Catégories:“神話・伝承”

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農民たちが啓けていくにつれて失われていく、その土地土地に伝わる数々の素朴な物語。しかし人類は長い間そういった物語を糧にして生きてきたのです。ここに収められているのは、19世紀半ばにジョルジュ・サンド自身がフランス中部ベリー地方の農村に伝わる民間伝承を採集したもの。息子のモーリス・サンドもフランス各地の言い伝えや民謡、伝説を集め、それらのために自ら挿絵を描いており、それらの絵もこの本に収められています。

フランスの代表的な伝説といえば、巨人のガルガンチュワに、下半身が蛇の姿の美しいメリジューヌ、そしてアーサー王伝説... でもここに収められているのは、そういった広く流布した物語でも英雄譚的な立派な物語でもなくて、もっと田園の農民たちが炉辺で語るような、ほんの小さな物語。巨石にまつわる物語や霧女、夜の洗濯女、化け犬、子鬼、森の妖火、狼使い、聖人による悪霊退散... こういうのは、ちょっとした目の錯覚や、聞き間違い、そんなところからも生まれてきたんでしょうね。フランスにおける「遠野物語」という言葉が書かれていましたが、まさにそうかもしれません。どれもごくごく短いあっさりした物語なんですが、それだけに生きた形で伝わってきたというのを強く感じさせます。そういった物語を通して、それらの物語が生まれた土地までもが見えてくるような気がします。素朴で単純だけれど、飽きさせない、噛み締めるほどに奥深い味わいがある、そんな魅力を持っていると思います。それに、特に強く感じさせられるのは田舎の夜の暗闇。やっぱり暗闇というのは、人間の想像力を色々な意味で刺激するものなのですね。そして、ジョルジュ・サンドの「愛の妖精」や「ばらいろの雲」といった作品の背景にもこのような物語が隠されていたんだなあと思うと、それもまた感慨深いものがありますねえ。(岩波文庫)


+既読のジョルジュ・サンド作品の感想+
「愛の妖精」「ばらいろの雲」ジョルジュ・サンド
「フランス田園伝説集」ジョルジュ・サンド

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北海道登別市出身のアイヌ民族で、15歳の時に言語学者の金田一京助氏出会ったのがきっかけで、アイヌとしての自信と誇りに目覚めたという知里幸惠さん。その知里幸惠さんが、アイヌ民族の間で口伝えに謡い継がれてきたユーカラの中から神謡13篇を選び、元となるアイヌ語の謡をローマ字で表記、その日本語訳をつけて出したのが、この「アイヌ神謡集」。医者から絶対安静を言われていたにもかかわらず、病気をおして翻訳・編集・推敲作業を続けた知里幸惠さんは、完成したその日に、持病の心臓病のためにわずか19歳で亡くなったのだそうです。金田一京助氏、そして幸惠さん自身の弟で言語学者の知里真志保さんによる解説付き。

アイヌ文学には韻文の物語と散文の物語があり、そのうちの韻文の物語がユーカラ(詞曲)と呼ばれる叙事詩のこと。そしてそのユーカラはさらに、「神のユーカラ」(神謡)と「人間のユーカラ」(英雄詞曲)に分けられ、狭義の「神のユーカラ」は動物神や植物神、自然神が登場して自らの体験を語る「カムイユカル」、広義の「神のユーカラ」は、そこに文化神・オイナカムイが主人公として現れて自らの体験を語る「オイナ」が加わったもの。この本に収められているのは、狭義の「神のユーカラ」13篇。文字をもたないアイヌ民族の間では、口承で伝えられてきたものです。

もう、もう、最初の「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」という言葉から引き込まれました。なんて美しい...! こういった言葉が謡の中で何度も繰り返されて、そのリズムの良さもとても印象的です。アイヌ語で謡われても、きっととても美しいものなんでしょうね。この本は対訳となっているので、ローマ字表記のアイヌ語を自分で読み、その音を確かめることができるはずなのですが... これがなかなか難しく... やっぱり一度きちんとした朗読を聴いてみないとダメかも。ああ、聴いてみたいなあ。
そして内容的にもとても面白いのです。アイヌの神(カムイですね)というのは、神々の世界にいる時は人間と同じ姿をしてるのに、人間の世界に来る時は、それぞれに違う姿をまとうんですね。この本に収められた作品群では、ほとんど動物の姿になっています。神が宿っていても、だからとても強いというのはないようで、普通の動物と同じように時には捕らえられ、食料として調理されてしまうこと。そしてそんな時、神はその動物の耳と耳の間に存在して、自分の宿る動物の体が切り刻まれたり調理されていくのを見てるんです! 世界の民話でも、こういうのは珍しいんじゃないかしら。そして人々は、神々が宿っているという前提のもとに、その動物が自分たちのところに来てくれたと考えて、その体を丁寧に扱って、利用できるものは利用し、感謝して、神々の国に戻ってもらうことになります。(この辺りは、神話的社会によくありますね) もちろん、良い神々ばかりとは限りません。悪い心を起こしたためにその報いを受けて死後反省することになる神々もいます。(これはとっても民話っぽい)
でもどの謡も、読んでいると広い大自然を感じさせるのが共通点。アイヌたちが自分たちのあるがまま生きていた時代。自分たちの文化に誇りを持っていた時代。かつてアイヌたちが自由の天地で「天真爛漫な稚児の様に」楽しく幸せに生きていた時代を懐かしむ、知里幸惠さん自身による序もとても印象に残ります。

で、この「アイヌ神謡集」がとても良かったので、勢いにのって、以前購入していた「ユーカラ アイヌ叙事詩」も読んだんですが... こちらは動物神だけじゃなくて色んな神々の謡が18編収められているし、英雄のユーカラも。こちらにも金田一 京助氏が絡んでるので、「アイヌ神謡集」とは全然重なってなくて、それも良かったんですが... こちらの旧字旧仮名遣いが... よ、読めない...(涙)
一応全部読んだんですけど、理解できたとは言いがたく。平凡社ライブラリーから出てる「カムイ・ユーカラ アイヌ・ラッ・クル伝」でリベンジするべきなのかしらー。はああ。(岩波文庫)

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くさいろの童話集

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書評/SF&ファンタジー

東京創元社で刊行中のラング童話集の11冊目。今回も献本で頂きました。感謝。

今回多かったのは、西アジアのお話。全20編のうち、トルコが3つ、パンジャブが3つ、アルメニアが4つ。トルコはギリシャの右隣、アジアの始まりと言ってもいい位置だし、アルメニアはそのまた右隣。そしてパンジャブという国は今はありませんが、インドの北西でパキスタンの北東... これは西アジアとは言えないかもしれませんが、それほど離れているわけでもないですよね。あと出典が不詳とはなっていても、明らかにこの辺りのお話だというのもいくつか。ラクダが出てきたり、街中に出たのがジャッカルなのかトラなのか言い争っていたり、まさにインドが舞台となっていたり。
それでもやっぱりどこかで読んだことがあるようなお話が多くて... 核となるお話は一緒でも、それぞれの地域や国の特色がでてるのがまた楽しいところなんですが、こういう民間に伝わってきた昔話は、ほんと世界中共通してるんだなと再認識しますね。アンドルー・ラング自身は神話や伝説、民話の研究で有名な民俗学者だったそうなんですけど、そういった民話の世界的な流れなんかは研究しなかったのかしら。この12色の童話集に関しても、結局のところは採取して紹介しただけなのかな? でも先日読んだ「妖精の誕生」も、当時としては国境を越えた妖精の研究というのがとても珍しかったそうなので、こちらも全世界にわたる民話の採取という時点で、本当に貴重だったんでしょうね、きっと。

今回ちょっと気になったのは、トルコの昔話だという「物言わぬ王女」。ここに登場する王女さまは、美しすぎて常に7枚のベールで顔をかくし、一言も口をきかない王女さま。この王女に口をきかせることができれば、王女と結婚できるけれど、失敗したら命がない、という危ない話。結局王子が人間の言葉を話すナイチンゲールの助けを借りて、3度王女に口をきかせることに成功するんですけど... 1回口をきくたびに、どうやらベールが破れるらしくて、王女は口をきいてしまった自分に怒り狂うんですね。この「口をきかない」というのは、王女の意地だったのかしら? それとも何かの呪い? そして7枚のベールの意味は? 7枚のベールをしていても王女の頬と唇の色が漏れ出して、歩いて3ヶ月半もかかる山肌に美しい赤みがさしてるほどなんですけど、そんなキョーレツな美貌を隠すベールがはがれた時、王子さまの目は大丈夫だったんでしょうか?(笑) この話もとても面白かったんだけど、きっとかなり省略されちゃってるんだろうなあ。ここには書かれていない部分がものすごーく気になります。

この「くさいろの童話集」、原題は「TALES FROM THE OLIVE FAIRY BOOK」。草じゃなくて、オリーブ!(笑)
ちなみにここまでは「あお」「あか」「みどり」「きいろ」「ももいろ」「はいいろ」「むらさき」「べにいろ」「ちゃいろ」「だいだいいろ」「くさいろ」で、原題はそれぞれ「BLUE」「RED」「GREEN」「YELLOW」「PINK」「GRAY」「VIOLET」「CRIMSON」「BROWN」「ORANGE」「OLIVE」。まあ、大抵はそのままなんですけどね。さて最後の12冊目は「ふじいろ」で、原題は「LILAC」。全12巻なんて、読む前は気が遠くなりそうだったけど、案外早かったかも。残すところ、あと1冊だけなんですものねえ。(東京創元社)


+シリーズ既刊の感想+(東京創元社版)
「あおいろの童話集」「あかいろの童話集」アンドルー・ラング編
「みどりいろの童話集」アンドルー・ラング編
「きいろの童話集」アンドルー・ラング編
「ももいろの童話集」アンドルー・ラング編
「はいいろの童話集」アンドルー・ラング編
「むらさきいろの童話集」アンドルー・ラング編
「べにいろの童話集」アンドルー・ラング編
「ちゃいろの童話集」アンドルー・ラング編
「だいだいいろの童話集」アンドルー・ラング編
「くさいろの童話集」アンドルー・ラング編

+シリーズ既刊の感想+(偕成社文庫版)
「みどりいろの童話集」「ばらいろの童話集」アンドルー・ラング

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ボルヘスによる、古今東西の幻獣案内。キリンやライオンの住む現実の動物園ではなく、スフィンクスやグリュプス、ケンタウロスの住む神話伝説の動物園。

世界中の神話や伝説に語られている幻獣を集めた本。とは言っても、もちろん全てを網羅しているのではなく、そのうちの120ほどが紹介されているに過ぎないのですが... でもボルヘスが編んだというだけあって、私にとってはそのフィルターがとても面白かった本でした。ボルヘス自身が好きな本とか読んでる本まで見えてくるようなんですよね。(というのは、ボルヘスの他の作品でも同じなんだけど) 世界各地の神話や聖書、ヘシオドスの「神統記」やオウィディウスの「変身物語」、ホメロス「オデュッセイアー」、プリニウス「博物誌」、ダンテ「神曲」、アリオスト「狂えるオルランド」、シェイクスピア、「千夜一夜物語」などなどなど。原資料にも私が好きなのがいっぱいあるから、尚更楽しいというわけですが~。そしてこの本の大きな特徴としては、例えばサラマンドラやセイレーン、バジリスク、ミノタウロスといった一般的な幻獣だけでなくて、例えば「カフカの想像した動物」「ルイスの想像した動物」「ポオの想像した動物」なんて、特定の作家が想像して描き出した動物まで載ってること。ルイスの場合、ナルニアシリーズに出てくる「のうなしあんよ」みたいなのじゃなくて、「マラカンドラ」や「ベレランドラ」のシリーズの方から採られてるというのがまた渋い。(笑)
「引用した資料はすべて原典にあたり、それを言語ーー中世ラテン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語ーーから訳出すべく、われわれは最善を尽くした」というのが素晴らしいですー。さすがに中国語や日本語は、原典にまではあたってないようですが。日本からは八岐大蛇が登場。そして中国からは竜や鳳凰、亀、一角獣といった四種の瑞獣を始め、饕餮(トウテツ)なんかも登場。「山海経」と思われる文章も。

いわゆる「辞典」として活用するには紹介されてる幻獣の数もそれほど多くないし(古今東西の幻獣って一体どのぐらいいるんだろう??)、ボルヘスのフィルターがかかりすぎてるでしょうし、もっと流通している、例えば「世界の幻獣が分かる本」的な本の方がいいでしょうけど、こちらはそういった本とはまた全然違う付加価値がありますね。 1969年の序に「誰しも知るように、むだで横道にそれた知識には一種のけだるい喜びがある」とありましたが、まさにその通りの書でした。楽しかった!(晶文社)


+既読のホルヘ・ルイス・ボルヘス作品の感想+
「創造者」J.L.ボルヘス
「エル・アレフ」「伝奇集」ホルヘ・ルイス・ボルヘス
「幻獣辞典」ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ

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冥土の王様から1日だけ暇をもらって浮世を見に来たというカロオンは、丁度出会ったヘルメスに、ぜひ地上を案内して欲しいと頼み込みます。ヅェウスの用で忙しいヘルメスですが、カロオンには日頃世話になっていることもあり、オリュンポスやオッサ、ペーリオン、オイテー、パルナッソスといった山々を積み上げてその上に座り、2人で下界の人々の様子を見ることに... という「カロオン」他、全7編の作品集。

「本当の話」が読みたかったルキアーノス、この本が復刊した時に一応買ってたんですが、旧字旧仮名遣いで訳が古いままだし(だって「ゼウス」が「ヅェウス」ですよ!)、活字もすっかり潰れてて読みにくそうなので、しばらく放置してしまったんですよねえ。でもいざ読んでみたら。これが面白いのなんのって! ギリシャ神話好きには堪らない、風刺の効いた短篇集でした。読んで良かったーー。
特に面白かったのは、上にもあらすじを書いた「カロオン」と、表題作の「神々の対話」。「カロオン」というのは、冥府の河ステュクスの渡し守のカロンのことです。闇の神・エレボスと夜の女神・ニュクスの息子であるカロンは、生まれてこの方ずっと冥府に暮らしてるんですね。地上に出てくるのは、今回が初めて。仕事で時々冥府を訪れるヘルメスとは顔馴染みなので、その関係でヘルメスに地上を見せてまわってくれと頼むんですが... このヘルメスとカロン、そして彼らが覗き見る人間たちの会話に風刺がたっぷり効いていて可笑しいし楽しいし。ギリシャ神話に語られているエピソードが、将来起きる出来事として予言されていたり。もうニヤリとさせられっぱなしです。
そして表題作の「神々の対話」は、様々な神々たちの素顔を覗き見るような楽しさのある作品。自由と引き換えにテティスにまつわる秘密をゼウスに話すプロメテウスとか、ヒュアキントスの死を嘆くアポロンなんかは、普通に神話のエピソードをそのままなぞったものなんですけど、自分の浮気癖を棚に上げて、もっと優美な姿で女性に近づきたいとエロスに文句を言うゼウスとか(いつも牛とか金色の雨とかだからね)、まさにガニュメデスを口説いている最中のゼウスとか(好色親爺めッ)、ヘルメスの手の早さや音楽の才能に目を細めているようなアポロンとか(まるで父親みたいだ)、ヘラとレト(アポロンとアルテミスのお母さんね)の我が子自慢と嫌味の応酬とか(コワイコワイ)、使い走りばかりさせられて愚痴ってるヘルメスとか、可笑しい会話がいっぱい。トロイア戦争の元となった金の林檎のエピソードで、アプロディテがパリスを買収する場面なんて、現実感ありまくり。まるでギリシャ神話版ショートコント。これは今の時代でも笑えるセンスですね。素晴らしいー。
金持ちにあこがれる靴直しの青年をうまく言いくるめてしまう鶏の話「にわとり」も面白かったし... この鶏は、前世で様々な人生を体験していて、そのうちの1人は哲学者のピュタゴラスなんですよ! あと「無学なる書籍蒐集家に与う」は本当に皮肉たっぷりで~ ローマ時代にも応接間に全集を飾って悦に入るような人たちがいっぱいいたんですね。積読本が多い読者には、ちょっぴり耳が痛い話かも。(笑)(岩波文庫)


+既読のルキアノス作品の感想+
「神々の対話」ルーキアーノス
「遊女の対話」ルーキアーノス
「本当の話 ルキアノス短篇集」ルキアノス

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トロイア戦争でヘクトールはギリシャのアキレウスに倒され、トロイア落城後、ヘクトールの妻のアンドロマックはアキレウスの息子・ピリュスの奴隷となることに。ピリュスの婚約者のエルミオーヌは、ヘクトールの忘れ形見・アスチアナクスの殺害を要求し、アンドロマックに心を奪われたピリュスは、そんなエルミオーヌを疎ましく思います。そこにエルミオーヌを愛するオレストが登場して... という「アンドロマック」。
アテネの王・テゼーとアマゾーンの女王・アンチオープとの子・イポリットは、この6ヶ月というものテゼーが行方不明であることに居ても立ってもいられない不安を覚え、父を探す旅に出ると言い出して... という「フェードル」。

フランスの劇作家・ラシーヌによる悲劇2作。どちらも古代ギリシャの3大悲劇詩人の1人・エウリピデスの悲劇作品が元になってます。こんなところでギリシャ神話絡みの作品が読めるとは迂闊にも知らなかったんですけど! 名前の訳が違いすぎて、話に入り込みにくくて困りました...。だってアンドロマックというのは、ギリシャ読みだとアンドロマケーのこと。ピリュスはネオプトレモスだし、フェードルはパイドラのことで、テゼーはテーセウス。イポリットはヒュッポリュトスのことで、アンチオープはアンティオペー。アルファベットで見たらそれほど変わらないでしょうけど(ギリシャ文字はアルファベットとはまた少し違うけど)、カタカナ表記では違いすぎですよぅ。従来のギリシャ読みを採用してくれたら、もっとずっと読みやすくなったはずなのに。

「アンドロマック」は、エウリピデスの「アンドロマケー」がモチーフとなっている作品なんですけど、元話とは結構違っていてモチーフを借りてきただけ。それだけにラシーヌらしさというのもあるのかな? オレストはエルミオーヌに、エルミオーヌはピリュスに、ピリュスはアンドロマックに、しかしアンドロマックはヘクトールを思い続けて... という片思いの連鎖が繰り広げる物語は、これはこれで結構面白いです。こんなにみんな前言を翻してばかりでいいのかしら?なんて思ったりもするのだけど。(笑)
「フェードル」は、やっぱりエウリピデスの「ヒュッポリトス」に題材を取っている作品ですが、こちらの方は元の作品にかなり忠実。これは元々それほど好きな話ではないし、比べてしまうと元話には見劣りするかな... 元話ではヒュッポリトスがアプロディテをないがしろにするところで悲劇が起きるんですけど、こちらはそんな神懸りではなくて、もっと人間ドラマになってるんですね。それがちょっと物足りなかったりして。
結局「アンドロマック」の方が面白かったんですが... でも結論から言えば、私はやっぱりエウリピデスの作品の方が好きだなあ。というのは、やっぱり名前の訳の問題も大きいのかなあ。でもラシーヌにはローマ時代を舞台にした「ブリタニキュス/ベレニス」というのもあるそうなので、そちらも読んでみようと思います。「ブリタニキュス」は皇帝ネロ、「ベレニス」は皇帝ティトゥスとベレニケの話ですって。どんな感じなのかしら~。(岩波文庫)


+既読のラシーヌ作品の感想+
「フェードル/アンドロマック」ラシーヌ
「ブリタニキュス/ベレニス」ラシーヌ

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遙か昔、ギリシャで栄華を極めていたオリュンポスの神々も、キリストが生まれてからというもの、その権威は地に墜ち、今はロンドンで困窮に喘いでいました。神々がロンドンに移住したのは1665年のこと。丁度大流行中だったペストの影響でロンドンの不動産価格が底値を記録していた頃で、知恵の女神・アテナによる財テク工作の一環として計画されたのです。しかし一旦ゼウスの名前を家の名義人に記した途端、一族はその地に縛り付けられることになり、300年以上も同じ家に住みながら、倒壊寸前の家をヘパイトスの改築・修繕に頼って暮らしていくことに...。神々は今やその力を失い、僅かずつではあるものの、老い始めていたのです。

ギリシャ神話の神々が現代のロンドンに住んでるとあれば、それは読まなくちゃと思ったんですけどーーー。これがもうほんと一体何なんだか!という出だしで、やっぱり読むのやめようかと思いました...。何がどうだって、序盤がとにかくお下劣なんです。最初、犬の散歩中のアルテミスが木になってしまった女性に出会うところはいいんですけど(アポロンとダフネのエピソードの再来ですね)、その後が...! アポロンとアプロディテが何をしようと勝手ですけど、ここまで書く必要はあったのかしら?
ということで、犬の散歩のバイトで日銭を稼ぐアルテミスに、携帯電話でテレフォン・セックスのバイトに勤しむアプロディテ。英知に優れてはいてもコミュニケーション能力が限りなくゼロに近いアテナ。アポロンはいんちき霊能者としてテレビに出演してるし、エロスは今や敬虔なキリスト教徒。ギリシャ神話でお馴染みの神々がこれでもかというほど情けない姿を曝け出してます。「抱腹絶倒」とは書かれていても、もう全然そんな感じじゃないしーー。というか、この手のユーモアセンスは、私にはイマイチなのよーー。...それでもギリシャ神話だし!とかなり我慢しつつ読み進めていたら、世界が滅亡へと進み始めた頃から面白くなりました。
結論としてはそれほど目新しくもないし、特にオススメ作品とも思わないんですが、それでも終わりよければ全て良しですかね? なかなか可愛らしく収まっていたと思います。下品ながらも可愛らしい神々、と思えるようになったのがスバラシイ。話に全く要領を得ないアテナにはがっかりなんですが(もっと素敵なイメージを持ってたのにー)、その分、アルテミスやヘルメスがなかなかいい味を出していて良かったです。(早川書房)

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Note


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