Catégories:“文学(翻訳)”

Catégories: / / /

  [amazon] [amazon]
小国・アプミーズを治めるピーター王には、ブレイズ、ヒュー、グレゴリー、ラルフという4人の息子がいました。穏やかではあっても、小さく地味なアプミーズを徐々に狭苦しく感じるようになった4人は、他国の人々の暮らしぶりを見たくてたまらくなり、とうとうピーター王は4つのくじと財宝の入った3つの合切袋を用意します。4人のうち3人は北、東、西へ旅立ち、一番短いくじを引いた者は館に戻り王国を継ぐことになったのです。くじの結果、ブレイズとヒュー、グレゴリーはそれぞれ従者と共に旅立ち、末子のラルフはお館に残ることに。しかしラルフは翌朝未明に起きると密かに旅立ちの準備を整え、南へと旅立ちます。

工芸家、装飾デザイナーとして有名なウィリアム・モリスの書いた散文ロマンス。アーサー王伝説の中にあってもおかしくないような、中世の世界を舞台にした騎士や貴婦人と探求の物語。J.R.R.トールキンやC.S.ルイスは、モリスをファンタジー作家として高く評価していて、大きな影響を受けたのだそうです。
永遠の命を得られるという「世界のはての泉」を求めるラルフ王子。最初は無邪気な若者だったラルフが、雄々しく気高い騎士へと変わっていくという寓話的な成長物語なんですけど、それがゆったりと優美に描かれているという感じで、すごく素敵でした。現代の小説が持つジェットコースター的躍動感はまるでなくて、どちらかといえば淡々と進んでいくんですけど、それが静かな深みを感じさせるというか... 読んでいると清々しい気持ちになります。そしてラルフの帰りの旅も丁寧に描かれているのが、またいいんですよねえ。行きの旅で通った町を通ることによって、ラルフの成長ぶりが再確認されているみたい。それに最後まで描かれることによって、物語が綺麗に閉じたなあと感じられました。ただ、あのグロリアという名前は何だったんだろう? それだけは気になります。やがて得る栄光(glory)のこと?
本の表紙の模様は、モリスのウォール・ペーパー"Hammersmith"と"Grafton"。初版のケルムスコット・プレス版の時のバーン=ジョーンズの木版画が挿絵として使われていて、とても素敵です~。こういう絵って大好きなんですよね。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: / /

 [amazon]
18世紀のフランスにいた天才肌のおぞましい男、それはジャン=バティスト・グルヌイユ。当時のパリは現代では想像のつかないほどの不潔さで、強烈な悪臭に満ちており、人間も家も街も全てに悪臭が漂っていました。そんなパリでも並外れて濃厚な悪臭の立ち込める一画に生まれたグルヌイユは、生まれて間もなく孤児となり、施設で育てられた後、10歳の時に皮なめし職人の所に弟子入り。そして数年後、香水調合師のジュゼッペ・バルディーニに弟子入りを志願します。グルヌイユは、ただ1人体臭がなく、しかも恐ろしいほどの鋭い嗅覚を持つ男だったのです。

たらいまわし企画第24回「五感で感じる文学」の時に、うるしのうつわ うたかたの日々の泡のkotaさんが「五感と聞くと、パトリック・ジュースキント『香水』を真っ先に思い浮かべます。」と書かれていて(記事)、しかも「ものすごくおすすめ」と言って頂いて、それ以来読もうと思っていた作品。なのに映画公開ということで色々なところで取り上げられて、読む気が削がれたまま1年経ってしまいました。気がついたら文庫版が入手できない状態になりつつあって、慌てて買いにいきましたよ! 今はamazonでは買えるのに、BK1では買えない状態になってますね。文庫本の画像がなくて、amazonの単行本から引っ張ってきてるんですが、BK1では単行本の画像がNo Imageになってるのに、文庫にこの画像がついてます。あらあら。

ジャン=バティスト・グルヌイユは、言葉よりも先に匂いを覚え、6歳の時には嗅覚を通して周囲の世界を完全に了解していたという少年。自分が嗅いだ匂いで物を覚え、区別し、何十万もの匂いを記憶の中に収めているんです。逆に匂いと関係のない、抽象的な概念を表すような言葉は苦手。そんなグルヌイユが主人公なので、物語の中にはありとあらゆる匂いが登場します。花や香料といった良い香りもあるんですけど、むしろおぞましい臭いの方が多いでしょうね。想像力のある読者ほど、これは読むのがツラいかも。でもね、ものすごくシュールでグロテスクなんですけど、作品そのものからは芳香が立ち上ってくるように感じられるのが不思議なんです。
皆が心惹かれる美女の美しさの素は、その魅惑的な香り。グルヌイユの存在感のなさは、その無臭のせい。それに気づいたグルヌイユは匂いによって人々を支配しようとします。こういうのって面白いですね。良くも悪くも匂いの薄い日本では、あまり存在しない概念かも。でも香りって、ものすごく密接に記憶に結びついていたりしますよね。ふと流れていた香りで、一瞬にして過去の一場面を思い出すこともあるし... しかも忘れていた想いも一緒に。五感のうちでも嗅覚って否応なく入り込んでくるものだし、分かるような気がします。(文春文庫)

| | commentaire(4) | trackback(1)
Catégories: /

 [amazon]
「あたし」が「あたしの人間」に出会ったのは、生まれてから7週間目のこと。じろじろ見つめたり摘み上げたりする人間が多い中で、「あたしの人間」はやさしい目で子猫を見つめ、自分のにおいをかげるようにして、子猫たちに考える時間をくれたのです。「あたし」は決定的に「あたしの人間」を選び、一緒に暮らし始めることに。

たらいまわし企画第22回「サヨナラだけが人生か? グッドバイの文学」の時に、イタリアごろごろ猫記のねるさんの記事で知った本です。(記事) でもその本は、おかぼれもん。のpicoさんに頂いたものなのだそう。26回の「本に登場する魅惑の人々」で、picoさんも挙げてらっしゃいましたねっ。(記事) で、読もう読もうと気になっていたところに、最近の「ねこ・ネコ・猫の本」の時にあかつき書見台のマオさんも挙げてらして...!(記事) これは読むしかないではありませんかー。(笑)

ということで、これはダルシーという1匹の猫の視点から描かれている物語。ディー・レディーの著者紹介の欄に「現在もダルシーが眠る土地、ミネソタ州スティルウォーターに在住」とあるので、実話ということなんですね。訳者あとがきで、江國香織さんが「こんなにストレートな愛の物語を読んだのはひさしぶりでした。ストレートで、強く、正確で、濃密な、愛の物語。」と書いていますが、本当にその通りでした...。途中で「あたしの人間」よりも孤独を選ぶ時期はあるものの、ダルシーの「あたしの人間」への愛情は常に変わらず強く深くて、全身全霊をかけて愛し抜いてるという印象。だからこそ、裏切られたように感じた時は許せないわけですが...。誇り高く、それでいて寂しがりやのダルシー、大好き。
実は先日、出かける時にこの本を持って出ようと思ってたんですけど、その前にちょっと読み始めてて、やっぱりやめたんです。やめて良かった! というのも、もう途中から涙腺が思い切り緩んでしまって、字が読めない状態になっちゃったから。私の涙腺は普段はあまり弱くない... というか結構きっちり締まってる方なので(笑)、ここまできてしまうのは珍しいんですよー。実際に今うちに猫がいるというのもあるでしょうし、その前に猫じゃなくて犬なんですけど、寿命で看取ったとかそういうのもあるので、それを思い出しちゃうというのが大きいんでしょうけどね。ダルシーの気持ちがあまりにストレートに響いてきて、読んでいてツライほどでした。でもすごく良かった。読んだ後、うちの猫を思わずぎゅーっとしてしまって、猫に怒られました。(笑) 図書館で借りた本なんですけど、これは自分でも買おうっと。(飛鳥新社)

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: / /

  [amazon] [amazon]
1912年4月10日。世界最大の客船・タイタニックが出航し、楽師として雇われた7人も乗船。バンドマスターはジェイソン・カワード。何度も楽師として船に乗り込んだ経験を持つ30台半ばの男。一緒に乗り込んだのは、ジェイソンと長年組んでいるロシア人バイオリニスト・アレックス、ビオラ奏者のジム、チェロ奏者のジョルジュ、中流階級の教師のような雰囲気を持つピアニストのスポット。急遽ベース担当として呼ばれた老イタリア人・ペトロニウス、そしてウィーンから出てきたばかりの17歳のダヴィットという面々でした。

タイタニック号では、沈没する時まで、楽団員が演奏をし続けていたんだそうですね。この作品は、その楽団員たちを描いた物語。とは言っても、ここに描かれているのは、実際にタイタニック号に乗っていた楽師たちではなくて、ハンセンの創作した人物たちなんだそうです。タイタニック号の細部や航海の様子、その船長などといった部分は忠実に描き、そこに全くのフィクションを作り上げたのだとのこと。
その7人の楽団員たちは、生まれた国も育ちもバラバラ。この作品では、ジェイソン、アレックス、スポット、ペトロニウス、ダヴィットという5人について、1人ずつ描き出していくんですが、その共通点は、幸せだったはずの人生からいつの間にか転落し、彼らを取り囲む全てが崩壊していったということ。きっかけは人それぞれでも、5人とも見事なほど深淵へと堕ちていくんですね。タイタニック号のような豪華客船ではあっても、船の楽師というのは決して高い地位ではなく、むしろ楽師としては、吹き溜まりと言っていい状態。彼らの破滅の総仕上げがタイタニック号の沈没となり、それがまるで古き良き時代の終焉でもあるような...。
タイタニック号が舞台ではありますが、船の場面はそれほど多くないですし、重要でもないです。船が氷山にぶつかってから沈没するまでがあまりにあっさりしていて、逆に驚いたほど。私は映画「タイタニック」は観てないんですけど、予告編は見てるから雰囲気はなんとなく分かるし、「ポセイドン・アドベンチャー」はテレビで観た覚えが... とは言っても、それもあまり覚えてなくて、背の高い神父が頑張ってた場面が浮かんでくる程度なんですけど(笑)、ポール・ギャリコの原作は読んでるんですよね。(感想) でも、そういった作品とはまるで違っていました。普通なら、氷山にぶつかってからが本番といった感じですが、こちらでは全然。

全編通して回想シーンがとても多いんですけど、その中でもジェイソンのお父さんが語る、宇宙に存在する壮大な音楽について、バイオリンの弦を使ったケプラーの法則の実験の場面がとても素敵でした。そして人物的に惹かれたのは、ピアニストのスポット。ただ、ここで語られているのは、7人の楽師のうち5人だけなんですよね。あとの2人、ジョルジュとジムについて語られなかったのはなぜなんだろう? 7人中7人が破滅へまっしぐらとなると、それはちょっと出来すぎだから? でもこの2人の人生も気になります。特に本好きのフランス人のジョルジュ。だって、彼がギリシャ神話をモンマルトルに例えて説明するの、結構面白かったですもん。(笑)(新潮文庫)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: / /

 [amazon]
親父が女を雇ったと聞いて驚く「俺」たち兄弟。それははるばるペンシルバニアからオンボロ車でやって来た、19歳のマーサ・ノックスで... という表題作「巡礼者」以下12編が収められた短編集。

新潮文庫で読んでますが、元々は新潮クレストブックスの作品。いやー、良かったです。私は基本的に短編集は苦手なんですけど、これは良かった。短編集といえば、同じく新潮クレストブックスから出ていたジュンパ・ラヒリの「停電の夜に」もすごく良かったし(感想)、やっぱり短編の書き手となる人っているものですね。素敵な短編を読んだ時って、それほどの長さではなくても、まるで長編を読んだ時のような満足感が残りませんか~?
どの物語も何か特別なことが起きるわけではないし、むしろ起伏は少なすぎるほど少なくて、しかもあっけないほどあっさりと終わってしまいます。ごくごく淡々と日常の場面を切り取っているだけ。それなのにとても心に残るんです。私が特に好きなのは、「デニー・ブラウン(15歳)の知らなかったこと」。そしてダントツで好きなのは「最高の妻」。でもどれも良かった。素敵です。やっぱりクレストブックスはいいなあ。でもクレストブックスで1つ難点なのは、あまり文庫にならないで、ソフトカバー版がそのまま絶版になっちゃうことですね。そりゃソフトカバーの装幀は素敵だし軽くて読みやすいし、揃えたくなっちゃうんですけど、お財布的にも置き場所的にもそれはちょっと無理なんですもん。せめて文庫にして欲しいー。(新潮文庫)

| | commentaire(2) | trackback(0)
Catégories: / / /

[amazon]
amazonの紹介は、「7世紀頃に成立したアイルランドの伝承詩「ブランの航海」の解題と解読、又、その背景にあるケルト文学における冒険譚・航海譚の特徴や、異界への旅の意味を探った論文を収録」。一般には「ブランの航海」として知られる、「フェヴァルの息子ブランの航海と冒険」に関する論文です。この詩は7世紀頃に成立したそうで、ケルト異界を描く冒険譚と航海譚の2つの要素を兼ね備えており、古代アイルランド文学の中でも重要な作品と考えられているのだそう。

論文なので、「へええ、なるほど」とは思っても「面白かった」って感じではないんですが、「ブランの航海」と一緒に、「コンラの冒険」「マールドゥーンの航海」「青春の国のアシーンの物語詩」といった物語群も紹介されてるのがありがたかったです。こういうの、なかなか読めないですからねー。どれもケルトの異界にまつわる物語で、その異界の共通点は、「はるか彼方の海上の国」「不老不死の至福の世界」。そして「マールドゥーンの航海」だけは、旅の後普通に帰国できるんですけど、他の3つの物語では戻った途端に、現世での時間の経過を思い知らされることになります。丁度「浦島太郎」と一緒ですね。実際、「アシーンと浦島伝説をめぐって」という副題で、「異界と海界の彼方」という文章も収められていました。
ただ、この論文では、ケルトの物語が大きく冒険譚と航海譚に分けられているんですけど、肝心の冒険譚と航海譚の違いが今ひとつ分からないんですよね。航海譚だって冒険なんだから、冒険譚の一分野でいいじゃないの。ってどうしても思ってしまうんですけど、「冒険譚と対照的なのが航海譚であり」という文章があるので、海に出れば航海譚、それ以外は冒険譚というだけではないのでしょう...。何かもっと明らかな違いがあって、でも研究者には常識だから、ここには触れられていないのかも。うーん、私の知識不足かあ。(中央大学学術図書)

| | commentaire(0) | trackback(0)
Catégories: /

 [amazon]
祖国ハンガリーを逃れて難民となり、スイスに住みながらフランス語で読み書きするようになったというアゴタ・クリストフの自伝。でもこの題名には自伝とあるんですが、訳者あとがきによると、原題は「自伝的物語」なのだとのこと。読んでいる感覚としては、「悪童日記」(感想)を読んだ時と同じ感覚。そして内容としては「昨日」(感想)でした。

タイトルになっている「文盲」とは、敵語であるフランス語を話すことはできても、読むことも書くこともできないという状態。4歳の時から手当たり次第、目にとまる物は何でも読んでいたというアゴタ・クリストフが、スイスに亡命して以来、何も読めなくなってしまったのです。26歳の時に、外国人学生を対象とした夏期講座に申し込んだ時も、筆記テストでまるで点数が取れず、入れられたのは初心者クラス。フランス語はきちんと話せるのに、なぜ初心者のクラスにいるのかと先生に訊ねられたアゴタ・クリストフの答は、「わたしは読むことも、書くこともできません。文盲なんです」というもの。
相変わらずの淡々とした文章ではあるんですが、読める喜びと書ける喜びが静かに滲み出てきます。これを読んでいる私には「書かずにはいられない」欲求というのはあまり(というか全然?)ないのだけど、「読まずにはいられない」方は人一倍強いので、たとえ半分だけだとしても、その苦しみはものすごく分かります。戦争で家族が分散し、命がけで亡命、フランス語で話しかけられてもまるで理解できない状態から、読み書きできるようになるまでのアゴタ・クリストフの苦労は、想像できるだけなのだけど...。以前、「悪童日記」のフランス語版を読み始めて、なんだかんだで冒頭の数章だけで止まったままなんですが、やっぱりこれは絶対に読み通さなくては、と決意も新たにしました。うん、やっぱり読まなくちゃ。読めるようにならなくちゃ。です。(白水社)


+既読のアゴタ・クリストフ作品の感想+
「悪童日記」アゴタ・クリストフ
「ふたりの証拠」「第三の証拠」アゴタ・クリストフ
「昨日」アゴタ・クリストフ
「文盲 アゴタ・クリストフ自伝」アゴタ・クリストフ
「どちらでもいい」アゴタ・クリストフ

| | commentaire(0) | trackback(0)

Note


MAIL FORMBBS

購読する ATOM


Powerd by MovableType4.24-ja
Copyright 2004-2011 四季. All rights reserved.