Catégories:“文学(翻訳)”

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気がつけば、絶賛叙事詩祭りになってます。(笑)
ちくま文庫の中世文学集IIとIII。ちなみにIは「アーサー王の死」。それ以外に何があるんだろう... と思ったらこの3冊だけで、ちょっと残念。それぞれ2作ずつ入っていて、まさに題名の通りです。

まず「ローランの歌」は、フランク王シャルルマーニュのイスパンヤ(スペイン)侵攻中の物語。カルヴィーノの「不在の騎士」(感想)を読んだ時から、また読もうと思って用意してたんですが、ようやく読めました。11世紀頃に成立したと言われているフランス最古の叙事詩です。778年のロンスヴォーの戦いをという史実を元にしているようなんですが、架空の人物も多数登場、実際はバスク人と戦ってたのに、サラセン人に変えられてます。スペインがサラセン人...? ということはイスラム教徒?! とか細かい部分を気にしたらダメ~。(笑) この時代って十字軍の時代ですしね。敵がイスラム教徒の方が何かと都合が良かったんでしょう。...でも、敵側からの視点の場面でも、「馨しの国フランス」なんて言っちゃったり(本来はフランスが自国のことを讃える言葉です)、自分たちのことを「異教徒」と呼んでしまうのが、お茶目で可笑しい♪ そして、「ローランは剛(つよ)くオリヴィエは智(さと)し。」という言葉が、やっぱりイイ!

「狐物語」は、性悪の狐・ルナールが、鶏や狼、熊といった連中を次々に騙していく物語。私はイソップみたいな動物寓話が苦手なんですよね... しかもみんな思いっきり騙されてるし... これはちょっと騙されすぎだってば(^^;。でも昔の人にはこういう物語が娯楽だったんでしょうねえ。登場するのは動物でも、簡単に人間に置き換えて想像できるので、そういう意味では、当時の宮廷の様子や商人や農民たちといった庶民の暮らしぶりが良く分かる作品。

「エッダ」は、北欧神話です。神々と英雄の物語。17世紀半ばにアイスランドの修道院で「王の写本」が発見されて以来、各地に散在している写本が徐々に見つかり始め、現在は似たような性格の作品が40編ほど集められているのだそう。でもここに収められているのは14編だけ。やっぱり谷口幸男さんの「エッダ-古代北欧歌謡集」を読むべきかしら。あと、初心者向けらしいんですが、図版や解説が充実してるらしいK・クロスリイ・ホランドの「北欧神話物語」も気になります。
そしてこの14編の前半はオーディンやトール、ロキといった神々の物語なんですが、後半は「ニーベルンゲンの歌」の元となった、シグルド(ジークフリート)伝説。私としては、本当は神々の登場する前半の方が好みです。やっぱり英雄譚よりも神話が好きだな。でもこういうのを読むと、「ニーベルンゲンの歌」も再読したくなっちゃいますねー。

そして最後に「グレティルのサガ」は、12~13c頃に成立したという作品。これだけは元々散文で書かれたみたいです。幼い頃から大力の乱暴者で、父親からも疎まれてるグレティル。とうとう人を殺して追放されてしまいます。でも旅に出た先で、海賊や妖怪をやっつけて大活躍することに... とは言っても、かなり運勢が悪いらしくて、いいことをしても裏目に出たりするのが可哀想。正直、あんまり夢中になれるほどじゃなかったんですが、このグレティルが実在の人物だと知ってびっくりでした。そしてこちらを読んだら、「ベーオウルフ」が読みたくなりました。(笑)(ちくま文庫)

ということで、絶賛叙事詩祭りはまだ続きます... が、そういうのって画像が出ない本ばかりなので詰まらない~。次はちょっと違うのに行きます。(って、そんな理由で読む本を選ぶのかっ)

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原初に混沌(カオス)が生じ、続いて大地(ガイア)、奈落(タルタロス)、エロスが生じ、続いて幽冥(エレボス)と夜(ニュクス)、澄明(アイテル)と昼日(ヘメレ)が生じて... という、宇宙の始まりから、様々な神々の誕生、そしてゼウスがオリュンポスで神々を統べるようになり、絶対的な権力を得るまでの物語。
ホメロスと並ぶ最古の叙事詩人、ヘシオドスによるギリシア神話です。あくまでも詩の形態を取りながらも、どんどん生まれて来る神々を系統立てて説明し、宇宙観まで解き明かしてしまうというのがすごい!

でも、一読してまず思ったのは、やっぱりこういうのは詩の形で読んでこそだなあ、ということでした。「イリアス」を散文で読んだ直後というのもあるでしょうね。元の文章は六脚律(ヘクサメトロス)と呼ばれる形で書かれていて、それは日本語には表しようのないものなんですけど、やっぱり詩はあくまでも詩の形で読まなくては! その方がイメージもふくらみますしね。大学の時に授業で古代ギリシャ語の朗読を聞かせてもらったことがあるんですが、古代ギリシャ語って、ほんと歌ってるような、とても綺麗な言葉なんですよー。そういうので歌ってもらったら、さぞ素敵なんだろうなあ。なんてことを思ったりもするわけです。(古代ギリシャ語自体は、文法が難しすぎて、結局私には太刀打ちできませんでしたが...)
それに詩人がその詩を歌っているのは、あくまでも神々からの言葉だという、そういうギリシャの古い叙事詩ならではの部分もとても好き。この「神統記」だと、オリュンポスの9人の詩歌女神(ムウサ)によって神の言葉を吹き込まれたヘシオドスが歌っているという形。だから詩はまずその詩歌女神(ムウサ)たちへの賛歌から始まるわけです。(私は様式美に弱いタイプだったのか)
この辺りは、積読山脈造山中さんの記事が分かりやすいので(特に六脚律について)どうぞ。→コチラ

それに、例えば昨日読んだ「イリアス」では、「アイギスもつゼウス」と出てるだけで注釈もなく、「アイギスって何よ?」状態なんですが、こちらでは「神盾(アイギス)もつゼウス」のように書かれているのが分かりやすくて良かったです。あ、こういう枕詞も好きなんですよね。ゼウスの場合は「神盾(アイギス)もつ」や「雲を集める」、ポセイドンは「大地を震わす」、アテナは「輝く眼の」... 他にも色々とあります。でも、「ポイボス・アポロン」は、そのまま... これは例えば「輝ける」でも良かったんじゃないかと思うけど、ダメだったのかしら。

ただ、神々の名前が次から次へと、どんどん出てきてしまうんです。ちょっとちょっと子供産みすぎだってば!と言いたくなるぐらい。
海(ポントス)の長子・ネレウスなんて、大洋(オケアノス)の娘ドリスとの間に、娘ばっかり50人もいて、その名前がずらずら~っと並んでるんですよーっ。(ちゃんと50人の名前があるかどうか数えてしまったわ) それでも「足迅(はや)いスペイオ」「愛らしいタリア」「薔薇色の腕(かいな)もつエウニケ」みたいな言葉が付いてるならまだいいんですが(でも「薔薇色の腕」は1人だけじゃないんですよね...)、名前しか出てない場合は、もう右から左へと抜けていっちゃいます。...とは言っても、巻末には神々の系譜図もあるし、神々や人間の名前の索引もついているので、途中で混乱しても大丈夫なんですけどね。親切な作りです。(岩波文庫)


+既読のヘシオドス作品の感想+
「神統記」ヘシオドス
「仕事と日」ヘーシオドス

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トロイア戦争が始まって10年経った頃。アカイア軍の総帥・アガメムノンがお気に入り妾・クリュセイスの解放を拒んだため、怒ったアポロンがアカイア軍の陣中に疫病を発生させます。アキレウスらがアガメムノンを説得、ようやくクリュセイスは父親であるアポロン祭司の元に戻るものの、それでは収まらないアガメムノンは意趣返しとして、アキレウスの愛妾・ブリセイスを強奪。アキレウスを怒らせることに。

トロイア戦争をモチーフにした作品のうちでは、これが一番有名な作品でしょう。でもここに描かれているのは、10年にも及ぶトロイア戦争のうち、ごく末期の部分だけなんですよね。それも1ヶ月ほどの短い期間。不和の女神・エリスと黄金の林檎、3人の女神たちとパリスの審判、アプロディーテーにヘレネを約束されたパリスが彼女をトロイアに連れて帰ったこと、戦争の勃発、そしてトロイア陥落の直接の原因となった、オデュッセウス発案のトロイアの木馬などの有名なエピソードについては、全く何も書かれていないんです。中心人物であるヘレネーすら、ほとんど登場しないぐらいですから。(ほとんど話題にもなってないですね) もちろん、実際にこの「イリアス」が歌い語られた時代は、観客も当然トロイア戦争に関する知識を豊富に持っていたわけで、戦争の原因やそれに至る出来事に触れられていなくても全く差し障りはなかったんでしょうけど... それでも、いきなりアキレウスとアガメムノンの反目から物語を始めるなんて、大胆だなあと改めて感心してしまいます。
とは言っても、実際に読んでみると、ホメロスがこの部分を取り上げたのにも納得なんですよね。戦いとしては、やっぱりここが一番の盛り上がりかも。特にアキレウスの親友のパトロクロスが死んだ後が面白い~。極端な話、パトロクロスが出陣する辺りから始めても良かったんじゃないかと思うぐらい。アカイアー軍とトロイア軍の戦いは、そのままオリュンポスの神々同士の争いや駆け引きの場にもなってて、そういう部分も楽しいですしね。というか、まるでRPGに熱中してる子供のようだわ、この神々ってば。

雰囲気は十分出ているとはいえ、散文調に訳されてるのがちょっと残念なんですが、大半の読者は詩なんて読みたくないでしょうし、それもいたし方ないのかな...。以前読んだ時は、詩の形だったような覚えがあるのだけど。そして巻末には、ヘロドトスによる「ホメロス伝」も収録されています。「イリアス」や「オデュッセイア」に、さりげなくホメロスが日ごろ世話になった人の名前を組み込んでるなんて知らなかった。神々が、ある特定の人の姿を取って人間に話しかけたりしてる裏には、そういうこともあったんですね。面白いなあ。(岩波文庫)


+既読のホメロス名義作品の感想+
「イリアス」上下 ホメロス
「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」
「オデュッセイア」上下 ホメロス
「ホメーロスの諸神讃歌」ホメーロス

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トロイア戦争関係の作品は色々ありますが、そもそものトロイア戦争の発端となった、パリスがヘレネーを連れ去った事件について書いているのは、このコルートスの「ヘレネー誘拐」だけなのだそうです。そして一緒に収められているのは、「ヘレネー誘拐」とは対照的に、トロイア最後の日を描いた、トリピオドーロスの「トロイア落城」。こちらには「トロイアの木馬」の製作過程、そしてアカイア軍がトロイアを攻め落とす様子が詳細に描かれています。

どちらも叙事詩としてはとても短い作品。「ヘレネー誘拐」には、もう少ししっかり書き込んで欲しい部分もありましたが... 不和の女神エリスの投げ込んだ黄金の林檎に「一番美しい女神へ」みたいな言葉がないので、なぜ3人がいきなり林檎を欲しくなったのか分からないし、しかもなぜいきなりパリスが審判を務めることになったのかも分からないんですよね。でもパリスとヘレネーの場面はやっぱり面白かったです。最後には、ヘレネーの娘のヘルミオネーも登場しますし。そして「トロイア落城」は、マリオン・ジマー・ブラッドリーのファイアーブランドにとても近くて、「これこれ、こういうのが読みたかったのよ」。
会話文、特に女性の言葉の訳し方にはひっかかってしまったんですが(女性の一人称が全ての「あたし」だなんて!)、全体的には面白かったです。注釈の入れ方もとても分かりやすいですね。例えば岩波文庫の注釈の入れ方って、オーソドックスだけど、読みづらいことも多いんですよね。最後にまとめて注釈のページがあるというのもそうなんですが、作品そのものに関する説明だけでなく、訳出上のことまで書かれていたりして、どれが本当に必要な注釈なんだか分からなくなってしまいます。何でもかんでも注釈がついてたら、そのたびに読むのを中断させられてしまって、流れを楽しむどころじゃなくなっちゃいますし。

解説では、クイントゥスの「トロイア戦記」が何度となく引き合いに出されてました。こちらも読んでみなくっちゃいけないですね。でもまずは「イリアス」にいきます。ちょっとしんどそうだけど... これまでギリシャ神話は好きでも、トロイア戦争にはほとんど興味がなかったはずなんですが、気がついたらすっかりハマってますね。(笑)(講談社学術文庫)

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ブライトンに来て数時間のうちに殺されてしまったヘイル。検死結果は自然死だったのですが、殺される直前にヘイルに会っていたアイダは、本当に自然死なのか疑問を持ち、色々と調べ始めます。ヘイルを殺したのは、17歳の少年・ピンキーとその仲間たち。ピンキーたちのやり口は万全のはずだったのですが、彼らは1人だけ、自分たちの行動を証言できる人間がいることに気付きます。ピンキーは早速その1人、16歳の田舎娘・ローズに近づき、今後彼女が証言したりすることのないよう、結婚してしまおうとするのですが...。

ブライトン・ロックと言ったら、私はQueenの曲しか思い浮かばないんですけど(笑)、ブライトンで売られている棒キャンディーのことなんだそうです。棒のどこで折っても「ブライトン」という字が現れる... って、要するに観光地名産の金太郎飴のことなんですね。(笑)
これは初期の傑作とされている作品。これまで読んだグレアム・グリーンの作品の中では、これが一番面白かったです。キリスト教色に関してはいいんですけど、やっぱり戦争色は薄い方がいいなあ... と言いつつ、「権力と栄光」は、実は気に入ってたりするんですが。(読んでから時間が経つにつれ、だんだん印象が鮮明になってきました)
この作品のピンキーは、何をしでかすか分からない不良少年。はっきり言って悪党です。周囲から見れば、どう考えてもローズがピンキーに騙されているとしか見えないでしょうし、アイダもそう考えてるんですが、実際のところはちょっと違うんですよね。ローズは世間知らずだけど、愛する男と結婚できるというだけで有頂天になってしまうような娘ではないんですもん。それでも、アイダは一度会っただけのヘイルのために、そして彼女自身が「正しいことをするのが好き」なために、ローズにつきまといます。...世間一般的には、アイダの方が圧倒的に正しいはずなんですが、この作品の中で魅力的なのは、何と言ってもピンキー。この2人がカトリック信者だということが、後のグリーンの作品の方向性を予感させるようです。(ハヤカワepi文庫)


ということで、これでハヤカワepi文庫の現在刊行されている35冊は全て読了です。
ボリス・ヴィアンの「日々の泡」だけは、先に新潮で読んでたんですが、今年の3月22日にアゴタ・クリストフの「悪童日記」を読んで以来、全部読み終えるのに3ヶ月ちょっと。最後にかたまってしまったグレアム・グリーンは、私にとってはちょっと難物だったんですが、だんだん良さが分かりそうな気もしてきたし、その他に大好きな作品がいっぱい。アゴタ・クリストフ「悪童日記」も、カズオ・イシグロ「日の名残り」も、リチャード・ブローティガン「愛のゆくえ」も、アンジェラ・カーター「ワイズ・チルドレン」も、アニータ・ディアマント「赤い天幕」も、ニコロ・アンマニーティ「ぼくは怖くない」も... と書くとキリがないのでやめますが(笑)、素敵な作家さんとの出会いが多くて、面白い作品も色々とあって、この3ヶ月すごく楽しかったです。早く次の本も刊行されないかな。次にどんな作品が読めるか、今からとっても楽しみです。


+既読のグレアム・グリーン作品の感想+
「第三の男」グレアム・グリーン
「おとなしいアメリカ人」グレアム・グリーン
「負けた者がみな貰う」グレアム・グリーン
「権力と栄光」グレアム・グリーン
「事件の核心」「二十一の短篇」グレアム・グリーン
「ブライトン・ロック」グレアム・グリーン
「ヒューマン・ファクター」グレアム・グリーン

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「事件の核心」は長編。西アフリカの植民地が舞台です。警察の副署長をしているスコービーとその妻のルイーズが中心となる物語。かつて1人娘を失ったという経緯もあり、しっくいりいっていない2人。この土地にも我慢できないルイーズは、1人で南アフリカに行くことを望み、スコービーは地元の悪党に金を借りてまで旅費をつくることに。そしてルイーズがいなくなったスコービーの前に現れたのは、夫を失ったヘレンという若い女性。しかしそこにルイーズから帰ってくるという電報が入って... という話。
これはグレアム・グリーンの最高傑作と言われる作品なのだそうで、確かにこれまで読んだグリーンの作品の中では楽しめたような気がします。(「権力と栄光」の方が良かったようにも思うけど) でも物語としては、やっぱり今ひとつ掴みきれず...。そもそも題名の「事件の核心」の事件って何?!と思ったら、この作品を訳した小田島氏ですら、何が正解なのか掴みかねているのだそう。そして、本国ではカトリック系新聞雑誌でスコービーは救われるのか地獄に堕ちるのかという論争が盛んに行われていたというほど、カトリック色の強い作品です。カトリックの教義から言えば、本来スコービーが救われることはないだろうと思うんですけどねえ。

「二十一の短篇」は、その名の通りの短編集。これまでにも全集などで出ていた作品が新訳で再登場なのだそう。8人の訳者さんたちが、それぞれにご自分の訳した短篇に簡単な解説をつけていて、これが実は本文よりも面白かった! でももしかしたら、グリーンは短篇の方が私にはすんなりと読めるのかもしれません。全体的にキレが良くて、全部ではないんですけど、結構楽しめました。

ということで、これでハヤカワepi文庫全34冊読了...! と思っていたら、欠番だった32番が4~5日前に刊行されてました。グレアム・グリーンの初期の傑作だという「ブライトン・ロック」。私には今ひとつその良さが分からないグリーンなんですが、あらすじを見る限り、今度は戦争絡みとかカトリック絡みではなさそう。今度こそその良さが分かるといいなあ。(ハヤカワepi文庫)


+既読のグレアム・グリーン作品の感想+
「第三の男」グレアム・グリーン
「おとなしいアメリカ人」グレアム・グリーン
「負けた者がみな貰う」グレアム・グリーン
「権力と栄光」グレアム・グリーン
「事件の核心」「二十一の短篇」グレアム・グリーン
「ブライトン・ロック」グレアム・グリーン
「ヒューマン・ファクター」グレアム・グリーン

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上海の租界に生まれ育ったクリストファー・バンクスは、10歳の時に両親が次々と謎の失踪を遂げ、イギリスにいる伯母に引き取られます。両親を探すために探偵を志したクリストファーは、やがてイギリスで数々の難事件を解決し、名探偵としての名声を博すことに。そして消えた両親の手がかりを探すために、日中戦争のさなかの上海に戻ることになるのですが...。

クリストファーの一人称による語りなんですけど、これがものすごく不安定。同じくハヤカワepi文庫のパット・マグラアの「スパイダー」(感想)解説に、「日の名残り」(感想)の執事は「信頼できない語り手」だと指摘されていたんですけど、それ以上ですね。クリストファーは、自分がイギリスに帰る船旅を、いかに希望に満ちた明るい態度で過ごしていたか、イギリスに着いてからは、いかに寄宿学校の生活にすぐに順応したか、自分がいかに本当の感情を表に出さないまま相手に対しているか、その都度強調するんですけど、ゆらゆらゆらゆら、今にも足場が崩れてしまいそうな感じ...。とは言っても、もちろんそれは意図的なものなんですよね。相手の意外な言葉にクリストファーが驚いたり反論したりする場面が何回かあって、それを裏付けてると思います。
物語前半の上品で華麗なロンドン社交会の描写は、いつのまにか日中戦争の戦火へ。そしてクリストファーが無意識に目をつぶっていた真実が明らかに。クリストファーの記憶が、彼にとって都合の良い方向に少しずつズレていたのは、きっと自己防衛本能だったんでしょうね。前半では輝いて見えた人々も、後半ではその光を失い、真の姿が見えてきます。
でも、こちらも悪くなかったんだけど... 好きという意味では、やっぱり「日の名残り」の方が段違いに好き。あちらの方が全体のバランスも良かったし、何より完成されていたという感じがします。

本の紹介から、ミステリ的要素の強い冒険譚かと思って読み始めたんですけど... 確かにそういう面もあることはあるんですけど、それは単に物語の形式といった印象です。ミステリ目当てに読むのは、やめておいた方が無難かも。(ハヤカワepi文庫)


+既読のカズオ・イシグロ作品の感想+
「日の名残り」カズオ・イシグロ
「遠い山なみの光」カズオ・イシグロ
「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ
「浮世の画家」カズオ・イシグロ
「私を離さないで」カズオ・イシグロ
「充たされざる者」カズオ・イシグロ

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