Catégories:“戯曲・詩”

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ニーデルラントの王子・ジーフリト(ジークフリート)は、ある日ブルゴントの国に世にも美しい姫がいるという噂を聞き、ぜひその姫を手に入れようと決意を固めます。その姫とは、ブルゴント国王グンテルの妹・クリエムヒルト。ジーフリトは12人の勇士たちを連れて、ブルゴントの国へ向かうことに。

13世紀初め頃に成立された、ドイツの「イーリアス」とも言われる作品。北欧神話の「エッダ」のシグルド伝説が元になってます。
絶賛叙事詩祭り(笑)ということで、叙事詩作品をいくつか読んできましたが、これはやっぱり面白い! クリエムヒルトとブリュンヒルトという2人の女性の口論が思わぬ事態を招いてジーフリトが死に、クリエムヒルトが復讐するという人間ドラマ。基本的に復讐譚は好みじゃないし、その2人の女性の口論の場面も好きじゃないので、今回読むかどうしようか迷ったんですが、読み始めたら面白くて一気に読んでしまいました。現代人にもすごく読みやすい作品だと思います。こういう作品を書いた詩人が無名のままというのが信じられない。

前半はジーフリトの栄華と美しく貞節なクリエムヒルトが中心。ジーフリトの死後、クリエムヒルトは貞節な生活を送りながら復讐を遂げる機会を待つことになるのですが、後半、彼女がフン族のエッツェルの嫁ぎ、実際に復讐への行動をとり始めると、クリエムヒルトがまるで鬼女のように、そしてそれまで卑怯者というイメージの強かったグンテル王の重臣・ハゲネに正義があるかのような描かれ方になって、その変化に驚かされます。前半の宮廷の優雅な華やかさも、後半は壮絶な血みどろの戦いに取って代わられ、これに関してはゲーテも「前編はより多く華麗、後編はより多く強烈」と評しているのだそう。

元となっている「エッダ」とはかなり違うんですよね。クリエムヒルト(「エッダ」ではグドルーン)が復讐を果たすのは一緒なんですが、「エッダ」では、クリエムヒルトよりもむしろブリュンヒルトの方がインパクトが強いんです。「ニーベルング」のブリュンヒルトは美しくても驕慢な女王ですが、「エッダ」では、ただジーフリト(シグルト)のことが好きだっただけというだけで、その純粋さがいいんですよね。
ワーグナーの「ニーベルンゲンの指環」は、話は知ってるものの、本としては未読。こちらも今度読んでみなくっちゃ。(岩波文庫)

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デネ(デンマーク)の王フロースガールは、類まれな館を作らせ、これをヘオロットと命名。しかし日々この館から流れてくる賑やかなざわめきに苛立っていたカインの末裔・グレンデルがある夜、宴の終わった館を襲い、警護の戦士らを虐殺。夜毎に襲来を重ねることに。そしてなす術もなく12年経った頃。イェーアト族の王ヒイェラークの甥・ベーオウルフがグレンデル退治にデネの国へとやって来ます。

8世紀頃に成立したとされている、古英語の英雄叙事詩。英文学史上で一番古い作品とされています。私も大学時代に英語で読みました... とは言っても、古英語は読めないので、現代英語訳だけですが。そういえば日本語で読むのは初めてかも。
各章の冒頭に梗概があるので内容は掴みやすいんですが、物語自体は、すんなりと時系列に沿って進むわけじゃなくて、突然回想シーンが始まったり、将来的な災厄の予感が挿入されていたりするんですよね。中に含まれているエピソードも、ストーリーの展開上必然性があるものばかりではなく... というよりもむしろ関係ない脱線もとても多くて、こういうを読むと、「エルガーノの歌」(感想)のあとがきで井辻さんが叙事詩について書いてらした、「そういう物語は、とほうもなく非合理で、小説のようなちゃんとした結構(多分「構造」の誤植)をもっていなくて、断片的で--うまく言えないのですが--詩のような夢のような、奇形であいまいで、それだから美しいようなところがあります」 という言葉を実感します。私自身は、詩の形式で読めるのが嬉しいんですが、やっぱり初めて読む場合は、物語形式の方がいいかもしれないですね。検索していたらローズマリー・サトクリフの本がかなり評判が良いようで、抄訳とはいえ、そちらも読んでみたくなっちゃいました。
怪物や竜を退治するとなると華やかな英雄譚になりそうなものなんですが、この作品は、宮廷の場面も登場する割にあまり華やかではないです。色彩に乏しいのかも。炎の色とか金色は目につくんですが、基本的に少し暗く沈んだ色調のイメージ。無事に怪物や竜を退治するにも関わらず、どこか哀愁が漂ってます。(岩波文庫)

「指輪物語」のトールキンが、「ベーオウルフ」についての画期的な論文を発表してるらしいんですよね。それが読んでみたいなあ。そしてこの作品、カナダ・アイスランド・イギリスの合作で映画にもなっているらしいですね。かなり評判が良いみたいなので、観てみたい!→Beowulf & Grendel公式サイト

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気がつけば、絶賛叙事詩祭りになってます。(笑)
ちくま文庫の中世文学集IIとIII。ちなみにIは「アーサー王の死」。それ以外に何があるんだろう... と思ったらこの3冊だけで、ちょっと残念。それぞれ2作ずつ入っていて、まさに題名の通りです。

まず「ローランの歌」は、フランク王シャルルマーニュのイスパンヤ(スペイン)侵攻中の物語。カルヴィーノの「不在の騎士」(感想)を読んだ時から、また読もうと思って用意してたんですが、ようやく読めました。11世紀頃に成立したと言われているフランス最古の叙事詩です。778年のロンスヴォーの戦いをという史実を元にしているようなんですが、架空の人物も多数登場、実際はバスク人と戦ってたのに、サラセン人に変えられてます。スペインがサラセン人...? ということはイスラム教徒?! とか細かい部分を気にしたらダメ~。(笑) この時代って十字軍の時代ですしね。敵がイスラム教徒の方が何かと都合が良かったんでしょう。...でも、敵側からの視点の場面でも、「馨しの国フランス」なんて言っちゃったり(本来はフランスが自国のことを讃える言葉です)、自分たちのことを「異教徒」と呼んでしまうのが、お茶目で可笑しい♪ そして、「ローランは剛(つよ)くオリヴィエは智(さと)し。」という言葉が、やっぱりイイ!

「狐物語」は、性悪の狐・ルナールが、鶏や狼、熊といった連中を次々に騙していく物語。私はイソップみたいな動物寓話が苦手なんですよね... しかもみんな思いっきり騙されてるし... これはちょっと騙されすぎだってば(^^;。でも昔の人にはこういう物語が娯楽だったんでしょうねえ。登場するのは動物でも、簡単に人間に置き換えて想像できるので、そういう意味では、当時の宮廷の様子や商人や農民たちといった庶民の暮らしぶりが良く分かる作品。

「エッダ」は、北欧神話です。神々と英雄の物語。17世紀半ばにアイスランドの修道院で「王の写本」が発見されて以来、各地に散在している写本が徐々に見つかり始め、現在は似たような性格の作品が40編ほど集められているのだそう。でもここに収められているのは14編だけ。やっぱり谷口幸男さんの「エッダ-古代北欧歌謡集」を読むべきかしら。あと、初心者向けらしいんですが、図版や解説が充実してるらしいK・クロスリイ・ホランドの「北欧神話物語」も気になります。
そしてこの14編の前半はオーディンやトール、ロキといった神々の物語なんですが、後半は「ニーベルンゲンの歌」の元となった、シグルド(ジークフリート)伝説。私としては、本当は神々の登場する前半の方が好みです。やっぱり英雄譚よりも神話が好きだな。でもこういうのを読むと、「ニーベルンゲンの歌」も再読したくなっちゃいますねー。

そして最後に「グレティルのサガ」は、12~13c頃に成立したという作品。これだけは元々散文で書かれたみたいです。幼い頃から大力の乱暴者で、父親からも疎まれてるグレティル。とうとう人を殺して追放されてしまいます。でも旅に出た先で、海賊や妖怪をやっつけて大活躍することに... とは言っても、かなり運勢が悪いらしくて、いいことをしても裏目に出たりするのが可哀想。正直、あんまり夢中になれるほどじゃなかったんですが、このグレティルが実在の人物だと知ってびっくりでした。そしてこちらを読んだら、「ベーオウルフ」が読みたくなりました。(笑)(ちくま文庫)

ということで、絶賛叙事詩祭りはまだ続きます... が、そういうのって画像が出ない本ばかりなので詰まらない~。次はちょっと違うのに行きます。(って、そんな理由で読む本を選ぶのかっ)

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原初に混沌(カオス)が生じ、続いて大地(ガイア)、奈落(タルタロス)、エロスが生じ、続いて幽冥(エレボス)と夜(ニュクス)、澄明(アイテル)と昼日(ヘメレ)が生じて... という、宇宙の始まりから、様々な神々の誕生、そしてゼウスがオリュンポスで神々を統べるようになり、絶対的な権力を得るまでの物語。
ホメロスと並ぶ最古の叙事詩人、ヘシオドスによるギリシア神話です。あくまでも詩の形態を取りながらも、どんどん生まれて来る神々を系統立てて説明し、宇宙観まで解き明かしてしまうというのがすごい!

でも、一読してまず思ったのは、やっぱりこういうのは詩の形で読んでこそだなあ、ということでした。「イリアス」を散文で読んだ直後というのもあるでしょうね。元の文章は六脚律(ヘクサメトロス)と呼ばれる形で書かれていて、それは日本語には表しようのないものなんですけど、やっぱり詩はあくまでも詩の形で読まなくては! その方がイメージもふくらみますしね。大学の時に授業で古代ギリシャ語の朗読を聞かせてもらったことがあるんですが、古代ギリシャ語って、ほんと歌ってるような、とても綺麗な言葉なんですよー。そういうので歌ってもらったら、さぞ素敵なんだろうなあ。なんてことを思ったりもするわけです。(古代ギリシャ語自体は、文法が難しすぎて、結局私には太刀打ちできませんでしたが...)
それに詩人がその詩を歌っているのは、あくまでも神々からの言葉だという、そういうギリシャの古い叙事詩ならではの部分もとても好き。この「神統記」だと、オリュンポスの9人の詩歌女神(ムウサ)によって神の言葉を吹き込まれたヘシオドスが歌っているという形。だから詩はまずその詩歌女神(ムウサ)たちへの賛歌から始まるわけです。(私は様式美に弱いタイプだったのか)
この辺りは、積読山脈造山中さんの記事が分かりやすいので(特に六脚律について)どうぞ。→コチラ

それに、例えば昨日読んだ「イリアス」では、「アイギスもつゼウス」と出てるだけで注釈もなく、「アイギスって何よ?」状態なんですが、こちらでは「神盾(アイギス)もつゼウス」のように書かれているのが分かりやすくて良かったです。あ、こういう枕詞も好きなんですよね。ゼウスの場合は「神盾(アイギス)もつ」や「雲を集める」、ポセイドンは「大地を震わす」、アテナは「輝く眼の」... 他にも色々とあります。でも、「ポイボス・アポロン」は、そのまま... これは例えば「輝ける」でも良かったんじゃないかと思うけど、ダメだったのかしら。

ただ、神々の名前が次から次へと、どんどん出てきてしまうんです。ちょっとちょっと子供産みすぎだってば!と言いたくなるぐらい。
海(ポントス)の長子・ネレウスなんて、大洋(オケアノス)の娘ドリスとの間に、娘ばっかり50人もいて、その名前がずらずら~っと並んでるんですよーっ。(ちゃんと50人の名前があるかどうか数えてしまったわ) それでも「足迅(はや)いスペイオ」「愛らしいタリア」「薔薇色の腕(かいな)もつエウニケ」みたいな言葉が付いてるならまだいいんですが(でも「薔薇色の腕」は1人だけじゃないんですよね...)、名前しか出てない場合は、もう右から左へと抜けていっちゃいます。...とは言っても、巻末には神々の系譜図もあるし、神々や人間の名前の索引もついているので、途中で混乱しても大丈夫なんですけどね。親切な作りです。(岩波文庫)


+既読のヘシオドス作品の感想+
「神統記」ヘシオドス
「仕事と日」ヘーシオドス

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トロイア戦争が始まって10年経った頃。アカイア軍の総帥・アガメムノンがお気に入り妾・クリュセイスの解放を拒んだため、怒ったアポロンがアカイア軍の陣中に疫病を発生させます。アキレウスらがアガメムノンを説得、ようやくクリュセイスは父親であるアポロン祭司の元に戻るものの、それでは収まらないアガメムノンは意趣返しとして、アキレウスの愛妾・ブリセイスを強奪。アキレウスを怒らせることに。

トロイア戦争をモチーフにした作品のうちでは、これが一番有名な作品でしょう。でもここに描かれているのは、10年にも及ぶトロイア戦争のうち、ごく末期の部分だけなんですよね。それも1ヶ月ほどの短い期間。不和の女神・エリスと黄金の林檎、3人の女神たちとパリスの審判、アプロディーテーにヘレネを約束されたパリスが彼女をトロイアに連れて帰ったこと、戦争の勃発、そしてトロイア陥落の直接の原因となった、オデュッセウス発案のトロイアの木馬などの有名なエピソードについては、全く何も書かれていないんです。中心人物であるヘレネーすら、ほとんど登場しないぐらいですから。(ほとんど話題にもなってないですね) もちろん、実際にこの「イリアス」が歌い語られた時代は、観客も当然トロイア戦争に関する知識を豊富に持っていたわけで、戦争の原因やそれに至る出来事に触れられていなくても全く差し障りはなかったんでしょうけど... それでも、いきなりアキレウスとアガメムノンの反目から物語を始めるなんて、大胆だなあと改めて感心してしまいます。
とは言っても、実際に読んでみると、ホメロスがこの部分を取り上げたのにも納得なんですよね。戦いとしては、やっぱりここが一番の盛り上がりかも。特にアキレウスの親友のパトロクロスが死んだ後が面白い~。極端な話、パトロクロスが出陣する辺りから始めても良かったんじゃないかと思うぐらい。アカイアー軍とトロイア軍の戦いは、そのままオリュンポスの神々同士の争いや駆け引きの場にもなってて、そういう部分も楽しいですしね。というか、まるでRPGに熱中してる子供のようだわ、この神々ってば。

雰囲気は十分出ているとはいえ、散文調に訳されてるのがちょっと残念なんですが、大半の読者は詩なんて読みたくないでしょうし、それもいたし方ないのかな...。以前読んだ時は、詩の形だったような覚えがあるのだけど。そして巻末には、ヘロドトスによる「ホメロス伝」も収録されています。「イリアス」や「オデュッセイア」に、さりげなくホメロスが日ごろ世話になった人の名前を組み込んでるなんて知らなかった。神々が、ある特定の人の姿を取って人間に話しかけたりしてる裏には、そういうこともあったんですね。面白いなあ。(岩波文庫)


+既読のホメロス名義作品の感想+
「イリアス」上下 ホメロス
「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」
「オデュッセイア」上下 ホメロス
「ホメーロスの諸神讃歌」ホメーロス

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トロイア戦争関係の作品は色々ありますが、そもそものトロイア戦争の発端となった、パリスがヘレネーを連れ去った事件について書いているのは、このコルートスの「ヘレネー誘拐」だけなのだそうです。そして一緒に収められているのは、「ヘレネー誘拐」とは対照的に、トロイア最後の日を描いた、トリピオドーロスの「トロイア落城」。こちらには「トロイアの木馬」の製作過程、そしてアカイア軍がトロイアを攻め落とす様子が詳細に描かれています。

どちらも叙事詩としてはとても短い作品。「ヘレネー誘拐」には、もう少ししっかり書き込んで欲しい部分もありましたが... 不和の女神エリスの投げ込んだ黄金の林檎に「一番美しい女神へ」みたいな言葉がないので、なぜ3人がいきなり林檎を欲しくなったのか分からないし、しかもなぜいきなりパリスが審判を務めることになったのかも分からないんですよね。でもパリスとヘレネーの場面はやっぱり面白かったです。最後には、ヘレネーの娘のヘルミオネーも登場しますし。そして「トロイア落城」は、マリオン・ジマー・ブラッドリーのファイアーブランドにとても近くて、「これこれ、こういうのが読みたかったのよ」。
会話文、特に女性の言葉の訳し方にはひっかかってしまったんですが(女性の一人称が全ての「あたし」だなんて!)、全体的には面白かったです。注釈の入れ方もとても分かりやすいですね。例えば岩波文庫の注釈の入れ方って、オーソドックスだけど、読みづらいことも多いんですよね。最後にまとめて注釈のページがあるというのもそうなんですが、作品そのものに関する説明だけでなく、訳出上のことまで書かれていたりして、どれが本当に必要な注釈なんだか分からなくなってしまいます。何でもかんでも注釈がついてたら、そのたびに読むのを中断させられてしまって、流れを楽しむどころじゃなくなっちゃいますし。

解説では、クイントゥスの「トロイア戦記」が何度となく引き合いに出されてました。こちらも読んでみなくっちゃいけないですね。でもまずは「イリアス」にいきます。ちょっとしんどそうだけど... これまでギリシャ神話は好きでも、トロイア戦争にはほとんど興味がなかったはずなんですが、気がついたらすっかりハマってますね。(笑)(講談社学術文庫)

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10年にも渡る攻防の末、トロイアの都イーリオンを攻め落とし、王妃クリュタイメーストラーに松明で報せを送ったアガメムノーン王は、イーリオンで捕えた王女・カッサンドラーを伴って凱旋し、妃の待つ王宮へと向かいます。しかし王宮に入る直前、予言者でもあるカッサンドラーが、王妃クリュタイメーストラーによってアガメムノーン王と自分が殺されることを予言するのです。

マリオン・ジマー・ブラッドリーの「ファイアーブランド」を読んで(感想)、ギリシャ物が読みたくなったところにこれを見つけたので、早速読んでみました。ギリシャ悲劇です。こんなの読んでたら、「また、反応できないような本を読んで~!」と言われてしまいそうですが... 最近、ネットのお友達に会うたびにそう言われてるような気が(^^;。
ここに登場するクリュタイメーストラーとは、トロイア戦争の発端となったヘレネーの姉妹。アルゴス王アガメムノーンの王妃です。そしてクリュタイメーストラーが自分の夫を殺そうと考えたのは、アガメムノーンが自分たちの娘・イピゲネイアを、アカイアー軍の戦勝のために生贄に捧げてしまったことへの恨み、そして10年間夫が留守だった間、自分自身が浮気をしていたこと。
題名は「アガメムノーン」になってますが、この作品の主人公はどう見てもその妻・クリュタイメーストラーです。

この作品を読んで一番面白かったのは、有名な伝説を悲劇に仕立てただけに、観客が事の結末を知ってるということ。だからクリュタイメーストラーの心にもない台詞を聞いて、逆にその欺瞞を感じ取るんですよね。(一種の倒叙... とは言えない? 笑) 中には結構面白い演出もありました。この悲劇はB.C.458年に実際に初上演されたそうなんですが、これって演じられてるのを観るのも結構面白そう。どんな風に演じられてたのか、観てみたくなっちゃいます。(もちろん古代ギリシャ語で演じられても、何が何やらさっぱり分からないですが) それにとても普遍的なんですね。結局、戦争というものも、それぞれ登場人物たちのドロドロした感情も、今も昔も変わらないわけだし... カッサンドラーの、予言の言葉から死を恐れずに宮殿に入るまでの一連の言動はとても哲学的で、そういったところもとても面白かったです。...ただ、古典作品の例に漏れず、この作品も訳注がとても多いんですよね。最初の1回目はその注釈を全部見ながら読むし、あまり面白くないんです。2度目3度目と読み返してるうちに、ぐんぐん面白くなるのですが。

そしてこの作品を読むと、やっぱりブラッドリーの描いたクリュタイメーストラーは魅力的だったなって、改めて思いました。「ポセイドーンの審判」の最後にちらっと登場しただけだったんですけど、存在感も抜群でしたしね。この「アガメムノーン」は、娘を殺されたクリュタイメーストラーに半ば同情しているようでいて、やっぱり男の論理って感じだし... こういった古典作品(聖書含)は男性の視点から書かれてることの方が圧倒的に多いので、同じ出来事を色んな視点、特に現代女性の視点から描きなおすと、まるで違った部分が見えてきて、新鮮だし面白いですね。(岩波文庫)


+既読のアイスキュロス作品の感想+
「アガメムノーン」アイスキュロス
「ギリシア悲劇I」アイスキュロス

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