Catégories:“石堂藍Fブックガイド”

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ワーグナーによるオペラ「ニーベルンゲン(ニーベルング)の指環」原作、全4巻。北欧神話(エッダ)のシグルド伝説と「ニーベルンゲンの歌」を元に、ワーグナーが作り上げた世界です。本の表紙の画像が出ないのが残念なんですが、これはアーサー・ラッカムの挿絵が沢山収録されてる本。これって、たらいまわし企画・第25回「『ドイツ』の文学」の時に、柊舎のむつぞーさんが挙げてらした本ですね♪(記事) ラッカムの絵はこの世界にぴったり。カラーの挿絵も多くて、うっとりしてしまいます。

話の流れは大体知ってはいたものの、原作を読むのは今回が初めて。「エッダ」(感想)や、「ニーベルンゲンの歌」(感想)を先日読んだところなので、その違いがきちんと把握できてとても面白かったです。古い伝承や叙事詩での矛盾点や語られていない部分を、ワーグナーが見事に掬い上げてるんですね! ブリュンヒルデのこともジークフリートのこともグートルーネのことも、もう本当に納得。物語としての完成度は、きっと一番高いんでしょうね。...とは言っても、そういった完成度だけが作品の魅力というわけじゃないと思うので、逆に、破綻がありながらも読ませてしまう「エッダ」と「ニーベルンゲンの歌」の底力は凄いなあと思うのですが。

今回この4冊を読んで感じたのは、まさにジークフリートが主人公だということ。他の作品でももちろんジークフリートが主人公なんですが、この「指環」では、ジークフリートは3冊目でようやく登場なんです。呪われた指環の存在を知らしめるために「ラインの黄金」があり、ジークフリートを生み出すために「ワルキューレ」でジークムンドとジークリンデが愛し合い、ジークフリートに目覚めさせられるためにブリュンヒルデは眠らされ、ジークフリートの手で鍛えなおされるために、名剣ノートゥングは破壊されたんですね。
でもこのジークフリート、私はあんまり好きじゃないです。侏儒のミーメに育ててもらった恩がありながらも、ミーメを憎んでいるジークフリート。確かにミーメがジークフリートを育てた背景に下心がなかったとは言えませんけど、ジークフリートがミーメを憎んでいるのは、ミーメが侏儒で、外見が醜いから? そんなんでいいんでしょうか...?(関係ないかもしれないけど、さすがヒットラーに愛された作品だなーとか思ってしまうー) これじゃあ肉体的には英雄の条件を満たしていても、本質的な英雄とは言えないのでは。その行動を見てても、単なる子供としか思えないです。これじゃあ、ジークフリートが殺されても、全然同情できなーい。自業自得なんじゃ...?

楽劇は、上演にほぼ14時間、4夜を要するという超大作。一度観てみたい... とは軽い気持ちでは言えませんが、やっぱり観てみたい。せめて読む時にCDを用意しておくべきでした。(新書館)


+既読のリヒャルト・ワーグナー作品の感想+
「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」リヒャルト・ワーグナー
「タンホイザー」リヒャルト・ワーグナー
「さまよえるオランダ人」「ローエングリン」リヒャルト・ワーグナー

+既読のアーサー・ラッカム作品の感想+
「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」リヒャルト・ワーグナー
「シンデレラ」「不思議の国のアリス」「ウンディーネ」「リップ・ヴァン・ウィンクル」「ピーター・パン」アーサー・ラッカム
「真夏の夜の夢」アーサー・ラッカム絵&「テンペスト」エドマンド・デュラック絵

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ウルクの都城の王で・ギルガメシュは、力強い英雄ではあるものの、暴君として都の住民たちに恐れられる存在。ギルガメシュをどうにかしろと神々に命じられた大地の女神・アルルは、粘土からエンキドゥという名の猛者を作り上げます。始めは野獣のようだったエンキドゥは、やがて知恵を得て人間らしくなり、ギルガメシュと力比べの格闘をすることに。しかしその格闘は引き分けに終わり、ギルガメシュとエンキドゥの間に友情が芽生え、2人は一緒に遠方にある杉の森の恐ろしい森番フンババを倒す冒険の旅に出ることに。

古代メソポタミアに成立した、世界最古とも言われる叙事詩。原テキストは、粘土板に楔形文字で記されたものなんですが、テキストの約半分は既に失われてしまったのだそう。本の本文を読んでいても予想以上に欠損箇所が多くてびっくり。単語単位で抜けてるのはもちろん、何行もすっぽり抜けてたり、場所によっては残ってる部分の方が少なかったりするんです。ギルガメシュがたどり着いた楽園についてとか、もっと詳しく読みたかったなという部分も多くて、そういう意味では残念だったんですが... そんな断片をここまでの形に組み立てるのは、本当に大変な作業だったでしょうね。こうやって本で読めること自体、とても有難いです。

物語の後半には大洪水のエピソードも入っていて、これは後に旧約聖書のノアの箱舟の元になった話なのだそう。解説に、日常的に聖書を読んでいる西洋人がこの部分を発見した時は本当にセンセーショナルだったとあるんですが、なんだか想像できて可笑しいです。そして、この作品で語られているのは、永遠の生について。やっぱり基本なんですねえ。ギルガメシュがウトナピシュティムに会いに行く途中で出会った婦人の言葉も含めて、とても印象的でした。

ギルガメシュよ、あなたはどこまでさまよい行くのです
あなたの求める生命は見つかることがないでしょう
神々が人間を創られたとき
人間には死を割りふられたのです
生命は自分たちの手のうちに留めておいて
ギルガメシュよ、あなたはあなたの腹を満たしなさい
昼も夜もあなたは楽しむがよい
日ごとに饗宴を開きなさい
あなたの衣服をきれいになさい
あなたの頭を洗い、水を浴びなさい
あなたの手につかまる子供たちをかわいがり
あなたのむねに抱かれた妻を喜ばせなさい
それが〔人間の〕なすべきことだからです

でも、ここだけ取り出してもダメですね。やっぱり本文の中にあってこそ、だな(^^;。
ギルガメシュ叙事詩の本文は、ほんの100ページ強。あとはひたすらこの叙事詩の発見や成立に関する解説。付録として「イシュタルの冥界下り」も入っていて、こじんまりとまとまった話ですが、他の神話との共通点なども連想されて面白いです。(ちくま学芸文庫)

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フィオナ・マクラウドが、スコットランドの西にある小島、古代の聖者コロンバにゆかりの聖なる心霊の地・アイオナに滞在して書いたという、ケルト民族の神話や伝説、民間伝承に根ざした物語13編。

滅び行く運命をもった「ケルトの暗い哀しさ」を訴えつづけた... と井村君江さんの解題に書かれていたんですが、まさにそういった一種独特の雰囲気がある作品集でした。全体的に陰鬱な空気が重く立ち込めているような感じ。でもそういった中に、一筋の光が射しこむような美しさがあるんですよね。ちなみに題名の「かなしき女王」とは、ケルト神話の女戦士で、スカイ島の名前の元にもなったというスカァアのこと。他にも英雄クウフリンやゲール人やピクト人、ヴァイキングなんかも登場して、いかにも「ケルト幻想作品集」。
でも、読んでみると、これが実はとってもキリスト教色が濃い作品だったんですね。びっくり! ここまでとは、正直想像してませんでした。もちろん、元々多神教だったところにキリスト教が入り込んで、アーサー王伝説なんかもかなりキリスト教的な色合いが濃いんですけど、そういうレベルではないんです。「最後の晩餐」という作品なんて、幼い子供がキリストの最後の晩餐の場面に立ち会うことになる話だし、「漁師」という作品も、谷間を歩いていたおばあさんがキリストとは知らずにそこにいた男性に声をかけるという物語。ケルトとキリスト教の融合、というのとはちょっと違うような... でも、これってキリスト教側の視点から書かれてる作品ではないと思うんですよね。あくまでもケルト側からの視点から描かれているという印象。そしてそれが、この作品集の独特な部分なのではないかと...。
私がこの中で好きだったのは、「精」という作品。これはキリスト教の僧侶たちが前面に登場しながらも、逆にケルト精霊の力を再認識させられるような作品。キリスト教の狭義の懐の狭さと、精霊たちの器の広さが対照的です。主人公のカアルが「青い人々」に出会い、受け入れられる場面、そしてキリスト教の僧侶・モリイシャが青い人々を見る場面がとても美しくて印象に残りました。
この本を訳した松村みね子さんは、アイルランド文学を数多く日本に紹介したという方なんですが、歌人としても活躍した方なのだそう。普通の文章はもちろん作中の詩がとても美しくて、歌人だという紹介を読んで、その美しさに納得でした。(ちくま文庫)


+既読のフィオナ・マクラウド作品の感想+
「かなしき女王 ケルト幻想作品集」フィオナ・マクラウド
「ケルト民話集」フィオナ・マクラウド

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ハンサムでも秀才でもないハロルド・シェイの造形から(馬面で、目が中央に寄りすぎてるらしいです)、アンチ・ヒロイック・ファンタジーという言葉が生まれたという、ハロルド・シェイのシリーズ全4巻。主人公のハロルド・シェイが、北欧神話、エドマンド・スペンサーの「妖精の女王」、コールリッジの「クブラ・カーン」、アリオストの「狂えるオルランド」、フィンランドの叙事詩「カレワラ」、そして最後にアイルランド神話の世界に飛び込む冒険物語です。

実はこれまで、なかなか話に入れなくて4~5回ほど挫折してたんですが、ようやく読めました。一旦話に入ってしまえば、結構面白かったです。まず面白いのは、日常の生活からファンタジーの世界への行き方。主人公のハロルド・シェイは心理学者なので、移動が魔法ではないんです。使うのは「Pが非Qと同値であれば、Qは非Pを含意するが...」という、「論理方程式」。6枚の紙に書かれた公式全神経を集中するだけで、神話の世界へと旅立ってしまうんだからびっくり。でももちろん、事はそれほど簡単ではありません。最初はクフーリンやマブ女王の時代のアイルランドに行くはずだったのに、気がつけばそこは北欧神話の世界。しかも、行った先の世界の法則に従わなくちゃいけないんですよね。20世紀の物理学や化学の法則みたいにまだ発見されてないものは、存在しないのも同じ。持参したマッチや銃は使い物にならなくなってますし、英語の本も理解できなくなってるのに気付くハロルド・シェイ。頭の中で自分の名前のスペルを思い浮かべても、浮かんでくるのはルーン文字だけ。(笑)

ただ、北欧神話やアイルランド神話は好きだし、「妖精の女王」も最近読み返したし(感想)、叙事詩ではなく、簡易な物語に書き直されていたとはいえ「カレワラ」も読んだし(感想)、「クブラ・カーン」は大学の時に一目惚れした作品なんですが(これは、コールリッジがインスピレーションを得て作品を書き始めた時に突然の来客があり、仕事を中断してるうちにその詩思は消え失せてしまった、ということで有名な作品。その来客が本当に怨めしい!)、「狂えるオルランド」だけは未読のままだったんですよね。それが惜しかったです。イタロ・カルヴィーノの「宿命の城」(感想)を読んだ時から、読みたいと思ってたんですが... 「妖精の女王」にも大きく登場してたのに...。でも名古屋大学出版局発行の本は12,600円なんて値段がついてるので到底買えないし、市内の図書館にも置いてないし、抄訳が載ってる本も3冊ほど教えて頂いたのに、どれも市内の図書館になく... いえ、いずれは絶対に読みますが!

4冊の中で一番面白かったのは1冊目。雰囲気に馴染むのに時間はかかったけど、ラグナロク直前の北欧神話の世界に一度馴染んでしまえば、あとはユーモアたっぷりで楽しかったです。もう少し長くしして、じっくり読ませて欲しかったぐらい。でも2~4冊目は、ラブロマンスなんかもあるんですけど... ハロルド・シェイが冒険慣れした分、ちょっと物足りなかったかも。代わりに加わった狂言回しの人物には苛々させられたし。それにどの世界も、結局似たような感じですしね。そういう意味ではちょっとマンネリ気味でした。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のディ・キャンプ&プラット作品の感想+
「妖精の王国」ディ・キャンプ&プラット
「神々の角笛」「妖精郷の騎士」「鋼鉄城の勇士」「英雄たちの帰還」ディ・キャンプ&プラット

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魔法使いのルッフィアモンテが望んだのは、地球の端っこにささやかな、ありとあらゆる風の流れ込むおもちゃのような街を作ること。そしてできたのが風街。沢山の夢が吹き寄せられてくる風街にやって来たマーチ博士が書き綴った短編集です。

風待屋のsa-ki さんに教えて頂いた本。海外ファンタジー作品を多数訳してらっしゃる井辻朱美さんご自身のファンタジー作品は一体どのような物語なのだろうと、ワクワクしながら手に取りました。
まず、神話や古今東西の有名ファンタジーのモチーフがいっぱいで楽しい! 風街ができるきっかけになったのも、魔法使いが鶴の仙人に連れられて行った北方の神々の鍛冶場がきっかけだし、この鍛冶場に置いてあるのが、不老不死の仙丹を焼き上げる太上老君の竃、そして風街を作りたいという望みを叶えたのは、北欧神話の神の1人ロキなんですもん。思いっきりクロスオーバーしています。(笑)
街の裏には《夜》の山脈があり、《夜》に通じる道は、まがまがしい夢が漂い出てくる《妖神たちの小路》... という街の周辺も魅力的なんですが、それ以上に街そのものが素敵。とっても不思議なことが、ごく自然に存在してますし、魅力的なお店も沢山。鞄屋の自慢は、物を出したあと、鞄の口の中へ鞄の底を突っ込めば、くちがねだけになってしまうという鞄だし、開くたびに美しい女の絵が涙を流す傘があったり、毎回違う割れ方をして、毎日新しい自分を発見できるタマゴ鏡なんていうのがあったり...。その他にも、子供の成長に合わせて育つ刺青とか、姿を変える黒ウサギとか、夜の流星が落ちた跡を嗅ぐ犬とか、雨天のみ開館の映画館とか... 《夜》から飛んできた、よい匂いのする夢を拾って売る掃除夫の話なんていうのも素敵。
人間も動物もそれ以外の不思議な存在も一緒くたになって暮らしている風街の物語は、連作短編集とはいっても、それぞれの物語に連続性はそれほどなくて、まるで夢の場面場面のスケッチを見ているよう。少し強い風が吹いたら忘れてしまいそうなほどの淡々とした夢です。でもそのスケッチを眺めていると、明るく透明感のある情景がどんどん拡がっていきます。
メアリー・ポピンズが来るのは、実はこの世界から? 一番強い火星猫の名前が、「スーパーカリフラジリスティックエクスピーアールイードーシャス」なんですよ。(笑) 「ロビン・グッドフェロウがチョコレットの中に閉じ込められた珍事件」というのは、稲垣足穂の「チョコレット」? 神話や古今東西の有名ファンタジーのモチーフがいっぱいで、そういうのを探すのも楽しいところ。登場人物もそれぞれに魅力的だし、読んでいると自分まで風街にいるような気がしてしまう、そんな風に居心地のいい物語でした。画像が出ないのが残念なんですが、安江恵美さんの挿画もこの雰囲気にぴったり。楽しかったです~。(アトリエOCTA)


+既読の井辻朱美作品の感想+
「風街物語 完全版」井辻朱美
「エルガーノの歌」「パルメランの夢」井辻朱美
「幽霊屋敷のコトン」「トヴィウスの森の物語」井辻朱美
「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」井辻朱美
「遙かよりくる飛行船」井辻朱美
「ファンタジーの森から」「ファンタジーの魔法空間」井辻朱美
「夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり」井辻朱美
「魔法のほうき」井辻朱美
「ファンタジー万華鏡」井辻朱美

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貞観7年、広州から船で天竺へと旅立った高丘親王。天竺は高丘親王にとって、幼い頃に父・平城帝の寵姫だった藤原薬子に話を聞いて以来の憧れの地、船に乗り込んだ高丘親王は、この時67歳。同行するのは、常に親王の傍で仕えていた安展と円覚という2人の僧、そして出航間際に船に駆け込んできた少年「秋丸」の3人。

澁澤龍彦氏の遺作だという作品。ずいぶん前に、森山さんにオススメ頂いた時から読みたいと思ってたんですけど、その時は本が手に入らなかったんですよね。先日LINさんが読んでらした時(記事)にふとamazonを覗いてみると、なんと「24時間以内に発送」になってるじゃないですか! たらいまわし企画でも何度か登場してたのに、その時は最初から諦めちゃってたんです。いやー、もっと早く気付くべきでした。私のばかばか。
高丘親王という人は実在の人物なんですが、天竺へ向かうこの旅自体は澁澤氏の創作の世界。山海経に登場するような生き物がごく自然に存在している、幻想味の強い物語です。現実世界と幻想世界の境目はもうほとんど感じられなくて、自由気儘に行き来している感覚。これって、一見現実に見えても、実は現実とは言い切れない場面もあるのね... と思っていたら、高橋克彦氏の解説に「一読した限りではなかなか気付かないだろうが、いかにも幻想的な航海記のようでいて、実際はその過半数の物語が親王の夢なのだ」とありました。「親王が現実世界を旅している時は、薬子はたいてい記憶として登場し、親王が夢の中を彷徨っている時は、薬子もまた別の夢となって現れる」とも。そうだったんだ! たとえば最初の大蟻食いの場面とか、これはきっと本当は夢の中の出来事なんだろうなと思っていたんですけど、やっぱりそれで合っていたようです。(よかった) でも読み落としてる部分もありそうなので、もう一度読み返してみなければ~。そしてこの幻想世界と現実世界は、お互いの世界を鏡のように映し合っているかのよう。夢や記憶でしか登場しないはずの薬子の存在感がとても大きくて、まるで薬子を通して様々なものが映し出されてるような感覚も...。
これまで読んだ澁澤氏の作品とは雰囲気がまた少し違っていて、まるで別次元へと昇華してしまったような感じ。おそろしいほどの透明感。途中、高丘親王が欲望を覚えるような場面もあるんですけど、生々しさはまったくなくて、むしろ枯れた味わいです。親王を通して感じられるのは、生への慈しみ。やはりこれは確かに遺作だったんだな... と納得してしまいます。やっぱり高丘親王は、澁澤氏自身ですよね。澁澤氏も、あの真珠を投げたのかしら。今頃、森の中で月の光にあたためられているのでしょうか。澁澤氏が亡くなって19年ですか... 薬子は50年と言ってるし、まだもう少し時間がかかりそうですね。(文春文庫)


+既読の澁澤龍彦作品の感想+
「私のプリニウス」澁澤龍彦
「異端の肖像」澁澤龍彦
「夢のある部屋」澁澤龍彦
「澁澤龍彦初期小説集」澁澤龍彦
「夢のかたち」「オブジェを求めて」「天使から怪物まで」澁澤龍彦
「高丘親王航海記」澁澤龍彦
「東西不思議物語」澁澤龍彦
Livreに「世界悪女物語」「幻想博物誌」「夢の宇宙誌」「フローラ逍遥」の感想があります)

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中世。初めての巡礼の旅のに出たジャスパー卿は、騎士としての勇気を試す機会にあまり恵まれないまま、その旅を終えようとしていましたが、沼地のポングリイの住民たちに、ドラゴン退治を依頼されます。この村では、数年前から何人もの村人がラベンダー・ドラゴンによって連れ去られて困っているというのです。連れ去られるのは、もっぱら未亡人や寡夫、そしてみなし児。話を聞いたジャスパー卿は、早速翌朝、ラベンダー・ドラゴンとの闘いに出向くことに。

「赤毛のレドメイン家」や「闇からの手」などのミステリ作品で有名なフィルポッツのファンタジー作品。でも日本ではミステリのイメージが強いんですけど、本国イギリスでは小説や詩・戯曲など250冊以上を書いていて英国文壇の最長老という存在だったんだそうです。
この物語に登場するドラゴンは、見た目にも美しく、行く先々にラベンダーの芳香が漂い、溢れんばかりの知識と教養の持ち主という、ちょっと珍しいタイプのドラゴン。そんなラベンダー・ドラゴンが村人たちを攫っていたのは、実は食べるためではなくて、ユートピアとも言えるような村を作るためだったんですよね。でも、前半、ジャスパー卿の視点で物語が進んでいる間は、中世の騎士の冒険物語で面白かったのに、ラベンダー・ドラゴンが中心となった途端、話が理屈っぽく教訓くさくなっちゃいました...。もしかしたら、当時の英国に対する政治的な批判だったのかしら。ラベンダー・ドラゴンの作った国は共産主義的な印象が強いです。しかもカリスマ的リーダーがいないと存続できないっていうところも、何ともはや。(ハヤカワ文庫FT)

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