Catégories:“歴史小説(翻訳)”

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ローマ帝国の五賢帝の1人、皇帝ハドリアヌスももう60歳。死病に侵されるハドリアヌスがマルクス・アウレリウスに宛てた手紙。そしてそこで語る自らの生涯。

フランスではこの作品の影響で、ハドリアヌス帝が一番人気がある皇帝となったのだそうです。それもなるほどと納得させられてしまうような、無駄がそぎ落とされた美しい文章で構築されていく、静謐で高貴な世界でした。狩とギリシャ文化を愛したハドリアヌス。ヒスパニアに生まれ、ローマで教育を受け、青年時代に軍隊生活が始まり... ハドリアヌスにとっては聡明な守護神だったトライアヌスの妻・プロティナの存在。即位。粛清事件。そして帝国内を視察する旅から旅の生活。塩野七生さんの「ローマ人の物語 賢帝の世紀」(感想)に登場するハドリアヌスとは、ほんの少し印象が違う、でもどちらにも共通しているのは、間違いなく賢帝だったということ。何といっても皇帝在位中の業績が素晴らしいですしね。常に皇帝としての義務を果たしつつ、トライアヌスが拡大した帝国内をくまなく巡察し、既存の公共施設を修理、国境の防衛線を強化、地域ごとの問題を解決してローマ帝国の平和を維持していった人なんですから。

それでも、ユルスナールの作り上げた格調高い世界、そして塩野七生さんが繰り返し書く、現代人にとって理想像のように見えるローマ人の世界を読みながらも、本当にそうだったのかな?という思いもよぎってしまうのを止められない私。というのは、以前読んだペトロニウスの「サテュリコン」(感想)のせいですね。これがもう、ローマ文化の爛熟ぶりが良く分かるというか何というか、もう本当に辟易してしまうほどの退廃ぶりを描いた作品だったので...。
ペトロニウスというのは、ネロ帝時代の文人。ネロ帝の側近だった人なんですね。だから日々ネロ帝の華やかな生活の恩恵を受けていたでしょうし、そういう特殊な部分を描いた作品なのかもしれないんですが... でもローマ人の生活の乱れぶりについては、先日読んだタキトゥスの「ゲルマニア」(感想)にも、ちらりちらりと出てきたんです。この作品は、ゲルマニア地方の風土や、そこに住む様々なゲルマニア系民族の慣習・性質・社会制度・伝承などをローマ人に紹介するもの。なのでローマ人に関してはほとんど書かれていないんですが、品行方正なゲルマン人の暮らしぶりに対して、ローマ人の乱れ切った生活ぶりを嘆くような部分があるんです。このままではいつかゲルマン人にやっつけられてしまうだろう、という不安と。ネロ帝の時代は紀元37年から68年まで。ハドリアヌス帝は117年から138年まで。実際それほど離れているわけではないので、世の中だってそう大きく変わらないはず。タキトゥスの「ゲルマニア」が、その中間の98年に書かれたとされているんだから尚更。

でも... そんなことは既に関係ないんでしょうね。実際のローマ帝国がどうであったにせよ、そんなことは大した問題ではないんでしょう。確かにハドリアヌスだって若い頃から女性関係は結構盛んだったようだし、アンティノウスという美少年を寵愛したりしてるんだけど、それも含めて、ここに描かれているのは、あまりにも美しい世界。もうひれ伏すしかないほどの。ここに描かれたハドリアヌスは確かに生きているし、ユルスナールが描き上げたかったのは、ハドリアヌス帝の姿を借りたこの人物なのだと思えてきます。
ユルスナールは、この作品の構想を20歳から25歳の間に盛ったにも関わらず、実際に今ある状態の作品として書くまでには長い年月を経なければならなかったんだそうです。ああ、分かる気がする...。ユルスナールですら、この物語を書きあげるには、ある程度の年齢を重ねることが必要だったんですね。(白水社)


+既読のマルグリット・ユルスナール作品の感想+
「東方綺譚」マルグリット・ユルスナール
「ハドリアヌス帝の回想」マルグリット・ユルスナール

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ローマに巡礼としてやってきた修道女フィデルマ。しかしひっそりとした裏通りの小さな教会堂でのミサにあずかっていた時、殺人事件に遭遇してしまうことに... という「聖餐式の毒杯」他、全5編の短編集。

7世紀のアイルランドを舞台にしたミステリ、修道女フィデルマシリーズの短編集。
短編作品も十分読ませてくれることは、シリーズ外作品の「アイルランド幻想」(オススメ!)でも既に分かっていたことなんですが、今回も切れが良い短編集になっていて、とても面白かったです。フィデルマが相変わらず冷静でな毅然とした態度で、その観察眼と洞察力、推理力を披露。でも、その高飛車で傲慢な態度も相変わらずなんですけどね... これさえなければなあ。7世紀のアイルランドが舞台というのが話の中でも十分生かされていて、その辺りもすごく面白いんですけど、肝心のフィデルマにはあまり愛着が湧かない私です...。でもちょっと思ったんですけど、原書でもここまで高飛車で傲慢なんでしょうかね? 会話の翻訳にどうも不自然さを感じるし、もしかしたら訳のせいもありそうだなあと思ってしまうんですがーー。(ということで、私はこの訳者さんの訳が苦手だったりする)
5作の中で一番面白かったのは、アイルランド全土の大王としての即位式を早く執り行わなければならないというのに、儀式に必要な王家伝来の宝剣・カラハーログが盗まれて... という「大王の剣」。あとはフィデルマがローマで事件に挑む「聖餐式の毒杯」も! 5編とも、フィデルマでなければ解決にもっと時間がかかるか、もしくは迷宮入りという事件、鮮やかに解き明かしてくれるのは快感です。
でも、7世紀の頃のローマってどうなってたんだろう? 古代ローマ帝国はもっと早い時期に東西に分裂して、東ローマ帝国(=ビザンティン帝国)しか残ってなかったと思うんだけど? 西ローマ帝国は確か5世紀に滅びたはず。イタリアが小国家に分裂するにはまだ早いのかな? (世界史、苦手だったんだよね~) この作品を読む限りでは、すでにキリスト教の本山的な雰囲気なんですが。

でもこのシリーズ、翻訳が出る順番がバラバラなんですよね。最初に出た「蜘蛛の巣」がシリーズ5作目で、次に出た「幼き子らよ、我がもとへ」が3作目なんですもん。今回は短編集だから、まあいいんだけど... 長編はやっぱり順番通りに出して頂きたい! そうでないと、フィデルマの人間的成長が楽しめないことになってしまうんですもん。実際に物事が前後して、フィデルマの反応の変化が妙な具合になってます。次はぜひ1作目を訳していただきたいな。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「蜘蛛の巣」上下 ピーター・トレメイン
「幼き子らよ、我がもとへ」上下 ピーター・トレメイン
「修道女フィデルマの叡智」ピーター・トレメイン

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AD76年9月。今回マルクスに助けを求めたのは、ヘレナの母・ユリア・ユスタ。27歳になるヘレナの弟・アウスル・カミルス・アエリアヌスがアテナイで勉強したいと言い出して、家族がギリシアに向かう船に乗るアエリアヌスを見送ったのは8月のこと。手紙が届くのは何ヶ月も先のことになるだろうと思いきや、オリュンピアで「神殿巡り」の旅をするギリシア団体旅行の一行と知り合いになり、そのうちの1人が死亡した事件に巻き込まれたというのです。ユリア・ユスタの頼みは、ギリシアでアエリアヌスに代わって事件の捜査を行い、アエリアヌスを予定通りアテナイに行かせて欲しいということでした。

久し振りの密偵ファルコシリーズ。これが17作目です。古代ローマ時代(ウェスパシアヌス帝の時代)を背景にしたシリーズなんですが、今回はローマ帝国の属州となっている古代ギリシャを旅する話なので特に嬉しい♪ 政治的にはローマが上位に立ってるんですけど、歴史・文化的にはギリシャが先駆者。ギリシャの文化に憧れるローマ人も多いのです。4年に1度のオリンピックの開催年を変えてまで、無理矢理参加してしまった皇帝ネロもその1人だし...(ネロの時代と結構近いせいか、何かといえばネロの名前が出てきます) 古代ローマの公用語はラテン語だけど、ギリシャ人の奴隷に勉学を習う貴族の子弟も多いし、教養がある人たちは当然のようにギリシャ語を話すし、大学に行くとかならまずはギリシャ留学だし。

今回のファルコの旅に同行するのは、5人と犬1匹という賑やかな一行。オリンピックの起源となったオリュンピアの地を訪れて体育場に行ったり、世界七不思議の1つであるゼウス像を見物したり、アポロンの神殿での神託が有名なデルポイや、デルポイとはまた違った方法で神託が行われるレバデイアのトロポニオスの神託所を訪れたりと、古代ギリシャの名所めぐりが楽しめるのもとても嬉しいところ。ギリシャ神話の様々なエピソードも紹介されます。そして良きローマ人としてのファルコの目を通して見たギリシャも面白いのです。まあ、この時代に本当にこんなパック旅行があったのかどうかは知りませんが...(笑)
でも、本来の目的は殺人事件の解決。事前に分かってたのは、今回「神殿巡り」の旅の途中に死亡した若妻のウァレリアと、3年前に白骨死体で見つかったマルケラ・カエシア。でも、まだまだ事件が起こるし、ファルコの捜査も攪乱されまくり。ファルコ大苦戦。...いや、この最後のオチには驚きました。伏線は十分すぎるほどあったんですけど、まさかまさかそうくるとは...。無理矢理な気もしますが、でもすんごいですね。これがまた視覚的効果抜群なせいか、最後のシーンがフランス映画の「太陽がいっぱい」と妙に重なって感じられました。発端も展開も結末も何もかもまるで違うのにね。映画的な幕引きでした。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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ある日クードレットが主から命じられたのは、その祖先にあたる人物や出来事などの史実を物語に編むこと。クードレットの主はポワトゥのさる大領主で、パルトゥネの殿様と呼ばれており、その一族は妖精の血を引いているといわれていました。それは気高いリュジニャン城を築城し、数々の町を築かせたメリュジーヌのこと。クードレットは早速妖精メリュジーヌとその伴侶となるレモンダンの泉のほとりでの運命の出会い、結婚、そして彼らの10人の息子たちの物語を書き始めます。

メリュジーヌ伝説は、元々はケルト的な妖精伝説。現存するテキストとしては、ジャン・ダラスによって1393年に書かれた散文の「メリュジーヌ物語」、そして1401年以降に書かれたクードレットによる韻文作品「妖精メリュジーヌ伝説」が最も古いようで、これはそのクードレットの方。でもその2つの作品以前から、メリュジーヌにまつわる口承伝承がフランス各地に存在していたようです。
この物語に登場するメリュジーヌは、上半身が美しい女性で下半身が蛇。普段は人間の女性の姿で過ごしてるんですが、実の母親の呪いによって、土曜日だけ下半身が蛇になってしまうんですね。だからメリュジーヌの夫は、土曜日のメリュジーヌがどこに行こうとも何をしていようともその秘密を探らないという約束なんです。でもこういう約束は必ず破られるもの。要するに、「鶴の恩返し」と同じ「見るな」のタブー。でもこの作品はそれだけではなく... ここに登場するリュジニャン一族は実在していて、その一族の歴史を語る物語でもあったのでした。そこにびっくり!
読んでいてとても強く感じたのは、キリスト教の影響。作中では登場人物たちが繰り返しキリスト教、特にカトリックの信者であることが強調されていて、それはメリュジーヌも同様なんです。最初の出会いの時から、神の御名を出してレモンダンの警戒を解こうとしてますし、実際結婚式はカトリックの司祭によって執り行われます。でも、その妖精たちの故郷は、アーサー王伝説で有名なアヴァロン! 文中には「トリスタンの一族の血を引いた者」や「魔法使いマーリンの弟子」という言葉も登場するし、キリスト教色が濃いとはいえ、原形がまだまだ残ってるんですねえ。

10人の子供がいようとも、いつも変わらず美しい恋人であり続けるメリュジーヌ。このメリュジーヌの存在は多くの詩人を引き付けたようで、色んな作品の中でメリュジーヌの存在が感じられるのだそう。例えばアンドレ・ブルトンの「ナジャ」や「秘法十七番」。ゲーテの「ウィルヘルム・マイスター」の中の挿話の題名は、「新メリュジーヌ物語」。あと、調べてたら、メリュジーヌは「メリサンド」とも呼ばれると分かって、それもびっくりです。メリサンドといえば、メーテルランクの「ペレアスとメリザンド」(感想)じゃないですか。そうか、これも水の女だったんだなー? 「ペレアスとメリザンド」でメリザンドが初めて現れたのは泉のほとりだし、こちらもそうですもんね。この「妖精メリュジーヌ伝説」は、訳が子供向けのような語り口であったこともあって、読みながらそれほど物語に入り込めなかったのが残念だったし、せっかく原文が韻文なのに散文に訳されてしまってるのが残念だったんですけど、他のメリュジーヌの物語やそれに触発された作品も読んでみたいな。(現代教養文庫)

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「妖婦ミレディーの秘密」から20年後。ルイ13世もリシュリューも既にこの世になく、まだ若いルイ14世が王位に着き、大后アンヌ・ドートリッシュが摂政になっていました。リシュリューの後釜となったのは、アンヌ・ドートリッシュと極秘結婚をしたイタリア人のマザラン。しかし重税を課したこともあり、マザランには人望がなく、世の中はマザラン派とフロンド派に二分されることに。そしてダルタニャンは、未だにトレヴィル銃士隊の副隊長としてくすぶっていました。ダルタニャンに目をつけたマザランは、かつての仲間たちを集めるようダルタニャンに要請します。

「ダルタニャン物語」の第2部。フロンドの乱(1648-1653)のフランス、そして清教徒革命(1641-1649)のイギリスが舞台となります。第1部から20年も経ってしまっているのがびっくりなんですが、その仲間たちもそれぞれの人生を送っていて、今やまるで音信不通状態だなんて! なんてこと!! でもその仲間が20年ぶりに集まることになります。歴史的背景の説明をしなければならないこともあって、前振りはちょっと長いんですが、ダルタニャンがかつての仲間を訪ね歩く頃から俄然面白くなりました。4人それぞれに主義主張や立場は違ったとしても、一度顔を合わせてしまえば良い仲間。でもここにリシュリューがいないのが、なんだか寂しくなってしまうんですよねえ。あれだけ悪役だったのに! あれだけヤなヤツだったのに! でもやっぱり大人物でしたね。小策士なマザランとは器が違ーう。

イギリスではチャールズ1世を助けようとする4人。チャールズ1世って、もっと無能などうしようもない人かと思ってたんですけど、いい人じゃないですか。(笑)...リシュリューもマザランもそうなんですけど、こういう風に歴史上の人物が肉付けされて動き出すのがまた楽しいですね。先日ホフマンで読んだスキュデリー嬢(感想)も登場してましたよ。そういえば、ルイ14世の頃の人でした! ホフマンの作品では老嬢だったスキュデリー嬢なんですけど、この時点ではまだ若く美しい女性。既に兄の執筆を手伝って、才能を発揮し始めているようです。
でもやっぱり第1部の「三銃士」ほどではなかったかな。やっぱりあちらは大傑作でしたね。こちらも面白いんだけど「大傑作」とまではいかないです。第3部への伏線もあるからかもしれません。

上に画像を出しているのは、今も入手可能のブッキング版ですが、私が読んだのは講談社文庫版。これが、文中の注釈や登場人物表にネタバレがあってびっくり... 復刊した時に訂正されてたりするのかしら? 登場人物表なら見ずに済ますこともできるけど、文中の注釈となると、ちょーっとキツいですねえ。(講談社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ダルタニャン物語」1・2 A・デュマ
「ダルタニャン物語」3~5 A・デュマ

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昇天祭の日。大学生のアンゼルムスは、市で醜い老婆が商売に出している林檎や菓子の入った籠に突っ込んでしまいます。その辺りにいた子供たちが飛び散った商品に我先にと飛びつき、アンゼルムスは老婆に中身のあまり入っていない財布を渡して逃げ出すことに。せっかくの昇天祭なのに一文無しとなってしまったとアンゼルムスが嘆いていると、ふと頭上の紫丁香花の樹から水晶の鈴のような響きが。そこにいたのは3匹の緑金の小蛇。そしてアンゼルムスはそのうちの1匹に恋をしてしまうのです。それはセルペンチナでした... という「黄金の壷」。
真夜中、サント・オノレ通りにあるスキュデリー嬢の家の戸が激しく叩かれます。それは見知らぬ若い男。侍女が玄関を開けると、外にいる時は哀れっぽいことを言っていた男は家の中に入るなり荒々しくなり、匕首まで持っていたのです。思わず助けを求めて叫ぶ侍女。すると男は小箱を侍女に持たせると、スキュデリー女史に渡して欲しいと言い残して消え去ります。折りしもパリでは宝石強奪事件が相次いで起きていた頃。その箱に入っていたのは見事な宝飾品。当代随一の金細工師・ルネ・カルディラックの作った品だったのです... という「スキュデリー嬢」。

ホフマンの作2つ。「黄金の壷」の方は古本屋で見つけた古い本で、なんと初版が昭和9年! なので当然のように旧字・旧かな使いです。検印もついてるし、題名も本当は「黄金寳壷 近世童話」。でもこれ、面白いことは面白かったんですけど... この作品は、ホフマンの作の中でも傑作とされている方らしいのに、それほどでもなかったんですよね。ホフマンらしい幻想味は素敵なんですけど、肝心のアンゼルムスとセルペンチナの場面が思ったほどなかったからかなあ。もっとこのセルペンチナの一族の話が読みたかったな。この作品では、むしろアンゼルムスに片思いする16歳のお嬢さんの方が存在感があるし、世俗的で面白かったかも。
「スキュデリー嬢」は、ルイ14世の時代を舞台にした作品。ルイ14世はもちろんその愛人・マントノン夫人も、スキュデリー嬢その人も実在の人物。でもこの主人公となるスキュデリー嬢、実は「嬢」という言葉から想像するような若い娘さんじゃなくて、73歳の老嬢なんですね。その年輪が若い娘さんには出せない味を出していて、それが良かったです。そしてこの作品、スキュデリー嬢を探偵役とするミステリでもあります。それほど積極的に事件の謎を解こうとするわけではないし、むしろ巻き込まれた被害者とも言えるんですが... 謎が解けたのも、彼女の推理力のおかげというより、人徳のおかげでしたしね。普通のミステリを期待して読むとちょっとがっかりするかもしれませんが、期待せずに読むと、ほのぼのとした時代ミステリ感が楽しめるかと。

でも「スキュデリー嬢」はともかく、自分が「黄金の壷」をちゃんと読み取れてるのか気になる... 丁度、古典新訳文庫でこの組み合わせが出てたし、そちらも読んでみようかなあ。(岩波文庫)


+既読のホフマン作品の感想+
「クルミわりとネズミの王さま」ホフマン
「悪魔の霊酒」上下 ホフマン
「黄金の壺」「スキュデリー嬢」 ホフマン

「ホフマン短篇集」ホフマン
「黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ」ホフマン

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高貴な英国貴族の広大な屋敷に生まれ育ったオーランドー。エリザベス一世と血縁であり、大層気に入られていたオーランドーは美しく成長して宮廷に出仕。領地や屋敷、ガーター勲章を賜り、女王行幸の際には必ずお供することに。しかしロンドンの宮廷で出会ったロシアの姫君との恋愛、そして破局の後、オーランドーは屋敷に戻って読書に耽り、数多くの劇や詩を書くことになります。

文庫本の裏表紙の説明に

オーランドーとは何者? 36歳の女性にして360歳の両性具有者、エリザベス1世のお気に入りの美少年、やり手の大使、ロンドン社交界のレディ、文学賞を受賞した詩人、そしてつまりは... 何者? 性を超え時代を超え、恋愛遍歴を重ね、変化する時代精神を乗りこなしながら彼/彼女が守ってきたもの。...

とあるので、SF作品なのかと思って読み始めたんですが、全然そうではありませんでした。(良かったー) むしろ歴史小説ですね。でもオーランドーはエリザベス1世(1533-1603)の時代に生まれて、20世紀になるまでずっと生き続けることになるんですけど、時代はオーランドーが執筆に没頭していたり、7日間ほど目覚めないといった状態の間にごく自然に移り変わっちゃうし、周囲のメンバーもそのままなので、その時代時代の風物や流行が入れ替わるだけ。ごく自然な流れの話として読めてしまうほど。オーランドーがそれらの時代の移り変わりの生き証人となっている物語とは言えそうですが。

その300年以上に渡る時代の流れが何を表しているかといえば、オーランドーの家のモデルとされるサックヴィル家人々の歴史であり、ヴァージニア・ウルフと同時代のサックヴィル家の1人娘、そして女流作家となったヴィタ・サックヴィルの生涯なのだそうです。少年の頃のオーランドーや、まだ男性で大使をしていた頃のオーランドーの肖像画、そして女性となった後のオーランドーの写真が出てくるんですけど、その写真はヴィタの写真だし、肖像画はヴィタの祖先の肖像画とのこと。(どれも同一人物としか思えないほどそっくりですよー)
そしてこの300年は、エリザベス朝以降の英文学の流れも表しているのだそう。この英文学の流れがまたとても面白いんですよね。大学の英文学史の授業で名前を習ったり実際に作品を読んだ詩人や作家が次々と~。エリザベス朝の文学は、女性とは無縁で、シェイクスピアの劇のヒロインも演じたのは少年たち。そして男性に生まれたオーランドーが突然女性になってしまったのは、エリザベス朝が終わり、英文学に女性が登場するようになった17世紀末頃。確かにとても意図が感じられますね。
そしてオーランドーは男性の時も女性になってからも、名前は変わらずオーランドー。私としては「狂えるオルランド」(シャルルマーニュ伝説に出てくる騎士・ローランと同一人物)が真っ先に思い浮かぶんですが、やっぱりその線が濃厚のようで~。この作品でオーランドーの恋のお相手となるロシアのお姫様のポートレートは、ヴァージニア・ウルフの姪のアンジェリカのものだそうだし。アンジェリカといえば「狂えるオルランド」に出てくる異国のお姫さま! ほかにも色々な含みがあるみたい。作品そのものもすごく面白かったんだけど、そういう色々なことを教えてくれる訳者の杉山洋子さんによる解説「隠し絵のロマンス -伝記的に」もとても良かったです。(ちくま文庫)

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1625年4月。ガスコーニュ地方の古い貴族の家に育ったダルタニャンは、父親から15エキューの金と妙な色合いの馬、銃士隊の隊長・トレヴィル宛の紹介状、そして母親からはどんな傷にも効くという万能の軟膏の作り方を伝授され、パリへと向かいます。途中、マンの町で馬のことを笑われて、笑った男たちに殴りかかるものの、逆に殴り倒され、しかも気を失っている間にトレヴィル宛の紹介状を取られてしまうという出来事もあるものの、ダルタニャンは無事にパリのトレヴィルの屋敷に辿り着き、アトスとポルトス、そしてアラミスと知り合うことに。

「三銃士」は子供の頃に大好きだったんですけど、それが「ダルタニャン物語」のごく一部だと知ったのは大人になってから。小学校の頃に読んでたのは岩波少年文庫だし、きちんとしたのを読んでみたかったんですよねえ。でも全11巻だし長いですからね。読みたい読みたいと思いつつ早何年。いえ、去年だって北方水滸伝全19巻とか窯変源氏物語全14巻を読んでるし、読めば読めないわけじゃないはずなんですけど... 長い作品には、やっぱり何かきっかけが欲しいわけです。で、先日丁度いいきっかけがあったので読んでみることに~。
いやあ、やっぱり面白かった。訳が古めで騎士のことを「武士」、剣のことを「刀」なんて言ってるし、「枢機卿」も「枢機官」になってるんですけどね。そして逆に「妹のアドレスをダルタニャンに教えた」なんて文章があって、「アドレス? URL?」なんて思ってしまったり。(笑) でもこの面白さには、全然影響しないですね。今読んでもミレディーの悪女ぶりは凄まじいし、ダルタニャンって実は結構女ったらしだったのね...とびっくりしてみたり。アトスとポルトスとアラミスも、久しぶりで懐かしかったです! これは続きを読むのも楽しみ~。

今回読んだ「友を選らばば三銃士」「妖婦ミレディの秘密」の2冊で第1部、普通の「三銃士」に当たります。私が読んでいるのは図書館にあった講談社文庫版なので、ここでリンクしているブッキング版とは違うんですが、訳者さんが同じなので多分一緒かと。そして3~5巻は第2部で「二十年後」、6~11巻が第3部で「ブラジュロンヌ子爵」。この「三銃士」の時、ダルタニャンは20歳なんですけど、第2部ではいきなり40歳になっちゃうってわけですか。びっくり! 次は3~5巻を借りて来ようっと。(講談社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ダルタニャン物語」1・2 A・デュマ
「ダルタニャン物語」3~5 A・デュマ

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1379年6月。ジョン・クランストン卿はランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの豪華な晩餐に招かれます。甥のリチャード2世の摂政を務めるジョン・オブ・ゴーントは野心の強い人物。この晩餐は、巨万の富を築いているクレモナの領主を接待するためのもの。国王を始めとするこのえり抜きの賓客たちと共に、なぜ自分が招かれているのかと不思議に思うクランストン。しかしその時、イタリア人の持ち込んだ不思議な謎が解けるかどうかという賭けを持ち出されたのです。それは、イタリア人の持つ郊外の館の「緋色の部屋」で4人もの人間が死んだ謎。イタリア人は、謎が解けない方に千クラウンを賭けるといいます。まんまとジョン・オブ・ゴーントの思惑に引っかかったことを悟りながらも、クランストンはその賭けに応じることに。

14世紀イギリスを舞台にした、検死官クランストン卿とアセルスタン修道士のシリーズ第3弾。
今回は「緋色の部屋の謎」、聖アーコンウォルド教会の敷石の下から発見された白骨死体の謎、そしてフラックフライアーズの修道院での連続殺人事件の謎と大きな謎が3つ。その中でも一番重要なのは「緋色の部屋の謎」。期限は2週間、解けなければ千クラウン払わなければならないんですから。でも連続殺人鬼を放置しておくわけにもいかないし、白骨死体のせいで奇跡騒ぎが起きてしまうし、どれも早急に解決しなくちゃいけません。

大酒飲みで大食らいで、所構わずげっぷやおならをしているクランストン卿。(これでも貴族!) モード夫人の「あなたって大口ばかりたたいて、大食らいでーー取り柄は、心が大きいことだけだわ。ときどき誰よりも賢くなることがあるけれど、それ以外のときは」という言葉がぴったり。本当はとても切れ者だし、実は権力には負けないまっとうな精神の持ち主なんですけどねえ。わざと酔いつぶれる寸前の酔っ払いという仮面をかぶってそれを隠しているみたい。彼が唯一恐れているのは、小柄なモード夫人だけ。夫人と生まれたばかりの双子の息子たちを溺愛する、いいお父さんです。そんなクランストンに比べると、アセルスタンは堅実でやや地味に見えるんですが... でもクランストン卿と比べたら誰でも地味に見えてしまうかも。アセルスタンもいい味出してます。今回は特に純な一面を見せてくれますしね。そんな2人が事件の捜査に乗り出すんですが、推理の部分で活躍するのはもっぱらアセルスタン。クランストンはほとんどのことをアセルスタンに任せっぱなしです。でも最後に見事なところを見せるのがクランストン。
このシリーズの大きな特徴である14世紀末の英国の風俗描写は相変わらず。排泄物の臭いが今にも漂ってきそうです。そんな不潔なロンドン下町の描写と対照的なのが、ジョン・オブ・ゴートの豪華極まりない晩餐会。リチャード2世とジョン・オブ・ゴーントの関係もとてもリアルでいいですねえ。歴史がどうなったのか知ってる読者としては、色々ニヤリとさせられちゃう箇所が~。そして一見穏やかに見えるけれども、実は権力欲が渦巻いている修道院の世界も面白いし。そんな歴史的な面白さも味わえるミステリです。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「毒杯の囀り」ポール・ドハティ
「赤き死の訪れ」ポール・ドハティ
「神の家の災い」ポール・ドハティ

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ダヴンホール島のチャイナタウンで生まれ育ったマークは、生まれつき真っ白い髪をした少年。そのマークが、母親の足元に見知らぬ男の死体が横たわってるのを見たのは19歳の時。マークはそのまま回れ右をして島を出て行きます。島と本土を行き来する小さい船で働きながら、決して島に降り立とうとはしないマーク。そして15年が経った時。ダヴンホール島にやって来た青いドレスの娘に心を奪われたマークは、娘がなかなか戻って来ないのに苛立ち、15年ぶりに島に降り立ちます。しかし娘は見つからず、マークは母と再会。そして15年前に死んだ男の声、バニング・ジェーンライトの生涯を語る声を聞くことに...。

裏表紙に「仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら...」と書いてあったので、てっきりヒトラーのif物、第二次世界大戦でナチスが勝ち、その勢力が全世界に及んでいく話なのかと思ったら! いや、確かにヒトラーは生きてるんですけどね。そういう話ではなかったんですね。そして裏表紙に「ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え」ともあったので、最初に出てくる少年がそのポルノグラファーになるのかと思ったんですけど、どうやらそれも違うみたいで、そうこうしてるうちにバニング・ジェーンライトの話が始まっちゃうし。しかもそのバニング・ジェーンライトの話の中にも、いくつもの話の流れがあるんです。面白くてどんどん読み進めてしまうんですけど、えっ、これってどういうこと? 話はあとでちゃんと繋がるの? このまま読み進めちゃって本当に大丈夫...? なんて不安になってしまいました。
それでもとりあえず読み続けてたら。「あっ」と思った瞬間全てが繋がってました。そうか、よく分からなかったあの場面はこういうことだったのか! あれもこれも、そういうことだったのか! いきなり目の前がクリアになりました。オセロゲームで、いきなりパタパタと駒がひっくり返って、黒一色に見えた盤上が白一色になってしまった時みたいな感覚。
そうか、これはパラレルワールドじゃないんですね。パラレルワールドと言えるほど平行してないもの。捩れて絡まりあって侵食しあってます。そうか、クリストファー・プリーストの「双生児」か。あと、先日読んだばかりのガルシア=マルケス「百年の孤独」も? いや、凄かったな。これはもう一同最初に戻って読み返してみなくっちゃ。そうすれば、もう少し全体像を掴みながら読めるよね。ああ、作者の理解力を持ってこの作品を読みたい。って、理解力のなさを暴露してるようですが、そこはそれ、隅々まで理解したいということで♪

...で、結局カーラって誰だったんでしょうか?(す、すみません、よく分からなくて...)(白水uブックス)

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唐の高宗皇帝の時代。33歳の狄仁傑(ディー・レンチエ)判事は山東省の平来(ポンライ)の知事に任命され、腹心の助手・洪亮(ホン・リャン)と共に平来へ。途中襲ってきた義賊の馬栄(マー・ロン)と喬泰(チャオ・タイ)もディー判事の助手となり、4人は平来の町に到着。そこで待っていたのは、前任の判事が密室状態の書斎の中で亡くなっていたという不可解な事件でした。

先日、三省堂版の「中国黄金殺人事件」を読んだんですが、それと訳者さんが違うだけで、同じ作品です。いやー、翻訳ミステリ作品もそこそこ読んでるんですけど、ポケミスを読むのは実は初めてだったりします。(どきどき)
先日読んだ「中国黄金殺人事件」は、訳文がどうもダメで、ポケミス版でリベンジとなったんですが、こちらの方はまずまず。登場人物の名前がカタカナから漢字になったというだけでも、ぐんと読みやすくなりますねー。(翻訳物もよく読んでますが、カタカナの名前は本当はあんまり得意じゃないので) まあ、三省堂版にもいいところがあったので、全体的に比べると一長一短なんですけどね。私はこちらの方が断然楽しめました。

3つの謎を知事が解決するのが伝統だという公案小説の形式に則って、この作品も前任の王知事の殺人事件と、新婚の花嫁の失踪事件、そして平来政庁の役人の失踪事件という3つの事件が絡まりあって、1つの大きな事件となっています。でも1つになってるとは言っても、繋がるところは繋がるし別物のところは別物。その見極めがなかなか難しいんです。これが初の事件となるディー判事、トリックが判明してもそれだけでは犯人までは辿り着けなかったりと苦戦はするんですが、傍目には些細に見えるようなことから着実に手がかりを掴んでいきまます。全然思ってもみなかったところが、後々の伏線になってたりしてびっくり。ちょっとしたこともきちんと生かされてて感心しちゃった。これはシリーズの他の作品も読んでみたいです♪

でね、何が面白かったって髭ですよ髭! うさぎ屋さんが書いてらっしゃるのを読んで(記事)「えー、髭ねえ」なんて思ってたんですけど、今回読みながら色々想像して笑っちゃいました。(ハヤカワ・ミステリ)


+既読のロバート・ファン・ヒューリック作品の感想+
「中国黄金殺人事件」ロバート・ファン・フーリック
「東方の黄金」ロバート・ファン・ヒューリック

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派遣使として訪れた都市のことをフビライ汗に語り聞かせるマルコ・ポーロ。最初は東方の言葉にはまるで無知で、身振り手振りで伝えることしかできなかったマルコ・ポーロも、徐々に韃靼人や周辺の諸民族の言葉に慣れ親しみ、いつしか精緻詳細をきわめる報告をするようになっていたのです... 「東方見聞録」のマルコ・ポーロがフビライ汗に架空の都市のことを語るという趣向の作品。8章に分かれて55の架空の都市のことが語られていて、各章の最初と最後にマルコ・ポーロとフビライ汗の会話があります。

これが「見えない都市」という題名なんですけど、見えないどころか、文字を追うごとにそれぞれの都市の情景が頭の中に次々に鮮明に浮かび上がっていくようで、その濃密さに息苦しくなってしまいそうなほどなんです。すごいですね、これは。でも読み始めてすぐに一体いつの時代の都市のことなのかと考えさせれることになります。一昔前の華やかな都市を思わせる描写の中に登場するのはアルミニウムづくりの塔であったり、摩天楼であったり、整備された上下水道だったり... 海をゆく交通手段といえばまず帆船だった大航海時代に、蒸気船や飛行船、地底列車が。それぞれの都市の姿もすごくユニーク。高い柱の上にそそり立つ都市であったり、奈落の底の上に宙吊りになっている都市であったり、壁も床も天井もなく水道管だけが縦横無尽に張り巡らされている都市であったり。人間同士の様々な関係をより堅固にするために戸口から戸口へと糸を張り渡していき、通り抜けられないほど張り巡らされると、その都市を捨ててまた別の場所に都市を再建することを繰り返していたり。
そのまま物語が生まれてきそうな都市も多いんですけど、読んでいるとなんだか既に世界は終わってしまっていて、どこかからその亡霊のような残像を眺めてるような気がしてきます...。

でも、こんな感じで情景が立ち上がってくる作品は大好きだし、今回はそれだけで面白く読んでしまったんですが、本当はこれらの都市の描写を通して、様々なことが語られているんですよね、きっと。マルコ・ポーロとフビライ汗の会話もとても暗示的だし。...この会話がまたすごくいいんです。時間を置いてもう一度読み返したら、その時はまた全然違うものが見えてきそうな気がします。まるで詩のような物語。(河出文庫)


+既読のイタロ・カルヴィーノ作品の感想+
「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ
「不在の騎士」イタロ・カルヴィーノ
「レ・コスミコミケ」イタロ・カルヴィーノ
「なぜ古典を読むのか」イタロ・カルヴィーノ
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
「イタリア民話集」上下 カルヴィーノ
「魔法の庭」イタロ・カルヴィーノ
「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ
「マルコヴァルドさんの四季」カルヴィーノ
「冬の夜ひとりの旅人が」イタロ・カルヴィーノ
「柔かい月」イタロ・カルヴィーノ
「カルヴィーノの文学講義」イタロ・カルヴィーノ
「パロマー」カルヴィーノ
「くもの巣の小道」イタロ・カルヴィーノ
「むずかしい愛」カルヴィーノ

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14世紀初頭のイギリス。スティーヴンは伯爵の息子ながらも、幼い頃に犬に噛まれたのが原因で犬を怖がるようになり、しかも内気で心優しい性格だったために、実の姉妹や腹ちがいの兄弟姉妹にいじめられる毎日。本人も自分のことを臆病だと思い込んでいました。父親の伯爵も、スティーヴンを騎士にするのではなく修道院に入れようと考えていたのです。そんなある日、伯爵家の猟犬が7匹の子供を産み、そのうちの一番弱い仔犬が殺されようとしているのを知ったスティーヴンは、思わずその仔犬を引き取ると言ってしまいます。はじめは引き取った仔犬を密かに捨てようとするスティーヴンでしたが、崖から落ちた仔犬を助けたことから、徐々に仔犬に対する愛情を持ち、犬に対する恐怖心を克服することに。

先日読んだ高柳佐知子さんの「ケルトの国へ妖精を探しに」(感想)に出てきて興味を持った本。修道僧が福音書を描いている場面の描写が詳細だというのが読みたいなと思ったポイントで、実際その場面も満足したんですけど、いやあ、全体的にもとてもいいお話でした!
主人公のスティーヴンはとても感受性が鋭い少年なんです。物の形や色彩にも敏感で、明らかに絵の才能があるんだなという感じ。でもこの時代のことだから、男の子は何よりも騎士になるのが一番とされてるんですよね。見るからに騎士に向いてないスティーヴンは、単なる落ちこぼれ。出来損ない。誰もスティーヴンの才能や長所に気づくことがないんです。本人ですら、自分が臆病で何もできない人間だと思い込んでるし... まさに「みにくいあひるの子」状態。しかもあひるの子なら大きくなって白鳥になった自分を見ることができるのに、スティーヴンには確認する手段が全然なくて。
そんなスティーヴンに、少しずつ自信を付けさせてくれたのが犬のアミール、師となったペイガン卿、そして従者となったトマス。中でもペイガン卿の言葉は、スティーヴンに大きな影響を及ぼしてます。

じぶんのことを他人に決めてもらってはいけない。じぶんが生きたいと思うとおりに人生を生きるんだ。他人にこうすべきだと指図されて生きたりしてはだめだ。自分らしく生きなさい。そしてなんでもやりたいことがあったら、精魂込めてやるんだ。

なによりも、いつもじぶんらしく生きるんだ。他人を傷つけさえしなければ、恐れずに自分のやりたいことをやりたまえ。神はわれわれを、それぞれ別々に形造ってくださった。もし神がきみをふつうとはちがった型に入れて造るのがいいとお思いになったのなら、臆することなく人とちがっていればいいのだ。

出会いがあれば別れもあるし、それにとっても長い回り道だったんですけど、それだけに最終的に見つけた自分だけの道はスティーヴンにとって実りが大きいはず。最後にあの頑固な人の後悔も癒されることになって良かったわー。長い長い自分探しの旅の話でした。児童書なんですけど、大人にも十分読み応えがあると思います♪(すぐ書房)

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AD76年8月。テベレ川河口の港町オスティアにやって来たファルコ一家。インフォミアという名前で「日報」のゴシップ欄を担当している記者・ディオクレスがオスティアで消息を絶っており、ファルコがその行方を捜す仕事を請け負ったのです。そしてファルコの親友で、ローマ第四警備大隊の隊長を勤めるペトロもまた、オスティア勤務を志願してマイアたちと共にオスティアに来ていました。

密偵ファルコのシリーズ16冊目。今回、海賊~♪ ということでちょっぴり期待して読み始めたのですが... うーん、期待したほどではなかったかな。というか、私の気合不足だったのかもしれないですが... 最近小説以外の本がすごい勢いで増えてて(と、他人事のように書いているけど、買ってるのは私だ!)、そっちにすっかり気を取られてしまってるせいもあるのかも。そうなると読むのにちょっと時間がかかってしまって、しかも自分のペースで読まないと、本来の面白さを十分堪能できないままに終わってしまうという悪循環があるんですよねえ。
...と、感想を書こうとして前の方のページを繰っていたら、本筋とはあまり関係ないんだけど1つ伏線を発見! これって笑い所じゃないですか。集中して読まないと、そういうのが頭から零れ落ちてしまうのも問題ですね。もう一回読み直したら、笑い所が満載だったりするのかもしれないなあ。あ、でも、身体の一部を改変したかった伯父さん絡みのエピソードは面白かったな。この頃でも本当にそういうことをしてた人っていたのかしら?!(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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1377年、エドワード3世が崩御し、まだ10歳のリチャード・オブ・ボルドーがリチャード2世として即位した頃。王侯・貴族相手の金貸しをしていた貿易商のスプリンガル卿が自室で死んでいるのが発見されます。死因はゴブレットのワインに入っていた毒。容疑者は、そのワインを前夜スプリンガル卿の部屋に運んだ執事のブランプトン。ブランプトンは屋根裏部屋で首を吊って死んでいるのが発見されていました。首席裁判官のフォーテスキュー卿は、検死官のジョン・クランストン卿とその書記を務めるアセルスタン修道士をスプリンガル卿の屋敷へとやることに。

14世紀、中世のイギリスを舞台にした歴史ミステリシリーズ第1弾。以前2作目の「赤き死の訪れ」を先に読んでしまったんですけど、ようやく1作目が読めましたー。
前回も、微妙に私の好みから外れるような気がしてたんですが、こっちを読んでみてもやっぱり微妙でした... 中世のイギリスとか歴史ミステリとか、好きな要素は揃ってるはずなんですけどねえ。でも今回面白かったのは、この作品の原題ともなっている「小夜鳴鳥の廊下(ナイティンゲール・ギャラリー)」。これは丁度京都の二条城や知恩院のような鴬張りの廊下なんです。スプリンガル卿の屋敷はとても古いもので、ジョン王の時代には司令官の1人がこの屋敷を本部として使用していたこともあるんですけど、その司令官が他人を誰1人信用できなかったため、特別なイチイの板で張り替えさせたというもの。実際にアセルスタン修道士が足を踏み入れると、どこに立っても一足ごとに「一ダースもの弓の弦を同時に弾いたような」「弦楽器めいた深い音を生じ」て、この廊下に面した部屋にいる人間に分かるようになってるんです。京都の鴬張りの廊下を歩いても弦楽器的な音を連想したことはないんですが... どんな音でしたっけ。今度また行ってみなくちゃ! そしてこの鴬張りの廊下が密室殺人に一役買っているんですねー。
事件自体はそれほど複雑なものではないしし、ミステリ慣れしている読者ならある程度は想像がついてしまうかも。それよりも当時のロンドンの情景がこれでもかというほど詳細に描きこまれていて... 多少詳細過ぎる気もするんですけど...(しかもあまり綺麗とは言えない描写が多いんだな) そういった意味でもとても興味深い作品となっています。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「毒杯の囀り」ポール・ドハティ
「赤き死の訪れ」ポール・ドハティ
「神の家の災い」ポール・ドハティ

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アダム・トラスクは、1862年、コネチカット州の農家の1人息子として生まれた少年。しかしコネチカット連隊に召集されていた父・サイラスが帰宅すると、トラスク夫人は夫から戦争から持ち帰った感染症にうつされ、それを苦に自殺。サイラスはすぐに近所に住む農夫の娘に目をとめて再婚し、アダムの1歳年下の弟となるチャールズが生まれます。軍隊を礼賛しているサイラスは、2人の息子に軍隊式の訓練を強要。弟のチャールズは力でも技でもアダムに勝り、軍隊式の訓練も受け入れていましたが、暴力や争いの嫌いなアダムにとって、それは苦痛でしかない習慣。しかし父は2人が成長した時、いかにも軍隊に向いていそうなチャールズではなく、アダムを騎兵隊に送り込んだのです。

ジェームス・ディーン主演で映画にもなってるこの作品なんですが、私は映画も観てなければストーリーも全然知らない状態。なんとこんな大河ドラマだったとはー。ええと、アダム・トラスクとその弟チャールズ、アダムの息子のキャルとアロンという、2世代の4人の男たちが中心となってる物語なんですけど、ジェームズ・ディーンがやってたのは、アダムの息子・キャル役だったみたいですね。話の最初から最後までちゃんと映画化してるかどうかは知りませんが。作中にはスタインベック自身もちらっと登場して、自伝的作品でもあったのか! と、またまたびっくり。

で、この作品で唯一事前の知識として知ってたのは、聖書の創世記のカインとアベルの話をなぞらえてるという部分だったんですが、アダムとアロンが「アベル」で、チャールズとキャルが「カイン」ということなんですね。ということはA(アベル...アダムとアロン)とC(カイン...チャールズとキャル)の対立ということなのか。羊飼いであるアベルの捧げ物は神に受け入れられたのに、農夫であるカインの捧げ物は受け入れられなかったのと同様に、アダムとアロンは父に愛され、チャールズとキャルは父の愛情を感じられなかったという図。
でもこの4人を見てて感じたのは、純粋すぎるアダムやアロンの弱さ。この世が既にエデンの園ではない以上、純粋すぎる人間は生き延びていくことができないってことなんですかねえ。アダムもアロンも万人に愛されるような人間だけど、悪に対する抵抗力が全然ないんです。だから悪そのもののキャシーという1人の女性に滅ぼされちゃう。それに比べて、キャルとチャールズは強いです。自分の中にある悪を持て余して苦しみながらも、生きぬく力は十分持っているんですよね。作中に効果的な嘘のつき方の話が出てきたけど、嘘の中に真実を少し混ぜるだけで、あるいは真実の中に嘘を少し混ぜるだけで、その嘘がすごく強くなるのと同じようなことなんだろうな。
読み始めた時はこんな大河小説とは知らなかったので、一体誰が主役なんだろう?って感じだったんですけど、いやあ、面白かったです。こんなに面白いとは思わなかった。随分前に読んだっきりなのですっかり記憶が薄れてるんだけど、パール・バックの「大地」を思い出しました。4人以外の登場人物もそれぞれ良かったですしね。私が断然気に入ったのは、アダムの家にコックとして雇われる中国人のリー。でも映画にはリーは登場しないんだそうです。勿体ないなー。(ハヤカワepi文庫)

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様々な問題にいらいらしている時によくみるのは、思いがけない楽しい夢。そんなある晩みたのは、1381年に起きたワット・タイラーの乱の只中にあるケントにいる夢でした。「私」はケントのウィリアム・タイラーという男と親しくなり、ワット・タイラーの指導者の1人となった司祭・ジョン・ボールと語り合うことになったのです。

ウィリアム・モリスは芸術家であるだけでなく社会主義者だったんですが、この作品はモリスが編集者となっていた社会主義同盟の機関紙「コモンウィール」に発表されたもの。それだけに、これまで読んだ中世風ロマンスとはまるで違っていて、社会主義者としてのモリスの一面を強く感じさせる作品でした。仲間と共に会社を設立したモリスは、自ら資本家となることで現実と理想の矛盾を身をもって体験し、社会を変えていかねばならないという使命を感じたのだそう。「社会主義」と聞くと、正直ちょっと引いてしまうところはあるんですが、モリスの理想の世の中というのは、旧ソ連のような社会主義とはまたちょっと違うんですよね。(多分) 
「ジョン・ボールの夢」という題名から、主人公がジョン・ボールになった夢をみたのかと思ったんですが、そうではなくて、ジョン・ボールと出会ったという夢でした。大筋としては、ワット・タイラーの乱の当時のケントの人々を描いたもので、実際、中世当時の田園風景や人々がとても生き生きと描かれているのが魅力的。特に村の酒場・薔薇亭での村人たちと飲み食いしている様子や、ウィリアム・タイラーの家での夕食の様子が素敵です。生命力が満ち溢れてる感じ。でも中心となっているのは、乱の指導者であるジョン・ボールと語らう場面。その場面を通して、モリスは現実の自分が生きている19世紀の世の中を改めて見つめ直しているんですね。
この本の挿絵は、ジョン・ボールが残した言葉として有名な「アダムが耕し、イヴが紡いでいたときに、ジェントルマンなどいただろうか」という言葉をバーン=ジョーンズが絵にしたもの1枚だけ。それがちょっと寂しいかな。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス
「アイスランドへの旅」ウィリアム・モリス

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1377年12月。ロンドン塔の城守・ラルフ・ホイットン卿が何者かによって殺害されます。4日前にホイットン卿の手元に警告の手紙が届いており、すっかり怯えたホイットン卿は安全だと思われた北稜堡の塔に移って、信頼のおける2人の従者に階段を見張らせ、階段と廊下の間のドアにも居室のドアにも鍵をかけていたというのに、ベッドの中で喉を掻き切られて死んでいたのです。ドアの鍵は閉まっていたものの、部屋の鎧戸がいっぱいに開いていたことから、当初、犯人は塔を外から上って侵入したと考えられ、それほど難事件とは思われないのですが、国王勅任のシティの検死官・ジョン・クランストン卿とその書記・アセルスタイン修道士が犯人を捜す中、同じように警告の手紙を受け取った人々が続けて殺されていくことに。

これは中世のイギリスを舞台にした歴史ミステリのシリーズの2作目。本当は「毒杯の囀り」というのが第1作なんですが、これが入手できなくて先にこちらを読んでしまうことに...。フィデルマのシリーズが順番通りに訳されてないとか文句を言ってる割に、せっかく順番通りに訳された作品をこんな風に逆に読んでたら仕方ないですね。いや、本当は順番通りに読みたかったのはヤマヤマなのですが!(嗚呼)
1377年といえば、リチャード2世が10歳で即位した年で、叔父のケンブリッジ伯エドマンド・オブ・ラングリーが摂政として立ち、ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの発言権が強かった頃。4年後にワット・タイラーの乱が起きるし、名実共に暗黒時代ですね。...と書きつつ、全然詳しくない付け焼刃の私です。(勉強しなくちゃー)

ミステリとしては王道の密室殺人。6インチ角の正方形の羊皮紙の真ん中には三本マストの船の絵、四隅に黒い十字架が描かれ、胡麻のシードケーキと一緒に送られてくるという警告の手紙も謎めいていて、結構好み。これが実は15年前の事件を発端にしていることが分かって、事件は徐々に複雑になっていきます。そして舞台となるのは、そうでなくても禍々しいイメージのあるロンドン塔! リチャード2世自身、後にここに幽閉されることになりますしね。今回は探偵役の2人にあんまり親しみを感じるところまでいかなかったんですけど、これで2人に愛着が湧いてくれば、もっと面白くなるんだろうなあ。ということは、やっぱり1作目を読まなくちゃダメですねえ。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「毒杯の囀り」ポール・ドハティ
「赤き死の訪れ」ポール・ドハティ
「神の家の災い」ポール・ドハティ

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修道女フィデルマは、兄であるコルグーの呼び出しに応えて、モアン王国の王城・キャシェル城へ。叔父のカハル王が黄色疫病に倒れてコルグーが王位を継ぐのは時間の問題となっており、そんな時に王城に訪れたラーハン王の使者の強硬な要求にコルグーは困り果てていました。人々から広く敬われていた尊者ダカーンが8日前にロス・アラハーの修道院で殺害された事件のことで、ダカーンの縁者でもあるラーハン国王が、「血の代償金」と「名誉の代価」を払えとモアン国王に要求してきたのです。「名誉の代価」として要求されているのは、オリスガ小国の支配権の返還。これはモアンとラーハンの間でこの6世紀もの間争われ続けてきた件。ロス・アラハーの修道院長がコルグーやフィデルマの従兄であることから、ラーハン王はモアン王家にも責任があると言ってきたらしいのですが...。本当にモアン王家の責任があるのかどうかを調べるために、フィデルマは早速ロス・アラハーへと向かうことに。

昨日に引き続きの修道女フィデルマシリーズ。今度は本国では3作目として刊行された作品で、「蜘蛛の巣」よりも2つも前の作品。もう本当に、なんでこんな順番で刊行するかなー。
というのはともかくとして、こちらの方が「蜘蛛の巣」よりすんなりと読めました。事件的には「蜘蛛の巣」の方が絡み合ってて面白かったんだけど、何と言ってもフィデルマの高飛車なところが前回ほどなかったので(私が慣れたのかもしれませんが)、読みやすかったです。でも今回一緒に組むのが、サクソン人の修道士・エイダルフではなくて、国王直属の護衛戦士のカースだったのがちょっと残念。私としては、カースもすごくいいと思うんですけどね。肝心のフィデルマが物足りなく思ってるようなので~。
今回一番興味深かったのは、アイルランド五王国の大王(ハイ・キング)による「タラの大集会」。この頃のアイルランドにおけるキリスト教のあり方って、ローマの正統派のキリスト教のあり方とはまた少し違うし、アイルランドの法律そのものも、アイルランドでの生活によく合うようにアレンジされてるんですよね。その部分が思いの外しっかりとしたもので好印象だし、すごく面白いところなんです。「蜘蛛の巣」でも、身障者の人権を保障する制度がきちんと存在していて驚いたんですが、今回も女性の人権に関する法律がしっかり登場していました。古代のアイルランドが身近に感じられちゃうなあ。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「蜘蛛の巣」上下 ピーター・トレメイン
「幼き子らよ、我がもとへ」上下 ピーター・トレメイン
「修道女フィデルマの叡智」ピーター・トレメイン

+既読のピーター・トレメイン作品の感想+
「アイルランド幻想」ピーター・トレメイン

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アラグラリンの領主である族長・エベルが寝室で殺され、その死体の横で短剣を握り締めていた男が捕らえられます。殺人の知らせは、モアン王国の新王・コルグーを経て、すぐにその妹であるフィデルマへ。フィデルマは修道女でありながら、同時に熟練した法の専門家ということを示すアンルーという高位の持ち主で、裁判官として、あるいは弁護士としてアイルランド五王国のいずれの法廷にも立つことができるという正式な資格の持ち主。フィデルマは、その日裁判官を務めた最後の訴訟で勝った若者の道案内で、早速修道士エイダルフと共にアラグラリンへと向かうことに。

ピーター・トレメインは高名なケルト研究者。以前、「アイルランド幻想」(感想)を読んで、そのしっかりとした土台の上に作り上げられた話がとても面白かったので、こちらも楽しみにしてたんです。これは7世紀のアイルランドを舞台にした歴史ミステリ。修道女フィデルマが活躍するシリーズです。エリス・ピーターズの修道士カドフェルが12世紀の話なので、それよりも500年も早いんですねえ。アイルランドにもキリスト教は既に伝わってるものの、まだドゥルイドの存在も残ってるみたいで、そういう設定がものすごーくそそります。また修道院の人?って思っちゃったりもするけど、やっぱり修道士とか修道女という人たちは一般人よりも学があるし、行動の自由が利くから、動かしやすいんでしょうね。

フィデルマは、頭が良くて美人で、、自分自身の努力で得た「アンルー」という地位もあれば、モアン国王の妹という社会的身分もあるんですよね。この辺りがちょっと完璧すぎる気もしたのだけど... しかも、日頃はそんな身分的なことには無頓着だというのに、高飛車で傲慢な人の相手をすると、逆に冷ややかにやり返して思い知らせちゃうような性格。最初の方でプライドが高くて傲慢な人たちの相手をするので、そういう嫌な面がかなり出てくるんですよね。それが鼻についてしまって、読むのがちょっとつらかったです... せめて、もうちょっと隙のある設定だったら良かったのにって思ってしまいます。でも、それ以外の部分では、やっぱりすごく面白い! 7世紀のアイルランドという世界が舞台なだけに、覚えなければならない用語が多くて、訳注もいっぱいなんですけど、元々興味のある分野なだけにそういうのは苦にならないし。女性にこれほど社会的な活躍できる場があったというのも驚き。殺人事件も思いの外入り組んでいて、読み応えがありました。

でもこれは本国では5作目として刊行されたという作品。なんで5作目からいきなり訳すのかなー。どうせシリーズ物を読むなら1作目から読みたいのに。シリーズ物って、シリーズを通して人間関係が出来上がっていくのも大きな魅力の1つなのに、そういうのを無視して刊行する神経がよく分かりません。たとえば1作目はどうやらアイルランドじゃなくてローマが舞台になってるようなので、「ケルト」が売りなのにローマが舞台なんていうのは困ると思ったのかもしれませんが... そのうちちゃんと1作目も訳されるのでしょうか? 早くそちらが読みたいですー。(創元推理文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「蜘蛛の巣」上下 ピーター・トレメイン
「幼き子らよ、我がもとへ」上下 ピーター・トレメイン
「修道女フィデルマの叡智」ピーター・トレメイン

+既読のピーター・トレメイン作品の感想+
「アイルランド幻想」ピーター・トレメイン

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ブリタニアのロンディウム(現ロンドン)にいたファルコたちが巻き込まれたのは、トギドゥプヌス王の元側近が、井戸の中に頭から突っ込まれて死んでいたという事件。ガリアに追放されたはずの彼が、なぜ今ロンディウムに... という「娘に語る神話」と、半年振りにローマに戻ってきたファルコがたまたま受けた仕事から、法廷での争いに巻き込まれていくことになる「一人きりの法廷」。

久しぶりの密偵ファルコシリーズ。今回読んだこの2冊はシリーズの14冊目と15冊目です。何かの事件にファルコが巻き込まれてそれを解決しなくちゃいけなくなるのと、そこにファルコ周辺の人間ドラマが絡んでくる、というパターンは変わらないんですが、やっぱりこのシリーズは面白いです~。特に15冊目の法廷劇! ローマ時代の法廷について分かるのも面白いし、法廷での証人や弁護人の陳述が普段とはまた違う文章で書かれているので、それがアクセントになって面白かったし。依頼人やその一族があんまり秘密だらけなので、読むのはちょっとしんどかったですけどね。事件が一件落着しそうになっていても、まだこれだけページ残ってるからもう一波乱あるんだろうなあ... なんて思ってしまうようなところもあったし。
今回面白かったのは、「娘に語る神話」で登場した拷問官と、「一人きりの法廷」ではヘレナの弟のアエリアヌス。これまで弟のユスティヌスに比べて、何かと分が悪い印象だったアエリアヌスなんですが、これでだんだん道が開けてきそうです。本当に法律の専門家になっちゃえばいいのになあ。向いてると思うなあ。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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紀元74年夏。ファルコが元執政官のルティリウス・ガッリクスに誘われて開いた合同の詩の朗読会は、皇帝の次男・ドミティアヌス・カエサルも臨席し、大成功のうちに終わります。その翌日、ファルコの元へやって来たのは、「黄金の馬」出版工房の経営者のエウスケモン。オーナーのクリューシップスがファルコの詩を気に入ったので、出版しないかと言ってきたのです。しかし翌日、ファルコが出版工房を訪ねた直後、クリューシップスは何者かに殺されて... という「亡者を哀れむ詩」と、ブリタニア王・トギドゥブヌスの宮殿の建設に不正があるらしいと聞きつけた皇帝がファルコに現地調査を命じ、ヘレナやその2人の弟らと共にブリタニアへと行くことになる「疑惑の王宮建設」。

ファルコシリーズの12作目と13作目。
このシリーズは、ファルコがローマ市内で事件を解決するか、皇帝の命令で外国に遠征するか、大体どっちかのパターンなんですけど、やっぱり外国での話の方が基本的に面白いです。特にブリタニア! 1巻以来! ということで、13作目の「疑惑の王宮建設」に思わず食いついてしまいます。なんでローマ皇帝がブリタニア王の宮殿建設に口を挟むかといえば、この建設資金がローマ皇帝から出てるから。そしてなんで万年赤字状態のローマ皇帝ウェスパシアヌスがブリタニア王の宮殿なんか建てるかといえば、ブリタニア王とウェスパシアヌスは、お互いに今の地位を得る前からの知り合いで、ウェスパシアヌスが帝位につくにあたって、ブリタニア王の尽力が大きかったから。ということのようです。建築士や測量士、国内外の労働者をまとめる監督たち、造園師、石工、モザイク師、フレスコ画家、配管技師... 色んな人が働いてる宮殿建設場面がなんか楽しくて好き~。ヘレナの2人の弟も出てくるし~。(ユスティヌスは私の中ですっかり株が落ちてしまって、アエリアヌスの方が不器用ながらも可愛くなってきてるんですが... やっぱりユスティヌスにも早く挽回して欲しい!) 本当は「亡者を哀れむ詩」では古代ローマの出版業界なんてものが登場して、色んな作家の話が出てきて、こちらも楽しいはずなんですけどね... 事件がちょっと小粒すぎたかも。

ファルコシリーズの邦訳は、現在14冊まで。私が読んでるのは全部借り物で、14冊目まで借りてるかと思い込んでたんですが、手元には13冊目までしかありませんでしたー。あと1冊も借りてこなくっちゃ。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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即位の時に大々的な国勢調査実施を命じていた皇帝ウェスパシアヌス。その皇帝が、申告額を誤魔化しを発見し、査定のやり直しをさせるために雇ったのがファルコ。そしてまず査察の対象となったのは、剣闘技の訓練師や興業師(ラニスタ)たちでした。しかしそんな時、「水路の連続殺人」の犯人の処刑を担当するはずの人喰いライオン・レオニダスが何者かに殺されるという事件が... という「獅子の目覚め」と、神官の家の中のゴタゴタをめぐる「聖なる灯を守れ」。

密偵ファルコシリーズの10作目と11作目。9作目の「水路の連続殺人」から、ファルコのパートナー探し3連作となっています。随分意外な相手とも組むことになってびっくり。でもファルコを取り巻く環境が少しずつ変化してるので、それもまた自然な流れなのかもしれませんー。相手の意外な素顔が見れるところも楽しくて。

国勢調査といえば... そういや聖書の福音書にこんな文章がありました。「そのころ、全世界の人口調査をせよとの勅令が、皇帝アウグストから出た。これは、クレニオがシリアの総督であった時に行われた最初の人口調査であった。」 キリストが生まれる直前の話で、この勅令が出たためにヨハネとマリアが故郷に向かって急ぐんですね。毎年クリスマスの頃になると暗誦させられていたので、今でも丸ごと覚えてたりします。(笑) 
アウグストというのは、初代ローマ皇帝のアウグストゥス。一応、キリストが生まれた年が紀元元年で(実際には若干ズレがあるそうですが)、キリストは30代半ばで亡くなってるので、それが紀元30年前後のはず。 密偵ファルコのこの時代は、紀元70年頃。ほんの40年前のことなんですねえ。しかも、「聖なる灯を守れ」にはベレニケというユダヤの王女が登場してるんです。この人の曾祖父が、イエス・キリストが生まれた頃に、救世主の到来を恐れて2歳以下の幼児を虐殺させたという噂のあるヘロデ王。ふと気づくと、ちょっとしたところで繋がってくるのが歴史物の面白いところですね。読んでるうちに点と点が繋がって線になっていくのって、嬉しいな。このまま線と線が繋がって面になっていく... といいのだけど。(笑)(光文社)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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ヒスパニアのバエティカ・オリーブ油生産者協会の饗宴に出席したファルコは、同じく出席していた密偵頭のアナクリテスやほかの密偵がその帰宅途中に襲わたのを知り驚きます。どうやら自分も襲われるはずだったらしいのです。事件にはヒスパニアから来た踊り子が関係しているらしく、しかも調べているうちに、オリーブ油闇カルテル疑惑も浮上。ファルコとヘレナはヒスパニアへと向かうことに... という「オリーブの真実」と、ローマの上水道を流れてきた人間の手を発見したファルコとペトロが猟奇殺人犯人を追う、「水路の連続殺人」。

密偵ファルコシリーズ8作目と9作目です。
「オリーブの真実」は、ひたすらオリーブオイルの話。オリーブオイルが様々な用途に使われてきたというのは知識として知っていても、こうして実際に物語で読むとまた違いますね。料理にはもちろん、入浴後の肌の保湿剤として(男女問わず、貧富の差を問わず、生活必需品だったようです)、ランプの燃料として、香料や医療品の基材として用いられており、もちろん実も食用。前巻の出来事も伏線になって、物語のオチまでオリーブオイル。(笑) ただ、ヒスパニアに行くのはいいんだけど、肝心のオリーブオイル闇カルテルにまつわる話がイマイチだったような気もするんですけどね...。
そして「水路の連続殺人」は、ローマで起きた連続猟奇殺人の犯人探し。ミステリですねえ。どうやらこの9作目から3冊は、ファルコの仕事のパートナー探し編にもなってるようです。最初にパートナーになるのは、親友のペトロ。でも、同じように日頃悪を追う仕事をしていても、そのやり方は全然違うんですよね。やっぱり仕事と友情は別々にしておいた方が無難でしょ、と言いたくなるような状態で...。ペトロが警備隊長のまま協力するなら、衝突しつつもなんとか上手くいくのでしょうけれど、なんとペトロは停職中なのでした。
今回面白かったのは、古代ローマの上水道に関する薀蓄。古代ローマの上・下水道は、相当素晴らしいものだったようですね。都市や工場地に水を供給するために多くの水道が建設され、ローマ市内では実にのべ350キロ(260マイル)もの長さを誇る水道が、日々市民に大量の水を供給していたのだとか。しかもその大部分が地下に埋め込まれていたんですって。水に含まれる石灰で水道管が詰まってしまわないように管の掃除も不可欠だったようで、そんな仕事をしてる人も登場します。でも何といっても良かったのは! 後にローマの水道管理委員として水道に関する著作を残したというユリウス・フロンティヌスが登場すること。この事件をきっかけにして水道に興味を持つようになっただなんて、上手いなあ。自らまめに動き回って仕事をこなすフロンティヌス、なかなかいい味を出していたので、これからも登場してくれるといいな。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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皇帝一家がファルコへの大事な約束を反故にしたおかげで、ヘレナは激怒。皇帝の仕事は金輪際受けないようにと、ファルコに厳命。そんな時、密偵頭のアナクリテスが持ってきた仕事は、最近ローマ帝国によって鎮圧されたばかりのナバテアでの情報収集の仕事でした。そして丁度その頃、蛇使いのタレイアからも、男と一緒に中東に逃げた水圧オルガン弾きの娘をローマに連れ戻すようにとの依頼があり、ヘレナとファルコは、結局ナバテアへと向かうことに。しかしナバテアの拠点ペトラの町に到着した途端、2人は殺人事件の被害者を発見。監視人付きでペトラを追放されてしまい... という密偵ファルコシリーズ6作目「砂漠の守護神」と、7作目の「新たな旅立ち」。

「砂漠の守護神」は、全編通して旅先での話。ひょんなことから、被害者が旅芸人一座の台本作家だったのを知ったファルコは、その後釜として旅芸人一座に加わって、町から町へと回ることになります。ヘレナとファルコは旅芸人一座に加わった時から、時間は内部の人間の犯行だと見て犯人探しを始めるし、実際、事件は1つでは終わらないので、今回はミステリ風味が強いです。でもどこが面白かったといえば、ミステリ部分そのものよりも、旅芸人一座の生活ぶりとか、その旅の様子だなあ。主な舞台となるのはローマ領シリアの「十の町(デカポリス)」なんですが、それぞれの町の描写もすごく詳しいんですよね。...でもヘレナやファルコを見てると、中東に行くのもブリタニアやゲルマニアに行くのとそれほど変わらないように見えるんですが、この時代の旅って実際どうだったんだろう? 旅そのものは大変でも、中東って今の時代よりも近い存在だったのかしら。少なくとも今の時代だと、シリアなんて、おいそれと気軽に旅行に行けるような場所じゃないですよね。なので、そういう意味でも楽しかったです。
そして「新たな旅立ち」は、打って変わってローマでの話。題名からすると、まるでファルコとヘレナに新しい展開があったように思えてしまうんですけど、違いました。(笑) 旅立つのは、死罪を言い渡された大犯罪人。ローマ時代、死罪を宣告された犯罪者には、旅の用意をして家族に別れを告げ、逃げ出す権利が認められてたんですって。死罪を言い渡されるほどの犯罪者なのに?! とびっくりなんですが、その方が国家にとって安上がりで助かったらしく... そんなことでいいのかなあ。今回も、その大犯罪者が出国するところをファルコもその目でしっかり確かめるんですけど、案の定、それだけでは済みませんでしたよー。江戸時代の所払いの方が、しっかり追放されそうです。ローマには関所なんてないですしね。(笑)(光文社文庫)


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「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
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「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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皇帝が次に自分を行かせたいと思っているのはゲルマニア... そう耳にしたファルコは、皇帝に近づくのをやめて、庶民相手の仕事探しに励むことに。しかしファルコの留守中に訪ねて来たティトゥス・カエサルがヘレナと楽しそうに話し込んでいたのがきっかけで、ファルコとヘレナは気まずい雰囲気になってしまい、ファルコが意地を張っているうちに、ヘレナは家を出てしまいます。ローマを出たというヘレナの行方は誰にも分からず、ヘレナがいないローマに未練はないファルコは皇帝のゲルマニア行きの仕事を受けることに... という密偵ファルコシリーズ4作目「鋼鉄の軍神」と、5作目「海神の黄金」。

いやあ、今回も面白かった。「鋼鉄の軍神」は、やっぱりゲルマニアに着いてからでしょうね。ここでファルコは、ヘレナの弟で、ローマ執政武官をしているカミルス・ユスティヌスに会うことになるんですが、この弟くんが良かった! 正統な貴族の子弟らしい優雅さと冷静沈着な態度を見せながら、意外と行動力もあったりして(もちろん、頭もいいのです)、これはぜひとも再登場して欲しい人物です。(その時は、女祭司もぜひご一緒に) ファルコがユスティヌスや百人隊長のヘルウェティウス(彼もいいです)と一緒に、使えない新兵を従えて辺境の地を行軍する辺りも面白かったなあ。
「海神の黄金」の方は、今は亡きファルコのお兄さんの尻拭い。ファルコが身に覚えのない殺人容疑で追われたりして、結構大変な事態になります。小さな不審と小さな心の傷、そして小さな謎が集まってできたような話なんですけど、それらの1つ1つが氷解していくたびに家族の絆が少しずつ強まっていくようで、なかなかいい話でした。シリーズの最初の方ではあまり分からなかったけど、ファルコのお父さんもお母さんもいい味出してます。(ヘレナのお父さんも好き~)

ここまで、題名に「白銀」「青銅」「錆色」「鋼鉄」「黄金」と金属が使われてたんですけど、それもこの5巻で終わり、物語もとりあえず一段落みたいです。第一部終了? でもまだまだ解決してない部分が残ってるし、手元にもあと9冊あるし! 続きを読むのが楽しみです。(光文社文庫)


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「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
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紀元71年。今回の仕事の依頼主は、解放奴隷のサビナとアティリアという女性2人。彼女たちとそれぞれの夫は解放奴隷であり、そして同じく解放奴隷仲間だったノヴスと一緒に、ローマの北にある広大な屋敷に暮らしています。しかし、ノヴスが近々セヴェリナという女性と結婚しようとしているのですが、セヴェリナには過去3回の結婚歴があり、その3回とも夫が早死にしているというのです。ファルコは調べ始めます。

密偵ファルコシリーズ3作目。
今回仕事の依頼人となるのは、解放奴隷。この解放奴隷については、先日アントーニーヌス・リーベラーリスの「メタモルフォーシス」を読んだ時にも出てきました。このアントーニーヌス・リーベラーリスという作者が解放奴隷らしいんですよね。奴隷とは言ってもローマ時代の奴隷は大抵が戦争捕虜で、高い教養を持つ知識人も含まれていることから、ローマ人貴族の秘書となったり、その子弟のギリシャ古典教育のために家庭教師になるなど、重用されていたのだという説明がありました。お金を貯めて自由を買い取ったり、主人が亡くなった時に遺言で解放されるなど、自由の身になる機会もそこそこあったようです。「奴隷」という言葉を聞くと、どうしても生まれた時から死ぬ時まで、みたいなイメージがあるんですけど、解放奴隷は全然違うんですねー。今回登場する解放奴隷も、ある程度の教養人だし、貯めたお金を元手に商売で大成功したようです。今や大富豪。
今回もひねくれたユーモアセンスの持ち主であるファルコの語りが楽しいんですが、前2作とは違って、全編通してローマ内での展開でした。そして前2作よりもずっとミステリ色が強かったです。果たしてセヴェリナは白なのか黒なのか。セヴェリナが白だとしたら、黒は誰なのか。その方法と動機は。セヴェリナの行動には今ひとつ納得のいかないところもあったんですが、そのファム・ファタールぶりと、それに対抗するファルコの姿が楽しかったです。実際的に見えるファルコなんですけど、実は結構ロマンティックなんですよね~。
可笑しかったのは、ファルコが皇帝の息子にもらった巨大ヒラメ(ターボット)を、アパートの部屋で料理する場面。狭い部屋で焼くわけにもいかず、最初は兄の形見の盾(!)で煮ようとするんですが、深さが足りなくて、結局洗濯用の大きな銅の盥を借りてくるんです。一体どれだけ大きいの? この場面には招かれざる客まで登場して、ちょっとしたどたばた劇。それともう1つ可笑しかったのは、ルシウスという法務官の書記に関する描写。「いかにも切れ者」という辺りはいいんですけど、「馬券屋のおやじみたいな粋なかっこうをしている」ですって! 馬券屋のおやじって... 競馬が貴族のスポーツのイギリスでは、「馬券屋のおやじ」も粋なんでしょうけど、この日本語だと到底かっこよく感じられませんー。でもこんなところに、作者のお国柄が出てくるのが楽しいです。これはやっぱり狙ったものなのかな? それとも無意識...? やっぱり狙ったものなんだろうなあ。(光文社文庫)


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「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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紀元70年のローマ。29歳の密偵・ディディウス・ファルコは、2人組の男に追われて炎天下を走る娘と鉢合わせし、彼女を助けることになります。その娘は、元老院議員である伯父の家に暮らすソシア・カミリア。伯父の屋敷に忍び込んだ2人組の男に無理矢理連れ出され、逃げ出したところだったのです。

なぜか2巻の画像がありませんが... これは皇帝がウェスパシアヌスの頃の古代ローマを舞台にしたハードボイルド、密偵ファルコシリーズ。現在14巻まで出ているようなんですが、なぜか全部手元に揃ってしまってます。(笑) 古代ローマには微妙に苦手意識があるんだけど大丈夫かしら... と、ちょっぴり心配しながら読み始めたんですけど、これがなかなか面白い!
作者のリンゼイ・デイヴィスは、修道士カドフェルのシリーズのエリス・ピーターズと、P.C.ドハティ(未読...)と並ぶ、歴史ミステリ御三家と呼ばれる存在なんだそうです。でも同じ歴史ミステリとは言っても、カドフェルのシリーズとは雰囲気が全然違っていたので、ちょっとびっくり。カドフェルの方は、舞台が12世紀のイギリスなら、そこに登場するのも12世紀の人々。当時の日々の生活がしっかりと伝わって来るんです。でもこちらは確かに古代ローマが舞台でありながら、登場してるのはもっと現代的な人々。古代ローマはしっかり描かれてるし、スラム出身のファルコが貴族や皇帝の仕事をしたりするので、色んな階級の人々の生活が幅広く描かれてるんですが... やっぱりこの思考回路と行動ぶりは現代的でしょ! それがまたこのシリーズの面白いところだと思うんですけどね。
それに「白銀の誓い」の方ではブリタニアに行くんです! 今まで読んだ古代ローマ物ではブリタニアに言及してる作品なんて全然なかったので、これは新鮮。逆にブリタニアの側の作品で、ローマについての話が出ることは時々あったんですけどね。そういえば、ローマからはまるっきり無視されてました。それもそのはず、ファルコ曰く、文明の果つる地、林檎だけはローマよりも美味しいけど、野蛮人の住む地らしいです。林檎ですって!? アーサー王の時代と少しズレてるのが本当に残念だわ。(笑)
ミステリあり冒険ありロマンスあり。歴史的にもこれはかなりしっかりした作りなのではないかと思います。中身が濃くて面白いので、続きも読んでみるつもり~。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「密偵ファルコ 白銀の誓い」「密偵ファルコ 青銅の翳り」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 錆色の女神」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 鋼鉄の軍神」「密偵ファルコ 海神の黄金」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 砂漠の守護神」「密偵ファルコ 新たな旅立ち」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ オリーブの真実」「密偵ファルコ 水路の連続殺人」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 獅子の目覚め」「密偵ファルコ 聖なる灯を守れ」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 亡者を哀れむ詩」「密偵ファルコ 疑惑の王宮建設」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 娘に語る神話」「密偵ファルコ 一人きりの法廷」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 地中海の海賊」リンゼイ・デイヴィス
「密偵ファルコ 最後の神託」リンゼイ・デイヴィス

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7世紀、唐の時代。隋帝国の名門に生まれた母を持ちながらも、父の死によって異母兄たちに財産を取り上げられ、父の故郷の村での惨めな生活を余儀なくされた武照。しかし大将軍李勣によってその非凡さを認められ、勅命によって太宗皇帝の後宮に召されることに。皇帝の死後は、一旦は出家するものの、照を慕っていた新皇帝・高宗に望まれて、照は再び後宮へと召されることになります。

中国4千年の歴史でただ1人の女帝となった則天武后。漢代の呂后、清代の西太后とともに「中国の三大悪女」として有名な彼女の姿は後世の歴史家によって作られたものだとして、実は名君であった彼女の真実の姿を描きだそうとする作品。確かに歴史に描かれるのは勝者にとっての真実ですものね。女性に皇帝の位を取られて悔しい思いをした男たちがどんなデタラメを言ってるか分からないわけで...。そもそもライバルの手足を切り落として酒壷に投げ込んだという話も、則天武后のオリジナルじゃないですしねえ。それだけ言われると、逆にそれだけ隠しても隠しきれないほど光っていた人だったんだろうなと勘ぐりたくもなるわけで。
この作品の中で描かれる則天武后の姿は、凛としていて聡明な女性。自分は自分として朱に染まることを避けて過ごした彼女の、そして後には人でありながら神の位についてしまった彼女の、強い孤独と哀しさが迫ってきます。とてもじゃないけど、今までの則天武后の姿とは重ならないです。しかもそれを描く文章がなんだかとても美しい... 山颯はフランス在住の中国人で、フランス語からの翻訳物だから原文がどうなのかは良く分からないんですけど、原文もきっと美しいんだろうなと思わせる作品なんですよね。他の作品もぜひ読んでみたい、そう思わせる作家さんでした。(草思社)

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イングランド中部ダービシャー州の町でサイン会を開いていた作家のスチュワート・グラットンは、サイン会を訪れたアンジェラ・チッパートンという女性に、その父親が書いていたというノートのコピーを渡されます。以前からグラットンは、ソウヤーという名前の1940年代に英空軍爆撃司令部に属していた人間の情報を求める広告を出していおり、父親が書き遺したノートが役に立つのではないかと考えたアンジェラは、その一部をコピーして持参したのです。

先日「奇術師」と「魔法」を読んだクリストファー・プリーストの作品。(感想) 本当はkotaさんが「SFガジェット満載」で「最後に現実崩壊感覚を味わえます」と仰る「逆転世界」を先に読もうと思っていたのに、入手の順番が逆になってしまいましたー。「双生児」はさらに圧倒的な傑作だそうなので、最後のお楽しみにしようと思ってたのに!
というのはともかく、今回は第二次戦争下の英国が舞台の物語です。その頃のことを本に書こうと調べている作家の集めた資料を読むという形で物語は進んでいきます。グラットンが調べていたのは、ソウヤーという名前の兵士もしくは士官。ソウヤーは良心的兵役拒否者でありながら、同時に英空軍爆撃機操縦士でもあるという人物で、英国首相・チャーチルが、なぜそのようなことが可能なのかというメモを残していて、そこにグラットンは物語を感じたんですね。まあ、この疑問の答は、ソウヤーが1人の人間ではなくて一卵性双子だったということで、早々に明かされてしまうんですけど...(笑) そこからが本領発揮。そこはクリストファー・プリーストだけあって一筋縄ではいきません~。本格ミステリ作品では双子を使ったトリックは使い古されてますけど、これはそういったトリックとはまた全然違う! プリーストならではの世界。
読み始めてすぐに「1940年半ばの米中戦争」という言葉にひっかかったんですが、もうここから始まっていたんですね~。ボート競技でベルリンオリンピックに出場したところから始まる双子の物語も、時代が戦争へと流れ込んでいく辺りも、読んでいて純粋に面白いです。私がもっとウィンストン・チャーチルやルドルフ・ヘスに詳しかったらなあ、なんて思ったりもしたんですけど、それでも十分楽しめます。その辺りはこの作品の表層上のことにすぎないんですけど... やっぱり読みやすくて面白いというのは重要ポイントですね。小難しいことを小難しく書ける人はいっぱいいるけど、そういうのってごく普通。難しげな単語を振りかざしてるだけで、結局虚仮威しに過ぎないなんてこともありますし。でも本当に頭が良い人の文章ってそうじゃないと思うんです。ここまで複雑な話をこんな風に読みやすく面白く書けるのって凄いです。なーんてことを書き続けてるのは、ひとえにネタバレしたくないからなんですけど...(笑)
大胆でありながら緻密。クリストファー・プリーストならではの、知的な「語り=騙り」を試してみてください。肝心のトリックに関しては、もし読み終えた時には分からなくても、大森望さんによる解説に詳しく書かれているので大丈夫です。^^(早川書房)


+既読のクリストファー・プリースト作品の感想+
「奇術師」「魔法」クリストファー・プリースト
「双生児」クリストファー・プリースト
「逆転世界」クリストファー・プリースト

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生まれた時に母を亡くし、父親が誰かも分からない孤児のウィッジは、7歳の時に近くの小さな村に住む牧師、ブライト博士に引き取られ、実験の手伝いをしながら英語やラテン語、そして速記術を教わります。そして14歳になった時、金貨10枚でサイモン・バスという男に引き取られることに。なんとロンドンで今かかっている宮内大臣一座のシェイクスピアの新作の芝居「ハムレット」の台詞を全て、得意の速記術で書き取って来いというのです。サイモン・バスは、盗み取った芝居を自分の持っている劇団に演じさせて、収益を2倍にしようと考えていました。

先日金原瑞人さんの「12歳からの読書案内 海外作品」(感想)を読んだ時に気になっていた本。紹介されていたのは「シェイクスピアを盗め!」だけだったんですけど、同じシリーズの本もあったので一緒に借りてきました。同じく白水社からの本で気になっていた「海の上のピアニスト」(アレッサンドロ・バリッコ)もあったので借りようかと思ったんですが、中身を見てびっくり。これは字が大きすぎるー。
ということでこの作品なんですが、これはエリザベス1世の時代、シェイクスピアが座付き作者として様々な脚本を書いていた時代のイギリスを舞台にした物語。当時、芝居の台本は一度出版してしまうと権利が出版業者に移ってどの劇団でも上演できるようになったため、人気作家を抱えている劇団は台本を厳重に管理し、ライバル劇団の手に渡らないように注意していたのだそうです。それでも金儲けのために芝居を盗もうという人間は後を絶たなかったのだとか... で、速記術を会得しているウィッジの出番となるわけです。
次々に起きるドタバタでテンポもいいし、ウィッジの成長ぶりが可愛いし、1600年当時の劇場や劇団、ロンドンの町の様子が読んでいてとても楽しかったです。訳者あとがきを見てみると、実はシェイクスピア以外にも実在の人物が沢山登場していたようですねー。あの人も?この人も!で、びっくりです。架空の人物ならではの自由闊達さ... と言うとなんだか妙ですが、みんなあんまり個性的に賑やかに動き回るので、てっきり架空の人物ばかりなのかと思ってました。(笑)
2作目は、ペストの流行でロンドンでの公演が禁止されてしまって、一座が地方巡業に出る話。これもすごい波乱万丈ですが、ウィッジのさらなる成長物語になってました。そして今回は読まなかったけど、「シェイクスピアの密使」という作品が3作目として出ていて、こちらはシェイクスピアの娘が出てくるんだとか。これがまたきっとクセモノなんでしょうねー。いずれ読んでみようと思います。(白水社)

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アウヘンスキオフ城に住むキャサリンと村に住むケイトは、幼い頃から大の仲良し。なかなか自由には会えないものの、少しでも機会をみつけては一緒に過ごしていました。キャサリンが12歳になる頃、乳母のゲルダが結婚して外国に行くことになり、キャサリンの父は新しい乳母を探す代わりに、ケイトの母親のグリゼル・マックスウェル夫人と再婚。キャサリンとケイトは姉妹となることに。しかしグリゼルは魔女だったのです。野育ちのケイトが、美しく気立ての良い継子キャサリンに負けているのを見たグリゼルは、夫の留守の間にじわじわとキャサリンを追い詰め始めます。

スコットランドのギャロウェイ地方に伝わるケイト・クラッカーナッツの伝承がメインモチーフになっているんですが、ブリッグズがその背景として選んだのは17世紀半ばのスコットランド。1649年のチャールズ一世の処刑とそれに続く内戦という激動の時代を舞台にしています。読んでいると、まるで歴史小説みたい。でもそんなところに妖精や魔女が登場しても、全然違和感がないんですよね。逆に、そういう存在が本当にスコットランドやイングランドの日常に根ざした存在だったんだなあと感じられるほどです。
継母が実は魔女だったというのは、「シンデレラ」を始めとするおとぎ話によくあるパターンなんですが、先妻と後妻の娘同士が実の姉妹のように仲良くなるという展開はちょっと見ないですね。ケイトは、キャサリンを母親の悪意から守ろうとしながらも、母親に愛情を示されるとやっぱり嬉しくなるし、魔女を忌まわしく感じながらも、同時に強く惹かれるものも感じているし、キャサリンのためには魔女が死んで嬉しいけど、母親を失うのはやっぱり悲しいんですよね。でもそんな板ばさみの状況もしっかり受けとめていて、基本的に守られるだけのキャサリンよりもずっと魅力的でした。この2人、どちらも「ケイト」ですけど、「ケイト・クラッカーナッツ」と呼ばれるのは、キャサリンではなくてケイトの方。やっぱり彼女が主人公なんですね。(岩波書店)


+既読のキャサリン・ブリッグズ作品の感想+
「妖精 Who's Who」キャサリン・ブリッグズ
「魔女とふたりのケイト」K.M.ブリッグズ

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12世紀末のイギリス。ウェールズ近くのコルディコットの荘園領主の息子・アーサーは13歳。神父に習う読み書きの勉強は楽しいものの、目下の夢は騎士に仕える従者としての修業をすること。しかし16歳の兄は12歳の時に修業に出してもらったのに、アーサーが修業に出してもらえる見込みはまるでないようなのです。そんなある日、アーサーは父親の友人のマーリンに黒曜石の石を渡されます。絶対に秘密だと言われたその石を自分の部屋で見ていたアーサーは、石の表面に突然見知らぬ情景が映し出されて驚きます。

これは、ソニーマガジンズから全3巻の単行本で刊行されている「ふたりのアーサー」と同じ作品。角川文庫から再版されるに当たって題名が変わったようですね。でも1巻が2004年、2巻が2005年に出たのに、3巻目がなかなか出ないんです。本当は出揃ってから読もうと思ってたんだけど、積んでるのも気になるし、待ちきれなくて先に読んでしまいましたー。
獅子心王リチャードからジョン王へと移り変わろうとしているイギリスが舞台で、13歳の少年アーサーの視点から日記のように描かれていきます。最初のうちは荘園の生活が事細かに描き出されてるだけで、それはそれでとても興味深いんですが、アーサーがマーリンに石をもらってから、話が一気に動き始めるんですね。石が見せるアーサー王伝説の場面は、現実のアーサー少年の出来事とどこかしらリンクしてて、アーサー王の出生の秘密が明かされるとアーサー少年のことも明らかになったりします。...でも、そこにどういう意図があるのかはまだ不明。私はてっきりアーサー少年がアーサー王の生まれ変わりで、アーサー王がブリテンの危機に復活するという話なのかと思ったんですけど、どうやら違うようで... マーリンについてもよく分からないままだし。
それにしても、この話に登場する人たちって、ほんと全然アーサー王の話を知らないんですね。アーサー少年のおばあさんが、アーサー王のこととは知らずに眠れる王様の話をしたりするんですけど、誰もアーサー王という存在自体知らないようです。なんだか不思議になってしまうほど。字の読めない人たちはともかく、神父ですら「ティンタジェル」が何なのか全然知らないんですもん。この当時は本当にそうだったのでしょうか。
でも3巻まで全部読まないと、感想が書きにくいな。3巻は一体いつ出るんでしょう?(角川文庫)

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ヘンリー二世が治めていた頃のイングランド。シャーウッドの緑の森の中に、ロビン・フッドという名高いお尋ね者とその仲間たちが住んでいました。ロビンがお尋ね者になったのは、18歳の若者だった頃。ノッチンガムの郡長が催す弓試合に参加しようと歩いていたロビンは、森役人にからかわれて怒り、王様の鹿だけでなく森役人の1人も射殺してしまったのです。それ以来、シャーウッドの森の奥深くに隠れ住む生活。しかしロビンの周囲には同じようなお尋ね者たちが集まって緑の森を駆け回り、弓試合や棒試合をしながら、森の鹿を食べ、自分たちで作ったビールを飲んで毎日を楽しく暮らしていたのです

子供の頃から大好きだった本。まず陽気で明るくて弓が上手なロビン・フッドがかっこいいんですよね。それに物語が進むにつれてどんどん仲間が増えていく様子も楽しい! しょっちゅう誰かと勝負してるんですけど、相手の強さに惚れ込んで仲間に勧誘しちゃうんです。ロビンも相当強いけど、完全に無敵になっちゃうほど強いわけじゃないのが、また人間らしくていいのかも。時々負けて苦笑いしてますしね。そしてロビンの仲間も、個性派揃い。大男なのに「小人」のジョーンや酒飲みのタック坊主、すばしっこいウィル・スタトレイや、気取り屋のようでいて実は強い赤服のウィル、素敵な歌を奏でる吟遊詩人のアラン・ア・デールなどなど。でも、この本を読むまですっかり忘れてたんですけど、この本の終盤でロビンはリチャード一世とすっかり親しくなって、ハンチングトン侯なんかになっちゃってたんでした... そういえばそうでした。それでリチャード一世と十字軍に遠征するんですよね。でもその部分は駆け足でささっと語られてるので、2度目以降に読む時は、読んでる私もすっかり駆け足になってたかも。愉しいままで終わらせてくれる本ってなかなかないのよねえ、なんて思いながら。

そして子供の頃読んでた時は知らなかったんですが、この本の挿絵は作者のハワード・パイル自身が描いたものなのだそうです。子供の好みかどうかはともかく、どれも雰囲気たっぷりでなかなか素敵なんですよー。表紙の絵もそうです。挿絵の中で一番好きなのは、ロビンが肉屋になった場面。相手の娘さんがとても嬉しそうで微笑ましい♪ でもこのパイルはアメリカ人で、実はイギリスを訪れたことがないと知ってびっくり。日本でロビン・フッドと言えば、まずこの作品が出てくるんじゃないかと思うんですけど、それを書いたのがイギリスに行ったことのないアメリカ人だったとは。そしてハワード・パイルにはアーサー王物の4部作もあるそうなんです。でも日本語には訳されてないらしくって、とっても残念。読んでみたいなー。(岩波少年文庫)

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12世紀末、獅子心王・リチャード一世がオーストリアに幽閉されていた頃。イギリスではアシュビーで当代一流の戦士たちが技を競う武術試合が開催されます。2日間通して優勝者として選ばれたのは、名前を名乗ろうとせず、素顔も見せないまま参加していた「勘当の騎士」。そしてその勘当の騎士から無理矢理兜が取られた時、そこに現れたのは、父親から勘当されて十字軍の兵士として出征していたはずのアイヴァンホーだったのです。

イギリスロマン主義の作家・ウォルター・スコットの代表作。
ブルフィンチ「中世騎士物語」(感想)でロビン・フッドが登場すると知って以来、読みたかった本。いやー、面白かったです。ロビン・フッドもかなり沢山登場するし~。タック坊主も。2人とも、終盤までずっと名前が明かされないままなんですけどね。でも名前は出てこなくても、鮮緑色(リンカーン・グリーン)の上衣を着て、といういう時点で、イギリスの読者なら誰でもその正体に気づくそうです。
ただ、題名こそ「アイヴァンホー」なんですが、アイヴァンホーはあんまり主人公という感じがしませんでした。アイヴァンホーとロウイーナ姫とのロマンスというのもあるんですけど、この2人がお互いのことを好き合ってるというのが既成の事実としてあるだけ。アイヴァンホー自身はともかく、ロウイーナ姫は単に絶世の美女っていうだけの描かれ方だし...。むしろ当時のノルマン人とサクソン人の反目を背景に、黒衣の騎士(獅子心王リチャード)とロクスリー(ロビン・フッド)一味の活躍を描いた冒険活劇と言った方が相応しいかも。でも主人公は誰かと考えると、どうもこの2人でもないんです。私がこれこそ主人公じゃないかと思ったのは、ユダヤ人のレベッカ。
レベッカの父親は金貸しで、その造形は文学上で描かれるような典型的なユダヤ人。丁度シェイクスピアの「ヴェニスの商人」のシャイロックのような... もしくはディケンズの「クリスマス・キャロル」のスクルージでしょうか。差別のされ方も、そういった作品と同じような感じ。まあ、この造形だと、それもまたいたしかたないかなって感じなんですが... それよりも差別の根深さを思い知らされたのは、純粋可憐なレベッカの場面でのことでした。アイヴァンホー自身、命の恩人のレベッカがユダヤ人だと分かった途端、顔色を変えちゃうんですもん。それまではレベッカのことを天使かと思っていたほどだったのに。これでレベッカが若くもなく、美女でもなかったら、どうなっちゃってたのかしら? なんて思ったりもしたんですが、そんなこともあるせいか、いくつもの場面で聡明なレベッカの凛とした気高さが一層際立っていました。

ただ、この作品の訳って、ものすごーく時代物調なんです。「武士(さむらい)」「上人さま」「拙者」「~し申す」などな、どうしても最後まで馴染めず仕舞い。せっかく面白い作品なのに、この訳のせいで、楽しさ2割減だったかも。これはぜひとも新訳を出して欲しいな。そうそう、こういう時こそ光文社の古典新訳文庫とか!(岩波文庫)


+既読のウォルター・スコット作品の感想+
「アイヴァンホー」上下 スコット
「湖の麗人」スコット
「最後の吟遊詩人の歌」ウォルター・スコット
「マーミオン」ウォルター・スコット

+既読のウォルター・スコット関連作品の感想+
「ウォルター・スコット邸訪問記」ワシントン・アーヴィング

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夏至の前日の夕方、ダンとユーナの兄妹は、両親の地所で自分たちが「野外劇場」と呼んでいる場所に行き、3頭の牝牛相手に「夏の夜の夢」を演じます。おとうさんにシェイクスピアの戯曲を短く書き直してもらい、おかあさん相手に何度も練習して台詞を暗記したのです。上手く演じられて嬉しくなった2人は、思わず最初から最後まで3回も演じてしまうことに。そして腰を下ろして持ってきたおやつを食べようとした時、妖精のパックが現れて...。

妖精パックが連れてくる歴史上の人物たちが、自分の体験談をダンとユーナという兄妹に語り聞かせてくれるという形式の連作短編集。これを読む前にシェイクスピアの「夏の夜の夢」も再読しちゃいました。シェイクスピアに限っては悲劇の方が好きなんですが、「夏の夜の夢」はとても好きな作品。でも随分前に読んだっきりなので、細部はすっかり忘却の彼方... 読み返して良かった。現在の可憐な妖精像を作り出したのはシェイクスピアだとこの間読んだところなので、以前読んだ時とは違った部分に注目して読めたし、福田恆存氏の訳もすごく良かったし。右の画像は私が読んだ新潮文庫版。この表紙も素敵ですよねー。

で、こちらの「プークが丘の妖精パック」ですが、これもすごく面白かったです!
まず、なんで登場する妖精がパックだけなのか、他の妖精は今はどうしてるのかという部分で、パックの説明にはすごく説得力があったし... これは上手い。そして中で語られる物語を読んでいて、どことなくローズマリー・サトクリフの本の題名を連想しちゃうなと思っていたら(中身は読んでないので、題名だけ)、サトクリフもこの作品に影響を受けてるんだそうです。ちょっとびっくり。でもやっぱりこれは、他の作家さんに影響を与えるタイプの本だろうな。1つ1つのお話も面白かったし、大きな歴史の流れを追うという意味でもすごく面白かった。パック自身が、「どうだった? ウィーランドが剣を与え、その剣が宝をもたらし、宝が法律を生んだ。オークが伸びるように自然なことだ」と言ってますが、まさにその通りですねー。しかも読者にとっても2人の子供たちにとっても単に歴史の教科書に載ってるってだけだった出来事が、語られることによって生き生きと再現されてました。
でもどんなに面白い話を聞いても、家に帰る時間になると、子供たちはオークとトネリコとサンザシの魔法で全てを忘れちゃうんです。なんだか気の毒。もちろん次にパックに会った時に、ちゃんと全部思い出すことにはなるんですが...。ちなみにパックという妖精は、ケルト神話のプークが原型と言われてるので、この題名は要するにパックの丘のパックってことですね。偶然アメリカ版を見つけたら、表紙がラッカムでした。ラッカムの絵は表紙だけなのかしら。中も見てみたーい。(光文社古典新訳文庫)


+既読のラドヤード・キプリング作品の感想+
「少年キム」ラドヤード・キプリング
「プークが丘の妖精パック」キプリング 「夏の夜の夢・あらし」シェイクスピア
「キプリング短篇集」キプリング

+既読のシェイクスピア作品の感想+
「プークが丘の妖精パック」キプリング 「夏の夜の夢・あらし」シェイクスピア
「ジョン王」ウィリアム・シェイクスピア
「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」シェイクスピア
「ハムレット」シェイクスピア・「新ハムレット」太宰治
「マクベス」シェイクスピア
「トロイラスとクレシダ」ウィリアム・シェイクスピア

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グィネヴィアの裏切りを知ったアーサーの落胆は激しく、ちょっとしたことで爆発するような状態。腹心のダーヴェルも遠ざけられがちで、しかもアーサーからの使節は全て殺すと宣言しているエレへの使者役が、ダーヴェルに言いられつけるのです。一方、ブリタニアの13の宝物を揃えたマーリンとニムエは、この年の夏、大いなる魔法を行うことに。その準備のために、2人はまずリンディニスの広大な宮殿に入り込み、民衆の前で奇跡を起こします。

小説アーサー王物語の第3部。完結編です。
第2部で、ダーヴェル=ガウェイン?なんて思ったりもしたんですが、第3部になって本物のガウェインが登場しました。別人で良かった~。でもこんな役回りとはびっくり。しかもこれまた伝説とはかなり違う姿のようです。
この第3部で良かったのは、ダントツでグィネヴィア! いかにも華のあるカリスマ的な存在という面が前面に出ていて、カッコ良かったです。アーサー王物を読んでてグィネヴィアが好きになるって珍しいんですけど(大抵は「コイツさえいなければ」と思ってしまう)、この作品ではなかなか良かったです。特にアーサーの戦士にこれといって知将と言える人物がいないので、彼女の頭の良さが一層光ってるんですよね。(いい意味で)
あと、全くのオリジナルのようでいて、要所要所で伝説のエピソードを取り入れているのが嬉しいところ。それとマーリンとニムエの魔法は、ほとんどが手品だったり自然現象を利用したものだったんですが、あの最後の魔法はどうだったのかしら... これだけは本当の魔法だったと思いたいところ。この場面はとても感慨深くて、これで一時代が終わったのだと感じさせられます。いい場面だ...。
ダーヴェルがキリスト教の修道士となってサンスム司教の下にいる理由も分かりますし、イグレイン王妃のために翻訳をしている法廷書記のダヴィズが、一言一句作り変えたりしていないとむっとしている場面は可笑しいです。ただ、最後の最後がちょっとあっけなさすぎではないでしょうか。全6巻の大作をここまで読んできたわけだし、もうちょっと余韻が欲しかったですねえ。...とは言え、とても面白かったです。これもまた1つのアーサー王物として、満足満足。(原書房)


+シリーズ既刊の感想+
「エクスカリバーの宝剣」上下 バーナード・コーンウェル
「神の敵アーサー」上下 バーナード・コーンウェル
「エクスカリバー最後の閃光」上下 バーナード・コーンウェル

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ようやくサクソン人に対抗する全ブリタニアの同盟ができようとしていた頃。アーサーはかねてから考えていた通り、ランスロットをシルリア王に据え、ポウイスの王女・カイヌインと結婚させようとしていました。一方、マーリンとニムエはブリタニアの13の宝のほとんどを手中に収め、今度はクラズノ・アイジンの大釜を手に入れようとしていました。大釜はドルイド教の聖地・ディウルナハのモン島にあるというのです。

小説アーサー王物語の第2部。
このシリーズが書架に並んでるのを見た時、まず驚いたのは「神の敵アーサー」というこの題名だったんです。一体何をやって、どんな状況になったんだろうってずっと気になってました。この作品の中アーサーは異教徒... というよりむしろ無神論者。前の巻でも軍資金集めのために無理矢理教会から税金を取り立てたりなんかしてたので、それはいずれ問題になるだろうとは思ってましたが... 結局のところ、神の敵というより教会の敵、教会の敵というより1人の野心的な司教の敵って感じですね。この点では、期待してたほどではなかったかな。(何を期待してたんだ、一体) それよりアーサーとグィネヴィアとの関係に対するニムエの言葉がとても興味深かったです。やっぱり才気走ったグィネヴィアには、野心のないアーサーは物足りなかったんですねー。そういう意味では、グィネヴィアとランスロットというのは怖いぐらいぴったり。
この第2部では、トリスタンとイゾルデのエピソードが上手く取り入れられていて、読みながらにやにや。ダーヴェルのエピソードは微笑ましくていいなあ。あと、大釜探しはアーサー王伝説における聖杯探求。やっぱりギャラハッドも参加するのねっ。(ギャラハッドは実は結構お気に入り) そしてダーヴェルが自分の紋章に選んだのは五芒星。五芒星といえば、ガウェインの紋章だと思ったんですが... もしやダーヴェルはガウェインの役どころだったんですか? それがちょっとびっくりでした。(原書房)


+シリーズ既刊の感想+
「エクスカリバーの宝剣」上下 バーナード・コーンウェル
「神の敵アーサー」上下 バーナード・コーンウェル
「エクスカリバー最後の閃光」上下 バーナード・コーンウェル

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リチャード・セント・ヴァイヤーは当世随一の剣士。<丘>の貴族たちから依頼される暗殺や決闘が彼の仕事であり、その日の仕事は、ホーン卿の園遊会での決闘でした。2人を殺してやることが終わったリチャードは、愛人のアレクの待つ家に戻ります。しかしリチャードはやがて貴族たちの水面下の権力争いに巻き込まれることになり...。

先日読んだ「吟遊詩人トーマス」(感想)が良かったので、エレン・カシュナーの他の作品を。これは彼女の処女長編だという作品。
「吟遊詩人トーマス」は正真正銘のファンタジーだったんですけど、こちらには魔法のかけらもなくて、中世的な都市を舞台にした剣戟小説という感じ。まあ、そういうのも好きなんですけど... でもどうも登場人物が多すぎるし、描写が過剰なのかとっても混乱&食傷。かつてリチャードのような存在だったというヴィンセント・アップルソープとリチャードの決闘の場面は、池波正太郎の「剣客商売」ような雰囲でなかなか良かったんですが、その他の場面は宝塚歌劇風?(笑) しかも意味不明の同性愛カップルなんてのも出てくるし...。政治的な駆け引きにもあまり興味を持てず、かといってこの架空の街の描写もそれほど魅力的には感じられなくて、あまり物語に入り込めませんでした。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のエレン・カシュナー作品の感想+
「吟遊詩人トーマス」エレン・カシュナー
「剣の輪舞」エレン・カシュナー

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かつてはアーサー王に忠誠を誓っていたダーヴェル・カダーンも、今は年老いた修道士。プロフヴァイル王妃・イグレインの命によって神の敵たるアーサーの物語をサクソン語で羊皮紙に綴り始めます。ダーヴェルがまだ少年だった頃。ドゥムノニアの王・ユーサー・ペンドラゴンは正嗣である息子のモードレッドをサクソン人との戦いで失い、遺されたモードレッド妃・ノルウェンナの出産を待ちわびていました。そしてノルウェンナが産んだのは、足萎えの男の赤ん坊。ユーサーはその子に父親の名を取ってモードレッドと名付け、その子こそが、王国の跡継ぎであることを宣言するのですが...。

冒険小説家として有名だというバーナードコーンウェルの書いた、小説アーサー王物語の第1部。
アーサー王伝説を題材にした作品ということで手にした本なんですが、いわゆるアーサー王伝説とはまるで違っていてびっくり。ここには円卓の騎士たちも優雅な乙女たちもいなくて、騎士道なんかもまるでなし。これは相当泥臭い話になってるんですねー。人物設定もその造形も、ほんと伝説とは全然違っててびっくり。アーサーの人好きのする性格というのはイメージ通りだったんですけど、彼はユーサー・ペンドラゴンの庶子で、しかも正嫡のモードレットを殺したとして父親に憎まれてるし、マーリンはマーリンで本当に魔術が使えるというわけではなくて、基本的には全て薬草の効能と手品と演出みたいですね。(それでも迷信深い人々には、十分超自然的なことが起きているように見える) 伝説ではどちらかといえば好々爺っぽいマーリンなのに、「血も涙もない人間」なんて言われたりもしてるし...。特にびっくりしたのはランスロット。伝説では円卓の騎士の中でも一番華やかで高潔な騎士だったはずなのに、ここでのランスロットときたら! ファンが読んだらがっかりすること間違いなしです。(笑) ついでに言えば、石に刺さった剣も存在せず、キャメロットのような美しい都もなくて、それらは語り手であるダーヴェルによって詩人の作りごとだと断じられています。そしてダーヴェルの書き綴る物語もまた、おそらくイグレインの好みに脚色されてしまうのだろうとも。
著者あとがきには、こうありました。

どんなに徹底的に調べても、史料から確実に類推できることは限られている。おそらく五世紀から六世紀にかけてアーサーという人物は実在したに違いない。その人物は王にはならなかったにしても傑出した将軍で、憎むべきサクソンの侵入軍相手に赫々たる戦火をあげたらしいーーそれ以上のことは闇に包まれている。

確かにこの辺りの出来事に歴史的な裏づけを取るのは困難。そこに工夫を凝らすことは十分可能。とは言っても、ここまで大胆に作ってしまうとはー。
でもその分、歴史的背景や当時の風俗に関しては徹底的に調べてあるんでしょうね。その描写にはものすごくリアルな重みがありました。ローマ帝国風の洗練された都市もあるんですけど、ここに描かれているほとんどは、まだ洗練には程遠い暮らしをしていたブリテンの人々の暮らし。その対比が強烈なんです。戦いと強奪による血なまぐさと、あとは糞尿の臭いが漂ってきそうな... でも実際はこんなものだったのかもしれないなあと素直に納得させられてしまう力がありました。これは先行きどうなるんだろう? 予測ができません。続きも借りてこなくっちゃ。(原書房)


+シリーズ既刊の感想+
「エクスカリバーの宝剣」上下 バーナード・コーンウェル
「神の敵アーサー」上下 バーナード・コーンウェル
「エクスカリバー最後の閃光」上下 バーナード・コーンウェル

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アフリカと南アメリカの港を巡る1ヶ月のクリスマス・クルーズを終えて、リスボンへと向かっていた巨大客船・ポセイドン号が、海底地震による激しい津波によって転覆。船体はさかさまになり、あちらこちらで犠牲者が続出します。生き残ったのは、ダイニングルームにいた船客たちなどわずか数十名のみ。いつ助けが来るのか、いつまで船は沈まずに耐えられるのか、一切分からない状況の下で、そのまま助けを待っているつもりのない人々は、スコット牧師の先導で、かつて船底だった部分へと上り始めます。

1972年の「ポセイドン・アドベンチャー」、2006年の「ポセイドン」と2度に渡って映画化された作品の原作。私も「ポセイドン・アドベンチャー」はテレビでやってるのを観たことがありますが、あのパニック映画の原作を書いたのが、「ジェニィ」や「トマシーナ」のポール・ギャリコだったとはびっくり! ポール・ギャリコだって、ファンタジー系の作品ばかり書いているというわけではないけれど、でもやっぱりイメージ的には、そっち系なんですよね。でも、ポール・ギャリコ自身は元々はスポーツライターだったのだそう。そしてこの作品も、表面上はパニック物なんですけど、それぞれの人物の描き方・掘り下げ方は、やっぱりポール・ギャリコならではでした。

映画の方は実はあんまり良く覚えてないんですが、でも割とすっきりとした... というのは言葉が変ですが、ストレートなパニック物に作られていたような記憶があります。最後も感動のラストだったような... いかにもハリウッド映画らしい感じですね。皆を先導する牧師は、牧師というにはアウトロー的なところがあって、でもそこが逆に強いリーダーシップを発揮して、皆を先へ先へと導いていたような。でも原作では、ちょっと違ってました。(映画の方の私の記憶が間違ってる可能性も十分にありますが!) 原作のスコット牧師は、プリンストン大学時代からのフットボールの名選手。オリンピックでも2度の金メダルを獲得していた、全米のスター。今までの人生で、何も挫折を知らずにここまで来てしまったような人物なんです。そんなスターが、なんで牧師という職業を選んだのか? まずそこからして興味をそそります。そしてスコットがタイタニック号の転覆という出来事を神からの試練と受け取るのはいいんですけど、そこでまるで神に挑戦するかのような、神に対して取引を申し出ているかのような祈りの言葉を唱えるんです。この部分は、おそらく日本人が読むよりも欧米人が読んだ方がショッキングなんじゃないでしょうか。それ以外にも色々あって、表面上は非の打ち所のない人物なのに、でも実はつかみ所のない不思議な人物なんですよねえ。今まで自信満々で「勝ち組」としての人生を歩んできたスコットと、牧師としてのスコットがどうしても相容れなくて、まさにその部分が彼を自滅させたようにも見えてきます。それだけにラストは映画のような「感動のラスト」ではなくて、ほろ苦いラスト。あ、もちろんスコット牧師だけでなく、他の面々の部分の描き方・掘り下げ方も「ほろ苦さ」に繋がるものなんですよね。パニック部分も面白いんですが、とにかく人間的興味に引かれて読み進めた作品でした。(ハヤカワ文庫NV)


+既読のポール・ギャリコ作品の感想+
「トマシーナ」ポール・ギャリコ
「セシルの魔法の友だち」ポール・ギャリコ
「マチルダ ボクシング・カンガルーの冒険」ポール・ギャリコ
「われらが英雄スクラッフィ」ポール・ギャリコ
「幽霊が多すぎる」ポール・ギャリコ
「猫語の教科書」ポール・ギャリコ
「ハリスおばさんパリへ行く」「ハリスおばさんニューヨークへ行く」他2冊 ポール・ギャリコ
「七つの人形の恋物語」「スノーグース」ポール・ギャリコ
「トンデモネズミ大活躍」「ほんものの魔法使」ポール・ギャリコ
「ポセイドン」上下 ポール・ギャリコ
「ザ・ロンリー」ポール・ギャリコ
「「きよしこの夜」が生まれた日」ポール・ギャリコ
Livreに「ジェニィ」の感想があります)

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修道士カドフェルシリーズ21冊目。これが本当の最後。「ウッドストックへの道」「光の価値」「目撃者」という短編が収められた1冊。

「ウッドストックへの道」には、まだ修道院に入っていない、40代そこそこのカドフェルが登場。かつてイーヴシャムの修道士だったという男とのやり取りや、その後の出来事によって、シュルーズベリの大修道院に行くことになるという作品。まさにこの本の題名である「修道士カドフェルの出現」です。人生のどんな転機に対しても、さすがカドフェルは常に自然体なんだなあと思わされる作品。そして、まだこの頃は女帝モードの父であるヘンリー1世が生きてるんですけど、作中で後継とされていたウィリアム王子が海難事故に遭うんですよね。そういう意味でもシリーズに繋がる重要な作品と言えそうです。カドフェルが修道院に入るには、これ以上の年はなかったかも。

3作の中では、やはり「ウッドストックへの道」の印象が一番強かったんですけど、「光の価値」も、シリーズの中に長編としてあってもおかしくないような作品だったし、「目撃者」で、ドジなオズウィン修道士が登場するのも懐かしかったし、やっぱりこのシリーズがもう新作で読めないなんて寂しいですー。でもエリス・ピーターズ自身が、誰にも続編を書いてはいけないと遺言しているそうなので... それでもピーターズは、最初はカドフェルをシリーズ物にする気なんてなかったんですね。彼女自身による序文を読んでびっくりでした。
巻末には「修道士カドフェルシリーズ:ガイド」があって、物語の歴史的な背景やシュルーズベリについて、カドフェル以外の主な修道士や修道院での1日、シリーズに出てくる食べ物や薬草、各巻のあらすじなどがまとめてある小事典となっています。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
「聖なる泥棒」「背教者カドフェル」エリス・ピータース
「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

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アーサー王伝説を、アーサー王の異父姉にあたるモーガン・ル・フェイの目を通して描いた「アヴァロンの霧」が、物凄く面白かったマリオン・ジマー・ブラッドリー。こちらの作品は、トロイア戦争が題材です。トロイアの王女で、パリスの双子の妹のカッサンドラーの視点から描いていきます。元は「ファイアーブランド」という1冊の本だったものを、日本で刊行するために、「太陽神の乙女」「アプロディーテーの贈物」「ポセイドーンの審判」という3冊に分けたもの。
ブラッドリーの作品らしく、これもフェミニズム全開でした。女性が強いです。ちょっと男性が情けなさすぎるんですけど、物語そのものは面白かった。ブラッドリーにかかると、こんなに女性が生き生きしてくるんだなあと、改めてびっくり。

全体的な構造としては、「アヴァロンの霧」と同じく、大地の女神を信仰する女性たちと、その世界の終焉といった感じですね。徐々に母系から父系社会へと移行しつつある世界です。古くからの女神がないがしろにされるようになり、男性の論理に都合の良い神々が台頭。かつては自分の手で国を治めていた女王たちは、気がついたら自分の夫に権力を握られているという寸法。でも男性は外で働き、女性は家を守るという観念が浸透していくのと同時に、男性の庇護下にいることで満足する女性たちの姿が目立ってきます。主人公のカッサンドラーを始めとして、自分の足で立つことを望む女性たちもまだまだいるのですが。
いくらフェミニズムとは言っても、ここまで男性をこき下ろしてしまうというのもどうかなあと思うんですけど... これで男性がもっと魅力的だったら、言うことないのになあ。アキレウスに至っては、ただの戦狂いなんですよね。やっぱり「アヴァロンの霧」は、この辺りのバランスがすごく良かったように思います。でもこちらの作品の最後は、男性と女性が協力して築き上げる世界の予感を感じさせるんです。どうしたのかな、ブラッドリー、心境の変化?
井辻朱美さんによる解説も面白かったです。「アヴァロンの霧」を「源氏物語」、こちらを「風と共に去りぬ」に喩えててびっくり!(笑)

この作品を読んでたら、無性にギリシャ神話と「イーリアス」が読みたくなったんですけど、手元にあったのはギリシャ神話だけ。こちらのトロイ戦争周辺の部分は再読したんですが、記述が少ないし、そっけなさすぎて物足りない! やっぱり「イーリアス」かなあ。私が気が付いただけでもかなり設定が違うので、今、読んだらどんな感じがするのか気になります。こういう時に本が手元にないというのは痛い...
しかも、それを読んだら、「オデュッセイア」も読みたくなりそうなんですけど、こっちも手元にないんです。「オデュッセイア」繋がりで、ジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」(こっちは未読)も読んでみたいんですが... とは言っても、続けざまに読むのはきつそうなので、そこまで辿りつくのはいつのことになるやら、ですが。(笑)(ハヤカワ文庫FT)


+既読のマリオン・ジマー・ブラッドリー作品の感想+
「白き手の巫女」「龍と鷲の絆」「希望と栄光の王国」マリオン・ジマー・ブラッドリー
「太陽神の乙女」「アプロディーテーの贈物」「ポセイドーンの審判」マリオン・ジマー・ブラッドリー
Livreに「アヴァロンの霧」の感想があります)

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修道士カドフェルシリーズの19作目と20作目。あとは短編集を1冊残すのみなので、長編はこれでオシマイです。淋しいー。でも、特に20巻で完結という作りになっているわけではないし、そういう意図もなかったようなんですが(エリス・ピータースは続編を書こうとしていたそうなのですが、その途中で亡くなられてしまったようです)、19巻では、1巻の「聖女の遺骨求む」で聖ペテロ聖パウロ修道院にやって来た聖ウィニフレッドの遺骨が盗まれるという事件で、カドフェルの行動を色々振り返ることになるし、20巻ではこれまでのスティーブン王と女帝モードの争いという歴史も大きく絡み合い、しかもこれまで探偵役に徹していたカドフェルが名実共に話の中心となり、最終作に相応しい物語となっています。

このシリーズは、12世紀という時代背景における人々の生活や修道院での暮らしが色々と描かれているのがとても興味深いんですが、今回は19巻に出てきた聖書占いというのが面白かったです。これは聖骨箱の上に福音書を載せて、目は他の方向に向けて両手で福音書を開き、人差し指で指した部分の文章を読み取り、解釈するというもの。今回の占いの結果に関してはやや出来すぎの感があるのですが、それでも臨場感たっぷり。荘厳で敬虔な雰囲気がよく現れていました。そんな偶然に頼るなんて! とも思ってしまうのですが、それも神の御心ということなんでしょうね。今よりも遥かに信心の篤いこの時代ならではの占いで、すごく面白かったです。
ただ、このカドフェルシリーズは何人かの訳者さんが訳してらっしゃるんですが、岡本浜江の訳だけ登場人物の言葉遣いが違うのが気になります。19巻もやけに古めかしい言葉遣いだし...。これでシリーズ全部を統一しているのならまだしも、訳者さん同士での連携というのはないのかしら? 1人だけ浮き上がってしまうのは問題だと思うんですけどねえ...。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
「聖なる泥棒」「背教者カドフェル」エリス・ピータース
「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

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ローマの軍団によるブリテン島侵略によって、ドルイド僧は殺害され、巫女たちは陵辱されるという歴史から1世紀余りが経った頃。大ドルイド僧の孫娘・エイランは、森の中の落とし穴の中に落ちた青年・ガイウスを助けて家に連れ帰ります。エイランの一家の手厚い看護で、健康を取り戻すガイウス。しかしガイウスは、助け出された時はブリトン人の服装をしており、実際に半分ブリトン人の血が入っているものの、実はローマ人だったのです。恋に落ちたエイランとガイウスは結婚を望むのですが、真相を知った双方の父親に反対されて...。

モーガン・ル・フェイの視点から描いたアーサー王伝説、「アヴァロンの霧」全4巻がものすごーーく良かったマリオン・ジマー・ブラッドリーの作品、「聖なる森の家」3冊。「白き手の巫女」「龍と鷲の絆」「希望と栄光の王国」です。「アヴァロンの霧」の時代からさらに300年ほど遡ったブリテン島が舞台の物語。
「アヴァロンの霧」でもドルイド教関係がとても面白かったんですけど、こちらもやはりそうでした! 特に、巫女たちの儀式の場面が良かった。神秘的かつ幻想的。自然と調和した巫女たちの日々の生活も素敵です。でもローマ人側は... この時代はイエス・キリストを断罪したはずのローマ人にキリスト教が広まっていく時代でもあって、そういう面では興味深いんですけど... 3冊目「希望と栄光の王国」の久美沙織さんの解説にもある通り、この作品、男性陣が今ひとつパッとしないんですよね。特にエイランと恋に落ちるガイウスってば、なんて詰まらない男なんだー。ラストがやけに呆気なく感じられてしまったのも、きっとこのガイウスのせいでしょう。

この作品の冒頭で、「エイランをとおして、"龍"族つまりブリトン人と"鷲"族つまりローマ人の血は、賢き者すなわちドルイド教徒の血と混じりあったのだ。いざというときにはいつも、ブリテンを救う者がその血筋からあらわれるだろう」という予見がある通り、後にこの血筋から現れるのがアーサー王。こんな風に時代の流れが繋がっていくのって大好きです。この物語の時点では、巫女たちは「聖なる森の家」ヴェルネメトンに住んでるんですけど、その後アヴァロンに移っていくんですよね。その辺りの話もあれば読みたいんですけど、ブラッドリーは既に亡くなられてるので残念。他の作家さんが何か書いてないかしら。
あとブラッドリーの作品だと、トロイア戦争を描いたというファイアーブランドシリーズも読んでみたいです。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のマリオン・ジマー・ブラッドリー作品の感想+
「白き手の巫女」「龍と鷲の絆」「希望と栄光の王国」マリオン・ジマー・ブラッドリー
「太陽神の乙女」「アプロディーテーの贈物」「ポセイドーンの審判」マリオン・ジマー・ブラッドリー
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英国領ジブラルタルには、この地からサルがいなくなった時、英国人もいなくなるという言い伝えがありました。そのせいか、乱暴者のサルたちを管理するのは代々英国砲兵隊の役目となっていました。しかしサルの中でも一番大きくて乱暴者のスクラッフィの悪ふざけせいで、担当のベイリー大尉はこっぴどく叱られ、任を解かれてしまいます。そしてその言い伝えを知った敵国ドイツが、逆にそれを利用しようとして...。

ジブラルタルからサルが消えた時、という言い伝えは本当にあったんだそうです。しかもそのサルを決して死に絶えさせちゃ行けないって、当時の首相・ウィンストン・チャーチルが本当に通信したらしい...。でも逆に言うと、それ以外はポールギャリコの創作。ジブラルタル海峡に近づいたこともないんですって。その2つの事実からこんな話を作り上げちゃうなんて、やっぱりギャリコは凄いかも。
ということで、第一次世界大戦を背景にしたサルを巡るドタバタ劇。戦争絡みだなんて信じられないぐらい楽しい作品になってます。登場人物たちは相変わらず楽しいし、そこに騒動を巻き起こすサルもスゴイ。でもいくら大切にされてもサルはサル。サル同士は心を通わせるんですけど、人間が何を考えているかとかどんな都合があるかなんて、サルには知ったこっちゃないんですよね。特にスクラッフィの傍若無人さは突き抜けています。いくら餌をくれたとしても、人間は所詮人間。そんなスクラッフィの姿が爽快でした。(創元推理文庫)


+既読のポール・ギャリコ作品の感想+
「トマシーナ」ポール・ギャリコ
「セシルの魔法の友だち」ポール・ギャリコ
「マチルダ ボクシング・カンガルーの冒険」ポール・ギャリコ
「われらが英雄スクラッフィ」ポール・ギャリコ
「幽霊が多すぎる」ポール・ギャリコ
「猫語の教科書」ポール・ギャリコ
「ハリスおばさんパリへ行く」「ハリスおばさんニューヨークへ行く」他2冊 ポール・ギャリコ
「七つの人形の恋物語」「スノーグース」ポール・ギャリコ
「トンデモネズミ大活躍」「ほんものの魔法使」ポール・ギャリコ
「ポセイドン」上下 ポール・ギャリコ
「ザ・ロンリー」ポール・ギャリコ
「「きよしこの夜」が生まれた日」ポール・ギャリコ
Livreに「ジェニィ」の感想があります)

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修道士カドフェルシリーズの16冊目。もう16冊も読んだのかー... と、なんだか感慨深いです。読んでいてとても心地良いシリーズなので、あと5冊しか残されてないのがちょっと寂しいのですが。
今回は中心となるのは、まず異端問題。この時代ならではですね。イレーヴ青年の持った「生まれたばかりの赤ん坊が、洗礼を受けていないという理由だけで地獄に落とされるというのか?」という疑問や、「人は、神の恩寵を受けるために日々努力するべきであり、ただ単に救いを待つべきものではない」という言葉は決して間違っていないはずだし、当然だとも思うのに、キリスト教の教義に対して疑問を持つこと自体が異端であり、断罪されかねないこの時代では、神を冒?する言葉としてしか受け止められないんですよね。そもそも「父と子と聖霊の御名によりてアーメン」という三位一体の言葉自体、突き詰めて考えるとすっごく難しい問題のはずなのに、それが上手く理解できないというだけで異端とされちゃうなんて。(私だって、何度唱えたか分からないけど、まだ理解しきれてないぞ!) その辺りのややこしい問題がエリス・ピーターズによってとても入りやすくまとめられているのが興味深かったし、ラドルファス院長やカドフェルの懐の深さが改めて感じられて、とても良かったです。
あと今回はヴェラム皮で作られた祈祷書が登場。これが見てみたい! 本文中の描写を読んでるだけでもとても美しいのです。かなり具体的な描写なので、きっとモデルがあるのだろうと検索してみたんですけど、作り手や持ち主の名前では何も出て来なくて残念。やっぱり、ずばりそのものがあるわけではないのね。... でもどんな本なのかぜひ見てみたいなー。(光文社文庫)


やっぱり本は私にとって一番の精神安定剤だな。と、ふと。
精神的にキツくなってくると読了数が増えるという、不健全な本読みですが(^^;。


+シリーズ既刊の感想+
「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
「聖なる泥棒」「背教者カドフェル」エリス・ピータース
「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

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瀕死のハルイン修道士がカドフェルと院長相手に懺悔。恋人と引き裂かれて18歳で修道院に入ったハルインですが、実は恋人のおなかの中には、既に彼の子が宿っていたのです。そのことを恋人の母親から知らされたハルインは、求められるままにカドフェルの薬草で堕胎薬を調合。しかし恋人はその堕胎薬によって、おなかの赤ちゃんもろとも亡くなってしまったというのです。

修道士カドフェルシリーズ15冊目。今回は懺悔した修道士とカドフェルが、修道士のかつての恋人の墓参りをするために恋人の母親を訪れます。今回はいつも以上にフェアに書いてあるのかしら... あれ?と思ったら一気に謎解きまで全部分かっちゃいました。とは言っても、この作品はミステリだけの作品じゃないので、全然大丈夫なんですけどね。カドフェルを巡る人間ドラマは相変わらず読ませてくれます。それにしても、その恋人だった女性のお母さん、怖ーい。や、彼女自身も哀しい人生を送ってるのは良く分かるんですが...。でもハルイン修道士に関しては、良かった良かった。たとえ事故で足が不自由になっても、心が不自由なまま過ごすよりは、彼にとってはずっと幸せなんですものね、きっと。(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
「聖なる泥棒」「背教者カドフェル」エリス・ピータース
「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

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修道士カドフェルシリーズ14冊目。今回は、5歳の頃から修道院で育てられてきたリチャードの父親が死んだ所から話が始まります。イートンの荘園主だった父親の死で、自動的に荘園主の地位を引き継ぐことになったリチャード。ルドルファス院長は父親の遺志を尊重して、成人するまではリチャードの教育を修道院で引き受けようと考えていたのですが、リチャードの祖母は、まだ10歳のリチャードを22歳の近隣の荘園主の娘と結婚させて領地を広げようと考えていて...。

この時代のことだから年齢の釣り合わない政略結婚っていうのも多かったんでしょうけど、でも10歳の少年に22歳の娘さんとはね...。(これが逆に、22歳の若者に10歳の少女だったら、あんまり違和感を感じなかっただろうなと思ってしまうのが嫌ですなー) でもこの娘さん、いざ登場してみるとこのシリーズに登場するのに相応しい、自分をしっかりと持った賢い女性でした。父親に逆らうなんてとんでもないって感じだったんですけど、いざ決意するとなかなかの芯の強さを見せてくれて素敵。そしてリチャード自身も、この出来事を通してきっと大きく成長したんだろうな。いくら利発でも、こんなことに巻き込まれてしまったら自分のことで精一杯。会ったこともない相手の感情まで推し量れるものじゃないですもんね。
あと、今回は森の描写がとても印象的でした。イギリスの森って日本の森とはやっぱり根本的にイメージが違うのかもしれないですね。私は森といえば鬱蒼とした深い森を思い浮かべちゃうんですけど、ここの描写を見てると案外明るい空間を持つ雑木林という感じ。...と、ここで思い浮かべたのが、梨木香歩さんの「西の魔女が死んだ」。あれも確か明るいイメージでしたよね? そういえば「ロード・オブ・ザ・リング」のエントもあんなんだったし... あの映画では、エントだけは凄く違和感だったんですけど、やっぱりあれがイギリスの森なのかもしれないですね。ロビン・フッドもそんな明るい森に住んでたのかな。(光文社文庫)


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「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
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カドフェルシリーズ13作目。比較的穏やかな巻が続いていたので、今回の殺人事件がすごく血なまぐさく感じられてしまったんですが、でもそんな中で登場する女性が、この作品の中に登場する白バラそのもののようで、とても印象的でした。「決して美人ではなかった」と書かれてるんですけど、でも凛としてて、すごく素敵な女性なんですよー。夫と子供を相次いで失って以来、世俗にもう未練はないって感じだったんですが、でもふと周囲を見渡してみたら、優しい視線があるのに気付いてみたり... 今までは若いカップルが幸せになるパターンばかりだったんですけど、こういう落ち着いたロマンスもいいなあ。ということで、今回も満足。でも全20巻(多分)のカドフェルシリーズなんですが、今の時点で復刊されているのはこの13巻まで。続きは発刊待ちなのです。早く読みたいな。(光文社文庫)


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「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
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「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
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「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
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カドフェルシリーズの11作目「秘跡」と12作目の「門前通りのカラス」。まず、「秘蹟」がすごく良かったです!今まで読んできた中ではこれが一番好きかも。真相は途中で分かってしまったんだけど、でもそれが判明して、解決していく過程がとってもいいのです。カドフェルはもちろんのこと、周囲の人たちの人柄の良さのおかげで、心温まるラストとなってました。そして「門前通りのカラス」。こっちでは、住民全員に嫌われてしまう司祭が登場します。教養もあるし、一見立派な人間なんだけど、思いやりとか謙虚さがこれっぽっちもないんです。教区民の命よりも、やり始めた自分の祈りを続ける方が大切だなんて! 今まで嫌われ役といえば、修道院の副院長とその腰巾着がいたんですけど、でもこの2人に関しては単なる「困ったちゃん」で、「もう、しょうがないなー」って感じだったんですよね。こんなに徹底的に嫌われる人物も登場するとはー。あ、でも、ラストにはくすっと笑わせてくれるようなシーンがあったり、こちらも気持ちが明るくなるような読後感でした。(光文社文庫)


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「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
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久しぶりに読み始めました、修道士カドフェルシリーズ。これは9巻と10巻。9冊目はまるでロミオとジュリエットのようなスタート。今回はカドフェルと、あとお久しぶりのマグダレン修道女がとてもいい味を出していましたー。酸いも甘いもかみ分けた大人の余裕、いいなあ。(マグダレン修道女は、今回で2回目の登場) でもって、今回内戦がかなり激しくなっていて、捕虜の交換の場面もあったんですけど、実際の戦闘場面はともかくとして、その他の時はお互いにとても礼儀正しくて友好的なのには、ちょっとびっくり。お互いの尊厳を認め合い、信頼し合ってるのが良く分かるんです。私たちから見たら同じイギリス人だけど、この場合イングランド人vsウェールズ人だから、全然知らない国との戦争以上に、なかなか難しいんじゃないかと思うんですけどね。今の時代の戦争じゃあ、こんな場面はちょっと見られないわ...。そして10巻でも、以前登場した人物が再登場! この人にはほんと会いたかったので嬉しいなあ。でもカドフェルが時々腰だの膝だの痛がってて、なんだか年を感じてしまうのが寂しいわ。(光文社文庫)


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アメリカ人が書いた中国物ということで、もしや痛々しい勘違いぶりと、物凄い違和感があるのでは... と心配してたんですけど(おぃ)、案外ほんとに中国映画にありそうな、猥雑なパワーがいっぱいの作品でした。唐初期の中国に、なんと「北京」があったり、「秦王」が登場したりするんですけど、原著には「A Novel of an Ancient China That Never Was」という副題が付いているそうだし、作者も分かっていて遊んでるんでしょうね。でもって、登場人物の名前や地名、中国特有の固有名詞などがきちんと漢字に訳されているのがありがたかったです。(この作品を翻訳するのは、さぞかし大変だったでしょうね...)
...でもやっぱりどこか読みにくかったんですよね。1冊の中に3冊分ぐらいの内容が詰め込まれてるせいなのかしら...。全体的にすごく詳細な描写なんだけど、肝心なところで一言足りないようなもどかしさ。実は以前にも、冒頭のあまりの読みにくさに一度挫折したことがあるんですが、今回も挫折しそうになりました。ものすごくテンポが良くて、いかにも楽しそうな雰囲気なのに、それが堪能できなくて残念。だってね、話にようやく乗れたのが、後半3分の1なんですよー。あ、でもそこからはなかなか良かったです。それにそれまでのドタバタぶりからは想像もつかないほどの綺麗なラストシーンでした♪(ハヤカワ文庫FT)

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修道士カドフェルシリーズ7作目と8作目。
7冊目は昨日読み終わってたんですけど、だんだん書きにくくなってきたので一緒に。(シリーズ物ってムズカシイー)
ええと、この2冊は女性がすごく印象的でした。家を守り、夫に仕え、子供を育てるのが女性の最大の仕事だったこの時代、それでも自分の運命を勝ち取るためにあがいている女性たちもいたというのが、なんか嬉しい。カドフェルがいる地方はかなり平穏なんですが、時代もかなり動いているようです。でも私、この頃のイギリスの歴史ってあんまり知らないんですよね。それってやっぱりちょっと勿体無いかも... と思い始めたので、シリーズの次の本に行く前に、軽くおさらいしておこうと思います。まあ、5冊立て続けに読んだことだし、ここらでちょっと一休み。そろそろ違う本に行ってみようっと。(光文社文庫)


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修道士カドフェルシリーズ6作目。イングランドでの政権争いがまたもや激しくなり、女帝モード攻撃を受けたウスターの町から、カドフェルのいるシュルーズベリへも人々が逃げてきます。そんな中で行方不明になってしまった2人の子供の行方が、今回の物語の焦点。夜盗が登場して話がすっかりややこしくなり、なかなかのサスペンス味たっぷりの展開を見せてくれました。そして気になる存在が登場! この彼(ハイ、男性です)、今後もどんどん出てくれればいいんですけど~。そして色々と語ってくれるといいんですけど~。(光文社文庫)

ということで、カドフェルシリーズ3冊読了。さて、まだあと5冊積んでるんだけど、どうしようかな。本当は今度のお正月休みのお楽しみにしようかと思ってたのに、読み始めたら止まらなくなってきちゃった。(笑)


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「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
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修道士カドフェルシリーズ5作目。今回は政略結婚のお話。高慢な領主の花嫁は、まだ18歳。亡くなった両親から広大な土地を受け継いでいるため、後見人に勝手に結婚を決められてしまいます。でもこの彼女、実は好きな人がいて... とまあ良くあるパターンなんですけど、この時代背景に良く似合うからオッケー。(笑)
で、このシリーズで何がいいって、やっぱり人物造形がすごくいいです。特に今回は、それぞれの人物の、隠された意外な素顔が見えてくるんですよね。意外な人物が意外と人間的だったということが見えてきたりなんかして、なかなか深かったです(^^)。(光文社文庫)


この本の解説に、「『カドフェル修道士の薔薇』という品種も...」という文章があってびっくり。そういえば、イングリッシュローズにそういう名前の薔薇あります! 調べてみると、確かにこのシリーズから名前がついたとありましたよ。そうかー、そうだったのかー。ということで、Green Valleyという園芸店での、この薔薇のページはコチラ。綺麗ですよー。ここでは、「ブラザー・カドファイル」になってますが、「ブラザーカドフィール」「ブラザーカドフェル」など、日本語での名称は一定してないみたいです。


+シリーズ既刊の感想+
「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
「聖なる泥棒」「背教者カドフェル」エリス・ピータース
「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

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とーっても久しぶりの修道士カドフェルシリーズ4作目。3巻を読んでから、なんと1年半もあいちゃいました。その間、一度読もうとしたことがあったんですけど、その時は翻訳物の気分じゃなくて、途中でやめちゃったんですよね。
で、今回久しぶりに読むんですが、やっぱりこのシリーズは、読みやすくていいです! 花園大学での、篠田真由美さんと近藤史恵さんの講演会でも、翻訳物の入門編に向いている作品としてカドフェルシリーズの名前が挙がっていましたが(確か篠田真由美さんだったかと)、それも納得できるような作品。舞台は12世紀のイギリス。でも歴史物にありがちな、難しーいとっつきにくい感じはありません。今回はちょっと犯人がバレバレでしたけど、それもご愛嬌。このシリーズで面白いのは、ミステリ部分だけじゃないですし♪(光文社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「聖女の遺骨求む」「死体が多すぎる」「修道士の頭巾」...ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「聖ペテロ祭殺人事件」エリス・ピーターズ
「死を呼ぶ婚礼」エリス・ピーターズ
「氷のなかの処女」エリス・ピーターズ
「聖域の雀」「悪魔の見習い修道士」エリス・ピーターズ
「死者の身代金」「憎しみの巡礼」エリス・ピーターズ
「秘跡」「門前通りのカラス」エリス・ピーターズ
「代価はバラ一輪」エリス・ピーターズ
「アイトン・フォレストの隠者」エリス・ピーターズ
「ハルイン修道士の告白」エリス・ピーターズ
「異端の徒弟」エリス・ピーターズ
「陶工の畑」「デーン人の夏」エリス・ピーターズ
「聖なる泥棒」「背教者カドフェル」エリス・ピータース
「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

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