号(祥伝社)(「希望の形」)
小説推理・オール讀物・星星峡(「1-1=1」「クリスマスの夜に」「オー・シャンゼリゼ」)
「最後の願い」光原百合
光原百合ベスト3@My Best Books!
「尾道草紙」尾道大学 創作民話の会
「銀の犬」「親切な海賊」光原百合
オール讀物 2007年10月号(「写想家」)
「嘘つき。 やさしい嘘十話」ダ・ヴィンチ編集部編(「木漏れ陽色の酒」)
オール讀物 2008年11月号(「旅の編み人」)
「新・本格推理 不可能犯罪の饗宴」二階堂黎人編・オール讀物 2009年8月号(「ピアニシモより小さな祈り」「花散る夜に」)
「イオニアの風」光原百合
「扉守 潮ノ道の旅人」光原百合
Livreに、これ以前の作品の感想があります)

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エリンは大公(アルハン)領の闘蛇衆の村で育った少女。エリンの母・ソヨンの獣ノ医師としての腕は非常に高く、闘蛇の中でも最強の<牙>の世話を任されていました。しかしエリンは、自分たち母娘は集落の人々とはどこか隔たりがあると感じていました。それもそのはず、ソヨンは元々霧の民(アーリョ)であり、戒めを破って闘蛇衆の頭領の息子だった父・アッソンと恋に落ちたのです。アッソンは既に亡くなっており、頭領である祖父はソヨンの腕を認めながらも、2人に冷たい視線を向けるのみ。そしてそんなある晩、闘蛇の、それも<牙>10頭全てが死ぬという事態が起こります。ソヨンはその責任を取って処刑されることになり、エリンはそれを助けようとして、逆に母に闘蛇の背に乗せられて逃げのびさせられることに。そして意識を失って倒れていたエリンを助けたのは、真王(ヨジェ)領の山間地法で蜂飼いをしていたジョウンでした。

アニメにもなりましたよね。でもアニメを見て、本を読もうと思った方も多いかなと思うんですが(図書館にもそういう人がいっぱいいたなあ)、私自身はアニメを見てもあまりそそられず... いや、元々あまりアニメは好きではないというのも大きいんですけど... まあ、当分読まないかな、なんて思ってた作品です。でもあの分厚いハードカバーが講談社文庫になると知って! いい機会かも、なんて思ってたら、タイミングよく背中を押していただいて! 無事読むことができました。
いやあ、面白かったーー。
「守り人」シリーズも「狐笛のかなた」も大好きだし、読めばきっと面白いんだろうなとは思ったんですけど、やっぱり面白かったです。(それなら、なんでさっさと読まないんだ、私)

「守り人」と同じく異世界ファンタジーなんですが、私の勝手なイメージ的には高句麗、百済、新羅辺りかな?(その辺り、勝手に言ってるだけであまり知らないので、突っ込まないで下さい)
エリンの母の闘蛇に関する教え、謎めいた霧の民、そしてこれから学んでいこうとする王獣のこと。それらの根底に同じ流れがあるのを感じつつ... まさしくエリンの書いた「獣について学ぶことは、きっと、自分が知りたいと思っていることに、つながっているはずである」ということに通じるんだろうなと思いつつ。人と獣との関係。本来、人と獣とはどういった関係であるべきなのか、そして飼いならされた獣の失ってしまったものと、獣本来の姿とは。さらには「操る者」ではなく「奏でる者」としての「奏者」という言葉にも興味を引かれつつ。
いや、一気に読んでしまいました。人間と獣とは違うと何度言われても、何度痛い目に遭っても、また獣を信頼してしまうエリン。その辺りが上橋菜穂子さんらしいなあと思いますね。痛い目に遭いながらも、傷つきながらも、相手を理解しよう、受け入れよう、としてしまう...。もちろん種が違えば考え方も違うし、なかなか上手くいくわけがないんですが、それでも希望は捨てなければ、いつか分かり合える一瞬がくるのかも。人と獣に限らず。

上橋菜穂子さんはこの2冊を4か月で書きあげられたのだそう。確かに、やや性急な展開で、登場人物たちも描き切れてなかったかもしれないな、とも思うんですが、でもそれ以上に、大きな流れや勢いを大切にして描かれた作品なんだなというのを感じますね。いや、見事でした。これで綺麗にまとまったと思ったので、続編が書かれたということに改めて驚いてしまいますが...。やっぱりこれは続きも読んでしまうんだろうな。でも、もうちょっとあとで。こちらをもう一度読み返して、消化しきってから読んだ方が良さそうです。(講談社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「獣の奏者」1・2 上橋菜穂子

+既読の上橋菜穂子作品の感想+
「虚空の旅人」「神の守り人 来訪編」「神の守り人 帰還編」「蒼路の旅人」上橋菜穂子
「天と地の守り人」1~3 上橋菜穂子
「流れ行く者 守り人短編集」上橋菜穂子
「バルサの食卓」上橋菜穂子・チーム北海道
Livreに「精霊の守り人」「闇の守り人」「夢の守り人」「狐笛のかなた」の感想があります)

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ゼウスの一族がオリュンポスの神々としてこの世界の統治者となり、天も地も安定し始めた頃。平和が訪れた地上では動物たちも順調に増え続け、そんな動物たちを管理する種族を大地から作り出すことになります。そしてゼウスの意向を受けたプロメテウスが作ったのは、神々と同じような姿の生き物。しかしただ従順な、神々の意志を忠実に実行する知恵を持つだけの種族を作るはずだったのに、プロメテウスの親指から流れた神血のせいで、人間は自分の意志を持つことになってしまったのです。怒るゼウスはプロメテウスを逆さ吊り刑に処し、人間を滅ぼすための大洪水を起こします。しかしただ1人の人間がゼウスの心を変え...。そしてそれからさらに時が流れ、オリュンポスでは今、人間の歴史に神々が介入することの是非を問う会議が開かれていました。

ヘレネとパリス、メネラオスとヘレネ、テレマコスとナウシカア。人間の歴史への神々の介入をかけて行われた賭けは3つ。神々はその賭けに介入を許されていなくて、選び取るのは人間自身... なのですが。

神々同士の会話の場面では、読み始めこそ「あ、こんな話し方するんだ」とか、私自身が以前から持ってた神々のイメージとは少し違ってたりもしたんですが、その辺りはすぐに馴染みました。イメージが違っていているところが、逆に面白かったりもしましたしね。特にモイライ! 私の中ではもう白髪のおばあさんのようなイメージしかなかったので、これは意表を突かれました。可愛い! しかもあのペタペタ、素敵! 読み終えた頃にはすっかりこの世界に愛着がわいてしまっていましたよ。そして、テレマコスとナウシカアのことを書きたいと思ったのがこの作品が生まれるきっかけというだけあって、やっぱりこの3つ目の話が一番読み応えがあって楽しかったです。(「いにしえからの慣わしにしたがって三度」というのは全くの同感だし、最初の2人のエピソードも良かったですけどねっ) ええと、トロイア戦争絡みの1つ目2つ目のエピソードはともかくとして、この3つ目のテレマコスとナウシカアについては、全くのオリジナルですよね...? テレマコスとナウシカアの話ってあるのでしょうか。確かに同じ時代だし、繋がりはあるのに、結び付けて考えたことってなかったなあ。じれったい2人が可愛いったら。
そして読んでいて一番印象に残ったのは、生まれた神々がそれぞれに司るもの、自分に与えられた役割について探るというくだり。その辺りに関しては、実は全然考えたことがなかったんですが、「なるほど~、本当にこんな感じなのかもしれないなあ~」。そしてここで、密かに努力を重ねながらも、それをまったく表に見せないヘルメスがまたいいんですね。作品全体を通しても、特に印象に残ったのはヘルメスでした。光原百合さんご自身もあとがきで「おしゃべりでいたずら好きで気まぐれで、意地悪なところと情け深いところをあわせ持つ」と書いてらっしゃいますが、本当にその通りの様々な表情を見せてくれるヘルメスがとても素敵で、イメージぴったり。そして今まで良いイメージのなかったアレスもまた違った意味で印象的でした。粗野で乱暴で、脳みそが筋肉でできたような戦好きというイメージだったんですが、ヘルメスの思いを読むことによって、また違った視点から捉えられるようになったかも。アレス自身の努力によって変えられたはずの部分ではあるけれど、確かにそういった知恵を持っていないのはアレスの責任ではなく... 哀しい存在ですね。
構想20年、実際に書き始めてから9年、ということで、読んでいてもその意気込みがとても強く感じられる作品でした。楽しかったです♪ 私はギリシャ神話が大好きだからもちろんなんですけど、あまり詳しくない人でも、これはきっと楽しめると思います~。逆にその人の中でのギリシャ神話の基本となってしまうかもしれないですね。(中央公論新社)


+既読の光原百合作品の感想+
「ありがと。 あのころの宝もの十二話」ダ・ヴィンチ編集部編(「届いた絵本」)
オール讀物11月号(文藝春秋)(「扉守」)
小説NON 11月号(祥伝社)(「希望の形」)
小説推理・オール讀物・星星峡(「1-1=1」「クリスマスの夜に」「オー・シャンゼリゼ」)
「最後の願い」光原百合
光原百合ベスト3@My Best Books!
「尾道草紙」尾道大学 創作民話の会
「銀の犬」「親切な海賊」光原百合
オール讀物 2007年10月号(「写想家」)
「嘘つき。 やさしい嘘十話」ダ・ヴィンチ編集部編(「木漏れ陽色の酒」)
オール讀物 2008年11月号(「旅の編み人」)
「新・本格推理 不可能犯罪の饗宴」二階堂黎人編・オール讀物 2009年8月号(「ピアニシモより小さな祈り」「花散る夜に」)
「イオニアの風」光原百合
「扉守 潮ノ道の旅人」光原百合
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岩波少年文庫版の宮沢賢治3冊。今までいくつかの本を手に取ったことがありますが、岩波少年文庫で読むのは今回が初めて。3冊で童話が26編と詩が11編収められています。

今回改めて読んでみて特に印象に残ったのは、宮沢賢治の生前に唯一刊行された「注文の多い料理店」につけられている「序」。これ、素晴らしいですね。「わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます」...宮沢賢治にとって、生きるために必要なのは単なる食物の摂取ではなくて、自然から得る精神的な栄養がとても大きかったというのが、よく分かります。身体の維持のためには食物の摂取がどうしても必要ですけど、彼にとっては精神を生かすための栄養の方がずっと大切だったんでしょう。そして、そんな宮沢賢治の書いた童話は、実際に身の回りの自然から栄養を得て書かれた物語ばかり。序にも「これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです」とあります。確かに空とか星とか風とか雪とか水とか、野山の動物とか、自然のものが沢山。もうほんと好きにならずにはいられないモチーフが満載なんですけど、でもそんなモチーフが使われているからといって、作品が大好きになるとは限らなくて...。素直に自然と一体化して、その素晴らしさを全身に感じて溶け合ってるからこそ、ですね。やっぱり宮沢賢治の感性って得がたいものだったんだなあ、なんて改めて感じてみたり。そしてこの序の最後の言葉は、「わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません」。たとえ読者が自然からほんとうの栄養を得られるような感性の持ち主でなかったとしても大丈夫なんですね。その作品を読むことによって、その栄養を得ることができるんですもの。まあ、それを自分の中でどう生かすかは、読者次第ではありますが...。
それにしても「イーハトーヴ」という言葉、いいなあ。「注文の多い料理店」には「イーハトーヴ童話集」という副題がつけられていて、エスペラント語の「岩手」のことなんですけど、これがまるで異界へ行くための呪文みたい。登場人物たちが岩手の方言で話していても、そこに描かれているのがごく普通の農村の情景ではあっても、この「イーハトーヴ」という言葉だけで簡単に異世界に連れて行ってもらえるんですもん。

特に好きな作品としては、「ふたごの星」と「やまなし」と「銀河鉄道の夜」かな。やっぱり「銀河鉄道の夜」は何度読んでも素敵。幻想的に美しくて、懐かしくて暖かくて、でもとっても切なくて。で、以前「宮澤賢治のレストラン」という本がとても楽しかったので、今回再読したかったのですが~。ちょっと手元には間に合わなかったので、そちらはまた日を改めて。(岩波少年文庫)


+既読の宮澤賢治作品の感想+
「宮澤賢治のレストラン」中野由貴 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治
「注文の多い料理店」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」宮沢賢治
「ざしき童子のはなし」「よだかの星」「風の又三郎」「水仙月の四日」宮沢賢治・伊勢英子

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学校を出てからずっとK植物園に勤務していた「私」に辞令が下り、f郷に引越しすることになります。新しい職場はf植物園。その転任の話が来たのは妻の三回忌の翌日。「私」は川の流れのように自然に仕事場と住まいを変えることに。しかし引越しして間もなく、前年、旅先で痛んで現地の歯科医院で応急措置を受けていた歯が再び痛み出したのです。その不気味なほどの痛みに「私」はf郷歯科へ。しかしその日痛み止めをもらって歯科医の受付を見ると、そこで働いていたのは犬。歯科医によるとそれは歯科医の妻で、前世は犬だったからだというのですが...。

昭和30~40年代を思わせる古めかしい文章に誘われるように作品世界に一歩踏み出すと、そこはもう異世界。一見「家守奇譚」や「沼地のある森を抜けて」のような雰囲気なんですけど、またちょっと違いますね。異界がはっきり異界として存在しているのに境界線はもっと曖昧だし... さらにもう一歩踏み込んだ重層的な世界になってるような。奥行きが広いです。異界に入り込む感覚は萩原朔太郎の「猫町」のようでもあり、ずんずんと落ちていくところは「不思議の国のアリス」のようでもあり...。
そこは夢の世界なのか、それとも現実なのか。月下香の香りの中で旅する異界。そこには当然のように水があって、木々があって... この辺りは梨木さんの作品に頻繁に顔を出すモチーフですね。そして、埋もれていた記憶が再び蘇ります。自分の目に見えているものは本当にその姿をしているのか、それとも自分の視覚がおかしくなっているだけなのか。無意識のうちに改竄されていく記憶を正しつつ進んでいくと、そこに見えてくるものは...。
まさに梨木香歩ワールド。歯医者なんて、現実的極まりないモチーフですら、梨木さんにかかるとミステリアスになっちゃうんですから、スバラシイ。虫歯の大きなうろが、植物園のご神木のうろへと繋がっていく辺りも面白いなあ。そしてそのうろは、さらには記憶のうろへ。大気都比売神(おおげつひめ)は、アイルランドの年老いた女の姿の精霊・カリアッハ・ベーラへ、そして英雄クー・フリンや女神ブリジットといったアイルランド神話へ。入れ替わり立ち代り現れる千代という名の女性たち。何度も何度も裏返されているうちに、どちらが夢でどちらが現なのか分からなくなってしまいます。でもその分からない感覚がまた心地いいんですよね。もうどこをとっても魅惑的。いつまででも落ち続け、漂っていたくなってしまいます。そして水の流れによって異界に旅立っていた主人公は、その奥底までたどり着くと、再び水によって生まれ変わることに。やっぱり水は異界への転換点!
読み終えてみると、「家守奇譚」や「沼地のある森を抜けて」だけでなく、梨木さんのこれまでの作品全てがこの作品に流れ込んできてるんだなあって感じますね。それこそ川の流れのように。もしくは大きく育っていく木のように。最後の思いがけない優しさが沁み入ってきます。(朝日新聞出版社)


+既読の梨木香歩作品の感想+
留守中に読んだ本(18冊)(「ぐるりのこと」の感想)
「沼地のある森を抜けて」梨木香歩
「水辺にて」梨木香歩
「ミケルの庭」「この庭に 黒いミンクの話」梨木香歩
「f植物園の巣穴」梨木香歩
Livreに、これ以前の全作品の感想があります。

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お気に入りのバラ色のベレーをかぶり、口には大きなパイプ、そして手にはこうもりがさを持って雑誌社に出かけた絵描き。しかし確かに編集室のドアの脇に立てかけておいたはずのこうもりがさがなくなってしまい... という「水曜日のクルト」他、全6編の作品集。

大井三重子さん名義になってますが、これは実は仁木悦子さんのこと。仁木さんがミステリ作品で有名になる前に書いてらしたという童話作品をまとめた唯一の本。...というのを、迂闊にも全然知らずに読んだので! 解説を読んでびっくりーーー。そうだったのですかーーー。でもそう言われてみれば、童話も書いたって、どこかで読んだ気もする...。(大ボケ)
仁木さんの作品は、あまり沢山は読んでないんですけど、「猫は知っていた」なんて大好き! 明るく軽やかで、優しさがにじみ出てくるような作風が、とても素敵な作品。こちらの童話もやはり明るくて軽やかで、優しい作品群でした。どこか国籍不明な、別世界に1歩踏み出している感じも楽しくて。この表紙の絵も可愛いですよねえ。
大切な物を失くして絵描きが困っているのは分かるんだけど、「水曜日のクルト」のいたずらぼうやはやっぱり微笑ましくなってしまうし~、自分の過去を改めて直視させられてしまう「めもあある美術館」も、思い出の中のおばあちゃんの優しさや暖かさが伝わってくるような作品。「ある水たまりの一生」は、「しずくのぼうけん」のような可愛らしいお話だし、「ふしぎなひしゃくの話」はアンデルセンの童話にでも出てきそう。水たまりや靴屋のおじいさんの、他人の悪意に傷つけられながらも、影響されたりしない純粋な心が印象的。「血の色の雲」はとても哀しいお話なんですが、これは大井三重子さんの実体験に基づくものなのだそう。戦争とは、大切な人を守るために他の人を殺すこと。「ころさないで、死なないで」というリリの叫びが胸に痛いです。「ありとあらゆるもののびんづめ」も、素敵! 金物屋のご夫婦の決断は、実際にはなかなかできないものなのではないかと思います。素晴らしい。みんなの優しい心が回りまわって、彼のところにめぐってきたんですね~。という私が一番好きだったのが、この「ありとあらゆるもののびんづめ」なのでした。
そういえば、「ふしぎなひしゃくの話」に登場するひしゃくは「アピトロカプレヌムのひしゃく」と言う名前なんですけど、この名前には何か由来があるのでしょうか? なんだかいわくありげな名前で気になります。(偕成社文庫)

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派閥争いに巻き込まれ、辺境である北嶺へと左遷された尚書官のヤエト。帝国からは放置され、一度来てしまえば二度と都に呼び戻されることはないと言われる北嶺への赴任、しかも都から派遣されるのは尚書官ただ1人とあって、ヤエトは気楽な暮らしを期待していました。病弱で長くは生きられないだろうと言われつつ36歳まできてしまったヤエトの望みは、目立たず静かに余生を送ることだけなのです。しかし10年以上前に帝国に征服されていながら、まるでその意識がなく、毎日朝議で懲りずに怒鳴りあいを繰り返す北嶺人相手に、ヤエトは我慢の限界を試されるような日々を送ることを余儀なくされることに。そしてヤエトの赴任から10日ほど経った頃。都から北嶺にやって来たのは皇帝の1人娘である14歳の皇女。皇女が北嶺にやって来たのは太守として赴任するため。皇家の姫は官職に就かないのが通例の帝国に珍しい人事にヤエトは驚きます。しかもヤエトは、ほかならぬ皇帝の命により、その皇女の副官に任じられてしまったのです。

妹尾ゆふ子さんの作品、一度読んでみたいと思ってたんですよねえ。そんなところにちょうど良く新作が! 思わず買ってしまいましたよ。(と言いつつ、半年ほど積んでしまったんですが) 神話や伝説をよく読んでらっしゃるし、きっと好みの世界なんじゃないかなとは思ってましたが... いや、予想以上でした。骨太な異世界ファンタジー。

この作品でまず目を引くのは、神による「恩寵」というものですね。太古の昔の神との契約が、力を薄めながらも現代にまで受け継がれているんです。現在の皇帝一族の力は、伝達官という存在によって言葉を遠い地に直接伝えることができる能力。たとえば皇帝の伝達官は皇帝専属で、皇帝がその体に乗り移って言葉を直接伝えるんです。もちろん伝達官を通してその場を見ることも可能。時には伝達官を通さずに人と心を繋ぐことができる能力の強い人間もいます。...情報を制するものが世界を制す? 面白いなあ。そして古王国の人間だったヤエト自身が持っているのは、「過去視」という力。これはその場所で過去に起きた出来事を視る力。ものすごく便利だけど、本当はそんなの持ってない方が身のためって感じの能力ですね。全てを暴き出してしまうから。それに権力者にとっては堪らない力だから。
隠居願望のあるヤエトも、金髪の騎士団長・ルーギンも、後半活躍するジェイサルドも、大騒ぎの北嶺の面々もそれぞれに魅力的で、すっごく楽しく読めました。14歳の皇女も頑張ってるし、皇妹も妖しい魅力。という私のお気に入りは... 砂漠の勇者みたいのに弱いので(半月刀だの三日月刀だのを持ってると尚良し)ジェイサルドも捨てがたいんですが(しかもオヤジ好きなんです、ワタシ)... 何かするとすぐ倒れてしまう虚弱体質のヤエト。隠居願望がこれほど強いのに、隠居後の資金作りのために已む無く働いているだけなのに、その給料に見合う程度しか働くつもりがないのに、それでも結局頑張ってしまうなんて、なんて損なお人柄。(笑)
文章のせいか、なんだか翻訳ファンタジーを読んでるような気分になってたんですが、時々「おっ」と思う言葉が使われてて思わず「ふふふ」となってしまいました。「巻き戻し」とか「頭が高い」に「お?」と思っていたら、「乙女心満載の回答」とか「べろんべろん」とか! ウケました。

ものすごく神話を感じる世界で、とっても好み。話はこの上下巻で一応一区切りになってますけど、この世界の隅から隅まで、その歴史や神話も含めて知りたくなってしまうー。その筆頭は、識字率が高いのに記録が一切ない北嶺という土地のことかな。だってこの地にある一番古い記録は、帝国傘下に収まった16年前に帝国の史官が書いたものなんですもん。戸籍だって14年前に作られたっきりみたいだし。北嶺のことも多少は分かったけど、でもまだまだ。そしてヤエトの「ーー古王国は、恩寵を崇めてしまった。神を崇めるかのように。そして自滅した。」という言葉がものすごく気になります。この作品、続きもあるようなのでものすごく楽しみです。(幻冬舎)

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