Catégories:“SF”

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近未来、書物が禁止されている時代。焚書官のガイ・モンターグはその日も通報を受け、仲間たちと共に現場に駆けつけていました。大蛇のような巨大なホースで石油を撒き散らし、本だけでなく家に火をつけて全てを焼き尽くすのです。そして仕事から帰る途中、彼は隣の家に引っ越してきた少女に出会います。少女の名前はクラリス・マックルラン。クラリスはモンターグに色々と奇妙なことを話し、本を焼いているのは幸せなのかと尋ねます。

レイ・ブラッドベリも少しは読んでるんですけど、SFが基本的に苦手なのであんまり読んでないんですよね... これは美結さんにオススメされた本です。いや、これがすごかった。読んでる間中、ずっと頭にあったのは「時計じかけのオレンジ」(感想)。そして伊坂さんの「魔王」(感想)の「考えろ考えろマクガイバー」という言葉。

壁面をテレビにしていつも映像に囲まれ、海の貝と呼ばれる小型ラジオ受信機を耳に入れている人々。街中で車を運転する時は最低制限時速(「最低」です、最高じゃありません)が55マイル(約88km)で、時速40マイル(約64km)なんかで運転しようものなら、即刻刑務所行き。徒歩運動(って何なのかよく分からないんですが)をしても逮捕され、学校で疲れた子供たちは遊園地に行ったり「窓割り遊技場」で窓を割ったり、「自動車破壊場」で車に大きな鋼鉄ボールをぶつけたり、車で正面衝突ごっこをして気分転換。本は基本的に禁止。許されるのは漫画や性風俗の雑誌程度で、聖書ですらも処罰の対象。人々には、ひたすら何も考えないことが求められてるんですね。そして何も考えない人々は、日々提供される娯楽に身を任せるだけ。何も考えないことに慣れすぎてしまって、いざ戦争がおきて身近な人間が動員されても、何も考えられない状態なんです。「考えない」だけでなく「感じない」ですね。いくら巧妙に操作されていても、そんな生活、知らず知らずのうちにストレスが溜まるのではないかと思うんですが、そのストレス解消の手段までもがさりげなく提供されているというのが恐ろしい...。
でもそんな世界を恐ろしいと思いながら読んでいると、それが実は現代社会を如実に映し出していることに気づかされます。全然未来の話じゃない、まさに今のこの状態! ...モンターグの妻のミルドレッドが夢中になっているのは、テレビの中の人々と一緒になって自分の役割を演じること。RPGのゲームをしているようなものですね。海の貝は、今はiPod? 家ではテレビやパソコン、出かける時は携帯電話を手離せず、耳には常にイヤホン。心の底から満たされることがなく、精神的に不安定になっている人々の姿も同じ。本も映画もどんどんスピードアップしてジェットコースター状態になってるし、特に作中で署長のビーティがモンターグに語るこの言葉!

『ハムレット』を知っているという連中の知識にしたところで、例の、<これ一冊で、あらゆる古典を読破したのと同じ。隣人との会話のため、必須の書物>と称する重宝な書物に詰め込まれた一ページ・ダイジェスト版から仕入れたものだ。わかるかね?(P.111)

まさに今流行りだという「あらすじで読む世界文学」のような本のことじゃないですか。この作品が発表された当時は突拍子もなく感じられたのかもしれないけど、今やすっかり現実となってます。焚書官という存在がなくても同じ状態になってる分、ブラッドベリが書いたこの作品よりも酷い状態へと向かっていると言えるのかも。

冒頭の火の場面がものすごく印象的です。素晴らしい...。あと、まるでアンドロイドのように無機質な人々の中で、モンターグとクラリスの場面だけが色鮮やかで引き込まれました。華氏451度とは摂氏233度、紙が自然発火する温度なのだそうです。色々考えさせられるし... 色んなことを感じ続けたいですね。人間であり続けるためにも。(ハヤカワSF文庫)

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ダヴンホール島のチャイナタウンで生まれ育ったマークは、生まれつき真っ白い髪をした少年。そのマークが、母親の足元に見知らぬ男の死体が横たわってるのを見たのは19歳の時。マークはそのまま回れ右をして島を出て行きます。島と本土を行き来する小さい船で働きながら、決して島に降り立とうとはしないマーク。そして15年が経った時。ダヴンホール島にやって来た青いドレスの娘に心を奪われたマークは、娘がなかなか戻って来ないのに苛立ち、15年ぶりに島に降り立ちます。しかし娘は見つからず、マークは母と再会。そして15年前に死んだ男の声、バニング・ジェーンライトの生涯を語る声を聞くことに...。

裏表紙に「仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら...」と書いてあったので、てっきりヒトラーのif物、第二次世界大戦でナチスが勝ち、その勢力が全世界に及んでいく話なのかと思ったら! いや、確かにヒトラーは生きてるんですけどね。そういう話ではなかったんですね。そして裏表紙に「ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え」ともあったので、最初に出てくる少年がそのポルノグラファーになるのかと思ったんですけど、どうやらそれも違うみたいで、そうこうしてるうちにバニング・ジェーンライトの話が始まっちゃうし。しかもそのバニング・ジェーンライトの話の中にも、いくつもの話の流れがあるんです。面白くてどんどん読み進めてしまうんですけど、えっ、これってどういうこと? 話はあとでちゃんと繋がるの? このまま読み進めちゃって本当に大丈夫...? なんて不安になってしまいました。
それでもとりあえず読み続けてたら。「あっ」と思った瞬間全てが繋がってました。そうか、よく分からなかったあの場面はこういうことだったのか! あれもこれも、そういうことだったのか! いきなり目の前がクリアになりました。オセロゲームで、いきなりパタパタと駒がひっくり返って、黒一色に見えた盤上が白一色になってしまった時みたいな感覚。
そうか、これはパラレルワールドじゃないんですね。パラレルワールドと言えるほど平行してないもの。捩れて絡まりあって侵食しあってます。そうか、クリストファー・プリーストの「双生児」か。あと、先日読んだばかりのガルシア=マルケス「百年の孤独」も? いや、凄かったな。これはもう一同最初に戻って読み返してみなくっちゃ。そうすれば、もう少し全体像を掴みながら読めるよね。ああ、作者の理解力を持ってこの作品を読みたい。って、理解力のなさを暴露してるようですが、そこはそれ、隅々まで理解したいということで♪

...で、結局カーラって誰だったんでしょうか?(す、すみません、よく分からなくて...)(白水uブックス)

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かつて早川書房の異色作家短篇集に大きく影響され、今も尚影響を受け続けているという恩田さん。異色作家短篇集のような無国籍で不思議な短編集を作りたいと考えて「奇想短編シリーズ」と銘打って雑誌に連載していたという作品15編を集めた短編集です。

最近こういった国内作家さんの本を読む機会がめっきり減ってしまって、恩田さんの新作にも以前のようには手が出ない私。新刊が出たら「すぐ読みたい!」と思う作家さん、減りましたねえ。一時に比べると本当にわずかになってしまいました。多分、読みすぎて飽和状態になってしまったんでしょう。恩田さんの作品も今のところは細々と追ってるけど、いつまで続くか... そういう時に短編集を読むのってキケンなんですけどね、本当は。短編集は基本的に苦手なので、下手するとそれっきりになってしまいそうで。

さてこの「いのちのパレード」。一旦読み始めると、ほんと読みやすくてびっくりしてしまうんですが、こういう国内作家さんの読みやすさがまたクセモノなんだよな、なんて最近は思うようになりました。ひねくれてるな。(笑)
ええと、この中で私が一番好きだったのは「夕飯は七時」。こういうのは好き~。そんなアホなと思いつつ、思わず想像してニヤニヤしちゃう。これはやっぱり例の一族の話に繋がってるのでしょうか。あと「かたつむり注意報」も良かった。こういった雰囲気は好きですねえ。「SUGOROKU」なんかも結構好きなタイプ。でもその他は... うーん、まずまず楽しめたのもあったんだけど、面白さがよく分からないのも結構あったりして... それにやっぱり短編集のせいか、途中で息切れしてしまって困ります。一旦息切れしちゃうと、どうやっても進まなくなるんですもん。そういうのって短編がどうこういう私の嗜好だけでなく、きっと途中で集中力を途切れさせてしまうような作品があるせいなんだろうなと思うんですが。
いくつかの作品で、あれ、これってもしかして...? なんて思ったりしたので、どの作品も何らかの作品へのオマージュなのかもしれないですね。そういうのが分かると、また楽しさが違ってくるのかも。(実業之日本社)


+既読の恩田陸作品の感想+
「夏の名残りの薔薇」恩田陸
「小説以外」恩田陸
「ユージニア」恩田陸
「蒲公英草紙」「光の帝国」恩田陸
「酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記」恩田陸
「ネクロポリス」上下 恩田陸
「エンド・ゲーム」恩田陸
「チョコレートコスモス」恩田陸
「中庭の出来事」恩田陸
「朝日のようにさわやかに」恩田陸
「木洩れ日に泳ぐ魚」恩田陸
「いのちのパレード」恩田陸
「猫と針」恩田陸
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

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ある初冬の晩、社会主義同盟の集まりから帰ってきた「私」は、家についた途端ベッドに転がり込んで、すぐに寝入ってしまいます。しかし翌朝、すっかり日が高くなってから目が覚め、服を着替えて外に出てみると、そこは6月上旬のようなうららかな美しい朝。空気が心地よく、そよ風が気持ち良いのです。なかなか眠気が去らないせいだと考えた「私」はテムズ川で泳ぐことを思い立ち、いつの間にか家の真正面にできていた浮桟橋から舟に乗り込むことに。しかし水の中から見た川岸の光景はいつもとはまるで違っていて、船方の青年も14世紀風の美しい服装をした洗練された紳士だったのです。その船方の青年・ディックと話すうちに、「私」がなんと未来のロンドンにいることが判明して...。

19世紀に生きる主人公が、22世紀の未来にタイムスリップしてしまうという物語。未来のイギリスはまさにユートピア。貨幣制度は既に廃止されていて、人々は生きるために働いているのではなく、自分の楽しみのために、あるいは夜の眠りを心地良くするために働いています。機械によって粗悪品が大量生産されることもなく、美しい手工芸品が喜ばれる世界。生活に追われて嫌な仕事に追われるということもなく、各自がそれぞれに好きな仕事をこなし、必要とする人に必要とする物を供給することによって自然に社会が運営されていくという仕組み。いつか「革命」がおきて、そういった世界が来ることを望んでいた主人公は、自分の生きていた時代から後に一体何が起きたのか、古老たちに聞かずにはいられません。
これはモリスにとっての理想の社会の未来図なんでしょうね。モリスにとって現実の19世紀の世の中がどんなものだったのか、そして彼の持っていた社会主義とはどのような思想だったのか、この作品を読むとよく分かります。でも、あまりに夢物語で... もちろんこの作品の中でもこれは夢物語なんですけど(笑)、ここまでくるとなんだか逆に痛々しくて、読むのがちょっとツラかったかも。
でも、満ち足りた幸せな生活を送っていると、人間の老け方も全然違ってくるというのが面白かったです。主人公はじき56歳という年齢なんですけど、未来の世界では80代ぐらいの老人と思われてるんですね。逆に20歳そこそこだと思った女性が実は40歳を過ぎていたり、がっしりと逞しい初老の男性が実際には90歳ぐらいだと分かったりして、主人公はびっくり。確かに生活に追われてると老けやすいでしょうけど、ここまで極端なのは... でも言いたいことは分かるような。(笑)(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス
「アイスランドへの旅」ウィリアム・モリス

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様々な問題にいらいらしている時によくみるのは、思いがけない楽しい夢。そんなある晩みたのは、1381年に起きたワット・タイラーの乱の只中にあるケントにいる夢でした。「私」はケントのウィリアム・タイラーという男と親しくなり、ワット・タイラーの指導者の1人となった司祭・ジョン・ボールと語り合うことになったのです。

ウィリアム・モリスは芸術家であるだけでなく社会主義者だったんですが、この作品はモリスが編集者となっていた社会主義同盟の機関紙「コモンウィール」に発表されたもの。それだけに、これまで読んだ中世風ロマンスとはまるで違っていて、社会主義者としてのモリスの一面を強く感じさせる作品でした。仲間と共に会社を設立したモリスは、自ら資本家となることで現実と理想の矛盾を身をもって体験し、社会を変えていかねばならないという使命を感じたのだそう。「社会主義」と聞くと、正直ちょっと引いてしまうところはあるんですが、モリスの理想の世の中というのは、旧ソ連のような社会主義とはまたちょっと違うんですよね。(多分) 
「ジョン・ボールの夢」という題名から、主人公がジョン・ボールになった夢をみたのかと思ったんですが、そうではなくて、ジョン・ボールと出会ったという夢でした。大筋としては、ワット・タイラーの乱の当時のケントの人々を描いたもので、実際、中世当時の田園風景や人々がとても生き生きと描かれているのが魅力的。特に村の酒場・薔薇亭での村人たちと飲み食いしている様子や、ウィリアム・タイラーの家での夕食の様子が素敵です。生命力が満ち溢れてる感じ。でも中心となっているのは、乱の指導者であるジョン・ボールと語らう場面。その場面を通して、モリスは現実の自分が生きている19世紀の世の中を改めて見つめ直しているんですね。
この本の挿絵は、ジョン・ボールが残した言葉として有名な「アダムが耕し、イヴが紡いでいたときに、ジェントルマンなどいただろうか」という言葉をバーン=ジョーンズが絵にしたもの1枚だけ。それがちょっと寂しいかな。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス
「アイスランドへの旅」ウィリアム・モリス

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ある6月の雨の日。仕事途中に立ち寄った青山のギャラリーの扉を押し開けた途端、思いがけない芳香に鼻をくすぐられて驚く友香。それは人間ではなく、ギャラリー奥の壁にかけてある小さな布裂から漂ってくる匂いでした。その週、ギャラリーではトルコの染織をテーマに絨毯やキリムを展示していたのです。その芳香に引き寄せられるように友香は毎日のようにギャラリーを訪れ、その布裂が13世紀のコンヤ地方の村で作られた貴重なトルコ絨毯だと知ることに。そして「匂いは、追わないと消えますよ」というオーナーの言葉に後押しされるように、友香はいい匂いのする絨毯を探しにイスタンブルへ...。

匂いがポイントになるという時点で、実はちょっと引きそうになりましたが... パトリック・ジュースキントの「香水 ある人殺しの物語」(感想)を読んだ時は全然そんなことなかったのに、なんでだろう? 体調の違い?(今、ひどい風邪をひきそうなところを一歩手前で踏みとどまってるような、イヤんな感じがあるのです) 読んでみれば結構面白かったです。芳香を放つ絨毯を探して旅をする物語。現代のイスタンブルから、13世紀のビザンティン帝国の首都・コンスタンティノポリスまで行くことになるという、タイムトラベル物でもあります。
トルコに何度も滞在している新藤悦子さんならではの現在や昔のトルコの描写や絨毯の話もたっぷり。トルコのルーム・セルジューク朝の最盛期を築いたスルタン・ケイクバードと、ニカイア帝国の「千の耳」テオドータの恋を通してトルコの歴史的な一面をも見ることもできて、雰囲気もたっぷり。もっとこの辺りの歴史的な小説を色々と読んでみたいな。(東京書籍)


+既読の新藤悦子作品の感想+
「空とぶじゅうたん」1・2 新藤悦子・こみねゆら
「青いチューリップ」「青いチューリップ、永遠に」新藤悦子
「エツコとハリメ」新藤悦子
「トルコ 風の旅」「イスタンブールの目」新藤悦子
「時をわたるキャラバン」新藤悦子
「羊飼いの口笛が聴こえる」新藤悦子
「チャドルの下から見たホメイニの国」新藤悦子

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21世紀の私企業・FUPが極秘裏に開発したのは、タイムチューブと呼ばれる一種のタイムマシン。チューブの片側の端は21世紀の現代に設置され、もう片側は現在は16世紀に設置されており、チューブが稼動すると、その中を歩いていく人間は通り抜けた時に16世紀のイングランドにいるという仕掛け。FUPは16世紀のイングランドの辺境地帯から石油や石炭、黄金などの資源を掘削し、さらにその辺りをリゾート地として売り出したいと考えていたのです。しかしその地方に住む好戦的なスターカム一族とはアスピリン錠をえさに同盟をしているはずなのに、彼らは地質調査に訪れた21世紀の学者たちを身ぐるみ剥ぐことなど何とも思っておらず...。

1998年に刊行されると、イギリス児童文学の2大タイトル、カーネギーとガーディアンの両賞にノミネートされて、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」(J.K.ローリング)や「肩甲骨は翼のなごり」(デイヴィッド・アーモンド)などを抑えてガーディアン賞を受賞したという作品。
500年の昔にタイムスリップするという意味ではSFなんですが、SF色はその程度かな。むしろファンタジーと呼んだ方がいいかもですね。あとがきでもジュード・デヴローの「時のかなたの恋人」や他の作品が引き合いに出されていたけど、確かにそんな雰囲気。あとダイアナ・ガバルドンの「時の旅人クレア」とか。過去に行っちゃった後は、O.R.メリングのケルト物にもちょっと近いかも。
過去に行った現代人が自分たちを「エルフ」の一族だと名乗って、近代技術を全て「エルフの技」なんて言ってるのが、現地に派遣されてる女の子が妖精の女王的な扱いを受けてるのと相まって面白いんだけど... 本文中でも引き合いに出されてたんですが、21世紀の人間と16世紀の人間の関係がまるでアメリカ大陸に上陸した白人と現地のインディアンのようで、ちょっとツラい部分もありました。これでもっと21世紀人に魅力があればねえ。21世紀人が、「野蛮で好戦的で、しかも貧しくて不潔」と捉えているスターカーム一族なんですが、その生き様の濃さや力強さは実はとても魅力的。ものすごく「生きている」って感じがします。それに引き換え、21世紀の人々の情けないことったら。確かに清潔で便利な生活なんだけど、何て無味乾燥で薄いのかしら。...というのが、作者の書きたいことの1つだったのかもしれませんが、この辺りのバランスがもう少し良ければ、もっと面白くなったでしょうに、とも思っちゃう。ちょっと残念でした。(創元推理文庫)


+既読のスーザン・プライス作品の感想+
「エルフギフト」上下 スーザン・プライス
「ゴースト・ドラム」「オーディンとのろわれた語り部」スーザン・プライス
「500年のトンネル」上下 スーザン・プライス

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全長1500フィートで七層に区分された、要塞のような「地球市」は、常にレールを敷設して1年に36.5マイルずつ進み続ける都市。この都市に生まれたヘルワードは、この日都市で成人とされる650マイルの年を迎えて、ギルドの見習い員となる儀式に出席していました。ヘルワードは父と同じ未来測量員を希望して認められ、早速見習いギルド員として、様々なギルドの仕事を経験することになります。最初の仕事先は、鉄道敷設ギルド。ヘルワードは生まれて初めて外に出て、土の匂いを嗅ぎ、夜明けの太陽が昇るのを眺めることに。その太陽は、かつて教師に習ったような球形ではなく、円盤のような形をしていました...。

なぜ都市は移動し続けなければならないのか、なぜ都市の人々は外に出ることができないのか、なぜ限られた人々しか都市が動いていることを知らないのか。そもそもこの世界は何なのか。読み始めると同時にわからないことがいっぱい。ヘルワードのお父さんが同年代の人間よりも老けて見えるのは、きっと未来測量員という仕事のせいなんだろうなとは思うんですけど、そもそも未来測量員が何なのかも分からないんですよねえ。それでもその設定を受け入れて読んでるうちに... えっ、時間や距離が状況に応じて変化?! なーんてますます不思議な状況になってきてびっくり。一体この世界は何なんだー!!
結末は思いの他あっさりしてるなあと思ったんですが、これはまさに逆転世界ですね! 今まで信じて生きてきたものが、根底から覆されちゃう。完全に覆されたあとのヘルワードときたら... きゃー、お気の毒! (痛切なんだけど、ちょっと滑稽な感じもあるような・笑)
いやー、さすがプリーストでした。そしてやっぱりこの人はSF系の人なんだなあと実感しました。「奇術師」や「魔法」(感想)はハヤカワ文庫でもファンタジーのレーベルに入ってたし、あの2作品に関してはそれも良かったと思うんですけど、でも根っこのところは絶対SFだわ、この人は。もちろん「双生児」(感想)も然り、です。

SFはあんまり得意ではないので、読む前はちょっと心配してたんですけど、読んでみれば全然大丈夫でした。むしろ好きなタイプのSFだったので嬉しい♪ SFには好き嫌いがハッキリ分かれちゃうんですけど、自分が何が好きで何が苦手なのかきちんと分かっていないので、現在模索中なんです。どうやら宇宙戦争はダメらしい、というのは分かってるんですけどね。
それとこの都市、読んでる間はマーヴィン・ピークの作品に登場するゴーメンガーストという奇城を思い浮かべてたんです。さすがにあそこまでは歪んでないだろうとは思ったんですが。でも本の表紙を見てみたら意外とまともでびっくり。(本屋の紙カバーをつけっぱなしだったので、全然見てなかった) いや、普通に考えれば、こっちの方が本の内容には合ってるんですけどね。(笑)(創元SF文庫)


+既読のクリストファー・プリースト作品の感想+
「奇術師」「魔法」クリストファー・プリースト
「双生児」クリストファー・プリースト
「逆転世界」クリストファー・プリースト

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半年前に結婚して以来、すれ違いがちな生活を送っているジェーンとマーク。その日もマークは大学の会議で遅くなるはずで、そう考えた途端、ジェーンは憂鬱になります。そして、その日の朝刊に載っている写真を見た時にジェーンが思い出したのは、その前の晩の夢でした。それは外国人らしい男とが四角い小部屋で来客者と話しているうちに、いきなり来客者が男の首をを取り外したという夢と、数人の男が墓地のような所から老人の死骸を掘り出すという夢。夢の中で首を取り外されていたのは、ギロチン処刑されたアラブ系の科学者・アルカサンだったのです。一方、マークは有力者であるフィーヴァーストーン卿に能力を認められ、国立統合実験機関NICEへの就職を提示されて舞い上がっていました。

C.S.ルイスのSF3部作、3作目。完結編です。
1冊目では火星へ、2冊目では金星へと行ったランサムなんですが、この3冊目ではなかなか登場しないんですよね。こちらの話の中心となっているのは、マークとジェーン・スタドック夫妻。しかもこの2人が敵味方となっているそれぞれの組織から勧誘されることになります。今まではSF3部作とは言っても、どちらかといえばファンタジーっぽかったんですが、この3作目には他の惑星への旅がないというのに、とてもSFらしい作品になってました。もちろんキリスト教的部分も健在ですが。
今までの火星や金星の描写がとても好きだったので、今回は他の惑星への旅がなくて、すごく残念。地球が舞台となった途端、どうも現実的になり過ぎてしまったというか何というか、全然雰囲気が違うんですよねえ。もちろんこれまでの話の流れからいけば、最後は地球で締めくくるというのはすごく順当だと思うんですが...。アーサー王伝説との絡みなんかもあるし、終盤になるとすごく神秘的な場面もあったりするんですが、どうも全体的にサスペンス小説になってしまったような感じで、私には前2冊の方がずっと面白かったです。一般的には、これが一番読みやすいかもしれないな、とも思うんですけどね。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「マラカンドラ」「ペレランドラ」C.S.ルイス
「サルカンドラ」C.S.ルイス

+既読のC.S.ルイス作品の感想+
「顔を持つまで 王女プシケーと姉オリュアルの愛の神話」C.S.ルイス
「悪魔の手紙」C.S.ルイス
「喜びのおとずれ C.S.ルイス自叙伝」C.S.ルイス
「カスピアン王子のつのぶえ」他 C.S.ルイス

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徒歩旅行で丘陵地帯を訪れていたケンブリッジ大学の言語学者ランサムは、道で出会った女性に頼まれて、ある家の中に入り込みます。その女性の頭の弱い息子ハリーがその家で働いており、時間になっても帰って来ないのをとても心配していたのです。その家は物理学者のウェストンの家。そして一緒にいたのは、ランサムの学生時代の友人のディヴァイン。ランサムは何とかハリーを無事に家に戻させるものの、何かを企んでいた2人によって薬を盛られ、眠り込んでしまいます。そして次に気づいた時、ランサムはなんと宇宙船の中にいたのです...。

ナルニアシリーズが大好きだったC.S.ルイスのSF作品。ナルニアの方は、小学校3年ぐらいで読み始めて以来、もう何度読んだか分からないぐらい読んでいて、今でも文章がまるごとするっと出てきてしまうぐらいなんですけど、こちらのシリーズには手を伸ばしてなかったんですよね。今更...?って感じもあるんですが、すごく面白かったと聞いたので、やっぱり読んでみることに。SFはあんまり得意じゃないし、大丈夫かなあ... なんて心配しながらだったんですけど、そういう意味では全然問題ありませんでした! 確かに火星とか金星とかに行っちゃうSFではあるんですけど、私が苦手とするSF的要素(というのが何なのか、自分でも今ひとつ分ってないんですけど)が全然なくて、しかも火星とか金星とかの描写がものすごく素敵で~。
でも、ナルニアでも感じた方は多いと思いますが、こちらもかなり神学的な部分があるんです。最初はほとんど感じられないんですが、「マラカンドラ」の終盤近く、ランサムが火星における神のような存在と話す辺りからむくむくと...。ここで地球のことにも触れられていて、私にはそれがものすごく面白かったです。そして「ペレランドラ」で描かれているのは、原罪と楽園喪失について。これもすごく面白かった。もしイヴが知恵の木の実を食べなかったら? 知恵の木の実を食べる前の無邪気な状態と今の状態と、どちらが幸せ? ミルトンの「失楽園」(感想)なんかでは、楽園から追放されたアダムとイヴに何かほっとしてるものを感じてしまったんですけど...(笑) あと聖書の創世記だと、まるでイヴがあっという間に誘惑に負けてしまったみたいに書かれてるんですけど、この作品の中の悪魔の執拗な誘惑はものすごくリアルで、その辺りにもすごく説得力がありました。でもこういうキリスト教的部分というのは、好みがはっきり分かれるところでしょうね。
私はちくま文庫で読んだんですが、そちらは入手不可能のようなので、今流通している原書房版にリンクしておきますね。題名も変わっていてびっくりですが。(ちくま文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「マラカンドラ」「ペレランドラ」C.S.ルイス
「サルカンドラ」C.S.ルイス

+既読のC.S.ルイス作品の感想+
「顔を持つまで 王女プシケーと姉オリュアルの愛の神話」C.S.ルイス
「悪魔の手紙」C.S.ルイス
「喜びのおとずれ C.S.ルイス自叙伝」C.S.ルイス
「カスピアン王子のつのぶえ」他 C.S.ルイス

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スラム街で生まれ、宗教団体に育てられたローレンの生活はとても厳しく質素で、敬虔深いもの。しかしそんなある日、10歳だったローレンは、床下に隠されていた1冊の本を見つけます。それは「ジェーンの物語」。1人の少女とロボットとの恋愛を描いた物語でした。それまでは本と言えば聖書ぐらいしか知らなかったローレンは、たちまちのうちに夢中になります。

ジェーンとシルバーのロマンティックな恋物語「銀色の恋人」から24年ぶりの新作。この「銀色の恋人」が、本の中に登場する「ジェーンの物語」というわけです。
「銀色の恋人」は、恋に恋する少女のロマンティックな物語。人形のように扱われていたジェーンが母親から自立する物語でもあったんですけど、今回の主人公ローレンは、最初から自立していた少女。育ててくれた場所を早々に飛び出して、自分の力で生き延びています。考えてみれば、まるで逆の設定なんですね。「銀色の恋人」は、何1つ不自由のない少女がロボットを選び、そのことによって成長していく物語。今回の「銀色の愛ふたたび」は、貧しい少女がロボットに選ばれ、そしてロボットが自立する物語。どちらも選んだ側が成長するという点では共通してますけど、前回はジェーンの成長物語であったのに比べ、今回のローレンは、恋に落ちた途端に自我や自立を失ってしまったみたい。
ずっと「ジェーンの本」を読んでいたローレンがシルヴァーに憧れて、その気持ちがいつしか恋に変わっていたというのは、まだ理解の範囲内なんですけど... シルヴァーの生まれ変わりのヴァーリス(silver→verlis のアナグラムですね)がローレンのどこを好きになったのかは、よく分からなかったんですよねえ。まさかローレンの外見や条件だけに惹かれたわけでもないのだろうとは思うんですけど... 外見的な美しさでいったらロボットの方が遥かに美しいわけだし。それ以前に、ヴァーリスは本当にローレンのことを好きだったのかしら? 「銀色の恋人」には、ジェーンとシルヴァーのお互いへの思いやりが溢れてたんですけど、今回はそういうのがまるでなかったような気がします。そもそもヴァーリスがシルヴァーの記憶を持ち続けているという設定も、結局あまり生かされないままでしたしね。そこで何かを葛藤するのでなければ、記憶を持ち続けることに一体何の意味があるんでしょ? 結局、ローレンに嫉妬させるためだけにしか役立ってなかったような。
ロボットの自意識といえば、どうしてもアシモフの三原則が頭をよぎってしまいます。別にロボットの話だからといって、必ずしもその三原則に則ってる必要はないでしょうけど、やっぱりあれはとても基本的な部分をカバーしてると思うんですよね。ここの会社はそういう措置を取らないまま、ロボットを作ってたのかしら? なんて腑に落ちない部分がちょこちょこと残ってしまいました。腑に落ちない最大のポイントは、「銀色の恋人」がとても綺麗に終わっているのに、なぜここで続編を出したのかということ。本当に、なぜ24年経った今、続編が...?(ハヤカワ文庫SF)


+シリーズ既刊の感想+
「銀色の恋人」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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イングランド中部ダービシャー州の町でサイン会を開いていた作家のスチュワート・グラットンは、サイン会を訪れたアンジェラ・チッパートンという女性に、その父親が書いていたというノートのコピーを渡されます。以前からグラットンは、ソウヤーという名前の1940年代に英空軍爆撃司令部に属していた人間の情報を求める広告を出していおり、父親が書き遺したノートが役に立つのではないかと考えたアンジェラは、その一部をコピーして持参したのです。

先日「奇術師」と「魔法」を読んだクリストファー・プリーストの作品。(感想) 本当はkotaさんが「SFガジェット満載」で「最後に現実崩壊感覚を味わえます」と仰る「逆転世界」を先に読もうと思っていたのに、入手の順番が逆になってしまいましたー。「双生児」はさらに圧倒的な傑作だそうなので、最後のお楽しみにしようと思ってたのに!
というのはともかく、今回は第二次戦争下の英国が舞台の物語です。その頃のことを本に書こうと調べている作家の集めた資料を読むという形で物語は進んでいきます。グラットンが調べていたのは、ソウヤーという名前の兵士もしくは士官。ソウヤーは良心的兵役拒否者でありながら、同時に英空軍爆撃機操縦士でもあるという人物で、英国首相・チャーチルが、なぜそのようなことが可能なのかというメモを残していて、そこにグラットンは物語を感じたんですね。まあ、この疑問の答は、ソウヤーが1人の人間ではなくて一卵性双子だったということで、早々に明かされてしまうんですけど...(笑) そこからが本領発揮。そこはクリストファー・プリーストだけあって一筋縄ではいきません~。本格ミステリ作品では双子を使ったトリックは使い古されてますけど、これはそういったトリックとはまた全然違う! プリーストならではの世界。
読み始めてすぐに「1940年半ばの米中戦争」という言葉にひっかかったんですが、もうここから始まっていたんですね~。ボート競技でベルリンオリンピックに出場したところから始まる双子の物語も、時代が戦争へと流れ込んでいく辺りも、読んでいて純粋に面白いです。私がもっとウィンストン・チャーチルやルドルフ・ヘスに詳しかったらなあ、なんて思ったりもしたんですけど、それでも十分楽しめます。その辺りはこの作品の表層上のことにすぎないんですけど... やっぱり読みやすくて面白いというのは重要ポイントですね。小難しいことを小難しく書ける人はいっぱいいるけど、そういうのってごく普通。難しげな単語を振りかざしてるだけで、結局虚仮威しに過ぎないなんてこともありますし。でも本当に頭が良い人の文章ってそうじゃないと思うんです。ここまで複雑な話をこんな風に読みやすく面白く書けるのって凄いです。なーんてことを書き続けてるのは、ひとえにネタバレしたくないからなんですけど...(笑)
大胆でありながら緻密。クリストファー・プリーストならではの、知的な「語り=騙り」を試してみてください。肝心のトリックに関しては、もし読み終えた時には分からなくても、大森望さんによる解説に詳しく書かれているので大丈夫です。^^(早川書房)


+既読のクリストファー・プリースト作品の感想+
「奇術師」「魔法」クリストファー・プリースト
「双生児」クリストファー・プリースト
「逆転世界」クリストファー・プリースト

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「わたし」がその男に出会ったのは、ウォーリック城の中でのこと。まるで親友や敵や、ごく親しい近所の人の話をしているかのようにベディヴィア卿やボース卿、湖水の騎士ランスロット卿、ギャラハッド卿の話をするその男は、コネティカット州ハートフォード生まれの生粋のヤンキー。以前自分の工場の男に頭の横っぺらを殴られて気を失った時、気がついたら6世紀の英国にいたことがあるというのです。ケイ卿に囚われた彼は火刑にされそうになり、しかしその3日後に起きる皆既日蝕のことを思い出して危ういところで命拾い。魔法使いのボス卿として、マーリンを差し置いてアーサー王の大臣兼執務官となることになります。

19世紀のアメリカ人が突然アーサー王時代の英国にタイムスリップしてしまうという作品。そういうのをマーク・トウェインが書いちゃうというのがすごいなあと思ってたんですが、ようやく読めました! マーク・トウェインの時代だったらタイムスリップというだけで新鮮だったんじゃないかと思うんですが、行った先のその時代に合わせるのではなくて、現代技術(マーク・トウェインにとっての「現代」なので19世紀です) をどんどん持ち込んでしまうというのがユニーク。石鹸みたいな日常に便利なものはもちろん、電話や電気みたいな色んなものを作っちゃうんです。工場を建て、人材を育成し、最終的に目指すのは共和制の世の中。
皆既月食の日時を正確に覚えているところはあまりに都合が良すぎるし(確か○年... ぐらいならまだしも、○年○月○日○時○分に始まる、まで覚えてるんですもん)、19世紀の産業を6世紀の世の中ににこんなに簡単に移行できるはずはないとも思うんですが、それでも奇想天外な物語が面白かったです。自分の置かれた状況をくよくよと思い悩んだりせず、19世紀の知識を利用してどんどん前向きに対処していくところはいかにもアメリカ人のイメージ~。それに確かにこの時代には色々問題もあったんでしょうけど、現地の人の気持ちをあまり考えようともせずに物事をずんずん進めていっちゃうのも、アメリカ人っぽい~。(失礼) これがアメリカ人作家の作品じゃなかったら、アメリカ人に対する強烈な皮肉かと思うところです。でもどうやらこれは、南北戦争後の南部人を北部人から見た風刺的な視線といったところみたいですね。アーサー王と宮廷の騎士たちは、思いっきり頭の悪い野蛮人扱いされています。^^; (ハヤカワ文庫NV)

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天久開放地の地中から突然現れた女に、タンクローリーは電柱にぶつかって炎上し、偵察命令を受けて普天間基地から飛び立ったヘリコプター2機は、ミサイルを発射するものの、逆に女によって破壊されることに。その女が目をつけたのは、黒人との混血の高校生の少女・デニスでした。女はデニスの夢に現れ、デニスに乗り移ります。一方、翌日の天久開放地に視察にやって来たのは、キャラダイン中佐と日系のヤマグチ少尉。キャラダイン中佐には、天久に眠る力を目覚めさせて捕獲する極秘計画があったのです。

いやー、何だったんでしょう、この話は...。「風車祭」で、池上永一さんの想像力と展開の飛躍、破天荒ぶりには多少慣れてたつもりでしたが、これはまたもう一段階進んでました。デフォルトが怪獣パニック映画のようなものですね。1ページ目から圧倒的な迫力。時間的、空間的な制約も、この方の作品の前では意味がないのでしょうか。沖縄という土地が潜在的に持っている問題にも触れつつ、作品はその枠を遥かに超えていきます。
ただ、圧倒的な力技に巻き込まれるようにして読んだものの、結局何だったんだと聞かれると、答に困ってしまうんですよね。読み終えた瞬間、何が起きていたのか忘れてしまうような部分もあって、これは感想に困ってしまう...。面白かったんですけどね、多分。(多分て) いやあ、凄かったです。 (角川文庫)


+既読の池上永一作品の感想+
「レキオス」池上永一
Livreに「バガージマヌパナス」「風車祭(カジマヤー)」「あたしのマブイ見ませんでしたか」の感想があります)

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3編が収められたアンソロジー。ローマ皇帝の前に現れたのは、ギリシャ人発明家のパノクレス。彼は新発明を皇帝に説明し、実際にどんどん作り上げていくのだが... というウィリアム・ゴールディングの「特命使節」。目が覚めた「わたし」がいたのは、女性だけの世界。周囲の状況も自分が何者なのかも思い出せない「わたし」がパニックに陥る、ジョン・ウィンダムの「蟻に習いて」。少年城主の14歳の誕生日、煩雑な儀式にこれ以上耐えられないと感じた少年は城からの脱出を考え始め... というマーヴィン・ピークの「闇の中の少年」の3作。

いやあ、面白かったです。なんでこの3作の組み合わせになったのかはよく分かりませんが、元々アメリカでアンソロジーとして出版されていた本をそのまま訳して、ハヤカワ文庫FTから出したみたいです。副題は「ファンタジイ傑作集3」。1と2は子供向けのおとぎ話みたいな作品が多かったので、(感想)、3でいきなり大人向けになってびっくり。

最初の「特命使節」は、「蝿の王」で有名なウィリアム・ゴールディングの作品。とは言っても、私は「蝿の王」も他の作品も読んでないんですが...。ローマ時代に圧力鍋だの蒸気船だの大砲だのを考案してしまう発明家の話は、実際にはあり得ないと分かっていても面白いー。パノクレスが発明するのは、後世になれば確かに役に立つ物ばかりだし、皇帝自身もそれらの真価は分かってるんですけど、科学や技術の発展が人間の幸せに直結するとは限らないという話。
ジョン・ウィンダムも有名なSF作家だそうなんですが、私は名前を聞くのも初めて。男性が滅亡した未来の世界では、過去の歴史が微妙に歪んで伝わっていて、みんな女性だけの社会に満足しきってます。だから主人公が、男性の必要性や男性との生活の素晴らしさを説こうとしても、何も伝わらないし、理解もしてもらえません。そういう考えになったのは、男性にそう思い込まされていただけ、とあっさり片付けられちゃう。主人公の女性の歯痒さが伝わってくるんですが、同時に過去や現代の歴史が本当に自分が思ってる通りなのか、改めて考えさせられる作品。
「闇の少年」は、「ゴーメンガースト」の外伝とも原型とも言えそうな作品。ここに登場する少年城主は、名前は出てこないんですけど、きっとタイタスなのでしょう。城から脱出したタイタスが出会うのは、かつて人間だった山羊とハイエナ、そして彼らの主人である子羊。でも子羊といえば、キリスト教ではイエス・キリストにもなぞらえられるような存在なんですよね... きっとそういう前提があってこその話なんじゃないかと思います。この子羊が、限りなく邪悪な存在で、しかも甘美な声の持ち主というのが、何とも言えません...。(ハヤカワ文庫FT)

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「僕」がかつて見た中で最も美しいマシン、アイビスに出会ったのは、数世紀前ヒトが繁栄していた頃は「新宿」と呼ばれていた、今は無人の寂しい場所。「僕」はアイビスを攻撃しようとするのですが、逆に攻撃を受けて足を脱臼。見知らぬ建物に収容されて怪我の治療を受けることに。そこでアイビスは「僕」に向かって、1つずつ物語を語っていきます。

人間の数はごく少なくなり、意思を持ったロボットが支配する世界が舞台の物語。私にしては珍しくSFの作品なんですけど、これは頂き物なので...。(笑) 読む前は大丈夫かなとちょっとどきどきしてたんですけど、面白かったです~。
アイビスが「僕」に語る物語は全部で7つ。最初はどこかで聞いたような普通の話なんです。インターネットの仮想世界を舞台にした、いかにもありそうな話。でも1つずつ話が進むにつれて、中のAIはどんどん進化していくし、物語自体も深みを増していくような。最初は普通のSF短編集にちょっと外枠をくっつけて繋いでみましたって感じだったのに、最後まで読んでみると、バラバラだった短編同士が繋がっていくように感じられて、しかもおまけっぽかった外枠は、いつしかきちんとメインになっていました。

アイの見せるアンドロイドの姿は、ある意味人間の理想の姿。でも理想ではあっても、人間には決してなることのできない姿。人間が作り出したもののはずなのに、全然違うんです。人間の欠点を認識しつつも、何も言わずに見守る彼らの姿が、とても優しいんですよねえ。それなのに、自分たちの姿を投影し、ありもしないことを思い込み、勝手に疑心暗鬼に陥る人々。これを読んでしまうと、人間が衰退していくのも当然の結末に思えてきちゃう。でも、人間の欠点や愚かさを目の当たりにさせられつつも、どこか幸せな気分になれるのが不思議なところ。暖かい気持ちで読み終えることができました。熱心なSFファンには、これじゃあ物足りないかもしれないし、私自身、どこかもう少し掘り下げて欲しかった気もするんですけど... でもとても面白かったです。
それにしても、「クラートゥ・バラダ・ニクト」って、何なんだろう。どこから出てきた言葉なのかしら? 逆に読んでみても... 意味ないし。と思っていたら、「地球の静止する日」という映画に出てくる秘密の呪文だったんですね。なるほど~。(角川書店)


+既読の山本弘作品の感想+
「アイの物語」山本弘
Livreに「神は沈黙せず」の感想があります)

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2年前に東尋坊の崖から落ちて死んだ恋人に、ようやく花を手向けに来ることが出来た嵯峨野リョウ。その時リョウの携帯電話に入ったのは、兄が死んだから早く金沢の自宅に戻れという知らせでした。リョウは持っていた花を崖下に投げ込みます。しかしその時、風の乗ったかすれ声が聞こえるのです。リョウは強い眩暈を感じ、岩場で大きくバランスを崩してしまいます。そして次に気付いた時、リョウは金沢市内の見慣れた浅野川のほとりのベンチに横になっていました。訳も分からないまま家に戻るリョウ。しかしそこには見知らぬ女が。それは嵯峨野サキ。リョウはなぜか、自分が生まれていない世界に飛び込んでしまっていたのです。

パラレルワールドストーリー。生まれてなかったはずの姉がいたり、家族関係もちょっと違っていたり、潰れたはずのうどん屋が開いているし、大きな銀杏の木はなく、死んだはずの人間が元気に生きている世界。でも、これまで何度かパラレルワールド物は読んだけど、これほど痛いのは初めてでした。自分の世界とサキの世界の違いというのが、全て自分たちのとった行動の違いの結果だったんですもん...。「あそこでこうしていれば...」と人間誰しも思ったことがあると思いますが、「間違い探し」の中で否応なく突きつけられるのは、自分の取った行動とその結果。いやもう、ほんとものすごく痛いです。でも痛いながらも、とても面白かった! 米澤さんの作品は、最後の最後まで気が抜けないですね。(新潮社)


+既読の米澤穂信作品の感想+
「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信
「犬はどこだ」米澤穂信
「クドリャフカの順番 『十文字』事件」米澤穂信
「夏期限定トロピカルパフェ事件」米澤穂信
「ボトルネック」米澤穂信
「遠まわりする雛」米澤穂信
「インシテミル」米澤穂信
Livreに「氷菓」「愚者のエンドロール」「さよなら妖精」の感想があります)

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ジャンニ・ロダーリは、イタリアの児童文学作家。子供の頃に岩波少年文庫で買ってもらった「チポリーノの冒険」が、ロダーリの作品なんですよね。まだ祖母の家に置いてあるので、近いうちに再読しよう... なんて思っていたら、この本が! ついついこちらを先に読んでしまいました。
一見童話風の物語ばかり16編。でも、このピリリと効いた辛口のスパイスは、子供向けというよりもむしろ大人向けなんでしょうね。昔話を一捻りしたり、奇想天外のアイディアを楽しませてくれる作品ばかり。私が気に入ったのは、アルジェンティーナ広場の鉄柵を乗り越えると猫になってしまう表題作「猫とともに去りぬ」や、シンデレラを一捻りした「ヴィーナスグリーンの瞳のミス・スペースユニバース」。その他にも、ヴェネツィアが水没してしまうと聞いた時、ヴェネツィアから逃げようとするのではなく、いっそのこと魚になって環境に適応してしまおうとする「ヴェネツィアを救え あるいは 魚になるのがいちばんだ」や、マカロニウェスタンかと思いきや、カウボーイが持ち歩くのは拳銃ではなくピアノだった... と意表を突いてくれる「ピアノ・ビルと消えたかかし」など、アイディアが面白い作品が色々と。先日読んだばかりのエウリピデスの悲劇「アルケスティス」(感想)も、一捻りされた「三人の女神が紡ぐのは誰の糸?」になっていて、面白かったです。ほんと、この時に運命の女神たちが紡いでるのは、誰の糸だったんでしょう?(笑)
あとがきを読むと、ロダーリはかなり政治色の強い人だったみたい。確かに「チポリーノの冒険」も、外側こそ楽しい冒険物語なんだけど、結構政治的な匂いが強くて、風刺的だった覚えがあるので、あとがきを読んで納得。野菜と果物の国に横暴なレモン大公がいて、チポリーノ少年のお父さんが無実の罪で捕らえられちゃう、なんて話だったんですよね。ちなみにチポリーノとはたまねぎのこと、と岩波少年文庫のあとがきにありました。(←おお、小学校の頃に読んだっきりなのに、結構覚えてるもんだ) その後、作品に直接的な政治色が出ることはなくなったらしく、この作品にもそういうのは感じなかったけど、風刺は相変わらずたっぷりです。

光文社古典新訳文庫は、活字離れをとめるために、本当に面白い、いつの時代にも変わらない「本物」の古典作品を、読みやすい新訳で提供するというのがメインコンセプトのライン。(公式サイト) この「猫とともに去りぬ」は今回初邦訳だそうなんですが、同時刊行には、ドストエフスキーやらトゥルゲーネフやらシェイクスピアやらケストナーやら、錚々たる面々が並んでます。
たとえばケストナーだと、私はもう高橋健二さんの訳しか読みたくないし、そういう意味で手に取らない作品もあると思うんですが、まだ読んでない古典や、随分前に読んだっきりの作品に触れるには、いい機会かもしれないですね。(光文社古典新訳文庫)


+既読のジャンニ・ロダーリ作品の感想+
「猫とともに去りぬ」ロダーリ
「チポリーノの冒険」ジャンニ・ロダーリ
「うそつき国のジェルソミーノ」ジャンニ・ロダーリ
「パパの電話を待ちながら」ジャンニ・ロダーリ

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宇宙の成り立ちから太陽系の誕生、そして生物の進化といった壮大な物語が繰り広げられる、12の奇妙な物語。
語り手は、宇宙が出来る前から生き続けているというQfwfq老人。さすがビッグバンの前から知ってるだけあって、老人の物語はちょっと凄いです。とにかく壮大。そしてユーモアたっぷり。だって、ある女性の「ねえ、みなさん、ほんのちょっとだけ空間(スペース)があれば、わたし、みなさんにとてもおいしいスパゲッティをこしらえてあげたいのにって思っているのよ!」という発言がきっかけで、ビッグバンが起きたなんていうんですよ! なぜビッグバンの前に人間が存在していたのか、しかもスパゲッティを作るって... なーんて言ってしまうのは、あまりにも野暮というもの。カルヴィーノはよくこんな荒唐無稽な話を思いつきますねえ。Qfwfq老人は、「二億年待ったものなら、六億年だって待てる」なんて簡単に言ってしまいますし、1億光年離れた星雲と気の長いやりとりを続けていて、時の流れも雄大。子供の頃は、友達と水素原子でビー玉のような遊びをしてるし、友人とは「今日、原子ができるかどうか」という賭け事をしています。しかもこの原子が誕生するかどうかという凄い賭けが、サッカーチームの試合の結果の賭けと同列に並んでるんです。(笑)
この本は、元々はハヤカワ文庫SFに入っていたそうです。SFがちょっと苦手な私は、SF寄りの作品よりも、やっぱり幻想的な情景が描かれてる作品が好きですね。12編の中で一番好きなのは、「月の距離」という作品。水銀のような銀色に輝く海に船を漕ぎ出し、脚榻の上に載って月へ乗り移る描写がとても素敵。あと、月に行って、大きなスプーンと手桶を片手に月のミルクを集めるというのも。この月のミルク、成分を聞いてしまうと実は結構不気味なんですけど、この作品の中で読むとまるで夢のようです。
そして河出文庫から出ている「柔かい月」は、これの続編と言える作品なのだそうです。訳者さんが違うので文章がやや読みにくいらしいのですが、やっぱり気になります。(ハヤカワepi文庫)


+既読のイタロ・カルヴィーノ作品の感想+
「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ
「不在の騎士」イタロ・カルヴィーノ
「レ・コスミコミケ」イタロ・カルヴィーノ
「なぜ古典を読むのか」イタロ・カルヴィーノ
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
「イタリア民話集」上下 カルヴィーノ
「魔法の庭」イタロ・カルヴィーノ
「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ
「マルコヴァルドさんの四季」カルヴィーノ
「冬の夜ひとりの旅人が」イタロ・カルヴィーノ
「柔かい月」イタロ・カルヴィーノ
「カルヴィーノの文学講義」イタロ・カルヴィーノ
「パロマー」カルヴィーノ
「くもの巣の小道」イタロ・カルヴィーノ
「むずかしい愛」カルヴィーノ

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メロンマンションと呼ばれるマンションに住む人々と、それらの住人たちにかかってくる無機質な話し方をする男からの電話の物語。12の連作短編集です。

御緩愚霊堂の蛙小僧さんのオススメ。星新一さんの本は中学の頃に結構読んだんですが、この作品は未読。
この作品が書かれたのは1973年なんだそうですが、それが信じられないほど、今読んでも全然古くなくて、もうびっくり。ここに描かれてる人々の生活は、完全にコンピューターに管理されてるんですよね。マンションの部屋には常に清浄な適温の空気が流れ、ドアにはインターフォンとテレビカメラが設置されており、窓には、内側から外は眺められるけれど、外からは薄く曇ったように見える特殊ガラスが嵌め込まれ、キッチンに設置された機械によって、カクテルも料理もワンタッチ。新聞はページ数が増え、雑誌は種類が増え、テレビはチャンネルが増えて、電話線利用のジュークボックスからは好みのBGMが流れます。それだけならまだしも、電話1本で病院も、銀行も、身上相談センターも、情報銀行も、利用可能。例えばお店を経営していたら、電話一本で売れ筋商品やそれらに適したレイアウトもアドバイスしてもらえるんです。
1973年といえば、コンピューターという言葉自体、それほど普及してなかったのでは? 自分とは関係ない世界だと思っていた人も多いはず。「2001年宇宙の旅」だって、公開されたのはこの作品よりも20年も後なんですよー。今のようなネットワーク社会になるなんて、その頃、誰が想像していたんでしょう。しかもこの作品の「声の網」という題名が、また凄いなって思っちゃう。網なんですよ、網。
今読んで違和感を感じたのって、「電話線利用のジュークボックス」という言葉ぐらい。でもこれだって、有線放送を思えば全然おかしくないわけで... 現在あまりに普通に存在してるので、先見の明だとは気づかないまま読み過ごしちゃう部分も多そうです。未来の世界を描いたSFはいくつもあるけれど、ここまで現実に即した未来を描けてる作品ってどれだけあるのでしょう?...と、作品の外側の設定だけでも十分驚かされちゃうんですが、もちろんそれが本題なわけではありません。それ以上のことを、既に星さんは30年以上前に見抜いてらしたんですね。ほんとすごいなあ。

無機質な話し方をする男性の正体は物語が進むにつれて徐々に分ってくることになるんですが、正体が分かる前も、分ってからも、この物語の根底に流れているのは、そこはかとない不安。ホラーというほどではないんですが、これって結構怖いんじゃ... 結構ドキドキしちゃいました。(角川文庫)

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8年後に小惑星が地球に衝突して世界が滅亡するというニュースが流れて以来、地球上は大混乱。ここ仙台でも、人々はパニックに陥り、秩序は崩壊していました。暴動や殺人、強盗、放火、自殺も日常茶飯事に。...そして5年が経過。多少の落ち着きを取り戻した街に、今なお住む人々は...。地球に残された時間はあと3年。

またまた凄い設定ですねー。伊坂さんらしいです。でも、地球滅亡まであと8年なんて発表されたら、本当に世の中はここまで荒んでしまうんでしょうかねえ。だってまだあと8年もあるんですよ! スーパーに食糧の確保に走るのならまだしも、ここまでタガが外れてしまうなんて。人間、元々明日の命だって分からないじゃないですか。8年後に地球が滅亡するとはいっても、本来はもっと短い寿命かもしれないのに。しかも衝突なんて、結局起きないかもしれないのに。...という私は、おそらく日々の生活を規則正しく続けようとするのではないかと思うんですが... でも、世の中そういうわけにもいかないんでしょうね。たとえ一部の人でも、そういう興奮状態に陥ってしまったら、それが伝染してみんな熱に浮かされたようになってしまうんだろうなあ... そういえば、これって新井素子さんの「ひとめあなたに...」の逆パターンかも。「ひとめあなたに...」は、確か、骨肉腫で右手を切断しなくちゃいけないと分って彼氏が荒れるんですけど(彫刻家か何かを目指していたので、右手切断は死亡宣告と同じだった)、そんな時に1週間後に地球が滅亡すると分って(これも隕石か惑星の衝突)、そんな細かいことがふっとんじゃう話。

でもニュースが発表された直後でもなく、地球が滅亡するまさにその時でもなく、騒ぐだけ騒いで、世の中が少し落ち着いた頃という設定がいいですねえ。残された時間は3年。自暴自棄のまま突っ走るには長丁場すぎるし、そのまま何もしないで終わらせるにも勿体ないような長さ。一時の混乱の中を生き延びた人々の中を流れるのは、かりそめではあるにしても、静かで穏やかな時間。皆それぞれに何かを失いつつも、きちんと前向きに人生と向き合っています。ただ生きるということが、生物の一番の基本だということを改めて感じさせてくれるようです。 (集英社)


+既読の伊坂幸太郎作品の感想+
「死神の精度」伊坂幸太郎
「魔王」伊坂幸太郎
「砂漠」伊坂幸太郎
「終末のフール」伊坂幸太郎
「陽気なギャングが地球を回す」「陽気なギャングの日常と襲撃」伊坂幸太郎
「フィッシュストーリー」伊坂幸太郎
Livreに、これ以前の全作品の感想があります)

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近未来のアメリカが舞台。キリスト教の原理主義者の一派がクーデターを起こして、ギレアデ時代が始まります。その頃、中絶を含めた様々な産児制限や性病の流行、環境変化によって、白人種の出生率が急落しており、それを憂慮していた彼らは、全ての女性から仕事と財産を没収。再婚の夫婦と未婚者の私通は全て姦通だとして子供を取り上げ、妊娠可能な女性を選び出して「侍女」としての教育を施し、子供のいない支配者階級の男性の家に派遣。彼女たちは出産のための道具とされることになったのです。

侍女たちはくるぶしまで届く赤い衣装を纏い、顔の周りには白い翼のようなものが付けられて、周囲とは遮断されています。私物と言えるようなものは一切持てませんし、部屋からも自殺や逃亡に使えそうな道具は慎重に取り除かれています。もちろん日々の行動に自由はなく、その存在に人間性などこれっぽっちも求められていません。まさに「二本足を持った子宮」。
各個人からその個性を奪い取るには、名前と言葉を取り去るのが一番効果的なのね... というのが、この作品を読んで最初に感じたこと。単なる出産する道具である侍女たちの名前は「オブ+主人の名」。この物語を語っているのは「オブフレッド」と呼ばれる女性ですし、他にも「オブグレン」だの「オブウォーレン」だのがいます。日々決められた通りに行動し、侍女同士での挨拶ややり取りも決められた通りの言葉のみ。

一見荒唐無稽な設定なんですが、考えて見れば十分あり得る未来。この作品は1985年に書かれているので、それから20年経ったことになるのですが、世界的な状況はますます悪化するばかり。十分通用するどころか、ますますこの設定が現実的になっているのかも...。それでも子供や夫を奪われて「侍女」となった女たちは、そうなる以前の暮らしを覚えているんですが、次世代の「侍女」たちは、元々そのような自由な世界が存在していたなど知る由もなく... その辺りには全然触れられてなかったんですけど、そういうのもちょっと読みたかったなあ。
でも、ここまで管理社会となって、人々も大人しく従ってるんですが(でないと、すぐに処刑されちゃうので)、そんな中でもやっぱり人間的な感情が垣間見えるんですよね。特に子供ができない夫婦にとって、侍女はありがたい存在のはずなんですが、そう簡単に割り切れるものでもなく...。水面下で入り乱れる感情も面白かったです。(ハヤカワepi文庫)

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アンドレシアと呼ばれる惑星に問題が起こり、探査隊が派遣されることになります。アンドレシアは、まだ幼年期の文明にある惑星。その豊かな資源に目をつけた、まだ若い文明の「帝国」の探検隊が、新たにここを植民地にしようと見事な森林地帯をパワーショベルで切り拓いていたのです。探査隊の任務は、自分たちの存在を悟らせずに、アンドレシアから帝国軍を撤退させることなのですが...。

木樵りの青年たちが出会った「仙女」が、実は他の惑星からやってきた異星人だった?!という設定が面白い作品。各地に伝わるおとぎ話に登場する妖精や何かも、実は宇宙人だったのか? なんて思ってしまいそうになる説得力です。でもこの話、高度な発達を遂げた文明の下で教育を受けてるエレーナという少女の視点から書かれていくのがネック...。エレーナは、自分の属してる文明が高度だからといって、アンドレシアや帝国を見下してるんですよね。アンドレシアの原住民の青年の方が、本質的な意味では彼女よりもずっと賢いのに! まあ、彼女の成長物語という意味ではそれでいいんでしょうけど、知識は持ってても、本質的に頭の悪いエレーナには終始イライラ。エレーナじゃなくて、作者の「神の視点」から書いてくれたら、もう少し楽しめたかもしれないのに。それに彼女の視点からだとファンタジーというよりSF。やっぱりSFは苦手だわ... ツラかったです。(ハヤカワ文庫FT)

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遺伝子組み換えによって、全ての暴力への衝動が抑制されている光の世界。ここでは人は生まれ落ちた時に抑制遺伝子を埋め込まれ、身体と心が大人になり安定して体液が発光すると、"木曜日の儀式"を受けて「聖遺伝者」の仲間入りをします。しかしそんな光の世界にも、暴力は僅かながらに存在していました。それは土竜(もぐら)と呼ばれる、"木曜日の儀式"から零れ落ちた少年たち。そしてそれらの土竜を排除しようとする炎人たち...。

未来の地球を舞台にしたSF作品。でもSF的な設定ではあるけれど、どちらかといえば土竜のカオルという少年の成長物語。遺伝子操作によって理想的な人間、そして理想的な社会が作り出され、でもそこには実は落とし穴が... というのはどこかで見たような設定なんですけど、この世界観は個性的だし、ミトラと名付けられることになる不思議な「神」やその謎なんかは面白かったです。でも、もうちょっと書き込んで欲しかったですね。最初は「うすのろ」と呼ばれていたカオルが、いつの間にか中心で行動するような人間になってるんですけど、何がカオルを成長させたのか、今ひとつ伝わってこないんです。土竜のチームのリーダーの少年のカオルに対する言動も、今ひとつ解せなかったし...。どうやらみんな「うすのろ」と言いながらも、カオルのことを妙に信頼してたみたいなんですけど、どこがそんなに信頼させていたのか良く分からなくて。
未来の地球の姿が、ちょっとナウシカのようなラピュタのような感じで、宮崎駿映画にすると良さそうな物語でした。と思ったら、丁度徳間から出てるし! そんな話にはならなかったのかしら?(徳間デュアル文庫)


+既読の浅暮三文作品の感想+
「ラストホープ」浅暮三文
「嘘猫」浅暮三文
「実験小説 ぬ」「石の中の蜘蛛」浅暮三文
「夜聖の少年」浅暮三文
Livreに「ダブ(エ)ストン街道」の感想があります)

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21世紀に入り、地球の抱える様々問題が深刻化していた頃、優秀な人材を確保することが目的のΣ(シグマ)計画によって、優秀な環境工学技術者だったエフゲニィ・マカロフのクローンが次々と作り出されることになります。元となったマカロフは、そのまま普通に一生を終える予定。しかし本人の強い希望によって、大量に生み出されるマカロフたちの人生を追体験するために、人工冬眠の施術を受けて70年後の世界へと送り出されることに...。

去年読んだ「オルガニスト」(感想)がとても素敵だった山之口洋さん。今年はぜひコンプリートしたいと思ってる作家さんの1人です。そしてこの本は、祥伝社の400円文庫のうちの1冊。「長すぎない短すぎない中編小説」をモットーにしたこの400円文庫、なかなかこの長さがしっくりする作品がないんですけど、それだけにぴたりとハマった時は気持ちが良いんですよね。今まで読んだ中でハマったなと思った作品は、若竹七海さんの「クール・キャンデー」とか、菅浩江さんの「アイ・アム」。この作品も、短いけど濃くて良かったです。
同じ遺伝子を持ったマカロフでも、その生き方や個性は様々。70年後の世界には「マカロフ・クラブ」というのが出来てるんですけど、ここはバーテンダーもマカロフなら客もマカロフという、マカロフだけが入れる会員制クラブ。皆全く同じ遺伝子を持っているはずなのに、脚本家もいれば俳優もいるし、刑事もいれば泥棒もいるんですよね。「みな、それぞれの人生の痕をどこかしらに刻みつけた」マカロフたち。環境工学を研究するしか能がなかった本家のマカロフにとっては、それは新鮮な驚き。本当はそこには痛い真実もあるんですが... まあそれはそれとして(いいのか?)、ここに繰り広げられる様々なマカロフたちの人生模様がすごく好きでした~。全く同じ遺伝子だと、ここまでバリエーションに富むのは本当は難しいでしょうけど、でもなんかいいなあ。夢があって。ラストも、ちょっと甘いんじゃ... と思いつつもなかなか良かったです。(祥伝社文庫)


+既読の山之口洋作品の感想+
「オルガニスト」山之口洋
「0番目の男」山之口洋
「天平冥所図会」山之口洋

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1969年にヒューゴー賞とネビュラ賞を受賞したという作品。これはハイニッシュ・ユニバースと呼ばれるシリーズの4作目だったんですね。1冊ごとに独立した話ではあるようなんですが、元々SFはあまり得意ではないところに、良く分からない用語が沢山登場するし、説明もほとんどなくて、かなり苦戦しました... というか、挫折しなかったのが不思議なほど。読了後も解けない疑問がいっぱい! 巻末に「ゲセンの暦と時間」が載っていたのに気づいたのも読了後だし、地図とか用語辞典が欲しかったです。

舞台となるゲセンは常に雪と氷に覆われている惑星。ここに住むゲセン人は、外見的には人類と同じなんですが、両性具有で、26日周期でめぐってくるケメルと呼ばれる発情期にパートナーと性交して子供をもうけるのが特徴。主人公はそんな世界を訪れて、地球を含む、宇宙に存在する3000もの国家の同盟体の使節として、同盟を申し込むことになるんですが... でも相手は宇宙船はおろか、空を飛ぶ鳥すら見たことのない人々。しかも主人公は両性具有ではなくて男性。特に発情期が決まっているわけでもなく。外見こそ一緒ですが、両性具有の彼らから見たら薄気味悪い存在にしか見えないわけです。

ものすごーく苦戦したんですが、終盤の氷原の逃避行は良かったです。曲がりなりにも友情として確立しようとしていたものが、ケメルによって違うものに変貌しようとする一瞬なんてドキドキ。途中で挿入されたゲセンの民話や説話も面白かったし、SFが好きな人は大絶賛の作品なんだろうなあ。という私もせめてシリーズ1作目から読んでいれば... うーん、でもやっぱりSFはしばらくやめておいた方が無難かも...(^^:。(ハヤカワ文庫SF)


+既読のアーシュラ・K・ル=グウィン作品の感想+
「闇の左手」アーシュラ・K・ル・グイン
「ゲド戦記」アーシュラ・K・ル=グイン
「夜の言葉」アーシュラ・K・ル=グウィン

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昨日に引き続き、パトリシア・A・マキリップ。これまで読んでいた幻想的な作品とはうって代わってSF。...と聞いてたんですけど、始まりはまるでアフリカの奥地のような場所で、びっくりでした。森の中に流れる<河>が中心となり、<屏風岩>に始まり<十四の滝>で終わる世界が舞台。その世界に住むカイレオールという14歳の少女が、世界はどんな形をしているのか、その世界の外には何があるのかなどの好奇心を押さえきれずに、幼馴染の少年タージェと共に<十四の滝>へ向かうのですが... という話が「ムーンフラッシュ」。そして「ムーンドリーム」はその4年後の話。

私はてっきり、アフリカの奥地に欧米の探検家が入り込んだ話なのかと思い込んでたのですが、全然違ってました。(笑)
カイレオールのお父さんは薬師で、薬師は部族の中心になって様々な儀式を執り行うんですが、夢を判断するのも役割のうち。この河の世界では、夢には必ず何らかの意味が隠されてるんです。そういうのも、こういう純粋な世界ならではという感じ。例えばアルタミラやラスコーの壁画みたいな絵は、テレビとか印刷物とか何もない純粋な世界に生まれ育っているからからこそ描けるもので、情報過多の現代人にはあんな力強い絵は到底描けない、みたいなことを聞いたことがあるんですが、丁度そんな感じでしょうか。カイレオールとタージェが、外の知識と引き換えにその純粋な力強さを少しずつ失っていくみたいなところが淋しかったんですが、最後には、ごくごく狭い世界のはずだった河の世界の意外な包容力の大きさが感じられて良かったし、原始的で素朴な世界の描写がマキリップらしくて美しかったです。

これでマキリップは制覇。うわーん、早く新作が読みたいです!(ハヤカワ文庫FT)


+既読のパトリシア・A・マキリップ作品の感想+
留守中に読んだ本(18冊)(「妖女サイベルの呼び声」「影のオンブリア」の感想)
「星を帯びし者」「海と炎の娘」「風の竪琴弾き」パトリシア.A.マキリップ
「ムーンフラッシュ」「ムーンドリーム」パトリシア・A・マキリップ
「オドの魔法学校」パトリシア・A・マキリップ
「ホアズブレスの龍追い人」パトリシア・A・マキリップ
「チェンジリング・シー」パトリシア・A・マキリップ
「茨文字の魔法」パトリシア・A・マキリップ

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近未来。深刻化していたオゾンホールの問題に対してテレサ・クライトン教授が発明したのは、ウェアジゾンという、大気中のフロン分子と結合してオゾンを破壊する力をなくす化学物質。このウェアジゾンを全世界に散布する計画が、国連によって推進されます。しかしこの物質には、思わぬ副産物がありました。夕焼けや朝焼けといった、空を赤くする光の波長まで散乱させてしまうのです。ウェアジゾンの効果は150年。ウェアジゾンを散布すると、地球から150年もの間、夕焼けや朝焼けが消えることになると分かり、混乱が巻き起こります。

今までのようなノスタルジックでちょっぴり怖い作品群とはがらりと変わったSF作品。環境問題が背景となっていますが、夕焼けというどこかノスタルジックなモチーフが絡んでいるのは朱川さんらしいですね。
国連の計画のために日本にやって来たテレサが知り合うことになる人々とのドラマの積み重ねはさすがに濃やかに描かれているし、オゾン層破壊という問題を取り上げたのはいいと思うんですけど、夕焼けを失うことに対してマスコミを始めとする人々が感情的になっているだけで、それ以上の掘り下げがなかったのがとても残念。最後の結末も、あらら、そう来ちゃいますか...!という感じ。肝心のイエスタデーという人物に関しても、イマイチ良く分からないままだったんですよねえ。うーん。でも読んだ後に改めて夕焼けを見ると、もしこれが見れなくなってしまったら... と、しみじみ考えちゃいました。(角川書店)


+既読の朱川湊人作品の感想+
「かたみ歌」朱川湊人
「さよならの空」朱川湊人
「花まんま」朱川湊人
Livreに「都市伝説セピア」「白い部屋で月の歌を」の感想があります)

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「フランケンシュタインの方程式」「美亜へ贈る真珠」「清太郎出初式」「時空連続下半身」「詩帆が去る夏」「さびしい奇術師」「地球はプレイン・ヨーグルト」の7編が収められた短編集。14回目のたらいまわし「時の文学!」の時に、どこまで行ったらお茶の時間の七生子さんが「美亜へ贈る真珠」を挙げてらして(コチラ)、読みたいなーと思ってたんですが、今回の「美味しそうな食べ物が出てくる本は?」では、AZ::Blog はんなりと、あずき色のウェブログのoverQさんが「地球はプレインヨーグルト」を挙げてらして(コチラ)、ますます読みたくなっちゃったんですよね。で、図書館に行ってみると、どちらも入っているこの本が! 早速借りてきちゃいました。

私が梶尾真治さんの名前を知ったのは、多分「黄泉がえり」の映画化の時だと思うんですが(つまりかなり最近)、随分前から書いてらっしゃる方だったんですね。この本も1979年発行だし。しかもホラーの人なのかと勝手に思い込んでたら、ものすごいSF。(笑)
いやー、面白かったです。ドタバタな「フランケンシュタインの方程式」「地球はプレイン・ヨーグルト」も面白いし、リリカルな「美亜へ贈る真珠」「詩帆が去る夏」も素敵。短いけど、「さびしい奇術師」みたいな作品も好き。いや、でも、「地球はプレイン・ヨーグルト」にはほんとびっくりです。overQさんのエントリで、味覚で会話する宇宙人とのコンタクトの話とは聞いていたんですが... overQさんが書かれてエントリを直接読まれた方が遥かに伝わってくると思うので細かいことは省略しますが... 読む前からすごく期待がふくらんでてどうしようと思ったんですけど、実際読んでみたら期待以上! わはははは。
「美亜へ贈る真珠」は、梶尾真治さんのデビュー作とのこと。航時機というタイムカプセルのような機械に入ってしまった恋人を見に来る美亜。でもその機械の中の時間は機外の85000分の1で進むので、美亜の1日は恋人にとっては1秒ほど。あっという間に美亜は恋人よりも年を重ねてしまうんですよね。うにゃーん、なんて切ないラブストーリーなんでしょう...。すごく静かな雰囲気が素敵だし、しかもラストシーンの美しいことったら。  
他の作品もそれぞれに楽しくてバラエティに富んでいて、いや、ほんと発想が凄いです。

私の読んだこの本は既に絶版となっているようですが、それぞれの作品は右の3冊で読むことができます。「美亜へ贈る真珠 梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇」で読めるのは、「美亜へ贈る真珠」「詩帆が去る夏」、「もう一人のチャーリイ・ゴードン 梶尾真治短篇傑作選 ノスタルジー篇」で読めるのは「清太郎出初式」、「フランケンシュタインの方程式 梶尾真治短篇傑作選 ドタバタ篇」で読めるのは「フランケンシュタインの方程式」「地球はプレイン・ヨーグルト」。(ハヤカワ文庫JA)

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「語り手の事情」に引き続きの酒見賢一さん。こちらは純粋なSF作品。「地下街」「ハルマゲドン・サマー」「聖母の部隊」「追跡した猫と家族の写真」の4編が収められています。
真面目なハードボイルドかと思いきや、まるでRPGみたいで可笑しかったり、ちょっと新井素子さんの「ひとめあなたに...」を思い出すような作品だったり、津原泰水さんの「綺譚集」に入っている「アルバトロス」のような雰囲気だったり(そうでもないかしら(^^;)、ほのぼのとしてたりと色々。私はSFにはあまり詳しくないし、読む前は「えっ、SF...?」なんて思ってたんですけど、なかなかバリエーションが豊かで、しかもレベルが高い短編集と言えそうです。

続けざまに中国物ではない酒見さんの作品を読んでみて感じたのは、もしかしたらこれまで酒見さんをすごく誤解してたのかもしれないということ。私の中では、だんだん正体不明の作家さんになってきちゃいました。(笑) 実は物凄く引き出しが多い方だったんですね。そして中国物の作品の中に、中国物だけに収まりきらない部分が色々とあるのには、それだけのルーツだあったんですね。...と、妙に納得。そして酒見さんの何が凄いって、どんな作品を書いても、どれもしっかり酒見さんだということ。確立されてるんですねえ。これは早いとこ、「ピュタゴラスの旅」も読んでみなくちゃいけないなあ。(この作品も、どう考えても中国物じゃないし)
ちなみに解説は恩田陸さん。そして「語り手の事情」は佐藤亜紀さんでした。豪華メンバーですねっ。酒見さんご自身のあとがきも凄いです。語ってます。(「語り手の事情」も・笑)(ハルキ文庫)


+既読の酒見賢一作品の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一
「語り手の事情」酒見賢一
「聖母の部隊」酒見賢一
「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
「泣き虫弱虫諸葛孔明」酒見賢一
「中国雑話 中国的思想」酒見賢一
Livreに「後宮小説」「墨攻」「童貞」「周公旦」の感想があります)

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裕福な母親にまるで人形のように育てられていたジェーンが、ある日出会った人間そっくりのロボット・シルバーに恋してしまう物語。タニス・リーのSFファンタジーです。この作品はオススメだと色んな方に聞いてたんですけど、本当に良かったです! 「ロボットは感情を持つことができるか」とか、一歩進めて「ロボットに恋をすることができるか」というのは永遠のテーマだし、もうイヤってほど書かれてるモチーフなんじゃないかと思うんですけど、それでも良かった。もう切なくて切なくて、でも幸せな気持ちになれるのが凄いところかも。普段のタニス・リーとはちょっと違う、思いっきりロマンティックなムードも楽しめたし♪
読んでいて清水玲子さんの作品を思い出してたんですけど、もしかしたら清水玲子さんも読んでらっしゃったりしないかな? こういうの、きっとお好きなんじゃ...? 一番近いのは、ズバリ「ノアの宇宙船」の中の「メタルと花嫁」だと思います... が、画像が出てこないので、同じ初期作品の「ミルキー・ウェイ」を出してみました。(こっちも大好き♪ ←結局清水玲子さんの絵を出したかっただけとも言う) 
あ、でも「銀色の恋人」が日本で紹介されたのは1987年だし(本国で発表されたのは1981年だけど)、「ノアの宇宙船」が単行本になったのは1985年だから、真似したとかじゃないと思います!(そこはそれ、永遠のテーマだしね)(ハヤカワ文庫SF)


+シリーズ既刊の感想+
「銀色の恋人」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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第5回ホワイトハート大賞佳作受賞作。「EDGE」もそうだったんですが、これもホワイトハートという枠組みが勿体無く感じられる作品でした! ハヤカワ文庫が似合いそうな、本格的なSF作品。いやー、これがデビュー作とは凄いなあ。きっと結構色々と調べた上で書かれてるんだろうなという感じ。ロボットのことや何かも結構きちんと書き込まれてました。ええと物語としては、ごくごく簡単に書いてしまえば、ロボットと人間の恋物語。読みながら、清水玲子さんの初期の作品の作品を思い浮かべてました。「ノアの宇宙船」とか「もうひとつの神話」とか、あと「天女来襲」とか「ミルキーウェイ」ですね。この頃の清水玲子さん、もうほんと大好きだったんですよね~。(でもあんなに好きだったのに、なぜか「竜の眠る星」以降は未読...)
...というのはともかく。ソフトウェアロボットとして開発された人工知能が人間型ロボットに移されることになって(でも、まずはスター・ウォーズのC3POみたいな感じね)、そこからさらに人間そっくりの身体に変更されてという過程... 本人はもちろんのこと、周囲の反応なんかも凄くいいのです。しかもそこには、きちんとアシモフのロボット三原則が!この三原則がいわば、ロボットと人間の境界線となるわけですね。ロボット側の1人称なんで、人間側の感情とか行動には、ちょっと唐突に感じられちゃう部分もあるんですけど、でもやっぱり面白かったです。この作品、続きは書かれないのかなー。もし出たら読みたいなー。(講談社X文庫)


+既読のとみなが貴和作品の感想+
「EDGE」「EDGE2 三月の誘拐者」とみなが貴和
「EDGE3 毒の夏」「EDGE4 檻のない虜囚」とみなが貴和
「セレーネ・セイレーン」とみなが貴和
「夏休みは命がけ!」とみなが貴和
「EDGE5 ロスト・チルドレン」とみなが貴和

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まず普通に光瀬龍さんの小説の方を読んだんですが、難しかったです...。というか、中盤までは良かったんですけど、終盤のカタカナの会話を読むのがしんどくてねえ(^^;。結局、萩尾望都さんのコミック版も読んでしまいましたよー。
や、このコミック版、いいとは聞いてたんですけど、ほんとすごく良かったです! こんな風に原作のエッセンスを掬い上げてコミックにするんだあーと、そこんとこにまずすごく感動してしまったわ。「小説→映画」もそうだと思うんですけど、文章から絵(映像)にするのって表現方法を全く変えるわけだし、物凄くセンスが問われますよね。これはすごいなー。もちろん原作があるからこそなんですけど、コミック版の方が洗練されてる気がします。それに原作でひっかかってた部分が、コミック版では直ってたのが、またポイント高し、なのでした。(たとえば「予言者」→「預言者」とか)
でもこれの感想を書くのは難しいなあ。あと2~3回読み返さないとダメかも。でもこのスケールには圧倒されたし、阿修羅が良かったです。(ハヤカワ文庫・秋田文庫)

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ドイツの音楽大学のバイオリン講師のテオが同僚に手渡されたのは、ブエノスアイレスの教会で録音したというオルガンの演奏の入ったディスク。現地に住む音楽雑誌の記者が偶然耳にして感動し、本格的な音楽家の意見も聞いてみたいと送ってきたのです。テオはオルガン科のラインベルガー教授にディスクを聞いてもらうことを約束をし、9年ぶりに教授に連絡をとることに...。

ということで、第10回ファンタジーノベル大賞受賞作。ハードカバーの時は三人称で書かれていた作品を、文庫化に当たって一人称に全面改稿したんだそうです。
この作品の「オルガニスト」が弾くのは、オルガンはオルガンでも、昔小学校の音楽室にあったようなオルガンではなくて(今もあるのかしら? 笑)、教会のパイプオルガン。パイプオルガンっていいですよね。でもって、やっぱりパイプオルガンにはバッハが良く似合いますよね! ピアノを習ったことのある方なら、バッハのインヴェンションを練習した方も多いと思うんですが、私の周囲ではものすごーく評判が悪かったあのインヴェンションを実は私、大好きだったんです。だから全体を流れるバッハの響きが、読んでいてすごく心地良かったです。...でもさすが日本ファンタジーノベル大賞、単純な話じゃありません。前半は青春小説風なんですけど、後半はもう全然思わぬ方向へと展開してびっくり。それでもバッハの響きが似合うのが、またびっくり。バッハって思ってた以上に懐が深いのかもしれないなあ。
この展開は完全に好き嫌いが分かれそうだし、私もそれに関しては全面的に賛成ってわけでもないんだけど(ネタばれになりそうで怖いよぅ)、それでも切なかったし、やっぱりこの雰囲気が好きですね。パイプオルガン、一度でいいから弾いてみたーい。(新潮文庫)


+既読の山之口洋作品の感想+
「オルガニスト」山之口洋
「0番目の男」山之口洋
「天平冥所図会」山之口洋

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唐の長安、北宋の開封、南宋の臨安、蘇州、燕京といった古代都市を仮想空間に再現した「セレス」。研修でその仮想空間の長安を訪れていた幸田は、そこで見かけた美女に心を奪われて... ということで、21世紀末の世界が舞台のSFファンタジー。「セレス」とは、ギリシャ語で中国を意味する言葉なんだそうです。帯によると「電脳長安の封神演義!」だそうなんですけど、そういえば「封神演義」って読んでないんですよねー。安能務さんのを読もうとしたことはあったんですが、丁度宮城谷昌光さんの古代中国物を読んだところだったこともあって、どうも馴染めないまま挫折してしまったんです。それがダメだったのかも。セレスの造形はとても魅力的だったし、マニピュレーションという操作(動作)を覚えることによって神仙の術も使えるだなんて、その辺りまではワクワクする展開だったんですけどねえ... 最終的には、なんだかただの格闘ゲームになってしまったような... うーん、あんまり堪能できなくて残念っ。(講談社)


+既読の南條竹則作品の感想+
「セレス」南條竹則
「りえちゃんとマーおじさん」南條竹則
「鬼仙」南條竹則
「あくび猫」南條竹則
「魔法探偵」南條竹則
Livreに「酒仙」「満漢全席」「遊仙譜」「ドリトル先生の英国」の感想があります)

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舞台は近未来の日本。経済がすっかり破綻してしまって、日本はボロボロの内戦状態。大陸からの難民もどんどん流れ込んできてます。そんな時代の戦争孤児たちが主人公。この近未来という設定をまるで知らずに読み始めたので、最初はちょっと戸惑ったんですけど、でも勢いのある展開がすごいですねー。あまりにも「人の死」が瑣末に扱われてるので、どこかゲームを眺めているような感覚でもあるんですけどね。これって、「バトル・ロワイアル」を読んだ時とちょっと似た感覚かも。でもこのあまりにも悲惨な世界では、生きていくだけで精一杯で、死者にまで構ってられないということなんですね、きっと。
上巻と下巻では視点が変わるんですけど、大きな流れは一緒。でも上巻の「母」に対して、下巻の「父」というのが対照的なところ。登場人物たちがそれぞれにいい味を出してるのが良かったです。特に女の子がカッコ良くて。この作品、アニメにしたらヒットしそうだなあ。ええ、実写よりもアニメですね、なんとなくですが。(角川書店)

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実はちょっと前から読み始めてたんですけど、なかなか話に入れず、他の本に浮気ばかりしてました。(^^ゞ
というのも、一度ブラッドリーの「アヴァロンの霧」を読んでしまったら、もうそれが私の中でのアーサー王伝説の基本になってしまったみたいで、どうも他の作品は難しいんですよね。それにこの作品、なんていうか、すごいパロディ小説なんですよ! 最初のうちなんてまるっきりのドタバタ。一体これっていつの時代の話よ...?!って感じだし、一時はどうしようかと思いました...。蜂蜜酒を飲んでるなら、そう書いてくれた方が、私としてはありがたいのになあ。←今時の人にはこっちの方が分かりやすいだろうからって、ポートワインを飲んでることになってるんです。作者の注釈つきで。
でも、時間を逆に生きているというマーリンの設定は面白いし、その独特な教育ぶりもユニーク。この作品に現代的なユーモアが散りばめてあるのは、きっとアーサー王伝説に対する新しい解釈を打ち出すためなんですね。この作風に一旦慣れてしまいさえすれば、この意欲的な解釈はなかなか凄いです。ほんと斬新だし強烈。でも、いくらアーサーが現代的な思想で頑張ったとしても、最後の結末は変わらないわけで...。そこがとっても切ないところでした。(創元推理文庫)

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