Catégories:“神話・伝承”

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昔から妖精や魔女が多く出没する国として信じられてきたスコットランド。世界で最も早く近代化を成し遂げたイギリスの中でも、近代化に目覚めるのが特に早かったスコットランドですが、同時に妖精という反近代的ともいえる存在が19世紀の初頭まで一般的な農家ではごく普通に信じられていたのです。そんなスコットランドの各地に昔から語り継がれてきた妖精物語、全20編。

収められているのは、「紡ぎ女ハベトロット」「ノルウェイの黒い雄牛」「妖精の騎士」「赤い巨人」「小さな菓子パン」「足指をつめた娘」「マーリン岩の妖精」「海豹捕りと人魚」「小姓と銀のグラス」「怪物ドレグリン・ホグニー」「羊歯の谷間の小人ブラウニー」「キツネとオオカミ」「ファイフの魔女」「真実の詩人トマス」「邪悪な王妃と美しい心の王女」「キトランピットの妖精」「アシパトルと大海蛇」「馬商人ディックと詩人トマス」「領主オー・コー」「小人の石」の全20編。
スコットランドに伝わる物語とはいっても、どうなんでしょうね。大抵は世界各地に何かしら似た物語が見つけられるものだし... 例えば「小さな菓子パン」はロシアの「おだんごぱん」そっくりだし、「キツネとオオカミ」なんて、それこそどこにでもありそうな動物寓話。「キトランピットの妖精」は「トム・ティット・トット」や「ルンペルシュテルツヘン」、「足指をつめた娘」は「シンデレラ」、「邪悪な王妃と美しい心の王女」は「白雪姫」のバリエーション。実際、最初読み始めた時は、北欧の民話集「太陽の東 月の西」的な話が多いなあと思ったぐらい。同じヨーロッパ同士、1つの話が各地に流れてバリエーションを作っていくのも当然だし、最早どんなのがどこの国らしい話というのも分からなくなってきてます、私。(汗)
それでも詩人トマスの話があればスコットランド(というかケルト)だなあと思うし、「ファイフの魔女」のファイフというのも、シェイクスピアの「マクベス」にも出てきたスコットランドの地名。ブラウニーが出てきたり、7年の間妖精の囚われの身となると聞けば、やっぱりケルト的な妖精物語。どこかで読んだような話だなと思いつつ、ケルトの雰囲気を感じられるから、やっぱりそれでいいんでしょうね。あ、題名は「怖くて不思議な」になってますが、それほど怖くも不思議でもないです。というか、全然怖くなかったです、私は。(PHP研究所)

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ヨーロッパ北部周縁の民=ゲルマン人は、キリスト教とは異なる独自の北方的世界観を有していた。古の神々と英雄を謳い伝える『エッダ』と『サガ』。善悪二元の対立抗争、馬への強い信仰、バイキングに受け継がれた復讐の義務......。荒涼にして寒貧な世界で育まれた峻厳偉大なる精神を描く伝説の魅力に迫る。北欧人の奥深い神話と信仰世界への入門書。...という内容紹介がされている本です。(手抜きですがー)
第一部が「神話篇」で、第二部が「サガと伝説篇」。

「神話篇」の方は、以前「エッダ 古代北欧歌謡集」(感想)も読んでいるし、内容的には既に知ってる部分が多いんですけど、詩の形式となっていたそちらの本と比べて、こちらは散文による再話。それだけでも読みやすいですしね。原典ではバラバラだった歌謡の順番も、分かりやすく入れ替えてありました。そして最後に「古い神々とキリスト」という章があったのには少しびっくり。しかもその書きっぷりが...

キリストは栄光好きな神で、彼より他の者が善く言われたり、そうでなくともいたわりをもって語られることを、辛抱できなかった。というのは、天地を創造し、悪魔と戦って人間に救いと天国を与えたのは彼だったのだから。

すごい言われようですよね。まあ、私だって、古い神々を全て異教の神であり悪魔であると片付けてしまうような姿勢はどうかと思いますが。(笑)

「サガと伝説篇」は、サガが14も収められていて、未読のものも多かったのが収穫。地元では農民であり漁民でありながら、ヴァイキングとしてに略奪行為に出かけていた北欧の男たちの姿がよく分かります。あと、以前シェイクスピアの「ハムレット」(感想)の解説を読んだ時に「エッダ」や「ベオウルフ」にもハムレットの原型が存在するとされていると知ってびっくりしたんですが、この本に載ってました。「アムレード(ハムレット)」がそれ。題名からして間違いないんですけど(笑)、これは確かにハムレットでしたよ! 短くてすっきりしてて、こっちの方が私は好きかも。(爆) そして1つ前の記事の「魔法昔話の研究」のオイディプスの章に出てきた女系の権力継承が、ハムレットでも行われていたことに改めて気付きました。なるほどーーー。あと「ベーオウルフ」(感想)そっくりの「ビョーウルフとグレンデルの戦い」や、「ニーベルンゲンの歌」(感想)と同じ材料を扱いながら細かいところが結構違っている「ウォルスング家の物語」もありました。解説には「「ビョーウルフとグレンデルの戦い」は、イギリスの古詩『ベオウルフ』を用いてる」とあったんですが、それってやっぱり「ベオウルフ」の方が古いという意味なんですよね...?

とっても読み応えのある本でした。ただ、今の私はどうもあんまり読書に集中できてないので... ええと、毎年秋になると読書から気が逸れてしまうみたいです。どうやら「読書の秋」は私には当てはまらないようだということに、今頃になって気付きましたよ。(爆)
これはいずれ再読しなくちゃいけないなー。でも当面はもっと気軽に読める本を手に取ろうっと。(講談社学芸文庫)

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「わたしには呪われた才能がある。どんなものでもひと目見ただけで、すぐに形式が見えてしまうのだ」というプロップ。彼はアファナーシエフの「ロシア昔話集」を読み始めた時、全てのプロットの構成が同じだということがたちどころに分かり、それがきっかけで「昔話の形態学」研究に取り掛かることになったのだそう。そのプロップの論文集「口承文芸と現実」に収められている13編のうちから7本を選んで収めた本。「魔法昔話の構造的研究と歴史的研究」「異常誕生のモチーフ」「口承文芸における儀礼的笑い」「口承文芸の世界におけるオイディプス」「口承文芸の特徴」「口承文芸と現実」「口承文芸の歴史性とその研究方法」

小さい子供の頃に読むならともかく、ある程度大きくなってから読んだら、昔話のプロットがいくつかのパターンに分かれてるだけだということは、当然すぐ分かることですよね。「呪われた才能」なんて、大げさな。...なーんてちょっと斜め視線で読み始めたこの本なんですが、いや、ごめんなさい。とっても面白く読めました。抽象的な理論のところは今一つ掴み切れてないんですが、昔話の中に見る具体的なモチーフに関しては、すごく参考になりました! それは「異常誕生のモチーフ」「口承文芸における儀礼的笑い」「口承文芸の世界におけるオイディプス」の3章。

「異常誕生のモチーフ」
異常誕生の最も一般的な形態は、聖母マリアと同じく処女懐胎。今でこそ妊娠に関する男女の役割がきちんと解明されていて、それが常識となってるんですけど、それ以前の人々は男性の役割を理解してなくて、そういう行為を妊娠に直接結び付けて考えることもなかったと知ってびっくり。そうだったんだ...。でも確かに、教えられなければ分からないことかもしれないですねえ。その場合、妊娠に直接関係するのは、女性が食べる果実(エンドウ豆やリンゴ、ココナッツ、ナッツ、葡萄、ザクロなど)であったり、呪文であったり、飲み水であったり。さらに、遺体の一部を食べることによって妊娠することもあったり。昔話で魚が大きな役割を果たしていることが多いのは、魚の「多産」という特徴からなのだとか。(ロシアの昔話には、確かに魚絡みの話が結構あるかも) そして物語の中で、時々子供が異様に速く成長するのは、主人公が救済者、あるいは英雄として異常誕生しているため。生まれた時に既に災厄が起きているので、即座に救済に着手しなければならないんですね。(笑)

「口承文芸における儀礼的笑い」
そして「笑わない王女」の話。この話にもいくつかパターンがありますが、これも研究者にとっては興味の尽きない話なのだそう。「笑い」というのは、かつては宗教的に独特な意味を持っていたんだそうです。生者が死者の国に入り込む時、あるいは死者の国にいある間「笑い」はタブー。生者は笑うことによって自分が生者であることを暴露してしまうのだそうです。そして逆に、生者の国に戻ってきた時には「笑い」が必須となるんですね。「笑い」は人間を悲しみから解放する力があり、生命を生み出す力があるものなんですって。「笑い」は生命を創造する呪術的手段であり、天地を創造する神もまた笑うのです... というのは、キリスト教以前の神々。キリスト教では笑うのは悪魔であり死神であり、キリスト教の神は決して笑わないのだとか。(知らなかった)

「口承文芸の世界におけるオイディプス」
そして「オイディプス」型の物語について。これも構造的にかなり典型的な魔法昔話なんだそうです。オイディプスといえば悲劇なんですけど、この型の物語では、全ての出来事の前にまず予言があり、そのために主人公が生まれた場所を離れることになり、後年戻ってきた時に父を殺して実の母と結婚する、あるいは血の繋がった妹と結婚するという近親婚が行われ、主人公が王位につく、やがて妻が実は血を分けた肉親だったというのが判明する、というのが基本的なパターン。なぜ王は殺されなければならないのかというのも、必ず行われる近親婚も、権力移譲が妻(女性)を介して行われるというのもどれも重要ポイントで... というそんな話。

上の3つは適当に抜き出したので、ちょっと妙になってるところもあると思うんですが...
中沢新一さんのカイエ・ソヴァージュのシリーズ(感想)を思い出すなー。どれもじっくり読みこんでおきたい論文でした。でも一番最初に収められている、レヴィ=ストロース教授の批判に応える「魔法昔話の構造的研究と歴史的研究」は、今までプロップの著作をまるで読んだことのない私にとっては(しかもレヴィ=ストロースについてもほとんど知らない)、イマイチ分かりづらかった... それまでの経緯を全然知らないですしね。反論の熱さには圧倒されましたが、この2人、お互い相手の論文を読むだけでなく直接論じ合えれば、きっとまた全然違う結果が生まれたでしょうに。西と東に分かれてしまっていたのが惜しいという感じです。そして後半の「口承文芸の特徴」「口承文芸と現実」「口承文芸の歴史性とその研究方法」の3つは、口承文芸に関しての研究の本筋と言えるものだし、本来ならここを読みたかったはずなんだけど、抽象的な論となっていると私にはちょっと難しくて。やっぱり具体例が多く挙げられている3つのモチーフに関する部分が一番面白く読めました。(講談社学芸文庫)

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カール・ケレーニイは、19世紀のハンガリーに生まれた神話学者であり宗教史学者でもあるという人物。
というだけあって、この本も純粋にギリシャ神話とされている部分だけでなく、ギリシャ神話の中に取り込まれていったと思われる周辺地域の伝承、ギリシャ神話のエピソードの様々な異説、そしてホメロスやソフォクレス、アイスキュロス、エウリピデスなどのギリシャの古典文学にもたっぷり言及し、古代ギリシャ語の意味や語源などにも触れていれば、系図も充実してるし、それぞれのエピソードの出典も細かく明らかにされているような、学術寄りな本でした。もちろんギリシャ神話の物語としても楽しめるんですけど、同じ伝説の異説がどんどん並列で紹介されて考察されていく分、あまり滑らかに読み進めていけるという感じではないし、そもそも初心者向けではないんでしょうね。
例えば万物の起源や神々の始まりが、ヘシオドスではこう、ホメロスではこう、そしてオルフェウスの「聖なる書」ではこう、という風に色々と比較対象されるように書かれているのは面白かったし、ここでしか読めないエピソードもいっぱい。でもそれだけに、すごい読み応え! 文庫本2冊で900ページほどなんですけど、そのページ数の倍ほどの読み応えがありました。感想を書く前に燃え尽きてしまったわ。しばらくギリシャ神話はもういいや、という気分...(笑)
でもカール・ケレーニイがハンガリー生まれの人だったなんて! 「われわれのギリシャ神話」なんて言いまわしが多いし、古代ギリシャ語だけでなく現代ギリシャ語についても詳しそうなので、ギリシャ人研究者だと思いこんでましたよー。(中公文庫)

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西洋の文化を理解するためには欠かせないと言われている聖書の知識。しかし天地創造を扱う創世記はともかく、読みづらい部分も多いのです。キリスト教の信者ならともかく、あまりキリスト教との接点がない人間にとって、聖書を最初から最後まで読み通すのはとても大変なこと。そんな読者向けの聖書の解説本。枝葉末節は切り捨てて、有名なエピソードに絞って紹介していきます。

大学に進学する時にも、外国の文学を学ぶつもりなら聖書とギリシャ神話だけは読んでおきなさい、と学校で言われたんですよね。幸いギリシャ神話は子供の頃から好きだったし、聖書も、こちらは別に好きだったわけじゃないんですが(笑)カトリック系の学校に長く通っていたので、比較的読んでいる方。全部きっちり読み通してるわけじゃないけど、旧約聖書は物語として面白いですしね。あとは新約聖書の黙示録とか。なので、それほど初心者というわけじゃないんですが... ギリシャ神話関連の本では阿刀田さん独自の視点が楽しかったし! そちらを読んだ時に、この「旧約聖書を知っていますか」が良かったと教えてもらったので、さっそく読んでみました。
阿刀田高さんのスタンスは、1人の異教徒として、気楽な雰囲気で聖書を分かりやすく読み解いてみた、というもの。そのスタンスというか距離感が、読んでいてまず心地良かったです。やっぱりこういう宗教がらみの本は何かと難しいから... 信仰心が篤い人だと、深く踏み込めるでしょうけど、初心者向けの本じゃなくなっちゃいそうだし、一般の人のために解説するんなら、あまり信仰を持っていない人の方が客観的な態度をとれていいかもしれないですね。

聖書の中のエピソードに関しては、既に原典を知っている分、特に目新しいものはなかったんですが、それでもすごく久しぶりだし~。やっぱり阿刀田さん独自の視点が面白かったです。長年読んでいながら気がつかなかった矛盾点もあったし... たとえば創世記の最初のところで、6日目にもう男と女を作ってしまってたってほんと?! アダムが生まれて、その肋骨からイブ、と思い込んで読んでたから、こんな基本的なところにも気づいてなかったわ! そして創世記がイスラエルの民族にとっての神話だという話のところで、素人の推測と断りながらも書かれている文章に説得力がありました。

神話というものが歴史の中に入り込むのは、たいてい王国が隆盛を極めた時である。周囲の群雄勢力を平定し、強力な王国が誕生して、権勢ゆるぎない王が君臨すると(中略)その礎の確かさを文献として書き残したくなる。つまり神から与えられた王座なのだということを、あと追いの形で記録したくなる。

確かにそうなんだけど! 普通の神話を読んでる時はそういうのも当然頭にあるわけなんですけど、聖書に関しては全然考えたこともなかったなあ...。なるほど。身近にありすぎて気付かなかったわー。やっぱり時には一歩引いて眺めてみることが必要ですね。様々なエピソードの整合性のなさに関しても、いくつもの民族の持つ英雄譚や伝承が交錯して、聖書の中に吸収されたせいだと言われてみるとあっさり納得できますしね。そうか、聖書も普通の神話と何も変わらないんだなー。(笑)(新潮文庫)


+既読の阿刀田高作品の感想+
「新トロイア物語」阿刀田高
「ギリシア神話を知っていますか」「私のギリシャ神話」阿刀田高
「ホメロスを楽しむために」阿刀田高
「旧約聖書を知っていますか」阿刀田高

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ギリシャ軍によるトロイ城包囲が7年過ぎた頃。アガメムノンやユリシーズたちは、ギリシャ軍の華・アキリーズを戦場に駆り立てようとしていました。しかし自分の力や名声に酔いしれ、すっかり高慢になっていたアキリーズは、毎日パトロクラス相手にふざけたり、アガメムノンらを嘲るばかり。なかなか戦争に参加しようとしないのです。そんな時、トロイ軍の将軍・イーニーアスがギリシャの軍営を訪れます。それはプライアム王の息子であり、トロイ軍の大将であるヘクターからの一騎打ちの申し出。ユリシーズの提案でヘクターの相手に決まったのは、エージャックス。そしてその頃、パリスの弟のトロイラスは、クレシダに一途に恋をしており、クレシダの叔父であるパンダラスに仲を取り持ってくれるよう頼んでいました。

ギリシャ・ローマ時代の神話や出来事を題材に取ったような後世の作品で何が困るって、人名が違ってしまうこと。先日ラシーヌの戯曲を読んだ時も、「フェードル」がパイドラのことで、「アンドロマック」がアンドロマケーのことで、なんてところで苦労したんですが、こちらもそうでした。トロイラスやクレシダ、アガメムノンはまあいいとして、ユリシーズはオデュッセウス、アキリーズはアキレウス、エージャックスは大アイアース。プライアム王はプリアモス王、ヘクターはヘクトル、イーニーアスはアイネイアースのことなんです。確かにシェイクスピアは英語で書いてるから、私が馴染んでいるギリシャ語読みとは違っていても仕方ないんですが...。英語読みだと軽いですね。なんだか調子出ないなー。(笑)
でも、シェイクスピアの戯曲の中ではかなり評価が低い作品のようなんですけど、人名がきちんと飲みこめてしまえば、これが結構面白く読めました。まず可笑しかったのは、ヘクターと戦うことが決まったエージャックスを、ユリシーズやアガメムノン、ネスターやダイアミディーズがおだてつつ、実は虚仮にしているところ。そしてギリシャ陣営にやって来たクレシダをギリシャの将軍らが歓迎しているところ。これはどっちも日本語で読んでも笑えるような訳になってるんです。読みながら思わずくすくす笑いが漏れてしまったほど。訳者の小田島雄志さん、スゴイ!

この作品では「トロイの城壁が七年にわたる包囲にも屈せず」とあるんですが、アキリーズがアガメムノンに対して怒っているので、おそらくホメロスの「イーリアス」と同時期の話なんでしょうね。(「イーリアス」はトロイ戦争の10年目) この「トロイラスとクレシダ」はタイトル通り、トロイの王子・トロイラスと、トロイの神官でありながらギリシャに寝返った神官カルカスの娘・クレシダという2人の悲恋物語ではあるんですが、それと平行して進んでいくのはトロイ戦争の顛末。というか、むしろ戦争の方が比重としては重いかもしれません。戦う気をまるで失っているアキリーズを、それと悟らせないように遠回し遠回しに戦場に引っ張り出すユリシーズの知略の物語。戦争ばかりだと観てる人が飽きてしまうだろうからと、ちょっと恋物語を入れて潤わせてみましたーという感じ?
人物の造形は、ホメロスの「イーリアス」とは、結構違ってました。一番目についたのは、ユリシーズに対するアキリーズの態度。「イーリアス」では、アキリーズはアガメムノンに対しては敵意を燃やしながらも、ユリシーズに対して敬愛の情を示してたんですよね。アガメムノンが折れて出た時も、ユリシーズが仲介役となったほど。でもこっちの作品でのアキリーズは、親友のパトロクラス以外の人間は全て見下してるんです。ユリシーズのことも。しかもアキリーズがヘクターを討ち取る場面が! これはないだろうという卑怯なやり口なんです。それまでのギリシャ陣営とヘクターの正々堂々としたやり取りからすると考えられなーい!

でも、やっぱり評判があまり高くないだけあって、ちょっと不思議な作品でもありました。それは、唐突に終わってしまうこと。ここで終わる? これから後はどうするの? もう呆気にとられてしまうような幕切れ。これは一体何だったんだーー。この作品は、シェイクスピアの作品の中でも「問題劇」という扱いをされてるそうなんですが、それも納得。現代の小説でも、ここまで読者に丸投げの作品はあんまりないんじゃないかしら。それに一応悲劇に分類される作品のようなんですが、とてもじゃないけど悲劇とは思えません。確かに愛は破局を迎えるんですけど、それでもこれって喜劇なんじゃ...?

シェイクスピアの作品に先んじて、チョーサーも同じ題名の作品を書いてるんですよね。日本では「トロイルス」という題名で訳されているようです。こちらではクレシダの造形がかなり違うようなので、そちらもぜひ読んでみたいなあ。そして「イーリアス」と並んでトロイ戦争についての筋の主な材源となっているという、ジョン・リドゲイド「トロイの書」、ウィリアム・キャクストンの「トロイ史集成」、チャップマン「イリアッド」も読んでみたいです... が、この3つは、どうやら日本語には訳されてないみたい... 残念。(白水uブックス)


+既読のシェイクスピア作品の感想+
「プークが丘の妖精パック」キプリング 「夏の夜の夢・あらし」シェイクスピア
「ジョン王」ウィリアム・シェイクスピア
「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」シェイクスピア
「ハムレット」シェイクスピア・「新ハムレット」太宰治
「マクベス」シェイクスピア
「トロイラスとクレシダ」シェイクスピア

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10年間かかったトロイア戦争が終結。トロイアの町が陥落し、ギリシャ勢は帰国することに。オデュッセウスも3艘の船に戦利品を満載して家路につきます。しかしポセイドンの怒りを買っていたオデュッセウスが故郷のイタケ島に帰りつくには、さらに10年の歳月が必要だったのです。

「トロイア戦争物語」に引き続き、楽しく読める「オデュッセイア」です。でも面白さで言えば、「トロイア戦争物語」の方が上だったかな...。こちらも面白いことは面白いんだけど、「まあまあ」程度でした。読後、なんで「まあまあ」程度だったんだろうとちょっと考えてしまったんですけど、もしかしたら「オデュッセイア」は、既に完成されていて、あまり手を加える余地がないからかもしれないですね。「トロイア戦争物語」の中心になっている「イーリアス」だと、10年の戦争のうちほんの数週間のことしか書かれていないから、結構前後とか合間とかに付け加える余地があるんです。人間を間に挟んだ神々同士のいがみ合いも、結構ふくらませられるものだし。でも「オデュッセイア」は、そういう意味ではあまりふくらませ甲斐のない作品なのかも。あ、でも回想シーンの多い本家の「オデュッセイア」に比べて、こちらはきちんと時系列順に話が進んでいたので、とても分かりやすくはなってましたが~。

1つ「おっ」と思ったのは、キルケの島でのこと。オデュッセウスの船がキルケの島に着いたあと、乗組員たちは2手に分かれて、半数が島にある城を探りに行くんですね。それは魔女のキルケの住む城なんですが、みんなそんなこととは知る由もなく。で、警戒した1人を除いて、その城でキルケにもてなされることになるんですが... 結局、その人々は豚に変えられてしまうんです。原典では、ごちそうを食べ終わった頃にキルケが杖で人々を触ると豚に変身すると書かれてるだけなんですけど、このエヴスリンの物語では、その前段階としてごちそうを食べる場面があって、それがまるで豚みたいな食べっぷり。まるで「千と千尋の神隠し」の最初の場面みたい! もしや宮崎駿氏はこの作品を読んだのかしら~などと思ってしまったのでありました。(現代教養文庫)


+既読のバーナード・エヴスリン作品の感想+
「トロイア戦争物語」バーナード・エヴスリン
「オデュッセウス物語」バーナード・エヴスリン

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