Catégories:“神話・伝承”

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「フェヴァルの息子ブランの航海」、「百戦の王コンの息子、美貌のコンラの冒険」、「メルドゥーンの航海」など、「イムラヴァ」と総称される航海譚に見るケルトの「他界」。それらの物語に描かれる「他界」は、なぜ海の彼方にあるのか、そしてなぜ、いずれも女人国なのか。「常若の国(ティル・ナ・ノグ)「歓びの野(マグ・メル)」といったケルトの「他界」を現存する古伝承を通して探り、それらがキリスト教の中にどのように取り入れられていったのか、そしてどのようにアーサー王伝説に残っているのかを考察する本です。

まず、なぜ「他界」がいずれも女人国であるのかというのは、大地母神信仰から来ているもののようです。古代宗教には大地母神信仰が多いし、ケルトも例外ではなかったということですね。その大地母神は、ゴイデル族に破れて地下に去ったトゥアハ・デ・ダナン族(この人たちが妖精になったと言われる)の女神・ダナ。なので女人国にいるのは、ダナとその分身、もしくは臣下である女神たち。大地の母神には「豊穣と多産」「土地の主権者」「戦いと殺戮」「死者をあの世へ運ぶ」という顔があり、どうやらそれが何人もの女性に分かれているということのようです。生命を生み出す大地はまた、死者たちの帰っていくところ。それは「他界」そのもの。
そしてアイルランドの「他界」が海の彼方にあるのかというのは、ケルトでも独特の概念のようです。ウェールズやブルターニュの「他界」はこの世と地続きで、ドルメンや墳丘の下にあったり、泉や湖の底。大地母神が「他界」を支配しているのなら、地下世界にあるのが自然ですよね。でも田中氏は、「海の彼方」とは言っても一概にこの地上の海とは限らないと指摘していました。地下世界にあるあの世の海だなんて、考えたこともなかったなあ。

これらの「他界」を描く物語は徐々にキリスト教色を強めて、最終的にはすっかりキリスト教に染められてしまった「聖ブランダンの航海」「聖パトリックの煉獄」なんて物語が登場することになります。「聖ブランダンの航海」の「他界」は「天国」と「地上の楽園」と「地獄」に分化してるし、「聖パトリックの煉獄」ではさらに「煉獄」も。(そしてダンテの「神曲」となるんですね) でもここに描かれているのは、やっぱりケルトの「他界」だし、そこに行こうとする人たちも、イムラヴァの英雄たちの後継者。外側がどれだけ変化しても、中身はやっぱりケルト的世界なのだという指摘がとても興味深かったです。換骨奪胎して上手くキリスト教に取り入れたように見えて、実はキリスト教の方がケルトに取り入れられてたのか。(笑)

純粋な資料としてはなかなか読むことのできない伝承群が、ほとんどあらすじだけとはいえ、紹介されているのが嬉しいところ。航海譚に関しては、先日読んだ「ケルトの古歌『ブランの航海』序説」(松村賢一)にもあったし、そちらの方が詳しかったんですけど(感想)、こちらの方が読んでて面白かったし、こちらではアイルランド神話の創世記と言える「マー・トゥーラの合戦」や海に沈んでしまった「イスの都」の伝説についても触れられています。(中公新書)

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木の写真集。取り上げられているのは、シラカバ、ナナカマド、トネリコ、ハリエニシダ、ハンノキ、ヤナギ、サンザシ、ロイヤル・オーク、ヒース、ヒイラギ、ハシバミ、リンゴ、ポプラ、キヅタ、エニシダ、リンボク、ニワトコ、イチイ、マツ、ブナの20種類。生育場所や性質など木そのものの説明はもちろんのこと、オガム・アルファベットでの表記方法とその意味、神話や伝説での姿、その象徴性、伝統的な利用方法、現代の利用方法、薬効などが、美しい写真と共に説明されています。

北欧神話の世界樹ユグドラシルはトネリコだけど、ケルトのシャーマニズムではシラカバが宇宙樹だとか、でもケルト人にとってトネリコはは宇宙の真理の守護者で、ドルイドの杖に使われていたとか、全ての木の中で最も神聖なのはオークであり、アーサー王の円卓やマーリンの杖はオークだったとか、オークにヤドリギが宿るといよいよ神聖になるとか、ギリシャ・ケルト・北欧神話でリンゴは不死の象徴で、永遠の命を約束するものだとか、世界で最初の本は薄く切ったブナの木に文字を書いて束ねたもので、アングロ=サクソン語のブナ"boc"が"book"の語源だとか、そんなエピソードがいっぱい。植物図鑑のような説明だけではなく、様々な面からそれらの木々のことを紹介しているのが面白いです。
本の中に木の名前が出てくる時って、もちろん特に何の意味もない時もあるでしょうけど、何らかの意味が篭められてることが多いと思うんですよね。でも名前は知っててもどんな木か分からなかったり、普段身の回りではなかなか見られない木も結構あります。そんな木の写真集なので、写真を見てるだけでも楽しいです。(東京書籍)

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ジャーナリストであり、ケルトの足跡を辿るBBCのドキュメンタリー番組(DVDが出てました)では案内役を務めたこともあるというフランク・ディレイニーによる、ケルト神話と伝説の再話。冒頭の「ケルト伝説への誘い」ではケルト文化に関する歴史的概観、ケルトの装飾品や武器、食べ物、饗宴、詩人、ケルト神話と他の地方の神話との比較が語られ、その後に19編の伝承が収められています。「アイルランドの伝説」「<牛捕り伝説>の白眉」「ウェールズの伝説」「<アーサー王伝説>の系譜」という4章構成。

第1章の「アイルランドの伝説」は、トゥアハ・デ・ダナン神話、アルスター伝説、フィアナ伝説など、いわゆるアイルランドの神話の物語で、2章「<牛捕り伝説>の白眉」は、アルスター伝説の中からクーフリンの牛捕り伝説だけを取り上げたもの。第3章の「ウェールズの伝説」はマビノギオンの物語群、第4章「<アーサー王伝説>の系譜」で取り上げられているのは、トリスタンとイズーの物語。
なんで牛捕り伝説だけが独立した1章になってるのか不明だし(本来なら第1章のアルスター伝説に含まれるはず)、11編あるマビノギオンの物語のうち2編はフランク・ディレイニーの好みに合わないからと外されていたり、アーサー王伝説の中で取り上げられているのはトリスタンとイズーの物語だけだったり、しかも話の展開・結末が違う部分もあったりして(訳者の鶴岡真弓さんの言う「違うバージョン」なんでしょうけど)、全体的に著者のフランク・ディレイニーの趣味に左右されてるなあという感じがしましたが、読みやすくて面白かったです。以前、井村君江さんの「ケルトの神話 女神と英雄と妖精と」を読んだ時は、どうも文章との相性が良くなくて、全部読み通すのに苦労した覚えがあるんですよね。(井村さんの他の本はそんなことないので、多分その本が元々は子供用の神話全集の中の1冊として書かれたからなのではないかと思います...) でも、こちらの方は全然そんなこともなくて、段違いに面白かったです! もちろん、その頃に比べると知識が増えているというのもあるとは思いますけどね。丁度ケルト神話を改めて読み返したいと思っていたところなので、いい本に当たって良かったです。読み物として面白いので、入門編としてオススメの本かと♪(創元社)

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クーフリンもフィン・マックールもケルト神話の中に登場する人物。クーフリンの方が時代が古いです。アルスター伝説の時代。そしてフィン・マックールはその3世紀ほど後のフィアナ伝説の時代。サトクリフ自身によるまえがきにもあるように、クーフリンは叙事詩、英雄物語と呼ぶのに相応しいような荒々しい物語で、フィン・マックールは叙事詩というより民話や妖精物語といった感じかもしれません。多分、フィン・マックールの息子・アシーンが、妖精の女王・ニーヴと共に常若国ティル・ナ・ノーグに去ってしまうエピソードが入ってるのも大きいと思うんですけどね。これは浦島伝説のように、何年か経って戻って来てみたら何百年も経っていたというものです。
先日読んだO.R.メリングの「ドルイドの歌」にクーフリンの牛捕りのエピソードが描かれていたので久々にこの辺りを読みたくなって、まだ読んだことのなかったこの本を借りてきました。

ローズマリー・サトクリフの作品は、以前「ケルトの白馬」を読んだだけで(感想)、しかもそれはサトクリフのオリジナルな物語だったので、純粋な歴史物(?)を読むのは初めて。なのでこの2作しか知らないんですが、もしかしたらサトクリフの歴史物って、オリジナルには忠実だけど、その分遊び心はあまりないのかもしれないなあ、なんて思いました。読む前からそんな予感はしてたんですけどね。クーフリンに関して言えば、O.R.メリングの描き出したクーフリンの方が意外な少年らしさがあって好きだったし、フィン・マックールに関して言えば、「オシァン ケルト民族の古歌」があんまり良かったものだから(感想)、なんだかこちらがとっても散文的に思えて仕方なく... いえ、本当に散文だから仕方ないんですけど...(笑) 読みやすいのはこちらの方が上だと思うんですが、美しさとか雄々しさとか、気高さなんかがちょっと足りないような気が...。とはいえ、決してけなしているわけではなく。応用編を読む前に読むべき作品というか、この辺りの世界には、まず最初にサトクリフから入ったら楽しかったんだろうな、って感じです。きっとサトクリフは、オリジナルの空気を掴むのが上手いんでしょうね。ケルトの魅力の1つは斜陽の美。どちらも散り際が鮮やかでした。(ほるぷ出版)


+既読のローズマリー・サトクリフ作品の感想+
「ケルトの白馬」ローズマリー・サトクリフ
「炎の戦士クーフリン」「黄金の騎士フィン・マックール」ローズマリー・サトクリフ

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「太陽の東 月の西」というのは、ノルウェーの民話集。P.C.アスビョルンセンとヨルゲン・モオという2人の民話研究家が採取したもので、本になったのはグリムよりも早かったのだそうです。私も子供の頃に岩波少年文庫から出ている版はよく読んでたんですけど(右)、今回読んだのは、カイ・ニールセンの挿絵入りのもの。肝心の表紙が出てこないのが悲しいんですが、これがものすごく美しいんです~。やっぱりニールセンの絵は素敵。妖しい表情に、ぐぐっときちゃいます。

北欧、特にノルウェーの民話といえばトロルが出てくるのが特徴というのは知ってたんですけど、今回の本のまえがきに「動物が主人公を救うという形式」が指摘されていたのには、ちょっとびっくり。いや、確かに動物が助けてくれる話は多いし、ここに収められた7編は全部そういう形ですが... でもね、民話にはそういう話って結構あるじゃないですか。私としては、むしろロシアのせむしの小馬とか火の鳥の方が印象強いし、咄嗟にはあんまり思い浮かばないんですけど、ペロー童話の「長靴をはいた猫」なんかもそうですよね。これがどの程度ノルウェーの民話の特徴と言えるのか、逆に疑問がむくむくと。岩波少年文庫版には18編入ってるので、思わずこちらも読んでしまいましたが、ニールセン版にも入ってる7編ぐらいしか主人公が動物に救われる物語はなかったです。うーん??(新書館・岩波少年文庫)

そしてカイ・ニールセンといえば、先日こんな本を買ってしまいました。「Nielsen's Fairy Tale Illustrations in Full Color」。(左下)エドマンド・デュラック、アーサー・ラッカムのも一緒に。どれも50~60ページという薄い本なんですけど、題名通りフルカラーの絵が50枚ほど収められていて、とても素敵なんです。これはお値打ちでした! ...と思ったら睡記の睡さんも買ってらしたようで~。(記事
という私も、カイ・ニールセンが一番ツボでした~。
  

そして今、気になってるのは下左側の2冊。ヴィクトリア朝時代のイギリスを代表する挿画家、ウォルター・クレインです。早くからラファエル前派の影響を受けていて、ウィリアム・モリスらとともにアーツ・アンド・クラフト運動を進めたという人物。「絵本の父」とも呼ばれているとか。一番右のド・モーガンの「フィオリモンド姫の首かざり」を読んだ時から、素敵な絵だなあと思ってたんですよね。特に見たいのは、左の「The Faerie Queen」。思いっきり好みのツボのような予感です~。
  

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amazonの紹介は、「7世紀頃に成立したアイルランドの伝承詩「ブランの航海」の解題と解読、又、その背景にあるケルト文学における冒険譚・航海譚の特徴や、異界への旅の意味を探った論文を収録」。一般には「ブランの航海」として知られる、「フェヴァルの息子ブランの航海と冒険」に関する論文です。この詩は7世紀頃に成立したそうで、ケルト異界を描く冒険譚と航海譚の2つの要素を兼ね備えており、古代アイルランド文学の中でも重要な作品と考えられているのだそう。

論文なので、「へええ、なるほど」とは思っても「面白かった」って感じではないんですが、「ブランの航海」と一緒に、「コンラの冒険」「マールドゥーンの航海」「青春の国のアシーンの物語詩」といった物語群も紹介されてるのがありがたかったです。こういうの、なかなか読めないですからねー。どれもケルトの異界にまつわる物語で、その異界の共通点は、「はるか彼方の海上の国」「不老不死の至福の世界」。そして「マールドゥーンの航海」だけは、旅の後普通に帰国できるんですけど、他の3つの物語では戻った途端に、現世での時間の経過を思い知らされることになります。丁度「浦島太郎」と一緒ですね。実際、「アシーンと浦島伝説をめぐって」という副題で、「異界と海界の彼方」という文章も収められていました。
ただ、この論文では、ケルトの物語が大きく冒険譚と航海譚に分けられているんですけど、肝心の冒険譚と航海譚の違いが今ひとつ分からないんですよね。航海譚だって冒険なんだから、冒険譚の一分野でいいじゃないの。ってどうしても思ってしまうんですけど、「冒険譚と対照的なのが航海譚であり」という文章があるので、海に出れば航海譚、それ以外は冒険譚というだけではないのでしょう...。何かもっと明らかな違いがあって、でも研究者には常識だから、ここには触れられていないのかも。うーん、私の知識不足かあ。(中央大学学術図書)

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メイウェルとフリンは、アヴァロンに育った双子の兄妹。2人も生まれながらに鳥に変身できる魔力を持っており、マーリンに命じられてキャメロットのアーサー王の宮廷に入って以来、メイウェルはギネヴィア王妃の侍女として、フリンはアーサー王の小姓として仕える日々。その日メイウェルは、いつものようにミソサザイに変身して、親友であるシャロットの姫・エレインの元へと向かっていました。エレインは、心の中に写る光景をそのままタペストリーに織り上げる力を持つ少女。織り上げられた模様は、まるで見てきたかのように鮮明で、しかも少し先の未来を写し取っているのです。予言による混乱から身を守るために塔の中に閉じこもりきりなのですが、家族以外で双子の兄妹だけは、タペストリーを見ることを許されていました。そして今日メイウェルがエレインの元へとやって来たのは、メイウェルがあこがれる「白い手のユウェイン」のことで、エレインの助言が欲しかったからなのです。

「キャメロットの鷹」「聖杯の王」「最後の戦い」という3冊からなる「アーサー王宮廷物語」。
いやー、期待以上に面白かったです! アーサー王伝説を主題にした小説は沢山書かれてるんですけど、この作品の一番の特徴は、メイウェルとフリンという伝説には登場しない人物の視点から描いた物語だということ。しかもこの2人は鳥に変身できるので、本来なら見ることのできない場面もつぶさに描き出すことができるんですよね。文体がちょっと読みやすすぎる気もするんですけど、少女視点には合ってると思うし。

この作品の中で特筆すべきなのは、やっぱりエレインでしょうね。トーマス・マロリーの「アーサー王の死」には2人のエレインが登場して、これが読者の混乱の元だと思うんですけど、この作品に登場するエレインは1人だけ。そしてそのエレインの場面がすごくいいのです~。控えめで穏やかだった乙女が見せる激しい情念や、命と引き換えに1枚のタペストリーを織り上げる鬼気迫る場面が、とても印象に残ります。この作品の白眉ですね。それに「アーサー王の死」の一方のエレインが産むことになるガラハッドの出生に関しての解釈にもびっくり。でもこういう考え方ってすごく面白いです。
そしてもう1人特筆すべき人物は、アーサー王の王国の崩壊の直接的な原因となるモードレッド。モードレッドがこんなに気持ちの良い青年に描かれている作品は初めてですよー。こんなに真っ直ぐアーサー王を慕うモードレッドだからこそ、ギネヴィアとランスロットのことが許せないし、自分の出生に衝撃を受ける様子が迫ってくるんですね。以前読んだ「ひかわ玲子のファンタジー私説」で、西洋では敵は常に人間なのに、日本では「結局悪者はいなかった」というエンディングが好きだという話が出ていたんですけど、そういうのがこういうところに現れてるのかも。あと、伝説では地味な存在のサー・ユウェインも素敵だったし! サー・ユウェインとその母・モーガン・ル・フェイの絡みも良かったなあ。

従来のアーサー王伝説だと、即位した後のアーサー王個人についてはあまり描かれてなくて、ともすればランスロットの華やかさに負けがちなんですよね。武勇を発揮する場面もほとんどないし、単に妻を寝取られた男という位置づけになってしまいがち。でも騎士たちが集まってくるアーサー王の魅力というのが、最初の方で表現されているので、そういうところも好きでした。アーサー王と円卓の持つ力。だからこそ、キャメロットが徐々にその光を失っていく様子が雄弁に表されているのではないかと思いますね。
あくまでも大筋ではアーサー王伝説に忠実で、テニスンや夏目漱石に描かれたシャロットの姫を大きく登場させながらも、その解釈は独自の物語。これならアーサー王物語に詳しくない読者はもちろん、ある程度詳しい読者も楽しめるのではないでしょうかー。(筑摩書房)


+既読のひかわ玲子作品の感想+
「ひかわ玲子のファンタジー私説」ひかわ玲子
「キャメロットの鷹」「聖杯の王」「最後の戦い」ひかわ玲子
「イスの姫君」ひかわ玲子

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