Catégories:“石堂藍Fブックガイド”

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スウェーデンの小さな町のはずれの草ぼうぼうの古い庭に「ごたごた荘」という名前の古い家が建っていました。その家に住んでいるのは、ピッピ・ナガクツシタという名前の女の子。9歳なのにお父さんもお母さんもなく、船乗りだったお父さんにもらったサルの「ニルソン氏」と、この家に来てすぐ金貨で買った馬一頭と一緒に住んでいるのです。ごたごた荘の隣の家にはトミーとアンニカという男の子と女の子が住んでおり、3人はすぐに仲良くなります。

子供の頃に何度も読んだ長くつ下のピッピのシリーズ。先日ふとテレビをつけたら、一人芝居みたいなのをやってて懐かしくなっちゃって! 思わず手に取ってしまいました。久々の再読です。あ、子供の頃に何度も読んでいたとは言っても、自分で持っていたのは最初の「長くつ下のピッピ」1冊だけ。なので何度も読んだのもこれ1冊で、あとのは1、2回しか読んでないのですが。

子供の頃でも、ピッピみたいな破天荒な女の子が実際にいたら楽しいけど大変だろうなと思いながら読んでいた覚えがあるので、大人になった今読み返したら、ピッピに苦笑させられてしまうかも、なんて思ってたんです。もしかしたら、ピッピが痛々しく感じられてしまうかも? とも。で、ちょっと手に取る前に躊躇ってたんですが、杞憂でした。相変わらず楽しい! ピッピ、可愛い!
でも、改めて3冊まとめて読んでみると、1冊ごとにピッピの姿がだんだん変っていくなあ、なんて思ったりもしますね。1冊目のピッピはほんと破天荒。何者にも束縛されず自由気儘に日々すごしていて、仲良しのトミーとアンニカを喜ばせるのは大好きだけど、そのほかの人たちには、それほどサービス精神旺盛というわけでもないみたい。大人をからかうのも、自分が楽しいからってだけだし... まあ、その真っ直ぐさがいいんですけどね。火事の家に取り残された子供たちを救いだして英雄になってますが、この時も火事の恐ろしさや、取り残された子供たちの感じている恐怖を理解してるわけではなくて、周囲の人たちの話から助けた方がいいと分かったから、助けてます。
でも2冊目になると、力強いのは相変わらずなんだけど、いじめっ子や乱暴者をやっつける「弱きを助け強きをくじく」ピッピ像が強調されているようです。トミーとアンニカ以外の子供たちにも目を向けるようになるし、この2人以外の気持ちを考えることもし始めます。2人を連れ出して遊びに行った時にも、後で2人の両親が心配しないように置手紙を残してたりしますしね。これは1冊目では考えられなかったこと。そして3冊目になると、ピッピのほら話で逆に励まされる人も出てきますし。いつの間にかトミーとアンニカのお母さんの信頼も勝ち得てます。
最初は、破天荒なピッピ像から、もっと多くの人に受け入れられやすいヒロイン像へと微妙に変化したのかなーなんて思っていたのですが、3冊目を最後まで読んでみると、やっぱりこれはピッピの成長といった方が相応しいような気がしてきました。というのは、3冊目の「ピッピ南の島へ」のラストから。これは、ちょっとびっくりするような雰囲気なんですよね。そういえば、子供の頃もこのラストには違和感を感じていたのですが... でもこれが、既に大人であるリンドグレーンなりの終わらせ方だったんでしょうか。楽しい子供時代の終わりの予感。

で、子供の頃もピッピよりもアンニカになりたいと思った私ですが、大人になってから読み返しても、やっぱりなり替わるならアンニカの方が~ でした。自分自身がアンニカに近いというのも大きいんですけど(笑)、何といっても、アンニカならピッピの近くの一番いい位置でトミーと一緒に楽しんでいられますしね。「もの発見家」になるのも、木の上でお茶をして、その木の大きなうろの中に入ってみたりするのも、本当に楽しそう。ちょっと怖くなっちゃうような冒険も、2人がいれば大丈夫。遠足やパーティーで出てくるピッピの手作りのご馳走も美味しそう。読んでいるだけでワクワクしてきます。例えば床の上にショウガ入りクッキーの生地を伸ばしたり、誕生日のパーティのテーブルのご馳走をテーブルクロスごと片付けてしまうのは、冷静に考えればかなり困った状態になるはずなんですけどね。(笑)
それに子供の頃に一番羨ましかったのは、ピッピの家の居間にある大きなタンス。ピッピがお父さんと一緒に世界中をまわった時に買った宝物が、沢山詰まっているタンスなんです。2人がタンスの引き出しをあけては楽しんでるのが羨ましくて仕方なかったし、何かのたびにピッピがトミーとアンニカにプレゼントしてる物もすごく素敵だし! これは今でも羨ましくなっちゃいます。やっぱりアンニカになって、トミーとピッピと一緒に引き出しを覗きこみたいわ~。(ピッピになれば、その全ては自分の物になるのにねえ・笑)(岩波少年文庫)


+既読のリンドグレーン作品の感想+
「長くつ下のピッピ」「ピッピ船にのる」「ピッピ南の島へ」リンドグレーン
「やかまし村の子どもたち」「やかまし村の春・夏・秋・冬」「やかまし村はいつもにぎやか」リンドグレーン

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山の中に住む魔女に育てられた妖精のラウテンデラインの前に現れたのは、30歳の鋳鐘師・ハインリッヒ。湖の中に転がり落ちた鐘と一緒にハインリッヒも谷底に転げ落ちたのです。瀕死のハインリッヒは、自分を世話してくれるラウテンデラインを一目見て心を奪われます。しかしそこにハインリッヒを探しに来た牧師や教師、理髪師がやってきて、ハインリッヒを取り戻し、妻のマグダ夫人や子供たちのところに連れて帰ることに。

5幕物の戯曲で、オットリーノ・レスピーギが歌劇にも仕立てている作品。泉鏡花の「夜叉ヶ池」「海神別荘」「天守物語」、特に「夜叉ヶ池」にも大きく影響を与えているのだそうです。そして野溝七生子は、この作品のヒロイン・ラウテンデラインに因んで「ラウ」と呼ばれていたのだそう。

一読して驚いたのは、まるでフーケーの「ウンディーネ」(感想)みたいだということ。ラウテンデラインは、実際にはウンディーネのような水の精ではないはずなんですけど、でもその造形がすごくよく似ています。ただその日その日を楽しく暮らしていたラウテンデラインは、ハインリッヒを知ることによって初めて泣くことを知るんですね。ここで「泣く」というのは、ウンディーネが愛によって魂を得たのと同じようなこと。ラウテンデラインの場合は、ウンディーネほどの極端な変わりぶりではないのですが。それに作品全体の雰囲気もよく似てます。ハインリッヒに夢中になるラウテンデラインのことを周囲の精霊たちが面白く思わないのも同じだし、水が重要ポイントになるところも。ラウテンデラインは本当は水の精じゃないはずなのに、これじゃあまさに水の精。そして3杯の酒による結末も。魂を失って、愛を忘れてしまうところも。ああ、ここにも「水の女」がいたのか!と思いつつ。
2人の子供と妻の涙の壷、そして響き渡る鐘の音。ラウテンデラインの腕の中にはハインリッヒ。ああ、なんて美しい。水の魔物・ニッケルマンや牧神風の森の魔、そしてゲルマン神話の神々の名前もまた、異教的で幻想的な雰囲気を盛り上げていました。

ウンディーネは魂を持たない存在だけど、人間の男性に愛されて妻になると魂を得るという設定は、元々パラケルススによるものなんですね。水辺や水上で夫に罵られると、水の世界に戻らなくてはならないというのと、夫が他の女を娶れば命を奪うというのも。その辺りのパラケルスス関連の本も読んでみたいな。(岩波文庫)

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トムは腹を立てていました。夏休みは弟のピーターと庭のリンゴの木の枝と枝の間に家を作ろうと前々から計画していたのに、ピーターははしかにかかり、トムはうつらないようにするために、アランおじさんとグウェンおばさんの家に行かなければならなくなったのです。アランおじさんたちが住んでるのは、庭のないアパート。万が一はしかにうつっていた時のために外に出ることもできず、友達もおらず、トムは日々退屈しきっていました。運動不足で夜も寝られなくなってしまったトムは、毎晩のように時計の打つ音を数えるのが習慣となります。古い置時計は、打つ音の数を間違えてばかり。しかしそんなある晩、夜中の1時に時計が13回打ったのです。夜の静けさに何かを感じたトムは、こっそりベッドから抜け出します... という「トムは真夜中の庭で」。
隣の家に住んでいたのは、"よごれディック"。数年前に奥さんに逃げられて以来、ディックは一人暮らしで、母さんに言わせると、ブタ小屋のブタのような暮らしぶり。運転はできないのに2台の車を持ち、1台ではウサギを、もう1台ではメンドリを飼い、卵を売って暮らしていました... という「汚れディック」他、全8編の短編集

古時計が13回打った時にだけ現れる庭園とハティという名の少女。昼間はがらくたばかりが置かれている狭苦しい汚い裏庭があるだけの場所に、広い芝生と花壇、木々や温室のある庭園が広がっていて...! 退屈だったはずの夏休みが、わくわくする真夜中の冒険に一変してしまいます。子供の頃に何度も読み返した作品なんですが、中学以降は読んでなかったかも... ものすごく久しぶりの再読なんですが、これがやっぱり良くて! 大人になって読んでも全然色褪せていないし、それどころかさらに一層楽しめるというのが素晴らしい。
でも楽しい冒険も徐々に終わりに近づいて...。小さかったハティがいつしかすっかり大きくなっていたと気づくところは切ないです。しかもそれに気付かされるのが、他人の目を通してなんですから! でも最後に彼女の名前を叫んだ時、きちんとその声が届いたというのがなんとも嬉しいところ。年齢差を越えた2人の邂逅には胸が温まります。
この作品、子供の頃読んでた時はやっぱりトム視点で読んでたと思うんですけど、大人になった今読むと、もちろんトム視点が基本なんですけど、ハティもかなり入ってたかも。読む年齢に応じて、その経験値に応じて、新たな感動をくれる本なんですね。あー、こういう子供の頃に大好きだった本を読み返すたびに、本棚に入れておいてくれた父に改めて感謝してしまうなあ。

そして「真夜中のパーティー」の方は、今回初めてです。どれもごく普通の日常から始まる物語。特に不思議なことが起きるわけでもないし、日常のちょっとした出来事と一緒に子供たちの思いが描かれているだけ。でもそれがとても鮮やかなんですね。真夜中のパーティーが親にばれないように工夫する姉弟たち、ついついニレの木を倒してしまった少年たち、貴重なイシガイを川に隠す少年たち、せっかく摘んだキイチゴを無駄にしてしまい、怒る父親から逃げ出す少女、池の底からレンガの代わりにブリキの箱を拾った少年...。特に印象に残ったのは、川の底に潜りこもうとするイシガイを見ながら密かに逡巡するダンの姿かな。これは本当にドキドキしました。兄のようなパットが大人たちに糾弾されるのに憤慨した小さなルーシーの反撃も良かったなあ。溜飲が下がります。あと、間違えてブリキの箱を拾ってきた少年のあの達成感・充実感ときたら! 読んでいるその時には、それほど大した物語には思えないのですが、後から考えると印象的な場面がとても多かったことに気づかされるような、深みのある短編集でした。(岩波少年文庫)

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町の高い円柱のうえに立っていたのは幸福な王子の像。全身うすい純金の箔がきせられ、目には2つのサファイア、刀の柄には大きな赤いルビーがはめられ、非常な賞賛の的。そんなある夜、一羽のツバメがエジプトに向かう途中、幸福の王子のいる町を通りかかります... という「幸福な王子」他、全9編を収めた短編集。と、
画家のバジル・ホールウォードのモデルとなっていたのは、美貌の青年・ドリアン・グレイ。彼は、ちょうどアトリエを訪ねて来たヘンリー卿に自分の美しさを改めて教えられ、同時に美しさを失うことへの恐怖をも植えつけられ、そして快楽主義者であるヘンリー卿の感化で、背徳の生活へと踏み出すことに。しかしその生活による外面的な変化は全て肖像画に表れ、ドリアン・グレイ自身はいつまで経っても若い美青年のままだったのです... という「ドリアン・グレイの肖像」。

先日再読した「サロメ」が思いのほか素晴らしかったので、そちらを訳している福田恆存さんの訳で読みたかったんですけど、「幸福の王子」はどうやら訳してらっしゃらないようですね... 残念。「ドリアン・グレイの肖像」は福田恆存さんの訳なのですが。

「幸福の王子」は、実は子供の頃に大嫌いだった作品なんです。ワースト3に入ってました。何が嫌いって、幸福の王子の偽善的なところ。自分は貧しい人々を助けて満足かもしれないけど、そのために死んでしまったツバメはどうするの...?ですね。王子の思いやりが素晴らしい、なんて思わなかったし~。で、大人になった今読み返してみても、やっぱり凄い話でした。確かにツバメも納得してやってることではあるんだけど... しかも大人になってから読むと、さらに気になることがいっぱい。宝石や金箔を届けられた人は、その場は有難かったでしょうけど、金箔はともかく、立派なサファイアやルビーはどこから取ってきたのか一目瞭然のはず。疑われることにならなかったのかしら? もしそんなことにならなかったとしても、貧しくても正しく生きてきた生活がそれで一気に崩れてしまったりしなかったのかしら? 幸福の王子は、自分の目に見える範囲のほんの数人を助けたけど、その他の可哀想な人々はどうなるの? 全てに責任が取れないのなら、中途半端に手を出さない方がいいのでは?(千と千尋だね!) やっぱり幸福の王子の行動は自己中心的なものとしか映らないなあー。
そして今、他の作品を読んでみてもそういう物語ばかりでびっくりです。美しい言葉で飾られてはいるけれど、自己中心的な人々が純情な正直者を傷つける物語ばかり。赤いばらを欲しがった学生のために無意味に死んでいったナイチンゲールや、粉屋に利用されるだけ利用された正直者のハンス。死んでしまってなお、酷い言葉を投げかけられる侏儒。そんな物語も、オスカー・ワイルドの手にかかるとあまりに美しいのだけど...。オスカー・ワイルドはどんな気持ちでこういった作品を書いたのかしら。多分これが「童話集」でなければ、私も別にそこまで引っかからなかったんじゃないかと思うんですが...。(笑)

そして「ドリアン・グレイの肖像」は、肖像画がその罪を一手に引き受けてくれるという、今読んでも斬新な設定が楽しい作品。画家のバジルは画家ならではの鋭い目で「ひとりの哀れな人間に罪があるとすれば、その罪は、かれの口の線、瞼のたれさがり、あるいは手の形にさえ現れるのだ」と言うんですけど、ドリアン・グレイがいくら悪行を繰り返しても、外見は18年前に肖像画が描かれた時と同じ。顔つきは純真無垢で明るく、穢れをつけない若さのまま。
美貌の青年にとって、その美貌をなくすことは何よりも耐え難いことなんですけど、そのきっかけを作ったのはヘンリー卿。「美には天与の主権があるのだ。そして美を所有する人間は王者になれる」と言いながら、続けて「あなたが真の人生、完全にして充実した人生を送りうるのも、もうあと数年のことですよ。若さが消えされば、美しさもともに去ってしまう、そのとき、あなたは自分にはもはや勝利がなにひとつ残ってないということに突然気づくーー」なんて言うんですね。このヘンリー卿の言葉がどれも面白いし、その印象も強烈。やっぱりヘンリー卿には、オスカー・ワイルド自身が投影されてるのかしら。彼がドリアン・グレイの悪行にまるで気づいていないのが不思議ではあるんですが... 影響を与えた彼自身は快楽主義者としてではあっても、一般的な社会生活からは逸脱してませんしね。うーん、彼こそが本物だったということなのかもしれないな。あと、彼がドリアン・グレイに貸した本が背徳のきっかけになるんですけど、あれは何の本だったんだろう! 例えばマルキ・ド・サドとか?(笑)
そしてこの作品で特筆すべきなのは美へのこだわり。ドリアン・グレイ自身も美しい物が大好きで色々と収集してるんですけど、彼の存在自体がもう美しく感じられますしね。そして作品そのものもあまりに美しい...。とは言っても、その美しさは天上の美しさではなくて、堕天使の魅力なのですが。オスカー・ワイルドの美意識が全開の作品だと思います。(新潮文庫)


+既読のオスカー・ワイルド作品の感想+
「サロメ」ワイルド
「幸福な王子」「ドリアン・グレイの肖像」ワイルド
「ウィンダミア卿夫人の扇」ワイルド

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「おやゆび姫」「皇帝の新しい着物(はだかの王さま)」「みにくいアヒルの子」「人魚姫」「赤いくつ」「雪の女王」など、数々の美しい童話を書き残したアンデルセン。この3冊には全33編が収められています。

ムーミンを読んでたら、北欧繋がりでなんだか妙に読みたくなりました。アンデルセンって実は子供の頃はあんまり好きじゃなかったんですよね。有名な作品は一通り読んでたと思うし、去年もエロール・ル・カインの「雪の女王」の絵本を読んだし、荒俣宏編訳「新編魔法のお店」に「マッチ売りの少女」が載ってたり、「ももいろの童話集」にもアンデルセンの「小さな妖精と食料品屋」が収録されていたりと、それほど離れてたわけでもないんですが、今まで改めて手に取る気にはならなかったのに... と我ながらちょっとびっくり。でもいい機会! 本当はハリー・クラークの挿絵が楽しめる新書館版がいいかなと思ったんですが(右のヤツね)、これは結構分厚くて重いので... 結局手に取ったのは、かねてから読破計画を進めたいと思っていた岩波少年文庫版です。

改めて読んでみて真っ先に感じたのは、暖かな南の国への憧れ。「おやゆび姫」でも「コウノトリ」でも、ツバメやコウノトリが、寒い冬の訪れの前に、太陽が明るく照り綺麗な花が年中咲いているという「あたたかな国」(エジプト)へと旅立つし、「年の話」でもみんなが春の訪れを待ち焦がれてるんです。珍しくイタリアが舞台となっている「青銅のイノシシ」ではこんな感じ。

イタリアの月の光は、北欧の冬の曇り日ぐらいのあかるさがあります。いえ、もっとあかるいでしょう。なぜなら、ここでは空気までが光り、かるく上にのぼっていくからです。それにひきかえ、北欧ではつめたい灰色のナマリぶきの屋根がわたしたちを地面におさえつけます。いつかはわたしたちの棺をおさえつける、このつめたいしめっぽい土へおしつけるのです。

やっぱり北欧の人にとって冬の存在というのは、ものすごく大きいんでしょうね。白夜だし...。日本人が考える冬とはまた全然別物なのかも。(しかも私が住んでる地方は冬が緩いですから) とはいえ、そういう南の国の明るさとは対照的な「雪の女王」の美しさも格別なんですけどね。雪というイメージがアンデルセンの中でこれほど美しく花開いている作品は、他にはないかもしれないなあ。「雪の女王」は、アンデルセンの中でも後期の作品なんじゃないかな、とふと思ってみたり。
そして同じように印象に残ったのは、天国の情景。それと共に、死を強く意識させられる作品がとても多いことに驚かされました。アンデルセンは人一倍「死」を身近に感じていたのでしょうか。「貧しさ」と「死」、「心の美しさ」や「悔い改め」といったものが、多分子供の頃の私には大上段すぎて、苦手意識を持つ原因になったんじゃないかと思うんですけが、今改めて読むと、それも含めて本当に暖かくて美しい作品群だなあと思いますね。

私がこの3冊の中で特に好きだったのは、小さい頃におばあさまにエデンの園のお話を聞いて憧れて育った王子が実際にそこを訪れることになる「パラダイスの園」という作品。とてもキリスト教色の強い物語ではあるんですけど、北風、南風、東風、西風が集まる「風穴」のように、どこかギリシャ神話的な雰囲気もあってとても好き。あとは1粒のエンドウ豆のせいで眠れなかった「エンドウ豆の上のお姫さま」や、中国の皇帝のために歌うナイチンゲールのお話「ナイチンゲール」、白鳥にされた11人の兄たちのためにイラクサのくさりかたびらを編むエリザの「野の白鳥」なんかは、子供の頃から好きだし、今もとても好き。でも逆に、子供の時に読んでも楽しめるでしょうけど、大人になって改めて読んだ方が理解が深まるだろうなという作品も多かったですね。思いの他、大人向けの物語が多かったように思います。

第2巻の訳者あとがきに、アンデルセンも最初は創作童話を書くつもりがなくて、例えば「大クラウスと小クラウス」「火打ち箱」といった作品は、アンデルセンが子供の頃に祖母から聞いた民話を元にしたものだという話が書かれていました。確かに第1巻を読んだ時に、他の作品とはちょっと雰囲気の違う「大クラウスと小クラウス」には違和感を感じてたんですが、そういうことだったんですねー。やっぱり明らかに創作といった物語とは、方向性が全然違いますもん。(岩波少年文庫)


+既読のアンデルセン作品の感想+
「アンデルセン童話集」1~3 アンデルセン
「絵のない絵本」アンデルセン

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ムーミンパパが川に橋を渡し終え、スニフとムーミントロルが森の中に入り込む新しい道を探検して海岸と洞窟を発見した日の晩、ムーミン屋敷にやって来たのはじゃこうねずみでした。ムーミンパパが橋をかけた時に家の半分がつぶされて、あとの半分は雨に流されたというのです。そして翌日、雨が上がった庭では、全てのものがどす黒くなっていました。それを見たじゃこうねずみは、じきに彗星が地球にぶつかって、地球は滅びるのだと言い始めます。

ムーミンシリーズの1作目。ムーミンシリーズを読むのは、実はこれが初めてなんです。テレビアニメもほとんど見てなかったんですよねえ。確かにもともと無邪気に明るく楽しいイメージではなかったんですが、いきなり彗星が地球に衝突?地球滅亡?! 実はとても深い話だったんですね? びっくりしました。
とは言っても。確かに刻々と近づく地球滅亡の日を待つ物語ではあるんですが、ムーミン一家やスニフ、スナフキンやノンノンはあまりにマイペースだし~。終末物はこれまでいくつか読んだり観たりしたし、アメリカのラジオドラマでH.G.ウェルズの「宇宙戦争」が放送された時の騒ぎなんかもすごかったようですけど、ここはやっぱり別世界ですね。決して明るくないし、そこはかとなく寂寥感が漂ってるんですけど、暖かくて優しくて、何とも言えないほのぼのとした味わいがありました。
とても印象に残ったのは、新しいズボンを買おうとしたスナフキンの「もちものをふやすというのは、ほんとにおそろしいことですね」という言葉。終盤、ありったけの持ち物を持って逃げようとする登場人物たちを尻目に、「ぼくのリストは、いつでもできるよ。ハーモニカが、星三つだ」という言葉もスナフキンらしくて、すごくかっこいいです。まあ、スナフキンのレベルに到達できる人はなかなかいないでしょうけど(笑)、たとえ物を所有しても、所有した物に縛られるようになっちゃだめですよね。(講談社文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「ムーミン谷の彗星」トーベ・ヤンソン
「たのしいムーミン一家」トーベ・ヤンソン
「ムーミンパパの思い出」トーベ・ヤンソン
「ムーミン谷の夏まつり」「ムーミン谷の冬」トーベ・ヤンソン

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92歳のマリアンは、この15年間は息子のガラハッドとその妻・ミューリエル、その末っ子のロバートと同居の生活。家は狭く窮屈で、日中のほとんどは部屋に面した裏庭で猫や鶏と過ごす日々。そして毎週月曜日になると、2ブロックほど歩いて友人のカルメラの家へ行きます。そんなある日、カルメラが耳の悪いマリアンにプレゼントしたのはバッファローの角でできた耳ラッパ。カルメラは、その耳ラッパを誰にも見せないで、家族がマリアンの話をしているのを盗み聞きすればいいと言うのですが...という「耳ラッパ 幻の聖杯物語」、そして短編集の「恐怖の館 世にも不思議な物語」。

先日「夢魔のレシピ」(感想)読んだレメディオス・バロと並ぶシュールレアリストの女流画家。裕福なイギリス人実業家を父に、アイルランド人を母に生まれ、父親の反対を押し切ってロンドンの美術学校に進んだ後マックス・エルンストと運命の出会いを果たし、エルンストが強制収容所に送られた後、キャリントン自身はスペインの精神病院へ。そしてその後メキシコに亡命... となかなか波乱万丈な人生を送っている人です。

「耳ラッパ」の方は、不思議な老人ホームで繰り広げられる不思議な物語。老人ホームに集まっているのは、それぞれに個性的な老人たち。家では厄介者扱いされて、それでこの老人ホームに来ることになったんでしょうけど、既に因習とか常識に囚われることなく生きることができる老人パワーがなかなかかっこいいです。この作品の主人公のマリアンはキャリントン自身がモデルで、親友のカルメラはレメディオス・バロがモデルなのだそう。そう言われてみると、先日「夢魔のレシピ」に架空の相手に書いた手紙というのもあったし、確かにバロみたいな感じ。そしてこの作品自体とても絵画的なんですけど、その中でも特にウィンクして見える尼僧の絵や、塔に閉じ込められるイメージなど、レメディオス・バロの絵画のイメージがものすごくしてました。でも私はレオノーラ・キャリントンの絵をあんまり知らないからなあ... もしかしたらキャリントン自身の絵なのかな? 実際のところはどうなんでしょう。
「恐怖の館」は、マックス・エルンストによる序文からして、これぞシュールレアリスムなのかという文章でかっこいいんですが、キャリントンの書く短編もなかなか素敵でした。アイルランド人の祖母や母、乳母からケルトの妖精物語や民間伝承を聞いて育ったとのことなんですが、そういう要素はあまり感じなかったですね。むしろ目を惹いたのは馬。この馬のイメージはスウィフトの「ガリバー旅行記」? それともこの不条理な作品群は「耳ラッパ」の帯に「92歳のアリスの大冒険」とあったように、ルイス・キャロル的? スウィフトもルイス・キャロルもアイルランド系だし、やっぱりそういうことなのかな。長めの作品もあるんですが、私が気に入ったのはむしろ掌編の「恐怖の館」「卵型の貴婦人」「デビュタント」「女王陛下の召喚状」辺り。特に「デビュタント」はレオノーラ・キャリントンの実体験に基づくと思われる作品。出たくないデビュタントの舞踏会に、自分の代わりにハイエナに出てもらったら、という物語なんですが、これが残酷童話の趣きで... 素敵♪
「恐怖の館」にはレオノーラ・キャリントンとその周囲の人々の写真が数10ページ挿入されていました。力強い顔立ちの美人さん。私としてはどちらかといえば、作品を見たかったんですけどねえ。どこで見られるんだろう?(工作舎)

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新しい家に引越しした翌日の日曜日、入ってはいけないと言われた壊れかけのガレージの中で彼をみつけたマイケル。両親が家の中にいる隙に懐中電灯を手にガレージに忍び込んでみると、山と積まれた茶箱のうしろの暗い陰に彼は塵とほこりにまみれて横たわっていました。最初はてっきり死んでいると思い込むマイケル。しかし「なにが望みだ?」という声が聞こえてきて... それは「スケリグ」でした。

この表紙に惹かれて手を取る人も多いだろうと思うんですが... 私にとっては逆にこの表紙がネックでなかなか手に取ることのできなかった本です。しかも読み始めて、何度もソーニャ・ハートネットの「小鳥たちが見たもの」を思い出してしまって、そのたびに警戒してしまったし... でもまた全然違う物語でした。良かった...(まだあの時の動揺から立ち直りきれてない私)
主人公のマイケルは、「小鳥たちが見たもの」のエイドリアンみたいに孤独と寄り添っているような少年ではなくて、サッカーと作文が得意な普通の少年。引越しはしたけれど、今までの学校にも通うことができるし、仲の良い友達もいます。でも引越し先の家はまだまだ快適に住めるような状態には程遠くて、しかも生まれたばかりの赤ちゃんは一応退院はしたんだけど、まだまだ予断を許さない状況なんですね。赤ちゃんが心配でマイケルも両親もどこか上の空。

元気なスポーツ少年のはずのマイケルが見せる繊細さも印象に残るんですが、マイケルが引っ越し先で仲良くなるミナという少女がとても魅力的。ミナは学校に行かずに家で母親に様々なことを学んでいて、何事においてもとても独創的だしパワフルなんです。マイケルは彼女に色んなことを学ぶことになるし、意気消沈中のマイケルは彼女にぐいぐいと力強く引っ張られることになります。彼女のこの力強さがあったからこそ、みんな救われることになるんですね。...でもやっぱりミナだけの力ではないですね。読後に一番強く感じたのは、この3人のバランスの良さとでもいうべきもの。誰かが誰かに助けられっぱなしというのではなくて、お互いに助け助けられて、欠けているものを補い合って、「生きる」方向へと向かっているのを感じます。これで1人欠けていたら、もしくは1人がまるで違うタイプの人間だったら、これほどのパワーは発揮されなかったでしょう。そしてどんな結末でもあり得たでしょうね。この作品を「甘(うま)し糧」のような物語にしているのは、3人それぞれの力が「1+1+1=3」ではなくて、もっと大きな力を発揮していたからだと思うのです。

スケリグは一体何者だったんでしょう。イメージとしては、トルストイの「人はなんで生きるか」に登場するミハイルだったんですけど、それにしては埃やアオバエの死骸にまみれた姿で登場するし、食事の場面では品のなさを見せつけてるし、まるで浮浪者みたい。生肉を食べているような息の臭いもありますしね。でもこの物語では、スケリグがミハイルではなかったからこそ、という気がしてならないです。マイケルやミナのように、ありのままのスケリグを受け止められるかどうかが大切だったのかもしれません。(創元推理文庫)

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大晦日にユカがふと目覚めると、枕元に置いておいたクレヨンの箱がからっぽ。なんとクレヨンたちがカメレオンを囲んで会議をしていました。シルバー王妃の12の悪い癖を直さないと城には戻らないとゴールデン王が家出をしてしまったというのです... という「クレヨン王国の十二ヶ月」。そして学校の春休み、5年1組では岩戸山の自然公園で星座の観察が行われることになりノブオも参加。しかしノブオと右田先生はなぜか犬猿の仲で... という「クレヨン王国のパトロール隊長」。

なんとクレヨン王国シリーズは今まで読んだことがなくて、これが初めて。石堂藍さんの「ファンタジーブックガイド」に載ってたので、いずれは読もうと思ってたんですけど、ようやく読めました。
「クレヨン王国の十二ヶ月」は、シリーズの1作目。城を出てしまったゴールデン王を探すためにシルバー王妃と小学2年生のユカが12の町を旅する物語。これはこれでとても可愛いんですけど、やっぱり童話ですしね。散らかし癖、お寝坊、嘘つき、自慢屋、欲しがり癖、偏食、意地っ張り、げらげら笑いのすぐ怒り、けちんぼ、人のせいにする、疑い癖、お化粧3時間という12の悪い癖を直すという教訓話だし... 王様がいなくなると1年で世界の色が失われて人間も地球も滅びてしまうというのに、それでも家出してしまう王様というのがまた納得しづらいところ。シルバー王妃とユカが旅する12の町は12の月の町で、それぞれの町の色が決まってて、そういうのは本当はとってもそそる設定のはずなんですけど... 私にはちょっと可愛らしすぎて、小学校の頃に出会っていればもっと楽しめただろうになーって思ってしまいました。
でも「クレヨン王国のパトロール隊長」がすごく良かった! こちらは小学校5年生のノブオの成長物語です。現実の世界でも色々あって大変なノブオがクレヨン王国に来て、ここでもさらに大変な状況に巻き込まれてしまうというなかなか厳しい物語。心がもう限界まで来ちゃってるのに、そんなノブオに対してクレヨン王国は表面的になだめて解決するんじゃなくて、抜本的な荒療治をするんです。これがなかなかすごい。クレヨン王国のシリーズには作品が沢山あるけど、「ファンタジー・ブックガイド」にこのタイトルが挙げられてたのが分かるなあ。あとがきを読んでみると、この「パトロール隊長」と「クレヨン王国月のたまご」が、シリーズの中でも一番ファンレターが届く作品なんだそうです。納得。いずれ「月のたまご」も読んでみようっと。(講談社青い鳥文庫)

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大西洋の沖合いの6000メートルもの深さの海面に浮かぶ小さな村。村を通るただ1本の道に沿って色褪せた赤煉瓦の家や店が並び、沢山の小窓がある鐘楼が立つこの村には、木靴をはいた12歳の少女がたった1人で暮らしています。船が近づくと少女は激しい眠気に襲われ村全体が波の下に沈むため、船乗りの誰1人として、この村を望遠鏡の隅にすら捉えたことがないのです... という「海の上の少女」他、全20篇が収められた短篇集。

日本では最初に堀口大學が紹介して以来、詩人たちのアイドル的存在だったというシュペルヴィエル。聖書のエピソードを膨らませたりアレンジした作品もあれば、ギリシャ神話をモチーフにしているものもあり、フランスの普通の人々を描いた作品もあり、どこか分からない場所の物語もあり、収められている20編はとてもバラエティ豊かです。でもそこに共通しているのは、透明感のある美しさ。どの作品も散文なんですけど、詩人だというだけあって詩的な美しさがありました。
特に印象に残ったのは、大海原に浮かぶ村を描いた幻想的な表題作「海に住む少女」。そして娘の溺死体が海に流れ着く「セーヌからきた名なし嬢」。読んでいると情景が鮮やかに浮かび上がってきます。美しいなあ...。そして驚いたのは、死を感じさせる作品がとても多いこと。大半の作品が何らかの形で「死」を描いてるんですね。「死」そのものというよりも、「生」と「死」の境界線上かも。「死」とは関連していなくても、たとえば「少女」と「女」、「人間」と「人間でないもの」みたいな何らかの境界線上で揺らいでる印象が強いです。それはもしかしたら、フランスと生まれ故郷のウルグアイとの間で揺れ動いていたシュペルヴィエル自身だったのかしら、なんて思ってみたり。
それと思ったのは、作品を自分の方に引き寄せて読むのではなくて、作品の方に歩み寄らなければならないということ。そこに書かれているがままを受け入れ、味わわなければならないというか... 絵画的な美しさが感じられることもあって、まるで静まりかえった美術館で絵画を眺めているような気分になりました。 (みすず書房)

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両親がイギリスを離れる半年間、かつて乳母をしてくれていたベスの家に滞在するためにオールダリーの村へとやって来たコリンとスーザン。到着した翌日、2人は早速近くの「丘」へ。そして帰宅後、ベスの夫に丘の散歩で見た様々なものにまつわる言い伝えを聞くことに。その中には、昔、魔法使いに1頭の白馬を売ることになった百姓の物語もありました。百姓は魔法使いに連れられて洞窟に入り、140人の騎士たちが白馬と共に眠る光景を見ることになったのです。

イギリスのウェールズ地方に伝わる民間伝承を元に書き上げたという作品。その伝承がケルト文学の中に織り込まれている、と訳者あとがきにありましたが、洞窟の中で甲冑に身を固めた騎士たちがいつか戦う日のために人知れず眠っている... というのは、そのまんまアーサー王伝説にもある言い伝えですね。この物語でその騎士たちを眠らせたのは「銀のひたいのキャデリン」と呼ばれる魔法使いなんですけど、これがまるでマーリンみたい。で、このキャデリンは「炎の霜」と呼ばれるブリジンガメンの魔法の宝石の力で騎士たちを眠らせてるんですが、この宝石が紛失してしまうんですね。その辺りからは「指輪物語」と似たような展開になります。コリンとスーザンが入り込んでしまう山中の洞窟はまるでモリアのようだし、同行するのはドワーフ、途中で出会うのはエルフ、そして「黄金の手のアンガラット」はガラドリエルといったところ。(キャデリンはガンダルフみたいだとも言えるし)
壮大な歴史を感じさせる作品なんですけど、やっぱり似ているだけに比べてしまうんですよねえ、「指輪物語」と。そうなると、中心人物たちがどうもイマイチ魅力不足...。とはいえ、「黄金のアンガラッド」や「ギャバランジー」といった、背後にいかにも物語が潜んでいそうな人物もいるんですけどね。
この本では「炎の霜」の奪還の物語だけが語られてるんですが、大きな歴史絵巻の一部分を切り取ったという印象の作品でした。この後のことが、続編だという「ゴムラスの月」で語られることになるのかな。でもあと一冊じゃあ、世界の全貌を見れるところまではいかないんだろうな。(評論社)

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「抒情詩」「童謡」「宗教詩」「譚詩」という見出しのもとに88編を収めた詩集。

先日読んだ「ヴィクトリア朝妖精物語」(感想)に収められていた「妖魔の市」がものすごく良かったので、こちらも読んでみることに~。でもあちらの本の刊行が1990年なら、こちらの本の初版が出たのは1940年。なんと50年もの差があるんです。こちらは当然のように旧仮名遣いだし、全然違っていてびっくり。でも「ヴィクトリア朝妖精物語」の矢川澄子さん訳ももちろんすごく良かったんですが、この旧仮名遣いもクリスチナ・ロセッティの雰囲気にはとてもよく合ってるような気がしますね。訳者による「序」には「譯文の硬軟新古一様ならざるは、その時その折の感懐に従ったまでである。深く咎めざらんことを」とありますし、実際、文語体の訳と口語体の訳が混ざってるんですが、でも口語と言っても当時の口語ですしね。とてもいい雰囲気なんです。こういうの、好き好き♪

クリスチナの姉のフランチェスカはダンテ研究家、長兄ダンテ・ガブリエルは前ラファエル派の画家であり詩人。次兄ウィリアム・マイケルも美術評論家。恵まれた芸術的環境にいたクリスチナは13歳から詩を作り始めたのだそうです。清楚で優しくて透明感があって、夢見るような雰囲気がとても素敵。でも同時に死を思わせるようなものがとても多くて驚きました。幼い頃から病弱だったというクリスチナは、それだけ日常的に死を感じていたのですね。(結果的には、60年以上生きることになるのですが)
あまり現代的な詩は分からない私なので、逆にこういう旧仮名遣いで書かれている方がすんなりと入ってきたりします... 抒情詩なのに(「なのに」というところが問題なんですが)すごく素敵! もちろん物語詩の「譚詩」が一番好みではありましたが~。

そして私は今まで知らなかったんですけど、「童謡」に収められているような詩は、実際に曲がつけられているものも多いみたいですね。西条八十の訳詩で「風」とか。「風」と聞いても歌詞を見ても全然ぴんとこないんだけど、聞いたらどんな曲か分かるのかな...。以下、西条八十の詩です。

誰が風を見たでしょう
僕もあなたも見やしない
けれど木 (こ) の葉をふるわせて
風は通りぬけてゆく

誰が風を見たでしょう
あなたも僕も見やしない
けれど樹立 (こだち) が頭をさげて
風は通りすぎてゆく

私が読んだこの本に載ってるのはまた違う訳なんですけどね... 実はかなり有名な歌ですか??(岩波文庫)

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アイルランド系の詩人・ウィリアム・アリンガムによる詩に、これまたアイルランド系の画家一族に生まれた「妖精国の宮廷絵師」と呼ばれるリチャード・ドイルの絵が添えられた絵本。原書は、イギリスの有名な木版印刷師・エドマンド・エヴァンスが手がけた数々の絵本のうちでも最高傑作とされる豪華本なのだそうです。それが文庫本になってしまうというのが驚きなんですが、このちくま文庫版は絵もカラーだし、小さいながらも美しい本となっています。

詩の方は「夜明け」「昼まえ」「昼のおふれ」「暮れ方近く」「日は暮れて」という5幕の芝居仕立て。妖精の姫君が妖精国の掟によって次の満月には結婚しなければならないというのに、お姫さまは3人の求婚者たちが全然気に入らなくて... という物語詩です。矢川澄子さん訳。でもね、詩そのものはとても可愛らしいんですけど、その合間合間に直接その場面と関係のないイラストと説明文が挟まれてるので、ちょっと分かりづらいんですよね...。原書でもこんな構成だったのかしら。日本語に訳す時にどうにかならなかったのかしら。
ちなみにイラストを描いているリチャード・ドイルの甥があのシャーロック・ホームズシリーズのコナン・ドイルなんですって。コナン・ドイルが画家一族に生まれてたなんて、知らなかったです。(ちくま文庫)

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以下の14編が収められた妖精物語集です。
 「妖魔の市」(クリスチナ・ロセッティ)
 「お目当てちがい」(ジョージ・マクドナルド)
 「魔法の魚の骨」(チャールズ・ディケンズ)
 「四人のこどもが世界をまわったはなし」(エドワード・リア)
 「さすらいのアラスモン」(メアリ・ド・モーガン)
 「いないいない姫」(アンドリュー・ラング)
 「王の娘の物語」(メアリ・ルイザ・モールズワース)
 「王さまを探せ マザーグースの国の冒険」(マギー・ブラウン)
 「妖精の贈り物」(F・アンスティ)
 「壺の中のお姫さま」(ラドヤード・キプリング)
 「ヒナゲシの恋」(ローレンス・ハウスマン)
 「ものぐさドラゴン」(ケネス・グレアム)
 「メリサンド姫 あるいは割算の話」(イーディス・ネズビット)
 「魔法使いの娘」(イヴリン・シャープ)

ジョージ・マクドナルドとメアリ・ド・モーガンの2作は既読です。キプリングも、多分。
今回はクリスチナ・ロセッティの「妖魔の市」が目当てで読んだんですが、これが期待に違わず、ものすごく素敵な作品でした。これは、小鬼たちが売っている美味しそうな果物に毎日のように見とれていたローラは、とうとう自分の金の巻き毛で果物を買って食べてしまい... という物語詩。不気味で、でもものすごく魅惑的で、こういうの大好き! これを読めただけでも、この本を読んだ甲斐があったと言えそう。しかも矢川澄子さん訳だし。でももちろんそれだけではなく、他の作品も楽しかったです~。
19世紀に書かれた作品なので、昔ながらの妖精物語を逆手に取ってるのも結構あって、それが楽しいんですよね。良い子の口から出てくる宝石が実は精巧な偽物だったとか、王さまが政府関係の仕事で毎日出勤してるんだけど、その出勤途中で妖精に出会ったりとか。そんな中で私が特に気に入ったのは「メリサンド姫 あるいは割算の話」。
洗礼の祝賀会っていくら気をつけても結局誰か妖精を呼び忘れちゃうし、呼び忘れた妖精に何かしら呪いをかけられて大変なことになっちゃう。それならいっそのこと祝賀会をやめてしまおうということになるんですけど、逆に妖精全員が詰めかけてきて、お姫さまは「ハゲになる」という呪いをかけられてしまうんですね。王さまが以前教母にもらった願い事をとっておいたおかげで、お姫さまは年頃になった時に髪の毛が生えるように願うことができるんですけど、その願いが「わたしの頭に1ヤードの金髪が生えますように。そして、金髪は毎日1インチづつのびて、切った場合にはその二倍の早さでのびますように」というもの。それってまるでねずみ算? おかげでエラいことになるんです... そして後は、さすがネズビットだわという展開に。(笑)
あと「ものぐさドラゴン」なんかも大好き。ケネス・グレアムは「たのしい川べ」しか読んだことなかったけど、他の作品も読んでみたくなりました。そしてもちろん、王道の妖精物語も収められています。「ヒナゲシの恋」なんてとっても可愛かったな。(ちくま文庫)

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イヴがエデンの園の禁断の木の実を食べたのは、蛇のせいではなく、自分で食べようと決めたから。しかし繊維が多くもったりとした果肉、ぼんやりとした甘さはイヴを落胆させただけ。イチジクを食べたことによって空が落ちることはなく、神の怒りを示す雷鳴が鳴り響くこともなく、自分裸なのに気付いて恥ずかしくなることもないまま、イヴは夜になって顔を合わせたアダムにイチジクを食べたことを告白し、イヴを失いたくないアダムもまたイチジクの実を食べることに。そして翌朝、いい加減待ちくたびれた頃に4人の天使たちがやって来て、2人と蛇、そして動物たちをエデンの園から追い出します。

聖書の創世記、アダムとイヴの楽園追放の物語をイヴの視点から描いた作品。創世記を物語にしたといえば、ミルトンの「失楽園」(感想)もそうなんですけど、あちらは堕天使たちがやけにカッコいいとはいえ、かなり正統派ですしね。こちらはまた全然雰囲気が違っていて面白かったです~。
アダムの最初の妻・リリスがエデンの園にいるというのもすごいなあと思ったんですが、それ以上に面白かったのは蛇のこと。ここに出てくる蛇は、まだ今のような蛇ではなくて、人間のような姿。とても興味深いのです。エデンの園の世話をしているのも蛇ですしね。丁度現代の園芸用品みたいな様々な道具を使いこなして様々な果樹の世話をしてるし、そもそも蛇の家の文化的なレベルの高いこと! しかも蛇はイヴに、まだ起きていないノアの箱舟の話やバベルの塔の話を語って聞かせるんです。世界にはまだアダムとイヴとリリスしかいないというのに、いきなり大勢の人間の話なんてされても、イヴには想像もつかないんですが。(笑) その話の中には、イヴ自身の未来の物語も含まれています。そして蛇はイヴに生きていく上で必要な様々なことを教えるんです。来るべき楽園追放の日に備えるかのように。

この物語は、聖書よりももっと様々なエピソードが語られているユダヤの創造神話からできあがったのだそう。ということで、いくつかオススメの参考文献が書かれてたんですけど、これって全然日本語訳が出ていないのでは...。うわーん、読みたい、読んでみたい! 聖書だけじゃどうしても物足りないとは前から思ってたんですよね。でも私が読みたいのは「タルムード」(ユダヤ教の聖典)みたいなのじゃなくて、もっと神話そのもの。何かいい資料はないかしら。(トパーズプレス)

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ラトモス山麓の羊飼いたちの部族の若き王者・エンディミオンは、狩を好む美しい青年。しかし喜ばしいはずの祝祭の日、エンディミオンは突然気を失うのです。優しく介抱する妹のピオナの腕の中で息を吹き返したエンディミオンが語ったのは、夢の中で出会った月姫と恋に落ちたということ。そしてエンディミオンは、地下と海底、そして天上へと月姫を探す旅に出ることに。

月の女神・セレネがラトモス山中で眠っていた美しい少年・エンディミオンに恋をしたというギリシャ神話のエピソードを元にイギリスの詩人・ジョン・キーツが書いた長編の物語詩です。
さてこのエンディミオンとセレネのエピソードなんですが、アポロドーロスの「ギリシア神話」を繰って探してみたんですが、ごくごくあっさりとしか載ってませんでした。

カリュケーとアエトリオスから一子エンデュミオーンが生れた。彼はテッサリアーからアイオリス人を率いてエーリスを創建した。一説によれば彼はゼウスの子であるという。彼は人にすぐれて美貌であったが、月神が彼に恋した。しかしゼウスが彼にその欲するところを授け、彼は不老不死となって永久に眠ることを選んだのである。

これだけ!
いつもながら、アポロドーロスの「ギリシア神話」はほんとあっさりしてます... 単なる事実(?)の羅列といった感じ。呉茂一「ギリシア神話」には、もう少し書かれてましたけどね。永遠に美しさを保って死の眠りを眠るのと、生きて年老いていくのと、どちらがいいかという選択で、永遠の美を選ぶことになったらしいです。その選択をしたのがエンディミオンなのか、セレネなのか、それともゼウスの意思だったのかというのは明らかではないようでしたが。...ということは、やっぱりエンディミオンはゼウスの子ではないんじゃないかしら。もしゼウスの子だったら、きっともう少し恋人たちに優しい措置になったのではないかと思うし。
でもいずれにせよ、ギリシャ神話の中ではとても短いエピソードなんですよね。これがこんなに長くて美しい物語になってしまうとは...。でもギリシャ神話がイメージの源泉となるのは、ものすごく分かる気がします。「エンディミオン」には、エンディミオンの妹など、ギリシャ神話には出てこない人物も登場するんですが、基本的に神話の中の人物やエピソードがいっぱいで、ものすごく私好みな雰囲気です。

そしてこの本、訳が古い文体だったのでした。訳者あとがきをみたら、日付が昭和18年になっていてびっくり。冒頭はこんな感じです。

美しきものはとこしへによろこびなり、
そのうるはしさはいや增し、そはつねに
失せ果つることあらじ。そは常に吾らのために
靜けき憩ひの木陰を保ち、又うましき夢と
健康と靜かなる息吹とに滿つる眠りを保たむ。

さすがに意味がさっと頭の中に入ってこなくて、同じところを何度も読み返してしまいましたが...! こういう訳で読めて良かったです。何といっても美しい...。キーツの詩の雰囲気にぴったりだし、目の前に美しい情景が広がります。こういうのは新訳では読みたくないです。読むのには苦労するけど、こういう訳の方が好き!
あ、でもこの本も青柳いづみこさんの「水の音楽」から読みたくなった本なんですが... 肝心の「水の女」についてどういう風に書かれていたのか、すっかり忘れちゃってます、私。(汗) この作品にも確かに「水の女」は出てくるんですけどね。河の神・アルフェイオスと泉のニンフ・アレトゥーサのエピソードとか。そういうニンフの話だったかしら。それともセレネに恋されたエンディミオンだけど、実は水のニンフとの間に子供がいたった話だったかしら? ついこの間読んだばかりなのに、ダメダメだわー、私ってば。でも水の女よりも海底に差し込む月の光の方が印象的だったなあ。(岩波文庫)

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アウレリャーノ・ブエンディーア大佐が子供の頃のマコンドは、澄んだ川が勢い良く落ちていく川のほとりに、葦と泥づくりの家が20軒ほど建っているだけの小さな村。毎年3月になるとぼろをぶら下げたジプシーの一家がやってきて、アウレリャーノの父のホセ・アルカディオ・ブエンディーアが母・ウルスラの反対を押し切って、なけなしの金で不思議な道具を買い込むのが常。当初は若き族長として村の発展のために尽くしたホセ・アルカディオ・ブエンディーアは、いつしか家の仕事も子供の世話もせず、ジプシーのメルキアデスに贈られた錬金術の工房に篭りきりの生活を送るようになっていたのです...

読もう読もうと思いつつ、ラテンアメリカ文学にはちょっと苦手意識があってなかなか手に取るところまではいかなかったんですが、ようやく読めました。いや、これを読んでもやっぱりラテンアメリカにはまだまだ慣れないなあという感じなのだけど... でも今なら寝かせ中のボルヘスの「伝奇集」が、もう少し読めるようになってるかな? 少しずつ読んでは寝かせてるので、一体いつになったら読み終わるの?状態なんですけど。(笑)

この「百年の孤独」を読み始めて最初に戸惑ったのは、同じ名前の人間が沢山登場すること。ホセ・アルカディオとアウレリャーノがいっぱい! もう半端じゃないです。そしてその2つの名前ほどじゃないけど、ウルスラとアマランタもいっぱい。これは混乱せずにはいられないでしょう。でも、これはわざとだったんですね。親の名前を子供につけるというのは普通にあることでしょうけど、なんでこんなことするんだろう... と、ずっと思いながら読んでたんです。最後まで読んですとんと腑に落ちました。
この作品、途中も十分面白く読んでたんですけど、同時にどこか収まりが悪くて落ち着かない気分もあったんですよね。ちょっと読んでは、また前に戻ってもう一度読み返したくなって仕方がなくて。しかも、先週の後半から週末にかけて全然まとまった読書の時間が取れなかったので、もう全然進まなくてー。でもそうやって「三歩進んで二歩下がる」読書を続けてた甲斐があったのか(笑)、最後の最後でドカンと来ました。いや、すごいな、これは。全てがこの最後のための積み重ねと反復だったのね。なるほど! この100年というスパンがまた素敵。いやあ、面白かったです。濃い話だったわー。

という私が読んだのは旧版。上の書影とリンクは最新版です。1999年度に出た版はレメディオス・バロの表紙が素敵だし作品にも合ってると思うのに、なんで変えちゃったのかな?(新潮社)

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久々に読む「せむしの小馬」。先日祖母の家に行ったので、その時にこの本を持って帰ってきました。これはエルショーフが19歳の時に書いた作品で、色々なロシアの民話を元にロシア語で書かれたという詩。プーシキンや他の詩人たちがこの作品に感心して夢中になったのだそうです。
改めて読んでみると、先日読んだ「ロシア民話集」(感想)にも出てくる物語がいくつも組み合わさっているのがよく分かります。夜のうちに小麦畑をめちゃくちゃにしてしまう馬も、火の鳥も、鯨が飲み込んだ船のことも...。そういった1つ1つの物語よりもこちらの方が断然面白いから、「ロシア民話集」を読んでいてもどこか物足りなさが残ってしまったのだけど。そして私にとって「ばかのイワン」は、これが基本なのかもしれません。トルストイの「イワンのばか」も、子供の頃から好きだったんですけどね。
私の持っているのは岩波少年文庫版ですが、これは絶版。でもお話そのものは、今でもちゃんと読めるようです。ただ訳者さんが違うので、どんな感じなのかは分かりませんが...。岩波文庫版は詩の形で訳してあるんですけど、右の画像の論創社版はきっと散文訳なんでしょうしね。挿絵からして、低学年の子供向けって感じ?
今回読んでいたら「はくらいのぶどう酒」なんて言葉があって、「ああ、舶来という言葉を覚えたのは、この本だったなー」なんて懐かしかったです。そして岩波文庫版の挿絵にはV.プレスニャコフというロシアの画家の版画風の絵葉書が使われていて、そういうのもこの本が好きなところなんですよね。(岩波少年文庫)

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伝えられるところによると、その昔、サンダリング・フラッド(引き裂く川)と呼ばれる大河が大地を分断し、その上流の渓谷地方の東側にウエザメルと呼ばれる農場には両親を早くに亡くし、祖父母に育てられた強く頑丈な少年・オズバーンが住んでいました。オズバーンは生まれながらの詩人であり、しかもわずか12歳の時に羊の群れを襲った狼3匹を殺して、少年闘士としてその近隣では有名な存在となります。そんなオズバーンがエルフヒルドという名の同じ年頃の乙女と出会ったのは、彼が13歳になったばかりの頃のこと。しかしエルフヒルドはサンダリング・フラッドの西側の鹿の森の丘に住んでおり、2人は川越しに様々なことを語り合うものの、川は空を飛ぶ鳥以外の生き物に流れを横切ることを決して許しはしなかったのです。

北欧文学に強く影響を受けて書いたといわれる、ウィリアム・モリスの遺作。
確かに北欧文学の影響を受けているだけあって、まるでサガのような雰囲気を持つ作品。物語全体としてはオズバーンのサガで、オズバーン自身の成長物語と、オズバーンを始めとする男たちの勇壮な戦いが中心。そしてその中に、美しいエルフヒルドとの恋物語も描きこまれているという形。このロマンス自体は中世のイギリス文学にも見られるようなものなんですが、キリスト教圏というよりも北欧圏らしく、若い2人の思いがとてもストレートに描かれてます。
でも、とっても素敵な物語になる可能性が高い作品だったと思うんですが... 日本語訳がどうもとても読みにくくて話になかなか入り込めなかったこと、物語そのものにも推敲されきっていない、あまり整理されていない部分が目についてしまうのが残念でした。途中、エルフヒルドが行方不明になって、そこからはオズバーンの戦いばかりがクローズアップされることになるんですけど、この辺りが少々長すぎて冗長に感じられてしまいましたしね...。しかもオズバーンとエルフヒルドのやっとの再会も、盛り上がり不足。失踪していた間のエルフヒルドの物語を老婆が1人で全て語ってしまうというのも、その大きな要因かな。モリス自身が筆を取ったのではなくて、病床で口述筆記をしたそうなので、ある程度は仕方ないと思うんですけどね。
この老婆や2人に贈り物をする小人、そしてスティールヘッドなどの人物についても、最後に明かしてもっと盛り上げて欲しかったところです。モリスにもっと時間があれば良かったのに、残念!(平凡社ライブラリー)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス
「アイスランドへの旅」ウィリアム・モリス

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バーダロンは、幼い頃に魔の森の魔女にさらわれて、奴隷として育てられた少女。日々の忙しい仕事をこなしながら、時間ができると湖や森で過ごしていました。そして17歳になった夏、美しく成長したバーダロンは森のオークの木の下で見知らぬ女性に出会ったのです。鏡を覗いたことのないバーダロンには分からないものの、その女性・ハバンディアはバーダロンに瓜二つ。彼女は森に住む聖女でした。2人はすぐに親しくなり、バーダロンはやがてハバンディアに授かった知恵により、魔女の小船に乗って魔女の元から逃げ出すことになります。

「ジョン・ボールの夢」「ユートピアだより」は、ファンタジーながらも社会主義的思想が色濃く出てた作品なんですが、これは「世界のはての泉」や「輝く平原の物語」系列の中世風ロマンス。やっぱりこういう作品が好きだなあ。話の筋書き云々というより、この世界の雰囲気がほんと好きなんですよね。魔女の元を逃げ出したバーダロンが、「無為豊穣の島」「老若の島」「女王の島」「王の島」「無の島」と魔法の小船で巡る不思議な島々の様子は、まるで「ケルトの古歌『ブランの航海』序説」(感想)にも載っているようなケルトの古い航海譚のよう... そしてたどり着く「探求の城」は、アーサー王物語の世界のよう。ウィリアム・モリスがこの辺りの作品を読んでないとはまず考えられないので、おそらくその辺りを踏まえてるんでしょう。
でも、それ以外には不思議な部分が多々目につきました。まず、バーダロンは魔の森の魔女の元で奴隷として育てられてて、その生活をすごく嫌がってるんですけど、「奴隷」という言葉から想像するような生活ぶりとは思えないんですよね。魔女はバーダロンをたっぷり食べさせてるし、酷く折檻することもないようだし、バーダロンの仕事というのは森の中で生きていくために必要な日々の基本的な仕事みたい。バーダロン自身、かなりの自由時間を持っているようです。もちろん魔女が邪悪で、いずれ邪悪な目的に利用されるだろうというだけでも嫌う理由としては十分なんですけど(自分が幼い頃に母親の元から攫われたというのは、バーダロンにとってさほど重要な問題でないらしい)、その邪悪な目的というのも特に具体例が挙げられてるわけじゃないので、魔女の言いなりに嫁がされる程度のことのように思えるし。(それが嫌な相手だったら、もちろんものすごく嫌なことなんですが) それと、魔女の元から逃げ出してたどり着いた無為豊穣の島で、囚われている3人の貴婦人に出会うんですが、その3人の恋人たちを探して連れて来て助ける約束をするのはいいんですけど... その3人の恋人たちに実際に会えた時に3人が3人ともバーダロンに一目惚れしちゃうんです。最初の2人はそれでも流せる程度なんですけど、一番親切にしてくれた貴婦人の恋人とは決定的に両思い。いくらバーダロンが世間知らずだからって、これはマズイでしょー。しかも城中の男たちが皆揃いも揃ってバーダロンの美貌に心を奪われてしまうんです。神に純潔を誓っているはずの司祭までもが。それをバーダロンは何気に利用してたりして... 美人だったら何でもアリなのかーっ。

基本的には中世来の物語の形式に則ってるのに、そこから意図的に外されたらしい部分もすごく目につく作品。ものすごーく楽しめたし、こういう作品は大好きなんですけど、つきつめて考え始めると不思議な部分もいっぱい。きっと私には読み取りきれてない部分があるんでしょうけど... 誰か解説プリーズ。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス
「アイスランドへの旅」ウィリアム・モリス

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キャンディは、ミネソタ州のチキンタウンで生まれ育った少女。チキンタウンの歴史について調べた宿題が原因でひどく怒られたキャンディは、この2日ほど心の中でうねっていた海の波に呼ばれるように、そのまま学校を飛び出してしまいます。そして辿り着いたのは、朽ち果てて骨組みを遺すばかりの塔がそそり立っている場所。そして出会ったのは、ジョン・ミスチーフとその7人の兄弟。ミスチーフたちは何者かに追われており、ミスチーフに頼まれたキャンディは、言われるがままに灯台だというその塔に登り、火を入れることに。そして火がついた時、どことも知れない虚空の果てから、怒涛の海が打ち寄せてきたのです。

アバラット4部作の1作目だそうです。1冊ずつで完結してるのかと勝手に思い込んでたんですけど、思いっきり続き物だったんですね...。完結してから読めば良かったな。
突如現れた海の向こうには、「正午の島」から「25時の島」までの25の島々が浮かぶ世界があって、それぞれの島には人間だけでなく様々な異形の存在も... というアバラットの世界を舞台にした冒険ファンタジー。この辺りの設定は巻末の「『クレップ年鑑』抜粋」に書かれていて、この年鑑抜粋がかなり好みでした。でも、話は重厚だし、キャンディが実際に異世界に行く方法も面白かったし、アバラット側の登場人物もそれぞれに強烈(1人ずつの人物の過去のエピソードだけでも1冊書けそうなぐらい!)なんですが... うーん、実際に読んでる間はイマイチ入りきれなかったかな。「『クレップ年鑑』抜粋」を先に読んでいれば、また違ったのかもしれないんだけど... なんだか文字を目で追うだけの読書になってしまいました。私が読んだ文庫には挿絵がないんですけど、ハードカバーには著者自身による挿絵がたっぷり使われているそうなんですよね。そちらを読んだ方が異世界や異形の存在を理解しやすかったかも。
それとは関係ないんですが、元々児童書として出てる本にしては翻訳の文章が大人向けな感じでちょっとびっくりでした。いや、全体的には読みやすかったんですけど、時々あれ?と思うような単語や言葉遣いがふいっと出てきて、そのたびにびっくりするんですよね。まあ、それもまた雰囲気作りに一役買ってる気がしますが。(ヴィレッジブックス)

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フェヴァーズは、「下町のヴィーナス」とも「綱渡りのヘレン」とも呼ばれる、当代随一の空中ブランコ乗り。「彼女は事実(ファクト)か、それともつくり物(フィクション)か?」というキャッチフレーズで世間の評判になっていました。その晩、ロンドンでの公演を終えたフェヴァーズにインタビューにやって来たのは、アメリカ人の若い新聞記者・ウォルサー。フェヴァーズはインタビューで、自分はトロイのヘレンのように白鳥の卵から孵ったのだと言います。実際、その肩の後ろには途方もなく大きな羽がありました。すっかり彼女とその数奇な物語に魅了されたウォルサーは、フェヴァーズの取材を続けるために彼女の所属するサーカスに道化として入り、巡業に同行することに。

これは「ワイズ・チルドレン」のような、猥雑なショービジネスの世界を舞台にした作品。物語の中心となっているフェヴァーズは、天使のような羽を持ってるんですけど、その実態は天使からは程遠くて... 実は相当の大女だし、言葉は下町訛り。大酒飲みだし下品だし、楽屋には臭いの染み付いた下着やストッキングが散乱。それを若い男性に見られても動じるどころか、逆に相手の反応を見て楽しむ始末。でも彼女の語る生い立ちの話は面白い! 道端に捨てられてるところを売春宿の女性に拾われて、そこで育てられたことや、やがて肩から翼が生えてくると、売春宿では勝利の女神ニケの彫像のように館の中に立つことになったこと。そしてその売春宿がなくなった後は、フリークスが集められた館へ。
第1部の「ロンドン」で語られるのはそんなフェヴァーズのこれまでの人生で、第2部の「ペテルブルク」になると、ウォルサーがフェヴァーズを追ってサーカスに入るので、2人の関係を中心に話が展開すると思ったんですが... どうもちょっと違ったみたい。確かにフェヴァーズは常に中心にいるんですけどね。最後まで読んだ時に浮かび上がってきたのは、様々なフリークスたちの存在。そんな人々の存在がグロテスクでありながらも、幻想的で美しい情景になってました。
でも、「ワイズ・チルドレン」の面白さには及ばなかった気もするのだけど、これもとても良かったです。特に第1部が一番面白かったな。(国書刊行会)


+既読のアンジェラ・カーター作品の感想+
「ワイズ・チルドレン」アンジェラ・カーター
「魔法の玩具店」アンジェラ・カーター
「夜ごとのサーカス」アンジェラ・カーター
「血染めの部屋 大人のための幻想童話」アンジェラ・カーター

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アギオン帝国が中心に、様々な部族がその帝国を取り巻くロールの世界。キアスは燃えるような赤い髪をした15歳の少女で、西の谷にあるモールの神殿の巫女見習い。いつかは偉大な巫女になりたいと思いつつも、退屈な勉強や、先輩の巫女に気に入られようといい子ぶる見習い巫女たちに我慢ができず、授業を抜け出しては、モールの林の中にある、ひときわ大きい木ののうろに入ってばかりいました。その木は300年前の大巫女・マシアンの木。女の子が生まれるとモールの木の苗木を植えるモールマイ族にとって、モールの木は生まれた子の<根>であり、生まれた子はその木の<寄生木(やどりぎ)>。巫女の呪歌によって結び付けられた<根>と<寄生木>は、片方が育てばもう片方も育ち、どちらかが死ねばもう片方も死ぬという関係。マシアンの木がまだ生きているということは、マシアンもまだ生きているということ。呼び出しの儀式に失敗して巫女になれなかったキアスは、マシアンを探す旅に出ることに。

海外作品に負けない骨太のファンタジーを書く日本人作家さんは何人かいますが、浜たかやさんもその1人でしょうね。これはロールという架空の世界を舞台に繰り広げられるファンタジー。世界の成り立ちの神話も詳細に描かれていて、世界観がとてもしっかりしていました。それぞれの部族ごとに信奉する神がいて、独自の歴史やしきたりがあるという部分とかもさりげなく、でもきちんと描かれてていいなあ。こういうの好き~。最近のファンタジー作品にはあまり書き込まない傾向があるのかもしれないけど、私はやっぱりこんな風にじっくりと作りこまれて、丹念に描かれてる方が好き。脇役もそれぞれに魅力的で、とても楽しめました。
ただ、序盤~中盤に比べると、終盤はやや失速しているような... というか、ちょっと書き飛ばされてしまったような。じっくり書いて欲しいところがやけにあっさりしてるし、特にせっかくマシアンが登場しても、マシアンなら語って聞かせられる部分がほとんど語られずに終わってしまったし。それに「龍使い」という題名の割に、全然龍を使ってないし! 名前に関しても、結局ただの偶然だったのかなあー。せっかくの作品なんだから、その辺りも丁寧に書いて欲しかったな。そんなことになったら、ただでさえ分厚い本がさらに分厚くなってしまうんですけどね。すごくいい作品なだけに、その辺りだけがちょっぴり残念。(偕成社)

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その国の総理大臣・美留楼公爵の末娘・美留女姫は物語に夢中で、常に新しい珍しい物語を聞きたいと思っている姫。しかし世の中そうそう新しい物語などありはしません。ある日、道行く人々の身の上話を聞くために街に出た美留女姫は、銀杏の木の下で「白髪小僧と美留女姫」という本を見つけ、それを読みながら歩いているうちに川に落ちてしまい、白髪小僧と呼ばれる乞食小僧に助けられます。美留楼公爵は白髪小僧にお礼をしたいと思うのですが、白髪小僧は何をもらってもニコニコとしているだけ。美留女姫は、白髪小僧にはどんなお礼をしても無駄だと言い、その理由は全てこの本に書いてあると、持っていた本を読み上げることに... という「白髪小僧」他、全19編の童話集。

夢野久作作品を読むのは、「ドグラ・マグラ」以来です。「ドグラ・マグラ」も、途中までは面白かったんですけど、後半の「ちゃかぽこ」が苦手でどうにもならなくなってしまって... 最高傑作とされる作品がこれじゃあ、もう2度と夢野作品を読むこともないだろうと思ってたんですよねえ。でも先日の第38回たら本 「何か面白い本ない?という無謀な問いかけに答える。」でAZ::Blog はんなりとあずき色☆のoverQさんが「白髪小僧」を挙げてらして(記事)、あんまり面白そうなので読んでみることに。私のファンタジー的バイブルである石堂藍さんの「ファンタジーブックガイド」にも挙げられてて、題名だけは知ってたんですよね。

夢野久作が書いた童話は141編にも及ぶんだそうで、ここに収められているのは19編。どれもデビュー前の大正年間に書かれたものなんだそうですけど、それぞれに面白くて(読みやすくて)びっくり。あの「ちゃかぽこ」は一体何だったんだ...?! 状態。(笑)
でもやっぱり、この中で一番読み応えがあったのは「白髪小僧」ですね。この1冊の半分近くを占めている、最早長編と言った方がいいような作品です。白髪小僧と美留女姫の出会いは既に物語として本に書かれていた... という枠物語なんですけど、中の物語が外側の枠よりも大きくなってしまって、結局どちらが枠なのか分からなくなってしまうんです。白髪小僧は、実は藍丸国という国の王様だったとして、その藍丸国の天地創造的なお話も入っていて、どうやら別世界らしいと分かるんですけど、そこには美留女姫と瓜二つの美紅という公爵令嬢がいて、さらにはこれまた瓜二つの美留藻という海女がいて、お互いにお互いのことを夢に見ていて...
...とまあ、そんな物語なんですが、結局未完のまま終わってます。解説には「失敗作であるがゆえに傑作となりえた稀有な作品である。」とありました。確かに収拾をつけられなかったという意味では失敗作なのかもしれないですけど、でもこれはほんと、無理に収拾をつけようとして、こじんまりとまとまったりしなかったところがいいんでしょうね。書いた夢野久作は不本意だったかもしれないし、読んだ人は無限ループの罠に落ち込んでしまうんですけど...(笑) でもこれはすごい。裏返される感覚が堪りません。今の時点で2度読んだんですけど、もうちょっと何度か読み返してみたいです。やっぱり「ドグラ・マグラ」よりもこちらから入るべきだったな~。(ちくま文庫)

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オリュアルとレディヴァルとイストラは、シュニット川の左岸に都を持つグローム国の王の3人の王女。オリュアルは醜く、それとは対照的に、イストラは生まれた時からまるで女神のような美しさ。オリュアルはイストラをこよなく愛し、彼女の世話に心血を注ぎます。しかしそのあまりの美しさが災いして、イストラは灰色の山の神に献げられることになるのです。オリュアルはその晩年、灰色の山の神を糾弾するために、巻物にその時の出来事を逐一書き記し始めます。

アプレイウスの「黄金のろば」(感想)の中のキューピッドとプシュケーのエピソードを使って、C.S.ルイスが描き出した物語。このエピソードは、エロール・ル・カインの絵本「キューピッドとプシケー」(記事)でも独立して取り上げられていたし、ギリシャ神話の本には大抵入ってるのではないかと思います。プシュケーのあまりの美しさに人々がアフロディーテのことをないがしろにするようになって、女神を怒らせてしまうという物語。この物語の舞台となるグロームの国の人々はアフロディーテに当たるウンギットという神を信仰していて、その息子に当たる灰色の山の神がキューピッド。そして王家の末娘イストラの名をギリシャ語にするとプシュケーです。

「黄金のろば」の中で語られていたのは、妹プシュケーの良い暮らしぶりに嫉妬した姉たちが、プシュケーにランプで夫の顔を見るようにそそのかしたというもの。この物語でも、実際に途中でそういう神話が語られます。でもそれは、プシュケーの姉・オリュアルの目から見た真実とはまるで違うものなんですね。オリュアルが探し当てたプシュケーは壮麗な宮殿や贅沢な調度品、美しい衣装の話をするけれど、オリュアルにはも何も見えず、そこには露天で自分の手に湧き水を汲んでオリュアルに飲ませる、ボロを着たプシュケーがいるだけ。...でもオリュアルにも本当は分かっていたんですね、きっと。オリュアル自身が信じたくなかっただけ。結局のところ、オリュアルは嫉妬していただけなんでしょう。でもそれはアプレイウスの物語の中にあるような俗物的な嫉妬ではなく、愛するプシュケーを神に取られたくないという思い。
この作品ですごいと思ったのは、神の姿。今まで神話やその類の物語を沢山読んできましたけど、これほど神々しい神は初めてでした。本来、神々とはこうあるべきと思える姿がこの作品の中にはあります。素晴らしい! オリュアルはプシュケーを心の底から愛していたけれど、それは所詮人間的な愛情だったんですねえ。もうレベルが違いすぎるというか何というか。
そして、女性が深く描きこまれている作品でもありました。晩年には結婚したけど、ルイスはずっと女嫌いとして独身生活を送っていたと聞いた覚えがあるのだけど... そうではなかったのかしら? 先日「サルカンドラ」を読んだ時も感じたけど、この人、本当は女性をとてもよく知ってたんですね。

私が読んだのは、みすず書房から出ている「愛はあまりにも若く」なんですが、平凡社ライブラリーで改題改訳版が出てました。「愛はあまりにも若く」という題名、好きなんだけどな... でも新しい題の方が原題に忠実です。(みすず書房)


+既読のC.S.ルイス作品の感想+
「マラカンドラ」「ペレランドラ」C.S.ルイス
「サルカンドラ」C.S.ルイス
「顔を持つまで 王女プシケーと姉オリュアルの愛の神話」C.S.ルイス
「悪魔の手紙」C.S.ルイス
「喜びのおとずれ C.S.ルイス自叙伝」C.S.ルイス
「カスピアン王子のつのぶえ」他 C.S.ルイス

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北東部でもとりわけ裕福な都・バクシャーンで、商人たちに雇われたエルリックとムーングラム。依頼は、商人たちの中でも特に羽振りが良いニコーンという男を除きたいというもの。ニコーンの後ろにセレブ・カーナがいると聞いたエルリックは、その仕事を請けることに... という「魂の盗人」、他3編。

エルリック・サーガ4冊目。
エルリック・サーガの最初の作品「夢みる都」が1961年の作品。ここに収められた4編の中で一番遅く書かれたのは表題作の「ストームブリンガー」で、これは1964年の作品。この表題作で一旦エルリック・サーガが終わってます。「メルニボネのエルリックのサーガ、ここに終わる」 ...エルリックサーガって、わずか3年で終わってたんですねー、びっくり。で、5巻からが今世紀に入ってから書かれたという作品なんですね。
この世界は「法」と「混沌」によって支配される世界。「法」は正義や秩序をもたらすけれど、同時に停滞をもたらすものであり、「混沌」は可能性を秘めてはいるけれど、同時に世界を恐怖と破壊の地獄にしてしまうもの。この2つの勢力のバランスが釣り合っていてこそ上手くいく、というのが面白いです。天使と悪魔みたいな関係じゃなかったのか! 「混沌」も、必ずしも悪いばかりじゃないんですね。エルリックは、この「法」と「混沌」の争いにまともに巻き込まれてしまいます。今回、エルリックもようやく人並みの幸せを手にいれることになるんですが、それがあるだけにラストが一層悲劇的でした。最後は北欧神話のラグナロクを思わせるような終末戦争。まさかここでローランだのオリファンだのデュランダーナの名前をここで見ることになろうとは。(笑)
とりあえず区切りがいいので、エルリック・サーガは一休みして、ムアコックのほかのシリーズにも手を伸ばしてみようかと思います。本当は紅衣の公子コルムに興味があるんだけど、復刊にはまだもう少し待たないみたい。となると、「ルーンの杖秘録」の4冊か、エレコーゼ・サーガの2冊。どっちにしようかな、やっぱり発表順で「ルーンの杖秘録」の方が順当かな...?(ハヤカワ文庫SF)


+シリーズ既刊の感想+
「メルニボネの皇子 永遠の戦士エルリック1」マイクル・ムアコック
「この世の彼方の海 永遠の戦士エルリック2」マイクル・ムアコック
「暁の女王マイシェラ 永遠の戦士エルリック3」マイクル・ムアコック
「ストームブリンガー 永遠の戦士エルリック4」マイクル・ムアコック

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宿敵・セレブ・カーナを追ってロルミール入りするものの、キマイラたちに襲われるエルリックとムーングラム。そして辿り着いた無人の城の中には、かつてエルリックが殺した許婚のサイモリルと似た女性が眠り続けていたのです... という「暁の女王」と、ムーングラムと別れてタネローンを出たエルリックは、竜に連れていかれた都市の廃墟で父の亡霊と出会い、父が最愛の妻の元へと行けるようにするために異次元でローズウッドの箱を探すことに... という「薔薇の復讐」の、エルリック・サーガ第3巻。

前巻でコルムが語っていた、エルリックとエレコーゼと共に、ヴァアロディオン・ガニャディアックの塔で闘ったという話が、こんなに早く読めるとは! エルリックにとっては、「暁の女王マイシェラ」でのエピソードの1つだったんですね~。これは、早くコルムとエレコーゼ側の話も読んでみたいなあ。ええと、ホークムーンは登場してませんでしたが、ルーンの杖は登場してました。(笑)
エルリックの世界は、<法>と<混沌>が治める世界。でもエルリックは<混沌>側、エルリックに助けを求めるマイシェラは<法>側、そのマイシェルを脅かすセレブ・カーナとウムブダ王子は<混沌>側。エルリックとセレブ・カーナは共に<混沌>側だというのに敵対してるし、かなり入り組んでます。ナドソコルという町でエルリックを襲ってくるのは<混沌側>の神で、絶体絶命のエルリックを助けるのは<法>の神だし... 最後には自分のお気に入りのシモベを助けるべく、<混沌>のアリオッホが登場するんですけどね。しかも次元が違うと神々のパワーバランスもまた違ってくるようで... そういった部分が、だんだん見えてきました。「薔薇の復讐」でも多元宇宙に関する哲学的な議論が繰り広げられて、その辺りはちょっと難しいです... でも全部読み終わった時にまたここに戻ってくれば、きっとここに書かれていることがものすごく分かるのではないかと思うんですよね。なので、今は書いてあるまま受けとめておくだけで良しとしましょう。(ハヤカワ文庫SF)


+シリーズ既刊の感想+
「メルニボネの皇子 永遠の戦士エルリック1」マイクル・ムアコック
「この世の彼方の海 永遠の戦士エルリック2」マイクル・ムアコック
「暁の女王マイシェラ 永遠の戦士エルリック3」マイクル・ムアコック
「ストームブリンガー 永遠の戦士エルリック4」マイクル・ムアコック

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小学校6年生のたかしと小学校3年生の妹のゆうこは、家の壁にかけてある剥製のトナカイの首を見ているうちに、まるでその首が魔法にかけられているような気がしてきます。そして「この魔法をといてあげたらすごいんだけど!」というゆうこの言葉に、たかしは映画で見たいくつかの場面を思い出しながら、呪いを解くような言葉をできるだけ厳かに唱えてみることに。するとその時、トナカイのガラスの瞳の奥で炎が揺れたのです。炎はたちまち瞳いっぱいに広がり、鼻は火のように熱い息を吐き出します。たかしは咄嗟に持っていたロープを枝角にかけるのですが、トナカイに恐ろしい力で引きずられ、しがみついたゆうこもろとも壁穴に引っ張り込まれてしまい、気がつけば一面の枯野に取り残されていました。

子供の頃から気になって何度も手に取ってはいたんです。題名がいかにも私好みそうで。でも表紙や挿絵があまり好みじゃなくて、結局書架に戻してたんですよね。でもどうやらファンタジーを語る時に欠かせない傑作のよう。なので今だにもひとつそそられないままだったんですけど(笑)、読んでみました。
いやあ、とても骨太な作品でびっくりです。端的に言えば、青イヌとトナカイの戦いの物語。でも、きっと無意味な殺戮を繰り返す青イヌは敵側なんだろうな、というのは分かるんですけど、本当にトナカイ側が善で青イヌ側が悪なのかは、読んでいてもなかなか確信が持てないんですよね。読者が確信を持てなければ(って、分かってなかったのは私1人かもしれないんですが)、主人公のたかしやゆうこも当然分からないわけで...。突然知らない世界に放り込まれた2人は、どちらが信じられるのか自分自身で感じなければならなくなります。トナカイにはトナカイの論理があり、青イヌには青イヌの論理があるんです。もしこの物語で2人が最初に出会ったのが青イヌ側だったら、話の展開は全然違ってしまっていたかも。話としてはC.S.ルイスのナルニアに構造的にかなり似てると思うんですけど、善悪二元論にならないところがナルニアと違う... というか、日本の作品らしさなのかな。日本にも善悪二元論の作品は沢山ありますけど、敵にも言い分はあるって話も多いですよね。
文明社会の中で生き抜くのも大変だけど、大自然の中を生き抜くのはそれよりも遥かに過酷なこと。どうしても動植物を問わず他者の命を奪わなければ、自分自身が生きていくことはできないわけです。でも奪った命を尊厳を持って扱うかどうかが問題なわけですね... という部分で中沢新一さんのカイエ・ソバージュシリーズを思い出してしまいました。全5冊のうち、3冊で止まってるんです... 読まなきゃ!
読む前はなんとなくアイヌのイメージを持っていた作品なんですが、作者の神沢利子さんは幼少時代に樺太(サハリン)で暮らしていたのだそう。この雪と氷が果てしなく続く大地のイメージは、そちらのイメージだったんですね。(福音館文庫)

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日常&読んだ本logのつなさんが読んでらして、気になった本。(記事) 宮澤賢治作品といえば、本当に有名どころしか読んでないのに大丈夫かしら、という心配もあったんですが、結果的には全然問題ありませんでしたー。良かった。知らない本が沢山出てくると「読みたい、でも読めない」で妙に苦くなることがあるんですけど、この本はそれほど作品を知らないながらもとても楽しめたし、穏やかに「ああ、また今度改めて読んでみよう」という感じ。もちろん、紹介されてる本が読みたくてうずうずするようなのもいいんですけどねー。今の私の気分にはちょっとツラいので。で、この本の表紙を見た時に「迷宮レストラン」(感想)を思い出したんですけど、数々の料理が鮮やかな写真で紹介されていた「迷宮レストラン」(とても綺麗でした!)とは一味違って、こちらは表紙と同じ出口雄大さんの挿画がとても柔らかくて、これも素敵でした。
後に菜食主義で粗食になってしまう宮澤賢治ですが、意外とハイカラで贅沢で新し物好きだったんですね。育ったおうちもなかなか裕福だったようですし。言われてみたら、確かに裕福な生活を知らなければ書けないような部分も多かったなあと思うんですが、実際には「雨ニモマケズ」のイメージが強いのでちょっとびっくりでした。生前には作品は全然売れなかったと聞いてましたしね。今は当たり前のようにあっても、当時はきっと贅沢だったりハイカラだったりしたんだろうなあというものや、その頃の日本人はあまり好まなかったという食べ物がいっぱい登場します。食に対する冒険心があった人なんですね。例えば「ビフテキ」「サンドヰッチ」といった言葉からも、そんなハイカラな雰囲気が伝わってきますね。そして忘れちゃいけないのは、幻想的な食べ物や飲み物。「チュウリップの光の酒」、飲んでみたーい。

そしてこの本を読んでいて一番読みたくなった宮沢賢治作品は、「十力の金剛石」。角川文庫版「銀河鉄道の夜」に入ってたので、これだけは読んでみました。これは、王子が大臣の子と虹を追いかけるうちに一面の宝石の世界に迷い込む話。ここではトパァズやサファイアやダイアモンドの雨が降り、野原には天河石(アマゾンストン)の花に硅孔雀石(クリソコラ)の葉を持つりんどう、猫睛石(キャッツアイ)の草穂、かすかな虹を含む乳色の蛋白石のうめばちそう、碧玉の葉に紫水晶の蕾を持つとうやく。琥珀や霰石(アラゴナイト)の枝に真っ赤なルビーの実を持つ野ばら。それだけ美しい場所なのに、草も花も「十力の金剛石」がまだ来ないので「かなしい」と歌うんですね。みんなが待ち望む「十力の金剛石」とは一体何なのか...
宝石の場面もワクワクしますし(漢字で書く宝石名が、また好みなんです♪)、その後の優しい情景もとても素敵です。(平凡社・角川文庫)


+既読の宮澤賢治作品の感想+
「宮澤賢治のレストラン」中野由貴 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治
「注文の多い料理店」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」宮沢賢治
「ざしき童子のはなし」「よだかの星」「風の又三郎」「水仙月の四日」宮沢賢治・伊勢英子

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エルリック・サーガの第2巻。エルリックが3人の永遠の戦士たちに出会う「この世の彼方の海」、エルリックサーガはここから始まった!「<夢見る都>」、そして初期の「神々の笑うとき」「歌う城砦」を収録。旧版では「この世の彼方の海」と「白き狼の宿命」の2冊だったものが、1冊になったもののようですね。

2巻を読み始めてすぐに、エレコーゼ、コルム公子、ホークムーンという名前が登場してびっくり。これってマイクル・ムアコックの他のシリーズの主人公たちじゃないですか! エルリックを含めたこの4人は「四戦士」、<一なる四者>であり、以前にも邂逅があった模様。コルムがエルリックに、「ヴァアロディオン・ガニャディアックの塔」でエレコーゼと一緒に闘ったという話をするんです。エルリックもエレコーゼも「そんなことを言われても」って感じで、コルム公子は未来の世界から来たんだろうという話に落ち着くんですが...。その話はきっと別の作品で読めるんでしょうね。このシリーズの日本語訳は時系列順に作品が並べられているそうなんですけど、「この世の彼方の海」という作品は、実際にはかなり後になってから書かれたようですし。マイクル・ムアコックの世界の奥行きの深さを予感させる作品で、これはぜひとも他のシリーズも読まなくちゃ!って気になってしまいます。
ということで、以下覚書。

エルリック・サーガ...「メルニボネの皇子」「この世の彼方の海」「暁の女王マイシェラ」「ストームブリンガー」「夢盗人の娘」「スクレイリングの樹」「白き狼の息子」
ルーンの杖秘録...「額の宝石」「赤い護符」「夜明けの剣」「杖の秘密」(ホークムーン)
ブラス城年代記...「ブラス伯爵」「ギャラソームの戦士」「タネローンを求めて」
エレコーゼ・サーガ...「黒曜石の中の不死鳥」「剣のなかの竜」
紅衣の公子コルム...「剣の騎士」「剣の女王」「剣の王」「雄牛と槍」「雄羊と樫」「雄馬と剣」

これで合ってるのかしら...
エルリックとルーンの杖秘録は復刊済み、ブラス城年代記とエレコーゼは復刊途中、コルムはこれから? 全部読むとなったら相当な冊数になりそうですが。
この2巻で、エルリックの世界観に引き込まれる人が沢山いる、その魅力がよく分かったような気がします!(ハヤカワ文庫SF)


+シリーズ既刊の感想+
「メルニボネの皇子 永遠の戦士エルリック1」マイクル・ムアコック
「この世の彼方の海 永遠の戦士エルリック2」マイクル・ムアコック
「暁の女王マイシェラ 永遠の戦士エルリック3」マイクル・ムアコック
「ストームブリンガー 永遠の戦士エルリック4」マイクル・ムアコック

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ある日怪物のように大きな海豹に出くわした漁師は、重い銛を首のすぐ下に打ち込みます。しかし海豹は血走った目で漁師を禍々しく睨んだかと思うと、海に飛び込んで姿を消してしまったのです... という「漁師とドラウグ」他、全11編が収められた短編集。

先日ノルウェー民話の「太陽の東 月の西」を読んだ時に、日常&読んだ本logのつなさんに教えて頂いた本。(私の感想と、つなさんのこの本の記事はコチラ) ノルウェーといえば、それこそ「太陽の東 月の西」の編者アスビョルンセンぐらいしか知らなかったんですけど、ヨナス・リーはノルウェーの国民的作家なのだそう。海と漁師の現実の生活を描いたものや、民間伝承を元にした作品を多く書いているそうで、この本は後者の方ですね。ただ、民間伝承を元にしているとは言っても、ヨナス・リー自身の筆がかなり入っているようです。まさに民話といった素朴さが魅力の「太陽の東 月の西」に比べると、つなさんも書いてらっしゃいましたけど、こちらは物語としてかなり洗練されてる感じがしました。
ノルウェーの民話といえばトロルがいるんですけど、この作品に登場するのはドラウグという海の魔物。私は初耳だったんですが、これもノルウェーならではの存在なんだとか。姿は様々で、ある時は「漁師とドラウグ」で登場したように海豹そっくりの顔で、口が耳まで裂けていたり、別の時は船乗りの服を着ているのに頭がなくて、その代わりに海草の塊を載せていたり。頭がないせいか、帽子を深く被っていることも多いみたいです。なんとも気持ちの悪い存在のようですね... そして、姿は変わっても、「海でドラウグに出会った者は近いうちに溺れて死ぬ」というのが共通点。こういうのは、やっぱり北の海にこそ相応しい気がします。南の海にいたとしても怖いと思いますけどねー。雰囲気がまた全然違ってきちゃう。

幻想的だったり怪奇的だったりと、どの物語も北欧の雰囲気がたっぷりでそれぞれに面白かったですが、11編の中で特に気に入ったのは、ラップ人の少女といつも一緒にいた少年の物語、「ラップ人の血」。ラップ人の少女の家族は不思議な物語を沢山知っていて、少年は両親に禁じられてたにも関わらず、そこの家にいつも遊びに行くんですね。そうか、ラップ人って差別されていたのか... なんてところに無知な私なんですが、確かにラップ人といえば精霊信仰だし、キリスト教とは相容れないでしょうね。遊牧民族だから、尚更なかなか布教されないでしょうし。でも、キリスト教と異教が緩やかに混ざり合っている感覚もとても面白かったし、海の中の情景がとても美しかったです。(国書刊行会)

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[bk1]
今は亡き王妃・マルグヴェンの忘れ形見である王女ダユを溺愛するコルヌアイユの王・グラドロンは、ダユの望むまま、海のそばに美しい都を作り上げます。ダユはそこで享楽的な生活を送ることに。

5世紀に海没したと言われるイスの町の伝説。コルアヌイユは、フランスのブルターニュ地方にあります。ブルターニュという土地は、元々ケルト色の濃い場所なんですよね。「ブルターニュ」という名前も、アングロ・サクソン人に追われてブリテン島から逃げて来たケルト人がブルトン人と呼ばれたことからきているし。そういえば「トリスタンとイゾルデ」で、イゾルデの出身地がコルアヌイユになってるんですけど、同じ場所ということでいいのかしら? ...この作品は、シャルル・ギヨが各地に残る断片的な伝説を拾い上げ、キリスト教の聖者伝やギヨ自身の創作を交えて物語として作り上げたものだそうです。イス(YsまたはIs)というのは、「低い町」の意味。湾を埋め立てて海面より低い場所に作られていたためについた名前。フランスの首都・パリの名前の語源とも言われています。「Par Is」とは、「イスに匹敵する」という意味で、伝説の都・イスのようになりたいという願いが込められた名前。いつかパリが滅びた時にイスはもう一度海の底から蘇り、フランスの首都として君臨すると言われているのだそうです。

一見、とてもキリスト教的な物語。マルグヴェン王妃を失って一度は自暴自棄になっていたグラドロン王は、キリスト教徒になることによって立ち直るんですが、娘のダユがそれに反抗します。聖者たちにとってダユは淫婦でしかないし、イスの町は丁度ソドムとゴモラみたいな存在なんでしょうね。結局、ダユは悪魔によって身を滅ぼすことに...。でもそれはキリスト教側からの一方的な言い分。ダユの母親のマルグヴェン王妃は、王との出会い方から考えると、おそらく妖精です。なので娘のダユも妖精の血を引いていることになります。だからこそ、ダユはキリスト教化された王都に我慢できないし、イスの町にも教会を作ろうとしないんです。それどころかイスの町のことで、「古い宗教の女祭司」たちに助けを求めています。イスの町は人間の目には見えない妖精(コリガン)たちによって手入れされていますし。
ダユという名前はケルト語では「良き魔女」という意味だとありました。となると、元々この伝説には違う意味があったということなのでは? この作品はキリスト教が異教を排除したという象徴的な物語になってるんですけど、もしこの伝説の中にキリスト教的要素が全く入っていなかったら、一体どんな感じだったんでしょうね?

海底に沈んだイスの町は、ケルトの他界になってしまったようです。晴れた日は海底に沈んでいる尖塔が見えるとか、波の静かな日は教会の鐘の音が聞こえるとか... 思いがけなくイスの町に行ってしまったというエピソードも色々あるようですね。その共通点は、訪れた人間が1つの行為を行わなかったせいでイスの町は蘇ることができなかった、というもの。もし店で買い物をしていれば、ミサの答唱に応えていたら、イスは蘇ることができたのに。...でもイスが蘇ったら、パリはどうなるんだろう...?(鉱脈社)

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ケルト物3冊。「ケルト妖精民話集」は、J.ジェイコブズの「Celtic Fairy Tales」「More Celtic Fairy Tales」から16編の妖精物語を選んで収録したもの。「ケルト幻想民話集」は、同じくJ.ジェイコブズの2冊からのフィン・マックールやクーフーリンなどの英雄伝説と、P.W.ジョイスのダーマットとグラーニアの物語。「ケルト魔法民話集」は、P.W.ジョイスによるルーグやフィン・マックールの物語3編と、J.F.キャンベルの「ケルト海竜物語」。

英雄物語や神話的な物語は知ってるものが多かったんですが、妖精物語は比較的初めてのが多くて新鮮でした。「白雪姫」と「シンデレラ」の別バージョンもありましたよ。ケルトの「白雪姫」は、「金の木と銀の木」。「金の木」が王女の名前で、「銀の木」はお后さまの名前です。この物語で怖いのは、白雪姫のように継母が美しい継娘に嫉妬するのではなく、お后さまが実の娘を嫉妬して殺そうとするというところ。しかも王様、実の娘の心臓と肝臓を食べたがるお后さまを止めようとはしないんですかーっ。母親には山羊の心臓と肝臓を食べさせておいて、娘の方は丁度求婚しに来ていた外国の王子に嫁がせて外国にやってしまえばそれでオッケーだなんて、なんて安易な男なんだっ。(驚)
そしてケルトの「シンデレラ」は「フェア、ブラウン、トレンブリング」。これは3人の娘の名前で、トレンブリングがシンデレラ。妖精のおばあさんにあたる鶏飼い女(スコットランドでは、鶏を世話する女には魔力があるとされていたらしいです)にどんなドレスがいいか聞かれたトレンブリングの答は、最初は「雪のように白いドレスに緑の靴」、次は「とびきり上等の黒繻子のドレスに赤い靴」、最後は「腰から下はバラの赤、腰から上は雪の白、肩には緑のケープ、頭には赤、白、緑の羽つき帽子、靴は爪先が赤、中程は白、裏とかかとは緑」。...な、なんかものすごい趣味なんですけど... しかも随分と自己主張のはっきりしたシンデレラですねー。でもそれだけしっかりしてるトレンブリングも、無事結婚したら油断したのか、お姉さんが原因でエラい目に遭うんですけどね。

私は3冊とも現代教養文庫版で読んだんですが、既に絶版。最初の2冊は文元社というところからハードカバーが出ていたので、画像のはそこのを使ってみました... が、ハードカバー、高い! もう少し調べてみると、同じジョーゼフ・ジェイコブズで「ケルト妖精物語」という本が2冊出てるんですよね。これはおそらく原本が一緒なのではないかと...。ゲール語からの完訳だそうなので、今から読もうと思われる方は、こっちを読まれた方がいいのかもしれません。表紙もこっちの方が綺麗ですしね。訳者さんは違いますが。(現代教養文庫)

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竜の島メルニボネの初代魔術皇帝から数えて428代目の直系に当たる白子の皇帝・エルリックは、薬と薬草の力によって生きながらえているという皇帝。従兄のイイルクーンがその座を狙っているものの、恋人のサイモリルとの平和な時間を楽しんでいました。しかしそんなある日、新王国と呼ばれる新興人類の国からメルニボネの夢見る都・イムルイルへの襲撃があり、迎え撃った戦いの場でイイルクーンがエルリックに公然と反旗を翻したのです。

本読みの憂鬱の森山樹さんにずーっとオススメされてた作品。他にも絶賛してる方は多いし、井辻朱美さんの訳で復刻されたし、気になってはいたんですが、なかなか読めず... ようやく読めました!

その膚は野ざらしのどくろの色、肩より長く垂れ落ちる髪は乳酪のように白い。細面の美しい顔からのぞくのは、つりあがった愁わしげな深紅の双眼、ゆるい黄色の袍の袖口からあらわれたほっそりした手もまた骨の色、それが巨大なただひとつのルビーから刻みだされた玉座の、両の肘かけに置かれている。

そんな描写から始まる、エルリック・サーガの第1巻。ここには「メルニボネの皇子」と「真珠の砦」の2つの長編が収録されています。
作者のマイクル・ムアコックはイギリス生まれながらもアメリカに移住したと聞いてたし、本に載ってる写真がカウボーイハット姿なので(笑)、この作品もいかにもアメリカ的なヒロイック・ファンタジー(ちょっと苦手)かと思っていたんです。が、主人公は予想外に内省的な人物でした... 暗い。(笑) エルリックは白子なので、見た目にも明らかに他のメルニボニ人とは異なってるんですけど、中身も違います。残酷なまでにあっさりと事を決定していくメルニボネの人々に対して、平和主義なのか事なかれ主義なのか、エルリックの行動や決定は、もう本当に歯がゆいほど。神々の中にただ1人迷い込んだ人間みたい。でもそんなエルリックでも、一度新興人類の王国に行ってしまうと、十分人間離れしてましたが。(笑)
エルリックは、身体的には薬がないと生きていかれないほど虚弱なんだけど、その反面、魔剣ストームブリンガーを使いこなせるほどの精神力の持ち主。でもそのストームブリンガーは、混沌の神に忠誠を誓って得たもの。剣で人々の魂を吸い取って、混沌の神に捧げ続けているんですね。これは、エルリック本人は善を成したいと考えていても、その裏には必ず悪魔が控えているようなもの。それでもストームブリンガーを手放せないエルリック。...何ていうかエルリックの中にはものすごく沢山の矛盾があるんですね。それがエルリック一番の魅力なのかもしれません。
でも、私としては混沌の神・アリオッホがものすごーく気になるんですよねえ。その姿は美青年、しかし目だけは老いた聡明さと邪悪さを持っているというアリオッホ。彼の話をもっと読みたいなあ。

続きも読もうと思ってますが、これはもう少し後で。1話ずつ完結してるようなので、ゆっくり追いかけられそうです。でも作品が長くて本が分厚くなるっていうのはいいんですけど、こんな風に2つの長編が1冊にまとめられちゃってるっていうのはどうなんでしょ。1つずつでも普通の厚みになったでしょうに。こういうのっていやー。しかもこれ、ハヤカワ文庫SFに入ってますけど、今のところはFTの方がずっと相応しい感じなんです。...それも手に取るまでに時間がかかった理由の1つなんですよね。(ハヤカワ文庫SF)


+シリーズ既刊の感想+
「メルニボネの皇子 永遠の戦士エルリック1」マイクル・ムアコック
「この世の彼方の海 永遠の戦士エルリック2」マイクル・ムアコック
「暁の女王マイシェラ 永遠の戦士エルリック3」マイクル・ムアコック
「ストームブリンガー 永遠の戦士エルリック4」マイクル・ムアコック

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アウヘンスキオフ城に住むキャサリンと村に住むケイトは、幼い頃から大の仲良し。なかなか自由には会えないものの、少しでも機会をみつけては一緒に過ごしていました。キャサリンが12歳になる頃、乳母のゲルダが結婚して外国に行くことになり、キャサリンの父は新しい乳母を探す代わりに、ケイトの母親のグリゼル・マックスウェル夫人と再婚。キャサリンとケイトは姉妹となることに。しかしグリゼルは魔女だったのです。野育ちのケイトが、美しく気立ての良い継子キャサリンに負けているのを見たグリゼルは、夫の留守の間にじわじわとキャサリンを追い詰め始めます。

スコットランドのギャロウェイ地方に伝わるケイト・クラッカーナッツの伝承がメインモチーフになっているんですが、ブリッグズがその背景として選んだのは17世紀半ばのスコットランド。1649年のチャールズ一世の処刑とそれに続く内戦という激動の時代を舞台にしています。読んでいると、まるで歴史小説みたい。でもそんなところに妖精や魔女が登場しても、全然違和感がないんですよね。逆に、そういう存在が本当にスコットランドやイングランドの日常に根ざした存在だったんだなあと感じられるほどです。
継母が実は魔女だったというのは、「シンデレラ」を始めとするおとぎ話によくあるパターンなんですが、先妻と後妻の娘同士が実の姉妹のように仲良くなるという展開はちょっと見ないですね。ケイトは、キャサリンを母親の悪意から守ろうとしながらも、母親に愛情を示されるとやっぱり嬉しくなるし、魔女を忌まわしく感じながらも、同時に強く惹かれるものも感じているし、キャサリンのためには魔女が死んで嬉しいけど、母親を失うのはやっぱり悲しいんですよね。でもそんな板ばさみの状況もしっかり受けとめていて、基本的に守られるだけのキャサリンよりもずっと魅力的でした。この2人、どちらも「ケイト」ですけど、「ケイト・クラッカーナッツ」と呼ばれるのは、キャサリンではなくてケイトの方。やっぱり彼女が主人公なんですね。(岩波書店)


+既読のキャサリン・ブリッグズ作品の感想+
「妖精 Who's Who」キャサリン・ブリッグズ
「魔女とふたりのケイト」K.M.ブリッグズ

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小さな村の産婆として暮らしている「わたし」は、娘のアーザと2人暮らし。「醜い女」と呼ばれる「わたし」とは裏腹に、5歳のアーザはとても美しい女の子。「わたし」は、村の女バーラの口利きで村人や近隣の貴族のお産を手伝い、アーザのために治療師として悪魔を追い払うことも勉強し始めます。

「ヘンゼルとグレーテル」を本歌取りしている作品。物語はヘンゼルとグレーテルがお菓子の家にやって来るずっと前から始まります。魔女がまだ魔女ではなかった、娘を愛する普通の母親だった頃に始まる物語。
ただ一度の失敗が女魔術師を追い込んで、娘を守るためとは言え、本物の魔女にしてしまうんですよね。「わたし」は、悪魔の誘惑に耳を貸さないように気をつけて暮らしてるんですが、それでもじわじわと周囲から追い詰められてしまいます。...でもこれを読んでると、魔女と人間の決定的な違いって何なんだろう?って思っちゃうんですよね。結局のところ、彼女は本当に魔女になったんではなくて、なったと思い込まされていただけのような気がしてしまう...。それに彼女を本物の魔女にしてしまったのは物語の上では悪魔なんですけど、本当は村人たちだと思うんですよね。病気や出産の時に、「わたし」にたびたび助けられていたのに... そのことを忘れなかったのは、ペーターという少年1人だけ。
1人の女性の哀しい末路の物語であり、同時に魔女を焼き殺してしまったグレーテルの行動に対する免罪符ともなる物語。グリム童話が残酷だというのはよく言われることですが、これもまた残酷な別の話です。(青山出版社)


+既読のドナ・ジョー・ナポリ作品の感想+
「逃れの森の魔女」ドナ・ジョー・ナポリ
「クレイジー・ジャック」ドナ・ジョー・ナポリ
「バウンド 纏足」ドナ・ジョー・ナポリ

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湖のほとりのカシの木に金の鎖で繋がれている博学の猫が語ったのは、遥か彼方の国の物語。若い魔女・チンギスは、ある日叫び声を聞きつけます。それは冷酷非常なギドン皇帝のただ1人の息子、サファ王子の声。皇帝は世継を得るために結婚し、后も無事に懐妊したものの、いざ世継が生まれるとなると自分の地位への不安を感じた皇帝は、サファを宮殿の一番高い塔のてっぺんの部屋に閉じ込めたまま忘れてしまったのです...という「ゴースト・ドラム」。
アイスランドの邪悪な魔法使い・クヴェルドルフは、最果ての国・テューレの女王が結婚相手を探していると聞き、我こそはと考えます。そしてアイスランドで一番語るのが上手いネコのトードという男に、女王の前で自分を称えてもらおうと考えるのですが、両親の死のきっかけとなったクヴェルドルフの行いを忘れていないネコのトードは、申し出をきっぱりと断ります... という「オーディンとのろわれた語り部」。

スーザン・プライス2冊。
「オーディンとのろわれた語り部」は、アイスランドの民話にヒントを得てスーザン・プライスが作り出した作品だそうです。これはこれで悪くなかったんですけど... 私にはちょっと短すぎたかも。字も大きくて読みにくかったんですよね。この2冊を比べてしまうと、断然「ゴースト・ドラム」が良かったです。なのに「ゴースト・ドラム」の画像がなくて残念。
「オーディンとのろわれた語り部」はアイスランドが舞台。でも「ゴースト・ドラム」はどこなんだろう... 1年の半分が冷たく暗い冬だという凍てついた国、ということしか書かれていません。それだけならアイスランドでも良さそうなものなんですが、北欧神話系ではないですね。むしろロシアの雰囲気。スラヴ系の神話かな? 博学の猫が語るという形式がとても雰囲気を出していて良かったし、魔女がチンギスを育てていく過程も面白かったし... 魔女は普通に子育てをするのではなくて、ゴースト・ドラムという太鼓を叩きながら歌うんです。丸1年間歌い終わった時には、最初毛布にくるまっていたはずの赤ん坊は、既に20歳の娘に! 魔法の修業も面白かったです。世界で最も大切な3つの魔法とは「言葉」「文字」「音楽」という話にも、すごく説得力があって。
一応児童書なんですけど、児童書とは到底思えない作品。壮絶に血が流され続ける暗い歴史、といったところは「エルフギフト」(感想)と共通していて、あとがきで金原瑞人さんが書かれている通り、いわゆる「教育的配慮」がまるでないんですね。でもこれが凄い迫力。短い作品ながらも強烈なインパクトがあって、ずっしりと重い手ごたえがありました。寸分の無駄もないって、こういう作品のことなのかも。この作品はシリーズ物で2作の続編があるようなので、ぜひ訳して欲しいなあ。(福武書店・徳間書店)


+既読のスーザン・プライス作品の感想+
「エルフギフト」上下 スーザン・プライス
「ゴースト・ドラム」「オーディンとのろわれた語り部」スーザン・プライス
「500年のトンネル」上下 スーザン・プライス

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小国・アプミーズを治めるピーター王には、ブレイズ、ヒュー、グレゴリー、ラルフという4人の息子がいました。穏やかではあっても、小さく地味なアプミーズを徐々に狭苦しく感じるようになった4人は、他国の人々の暮らしぶりを見たくてたまらくなり、とうとうピーター王は4つのくじと財宝の入った3つの合切袋を用意します。4人のうち3人は北、東、西へ旅立ち、一番短いくじを引いた者は館に戻り王国を継ぐことになったのです。くじの結果、ブレイズとヒュー、グレゴリーはそれぞれ従者と共に旅立ち、末子のラルフはお館に残ることに。しかしラルフは翌朝未明に起きると密かに旅立ちの準備を整え、南へと旅立ちます。

工芸家、装飾デザイナーとして有名なウィリアム・モリスの書いた散文ロマンス。アーサー王伝説の中にあってもおかしくないような、中世の世界を舞台にした騎士や貴婦人と探求の物語。J.R.R.トールキンやC.S.ルイスは、モリスをファンタジー作家として高く評価していて、大きな影響を受けたのだそうです。
永遠の命を得られるという「世界のはての泉」を求めるラルフ王子。最初は無邪気な若者だったラルフが、雄々しく気高い騎士へと変わっていくという寓話的な成長物語なんですけど、それがゆったりと優美に描かれているという感じで、すごく素敵でした。現代の小説が持つジェットコースター的躍動感はまるでなくて、どちらかといえば淡々と進んでいくんですけど、それが静かな深みを感じさせるというか... 読んでいると清々しい気持ちになります。そしてラルフの帰りの旅も丁寧に描かれているのが、またいいんですよねえ。行きの旅で通った町を通ることによって、ラルフの成長ぶりが再確認されているみたい。それに最後まで描かれることによって、物語が綺麗に閉じたなあと感じられました。ただ、あのグロリアという名前は何だったんだろう? それだけは気になります。やがて得る栄光(glory)のこと?
本の表紙の模様は、モリスのウォール・ペーパー"Hammersmith"と"Grafton"。初版のケルムスコット・プレス版の時のバーン=ジョーンズの木版画が挿絵として使われていて、とても素敵です~。こういう絵って大好きなんですよね。(晶文社)


+既読のウィリアム・モリス作品の感想+
「世界のはての泉」上下 ウィリアム・モリス
「理想の書物」ウィリアム・モリス
「輝く平原の物語」ウィリアム・モリス
「ジョン・ボールの夢」ウィリアム・モリス
「ユートピアだより」ウィリアム・モリス
「不思議なみずうみの島々」上下 ウィリアム・モリス
「世界のかなたの森」ウィリアム・モリス
「サンダリング・フラッド」ウィリアム・モリス

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風も波も土地も、全てのものが音楽でコントロールされている世界... 歌使いになるための訓練が行われているこだまの島では、少し前から続いている嵐のために難破した本土の船の破片を探すために、年長の生徒たちが浜辺へと出てきていました。ひどい頭痛に悩まされていたライアルもその1 人。そんなライアルの耳に聞こえてきたのは、今まで一度も聞いたことがない、荒々しい歌。奇妙な船がやってきて、子供たちが食われてしまうという歌詞に、ライアルは思わず悲鳴を上げます。それは半人のマーリーの歌声。周囲の生徒たちには全く聞こえず、ライアルだけがそれを聞いたのです。一方、日頃からライアルを敵視し、上の者たちが自分の能力を軽視していると考えていたケロンは、洞窟の中で難破した船に乗っていた水夫を見つけ、その水夫を助けてこっそり本土へと渡ろうと考えていました。

エコリウムの5つの歌という言葉のない歌が支配する世界が舞台の物語。この世界の歌使いたちは時と場合に応じて、夢の歌チャラ、笑いの歌カシュ、苦しみの歌シー、恐怖の歌アウシャン、死の歌イェーンを歌い、聴いた者の記憶や感情をコントロールするという設定。歌が力を持つ世界という設定自体は、きっと他にもあるんでしょうけど、それでも魅力的。5つの歌は、ちょっと「古王国記」(感想)に出てくるハンドベルみたい。でも、巻頭に「「歌使い」たちの世界へのガイド」として、登場人物や語句に関する説明があるんですけど、こういうのって本来なら物語の中で説明されるべきですよね。まず本文ありきのはずなのに、ここの説明は物語の中の説明よりもずっと詳しいんです。全然分からない世界の物語なので、実際にはこのページがあって助かったんですけど、やっぱり何か違ーう。本文中の説明がもっと丁寧だったら良かったのに。長くなってしまうのは分かるんですけど、でも異世界を描く時には、もっときちんとに描写して欲しいです。
中には残酷な場面もあったりして、その辺りは正直好きではないんですが、マーリー(人魚)やケツァル(鳥人)といった半人たちを交えた物語自体は、なかなか面白かったです。でも主人公のはずのライアルよりも、ケロンの方が印象が強いような... まるでケロンの成長物語のようでした。(サンマーク出版)


+既読のキャサリン・ロバーツ作品の感想+
「ライアルと5つの魔法の歌」キャサリン・ロバーツ
「バビロン・ゲーム」キャサリン・ロバーツ

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スターリング城にやって来たのは、追放された魔術師のホリス・キュー。前王の時にベンの元いた世界に追放されたホリスは、そこで宗教団体を作って荒稼ぎをしていたのですが、イカサマが信者にバレて、ランドオーヴァーに逃げ込んできたのです。しかも唐草箱の中に封じ込められていた強大な魔物のゴースも解放してしまっており... という「大魔王の逆襲」。スターリングシルバー城にやってきたのはリダル王と名乗る人物。妖精の霧を超えてランドオーヴァーを征服しにやって来たというリダルに、ベンとウィロウはミスターヤを河の長のところへ避難させようと考えるのですが、その途中で魔女のナイトシェイドに襲われ、ミスターヤは攫われてしまい... という「見習い魔女にご用心」の2冊。

先日3冊読んだので、忘れないうちに続きの2冊を... ということで、やり手の弁護士が百貨店の通販カタログで魔法の国を買って、そこの王様になってしまったランドオーヴァーのシリーズ。シリーズ物で1巻が一番面白いというのはよくあることだし、実際このシリーズもそうなんですけど(笑)、でも今回読んだ4巻5巻も悪くなかったです。1冊ずつとったら、まあ普通なんですが(失礼)、4巻5巻通して読むと魔女のナイトシェイドが大きな読みどころになっていて、それが展開そのものよりも面白かったんですよね。
この2冊、どちらも3つの視点から描かれていて、そのうちの1つがナイトシェイド絡み。4巻では、ベンとナイトシェイドとドラゴンのストラボが唐草箱の中に閉じ込められるんですが、3人(?)とも記憶を失って、「騎士」「貴婦人」「ガーゴイル」として放浪することになります。この時にベンとナイトシェイドの関係が大きく変化するんです。これにはびっくり。そして記憶を取り戻した時にナイトシェイドが受けた衝撃といったら! 5巻でもその衝撃が尾を引いています。これまで以上にベンを憎むようになったナイトシェイドはベンを抹殺するために色々画策するんですが、その行動が愛情の裏返しというか、前巻で心ならずも親しくしてしまった自分への歯がゆさに見えるんです。自分の感情の揺れに動揺してしまって、その動揺を違う感情にすり替えて自分を誤魔化してるというか。目的はベンを殺すことだけなのに、その割に「見習い魔女」にきちんと魔法を教え込んでるところも、なんか意味深な気が~。これまでは、「面白いアイディアがいくつかあったので、適当に放り込んで作ってみました」的なところがあって、あと一歩何かが足りなかったんですが、5巻にしてようやく深みが出てきたような気がします。
でもこのシリーズは、とりあえずこれでオシマイ。まだまだいくらでも続きそうだし、実際決着が付いてない部分もあるんですが、本国でもどうやら今のところ5冊しか出てないようです。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「魔法の王国売ります!」テリー・ブルックス
「魔法の王国売ります!」「黒いユニコーン」「魔術師の大失敗」テリー・ブルックス
「大魔王の逆襲」「見習い魔女にご用心」テリー・ブルックス

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カナダからアイルランドに住むいとこのフィンダファーに会いに来て、一緒にアイルランド旅行に出るグウェン。しかし人質の墳墓で野営した夜、フィンダファーが妖精王に花嫁として連れ去られてしまい... という「妖精王の月」、アメリカに住む孤児のケイが、誕生日に何者からか送られてきた18冊の古い本をきっかけに、アイルランドに自分探しの旅に出る「歌う石」、カナダから親戚の農場にやって来たローズマリーとジミーは、住み込みで働いている男の行動に興味をひかれて、夜中にその男をつけるのですが... という「ドルイドの歌」の3冊。

O.R.メリングのケルトファンタジーシリーズ。O.R.メリングは5歳の時にカナダに移住したものの、アイルランド生まれで、今またアイルランドに住んでケルト色の濃い物語を書いているという作家さん。ずっと読んでみたいなと思ってたんですが、ようやく読めました!
「妖精王の月」だけ現代のアイルランドが舞台なんですが、登場する妖精の造形がとてもアイルランドらしいし、「歌う石」はトゥアハ・デ・ダナーン一族の支配するイニスフェイルの島が舞台でエリウが登場、「ドルイドの歌」はアルスター神話の時代が舞台で、クーフーリンやコノハトの女王・メーヴが登場します。噂にたがわず、どれもケルト色の濃い作品で、すごく楽しかった。主人公の女の子が素敵な男の子に出会うと必ず恋愛になってしまうのはご愛嬌なんですが(私はミディールが断然好きだ!笑)、ケルト神話をまた読み返したくなってしまうなあ。今のところ5冊出ているようだったので、とりあえず3冊借りてきたんですけど、話としては1冊ずつ独立してるんですね。でもちょこちょこと繋がりもあるので、これは最後には大きな物語となりそうな予感。残りの2冊も早速借りてくるつもり。

ところで、「妖精王の月」の2人の女の子の名前は、フィンダファーとグウェニヴァーなんですけど、フィンダファーはアイルランド系、グウェニヴァーはウェールズ系で、元は同じ名前なんだそうです。アーサー王妃のグウィネヴィアも、やっぱり元は同じ名前なのでしょうかー。「グウェニヴァー」と「グウィネヴィア」そっくりですよね。これで全然違ってたりなんかしたら、サギだわー。(講談社)
5/19追記 名前のことはその後マオさんに教えて頂きました。ありがとうございます♪


+シリーズ既刊の感想+
「妖精王の月」「歌う石」「ドルイドの歌」O.R.メリング
「夏の王」「光をはこぶ娘」O.R.メリング
「夢の書」上下 O.R.メリング

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守り人&旅人シリーズの最終巻。2つのシリーズが再び繋がりました。でも、バルサが主人公の守り人シリーズはまだしも、チャグム皇子が主人公の旅人シリーズは、てっきりあと何冊かあるだろうと思い込んでたので、これで終わりだなんてもうびっくり。でもこの「天と地の守り人」は3冊組だし、そんなものですかね? 最終巻なので、あらすじを書くのはやめておきますね。

大国・タルシュ帝国と新ヨゴ皇国、ロタ王国、カンバル王国、そしてサンガル王国。それぞれの国がそれぞれの国にとって最善だと信じることを行おうとしてるんですけど、その「最善」が誰にとっても最善であるとは限らないところから、争いが生まれてくるんですね。ほとんど八方塞りのように見える状態の中で確実に道を切り開いていくチャグム。いやあ、「精霊の守り人」の時のあの少年が、こんなに立派に成長してしまったとは~。お父さんみたいに外の穢れを知らずに人生を送ることはできなかったし、かといって身分に縛られずに生きることもできなくて不憫なんですけど、いい青年になりました。特にカンバル王国のラダール王に対峙している時がお見事。そしてもちろん、そんなチャグムを支えているのがバルサ。本人は年を取ったと感じてるようなんですが、まだまだその強さは超一流。それに確かに年は取ったかもしれないですけど、それがむしろ人間的な円熟に繋がっているようです。
そして今回は人間たちの世界にナユグ(異世界)が大きく絡んできて、これがまたいいんですよね。ナユグの春と暖かい水の流れ、深い海の情景、そして婚姻。この幻想的なナユグの描写もまた、守り人シリーズの大きな魅力。

話はこれで完結してしまうわけで寂しいんですけど、でもすごく良かった。最後は収まるべきところに綺麗に収まってくれて、正直ほっとしました~。本来なら完全に敵のはずのタルシュ帝国も、皇帝やラウル王子、ハザール王子の視点から描かれてるので、「悪いやつ」では終われないんですよね。ラウル王子とヒュウゴの話をもっと読みたくなっちゃいました。全部で10冊ある中で、今一番読み返したいのは2作目の「闇の守り人」。今年からこのシリーズが新潮文庫で出始めてて、1作目の「精霊の守り人」は3月に出たところなんですよね。早く他のも文庫で出揃って欲しいなあ。(偕成社)


+シリーズ既刊の感想+
「精霊の守り人」「闇の守り人」「夢の守り人」......ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「虚空の旅人」「神の守り人 来訪編」「神の守り人 帰還編」「蒼路の旅人」上橋菜穂子
「天と地の守り人」1~3 上橋菜穂子
「流れ行く者 守り人短編集」上橋菜穂子
「バルサの食卓」上橋菜穂子・チーム北海道

+既読の上橋菜穂子作品の感想+
「獣の奏者」1・2 上橋菜穂子
Livreに「狐笛のかなた」の感想があります

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シカゴの辣腕弁護士ベン・ホリデイは、2年前に妻とそのおなかの中にいた子供を亡くして以来、自分の殻に閉じこもりがち。弁護士会を何度もすっぽかし、最後に残った友達は同僚のマイルズ・ベネットただ1人。そんなある日、亡き妻宛てに有名デパートのクリスマスカタログが届きます。何とはなしに見ていたベンの目に飛びこんできたのは、「魔法の王国売ります」の文字。値段は100万ドル。一流デパートが出す広告とも思えないまま、ベンはその魔法の王国が気になって仕方なくなるのですが...。

ランドオーヴァーシリーズ3冊です。最初の1冊は以前にも読んだんですけど、細かい部分を忘れているので再読。(感想
いやー、やっぱり設定が面白いです。主人公が弁護士というのがいいんですよねえ。弁護士だから頭もいいし、文字通り弁も立つわけで。しかも趣味はボクシング。ちょっとは戦えるわけです。(笑)
ランドオーヴァーには魔女もいればドラゴンもいて、ノームやコボルト、シルフ、妖魔なんかもいて、思いっきりファンタジーの世界。でも主人公が大人でしかも弁護士というだけあって、物事の進め方がかなり現実的。この点、子供が主人公のファンタジーとは一味違います。そして1巻で完全にランドオーヴァーに引っ越してしまったかと思いきや、2巻3巻でもまだアメリカの場面が結構登場してました。そういうのがウリの1つなんでしょう。私としては、アメリカの場面が入るのもいいけど、基本はランドオーヴァーでお願いしますって感じなんですが。
このシリーズ、今のところ5冊出てます。5冊で完結してるのかしら? やっぱり1冊目が一番面白かったな、なんてことにもなりそうなんですけど、近いうちに読んでみようと思います。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「魔法の王国売ります!」テリー・ブルックス
「魔法の王国売ります!」「黒いユニコーン」「魔術師の大失敗」テリー・ブルックス
「大魔王の逆襲」「見習い魔女にご用心」テリー・ブルックス

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いつの間にか悪夢をもたらす才能を失ってしまった夢馬のインブリは、闇の馬将軍によって、夜の悪夢の運び手から白昼夢を運ぶ任務に変えられてしまうことに。インブリは、闇の馬将軍がトレント王に宛てた「馬の乗り手(ホースマン)にご注意あれ」というメッセージを持って、生まれて初めて昼のザンスに行くのですが... という「夢馬の使命」。
トレント王が王座を退き、ドオアがザンスの王位について5年。秘密の会議をするためにゾンビーの頭の城を訪れるドオアとイレーヌ、そして3歳の娘のアイビィなのですが、城に近づいた時、イレーヌは夢馬のインブリとドラゴンとアイビィの恐ろしい幻影を見ることに... という「王女とドラゴン」。

魔法の国ザンスシリーズの6巻と7巻です。ここまでくると、もうすっかり初期のザンスシリーズからは変わってしまってますねー。登場人物たちも、すっかり世代交代の時期に来てるようです。やっぱり最初の3冊の頃の雰囲気が良かったなあ、と思ってしまいます。それでも「夢馬の使命」の方は面白かったんですけど、「王女とドラゴン」の方は... そろそろ続きを読むのがしんどくなってきました。
この「夢馬の使命」、原題が「Night Mare」なんです。そのまんま訳せば、「夜の雌馬」という意味。明らかに「Nightmare(悪夢)」とかけてるんですよね。ザンスらしいだじゃれ。で、この言葉の「Night Mare」の日本語訳が「夢馬」。そうなると「夢魔」にも通じるわけです。いつものことながら、山田順子さんの翻訳センスは見事だなあ、と本題とは関係ないところで感心してみたり。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「カメレオンの呪文 魔法の国ザンス1」ピアズ・アンソニイ
「カメレオンの呪文」「魔王の聖域」「ルーグナ城の秘密」ピアズ・アンソニイ
「魔法の通廊」「人喰い鬼の探索」ピアズ・アンソニイ
「夢馬の使命」「王女とドラゴン」ピアズ・アンソニイ

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12世紀末のイギリス。ウェールズ近くのコルディコットの荘園領主の息子・アーサーは13歳。神父に習う読み書きの勉強は楽しいものの、目下の夢は騎士に仕える従者としての修業をすること。しかし16歳の兄は12歳の時に修業に出してもらったのに、アーサーが修業に出してもらえる見込みはまるでないようなのです。そんなある日、アーサーは父親の友人のマーリンに黒曜石の石を渡されます。絶対に秘密だと言われたその石を自分の部屋で見ていたアーサーは、石の表面に突然見知らぬ情景が映し出されて驚きます。

これは、ソニーマガジンズから全3巻の単行本で刊行されている「ふたりのアーサー」と同じ作品。角川文庫から再版されるに当たって題名が変わったようですね。でも1巻が2004年、2巻が2005年に出たのに、3巻目がなかなか出ないんです。本当は出揃ってから読もうと思ってたんだけど、積んでるのも気になるし、待ちきれなくて先に読んでしまいましたー。
獅子心王リチャードからジョン王へと移り変わろうとしているイギリスが舞台で、13歳の少年アーサーの視点から日記のように描かれていきます。最初のうちは荘園の生活が事細かに描き出されてるだけで、それはそれでとても興味深いんですが、アーサーがマーリンに石をもらってから、話が一気に動き始めるんですね。石が見せるアーサー王伝説の場面は、現実のアーサー少年の出来事とどこかしらリンクしてて、アーサー王の出生の秘密が明かされるとアーサー少年のことも明らかになったりします。...でも、そこにどういう意図があるのかはまだ不明。私はてっきりアーサー少年がアーサー王の生まれ変わりで、アーサー王がブリテンの危機に復活するという話なのかと思ったんですけど、どうやら違うようで... マーリンについてもよく分からないままだし。
それにしても、この話に登場する人たちって、ほんと全然アーサー王の話を知らないんですね。アーサー少年のおばあさんが、アーサー王のこととは知らずに眠れる王様の話をしたりするんですけど、誰もアーサー王という存在自体知らないようです。なんだか不思議になってしまうほど。字の読めない人たちはともかく、神父ですら「ティンタジェル」が何なのか全然知らないんですもん。この当時は本当にそうだったのでしょうか。
でも3巻まで全部読まないと、感想が書きにくいな。3巻は一体いつ出るんでしょう?(角川文庫)

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伯父・マルク王のためにアイルランドの王女、黄金の髪のイズーを勝ち取った騎士・トリスタンは、イズーを伴ってマルク王の待つコルヌアイユへ。しかしその船旅の最中、酷くのどが渇いていた2人は、イズーの侍女・ブランジャンの荷物の中にあったワインを飲んでしまったのです。それは、新婚の2人に飲ませるようにとイズーの母親が作り上げた媚薬入り。トリスタンとイズーはたちまち恋に落ちてしまい...。

本当はトリスタンの生まれる前のことから話は始まるので、上に書いたのは丁度真ん中辺りの出来事。でもこれが話の一番の中心です。元々はケルトの物語で、アーサー王物語の中にも組み込まれてるんですが、中世に宮廷詩人たちが広く語り伝えて、12世紀のフランスでは人々の魂を奪ったほどの人気作品だったのだそう。ワーグナーもこの物語から、オペラ「トリスタンとイゾルデ」を作り上げてます。でも様々な写本があるにも関わらず、どれも断片のみ。クレティアン・ド・トロワやラ・セーヴルの写本に至っては、完全に失われているそうで...。これは、そんな様々な断片を元にベディエが書き上げた物語。
端的にいえば、トリスタンとイズーの不倫話。でも、そもそも2人の間には恋愛感情なんてなかったわけで、イズーの母親の媚薬なんてものがなければ、イズーもマルク王と幸せになれたでしょうし、トリスタンも普通に結婚できたんでしょうに... 気の毒。子供の頃に読んだ時は、なんでもっとしっかり隠しておかなかったんだろう? なんで誰もイズーに説明しておかなかったんだろう? なんて思って、それは未だに思ってたりもするんですが(笑)、今更とやかく言っても仕方ない? 言ってみれば、みんな被害者なんですよね。
今回読んでみて一番印象に残ったのはマルク王でした。息子のように愛していたトリスタンと、愛する妻のイズーに二重に裏切られてしまうマルク王が一番気の毒なんですが、でも懐の深さを見せてくれて良かったです。ほんと、媚薬なんてものがなければ...(そしたらこんな話も存在しないんだけどさっ)

久しぶりにこの作品を読み返したのは、図書館で「フランス中世文学集1」を借りてきたから。600ページ近くある分厚い本なんですけど、この半分ぐらいがトリスタン関係で、写本がいくつか入ってるんです。...実はそれほど期待してなかったんですけど、久々に読み返したこの本が予想以上に面白くて、むくむくと期待が大きくなってます。楽しみ♪(岩波文庫)

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濃い霧にまかれて道に迷ったガウェインが辿り着いたのは、ゴーム谷のグリムの屋敷。ガウェインはどこか不吉なものを感じながらも、ここで一夜の宿を取ることに。夕食後、用意されていた部屋に戻ったガウェインは、寝台にグリムの娘・グドルーンがいるのを見て驚きます。なんと父親に言われて来たのだというのです。その場は礼儀正しくグドルーンを退けるガウェイン。しかしガウェインは後日グリムに、娘を襲ったという濡れ衣を着せられて訴えられ、そのために「すべての女が最も望んでいることとはなにか?」という問いの答を探すことに。

「五月の鷹」とはガウェインのこと。その題名通り、アーサー王伝説のガウェインが主人公の物語です。これは児童書なのかな? 伝説のエピソードが色々組み合わせられていたり、元の話に囚われずに自由に発展していて、意外なほど面白かったです~。特に楽しかったのは、時折他のエピソードらしきものが顔を出すところ。閉じ込められてしまったマーリンも声だけで登場しますし、あとはガウェインが1年間の探求の旅に出ている時に、とある泉に辿り着く場面が好き♪ これは「マビノギオン」で、「ウリエンの息子オウァイスの物語、あるいは泉の貴婦人」にも登場する泉です。そこには「なにかを待ち望んでいるような雰囲気」があり、ガウェインも何かをしなければいけないと感じるのですが、「たとえここに探し求めるべき冒険があるとしても、それは私がおこなうものではないのだ」と分かって、ガウェインは水を飲むだけで立ち去ることになります。確かにこれはガウェインではなくて、従兄弟のイウェインの冒険。こんな感じで、「あそこに繋がっていくのかな?」みたいな部分が色々あるんです。あとがきで訳者の斎藤倫子さんが「作者自身も楽しんで--ほとんど遊び心といってもいい感覚で--書いたもののように思われてなりません」と書かれていましたが、本当にその通りなのではないかと思います。
ガウェインの弟たち、アグラウェインやガヘリス、ガレスも個性的に描き分けられていたし、グウィネヴィアもちょっと珍しいほど素敵な女性に描かれていました。ただ1つ不満なのは、老婆・ラグニルドが必要以上に下品に振舞っているようにしか見えないこと。下品に振舞って尚、認められることが必要だった? それとも下品な性格もまたラグニルドにかけられた魔法のうち? 確かに伝説の方でもその通りなんですけど、ここに一言添えられていたら、もっと説得力があったのになあ。(福武書店)


+既読のアン・ローレンス作品の感想+
「幽霊の恋人たち サマーズ・エンド」アン・ローレンス
「五月の鷹」アン・ローレンス

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ニムエという乙女にぞっこん惚れ込んでしまい、自分の知っている全てのことをニムエに教えたマーリン。しかしそれが仇となり、マーリンはニムエに荒野の岩の中に閉じ込められてしまうことに... というのは、トーマス・マロリー「アーサー王の死」に伝えられるエピソード。ここに描かれているのは、岩の中に入ったのは実はマーリンの自発的な意志で、しかもマーリンはそこで長い眠りについているだけ、という物語。時々目を覚まし、自分の生涯のことを追想し、またしても夢の世界に漂っていきます。

マーリンのみる9つの夢の物語。副題が「アーサー王伝説物語」なんですが、実際にはほとんどアーサー王伝説には関係なかったです。冒頭のマーリンとニムエのエピソードぐらいで、アーサー王の名前も騎士たちの名前も全然でした。それでも中世の騎士たちの時代を彷彿とさせる雰囲気はたっぷり。1つ1つの物語はごく短くて、いかにも夢らしく断片的なんですが、同時にとても幻想的なんですよね。特に最初の「さまよえる騎士」で活躍するサー・トレマリンなんて、見た目も冴えない中年の酒飲みの騎士。全然勇ましくないし、時には騎士とは言えないような作戦で敵に勝とうとするし、「高潔」という言葉からは程遠いところにいるんです。話も設定こそファンタジーっぽいんですけど、どちらかといえばミステリ系で、最後にびっくり。なのに、この中にあるだけで、1枚紗がかかったような感じになるんですよね。どこか特別な空気に包まれているような...。
9編の中で私が特に気に入ったのは、「乙女」と「王さま」。「乙女」での犬の描写はあまりにリアルで、それだけでも別世界にさまよい込んだような錯覚があったし、「王さま」に登場する緑のマントの男がとても不思議で魅力的。そしてそんな物語に、アラン・リーの挿画がふんだんに使われていて、とても美しい一冊となっています。(原書房)

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  [amazon] [amazon] 先日エロール・ル・カインの絵本をまとめ読みしてから(記事)、絵の美しい本を無性に読みたくなって、今度はアーサー・ラッカムの本を借りてきました。こちらは絵本というより、普通の児童書ですね。ラッカムの本は、以前ワーグナーの「ニーベルングの指環」全4巻を読んで以来。上に画像を出したのは「シンデレラ」(C.S.エヴァンス編)と「不思議の国のアリス」(ルイス・キャロル)だけですが、他にも「ウンディーネ」(M.フーケー)、「リップ・ヴァン・ウィンクル」(ワシントン・アーヴィング)、「ピーター・パン」(J.M.バリー)を読みました。

「リップ・ヴァン・ウィンクル」と「ピーター・パン」は、1冊の本に40~50枚ものカラーの挿絵が入っていて、それはそれでとても堪能できたんですが... 読んでいて面白かったり、本として好きだったのは「シンデレラ」「ウンディーネ」「不思議の国のアリス」の方かな。絵を見たいだけなら画集を見ればいいんですけど、本として読むからには、絵だけを求めてるというわけではないのでしょう、きっと。特に「ウンディーネ」は、フーケーの原作もとても美しくて哀しい異種族婚礼譚で大好きな話。(感想) ラッカムの絵がまた特別美しくて、その作品にとてもよく似合ってるように思いました。ものすごく素敵~。(右の絵は風に語りかけているウンディーネ)
「不思議の国のアリス」は、本当はジョン・テニエルの絵が有名ですが、ラッカムの絵もいいですねえ。このお話を読んだのも随分と久しぶり。ご存知の通りナンセンスたっぷりのお話なんですが、こまめに注釈がついているのもとても親切で良かったです。作中に変形されて出てくる詩の元の文章とか、駄洒落部分が原文ではどうなってるか、とかね。やっぱり面白いなあ。
そして「シンデレラ」は、上の表紙の画像にもある通りの影絵のような絵ばかり。ラッカムってこういう絵も描いてるんですねー。知らなかった。普段の絵もとても好きなんですが、こういうのも好き~。話はペロー版が元になってるようなんですが、C.S.エヴァンスによって近代的な演出がされていて(シンデレラが実母の死後に寄宿学校に入れられたり)、お話もとても面白かったです。(新書館)

そして絵の美しい本、次回はカイ・ニールセンの予定です。(笑)


+既読のアーサー・ラッカム作品の感想+
「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」リヒャルト・ワーグナー
「シンデレラ」「不思議の国のアリス」「ウンディーネ」「リップ・ヴァン・ウィンクル」「ピーター・パン」アーサー・ラッカム
「真夏の夜の夢」アーサー・ラッカム絵&「テンペスト」エドマンド・デュラック絵
 

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夏至の前日の夕方、ダンとユーナの兄妹は、両親の地所で自分たちが「野外劇場」と呼んでいる場所に行き、3頭の牝牛相手に「夏の夜の夢」を演じます。おとうさんにシェイクスピアの戯曲を短く書き直してもらい、おかあさん相手に何度も練習して台詞を暗記したのです。上手く演じられて嬉しくなった2人は、思わず最初から最後まで3回も演じてしまうことに。そして腰を下ろして持ってきたおやつを食べようとした時、妖精のパックが現れて...。

妖精パックが連れてくる歴史上の人物たちが、自分の体験談をダンとユーナという兄妹に語り聞かせてくれるという形式の連作短編集。これを読む前にシェイクスピアの「夏の夜の夢」も再読しちゃいました。シェイクスピアに限っては悲劇の方が好きなんですが、「夏の夜の夢」はとても好きな作品。でも随分前に読んだっきりなので、細部はすっかり忘却の彼方... 読み返して良かった。現在の可憐な妖精像を作り出したのはシェイクスピアだとこの間読んだところなので、以前読んだ時とは違った部分に注目して読めたし、福田恆存氏の訳もすごく良かったし。右の画像は私が読んだ新潮文庫版。この表紙も素敵ですよねー。

で、こちらの「プークが丘の妖精パック」ですが、これもすごく面白かったです!
まず、なんで登場する妖精がパックだけなのか、他の妖精は今はどうしてるのかという部分で、パックの説明にはすごく説得力があったし... これは上手い。そして中で語られる物語を読んでいて、どことなくローズマリー・サトクリフの本の題名を連想しちゃうなと思っていたら(中身は読んでないので、題名だけ)、サトクリフもこの作品に影響を受けてるんだそうです。ちょっとびっくり。でもやっぱりこれは、他の作家さんに影響を与えるタイプの本だろうな。1つ1つのお話も面白かったし、大きな歴史の流れを追うという意味でもすごく面白かった。パック自身が、「どうだった? ウィーランドが剣を与え、その剣が宝をもたらし、宝が法律を生んだ。オークが伸びるように自然なことだ」と言ってますが、まさにその通りですねー。しかも読者にとっても2人の子供たちにとっても単に歴史の教科書に載ってるってだけだった出来事が、語られることによって生き生きと再現されてました。
でもどんなに面白い話を聞いても、家に帰る時間になると、子供たちはオークとトネリコとサンザシの魔法で全てを忘れちゃうんです。なんだか気の毒。もちろん次にパックに会った時に、ちゃんと全部思い出すことにはなるんですが...。ちなみにパックという妖精は、ケルト神話のプークが原型と言われてるので、この題名は要するにパックの丘のパックってことですね。偶然アメリカ版を見つけたら、表紙がラッカムでした。ラッカムの絵は表紙だけなのかしら。中も見てみたーい。(光文社古典新訳文庫)


+既読のラドヤード・キプリング作品の感想+
「少年キム」ラドヤード・キプリング
「プークが丘の妖精パック」キプリング 「夏の夜の夢・あらし」シェイクスピア
「キプリング短篇集」キプリング

+既読のシェイクスピア作品の感想+
「プークが丘の妖精パック」キプリング 「夏の夜の夢・あらし」シェイクスピア
「ジョン王」ウィリアム・シェイクスピア
「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」シェイクスピア
「ハムレット」シェイクスピア・「新ハムレット」太宰治
「マクベス」シェイクスピア
「トロイラスとクレシダ」ウィリアム・シェイクスピア

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ファンタジー小説を書いていると、しばしばぶつけられる「ファンタジーって、何...?」という素朴な疑問。小説家としてデビューして10年経ち、ひかわ玲子さんご自身の問いでもあったという、ファンタジーとは何なのかについて考えていく本です。豊田有恒、金蓮花、小沢淳、前田珠子各氏との対談も。

ひかわ玲子さんといえば、実は漫画家さんなのかと思い込んでたんです。でもプロフィールを見ると、「翻訳家を経て小説家としてデビュー」とあるだけで、漫画に関しては全然。じゃあ「花とゆめ」に描いてらっしゃるあの人は...? と思っていたら、どうやらそれは「ひかわきょうこ」さんだったようで... とほほ。(なんて失礼なヤツだ)
そんな私がなぜこの本を手に取ったかといえば、まず石堂藍さんの「ファンタジーブックガイド」(私のバイブル)に取り上げられていたから。それと今度、ひかわ玲子さんが書いてらっしゃる「アーサー王宮廷物語」を読んでみようと思っているから。

小説というものは全般に架空の出来事を書いているという意味でファンタジーとも言えるんですが、ここで取り上げているのは、ファンタジーと呼ばれるジャンル。ファンタジーと一言で言っても異世界物だったり、架空の歴史だったり、日常の中の不思議だったり色々あるんですが、ここでは特に異世界ファンタジーについて。(ひかわ玲子さんの中では「ファンタジー」といえばまず異世界物なのかな?)
「ファンタジーなんて、神話や伝説を集めてくれば、すぐにできる」なんて言葉に苦笑させられることも多いんだそうですが、ひかわさんは逆に世界そのものが架空だからこそ、中身が絵空事になっては駄目なんだと書いています。例えば渋谷の街を舞台にした話なら、たとえそれが絵空事でも、渋谷という実在の街のリアリティに頼ることができるけれど、ファンタジーで架空の世界を描く場合、舞台も架空なら描いている事柄も架空の出来事。そこに息を吹き込むのは、実はとても大変なこと。
そして、日本人なのになぜ金髪碧眼の白人の話を書くのかという質問もよく受けるそうなんですが、それはファンタジーにとって異国趣味(エキゾチシズム)が非常に大切だから、なのだそうです。日常とは切り離された世界だからこそ、想像力が広がるってことですね。海外のSFやファンタジーで黒髪の美女が登場するのも、それと同じことなんだそうで... へええ、そうなのか。
でもいくら金髪碧眼の白人が動き回っていても、日本人であるひかわ玲子さんの中から生まれてきた作品である以上、それは欧米で生まれたファンタジーとは本質的に違うもの。書き手の生まれ育った文化・風俗・社会が現れていて、キリスト教世界ではあり得ない日本人的世界になってるんだそうです。逆にそれが現れていなければ、絵空事で終わってしまっている、とも。確かにトールキンの「指輪物語」はとても大英帝国って感じだし、アメリカのファンタジーはどれもアメリカ的ですものね。あまり考えたことがなかったんですが、たとえ西欧的な世界を舞台にはしていても、日本人の書くファンタジーは日本人にしか書けない作品なのかも。
対談もそれぞれに面白かったし、ファンタジーについて色々新しい面が見られたし、これはひかわさんのアーサー王物が楽しみになってきました。早く読みたいな~。(東京書籍)


+既読のひかわ玲子作品の感想+
「ひかわ玲子のファンタジー私説」ひかわ玲子
「キャメロットの鷹」「聖杯の王」「最後の戦い」ひかわ玲子
「イスの姫君」ひかわ玲子

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吟遊詩人トーマスがやって来たのは、風が狂ったように吹き荒れる陰鬱な秋の夜のこと。犬のトレイが何かを聞きつけたように身を固くし、ゲイヴィンとメグが、こういう夜は死者が馬で走り回っているのだろうと考えていたその時、扉の外にはひどく背の高いずぶぬれの男が立っていたのです。病気で倒れたトーマスをメグは看病し、やがて病の癒えたトーマスはメグやゲイヴィンに様々な物語を語り、歌を歌います。そしてトーマスは、メグたちの隣人の少女・エルスペスと出会うことに。

吟遊詩人トーマスとは、13世紀に実在したといわれるスコットランドの詩人・トーマス・ライマーのこと。日本語のWikipediaには紹介がないんですが、英語のページにはありました。(コチラ) 妖精を歌ったバラッドとしては、これとタム・リンが有名なんですよね。(この2つの比較ページがありました... 英語ですが。コチラ) ケルト神話を読み進めている今の私にぴったりの作品。実際読んでみても、なかなか素敵な話でした!
この話の主要な登場人物は、メグとゲイヴィンという老(中年?)夫婦、トーマス、そしてエルスペス。この4人それぞれの章によって構成されています。まずはトーマスの到来と、その滞在を語るゲイヴィンの章。次は4つの章の中で一番長いトーマスの章。この1章だけで物語の半分ほどあるんですよね。でも、てっきりここでトーマス自身のことが分かるのかと思いきや、いきなり妖精の女王の魅力に絡め取られて、えええっ、どうするの?!状態。そして次のメグの章ではトーマスの帰還が、最後のエルスペスの章では晩年のトーマスの姿が描かれることになります。井辻朱美さんが訳者あとがきで

訳していてふしぎでもあり、興味深かったのは、Aという人物の視点から描かれたBという人物が謎めいていて不思議なので、Bの一人称部分にはいりさえすれば、この人物の本質がわかるだろうと思うのだが、実際にBの語り部分にはいってみると、謎はあいかわらず解けないということである。Aの目にうつっていたBとはちがうBがそこにいて、しかもBの目にうつるAも、Aの語りの部分とはまったくちがったふうに描かれている。(中略) かくして四人の主要人物は、四方向からちがった光で照らしだされる四つの像になる。物語は四倍の奥行きをもち、意味をもつ。

と書いてらっしゃるのですが、もうまさにその通り! 良くも悪くも期待を裏切られました。こういうのも面白いなあ。
それにしても、ほんと幻想的な作品でした。メグとゲイヴィンの家の描写でさえ幻想的に感じられてしまうんだから、エルフランドときた日にはもう! あれは結局何だったんだろう?って部分もあったんですけどね。でもエルフランドの場面がとても長かったので、これと普通の人間の世界のどっちが本当の世界なのか分からなくなってきちゃいそうでした。もしかしたら、ゲイヴィンやメグ、エルスペスのいる現実の世界の方が夢の中の出来事だったのかな、なんて思えてきちゃいます。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のエレン・カシュナー作品の感想+
「吟遊詩人トーマス」エレン・カシュナー
「剣の輪舞」エレン・カシュナー

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大気の乙女・イルマタルは、波の上へと降り立った時に、澄んだ海の面を吹き渡る風によって身ごもります。しかし赤ん坊は700年もの間生まれようとせず、乙女は水の母として東に西に、北西に南へと泳ぎ続けることに。そしてようやく生まれたワイナミョイネンは、生まれた時から老人の姿をしていました。

世界三大叙事詩の1つ、フィンランドの叙事詩「カレワラ」。(他の2つは「イーリアス」と「ラーマーヤナ」) 以前にも読んだことはあるんですが(感想)、それは子供用の物語形式だったので、ちょっと欲求不満状態だったんですよね。ぜひ詩の形で訳されているものを読みたいと思っていたら、ようやく読めました! 嬉しい~。小泉保さん訳のこの本は、大満足。随分前に絶版になっているし、市内の図書館にも置いてなかったので、入手は大変だったんですけどねー。

「カレワラ」で一番面白いのは、魔法のかけ方。関係する事物の起源の呪文を唱えなければならないんです。例えば鉄による傷を治すなら、まず「鉄の起源の呪文」を唱え、続いて「鉄を罵倒する呪文」で鉄を支配。続いて「血止めの呪文」「軟膏の呪文」「守りの呪文」「包帯の呪文」という一連の呪文で治療することになります。しかもこの呪文というのは歌なんです。さっさと血止めをすればいいようなものなのに(笑)、みんな朗々と歌い上げちゃう。カッコいい。でもその事物の起源を知らなければ、傷を治せずに死んでしまうわけです。つまり必要な呪文を次々に唱えられる呪術師こそが、最も強いヒト。...この「カレワラ」の中で、ワイナミョイネンが必要な言葉を求めてアンテロ・ピプネンという巨人の口から身体の中に入ってしまう場面があるんですが、この時ピプネンは正体不明の異物を出してしまいたくて、「駆除の呪文」「不明な危害の根元の呪文」「自然の病気での保護の呪文」「厄病呪病の根元の呪文」「災禍抑制の呪文」「救援の呪文」「生地へ駆逐する呪文」「報復の呪文」「一般魔除けの呪文」「閉じ込めの呪文」「運び出しの呪文」「起動の呪文」「脅迫の呪文」「困惑の呪文」と次々に唱えて、その実力を見せ付けることになります。(結局排除できないんですけどねー・笑)
1~2章で軽く天地創造についても語られてるんですが、こういう呪文の中で新たな創造の一面が分かるのがまた面白いんですよね。

小泉保さんの訳はとても読みやすくて面白いし、解説も勉強になります。ただ、この世界の神々については、あんまり体系的に語られていない... というか、時々話のついでに登場する程度なんですよね。どうやら「カレワラ」こそが神話というわけでもないみたい。神話と重なる部分も多いはずだけど、これはあくまでもフィンランドの伝説に基づく叙事詩。純粋な神話も読みたいんだけど... そういう本はあるのかしら?(岩波文庫)

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何不自由なく育った若者・ルキウスが、所用でテッサリアに出かけた時のこと。ルキウスはミロオという男の家に滞在することになります。ミロオの妻のパンフィレエは一流の魔女だという女性。しかもハンサムな若い男に目をつけると、甘い言葉で言い寄り、飽きれば石や羊に変えてしまうという噂。日頃から魔術に興味を持っていたルキウスは、まず侍女のフォーティスに近づき、フォーティスの手引きで、パンフィレエが体中に膏油を塗ってみみずくに変化して飛び立つ様を覗き見することに。ルキウスは自分もやってみたくて膏油を取ってこさせるのですが、フォーティスが持って来たのは違う膏油。ルキウスは、なんとろばになってしまい...?!

ローマ時代の弁論作家・アプレイウスによる小説。同じくローマ時代に書かれたペトロニウスの「サティリコン」と共に、世界で最も古い小説なんだそうです。でも今読んでも十分面白い! 私が読んだのは1956年刊行という古い本なんですけど、呉茂一さんの訳もとてもよくて、すごく楽しかったです。
ろばとなったルキウスは、ろばの目から人間世界の様々な裏表を目の当たりにすることになります。ろばから人間に戻るには薔薇の花を食べればいいと分かってはいるのですが(というのもすごい話だ)、そうそう都合よく薔薇の花は手に入らず、薔薇の花が咲く季節まで、今にも殺されそうになったり去勢されそうになったりと大変な日々を送ることに...。フォーティスと艶っぽい日々を送りながらも一転してろばに身を落とし、苦労を重ねて最後にはイシス女神の導きで人間に戻り、宗教心に目覚めるところは、やっぱり精神的な成長物語と言えるのでしょうかー。
枠物語として沢山の物語が入ってるんですが、その中でもキューピッドとプシュケーの物語は有名。私も色んなところで読んでます。でもこの訳でこの本で読んだのが一番良かったな。「美女と野獣」のような物語も、実はこれが元となっているのかもしれないですねー。(どうもこの話だけでなく、「黄金のろば」自体どこかで読んでいるような気もしますが... 妙に覚えがある場面が色々と)(岩波文庫)

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聖なる石の産地であり、魔女たちの故郷でもあるソーントーンに育ち、その年初めて先輩魔女と共に旅に出たのは、14歳になったばかりの見習いの魔女・ジリオン。長い旅もようやく終わりに近づき、明日はようやく山に帰る日。その日も村人たちの治療が一日中続き、日が暮れる頃にはジリオンは疲れ切っていました。しかし寝床に入ったジリオンは、夜更けの客に起こされることに。それは大きな青狼の毛皮を頭から被っている若い男。男は馬が毒に犯されたので助けて欲しいとジリオンに訴えます。そして男は、どうしても同意しようとしないジリオンの下腹を拳で打ち、意識を失ったジリオンから一番大事なサイトシリンの石を奪ったのです。

ソーントーン・サイクル3部作。久美沙織さんの作品を読むのは、ドラゴンファームシリーズ以来。このソーントーン・サイクルは、明るくて楽しかったドラゴンファームシリーズとはかなり雰囲気が違うんですね。文章も硬めで、まるでハヤカワ文庫FTの翻訳ファンタジーを読んでるみたい。ドラゴンファームも良かったけど、これもなかなかいい感じ...? でも会話文に時々妙に砕けた部分があるのがちょっと... やっぱりこういうのは翻訳作品にはあり得ない部分ですね。せっかくいい雰囲気なのに、会話でブチ壊さないで欲しいなあ。性悪の魔女の蓮っ葉な様子は、まるで一昔前のテレビドラマみたいで、ものすごく安直に感じられてしまいました。もうちょっと雰囲気を出しながらというわけにはいかなかったのでしょうか... そうでなければ、全部硬い方が断然好み。これじゃあ作品そのものが安っぽく感じられてしまうー。
でも、物語そのものはなかなか面白かったです。ジリオンの魔女としての成長物語... と言うには、かなり痛い展開が続いて悲惨だし、一体この人物や場面には必然性があったのかしら?なんて思ってしまった部分も何箇所かあったんですが、最後は綺麗に閉じてくれて満足。意外な人物の意外な魅力が見られたところが好きだったなー。読後感も良かったです。オリジナリティな部分も色々あって、しっかりとした世界観を持つファンタジーでした。(新潮文庫)


+既読の久美沙織作品の感想+
「石の剣」「舞いおりた翼」 「青狼王のくちづけ」久美沙織
Livreにドラゴンファームシリーズの感想があります)

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イギリスのヴィクトリア朝の詩人・テニスンと明治時代の文豪・夏目漱石の共通項は、実はアーサー王伝説。テニスンはアーサー王伝説に題材をとって「シャロット姫」「国王牧歌」といった作品を書いていますし、夏目漱石も、マロリーの「アーサー王の死」やテニスンの詩を元に「薤露行(かいろこう)」という作品を書いてるんですね。漱石にこういう作品があったとは知らなかった。

ということで、まずテニスンの「シャロット姫」。
塔に1人で住んでいるシャロット姫は、外を直接見ると呪いがかかると言われているので、日々鏡の中を覗き込み、そこに見える情景を布の中に織り込んでいます。しかしそんなある日、鏡に騎士ランスロットが映り、シャロット姫は思わず窓の方へ... その途端、鏡は割れ、織物は飛び散ります。その後キャメロットに流れ着いたのは、息絶えたシャロット姫の遺体を載せた小船。
この詩には多くの画家も触発されたようで、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(こんなのこんなの... こんなのもありますね)やウイリアム・ホルマン・ハント(こんなの)など、ラファエル前派の画家によって多く描かれています。こんなページも発見。アガサ・クリスティの「鏡は横にひび割れて」もここから取った題名ですね。「赤毛のアン」のアンも、友達とシャロット姫ごっこをしてますし~。
そしてテニスンの詩に触発されたのは、夏目漱石も同様。
テニスンの「シャロット姫」では、ランスロットに恋し、その恋によって死んで小船で流れ着くのはシャロット姫ただ1人なんですが、漱石の「薤露行」では、塔からランスロットを見て死ぬシャロット姫と、ランスロットに恋して死んで小船でキャメロットへとたどり着くエレーンという2人の女性がいます。この女性のどちらもが、テニスンのシャロット姫とはまたちょっと違うんですねえ。塔のシャロット姫は怖いです。ランスロットを一目見た時、「シャロットの女を殺すものはランスロット。ランスロットを殺すものはシャロットの女。わが末期の呪いを負うて北の方へ走れ」なんてランスロットに呪いをかけた途端、「?(どう)と仆(たお)れ」て死にますし(いきなり...)、ランスロットが北へ向かう途中出会うエレーンは逆に、全然振り向いてくれないランスロットに焦がれながら死ぬんですが、自分を憐れに思って欲しいなんて手紙を書いて、死んだら手に握らせておいてくれと父親に頼んでます。思いが深いというか情が強いという点では共通していますけどね。

どちらの作品もとても美しいです。でも私にとって一読して簡単に理解できるような作品でもないので(こんな浅い記事ですみませんー)、味わいつつ噛み締めつつ、折に触れて読み返すことになりそうです。そうやって読み続ければ、そのうちもっと色々のことが感じ取れてくるでしょう、きっと。
それに対して、テニスンの「国王牧歌」はそれほど難しくないです。これは全12巻1万余行の叙事詩。叙情的な詩に比べると、やっぱり叙事詩は読みやすいー。でも、この詩集に収められているのは、最終巻の「アーサーの死」だけなんです。致命傷を受けたアーサーに頼まれたベデヴィア卿が3度エクスキャリバーを捨てに行く場面と、アーサーを乗せた船が去っていく場面。(こっちも船だ!) この「国王牧歌」が全部読みたいんですけど、どうやら日本語には訳されてないみたいで残念。原書で読むしかないのかなあ...。

「テニスン詩集」にも「倫敦塔・幻影の盾」にも、他にも色んな作品が載ってますし、もちろんそちらも読んでるんですが、今回の注目はアーサー王伝説ということで♪ (岩波文庫・新潮文庫)


+既読の夏目漱石作品の感想+
「夢十夜」「冥途」「猫町」
「明暗」夏目漱石・「続明暗」水村美苗
「対訳 テニスン詩集」「倫敦塔・幻影の盾」夏目漱石

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子供の頃から「ギリシア・ローマ神話」でお馴染みだったブルフィンチ。神話関係で有名な人なので、ずっとイギリス人か、そうでなくてもヨーロッパの人なんだろうと思っていたんですけど、実はアメリカ人だったんですねー。「ギリシア・ローマ神話」「中世騎士物語」、あと「シャルルマーニュ伝説」(近々読む予定)の3冊は、どうやらイギリス文学を読もうと考えているアメリカ人のために書かれた本のようです。必要な知識を手っ取り早く得るための本だったのか。道理で、幅広く分かりやすく網羅しているはずです。確かにヨーロッパの文学を読む時は、神話とか英雄伝説といった基礎知識があった方が絶対いいですものね。あと聖書も。...本書の訳者の野上弥生子さんも、この本や「ギリシア・ローマ神話」を訳したのは、「西欧の芸術文化を理解するにあたって、なくてはならない知識を一般に与えたいためであった」と書かれていました。確かに騎士道物語や英国における英雄伝説に関する幅広い知識が得られる本書は、入門編にぴったり。

以前、同じブルフィンチの「新訳アーサー王物語」を読んだ時は、その浅さに正直がっくりきたんですが、これはなかなか面白かったです。まず冒頭には、中世英国の歴史。社会的な状況や当時の騎士に関する簡単な説明があって、シェイクスピアで有名なリア王なども登場。次はアーサー王伝説。これが本書の中心ですね。明らかにマロリーの「アーサー王の死」を元にしたと思われます。そして、アーサー王伝説も登場する中世ウェールズの叙事詩「マビノジョン」。「アーサー王の死」はもちろん、「マビノジョン」も去年読んでいるので(記事)、特に目新しい部分はなかったんですが、それでも楽しめました。そして最後に「英国民族の英雄伝説」の章では、「ベイオウルフ」「アイルランドの勇士キュクレイン」「油断のないヘレワード」「ロビン・フッド」という4人が簡単に取り上げられています。この章に関してはごくごく簡単な取り上げ方なので、特にどうということもないのですが... ウォルター・スコットの「アイヴァンホー」にロビン・フッドが登場してると知ってびっくり。そうだったんだ! 迂闊にも全然知りませんでした。うわー、ロビン・フッド大好きなんです。これはぜひとも!読んでみたいと思います。(岩波文庫)


+既読のトマス・ブルフィンチ作品の感想+
「中世騎士物語」ブルフィンチ
「シャルルマーニュ伝説」トマス・ブルフィンチ

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バグパイプ奏者のジェーニー・リトルは、祖父の家の屋根裏部屋で、祖父の旧友であり、今は亡き作家のウィリアム・ダンソーンの未発表の小説本を見つけます。そのタイトルは、「リトル・カントリー」。限定発行一部のみという表記のある羊皮紙の本には、祖父に宛てて、この本は絶対に手放してはならない、そして何があろうとも絶対に公表してはならないという手紙がついていました。元々ダンソーンの大ファンだったジェーニーは、屋根裏部屋に座ったまま、その話を読み始めます。しかしジェーニーがその本を読み始めたことによって、何かが動き始めたのです。ジェーニーの周囲に妙な人々が出没し始めます。

隠されていた本を見つけた途端、謎の秘密結社が暗躍し始める現実世界の物語は、ミステリアスなサスペンス風。魔法で小人にされてしまった少女が仲間と一緒に魔女と戦うという、ダンソーンが書いた本の中の世界は、魔女と魔法のファンタジー。この2つの世界が交互に描かれていくんですが、そのどっちもが面白い! 読み始めた途端、ぐいぐいと引き込まれてしまいました。舞台であるイギリスのコーンウォールもすごく魅力的に描かれてるんです。で、てっきりイギリスの作家さんなのかと思ったら、カナダ在住のオランダ人と分かってビックリ。でもチャールズ・デ・リントは元々作家である以前にケルト音楽奏者なのだそうで、納得。何度も訪れてるんでしょうね。音楽家だったなんて。道理で演奏シーンがリアルに楽しそうなわけだ!(巻末には、主人公の作曲した曲の譜面までついてました)
そしてこの作品で面白いのは、ジェーニーとその祖父、そしてジェーニーの友人2人が、同じ本で違う物語を読んでいるということ。たとえ同時に文字を追っていたとしても、それぞれに読んでいる物語はまるで違うというところなんです。ジェーニーが読んでるのはファンタジーだけど、他の3人が読んでるのはそれぞれ、場所的な設定はそのままだけど、冒険物だったり、恋愛物だったり。作中にはジェーニーの読んだ物語しか載っていないのですが、他の3人の読んだ物語も読みたくなってしまいました。
ただ、肝心の主人公のジェーニーがあまり好きになれなかったのが残念... これほど癇癪持ちだと周囲も大変でしょうね。悪役の女性の方がよっぽど可愛く感じられてしまいました。(苦笑)(創元推理文庫)


+既読のチャールズ・デ・リント作品の感想+
「リトル・カントリー」上下 チャールズ・デ・リント
「ジャッキー、巨人を退治する!」チャールズ・デ・リント

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紀元前8世紀、ローマを建国したロムルスとその双子の弟・レムスを回想する「火の鳥はどこに」、紀元前5世紀のペルシャで、子供が生まれないために、幽鬼(ジン)疑惑をかけられて追放されたペルシャのヴァシチ王妃と、王妃を追いかけた小人のイアニスコスの物語「ヴァシチ」、13世紀のイギリスを舞台に、2人の少年と1人の少女の冒険譚を描いた「薔薇の荘園」の3編。

トマス・バーネット・スワンは元々詩人なのだそうで、どれも詩人らしい叙情性に満ちた美しい作品でした! れっきとした史実を背景にしながらも、半人半獣のファウニ(フォーン?)や、木の精(ハマドリュアス)、ユニコーン、幽鬼(ジン)、マンドレイクといった神話的な存在が登場して幻想味たっぷり。こういうの好きだなあ。あ、もちろん、いかに幻想的な舞台背景ではあっても、史実の裏側を書いているようでも、そこに描いているのは人間そのものでしたけどね。
3編の中で一番気に入ったのは、ペルシャを舞台にした「ヴァシチ」。これはゾロアスター教の光明神アフラ・マズダと暗黒神アーリマンが基礎となった、光と闇の戦いの物語。ペルシャといえば、以前「王書」は読んだんですが(記事)、これはペルシャがゾロアスター教からイスラム教に変わった後に書かれた詩なんですよね。ゾロアスター教に関して、あまり知識がないのがとっても残念。クセルセス王のギリシャ遠征のことも、もっと知ってたらもっと楽しめただろうな。そちら方面の本も探してみなくてはー。(ハヤカワ文庫SF)


+既読のトマス・バーネット・スワン作品の感想+
「薔薇の荘園」トマス・バーネット・スワン
「ミノタウロスの森」「幻獣の森」トマス・バーネット・スワン

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ジョイリーの女領主・ジレルが征服者ギョームに敗北を喫します。兜を取ったジレルの美貌に見とれたギョームにくちづけを強いられ、怒りに駆られるジレル。ギョームを倒す武器を手に入れるために地下牢を抜け出し、城の地下からひそかに通路が通じている地獄へと向かうことに... という表題作「暗黒神のくちづけ」他4編の連作短編集。

ハヤカワ文庫SFに入ってるんですが、これはSFではなくファンタジー作品ですね。舞台となっているのは中世のヨーロッパ。5つの短編のそれぞれで、主人公が超常的で、人間の力の及ばない場所に行き、それでも何とか自分の力で切り抜けていくというパターン。ヒロイック・ファンタジーならぬヒロイニック・ファンタジーです。
ヒロインのジレルは、どうやらスタイルはいいみたいなんですけど、あんまり女っぽくありません。赤毛の短い髪と金色に燃える眸、男に負けない大柄な体、そして男以上の獰猛さを持つ女性とあるので、かなり迫力の怖いおねーさんですね。男なんて全然目じゃないので、「暗黒神のくちづけ」では無理矢理キスされて怒り狂ってます。だからといって、いきなり地獄にまで行かなくても... なんですが、地獄の情景はとても良かったです! 3編目や4編目で訪れる魔法の国や暗黒の国の描写もとても魅力的。こういう描写が素敵な作家さんなんですねー。...ただ、無理矢理キスされて、逆にその相手がなんだか気になってきたわ~的な展開は、ちょっと気になったんですが... それに全編通してキスぐらいしか出てこないのに、妙にエロティックな雰囲気なのはなぜ。
思った以上に面白かったんですが、イラストが松本零士氏なんですよね。この方のイラストの女性って、どうしてこんなに全部メーテルなんだろう? ジレルとはイメージがちがーう。しかもジレルの髪は短いってあるのに、相変わらずの長い髪の女性の絵なんです。なんだかなあ。(そういやこの表紙の絵は誰なんだ?)(ハヤカワ文庫SF)

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かつて意気投合した高名な映画音楽家の指示通り、夜中に起き出して、40年間空き家になっている屋敷へと向かった16歳のマイケル。渡されていた鍵を使って玄関のドアから入り、家の中を通り抜けて裏口から外へ。そして再び左の隣家の玄関から入って中を通り抜けて裏口へ。途中、裏庭のパティオにいた女性に追われて慌てるものの、マイケルはなんとか指示通りに6つ目の門を開けて飛び込みます。その門の先にあったのは、妖精シーと人間、そしてそのハーフが暮らしている妖精の王国。地球ではない、全く別の場所だったのです。

マイケルが行ってしまう異世界は、基本的にシーの国。一応人間もいるんですけど、特定の場所に保護されてます。そこにいる人間たちは、全て音楽にまつわる人々。ピアニストだったり、トランペッターだったり、音楽評論家だったり、音楽教師だったり、ある音楽会を聴きに行っていた人だったり。
マイケル自身もワケが分からなくて困るんですが、読者の私もワケが分からなくて困っちゃう。なんでマイケルがここに来ることになったのかも分からないし(マイケルは音楽家ではなくて詩人)、わざわざ他の人と違う方法でやって来なければならなかった意図も分からないし、ここで何をすることになってるのかも分からない! そもそもこの世界の設定自体、分からないことだらけなんです。みんなマイケルに学べ学べと言うんですけど、質問してもまともに答えてくれる人はほとんどいないし、それ以上質問するなって怒られたりしてるんですよね。マイケルの「質問しないでどうやって学ぶのさ?」という台詞は本当にごもっとも! 読み進めていくうちに徐々にこの世界のことが分かってくるという構成なんですが、これがほんと分かりにくくて、実は「無限コンチェルト」の途中で話が分からなくなってしまった私...。仕方がないので、とりあえず1冊読み終えてから、また最初に戻って読み返すことに。でも一旦分かってくれば、骨太でなかなか魅力的な世界観。続編がなかったらきっとここで諦めてたかと思うんですけど、もう一回読んで良かったー。苦労した甲斐がありました。
詩と音楽の使い方が面白かったし、宇宙の成り立ちにまで話がいってしまうところは、さすがSF作家。とは言っても、感想がものすごーく書きにくい作品なので、ここにもまともなことは書けそうにありませんが... 2冊で1000ページ超、とにかく読み応えがありました。きっと再読したらさらに面白くなるんでしょう。でもとりあえずは「ぐったり」です。(ハヤカワ文庫FT)

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見慣れない黒ずんだ建築物のある都市を暗黒の生き物が襲い、深夜の街を慌てふためきながら逃げまどう人々。それはジルのみている夢でした。しかもジルは、自分が夢を見ているということをよく分かっていたのです。しかしその夢はとてもリアル。同じような夢を何度も見るうちに、それが単なる夢ではないことにジルは気づき始めます。そしてある晩ジルがふと目覚めると、アパートの台所のテーブルには夢の中で出会った魔法使いが座っていたのです。

ダールワス・サーガ3部作。ダールワスという、中世ヨーロッパ的な異世界の王国を舞台にしたファンタジーです。異世界に巻き込まれるのは、大学院で中世史を専攻しているジルと、偶然現れた自動車整備工・ルーディの2人。
作者のバーバラ・ハンブリー自身が中世史を専攻していたそうで、ダールワスの描写にもそれがよく表れていました。石造りの建物の重厚で陰鬱な雰囲気も、宗教と政治の対立具合も、とても中世っぽい雰囲気。となると雰囲気はとても好きなはずなんですが... どうも今ひとつ入り込めませんでした。研究者肌のジルには実は戦いの才能があって衛兵にスカウトされたとか、自動車整備工のルーディには魔法の力があって、魔法使いの弟子になったとか、ちょっと普通とは違う役割分担のところも面白いし、さらにこの2人の最終的な決着の辺りも普通のファンタジーとは違っていて個性的だなと思ったんですけど... 中世の世界に現代人がタイムスリップして現代の知識を生かすというのも嫌いじゃないはずなんですけどねえ。どこかSFっぽさが感じられてしまうのが、違和感だったのかしら。

結局、ジルとルーディをこの世界に連れてきた魔法使いインゴールドの言葉が一番興味深かったです。

魔法使いは良い人々ではない。親切な心が魔法使いの一番の特徴になることはめったにない。魔法使いの大半は悪魔のように高慢だ。特に数ヶ月しか訓練を受けておらぬ者は。だからこそ会議があるのだ。宇宙の道を変えられると知ったうぬぼれをへこますものがなくてはならぬ。

これにはちょっと説得力がありました。なるほどね。(ハヤカワ文庫FT)

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月が人々の想像力を掻き立てなくなってしまったのは、現代科学技術の発展が、月を「地球を照らしだすただの光球」「既知の土地(テラ・コグニダ)にしてしまったから。それまで月は人間にとって「遥けきものであり」、もっとも身近な別世界であったのに、月を喪失することによって、人間は別世界をも失ってしまったのです。しかし別世界の創造を目的とするファンタジー作品の復活によって、人々は夢の中で別世界の生活を手に入れることに成功します。別世界が創造されるに至った背景と、別世界の必要性を中心にしたファンタジー論。

もしかしたら荒俣宏さんの文章とは合わないのかも...。「帝都物語」の時は思わなかったんですけど、今回読むのにかなり苦労しました。読んでも読んでも内容が頭に入ってこなくて、2回通して読んだ後、もう一回メモを取りながら読み返してしまいましたもん。でもきちんとメモを取りながら読んでみると、内容的にはとても面白かったです。別世界の象徴としての月の存在に関する考察からして面白かったですしね。あと私としては、「神話の森を超えて」の章が興味深かった。神話とは太古の歴史の集成でも、1つの哲学や思想が完成される以前の記録でもなく、生贄の家畜同様、神々に捧げられた神聖な供物であり、根本的に謎かけの儀式だったのだとか。(と、ポンとここにそれだけ書いても、説得力も何もあったものじゃありませんが)
この本でよかったのは、何といっても「書棚の片すみに捧げる」ということで巻末に収められているファンタジー作品のリスト。妖精文庫から出た当時は100冊が選ばれていたようなんですが、ちくま文庫版で180冊+2として選ばれていました。現在では入手が難しい本もあるとは思うんですけど、簡単なコメントが添えられた見やすいリストになっているのが嬉しいところ。で、調べてみたら、2002年に「新編別世界通信」というのも出ているそうなんですよね。今度は大幅に改訂されて、ハリー・ポッターまで含まれているのだそう。これもちょっと読んでみたいなあ。このリストも変わってるのかなあ。でもやっぱり本文は読みにくいのかなあ...。^^;(ちくま文庫)


+既読の荒俣宏作品の感想+
「花空庭園」荒俣宏
「別世界通信」荒俣宏
Livreに「帝都物語」の感想があります)

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怪奇幻想文学からSF、純文学、児童文学、古典など幅広く網羅する「ファンタジー」。その捉え方は人によって様々です。分かるようで分からない、新しいようでいて実は古い「ファンタジー」を、19世紀のイギリスから現代の日本におけるファンタジーノベル大賞に至るまで、歴史的な流れに沿って概観する本。

ファンタジーというのは、基本的には現実ではない、空想の物語なんですが、やっぱりその時代からの影響を受けずにはいられないし、その時代の変革を色濃く反映するもの。小谷真理さんは、実際に一度、出版目録や専門事典に載っている全てのファンタジー作品を時系列上に並べて歴史の流れを見てみたことがあるのだそうです。これは、私もやってみたーい! 膨大な作業なので、実際にはなかなか無理だと思いますが、やっぱりファンタジー好きである以上、主な作品の流れぐらいは知っておきたいですし、やれば色々な発見がありそうです。そしてそんな歴史の流れが、この本の中ではとても分かりやすくまとめられていました。これはいいかもー。
ただ、ここに登場するファンタジーは、ハヤカワ文庫FTやハヤカワ文庫SF、創元推理文庫で出ているような大人向けのファンタジー作品が中心なんですよね。児童文学に含まれるファンタジーはほとんど出てきません。(未訳作品の紹介も多いので、実際にはなかなか読めない本も多いのが残念) だから、子供の頃にファンタジー好きだった、という程度ではとっつきにくいかも。紹介されてるような本をある程度読んでいないと、ちょっとキビシそうな気がします。入門編というよりも、ある程度ファンタジー作品を読んだ人間向け? 私は今年はかなりハヤカワ文庫FTを読んだので、既読作品が結構あったし、とても興味深く読めたんですが、去年のこの時期に読んでいたら、今の半分も面白くなかったでしょうね。でもだからといって、限られたページ数の中でそれほど深くつっこんでるわけでもないので、来年の今頃読んでたら、もしかしたら物足りなかったかもしれません... 分かりませんが。(丁度いい頃合に読めてラッキー♪)

ところで、この本を読んでいて一番驚いたのは、「指輪物語」についてのくだり。「指輪物語」が、「魔王サウロンと、妖精女王ガラドリエルの間で世界を分ける大戦争が起きる」物語だと説明されてるんですが... えっ、そうなの?! そういう読み方をするものなの?! だってガラドリエルって、ロスロリエンから応援してるだけの人じゃないですか! それにトールキンにとっては物語創作の始めから存在していた人物じゃないんですよー。後から出てきても、「シルマリル」を遡って書き換えさせたほどの人物ではありますけど、やっぱりそれはちょっと違うんじゃないかなあ。...と、それまで楽しく読んでいたのに、いきなり不安になった私です。^^; (ちくま新書)


+既読の小谷真理作品の感想+
「ファンタジーの冒険」小谷真理
「星のカギ、魔法の小箱」小谷真理

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神(アラー)の御心によって、イスラム教の第三天国にいる生と死を司る天使・イズライールの前に立っていたのは、妖霊(ジン)・ハーリド。ナジド王国の世にも美しいジフワー姫が結婚することになった時、その王子が嘘つきで偽善者と知り、殺してしまったハーリド。最初はアラーによる死を免れないと思われるのですが、王子がイスラム教を信じる気がないどころか、ジフワー姫や人々を異教に改宗させようとする不信心者だったと分かったため、ハーリドは命を救われ、購いとして人間としての生を与えられることに。そしてジフワー姫と結婚し、もし姫がハーリドへの愛に目覚めればハーリドには不死の魂を授けられ、愛に目覚めなければ地獄で焼かれることになったのです。

思いがけず、同じような場所が舞台の作品が続きました。でもダマール王国物語が昼の砂漠のイメージなら、こちらは夜です。華麗なアラビアンナイトの世界~。作品自体は100年以上前に書かれたものだし、言ってみればよくあるパターンではあるんですが、でもすごく素敵でした。ダマール王国物語も面白かったけど、比べてしまうと深みが全然違うなあ。
感情よりも理性が遥かに勝っているジフワー姫に自分を愛させることは、ハーリドにとって予想外の難問。ハーリドはまず戦争で勇敢に戦って勝利を収め、その勇気と強さを見せつけ、次に敵の城を落として夥しい戦利品を手に入れ、その後は美しい女性絡みでジフワー姫の嫉妬心を煽ろうとします。そしてその合間にも、愛について語ろうとするのですが... これがなかなかうまくいきません。もちろん、最後にはハーリドが姫の愛情を得るのだろうというのが予測できるんですけど、それまでの過程にイスラム教徒とその風俗や文化、世界観などが現れていてとても面白かったです。欲を言えば、ハーリドが妖霊だった時の場面を最初に少し見てみたかったかなあ。あとイスラム教の天国の描写をもっと読みたかったですね。でもきっと今の形の方が全体的なまとまりとしては良いのでしょう。子供の頃からアラビアンナイトは大好きだったし、やっぱりこの雰囲気には憧れます。(ハヤカワ文庫FT)

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両親が亡くなり、兄に呼ばれるがまま本国を船で発って、砂漠の町・イースタンにやって来た少女・ハリー。そしてある日イースタンに現れたのは、古くからある砂漠の王国、ダマール王国の王・コールラスでした。コールラスは、北方族の侵略に対して、イースタンの人々と共同戦線を張りたいと申し入れに来たのです。しかしイースタンの人々はその申し出を断り、数日後、コールラスは部屋で眠っていたハリーを人質としてひそかにダマール王国へと連れ出すことに... という「青い剣」と、「青い剣」では既に伝説となっているいにしえのイーリン姫の物語「英雄と王冠」。

ダマール王国シリーズ2冊。
ハリーの本国は、はっきりとは書かれてないのですが、19世紀~20世紀の華やかなりし頃の大英帝国という感じ。「青い剣」は、砂漠の国の王に攫われた背高のっぽの少女・ハリーが、伝説のイーリン姫の力も借りて成長し、いつの間にか英雄になっていくという物語です。攫われたハリーがやけに落ち着きすぎてるし(もちろん泣き寝入りぐらいはするんですが)、攫ったコールラスに対してまるで敵意を持たないし(丁重すぎるほど丁重に扱われるとは言っても、ねえ)、ダマールの人々とすっかり仲良くなってしまって、言われるがまま行動するのにはちょっと引っかかるんですが...(ストックホルム症候群?) でも、まあ、それに対する理由もないわけではないんですよね。その辺りを気にしすぎなければ、結構面白かったです。砂漠の民であるダマール王国の人々の旅の情景も鮮やかだし、脇役たちもとても魅力的。そしてダマール王国でも限られた人々の持つケラーという力が謎めいていて、興味をそそります。
「英雄と王冠」の方も面白かったのだけど、こちらは「青い剣」ほどではなかったかな。「青い剣」で語られるイーリン姫は、颯爽とした気の強いお姫さまのイメージなのに、本物は結構情けないし、それ以前に、構成がちょっと分かりづらくって。あと、イーリンと仲良しのトー王子が気に入ってたので、余計な男がしゃしゃり出て来てイヤだったというのもありました。(笑)
訳者あとがきによると、ダマール王国シリーズ第3作が予定されていたようなんですが、どうなってるのかな? もう書かれてないのかしら? まあ、この2冊で完結してる方がすっきりしてるかもしれませんが...。(ハヤカワ文庫FT)

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ニューヨークの共同墓地・ヨークチェスターに19年もの間隠れ住んでいるジョナサン・レベック。ある時ぐでんぐでんに酔っ払ってここに迷い込んで以来、鴉に1日2回の食事を運んでもらいながら、ここに暮らしているのです。幽霊を見ることができるレベックは、死者の話し相手となって相手の気持ちを落ち着かせたり、一緒にチェスをしたり、本を朗読する毎日。そんなある日、新たにマイケル・モーガンという男が墓地に埋葬されます。

以前「最後のユニコーン」を読んだ時に(感想)、ちょろいもさんがこの「心地よく秘密めいたところ」もいいと伺って、読もうと思っていた本。もっと早く読むつもりだったのに、ずいぶん遅くなってしまいましたー。(それでも1年は経ってないからまだマシなのだ)
まるで神話の世界のような「最後のユニコーン」とは違って、とても現実に近い物語なのだけど、独特の雰囲気は共通してますね。あくまでも静か。墓地が舞台の物語なので当然といえば当然なんですが、本当に静かに淡々と進んでいきます。途中、マイケルの死は毒殺なのか自殺なのかといった興味はあるんですが、基本的にはそれほど起伏のない物語。ただ、舞台が墓地で、死と隣り合わせだけに、とても登場人物たちの言葉に哲学的な雰囲気があるんですよね。レベック氏がマイケルに語る「死」というもの、静かに記憶がなくなっていくそのイメージが素敵です。人生から逃げ出したレベック氏や、夫を失って以来時間が止まっているようなクラッパー夫人にとって、ここはまさに「心地よく秘密めいたところ」。ここにいることは、人生における執行猶予期間なんでしょうね。人生半ばで死んでしまい、死んだ自分と向き合う時間を持つことになったマイケルやローラにとっても同様。まさにそれぞれにとっての「死」と「再生」の物語なのでしょう。
そしてこの作品で印象に残るのが鴉! ボロニヤ・ソーセージやローストビーフ・サンドイッチの重さによろけ、時にはトラックの荷台で休みながらも、レベック氏に食べ物を届け続け、皮肉な言葉を吐き続ける鴉の姿がとても微笑ましくて良かったです♪ こんな話を読んだら、鴉に対するイメージが変わっちゃうな。(そういえば、ジョージ・マクドナルドの「リリス」でも鴉が印象的だったなあ)

この作品は、ピーター・S・ビーグルが19歳の時に書いたものだと知ってびっくり。19歳でこういう作品が書けるものなんですか! てっきり、既に人生を重ねて老成した時期の作品かと... 凄いなあ。良かったです。(創元推理文庫)


+既読のピーター・S・ビーグル作品の感想+
「最後のユニコーン」ピーター・S・ビーグル
「心地よく秘密めいたところ」ピーター・S・ビーグル

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魔法の国ザンスシリーズの4作目と5作目。最初の3冊を読んだ時にすっかりおなかいっぱいになってしまって(感想)、これでオシマイにしておこうかななんて思ったんですが、読んでみたらやっぱり面白かった!
特に「魔法の通廊」の方は、読みながら何度も笑ってしまいました。これはザンスの外の魔法の存在しない世界(全部ひっくるめてマンダニアと呼ばれています)に行った王と女王が予定の1週間を過ぎても帰って来なくて、1作目の主人公ビンクの息子ドオアが探しに行く話。ドオアの魔法の力は、無生物と話す能力なんですよね。だからドオアがいると、石だの水だの壁だのが話し始めてとっても賑やか。たとえば、ドオアが城の堀の水に「知っていることを言え。でないと、この石をぶつけるぞ」と脅すと、水もおびえるんですけど、投げられそうになった石も「うへえ! こんなドロドロの汚水になんか、投げ込まないでくれ!」と言ってたり。(笑) 3巻の「ルーグナ城の秘密」もドオアが主人公で面白かったし、ドオアが主人公の話って実は結構好きかも。そしてこの4巻では、ザンスとマンダニアの地理的時間的繋がりが、初めて明らかになりました。これは色々冒険ができそうな設定ですねー。
5巻は、人喰い鬼のメリメリが7人の人外美女たちと旅をすることになる話。人喰い鬼なのに菜食主義者のメリメリは、気が優しくて力持ち。愛すべきキャラクターです。でも今回、知能(アイキュー)蔓の呪いですっかり賢くなってしまったり、魂の半分を取られて力が弱くなってしまったりと、アイデンティティの危機が! まあ、結末は想像がつくんですけど、意外と最後までじらして読ませてくれました。やっぱりこのシリーズは、もうちょっと読み進めよう。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「カメレオンの呪文 魔法の国ザンス1」ピアズ・アンソニイ
「カメレオンの呪文」「魔王の聖域」「ルーグナ城の秘密」ピアズ・アンソニイ
「魔法の通廊」「人喰い鬼の探索」ピアズ・アンソニイ
「夢馬の使命」「王女とドラゴン」ピアズ・アンソニイ

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地図屋のヤキン=ボアズは、何年もかけて息子にやる親地図を作り続けていました。そして息子のボアズ=ヤキンが16歳になった時、その地図を息子に見せることに。そこにはヤキン=ボアズが知っている全ての物事が書き込まれているのです。しかし息子が言ったのは、「ライオンは?」という言葉。ライオンは既に絶滅して久しいというのに...。そして数ヵ月後、ヤキン=ボアズは旅に出ます。1ヶ月経っても戻って来なかった時、ボアズ=ヤキンが親地図がしまってある引き出しをあけると、そこには地図はなく、「ライオンをさがしに行った」という書付が残されていました。

うーん、これは今ひとつ分からなかったです... とてもアレゴリカルな物語なのは分かるのですが...。荒俣宏さんの訳者あとがきに「ライオン」や、「ヤキン」と「ボアズ」という言葉について、色々と解説されていました。「ヤキン」と「ボアズ」はソロモンの神殿の2本の青銅の柱のことで、ユダヤ教とキリスト教にとってはとても重要なシンボル性を持つ言葉なのだそうです。...へええ。普通であれば、若い息子が冒険を求めて旅に出て、父親は家にいるものですが、この物語ではその逆。年老いた父親がまず家を出ています。探し求めるのは、既に失われてしまった「力」(ライオン)。父親は既に自分の妻の夜の相手ができなくなっているのですが、家を出てグレーテルに出会うことによって、そういった「力」の1つを取り戻しています。そして息子もまた父親を探す旅に出るのですが...。
帯にはピーター・S・ビーグルの「くやしい。ぼくは本書のような物語を書きたかったのだ!見事に先を越されてしまった」という言葉があったんですが、ピーター・S・ビーグルにそこまで思わせたものは何だったのか。うーん、私にはやっぱりよく分からない...。(ハヤカワ文庫FT)

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「マビノギオン」は、イギリスのウェールズ地方で吟遊詩人たちによって伝えられてきた叙事詩。その後、「ヘルゲストの赤い本」「レゼルッフの白い本」といった本に書き残されることになり、それらに収められた11編の物語が、19世紀になって初めてシャーロット・ゲストによって英訳され、「マビノギオン」という題名で広く知られるようになったのだそうです。
左の「マビノギオン」は、中野節子さんがウェールズ語から日本語へと直接訳したという初の完訳本。右はシャーロット・ゲストが19世紀に英訳した本にアラン・リーが挿絵を描いたのを、井辻朱美さんが日本語に訳したというもの。こちらには、ウェールズに広く流布していたという「タリエシン」という短い物語も収められています。

11編のうちの最初の4編は、まさに超自然的なケルト神話の世界。そこから徐々に現実的な物語へと移り、後半になると、後にアーサー王伝説を作り上げることになる騎士道物語になっていきます。ただ、アーサー王自身も登場するし、アーサー王の宮廷の様子も垣間見えるんですけど、むしろ騎士たちのエピソードが中心なんですよね。ここには魔術師マーリンも登場しませんし(これが残念)、アーサー王自身のエピソードもほとんどありません。
この2冊、内容的にはほぼ一緒なんですが、ウェールズ語からの直接の翻訳と、英訳からの翻訳ということもあって、固有名詞の表記が結構違うんですよね。あとシャーロット・ゲスト版ではまるっきり書かれていなかったり、表現がぼかされてる部分が目につきました。例えば「ダヴェドの大公プイス」(シャーロット・ゲスト版では「ダヴェドの王子プウィル」)では、大公プイスとアラウン王がお互いの立場を密かに入れ替えて1年間過ごすというエピソードがあるんですけど、アラウン王が許可(?)してるのに、プイスは絶世の美女であるアラウン王の妃の体には触れようとしないんです。それが後に友情をさらに強くすることにもなるんですが、シャーロット・ゲスト版では、その辺りがまるっきり欠落してました。こういうのって、18~19世紀のモラルによるものなのかしら? 同じく18~19世紀の作家トマス・ブルフィンチの著作でも、性的な部分が色々と欠落してると聞いた覚えが...。
中野節子さんの日本語訳は、平易で読みやすいです。井辻朱美さんの訳は、わざと古めかしい日本語にしているので、慣れるまでがちょっと読みにくかったんですが、雰囲気はたっぷり。「蒼天なんじに報いたまわんことを」といった感じですね。どちらの本がオススメかといえば、ちょっと難しいですが... シャーロット・ゲスト版の方が美麗な挿画も入っているし、固有名詞の訳でも一般的な名称を使ってるので、純粋に物語として楽しむにはいいかも。(例えばアーサー王に関して、井辻訳では「アーサー」と表記してますが、中野訳では「アルスル」なんです) でも中野訳の方には詳細な解説や、人名や地名の一覧がついているので便利なんですよね。一長一短かな? 私にとっては、どちらも読んで正解でした。(JULA出版局・原書房)

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石造りの城・ゴーメンガーストの周囲には<外>の民のあばら家が、貝がらのようにびっしりと張り付いており、それがこの世界の全て。そのゴーメンガーストの現当主は76代目のセパルクレイヴ。城での生活は、数限りない儀式によって支配されており、老書庫長のサワダストだけがただ1人、それを理解し取り仕切っていました。そしてその日の朝、77代目伯爵となる菫色の瞳をしたタイタスが生まれます。

先日「行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙」の感想で読みかけだと書いたゴーメンガースト3部作、最初の2冊をようやく読み終わりました。
これはトールキンの「指輪物語」と並んで、20世紀のファンタジーの最高峰と言われている作品なのだそう。でもその雰囲気は、正反対と言ってもいいほど違うんですね。「指輪物語」は、その後のファンタジー作品に多大な影響を与えてるし、実際追随する作品がとても多いんですけど、こちらの作品はとにかく独特。並大抵の作家じゃあ、こんな作品に追随する作品なんて書き上げられないんじゃないかしら。全編、陰鬱で重厚な雰囲気。暗くて重苦しいゴーメンガースト城の情景が、質感も含めて、周囲に浮かび上がってくるよう。しかも登場人物たちがまた、揃って個性的... というかアクが強いんです。どうやら美しい人間は1人もいないようで、それぞれに醜さが強調されてるんですけど、それが作品の雰囲気と相まって、ものすごく印象的なんですよね。マーヴィン・ピーク自身による挿絵も異様な雰囲気を醸し出してました。そしてこの作品、展開がとても遅いです。シリーズを通して、主人公は多分タイタスだと思うんですけど、1冊目が終わった時点で、まだ2歳ですから。(笑) でもその展開の遅さが逆に、ゴーメンガースト城をめぐる悠久の時の流れを感じさせます。
きっと絶賛する人は絶賛するんでしょうねー。という私は、絶賛というほどではなかったです。が、それでも読んでから時間が経てば経つほど、場面ごとの印象が鮮明になりそうな作品ではありました。でもとにかく読むのにパワーが... 本当は3冊まとめて感想を書きたかったんですけど、3冊目はやっぱりもうちょっと時間を置いてから読むことにします。ちょっとぐったり。(創元推理文庫)


+既読のマーヴィン・ピーク作品の感想+
「行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙」マーヴィン・ピーク
「タイタス・グローン」「ゴーメンガースト」マーヴィン・ピーク

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行方不明の伯父から甥に届いた手紙。それは、かつてイギリスを捨てて旅に出て、今は北極にいるという伯父が突然書いてよこしたもの。伯父さんは、雪原の帝王である幻の白いライオンを追い求めているというのです。

本当は「ゴーメンガースト」シリーズに取り掛かっているんですが、全3冊のうち、今2冊目の途中。これはものすごく重厚... というか暗くて重苦しくいファンタジー。こういうのをゴシック・ファンタジーというのかなあと思いつつ、分類には疎いのでよく分からないのですが... ちょっと疲れたので、そちらを中断して同じマーヴィン・ピークのこちらの本を読んでみました。
表紙の画像を見てもいい感じだと思ってもらえると思うんですが(オレンジの地に白抜きになってるのが、幻の白ライオンの絵がついた切手)、中身もいいです。要するに絵入りの手紙集なんですけど、これが凝ってるんですねー。本を開くとまず目にうつるのが味のある鉛筆画。左脚を失った代わりにメカジキのツノをつけている伯父さんの絵や、助手の亀犬・ジャクソンの絵、他にも動物たちの絵が沢山。この絵を描いたのはマーヴィン・ピーク自身なんです。そしてそんな絵を背景に、伯父さんからの手紙。タイプライターで打った紙を絵の余白に切り貼りしていたりして、芸が細かい! しかも伯父さんの使ってるタイプライターが古いので、文字によって太さも濃さもまちまちで、沢山ある誤字脱字が頻繁に訂正されていたり、手書きの説明が余白に記入されていたりするのが、日本語で再現されているんです。(原書ではどんな感じなのか見てみたい) その手書きの文字がまた汚い字なんですけど、雰囲気にぴったりなんですよね。いかにもこの伯父さんが書きそうな字。そして時には、手紙にコーヒーや肉汁、血の染み、足跡、指紋が...。(血の染みだけはあまりリアルじゃなかったけど)
手紙を受け取った甥の反応などはまるで分からないんですけど、こういう手紙を受け取ったら、やっぱりワクワクしちゃうでしょうね。陰鬱な「ゴーメンガースト」からは想像できないような、ユーモアたっぷりの冒険話。絵はいっぱいあるけど、絵本ではないです。意外と読み応えがあってびっくりでした。(国書刊行会)


+既読のマーヴィン・ピーク作品の感想+
「行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙」マーヴィン・ピーク
「タイタス・グローン」「ゴーメンガースト」マーヴィン・ピーク

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イギリスのヴィクトリア朝の作家、メアリ・ド・モーガンの童話集。職業作家ではなかったようなのですが、ウィリアム・モリスや画家のバーン=ジョーンズ、詩人のロゼッティといったラファエル前派の芸術家たちと家族ぐるみでつきあい、仲間内では話上手のレディとして人気があった人なのだそう。という私は、岩波少年文庫は大好きだったのに、この作家さんは全然知りませんでした... 迂闊。

一見昔ながらの童話集に見えるんですけど、いざ読んでみると、その内容はなかなかしたたか。意外と辛口でびっくり。特に表題作の「フィオリモンド姫の首かざり」がすごいです。これは、見かけはとても美しいながらも、実は邪悪なフィオリモンド姫が主人公。王様に「そろそろ結婚を」と言われた姫が、魔女の助けを借りて婚約者たちを1人ずつ宝石の珠にしてしまい、それを首かざりにしてしまうという物語。この本の表紙の絵は、フィオリモンド姫が婚約者たちの変身した宝石の連なる首かざりを、鏡でうっとり見入ってるところです。腰元のヨランダだけは姫の性悪さを知ってるんですが、他の人たちは皆、姫のあまりの美しさに心根も綺麗だと思い込んでいるんですよね。そういう話を読むと、大抵、邪悪な姫よりも健気な腰元に気持ちがいくんですが、この作品は違いました。この良心のかけらもないような姫の存在感がすごい。その邪悪っぷりが堪らなく魅力的。...って、そんなことでいいのかしら。(笑)
妻が黄金の竪琴に変えられてしまったのを知らずに、その竪琴を持って妻を探して諸国を歩き回る楽師の物語「さすらいのアラスモン」や、妖精に呪われて心を盗まれた姫の絵姿に一目惚れして、心を取り戻す旅に出る王子の物語「ジョアン姫のハート」なんかも、当たり前のように頑張ってハッピーエンドになる童話とは一味違ーう。それ以外の作品も、滑稽だったり哲学的だったり、なかなか幅も広いんですね。メアリ・ド・モーガン、気に入っちゃった。図書館にあと2冊あったし、それも借りてこようっと。(岩波少年文庫)


+既読のメアリ・ド・モーガン作品の感想+
「フィオリモンド姫の首かざり」ド・モーガン
「風の妖精たち」「針さしの物語」ド・モーガン

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アーサー王伝説の中でも特に有名な、中世英語詩の傑作「サー・ガウェインと緑の騎士」、瑕疵ひとつない大切な真珠を失ってしまったという宗教的な詩「真珠(パール)」、王妃を連れ去られてしまい、竪琴だけ持って荒れ野に隠遁するオルフェオ王の物語「サー・オルフェオ」、そして緑の礼拝堂へと向かう前のガウェインの歌「ガウェインの別れの歌」の4編。14世紀に中英語で書かれた作品のJ.R.R.トールキンによる現代英語訳、の日本語訳です。(笑)

「サー・ガウェインと緑の騎士」に関しては、英語でなら大学時代に読んだんですけど、日本語できちんと読むのは初めてかも。子供の頃に、R.L.グリ-ンの「アーサー王物語」(岩波少年文庫)の中で読んで以来ですね。でも、英語版にも、この冒頭の部分はあったかなあ... トロイア戦争、ローマ建国、ブリテン建国に触れられている辺りにはまるで覚えがないです。トールキンの創作? 緑の騎士の外見の描写も、私が読んだのとはかなり違うから、やっぱり創作なのかも。私が思っていた緑の騎士は「緑色の鎧兜に身を固めた大柄な騎士」なんですが、ここに登場する緑の騎士はすごいんですもん。この表紙の絵もすごいですよね。左がその緑の騎士。これじゃあまるで原始人? 右の小さな人影がガウェインです。「この世(ミドルアース)に常ならぬものすごさ」「巨鬼(トロル)の半分ほどもあろうかというほどの巨躯」という文章が、まるで「指輪物語」みたいで、さすがトールキンの世界になってます。...とまあ、その辺りはいいんですが、散文の形に訳されているのが、やっぱりとても残念。頭韻を日本語に移し変えるのは不可能だと思うけど、やっぱり詩にして欲しかった。うーん。

「真珠」は一種の挽歌なのだそう。幼くして死んだ娘になぞらえた「真珠」に導かれて、エルサレムを垣間見る美しい詩。(これは詩に訳されていました) 「サー・オルフェオ」は、ギリシャ神話のオルフェウスの物語のブリテン版。王妃がなぜ突然連れ去られたのかは分からないんですが、王と王妃の愛情、そして王の人望の厚さが清々しい読後感。

アーサー王関連の物語も、色々読みたいんですよね。アーサー王の伝説に関しては、子供の頃からずっと好きだったんですが、例えば「アーサー王の死」や「トリスタンとイゾルデ」みたいな本家本元的作品や研究書ばかりで、アーサー王伝説に触発されて作った作品にはあまり目を向けてなかったのです。それが一昨年、マリオン・ジマー・ブラッドリーの「アヴァロンの霧」を読んで開眼してしまって! と言いつつ、なかなか本格的に手がまわらなかったんですが、ギリシャ神話関連もそろそろ一段落しそうだし(読みたいのはまだあるけど)、今度こそ色々読んでみようかと~。(原書房)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

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旅人の語る物語、そしてその中に登場する青い花に心を奪われた20歳の青年・ハインリヒは、その夜、夢をみます。それは泉のほとりに生えた1本の淡い青色の花の夢。ハインリヒがその花に目を奪われていると、花は姿を変え始め、中にほっそりとした顔がほのかにゆらぎます。夢の青い花のことを考えてふさぎがちになった息子の気分を変えるために、母親はアイゼナハから郷里アウクスブルクに住む実の父のもとに、ハインリヒを連れて旅立つことに。

13世紀初め頃の中世ドイツが舞台の物語。この物語の主人公のハインリヒは、実在のほどは明らかでないにせよ、 13世紀初めに行われた歌合戦で、当時の著名な恋愛詩人たちを相手に競ったという、伝説の詩人なのだそうです。
「うるしのうつわ うたかたの日々の泡」のkotaさんが、たらいまわし企画・第25回「『ドイツ』の文学」で挙げてらして(記事)、その後イギリスの作家ジョージ・マクドナルドが影響を受けたと知って、ますます興味が湧いた本。硬質な質感を持つ作品だと仰ってましたが、確かに...。モチーフという意味では水の方が前面に出てきてるし、水のイメージも強いんですけど、なぜか鉱石のイメージが強く残ります。実際に鉱山の場面もあるんですけどね。とにかく、ものすごく美しい作品でした。特に作中で語られる「アリオン伝説」と「アトランティス物語」、「クリングゾール・メールヒェン」、そして水にまつわる2つの暗示的な夢がすごいです。美しくて幻想的。隠者の本を見る場面も良かったなあ...。
主人公のハインリヒが旅をする物語なんですが、旅を描くのが目的ではなくて、ハインリヒの成長を描くための旅。特に内的葛藤があるわけでもなく、常に受身で、しかしその中で自分の学ぶべきものを謙虚に学んでいくハインリヒの姿は、まるでシュティフターの「晩夏」(感想)の主人公のようだなあ... と思ったら、「晩夏」の主人公の名前もハインリヒではないですか! 何か関連が? それともドイツ人にとって「ハインリヒ」というのは、日本における「太郎」ですか?(笑)
年代的には、ノヴァーリスが1801年に29歳の若さで亡くなって、その4年後にシュティフターが生まれてます。

でもこの「青い花」は、未完の作品なんですよね。本には遺稿も併せて収録されていて、それを読むと完成しなかったのが残念でならないほど。今は美しさに目を眩まされちゃってるし(笑)、そうでなくても、一度読んだだけでは理解しきれたとは到底言えないので、折にふれて読み返してみたいですね。作中で語られているノヴァーリスの文芸観も面白いです。(岩波文庫)

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ウラル地方の民話をバジョーフがまとめたもの。表題作「石の花」はプロコフィエフの作曲でバレエにもなっていて有名ですね。私が知ったのも、バレエの方が先でした。でもバレエでは、「山の女王の愛を拒んだため石像に変えられた細工師ダニーロが、許婚カテリーナの深い愛情によって救い出される」という話で、山の女王が悪者になってたと思うんですが、元の話はちょっと違います。石の細工に取り付かれてたダニーロが、山の女王に諭されても聞く耳を持たず、頼み込んで石の花を見せてもらうんですもん。見たら許婚の元に帰れなくなるって知ってたのに。

全部で8編入ってて、どれもおじいさんが昔話を語るという形式。基本的にロシアの銅山での労働者たちの話です。銅や石を掘ったり、石に細工をしたり。彼らの生活はとても苦しいのだけど、山の情景がとても幻想的で素敵だし、作っている細工物は本当に見てみたくなってしまいます。ここで登場する「石」とは、基本的に孔雀石(マラカイト)。不透明の緑色で、縞模様が孔雀の羽を思わせることから、日本では孔雀石と呼ばれる石。古くから岩絵の具や化粧品の原料に使われてきていて、クレオパトラもこのアイシャドーを使ってたという話もあったりします。私自身は、孔雀石ってあまり好きじゃないんですけどね... でも、そのあまり好きじゃないはずの孔雀石が、この作品ではもう本当に素敵なんです。逆に、この本で孔雀石に興味を持った人が、実物を見て「イメージと違ーう!」と思うケースは多いかも...(^^;。

8編中最初の5編には一貫して山の女王が登場するし、人間側も徐々に世代交代して連作短編集みたい。後の3編は少し雰囲気が違うこともあって、私は最初の5編が好きです。山の女王がまたいい人なんですよ。「石の花」のダニーロに対しても、許婚がいるのに石の花なんて見たがってはダメだと言い聞かせてるし、気に入った人間にはその子・孫の代まで色々と世話をやいてあげてますしね。(悪戯好きな部分はなきにしもあらずですが...) ただ、山の女王の世界を人間が一度垣間見てしまうと、人間の世界には存在し得ない美しさにみんな取り付かれてしまうんですね。(岩波少年文庫)

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生まれた時から声が大きかったジェルソミーノは、産声は工場のサイレンと間違えられ、小学校に行くようになってからも、教室で答える声で黒板や窓ガラスを壊してしまう始末。そして、声で梨の木から実を落として村中が大騒動になってしまった時、ジェルソミーノは村を出ることを決意します。ジェルソミーノが国境を越えてやって来たのは、パン屋のことを「文房具屋」、文房具屋のことを「パン屋」と呼び、猫はわんわんと吠え、犬はにゃおんと鳴く「うそつき国」でした。

書かれた年代としては、「チポリーノの冒険」(感想)より後の作品なのだそうで、こちらには政治色はそれほど感じられないですね。もちろん風刺はたっぷりあるんですけど、まるで楽しいほら話みたい。というか、まるでケストナーの作品を読んでいるような感じ。
物を壊してしまうほどの声というのは、それほど目新しく感じないのですが、ジェルソミーノが「うそつき国」で猫のゾッピーノや画家のバナニートと仲良くなって繰り広げる冒険は、文句なしに楽しい♪ 悪役・ジャコモーネの末路もなかなか良かったです。
でもワクワクするよう展開の中で、立ちんぼベンベヌートのエピソードだけは切ないんですよね...。イタリア語で「ベンベヌート」といえば、英語の「Welcome」と同じ意味じゃありませんでしたっけ? 人の命を延ばすごとに自分の命を失ってしまう彼に、この名前を持ってきてる意味を考えてしまいます。もしかしたら、綴りが全然違うかもしれないのですが...。(筑摩書房)


+既読のジャンニ・ロダーリ作品の感想+
「猫とともに去りぬ」ロダーリ
「チポリーノの冒険」ジャンニ・ロダーリ
「うそつき国のジェルソミーノ」ジャンニ・ロダーリ
「パパの電話を待ちながら」ジャンニ・ロダーリ

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えへへー、指輪物語を再読してしまいました。
先日「ホビットの冒険」を読んだ後、他の本読みつつ、ちまちまと読み進めてたんです。ええと、前回読んだのが2002年なので、4年ぶりということになりますね。(サイトに記録があると、こういう時にほんと便利) 小学生の時に初めて読んで以来、これで何度目の再読になるのかは分からないぐらい読んでるんですが、この本は何度読んでも、いつも幸せな気分になります。もうほんと大好き。好きすぎて、感想を書きたくないぐらい。とは言っても、結局普通に読むだけで、マニアにはなれないんですが。(笑)
あ、箱のセットは「全9巻」になってますけど、10冊目の追補編も必読です。ここまで読んで「指輪物語」は完結。てか、私が最初に買った旧版の文庫は全6冊で、追補編まで全部入ってたので、どうしても抜かしたくないんですよね。...新版は全10冊、旧版は全6冊。差がありすぎるようにも思えますが、訳がどうこういう以前に、字の大きさや紙の厚みが全然違うので。それはもう笑ってしまうほど。
近いうちに、ロード・オブ・ザ・リングのDVDをまた見ようっと。そして「終わらざりし物語」を読もうっと。でも「終わらざりし物語」はハードカバーだから、持ち歩きできないのがツラいなあ。(評論社)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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「金の鍵」(岩波少年文庫) ... 「魔法の酒」「妖精の国」「金の鍵」の3編収録
「黄金の鍵」(ちくま文庫) ... 「巨人の心臓」「かるい姫」「黄金の鍵」「招幸酒」の4編収録
ジョージ・マクドナルドの作品は、様々な邦題で訳されているので分かりにくいのですが、「金の鍵」と「黄金の鍵」、「魔法の酒」と「招幸酒」はそれぞれ同じ物語です。

ジョージ・マクドナルドはルイス・キャロルと同時代に活躍し、トールキンやルイスに大きな影響を与えたという作家。スコットランド色の濃い「魔法の酒」(「招幸酒」)もとても面白くて好みなんですが、やっぱりこの中で一番素敵なのは、表題作の「金の鍵」(「黄金の鍵」)でした。
これは、虹のたもとで金の鍵を見つけた少年と、2人の召使にいじめられていた少女が、「おばあさま」の家で出会い、金の鍵の合う鍵穴を探しに行く旅に出る物語です。マクドナルドらしく、とても美しくて幻想的。そしてとても象徴的なのです。「おばあさま」や魚には、どのような意味が隠されているのか、2人が旅の途中で出会う、「海の老人」「大地の老人」「火の老人」とは。「老人」と言いつつ、その見かけは老人ではなかったりするし、特に「火の老人」の1人遊びが気になります。そして2人が最終的にたどり着く、「影たちがやってくる源の国」とは。どれもはっきりとは書かれていなくて、読者が想像するしかないのですが...。井辻朱美さんの「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」の下巻の情景は、もしかしたらこの旅の情景に影響を受けているのかも。なんて思ったりしました。そしてここに登場する「おばあさま」は、「お姫さまとゴブリンの物語」や「お姫さまとカーディの物語」(感想)に登場する「おばあさま」と同じ人物なのかしら? マクドナルドの作品全体を通して、「おばあさま」がとても重要な役割を担っているようです。(岩波少年文庫・ちくま文庫)


+既読のジョージ・マクドナルド作品の感想+
「お姫さまとゴブリンの物語」「カーディとお姫さまの物語」マクドナルド
「北風のうしろの国」ジョージ・マクドナルド
「かるいお姫さま」マクドナルド
「ファンタステス」ジョージ・マクドナルド
「金の鍵」「黄金の鍵」ジョージ・マクドナルド
「きえてしまった王女」「かげの国」ジョージ・マクドナルド

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ある朝、ビルボ・バギンズが朝食を終えて、自分の素敵な穴のドアの前でゆっくり一服楽しんでいた時、そこに現れたのは魔法使いのガンダルフ。ガンダルフはビルボを冒険に連れ出そうと思ってやって来たのです。しかしビルボは冒険なんぞ真っ平。翌日のお茶に招待すると言って、体よくガンダルフ追い払います。ところが翌日のお茶の時間に玄関の呼び鈴が鳴った時、ドアの前に立っていたのは1人のドワーフでした。次にまた1人。今度は2人。ひっきりなしにドワーフたちが現れ、結局ドワーフが13人とガンダルフが、ビルボを囲んでお茶をすることになり、ビルボはなぜか、昔ドワーフたちが竜のスマウグに奪われた宝を取り戻す旅に同行することに。

「指輪物語」を再読したいと思ってたら、ついついこちらから読み始めてしまいました。大人向けの「指輪物語」とは対照的に、こちらは子供向けの作品なので、読むのはそれほど大変じゃないんですけどね。いや、相変わらず楽しいなあ。でも、「指輪物語」もそうなんですが、最初はやけにのんびりした空気が流れているのに、だんだんシリアスな雰囲気になるんですよね。最後は「五軍の戦い」なんてものもあって、冒頭のいかにも「ホビットの冒険」という雰囲気からは離れてしまうのが、ちょっぴり残念。...と言いつつ、やっぱり面白かったんですけどね。「指輪物語」に登場するエルフのレゴラスの父、闇の森の王スランドゥイルや、ドワーフのギムリの父・グローインが登場するのも嬉しいところ。さ、これで「指輪物語」再読への準備は万全です。(岩波少年文庫)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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アヨーディヤーに住むダシャラタ王の第一王子・ラーマは、16歳になると賢者ヴィシュヴァーミトラの元で修行し、その後ミシラーのジャナカ王の娘・シータと結婚。しかしラーマが王位を継ぐことになった時、それに嫉妬した次男・バラタの母・カイケーイー妃とその召使女・マンタラーの陰謀で、14年もの間王国を追放されることになってしまいます。国を離れるラーマに従うのは、妻のシータと弟のラクシュマナ。しかしそんなある日、シータが羅刹ラーヴァナに攫われてしまい...。

1980年に出た本だというのに、アマゾンにもBK1にもデータがみつからない! 先日レグルス文庫版を読んだ時に、あまりの抄訳ぶりにがっくりきてたら、picoさんがこんな本もあるよと教えて下さった本。河出世界文学大系という全集の中の1冊です。図書館にあったので、早速読んでみました。
でも同じ「ラーマーヤナ」でも、レグルス文庫版とはちょっと違っていてびっくり。レグルス文庫はただの抄訳版かと思っていたんですけど、確かに全体的にはこちらの方が断然詳しいんですけど、そうではなかったのかしら? まず作者のヴァールミーキについても、こちらの本では最初から詩歌にすぐれた聖仙人とされてるんですけど、レグルス文庫版では、最初は盗賊だったヴァールミーキが心を入れ替えて修行し、霊感を得て詩を作るようになるまでのくだりがあるんですよね。物語の終盤も、結果的に起きたことは同じでも、なんだかニュアンスがどうも違うような... 不思議だ。あ、でも、やっぱりこっちの方が断然詳しいし、読み応えがありました。こちらの方が、枠物語という部分が前面に出ていたレグルス文庫版よりも、もっと純粋に王子ラーマの物語という感じがします。(河出書房新社)


+関連作品の感想+
「ラーマーヤナ」上下 ヴァールミーキ
「ラーマーヤナ」ヴァールミーキ

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「指輪物語」「ホビットの冒険」「シルマリルの物語」を中心に、トールキンが創り上げた中つ国関連の事柄や用語を「歴史」「地理」「社会」「動植物」「伝記」という分類で整理し説明した本。

「指輪物語」など一連の作品は、イギリスには良質な伝説がないと感じていたトールキンが、50年をかけて作り上げたという神話体系。固有名詞が本当に沢山あって覚えるのが一苦労なんですけど、それらの固有名詞や中つ国での出来事がとても分かりやすくまとめてありました。これから「終わらざりし物語」を読もうとしている私にとっては、それぞれの物語の復習にぴったり。
ただ、基本的にあいうえお順に掲載されている事典なので、目的の項目を引くことも可能なんですけど、そういった使用をするにはあまり向いてないかも...。相互に参照できるような機能もほとんどないし、全体を通しての索引がないので、例えばエルフの3つの指輪のことを調べたいと思っても、自分で5つの章のうちで当てはまりそうな箇所を考えて探すしかないんですよね。結局ヴィルヤ(風の指輪)、ナルヤ(火の指輪)、ネンヤ(水の指輪)という項目はなく、「歴史」の「太陽の第2紀」の説明にも「社会」のエルフの項目にも、「伝記」のケレブリンボール(3つの指輪を作ったエルフ)の項目にも3つの指輪に関する記述はなくて、持っていたであろう人物の項目を「伝記」で探すしかありませんでした。どちらかといえば、調べ物をするよりも、通して読むのに向いている本かと。...通して読んでいると、似たような記述が多くて、最後の方はちょっと飽きてきたりするんですけどね。(やっぱり相互参照させてくれればいいのに)
イラストに関しては、あまり好みではないものが多かったのがちょっと残念。アラン・リーやトールキン自身のイラストを使うという案はなかったのかなー。(原書房)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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実は文学作品だけでなく、多くの絵も描き残しているトールキン。実は、息子であるクリストファー・トールキンが「J.R.R.トールキンの著作研究は、絵をぬきにしては完全でありえない」と言っているほど。母に絵の描き方や飾り文字の書き方を教わって以来、描き続けてきたというトールキンの絵を200枚ほど、ほぼ年代を追って順に紹介していく本です。

トールキンが文学作品だけでなく、絵も多く描き残していたとは知りませんでしたが、実際に見てみると、見覚えがあるものが結構あってびっくり。まず中つ国の地図もそうですし、あとモリアの入り口のドゥリンの扉の絵とか!(この扉の絵は、トールキンの絵を元に、製版工が少し手を入れたようです) あと、昨日の「シルマリルの物語」の表紙の紋章も!(上巻がエルウェで、下巻がフィンゴルフィン) 実は既に色々と登場していたのですねー。
子供の頃の絵にも素敵なのがあったんですが、惹かれるのはやっぱりシルマリルの世界が浮かび始めた頃からの絵。絵を通してもイメージを膨らませていたんですね。「ニグルの木の葉」のニグルと重なっていたのは、文学面だけじゃなかったのか。「妖精物語について」の中で、妖精物語は本来文字で表現するのに向いているとした上で、もし絵画で表現しようとした場合、「心に描いた不思議なイメージを視覚的に表現するのは簡単すぎる」ので、逆に「ばかげた作品や病的な作品」なんて書かれてたんですけど、この本に掲載されているトールキンの絵を見る限り、「ばかげた作品や病的な作品」どころか、とても美しくて存在感のある絵が多くて驚かされるのですが! このまま挿絵として使われていないのが残念なほどですよぅ。もう本当にイメージにぴったりの絵が多くて嬉しくなってしまいますー。ちなみに、この本の表紙に使われてる絵もトールキンの作品です。これは「シルマリルの物語」の「マンウェの館」。絵を見るだけでも、神話の世界がトールキンの中に徐々に形作られてきた過程も見えてくるような気がしますし、それぞれの絵が描かれた状況にも詳細に触れられているのが嬉しいところ。絵画から見たトールキンの半生、とも言えそうです。
そして、文学作品から少し離れて、子供たちのために描いた絵が、またすごく可愛いんです。トールキンの遊び心たっぷりの楽しい作品ばかり。特に一連の「サンタ・クロースからの手紙」がいいなあ。サンタ・クロースや北極グマ、エルフなどキャラクターによって書体をまるで違うものにしているのも楽しいところ。子供たちに対する愛情もたっぷり。やはりこういった、本人も相手も楽しんでいるのが伝わってくるところから、傑作が生まれるのでしょうね。こういった作品は、絵本になっているようなので、今度ぜひ読んでみようと思います!(原書房)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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「トールキン神話の世界」を読んでいたら、無性にこれが読みたくなりました。再読です。「指輪物語」は中つ国の第3紀の物語でしたが、これはそこからさらに遡る1紀・2紀の物語。唯一神エル(イルーヴァタアル)が聖なる者たち(アイヌア)を創造し、アルダと呼ばれる世界を創り出したという神話。アルダに下ったアイヌアたちが世界を形作り、悪との戦いがあり、エルフ、人間、そしてドワーフの誕生... 「指輪物語」は大好きなんですが、神話好きの私にとっては、実はこちらの方がツボなんです。この「シルマリルの物語」という裏づけがあるからこそ、「指輪物語」が好きというか。

唯一神エルによる世界の創造は、まるで聖書の創世記のようだし、悪の存在・メルコオルは、まるで堕天使ルシファーのよう。でも、やっぱりトールキンならではの世界。世界の創造からの歴史を読むのはやっぱり感慨深いものがあります。「指輪物語」では詳しく語られていなかったことも、様々な出来事の背景もここで語られているので、これによって世界を俯瞰し、その歴史を深く理解できるようになります。トールキンが、「指輪物語」と一緒にこちらも出版したかったという気持ちが良く分かる! 長い長い歴史の中には本当に様々な出来事があって、「指輪物語」はその歴史のほんの一部分に過ぎなかったんですよねえ。そして、若かりし日のエルフたちの姿は、人間よりも遙かに知恵のある存在として作られたはずなのに、むしろ人間のように未熟な存在で、時には視野が狭く愚か。時にはエルフ同士の争いも...。このエルフたちの姿を見てしまうと、「指輪物語」での彼らの姿勢やその叡智に哀しみすら感じてしまいます。

上巻は初めて見る名前ばかりで、しかもものすごく沢山の固有名詞が登場するので、初めて読む時は苦労するかも。でも「指輪物語」の中で歌物語として語られていたエピソードも多いですしね。それに下巻に入ると、「指輪物語」に直接繋がってくる時代の物語だけあって、お馴染みの名前が多数登場します。同じことでも違う視点から描かれていて、指輪物語を多角的に理解できて楽しいです。

私が読んだのは、上の画像の2冊なんですが、今は「新版シルマリルの物語」として1冊になっているようですね。トールキンの手紙も収録されてるなんていいなあ。なんだか欲しくなってしまうじゃないですか。あと、3年ほど前に「終わらざりし物語」が出版されてるんですけど、トールキンの遺稿を無理矢理まとめたような印象があって、あまり手に取る気がしなかったんですよね。でもやっぱり読みたくなってきました。あ、それよりも、その前に「指輪物語」を再読しようかしら。一度読み始めると、どうも突き詰めていきたくなっちゃいます。(評論社)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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神戸学院大学教授の赤井敏夫さんによる、トールキン研究書。トールキンの「ホビットの冒険」「指輪物語」「シルマリリオン」やそれらの作品を巡る評論、キャロル・ルイスやC.S.ルイスとの比較、ルイスやチャールズ・ウィリアムズと活動していたインクリングスでの姿などから、トールキンの創り出した神話世界を考察していきます。石堂藍さんが「ファンタジー・ブックガイド」に、「『指輪』のファンだと言いながらこの本を読んでいないのはモグリであろう」と書いてらっしゃるんですが... すみません、モグリです(^^;。

とにかく膨大な参考資料に目を通した上で書かれたということがよく分かる本です。すごい!
アラゴルンとフロドのこととか、ギムリとガラドリエルのこととか、へええ、そうだったんだ!という部分が色々とあったんですが、この本を読んでる間中、重なって仕方がなかったのは、「ニグルの木の葉」のニグルとトールキン自身の姿。
「ニグルの木の葉」というのはトールキンによる寓話的物語で、この主人公のニグルは画家なんです。大して評価をされているわけではないんだけど、どこか宿命的に絵を描いてる人物。そのニグルは、元々木よりも、1枚の葉を上手く描くタイプの画家で、葉の形や光沢、葉先にかかる露のきらめきなど細部を写すことに拘るんですよね。でもいつかは、それらの葉の絵から木の全体を描きたいと思っているんです。そして、風にもてあそばれる1枚の葉の絵は、木の絵になり、やがて数え切れないほど枝を伸ばして、どんどん巨大な絵になっていく... このニグルの姿は、トールキン自身の姿だったのですねー! 最初、自分の子供たちのために「ホビットの冒険」という物語を作り、それが出版社の人間の目に留まって出版されることになり、そして続編を求められた時。最初は気軽に執筆を始めるものの、トールキンの前には、「中つ国」を中心とした神話「シルマリリオン」が徐々に出来上がりつつありました。時には執筆中の「指輪物語」に合わせて、神話を遡って書き換えたり、「ホビットの冒険」の最後の「それ以来かれは死ぬまで幸せに暮らしました」という言葉になかなか相応しい続編にならないと、いくつもの草稿を破棄したり。1つのエピソードを大きな物語にふくらましたり。そのまんまニグルじゃないですか。執筆するトールキンの姿が見えるようです。「ニグルの木の葉」では、ニグルが、もうすぐ旅に出なくちゃいけないのに時間がないと焦ってるんですけど、その辺りも、亡くなるまでに作品を完成させられなかったトールキンの姿と重なります。そして、この本を読めば「ホビットの冒険」「指輪物語」「シルマリルの物語」といった木の全体の姿が俯瞰できます。

ただ、既に「指輪物語」として広まっている作品を「指輪の王」、「ホビットの冒険」を「ホビット」と表記したなどの拘りは、どうなんでしょうね。原題の「The Lord of the Ring」の「Lord」という言葉は、キリスト教的にも、簡単に「王」なんて訳せるような言葉ではないはず。「指輪の王」なんて訳すぐらいなら、いっそのこと英語の題名のままにしておいた方が良かったんじゃ...。気持ちは分かる気もするけど、わざわざ表記を変えるのは、どうも読者に不親切な気がします。(人文書院)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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カルヴィーノの「なぜ古典を読むのか」に引き続きの評論系。とは言っても、今回はファンタジーなので全然違うんですが、こちらも面白かったです。考えてみたら、こういう本って、今までほとんど読んだことがなかったんですよね。ゴチャゴチャにギッシリ詰め込まれた引き出しの中みたいになってた頭の中が、ちょっと整理されたような...。

この2冊を通して一番印象に残ったのは、博物館に関する話。恐竜や古代文明を求めて井辻さんが博物館めぐりをされていた時に気づいたのは、博物館という場所が、外界とは切り離された凝縮された場所だということ。最も古い時代の物は必ず最下階に展示され、そこから徐々に上昇するにつれて現代に近づいていき、出口には必ず土産物屋やカフェが置かれて「現実へのなだらかな再接続が準備されている」ということ。ああ、言われてみればそうかもしれないですね。そして目を転じてみると、テーマパークのアトラクションも、閉ざされた建物に入ることによって、短い死と再生を体験するもの。そうやって空間を創り出し、体験することこそがファンタジーの核であり、ファンタジー作品を支えているのはそういった空間なのではないか。それに気づいた時、井辻さんはファンタジーを「場所」や「空間」という隠れたコードから読み直すようになったのだそうです。
「ファンタジーの森から」には、「幻想文学」に連載されていたファンタジー論が収められているんですが、まだそれだけで1冊にするほどではなかったようで、歌人としての井辻さんの作品やエッセイも入ってます。井辻さんの短歌は初めて読んだんですが、こんな風に神話や古代世界を歌ってらしたとは... 素敵~。たとえば俵万智さんや穂村弘さんの口語短歌(って言うんですかね?)の存在は、何もなくても目に入ってくるけど、こういうのもあったんですね! もっと読んでみたいです。そして「ファンタジーの魔法空間」は、「ファンタジーの森から」に書かれた論を、もう一歩進めて整理した感じ。特に「家」について論じた章がすごいです。井辻さんは評論本を他にも何冊か書いてらして、これは比較的初期の2冊。次はもう少し新しいのを読んでみようと思ってます。「ファンタジーの魔法空間」もとてもいいのだけど、まだ途上のような、もっと綺麗に整理できる余地があるんじゃないかという気もするので。そして、どちらの本にもトールキンの「妖精物語について」についてかなり引き合いに出されていました。こちらも読まなくては~。

トールキンといえば、「指輪物語」における回想シーンと歌謡の多さ、そしてその役割に関する話が面白かったです。あらすじを聞いただけではそれほど楽しいとは思えない話が、なぜそれほど魅力的なのか。その理由として井辻さんが挙げているのは、「そこでは時間がその瞬間に生まれ、どの瞬間にも停止しうるような、立ち止まりうる相を備えていたからだ」ということ。確かに「指輪物語」には、最近のジェットコースター的作品にはない、ゆったりとした流れがあります。古い叙事詩や神話によく見られるような、時には本筋とは関係ない部分が延々と描かれている部分。怒涛のように展開して、見事に収束する話も面白いんだけど、そういうのは「ああ、面白かった」だけで終わってしまうことも多くて、忘れるのも早いんですよね。(全部ではないですが) でも「指輪物語」みたいな作品は、じっくりと自分のペースで読めるし、読み終わった後、何度でもイメージの中で反芻できるんです。それが1つの大きな違いとも言えそう。そうか、そういうゆったりとした、今の時空から切り離されたような部分も、私が「指輪物語」や古い神話、叙事詩に惹かれる大きな要素なんだな、と再発見なのでありました。...自分で気付けよって感じですが(^^;。(岩波書店・アトリエOCTA)


+既読の井辻朱美作品の感想+
「風街物語 完全版」井辻朱美
「エルガーノの歌」「パルメランの夢」井辻朱美
「幽霊屋敷のコトン」「トヴィウスの森の物語」井辻朱美
「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」井辻朱美
「遙かよりくる飛行船」井辻朱美
「ファンタジーの森から」「ファンタジーの魔法空間」井辻朱美
「夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり」井辻朱美
「魔法のほうき」井辻朱美
「ファンタジー万華鏡」井辻朱美

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強大な力で多くの神々を奴隷にしてしまった魔王・ラーバナに立ち向かうために、至上の神・ビシヌ(ヴィシュヌ)は、奴隷とされてしまった神々を人間や猿に転生させることに。南インドのジャングルには、神々の生まれ変わりの猿や猩々が沢山生まれ、ビシヌ神自身は北インドのダサラタ王の長男・ラーマとして転生。しかしラーマが立派に成長して、ダサラタ王がラーマに王位を譲る決意を固めた時、それに嫉妬した第二王妃(継母)と召使女の陰謀で、ラーマは14年もの間王国を追放されることになってしまうのです。国を離れるラーマに従うのは、妻のシータと弟のラクシマナ。しかしそんなある日、シータが魔王・ラーバナに攫われてしまい...。

「マハーバーラタ」と並ぶ、インドの古典叙事詩。とうとうインドまで来てしまいましたー。この「ラーマーヤナ」はヴァールミーキの作と言われていますが、実際にはインドに伝わる民間伝承をヴァールミーキが紀元3世紀ごろにまとめたってことのようですね。ヒンドゥー教の神話の物語ですが、古くから東南アジアや中国、日本に伝わっていて、この物語に登場する猩々のハヌマーンは、「西遊記」の孫悟空のモデルとも言われているようです。確かに彼の活躍場面は、孫悟空の三面六臂の活躍ぶりを彷彿とさせるもの。

本来この物語には魔王・ラーバナを倒すという大きな目的があったはずだし、そのためにビシヌ神も転生したはずなんですが、人間や猿に転生した時に神々だった時の記憶を失ってしまったせいか、ラーバナ征伐がまるで偶然の出来事のようになってるのがおかしいです。ラーバナがシータを攫わなければ、ラーバナとの争いは起こらず、魔王の都に攻め込むこともなかったのでしょうか! 「ラーマーヤナ」の「ヤナ」は鏡で、要するに「ラーマの物語」ということだそうなので(おお、インドでも鏡は物語なのね)、ラーマの英雄譚ということで構わないんですが... まあ、ラーマに箔をつけるために、ビシヌ転生のエピソードが付け加えられたんでしょうしね。
このラーマに関してはそれほど魅力を感じないのですが、至上の神であったビシヌでも、人間に転生してしまうと、ただの我侭な男の子になってしまうのかーという辺りは可笑しかったです。

でも私が読んだこの本は、一見大人向けの新書版なんですが、中身は子供向けの易しい物語調なんです。どうやらかなり省略されているようで、読んでいて物足りない! でも東洋文庫版「ラーマーヤナ」は、訳者の方が亡くなって途中で中断しているようだし、他にはほとんどない様子。結局、現在はこの版しか入手できないみたいなんですよね。「ラーマーヤナ」がどういった物語なのかを知るにはいいんですが、やっぱり完訳が読みたかった。ああ、東洋文庫で続きが出てくれればいいのになあ。(レグルス文庫)


+関連作品の感想+
「ラーマーヤナ」上下 ヴァールミーキ
「ラーマーヤナ」ヴァールミーキ

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イギリスの作家さんで、元祖ジェイムズ・ボンドシリーズ作家のイアン・フレミングから引き継いで、2代目のボンド作家となったジョン・ガードナーという方もいるんですが(ちなみに3代目はレイモンド・ベンスン)、このジョン・ガードナーは別人。アメリカの作家さんです。この「光のかけら」は、そのアメリカのジョン・ガードナーが書いた3冊の絵本を1冊にまとめて全訳したもの。つまり童話ですね。
(関係ないですが、「チキ・チキ・バン・バン」ってイアン・フレミングの作品だったんですね! ちょっとびっくり)

訳者あとがきに、大人が読んでも充分楽しめる作品だとありましたが、確かにそうかもしれないですね。一見「むかしむかしあるところに~」で始まる昔ながらの童話に見えるし、実際どこかで目にしたようなモチーフが多いんですけど、実は一捻り加えられている作品ばかりで、ナンセンスとユーモアたっぷり。私が気に入ったのは、いやらしい年より魔女が教会の礼拝で改心してしまう「魔女の願いごと」や、2人組の悪者が世界中の光を盗んでしまう表題作「光のかけら」、「イワンのばか」のような「ハチドリの王さま」かな。あんまり親切に説明してくれないので、「え?え?」となっちゃう部分もあったんですけど(たとえば「ナシの木」という作品では、エルフがいきなりナシの木を露に変えて薔薇の花の中に隠すんですけど、なんでそんなことをするのかよく分からないまま、半分ぐらいいっちゃう)、全体的に面白かったです。ただ、ずっと童話が続くとさすがにツラい... 終盤はちょっと飽きてしまいました。(^^ゞ(ハヤカワ文庫FT)

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閉鎖されたとある古い庭に入り込んだ幼い兄妹は、1日中その庭の中を歩き回り、ひどい悪戯で庭を滅茶苦茶にして、動物や昆虫たちを傷つけてしまいます。そして夕方。気がつくと2人は、沢山の動物や精霊たちに取り囲まれていました。彼らは美しいブナの木の婦人を呼び出し、こんなひどいことをした兄妹は処罰されるべきだと言い始めます。「死刑だ!」という声に少女は泣き出し、ブナの木の婦人は、2人に太陽が昇るまでに「地の母」を見つけ、「海の父」のもとに行き着き、太陽の歌を聞き、「風の塔」でお客になることを言い渡すことに。

私が読んだのはハヤカワ文庫FT版なんですが、そちらは絶版で、しかもアマゾンにはデータすらない状態。雰囲気は多少違うかもしれませんが、訳者さんが違う同じ作品を見つけたので、そちらにリンクをはっておきますね。こちらのタイトルは「古い庭園」(同学社)です。

少年の征服欲のために破壊された庭や罪のない動物たちに償うために、旅へと出ることになってしまった兄妹の物語。どこかメーテルリンクの「青い鳥」の雰囲気。とにかく情景描写が綺麗な物語でした! これを読むと、道端の雑草に向ける目も変わってしまいそうなほど。と思っていたら、どうやらカシュニッツは詩人だったようですね。道理で詩的なわけです。
でも表向きはそんな風に美しくて、子供にも楽しめるような童話なんですが、そこには、飛ぶことのできないワシの話とか孤独に死んでいこうとする男の話とか、自然界に存在する様々な生と死の物語が挿入されていて、決して楽しいだけの物語ではありませんでした。子供たちは生と死を真っ向から突きつけられ、様々な生と死がそれぞれに連鎖していくことを実感として教えられることになります。たった一晩の旅なんですけど、2人は旅を通して春夏秋冬を体験することにもなりますし。実はなかなか厳しい物語。
ユニークだと思ったのは、兄妹を処罰して欲しいという動物や精霊たちに対して、ブナの木の婦人が弁護人を見つけようとすること。結局弁護人は見つからなかったのですが、ブナの木の婦人が裁判長で、動物や精霊たちは原告なんです。そしてブナの木の婦人が言い渡す2人の旅は、執行猶予なんですよー。生と死をきっちりと体験させることと合わせて、作者のドイツ人らしさを表しているように思えました。それともう1つ面白いのが、物語の中にギリシャ神話のエピソードが色々と引用されていること。ドイツとギリシャ神話って、なんだか不思議な組み合わせなんですが、カシュニッツ自身ローマに住んでいたこともあるようなので、その影響なんでしょうね。(ハヤカワ文庫FT)

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秋のはじめの穏やかに晴れたある日のこと、水晶通りにやって来たのは、マーレンという少女。夏の国で家政婦をしていた彼女は、街に沢山降ってきた「お手伝いさん求む」のちらしに興味を引かれ、ハルメ・ハイネの塔にやって来たのです。ヘルメ・ハイネは、全体に血の気の薄そうな魔法使い。最初はすげなくマーレンを断ろうとするヘルメ・ハイネでしたが、どうやらちらしを出したのは先代のハルメ・ハイネで、100年ほど前のことらしいと分かり、とりあえずマーレンを雇うことに。

上巻は、柔らかい色彩に包まれた物語。ここに描かれているのは、とても風街(感想)っぽい場所で、主人公のマーレンが魔女の箒のような古い箒を持ち歩いているというのも、ハウスキーピングのライセンスが「メアリー・ポピンズ・ライセンス」という名前なのも微笑ましいです。マーレンがいた夏の国というのは、地球上の孤児が集められているという場所で、マーレン自身も孤児なんですが、そこにも全然暗いイメージはなし。むしろ賑やかで楽しそう、なんて思えちゃう。でも、下巻に近づくに連れて、その暖かな色彩がどんどん薄れ、それに連れて体感温度もどんどん下がっていきます。あとがきにも、前半はカラーで描き、後半はモノクロで描くというイメージだったとあり、納得。

下巻に入ると、舞台はトロールの森へと移るのですが、そこは全くの冷たい灰色の世界。時々思い出したかのように、原色に戻ってしまった色彩が飛び散っているのですが、基本的に無彩色。前半の夢のような雰囲気が嘘のような、まるで悪い夢でも見ているような、何とも言えないない世界。でもそれでいてとても強烈な吸引力があるんですよね。終盤は、まさしく井辻さんが「エルガーノの夢」のあとがきに書かれていた、「とほうもなく非合理で、小説のようなちゃんとした構造をもっていなくて、断片的で」「詩のような夢のような、奇形であいまいで、それだから美しいような」叙事詩や伝説の世界。整合性があり、きちんとしているだけが、小説の魅力ではないんですよね。

そう考えると、小説ってどこか絵画と似ているような気がします。私は絵だと、例えばクレーやカンディンスキーの抽象画がすごく好きなんですけど(クレーは抽象画家とは言えないかもしれませんが)、小説でも抽象画的な、理屈では説明しきれない部分があるものに惹かれやすいのかなあ、なんて思ったり。
例えば、写真がなかった昔は、肖像画は写真のような意味があったわけで、貴婦人の着ているドレスの襞などをひたすら忠実に写し取ることが重要、という部分もあったと思うんですけど、写真がある今、実物にひたすら忠実な絵というだけではつまらないと思うんですよね。それなら写真を撮ればいいんだし。(もちろん当時だってきっと、実物にひたすら忠実な絵というだけではダメで、画家の個性とか、何かが感じられる絵こそが、今に残ってきていると思うのですが) だけどその写真も、写真を撮る人の個性によって、本当に様々な表情を見せるわけで。で、例えば、ノン・フィクションが好きだという人がいたら、それは絵よりも写真が好きだというようなものなんじゃないかなあ、なんて思ったりしたわけです。
小説と絵画の関係は今ふと思っただけだし、このままでは単なる好みの傾向の話になっちゃうんですが、これはつきつめて考えてみると、ちょっと楽しいかも♪(講談社X文庫)


+既読の井辻朱美作品の感想+
「風街物語 完全版」井辻朱美
「エルガーノの歌」「パルメランの夢」井辻朱美
「幽霊屋敷のコトン」「トヴィウスの森の物語」井辻朱美
「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」井辻朱美
「遙かよりくる飛行船」井辻朱美
「ファンタジーの森から」「ファンタジーの魔法空間」井辻朱美
「夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり」井辻朱美
「魔法のほうき」井辻朱美
「ファンタジー万華鏡」井辻朱美

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現在進行中の絶賛叙事詩祭りで最大の目玉になりそうな作品、念願の「狂えるオルランド」をとうとう読みました!
これは8世紀末のシャルル・マーニュ率いるキリスト教徒軍とイスラム教徒軍との戦いや、騎士たちの恋や冒険を描いた物語。イタリアルネッサンス最高傑作とされているのだそうです。イタロ・カルヴィーノが偏愛しているという作品。でも、同じくシャルル・マーニュが登場するフランスの叙事詩「ロランの歌」と何らかの関係があるんだろうとは思ってたんですけど、「ロラン」が、イタリア語では「オルランド」なんて知りませんでしたよー。(情けない)

というのはともかく。これが思いの他、難物でした。

まず、訳者まえがきを読んで初めて、これが15世紀にボイアルドが書いた「恋するオルランド」(未完)の続きとして書かれていると知ってびっくり。それならそちらを先にいっておきたいところですが、その「恋するオルランド」は、日本語には翻訳されてないらしいんです。しかも、この本には「恋する~」のあらすじがほとんど書かれてない! いくら「狂える~」が、それだけで独立して読める作品とされていても、続編である以上、人間関係がすっかり出来上がっている以上、そちらのあらすじをきちんと書いておいてくれてもいいのでは... それもなしに、「『恋するオルランド』第○巻第○歌○○節参照」なんて訳注が頻出するときた日には...!
私はシリーズ物を途中から読むのが大嫌いだし、繋がりがある作品は順番に読みたいタイプ。(積み重ねていく部分って、大切ですよね) なのに、いきなり話が始まっちゃう。全然話に入れなくて困っちゃいました。特に最初の1~2章では大苦戦。何度読み返しても、全然頭に入ってこなくて、目は文字の上を素通りするだけ。訳者まえがきに、「まずなによりも、読んで面白い」「少しも読者を退屈させない」なんて書かれてるのに、全然面白くないよー...。

せっかく市外の図書館からお取り寄せしてもらったんだけど、やっぱりやめちゃおうかしら、でも、そんな気軽に再チャレンジなんてわけにもいかないし... なんて思いながら我慢して読むこと約30ページ。(この30ページに5日ぐらいかかりました) ある日突然、面白くなりました! 訳者さんの言葉にも、ようやく納得。ヨーロッパはもちろん、インド、エチオピア、はたまた... と様々な場所でエピソードが同時進行していくんですけど、全然混乱しないどころか、すごく読みやすい! (登場人物は物凄く多いので大変ですが) 最初の苦労は一体何だったんだ? 全部読み終えてから最初に戻ってみると、今度は全然読みにくくなかったです。(笑)

myrtus05.jpg題名の割に、オルランドは主役じゃないんですね。オルランドが失恋して正気を失い、他の人物がその正気を取り戻させるという流れはあるんですけど(この正気を取り戻す部分が凄いです。ぶっ飛んでます) むしろイスラム教徒の騎士・ルッジェーロとキリスト教徒の乙女・ブラダマンテが中心。というのも、この2人こそがアリオストが仕えていたエステ家の始祖となる2人なので...。(途中何度か語られるエステ家の隆盛については、ちょっと退屈) そしてもう1つ中心となっているのが、キリスト教徒とイスラム教徒の戦い。これは迫力です。名だたる騎士たちの強さってば、凄まじすぎ。一騎当千とはこのことか。
(右の写真は、作中に何度も登場するミルトの花。日本名は銀梅花)

結局のところ、ものすごーく面白かったです。分売不可の2冊組で12,600円という凄い値段なんですけど、それでも欲しくなっちゃったぐらい。この金額を出しても欲しいって思えること自体凄いんですけど、そう思えるような本が読めて幸せ~。物語そのものが面白いのはもちろん、訳文もすごく良かったし、ギリシャ神話やホメーロスの「イーリアス」「オデュッセイア」、ウェルギリウス「アエネーイス」、オウィディウス「変身物語」、プリニウス「博物誌」、ダンテ「神曲」、マルコポーロ「東方見聞録」、アーサー王伝説などなど、様々な古典文学を下敷きにしてるから、そういう意味でもすごく楽しいし、色んなエピソードの展開の仕方を他の古典作品と比べて、1人でにやにや。特に絶世の美女の見せる意外な計算高さや、命をかけて結ばれた王子さまとお姫さまが「そして2人はいつまでも幸せに暮らしました」になるとは限らないところとか、面白い~。そしてこの作品は、後の文学作品にも色々と影響を与えているんですよね。これでようやく、そういう作品を読んだ時に、悔しい思いをしなくて済むから嬉しいな。多少は理解も深まるでしょう。(期待)

あとは返却期限までぼちぼちと読み返して... ポチッとしてしまう衝動と戦うだけですね。わはは。(名古屋大学出版会)

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ワーグナーによるオペラ「ニーベルンゲン(ニーベルング)の指環」原作、全4巻。北欧神話(エッダ)のシグルド伝説と「ニーベルンゲンの歌」を元に、ワーグナーが作り上げた世界です。本の表紙の画像が出ないのが残念なんですが、これはアーサー・ラッカムの挿絵が沢山収録されてる本。これって、たらいまわし企画・第25回「『ドイツ』の文学」の時に、柊舎のむつぞーさんが挙げてらした本ですね♪(記事) ラッカムの絵はこの世界にぴったり。カラーの挿絵も多くて、うっとりしてしまいます。

話の流れは大体知ってはいたものの、原作を読むのは今回が初めて。「エッダ」(感想)や、「ニーベルンゲンの歌」(感想)を先日読んだところなので、その違いがきちんと把握できてとても面白かったです。古い伝承や叙事詩での矛盾点や語られていない部分を、ワーグナーが見事に掬い上げてるんですね! ブリュンヒルデのこともジークフリートのこともグートルーネのことも、もう本当に納得。物語としての完成度は、きっと一番高いんでしょうね。...とは言っても、そういった完成度だけが作品の魅力というわけじゃないと思うので、逆に、破綻がありながらも読ませてしまう「エッダ」と「ニーベルンゲンの歌」の底力は凄いなあと思うのですが。

今回この4冊を読んで感じたのは、まさにジークフリートが主人公だということ。他の作品でももちろんジークフリートが主人公なんですが、この「指環」では、ジークフリートは3冊目でようやく登場なんです。呪われた指環の存在を知らしめるために「ラインの黄金」があり、ジークフリートを生み出すために「ワルキューレ」でジークムンドとジークリンデが愛し合い、ジークフリートに目覚めさせられるためにブリュンヒルデは眠らされ、ジークフリートの手で鍛えなおされるために、名剣ノートゥングは破壊されたんですね。
でもこのジークフリート、私はあんまり好きじゃないです。侏儒のミーメに育ててもらった恩がありながらも、ミーメを憎んでいるジークフリート。確かにミーメがジークフリートを育てた背景に下心がなかったとは言えませんけど、ジークフリートがミーメを憎んでいるのは、ミーメが侏儒で、外見が醜いから? そんなんでいいんでしょうか...?(関係ないかもしれないけど、さすがヒットラーに愛された作品だなーとか思ってしまうー) これじゃあ肉体的には英雄の条件を満たしていても、本質的な英雄とは言えないのでは。その行動を見てても、単なる子供としか思えないです。これじゃあ、ジークフリートが殺されても、全然同情できなーい。自業自得なんじゃ...?

楽劇は、上演にほぼ14時間、4夜を要するという超大作。一度観てみたい... とは軽い気持ちでは言えませんが、やっぱり観てみたい。せめて読む時にCDを用意しておくべきでした。(新書館)


+既読のリヒャルト・ワーグナー作品の感想+
「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」リヒャルト・ワーグナー
「タンホイザー」リヒャルト・ワーグナー
「さまよえるオランダ人」「ローエングリン」リヒャルト・ワーグナー

+既読のアーサー・ラッカム作品の感想+
「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」リヒャルト・ワーグナー
「シンデレラ」「不思議の国のアリス」「ウンディーネ」「リップ・ヴァン・ウィンクル」「ピーター・パン」アーサー・ラッカム
「真夏の夜の夢」アーサー・ラッカム絵&「テンペスト」エドマンド・デュラック絵

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ウルクの都城の王で・ギルガメシュは、力強い英雄ではあるものの、暴君として都の住民たちに恐れられる存在。ギルガメシュをどうにかしろと神々に命じられた大地の女神・アルルは、粘土からエンキドゥという名の猛者を作り上げます。始めは野獣のようだったエンキドゥは、やがて知恵を得て人間らしくなり、ギルガメシュと力比べの格闘をすることに。しかしその格闘は引き分けに終わり、ギルガメシュとエンキドゥの間に友情が芽生え、2人は一緒に遠方にある杉の森の恐ろしい森番フンババを倒す冒険の旅に出ることに。

古代メソポタミアに成立した、世界最古とも言われる叙事詩。原テキストは、粘土板に楔形文字で記されたものなんですが、テキストの約半分は既に失われてしまったのだそう。本の本文を読んでいても予想以上に欠損箇所が多くてびっくり。単語単位で抜けてるのはもちろん、何行もすっぽり抜けてたり、場所によっては残ってる部分の方が少なかったりするんです。ギルガメシュがたどり着いた楽園についてとか、もっと詳しく読みたかったなという部分も多くて、そういう意味では残念だったんですが... そんな断片をここまでの形に組み立てるのは、本当に大変な作業だったでしょうね。こうやって本で読めること自体、とても有難いです。

物語の後半には大洪水のエピソードも入っていて、これは後に旧約聖書のノアの箱舟の元になった話なのだそう。解説に、日常的に聖書を読んでいる西洋人がこの部分を発見した時は本当にセンセーショナルだったとあるんですが、なんだか想像できて可笑しいです。そして、この作品で語られているのは、永遠の生について。やっぱり基本なんですねえ。ギルガメシュがウトナピシュティムに会いに行く途中で出会った婦人の言葉も含めて、とても印象的でした。

ギルガメシュよ、あなたはどこまでさまよい行くのです
あなたの求める生命は見つかることがないでしょう
神々が人間を創られたとき
人間には死を割りふられたのです
生命は自分たちの手のうちに留めておいて
ギルガメシュよ、あなたはあなたの腹を満たしなさい
昼も夜もあなたは楽しむがよい
日ごとに饗宴を開きなさい
あなたの衣服をきれいになさい
あなたの頭を洗い、水を浴びなさい
あなたの手につかまる子供たちをかわいがり
あなたのむねに抱かれた妻を喜ばせなさい
それが〔人間の〕なすべきことだからです

でも、ここだけ取り出してもダメですね。やっぱり本文の中にあってこそ、だな(^^;。
ギルガメシュ叙事詩の本文は、ほんの100ページ強。あとはひたすらこの叙事詩の発見や成立に関する解説。付録として「イシュタルの冥界下り」も入っていて、こじんまりとまとまった話ですが、他の神話との共通点なども連想されて面白いです。(ちくま学芸文庫)

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フィオナ・マクラウドが、スコットランドの西にある小島、古代の聖者コロンバにゆかりの聖なる心霊の地・アイオナに滞在して書いたという、ケルト民族の神話や伝説、民間伝承に根ざした物語13編。

滅び行く運命をもった「ケルトの暗い哀しさ」を訴えつづけた... と井村君江さんの解題に書かれていたんですが、まさにそういった一種独特の雰囲気がある作品集でした。全体的に陰鬱な空気が重く立ち込めているような感じ。でもそういった中に、一筋の光が射しこむような美しさがあるんですよね。ちなみに題名の「かなしき女王」とは、ケルト神話の女戦士で、スカイ島の名前の元にもなったというスカァアのこと。他にも英雄クウフリンやゲール人やピクト人、ヴァイキングなんかも登場して、いかにも「ケルト幻想作品集」。
でも、読んでみると、これが実はとってもキリスト教色が濃い作品だったんですね。びっくり! ここまでとは、正直想像してませんでした。もちろん、元々多神教だったところにキリスト教が入り込んで、アーサー王伝説なんかもかなりキリスト教的な色合いが濃いんですけど、そういうレベルではないんです。「最後の晩餐」という作品なんて、幼い子供がキリストの最後の晩餐の場面に立ち会うことになる話だし、「漁師」という作品も、谷間を歩いていたおばあさんがキリストとは知らずにそこにいた男性に声をかけるという物語。ケルトとキリスト教の融合、というのとはちょっと違うような... でも、これってキリスト教側の視点から書かれてる作品ではないと思うんですよね。あくまでもケルト側からの視点から描かれているという印象。そしてそれが、この作品集の独特な部分なのではないかと...。
私がこの中で好きだったのは、「精」という作品。これはキリスト教の僧侶たちが前面に登場しながらも、逆にケルト精霊の力を再認識させられるような作品。キリスト教の狭義の懐の狭さと、精霊たちの器の広さが対照的です。主人公のカアルが「青い人々」に出会い、受け入れられる場面、そしてキリスト教の僧侶・モリイシャが青い人々を見る場面がとても美しくて印象に残りました。
この本を訳した松村みね子さんは、アイルランド文学を数多く日本に紹介したという方なんですが、歌人としても活躍した方なのだそう。普通の文章はもちろん作中の詩がとても美しくて、歌人だという紹介を読んで、その美しさに納得でした。(ちくま文庫)


+既読のフィオナ・マクラウド作品の感想+
「かなしき女王 ケルト幻想作品集」フィオナ・マクラウド
「ケルト民話集」フィオナ・マクラウド

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ハンサムでも秀才でもないハロルド・シェイの造形から(馬面で、目が中央に寄りすぎてるらしいです)、アンチ・ヒロイック・ファンタジーという言葉が生まれたという、ハロルド・シェイのシリーズ全4巻。主人公のハロルド・シェイが、北欧神話、エドマンド・スペンサーの「妖精の女王」、コールリッジの「クブラ・カーン」、アリオストの「狂えるオルランド」、フィンランドの叙事詩「カレワラ」、そして最後にアイルランド神話の世界に飛び込む冒険物語です。

実はこれまで、なかなか話に入れなくて4~5回ほど挫折してたんですが、ようやく読めました。一旦話に入ってしまえば、結構面白かったです。まず面白いのは、日常の生活からファンタジーの世界への行き方。主人公のハロルド・シェイは心理学者なので、移動が魔法ではないんです。使うのは「Pが非Qと同値であれば、Qは非Pを含意するが...」という、「論理方程式」。6枚の紙に書かれた公式全神経を集中するだけで、神話の世界へと旅立ってしまうんだからびっくり。でももちろん、事はそれほど簡単ではありません。最初はクフーリンやマブ女王の時代のアイルランドに行くはずだったのに、気がつけばそこは北欧神話の世界。しかも、行った先の世界の法則に従わなくちゃいけないんですよね。20世紀の物理学や化学の法則みたいにまだ発見されてないものは、存在しないのも同じ。持参したマッチや銃は使い物にならなくなってますし、英語の本も理解できなくなってるのに気付くハロルド・シェイ。頭の中で自分の名前のスペルを思い浮かべても、浮かんでくるのはルーン文字だけ。(笑)

ただ、北欧神話やアイルランド神話は好きだし、「妖精の女王」も最近読み返したし(感想)、叙事詩ではなく、簡易な物語に書き直されていたとはいえ「カレワラ」も読んだし(感想)、「クブラ・カーン」は大学の時に一目惚れした作品なんですが(これは、コールリッジがインスピレーションを得て作品を書き始めた時に突然の来客があり、仕事を中断してるうちにその詩思は消え失せてしまった、ということで有名な作品。その来客が本当に怨めしい!)、「狂えるオルランド」だけは未読のままだったんですよね。それが惜しかったです。イタロ・カルヴィーノの「宿命の城」(感想)を読んだ時から、読みたいと思ってたんですが... 「妖精の女王」にも大きく登場してたのに...。でも名古屋大学出版局発行の本は12,600円なんて値段がついてるので到底買えないし、市内の図書館にも置いてないし、抄訳が載ってる本も3冊ほど教えて頂いたのに、どれも市内の図書館になく... いえ、いずれは絶対に読みますが!

4冊の中で一番面白かったのは1冊目。雰囲気に馴染むのに時間はかかったけど、ラグナロク直前の北欧神話の世界に一度馴染んでしまえば、あとはユーモアたっぷりで楽しかったです。もう少し長くしして、じっくり読ませて欲しかったぐらい。でも2~4冊目は、ラブロマンスなんかもあるんですけど... ハロルド・シェイが冒険慣れした分、ちょっと物足りなかったかも。代わりに加わった狂言回しの人物には苛々させられたし。それにどの世界も、結局似たような感じですしね。そういう意味ではちょっとマンネリ気味でした。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のディ・キャンプ&プラット作品の感想+
「妖精の王国」ディ・キャンプ&プラット
「神々の角笛」「妖精郷の騎士」「鋼鉄城の勇士」「英雄たちの帰還」ディ・キャンプ&プラット

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魔法使いのルッフィアモンテが望んだのは、地球の端っこにささやかな、ありとあらゆる風の流れ込むおもちゃのような街を作ること。そしてできたのが風街。沢山の夢が吹き寄せられてくる風街にやって来たマーチ博士が書き綴った短編集です。

風待屋のsa-ki さんに教えて頂いた本。海外ファンタジー作品を多数訳してらっしゃる井辻朱美さんご自身のファンタジー作品は一体どのような物語なのだろうと、ワクワクしながら手に取りました。
まず、神話や古今東西の有名ファンタジーのモチーフがいっぱいで楽しい! 風街ができるきっかけになったのも、魔法使いが鶴の仙人に連れられて行った北方の神々の鍛冶場がきっかけだし、この鍛冶場に置いてあるのが、不老不死の仙丹を焼き上げる太上老君の竃、そして風街を作りたいという望みを叶えたのは、北欧神話の神の1人ロキなんですもん。思いっきりクロスオーバーしています。(笑)
街の裏には《夜》の山脈があり、《夜》に通じる道は、まがまがしい夢が漂い出てくる《妖神たちの小路》... という街の周辺も魅力的なんですが、それ以上に街そのものが素敵。とっても不思議なことが、ごく自然に存在してますし、魅力的なお店も沢山。鞄屋の自慢は、物を出したあと、鞄の口の中へ鞄の底を突っ込めば、くちがねだけになってしまうという鞄だし、開くたびに美しい女の絵が涙を流す傘があったり、毎回違う割れ方をして、毎日新しい自分を発見できるタマゴ鏡なんていうのがあったり...。その他にも、子供の成長に合わせて育つ刺青とか、姿を変える黒ウサギとか、夜の流星が落ちた跡を嗅ぐ犬とか、雨天のみ開館の映画館とか... 《夜》から飛んできた、よい匂いのする夢を拾って売る掃除夫の話なんていうのも素敵。
人間も動物もそれ以外の不思議な存在も一緒くたになって暮らしている風街の物語は、連作短編集とはいっても、それぞれの物語に連続性はそれほどなくて、まるで夢の場面場面のスケッチを見ているよう。少し強い風が吹いたら忘れてしまいそうなほどの淡々とした夢です。でもそのスケッチを眺めていると、明るく透明感のある情景がどんどん拡がっていきます。
メアリー・ポピンズが来るのは、実はこの世界から? 一番強い火星猫の名前が、「スーパーカリフラジリスティックエクスピーアールイードーシャス」なんですよ。(笑) 「ロビン・グッドフェロウがチョコレットの中に閉じ込められた珍事件」というのは、稲垣足穂の「チョコレット」? 神話や古今東西の有名ファンタジーのモチーフがいっぱいで、そういうのを探すのも楽しいところ。登場人物もそれぞれに魅力的だし、読んでいると自分まで風街にいるような気がしてしまう、そんな風に居心地のいい物語でした。画像が出ないのが残念なんですが、安江恵美さんの挿画もこの雰囲気にぴったり。楽しかったです~。(アトリエOCTA)


+既読の井辻朱美作品の感想+
「風街物語 完全版」井辻朱美
「エルガーノの歌」「パルメランの夢」井辻朱美
「幽霊屋敷のコトン」「トヴィウスの森の物語」井辻朱美
「ヘルメ・ハイネの水晶の塔」井辻朱美
「遙かよりくる飛行船」井辻朱美
「ファンタジーの森から」「ファンタジーの魔法空間」井辻朱美
「夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり」井辻朱美
「魔法のほうき」井辻朱美
「ファンタジー万華鏡」井辻朱美

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貞観7年、広州から船で天竺へと旅立った高丘親王。天竺は高丘親王にとって、幼い頃に父・平城帝の寵姫だった藤原薬子に話を聞いて以来の憧れの地、船に乗り込んだ高丘親王は、この時67歳。同行するのは、常に親王の傍で仕えていた安展と円覚という2人の僧、そして出航間際に船に駆け込んできた少年「秋丸」の3人。

澁澤龍彦氏の遺作だという作品。ずいぶん前に、森山さんにオススメ頂いた時から読みたいと思ってたんですけど、その時は本が手に入らなかったんですよね。先日LINさんが読んでらした時(記事)にふとamazonを覗いてみると、なんと「24時間以内に発送」になってるじゃないですか! たらいまわし企画でも何度か登場してたのに、その時は最初から諦めちゃってたんです。いやー、もっと早く気付くべきでした。私のばかばか。
高丘親王という人は実在の人物なんですが、天竺へ向かうこの旅自体は澁澤氏の創作の世界。山海経に登場するような生き物がごく自然に存在している、幻想味の強い物語です。現実世界と幻想世界の境目はもうほとんど感じられなくて、自由気儘に行き来している感覚。これって、一見現実に見えても、実は現実とは言い切れない場面もあるのね... と思っていたら、高橋克彦氏の解説に「一読した限りではなかなか気付かないだろうが、いかにも幻想的な航海記のようでいて、実際はその過半数の物語が親王の夢なのだ」とありました。「親王が現実世界を旅している時は、薬子はたいてい記憶として登場し、親王が夢の中を彷徨っている時は、薬子もまた別の夢となって現れる」とも。そうだったんだ! たとえば最初の大蟻食いの場面とか、これはきっと本当は夢の中の出来事なんだろうなと思っていたんですけど、やっぱりそれで合っていたようです。(よかった) でも読み落としてる部分もありそうなので、もう一度読み返してみなければ~。そしてこの幻想世界と現実世界は、お互いの世界を鏡のように映し合っているかのよう。夢や記憶でしか登場しないはずの薬子の存在感がとても大きくて、まるで薬子を通して様々なものが映し出されてるような感覚も...。
これまで読んだ澁澤氏の作品とは雰囲気がまた少し違っていて、まるで別次元へと昇華してしまったような感じ。おそろしいほどの透明感。途中、高丘親王が欲望を覚えるような場面もあるんですけど、生々しさはまったくなくて、むしろ枯れた味わいです。親王を通して感じられるのは、生への慈しみ。やはりこれは確かに遺作だったんだな... と納得してしまいます。やっぱり高丘親王は、澁澤氏自身ですよね。澁澤氏も、あの真珠を投げたのかしら。今頃、森の中で月の光にあたためられているのでしょうか。澁澤氏が亡くなって19年ですか... 薬子は50年と言ってるし、まだもう少し時間がかかりそうですね。(文春文庫)


+既読の澁澤龍彦作品の感想+
「私のプリニウス」澁澤龍彦
「異端の肖像」澁澤龍彦
「夢のある部屋」澁澤龍彦
「澁澤龍彦初期小説集」澁澤龍彦
「夢のかたち」「オブジェを求めて」「天使から怪物まで」澁澤龍彦
「高丘親王航海記」澁澤龍彦
「東西不思議物語」澁澤龍彦
Livreに「世界悪女物語」「幻想博物誌」「夢の宇宙誌」「フローラ逍遥」の感想があります)

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中世。初めての巡礼の旅のに出たジャスパー卿は、騎士としての勇気を試す機会にあまり恵まれないまま、その旅を終えようとしていましたが、沼地のポングリイの住民たちに、ドラゴン退治を依頼されます。この村では、数年前から何人もの村人がラベンダー・ドラゴンによって連れ去られて困っているというのです。連れ去られるのは、もっぱら未亡人や寡夫、そしてみなし児。話を聞いたジャスパー卿は、早速翌朝、ラベンダー・ドラゴンとの闘いに出向くことに。

「赤毛のレドメイン家」や「闇からの手」などのミステリ作品で有名なフィルポッツのファンタジー作品。でも日本ではミステリのイメージが強いんですけど、本国イギリスでは小説や詩・戯曲など250冊以上を書いていて英国文壇の最長老という存在だったんだそうです。
この物語に登場するドラゴンは、見た目にも美しく、行く先々にラベンダーの芳香が漂い、溢れんばかりの知識と教養の持ち主という、ちょっと珍しいタイプのドラゴン。そんなラベンダー・ドラゴンが村人たちを攫っていたのは、実は食べるためではなくて、ユートピアとも言えるような村を作るためだったんですよね。でも、前半、ジャスパー卿の視点で物語が進んでいる間は、中世の騎士の冒険物語で面白かったのに、ラベンダー・ドラゴンが中心となった途端、話が理屈っぽく教訓くさくなっちゃいました...。もしかしたら、当時の英国に対する政治的な批判だったのかしら。ラベンダー・ドラゴンの作った国は共産主義的な印象が強いです。しかもカリスマ的リーダーがいないと存続できないっていうところも、何ともはや。(ハヤカワ文庫FT)

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以前エドモン・ロスタンの「シラノ・ド・ベルジュラック」を読んだんですけど(感想)、このシラノ・ド・ベルジュラックという人は、ロスタンの創作ではなく、17世紀に実在した人物。本物のシラノは戯曲のシラノとは多少人格が違うみたいなんですが、その多才ぶりは確かだったようです。そして本物のシラノの代表作が、この「日月両世界旅行記」。
これはSF小説(「空想科学小説」と言った方が相応しいかも)のはしりと言えそうな作品で、月と太陽の世界へ旅する奇想天外な旅行記となっています。丁度「ガリヴァー旅行記」みたいな感じですね。「ガリヴァー旅行記」は随分前に読んだきりなので、あんまりちゃんと覚えてないんですが、どことなく精神疾患的なイメージのスウィフトとは違って、同じように風刺小説になっていても、こちらはもっとおおらかで朗らかな感じがします。キリスト教に関して、結構痛烈なことを書いてるので、後が大変だったんじゃないかと思うんですが...。何て言っても、月の世界にはエデンの園があるんですもん!(笑) アダムとイヴが追放された今は、エノクやら預言者エリヤやらが住んでいる様子。あと月の世界には4つ足で歩く人獣の国があり、太陽の国には鳥の国や哲学者の国があります。
でも、ユーモアたっぷり風刺たっぷりで、面白いことは面白いんですけど、たとえばこの作品が書かれた頃の天動説派と地動説派のバランスとか、当時の思想や最先端の科学についてもう少し知ってれば、もっと楽しめたんだろうなあって思うんですよね。思わず流し読みしてしまう部分もあって、なんだか勿体ないことしちゃいました。あ、でもロスタンの描くシラノ・ド・ベルジュラックも良かったんですが、本物の方が破天荒ぶりが優っているようで、見てる分には楽しそうな人物です。(岩波文庫)

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4150200629.jpg 4150200637.jpg 4150200645.jpg[amazon] [amazon] [amazon]
ウィラン・サーガ全3巻。オーストラリアの原住民・アボリジニの青年を主人公にしたファンタジーです。
オーストラリアのファンタジーとは珍しいですね。もしかしたら私、ファンタジーに限らず、オーストラリアを舞台にした小説を読むのって初めてかもしれません。そういえばオーストラリア出身の作家さんというのも全然知らないし。
オーストラリアといえば南半球。当たり前のことなんですが、北半球とはまるで逆なんですよね。私が生まれ育った日本は北半球の国だし、読んでる本もほとんど北半球の人間によって書かれた本ばかり。「北国」と聞けば反射的に「寒い」と思うし、「春」と聞けば、まず4月や5月頃を思い浮かべてしまうので、最初は少し戸惑いました。南に向かう旅が「どんどん寒くなる」と書いてあってもピンと来ないし、10月末が夏だっていうのにも、「...えっ?」状態。確かに半年ずらすと4月末。うちの辺りではそろそろ半袖を着始めたりしますけど... でも夏って言うには早いですよねえ。なんて未だに思っちゃう部分はあるんですが、馴れてしまえば大丈夫。アボリジニの伝承に伝わる土着の精霊たちなどが多く登場して、現代のオーストラリアという舞台にしっくりと馴染んでるのを見てると、北半球のファンタジーには見られない個性がとても楽しかったです。
でもアボリジニのことも精霊たちのことも大地のことも、とても興味深かったし、面白かったんですけど... 物語としては、あと一歩踏み込みが足りないというか、最後の詰めが甘い気も...。オーストラリアの土着の精霊には馴染みが薄いから、それだけで面白く読んでしまうんですけど、欧米のファンタジーでいくらエルフだのドワーフだのが沢山登場しても、それだけじゃあ話にならないですもんね。そういう意味では、精霊たちが舞台背景で終わってしまって、今ひとつ生かしきれてないような、勿体ない印象が残ってしまいました。アボリジニの、大地に根ざして生きる民としてのメッセージ性は十分感じられたし、色々と考えさせられるのだけど... この作家さん自身は、アボリジニではないわけで。
でも、それはともかくとして、アボリジニについてはもっと何か本を読んでみたくなりました。日本の作家さんでは、上橋菜穂子さんが興味を持ってらっしゃると聞いたことがあるんですけど、守り人シリーズにも、アボリジニの影響が色々とあったりするのかな。調べてみると、「隣のアボリジニ」という本があるので、今度読んでみようかしら。アイヌやインディアンもそうだけど、アボリジニの歴史にも、なかなか凄まじいものがありそう。これはノンフィクションなのかな? そうだったらいいな。(ハヤカワ文庫FT)

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古代バビロンの研究をしている考古学者のフォーサイスがジョン・ケントンに送ってきたのは、巨大な石盤。ケントンは早速、石盤に刻まれた古代楔状文字の碑文を調べ始めます。そこにあったのは、光の女神イシュタル、暗黒神ネルガル、知恵をもたらす青の神ナブ、そしてザルパニトとアルサルという名前。そして調べているうちに、ケントンは石盤の中に何かが閉じ込められていたことに気づきます。それは宝石で作られた1隻の魔法の船でした。

古代バビロンの石盤から美しい帆船が出てくる辺りはとても素敵だし、気づいたらケントン自身がその船に乗り込んでいたという展開も、かなり好きなパターン。女神イシュタルは暗黒神ネルガル、知恵の神ナブ、そしてその巫女や神官たちという設定も異国情緒たっぷり。でも、魅力的な設定の割に、物語自体はどうも...。主人公がつまらなさ過ぎです。考古学好きの普通の青年の人生が一変してしまうという辺りはまだしも、奴隷になって帆船を漕ぐうちに、頭の中まですっかり筋肉になってしまったみたい。彼が考えているのは、シャラーネという美女のことばっかりだし、それ以外のことでは仲間と一緒にやりたい放題。ケントンが逞しくなった途端に優しくなるシャラーネの造形も含めて、あまりに男性作家的な物語の展開にはがっかりです。(ハヤカワ文庫FT)

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恋人のアンジーが、大学の研究室の霊体投射実験でどこかに転送されてしまった?! 目の前でアンジーが消えてびっくりしたジムは、早速自分も同じように投射してもらうのですが、気がついた時、ジムの意識はなんとドラゴンの中に入り込んでいて...。

中世のイギリスらしき場所に飛ばされてしまい、しかもドラゴンの身体の中に入り込んでしまったジムが、アンジーと一緒に現代アメリカに戻るために、魔法使いや騎士、弓矢の名人、言葉を話す狼、ドラゴン仲間などの協力を得て、「暗黒の力ある者たち(ダーク・パワーズ)」を滅ぼすという、言ってみれば正統派のファンタジー。
設定もいいんですけど、何よりも登場人物たちが魅力的で良かったです。種族も気質も様々な寄せ集めの仲間なんですけど、下手に同じ志を持たせたりしないで、それぞれの思惑の通りに進んでいくと最終的に目的が一致するという辺りもいいんですよねえ。ただ単に悪を倒すというんじゃなくて、運命と歴史のバランスを保つという論理も面白かったし。
ラストも意外性たっぷり。霊体投射実験って一体何だったのかしら? この世界は結局パラレルワールドだったのかしら? なんて良く分からなかった部分もあるんですが、続きがあるそうなので、これはぜひ読んでみたいです。(ハヤカワ文庫FT)

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題名の「ムルガー」とはサルのことで、要するにサルが主人公のファンタジーです。本国イギリスでは、トールキンの「ホビットの冒険」が出るまでは、並ぶ作品がないと言われるほど評価されてたそうなんですけど... うーん、読みにくかったです。沢山いるサルの種類にも、食べ物や樹木の名前にもムルガー語の名前がついてて、それを追うのが大変なんですよね。巻末に「ムルガー語小辞典」がついてるんですけど、そんなのをいちいち調べてたら、話の流れになんて、とてもじゃないけど乗れませんー。脇役として登場する人間や水の精が印象的だったし、厳しい冬の情景がとても綺麗だっただけに残念。この厄介なムルガー語さえなければ、もっと楽しめたでしょうに。

この作品はハヤカワ文庫FTと岩波少年文庫から出てますが、どちらも絶版状態。読んだのはハヤカワ文庫なんですが、岩波少年文庫の画像があったので、そちらを載せておきますね。訳者さんは同じなのでどちらを選んでも一緒だろうと思ったんですが、岩波少年文庫の方が新しくて、色々と手を加えてあるようです。岩波少年文庫版を選んだら、もっと読みやすくて良かったのかも... 図書館にあったのに、惜しいことしちゃいました。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のウォルター・デ・ラ・メア作品の感想+
「妖精詩集」W.デ・ラ・メア
「ムルガーのはるかな旅」ウォルター・デ・ラ・メア
「昨日のように遠い日 少女少年小説選」

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子供の頃大好きだった「クローディアの秘密」と、今回初読の「エリコの丘」。
「エリコの丘」は河合隼雄さんの「ファンタジーを読む」に紹介されていた作品。それで興味を持ったんですけど、以前一度読もうとした時は、どうも文章そのものが受け付けなくて挫折。でもその後調べてみると、どうやら小島希里さんの訳は相当評判が悪かったらしいですね。読者だけでなくカニグズバーグ本人からも色々と指摘が来て、岩波は小島希里訳作品の全面改訂に踏み切ったのだそう。ということで、今回読んだのは、以前の訳に金原瑞人さんが手を入れたという新訳です。やっぱり全然違う! あのまま我慢して読み続けなくて本当に良かった。

でも読みやすくなって、「エリコの丘」も素敵な話だったんですけど、やっぱり「クローディアの秘密」の方が上だったかな。
これは小学校6年生のクローディアと3年生のジェイミーという姉弟がある日家出をするという話。でも家出とは言ってもそんじょそこらの無計画な家出じゃなくて、クローディアが綿密な計画を立てた家出。宿泊予定は、ニューヨークのメトロポリタン美術館だし!...同じような趣向の作品はいくつか読んだことがありますが、多分この作品が一番最初。本国では1967年に発表された作品なので、もう40年近く経ってることになるんですけど、全然話が古くないどころか、今読んでもワクワクしちゃう。そして肝心のクローディアの「秘密」については、大人になった今読んだ方が理解できたかも。その辺りもじっくりと楽しめました。
「エリコの丘」は、女優志願のジーンマリーと科学者志望のマルコムが、ひょんなことから、もう亡くなってる女優のタルーラに出会って、彼女に頼まれた仕事をするという話。このタルーラが素敵なんです。成熟した大人の女性で、美人というより個性的なのに、その個性で自分を美しく見せちゃうような人。ジーンマリーとマルコムは不思議な機械を通って、誰からも見えない姿になって活躍するんですけど、この「見えない」ということから、色んなことを学ぶんですよね。考えてみれば、どちらの作品も目に見えない部分をとても大切にしている作品でした。

「エリコの丘」をこれから読まれる方は、2004年11月に改訂された新訳を選んで下さいね。「金原瑞人・小島希里訳」って感じになってますので。以前の版は絶版になったそうなんですが、図書館だと旧訳を置いてるところの方が多そうですし。
カニグズバーグの作品は、岩波少年文庫から何冊か出ていて、すごく読みたいんですけど、「ティーパーティーの謎」と「800番への旅」は小島希里訳なので、ちょっと読む気になれない... 早く新訳が出ればいいのですが。あ、「魔女ジェニファとわたし」は、「クローディアの秘密」と同じ松永ふみ子さんの訳ですね。こちらを先に読んでみようっ。(岩波少年文庫)


*既刊のE.L.カニグズバーグ作品の感想*
「クローディアの秘密」「エリコの丘から」E.L.カニグズバーグ
「魔女ジェニファとわたし」E.L.カニグズバーグ
「ティーパーティーの謎」「800番への旅」「ベーグル・チームの作戦」カニグズバーグ

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22歳の青年・コランは、働かなくてもいいだけの資産を持ち、腕の良い料理人を雇っていて、毎週のように友人のシックを夕食に招く生活。シックは、技師としての乏しい給料からジャン・ソオル・パルトルの著作を買うのを楽しむ青年。シックにアリーズという恋人ができ、コランにも、アリーズの友達のクロエという恋人ができて、じきにコランはクロエと結婚。コランは、シックとアリーズの結婚も願って、自分の資産のうちの4分の1をシックに贈るのですが、シックはその金でパルトルの著作を買いあさり始めます。そしてクロエが、睡蓮の花が肺の中に咲くという奇病にかかり...。

レーモン・クノーによると「現代の恋愛小説中もっとも悲痛な小説」、ピエール・マッコルランによると「現代の青春の稀有な書物」という、とても不思議で、美しくて、そして哀しい作品。先日のたらいまわし企画「教えてください!あなたのフランス本」でLINさんが挙げてらした本です。(記事
冒頭から奇妙な描写がいくつも出てきて、おや?とは思ってたんです。コランが鏡を覗き込むと、ニキビは自分たちの姿が拡大鏡に映るのを見てびっくりして皮膚の下に逃げ込むし、バスマットに粗塩をふりかけると小さなシャボン玉が無数にふきだすし、洗面台の蛇口からはパイナップル味のはみがき粉目当てでウナギが顔を出して、それをパイナップルで釣って料理に使ってるし... 演奏をすると本当のカクテルを作るというカクテルピアノも登場。コランとクロエの初デートに登場する小さな薔薇いろの雲は、肉桂入りの砂糖の匂い♪ (ジョルジュ・サンドの作品にも薔薇いろの雲が登場するんですけど、これって慣用句か何かなのでしょうか) それでも最初は、話自体は普通に展開するんだろうと思ってたんです。でもふと気づけば、どんどん思わぬ方向へ... クロエの病気のせいで、コランの家が変容し始める辺りなんて、すっごくシュール。まさかこんな展開になるとは思ってもいませんでしたよー。びっくり。序盤がとても繊細で綺麗なだけに、終盤の痛ましさや残酷さが印象に残ります。もう、読んでいるこちらの精神状態まで左右されてしまいそう。でも、そこまでブラックなのに、やっぱり美しいというのが、また凄いんですよね。いやあ、面白かった。読み終わった途端に、もう一度最初から読みたくなりました。
ちなみにシックが狂信的に入れ込んでいるジャン・ソオル・パルトルは、ジャン・ポール・サルトルのこと。本来の作品名の「嘔吐」も、「はきけ」「へど」などの言葉で置き換えられています。あまり分からなかったけど、他にも 色々とあるんでしょうね。(新潮文庫)


+既読のボリス・ヴィアン作品の感想+
「日々の泡」ボリス・ヴィアン
「心臓抜き」ボリス・ヴィアン
「アンダンの騒乱」「ヴェルコカンとプランクトン」ボリス・ヴィアン

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「黄金の羅針盤」「神秘の短剣」に続く、ライラの冒険シリーズ第3部。これで完結です。
ここにきてようやく、「失楽園」にインスパイアされたというプルマンの描きたいことが見えてきました。「失楽園」をタイミング良く再読しておいて良かった! そこに書かれていた、ルシファーにしろアダムにしろイヴにしろ自由意志を持った、自分で選択する自由を持った存在として神が創造したという部分もこの作品に表れてるし、ルシファーやアダム、イヴのやったことは実は魂の解放と自由の始まりだったという部分も、「失楽園」を読んで感じていた通り。欧米でこの考えがどの程度受け入れられるのかは分かりませんけど、神についての解釈や描写も、大胆でとても良かったです。あの「オーソリティ」の姿には、さすがにびっくりしましたが...(^^ゞ
もちろん善側・悪側と立場がはっきりと見える人々もいるんですが、善悪が複雑に絡まりあってなかなかその本心が見えてこない人間もいるので、その辺りに緊迫感がたっぷり。ラストも安易なハッピーエンドじゃないところが気に入りました。ウィルとライラが自分たちの運命を受け入れていく様子もとても良かったし~。3部で新たにまた1人重要人物の視点が加わったので、途中ちょっと話が飛びすぎて散漫な印象になってしまったのが少し残念だったんですが、うるしを塗り重ねていく場面なんかはすごく好きだったし、琥珀の望遠鏡を覗いた時に見た金色のダストの情景が美しかったです。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「黄金の羅針盤」上下「神秘の剣」上下 フィリップ・プルマン
「琥珀の望遠鏡」上下 フィリップ・プルマン

+既読のフィリップ・プルマン作品の感想+
「かかしと召し使い」フィリップ・プルマン
「マハラジャのルビー サリー・ロックハートの冒険1」フィリップ・プルマン
「仮面の大富豪 サリー・ロックハートの冒険2」上下 フィリップ・プルマン

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アイルという国を舞台にした異世界ファンタジー「アイルの書」全5巻。「白い鹿」「銀の陽」「闇の月」「黒い獣」「金の鳥」です。ケルトの神話を下敷きにしてるとあって、以前からものすごーく読みたかったんですが、既に絶版。見つけるのに苦労しました...。でもその甲斐あって、とても良かったです~。

私のファンタジー好きは、ここを見て下さってる方はご存知だと思うんですけど、その根っこのところにあるのは、どうやら神話好きと叙事詩好きらしいんですよね。だからそういう世界を作家が作り出している異世界ファンタジーが大好き。そしてこの「アイルの書」は、まさしくその要素を備えた作品です。神話が存在する世界がしっかりと作られていて、しかもまるで吟遊詩人が本当に歌い語っているような物語なんです。
主な舞台はアイルという島。これはきっと「アイルランド」がモデル。5冊全部主人公が違っていて、最初の「白い鹿」が神話の時代が終わる頃の物語。「はるかな昔、まだ創世の魔法がこの世にとどまっていたころ、アイルとよばれる小島があった。」です。そして「銀の陽」から「金の鳥」までは、それから1千年ほどの時が流れた後の物語。一貫して書かれているのは友情。そして痛みとその癒し。って書くとなんだか陳腐になってしまうんですが...。特に良かったのは2巻。続いて3巻かな。4巻5巻も面白いんですけど、4巻で舞台が変わるので、読み終えてみると全3巻で終わらせても良かったような気もしますね。4巻5巻は番外編ということで。(笑)
「指輪物語」が好きな方は、気に入る可能性大です。実際、この作品にも「指輪物語」の影響が色濃く感じられます。でも「指輪物語」自体ケルトの神話との関連が深いはずなので、出処は一緒とも言えるのかなあ。

この作品に「ケア・エイシャ」と呼ばれる城砦が登場するんですけど、C.S.ルイスの「ナルニア」シリーズで、王や女王となったぺヴェンシーきょうだいが住んでいたのが「ケア・パラベル」。「ケア」って城のこと? 何語?...と思って検索したら、ウェールズ語だという記述が。そしてウェールズ語は、インド・ヨーロッパ語族ケルト語派なんだそうです。なるほどねえ。(ハヤカワ文庫FT)

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ちくま文庫20周年復刊フェアで再版された9冊のうちの1冊。(復刊されたのはコチラ) 西条八十や佐藤春夫、三好達治らが愛してやまなかったというデ・ラ・メアの詩集で、「妖精たち」「魔女と魔法」「夢の世界」の3章に分けられて、60編ほどの詩が収められています。出てくる妖精が、丁度イギリスやアイルランドの伝承に見られるような感じで、子供の頃読んだ童話を思い出すような懐かしい雰囲気。英国では「幼な心の詩人」と評されているというのも納得。でも正直なところ、私にはちょっと可愛らしすぎたかも...。それにこういうのは、やっぱり原書で読んでこそだなと思ってしまいました。荒俣宏氏の訳はとても読みやすいし、詩の1編1編にドロシー・P・ラスロップの挿絵がついていてとてもいい雰囲気なんですけど、でもやっぱり日本語に訳してしまうと、原文にあるはずの韻も失われてしまいますしね。
この中で気に入ったのは、「サムの三つの願い、あるいは生の小さな回転木馬」。妖精に3つの願いを叶えてもらうサムの物語。妖精や魔女に願い事を叶えてもらうという話は、大抵願う本人が自滅してしまうものですが、これは一味違います。そしてその願いがエンドレスで繰り返されていくというのも面白いんですよねえ。(ちくま文庫)


+既読のウォルター・デ・ラ・メア作品の感想+
「妖精詩集」W.デ・ラ・メア
「ムルガーのはるかな旅」ウォルター・デ・ラ・メア

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ダミアーノは、父親譲りの魔力で錬金術を行う21歳の青年。リュートと、言葉を話す小さな牝犬・マチアータをこよなく愛し、平和な生活を送っているダミアーノなのですが、パルテストラーダの町を支配下に置いていたサヴォイ公国の軍が撤退し、代わりにパルド軍が入ったことによって、ダミアーノの平和な世界は一変してしまうことに。

先日読んだ「黒龍とお茶を」がとても面白かったR.A.マカヴォイの、「魔法の歌」シリーズ全3巻。「ダミアーノ」「サーラ」「ラファエル」です。現代のサンフランシスコが舞台で、日常生活にほんのりと異質なものが入り込んだ程度のファンタジーだった「黒龍とお茶を」とはがらりと変わり、こちらは中世イタリアを舞台にした荘厳な作品。まるでラファエロの絵画がそのまま動き出したような印象。
とは言っても、ものすごーく感想が書きにくい作品だったんですけど... 天使や悪魔の扱いが独特で、その辺りがすごく面白かったです。冒頭から大天使ラファエルが登場して、ダミアーノにリュートを教えていたのには驚かされたんですが、そもそも、ダミアーノが魔道士でありながら敬虔なキリスト教徒という、この設定も珍しいと思うんですよねえ。
途中、サタンの姦計によってラファエルが大天使らしからぬ扱いを受けることになり、それがラファエルに大きな変化をもたらすんですけど、それ以前のラファエルって、ダミアーノ以外の人間には基本的に無関心だったし、多分ダミアーノに呼び出される前は、もっと人間に無関心だったんじゃないかと思うんですよね。ラファエルがこの状態なら、多分ウリエルやガブリエルやミカエルも似たようなものでしょうし、神その人はそれ以上に無関心なのかも、なんて思ったり。となると、神にとっては、ラファエルとサタンの諍いも特に関心を引くものではなかったんだろうなあ、なんて思いながら読んでいたら、なんだかサタンの方がずっと人間的に見えてきて、ルシファーがサタンになってしまった根本的な原因が見えたような気がしてきちゃいました... とは言っても、それはあくまでもこの作品の中でのことなんですが、マカヴォイ自身が、どんなことを考えて書いていたのか知りたい!(もしやこの作品の真の主役はラファエル?)
そしてサタンが住んでいるのが、常若の島ティル・ナ・ヌォーグ。なぜここにティル・ナ・ヌォーグが? これってケルトの神話に登場するティル・ナ・ノグと同じですよね? 私はケルト近辺でしか読んだことがないんですが、イタリアにもそういうのがあるのでしょうかー。妖精や死んだ英雄なんかが住んでる楽園だとばかり思ってたんですけど、なぜそこにサタンが住む?...マカヴォイがその名前を出してきた意図も知りたくなってしまいます。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のR.A.マカヴォイ作品の感想+
「黒龍とお茶を」R.A.マカヴォイ
「ダミアーノ」「サーラ」「ラファエル」R.A.マカヴォイ

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娘のエリザベスに急に呼び出され、ニューヨークからサンフランシスコへとやって来たマーサは、エリザベスが予約した高級ホテルに泊まりながらも、娘となかなか連絡がつかずに困惑していました。そして話し相手もいないマーサに、ホテルのバーテンダーが紹介したのは、メイランド・ロングという初老の紳士。ロング氏はこのジェイムズ・ヘラルド・ホテルに住んでおり、古いバラッドに詳しく、自分の耳でいにしえの吟遊詩人から直接聞いてきたような話し振りをする不思議な男性。2人は早速意気投合して、住所も職場も分からないエリザベスの行方を一緒に探すことになるのですが...。

ハヤカワ文庫FTなので、一応ジャンルとしてはファンタジーなんでしょうけど... 確かに「龍」という存在があるから、ジャンル分けをすればファンタジーになるんでしょうけど、話の展開としては、むしろサスペンスもしくはミステリ。現代のサンフランシスコを舞台にした、コンピューター犯罪小説でもあります。そしてほんのりとラブ・ロマンス。すごく可愛くて素敵な話でした!
時々普通の人間とはちょーっと違う雰囲気も醸し出してるロング氏も素敵だし、このロング氏とマーサの会話も、とっても小粋でお洒落。そのままヨーロッパ映画にしてしまいたくなるぐらい。若い2人が頑張るという話もいいけど、こんな風に、いい具合に肩から力が抜けた大人の年代の話も楽しいです~。大人のためのファンタジーといった感じですね。ゆっくりお茶でも楽しみながら読みたい1冊。本国では続編もあるようなんですが、訳されないのでしょうか。こちらもぜひ読んでみたいです。(ハヤカワタジー文庫FT)


+既読のR.A.マカヴォイ作品の感想+
「黒龍とお茶を」R.A.マカヴォイ
「ダミアーノ」「サーラ」「ラファエル」R.A.マカヴォイ

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随分前にBaroque Midnight の森山樹さんにオススメして頂いたファファード&グレイ・マウザーシリーズ。全5巻。ファファードという名の蛮族の大男と、グレイ・マウザーと呼ばれる都会派の小男の2人が活躍する異世界冒険ファンタジーです。
読み始めてまず驚いたのが、その構成。全5巻となると、まず長大なファンタジーを思い浮かべると思うし、たとえ5巻全部が繋がった長編ではないとしても、せいぜい1冊ごとに1つの話が完結してると考えるのが普通だと思うんですよね。それが、このシリーズは連作短編集なんです。1巻は、ファファードが生まれ育った北の地を出てくる話、グレイ・マウザーが師匠だった魔術師を失って旅立つ話、そしてその2人が出会う話で3つの中編が入ってるんですが、2巻なんて10もの短編が入ってるんですもん。もうびっくり。ファンタジーも色々読んだけど、こういうのって初めてかも。でも5巻は「シリーズ初の長編」というのが売り物になってるんですけど、ライバーという人はどうやら短編モードの作家さんだったらしく、それまでの連作短編とそれほど変わらないような...。(というのは私の独断ですが)

読んだ印象としては、すごく男性的なファンタジーということでしょうか。2人の冒険者たちが美女を目の前にしては鼻の下を伸ばし(笑)、せっかく稼いだお金も何だかんだと巻き上げられたり、失ってしまったり... 毎回苦労してる割に見入りが少ないんですよね。...と書いてると、なんだか古典的なハードボイルドを思い出しちゃいました。男らしい私立探偵に美人秘書、もしくは美人の依頼人。(笑)
1巻では魔法の使い方がすごく面白かったし、吟遊詩人としても勉強していたというファファードと魔法使いの弟子だったグレイ・マウザーという設定がちょっと珍しくて、これがどんな風に発展するのか期待してたんですが、結局そういう方面ではあまり発展がなくて残念。1巻の、白一色の北国から、グレイ・マウザーの灰色になり、最後2人が出会うランクマーの都の、毒々しい色合いを含んだ黒、という色合いの変化も面白かったんですけどね。全部読み終わってみると、1巻が一番面白かったかもしれないなあ。でも2人が冒険することになる海の中とか雪山とか地底王国とかの描写も、それぞれ色鮮やかで良かったです。そして、基本的にこの話は異世界ネーウォンが舞台なんですが、時空の扉を超えて地球に来ちゃう時もあったりして(それも古代フェニキアですと!)、きっと作者さんはものすごく楽しんで書いてるんだろうなあってそんな作品でした。(創元推理文庫)

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ジャック・フィニイは「ふりだしに戻る」が読みたいと思いつつ未読で、これが初挑戦の作家さん。「ゲイルズバーグの春を愛す」は、柊舎のむつぞーさんに教えて頂いた作品です。
先に「夢の10セント銀貨」を読み始めたんですが... これがなんとも...。ニューヨークに住む冴えない主人公が、魔法のコインでパラレルワールドのニューヨークに移動すると、そこでの自分は大成功していた、という話なんですけど、主人公が単なる自分勝手で子供っぽい男にしか感じられなくて、どうも受け付けませんでした。(というか、ただの迷惑な変人じゃん!←暴言)
となると「ゲイルズバーグ」の方は? と戦々恐々で読み始めたんですけど、こちらは良かったです~。ちょっぴり不思議なテイストのノスタルジックな短編集。どれも良かったんですけど、中でも特に良かったのは、表題作と「愛の手紙」。表題作を読んでる時はゲイルズバーグの街を歩きたくてたまらなくなったし、「愛の手紙」はものすごくロマンティック。それに、なんて切ない!
「独房ファンタジア」や「大胆不敵な気球乗り」は、情景が浮かんでくる愉快な作品だったし、他の作品もそれぞれにいい感じ。そしてこの中に「コイン・コレクション」という短編もあるのですが、これは「夢の10セント銀貨」の元になっているような話。でもこちらの方が断然良かった! もしかしてフィニイは短編の方が本領発揮なのでしょうか。こちらだけ読んでいれば、すんなりファンになってただろうな、なんて思うほどの素敵な短編集でした。基本的に短編集が苦手な私が「好き~」と思ったぐらいなので、短編好きな方には堪らないのではないかと思われます。(って、どういう規準だ・笑)(ハヤカワ文庫FT)

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たったひとりでライラックの森に住んでいたユニコーンは、ある日自分がこの世で最後に残ったユニコーンだと知って驚きます。1つの土地にひとりぼっちで住むのが特性のユニコーンたちにとって、自分以外のユニコーンに会うことは稀。しかし不死ということもあり、自分の仲間が他にもいることを信じて疑っていなかったのです。ユニコーンは、自分以外のユニコーンがどうなってしまったのか知るために、森の外の世界へ。

なんて綺麗な物語なんでしょう。リリカルという言葉はこういう作品のためにあるんですね、きっと。他のユニコーンを探す旅という冒険物語と言ってもいいような内容なのに、読んでる間も読み終わった後も、その印象はあくまでも「静謐」。どこがどうとは言えないけど、なんだかすごく不思議なんです。確かにファンタジー作品なんですけど、他のファンタジー作品と同じジャンルに入れちゃっていいのかしら、という感じ。他の作品とはまた全然違う時間が流れているような気がしてきちゃいます。というよりも、神話を読んでるような感覚に近いかな。この透明感のある繊細な世界観も素晴らしい~。
それぞれに何かに囚われていて、自分が本当は何者なのか探し求めてる登場人物たちの中で唯一絶対的な存在で、異質だったと思えるのが主人公となるユニコーンなんですよね。でも物語が終わって自分の森に帰ろうとするこのユニコーンもまた、既に純粋な意味でのユニコーンではなくなっていて...。今回は表面的な流ればかり追ってしまったけど、奥を探れば色々と深い意味がありそうな物語です。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のピーター・S・ビーグル作品の感想+
「最後のユニコーン」ピーター・S・ビーグル
「心地よく秘密めいたところ」ピーター・S・ビーグル

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色んなところに何度も書いてるので「もういい」と言われそうですが(^^;、私が小学校の頃大好きだった作家のベスト3は、「ナルニア」シリーズのC.S.ルイスと「指輪物語」のJ.R.R.トールキン、そしてエーリッヒ・ケストナー。でもケストナーは全部の作品を読みたいと思ったし、実際に全集を愛読していたのに、C.S.ルイスとトールキンに関しては「ナルニア」と「指輪物語」だけで、他の作品に手を伸ばそうと思ったことがなかったんですよね。あんなに好きで何度も何度も繰り返し読んでたのになぜなのかしらー、なんて今頃になって思ったりします。指輪物語の前段階の物語「ホビットの冒険」を読んだのも高校になってからぐらいだったし、それもそれほど積極的ではなかったような。
ということで、この短編集も初読みです。「農夫ジャイルズの冒険」「星をのんだかじや」「ニグルの木の葉」「トム・ボンバディルの冒険」が収録されています。「農夫ジャイルズの冒険」は、まるでヨーロッパに伝わる民話の1つのような物語。ユーモラスで風刺もたっぷり。「星をのんだかじや」はとても幻想的で美しい物語。「ニグルの木の葉」はキリスト教的な寓話。そして「トム・ボンバディルの冒険」は詩集。

ええと、それぞれに楽しかったんですが... やっぱり「指輪物語」とはスケールが違いますね。ってあんな長編と比べちゃダメですね。でも小粒な感じは否めませんが、やっぱり読んで良かったです。トム・ボンバディルと川の娘・ゴールドベリの馴れ初めの話も読めたし! 映画ではすっぱりと切り落とされてたんですが、実はトム・ボンバディルはお気に入りなので~。(これで訳者が瀬田貞二さんだったら言うことなかったのに) あとは、「星をのんだかじや」も好み。読んでいるとエルフたちの住むロスロリエンが蘇ってくるようだったし、ちょっぴり切ないラストでは最後の船出を思い出しました。そしてこの本、ナルニアシリーズの挿絵でも有名なポーリン・ダイアナ・ベインズの挿絵も素敵なんです。この人の絵の場合、カラーよりも白黒の方が雰囲気があって好き♪

やっぱりトールキンとルイスの作品は、今からでも一通り読んでみようっと。...もしかしたら、「指輪物語」も「ナルニア」も、自分の中でそれぞれが完璧な形として確立されてしまっていたから、あえて他の作品を読もうとは思わなかったのかもしれないなあ。なんて自己分析してみても... 今更?(笑) (評論社)


+既読のJ.R.R.トールキン作品の感想+
「農夫ジャイルズの冒険 トールキン小品集」J.R.R.トールキン
「妖精物語の国へ」「妖精物語について」J.R.R.トールキン
「シルマリルの物語」上下 J.R.R.トールキン
「ビルボの別れの歌」「指輪物語『中つ国』のうた」J.R.R.トールキン
「ブリスさん」「サンタ・クロースからの手紙」J.R.R.トールキン
「仔犬のローヴァーの冒険」J.R.R.トールキン
「ホビットの冒険」上下 J.R.R.トールキン
「指輪物語」J.R.R.トールキン
「サー・ガウェインと緑の騎士」J.R.R.トールキン
「終わらざりし物語」上下 J.R.R.トールキン

+既読の指輪物語関連作品の感想+
「トールキン神話の世界」赤井敏夫
「トールキンによる『指輪物語』の図像世界」W.G.ハモンド/C.スカル
「トールキン指輪物語事典」デヴィッド・デイ
「図説 トールキンの指輪物語世界 神話からファンタジーへ」デイヴィッド・デイ

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石堂藍さんの「ファンタジー・ブックガイド」に紹介されていて興味を持った異世界ファンタジー。「水の都の王女」と「神の住む森」がそれぞれ上下巻になっていて、題名は違うんですけど、完全な続編。逆に言えば、4冊読まないと完結しない作品。

異世界ファンタジーって、いかに魅力的な世界を構築するかがポイントだと思うし、もう既に色んな世界が描かれてきていると思うんですけど、その中でもこの作品の世界観は独特。しかもその奥行きの広さにはびっくりしました。例えば、この世界では北方の山岳地帯ではあらゆるものに神が宿っているのに、南の方では大河の神という唯一の神しか存在しないんですよね。宗教として一神教を信じていたり多神教を信じていたりというんじゃなくて、実際に北には様々な神が存在していて、南には大河の神1人だけなんです。しかもその大河の神の力が強大で、北方の神々を日々飲み込み食べ尽くしていってしまうという...。でもだからといって、大河の神が悪だと簡単に決めつけられられるわけではないんですよね。この辺りがすごく深いんです。
そしてそんな神々同士の争いに巻き込まれてしまったのが、北から来た青年・ペルカルと、南の水の王国の王女・ヘジ。主に彼ら2人の視点から物語は進んでいきます。このヘジや彼女の周囲の人間もすごく魅力的。でもねえ、もう一方のペルカルが... 悪気はないけど、すぐに仲間を危険に陥れちゃうし、良かれと思ってしたことでも裏目に出てしまうような青年なので、なかなか感情移入ができなくて、その辺りは少し辛かった。でもやっぱりこの世界観は凄いです。ファンタジー・ブックガイドに選ばれるのも納得なのでした。(ハヤカワ文庫FT)

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またしても久々になってしまった岩波少年文庫シリーズ。昨日に引き続きのジョージ・マクドナルドです。ここに収められているのは「かるいお姫さま」と「昼の少年、夜の少女」の2編。
「かるいお姫さま」は、招待されなかったことを怨んだ意地悪な魔女が王女に呪いをかけるという、昔話の王道の物語。でも呪いはこっそりとかけられるので、最初は誰の仕業とは分からないし、良い妖精がその呪いを打ち消すような祝福を与えることもできないんですよね。呪いを解く方法も分からないし。そして、ここでかけられる「重さをなくしてしまう」という呪いが面白いんです。ちょっと手を離すと、王女はふわふわとその辺りを漂っちゃう。マクドナルドの時代には宇宙飛行士なんていなかったはずなのに、まるで無重力空間みたい~。魔女には重力の操り方が分ってたんですって。しかも重さをなくしてしまうのは身体だけじゃなくて、頭の中身もなんですよ! これが可笑しいんですよねえ。で、普段は笑い転げてばかりいて、全然真面目になれないお姫さまなんですが、水の中にいる時だけは普段よりも落ち着いてお姫さまらしくなるというのが、なんか好きです。
そして「昼の少年と夜の少女」は、魔女によって、昼しか知らずに育てられた少年と、夜しか知らずに育てられた少女の物語。どうやら宮廷の貴婦人に信用されてたらしい魔女の存在も謎だし、昼だけ、夜だけ、と手がこんだことをする割に、その目的が謎なんですよねえ。でも、16年間ランプが1つしかない部屋に閉じ込められていた少女が、初めて見た外の世界に感動する描写がとても良かったです。大きな藍色の空に浮かぶ月の輝き、夏の夜風、漂う花々の香り、足に優しいしっとりと濡れた草むら。美しいです~。(岩波少年文庫)


+既読のジョージ・マクドナルド作品の感想+
「お姫さまとゴブリンの物語」「カーディとお姫さまの物語」マクドナルド
「北風のうしろの国」ジョージ・マクドナルド
「かるいお姫さま」マクドナルド
「ファンタステス」ジョージ・マクドナルド
「金の鍵」「黄金の鍵」ジョージ・マクドナルド
「きえてしまった王女」「かげの国」ジョージ・マクドナルド

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「影との戦い」「こわれた腕環」「さいはての島へ」「帰還」「アースシーの風」「ゲド戦記外伝」の6冊。以前4巻まで読んでいて、その「帰還」に「ゲド戦記最後の書」という副題がついてるんですよね。まさかその後5巻と外伝が出るとは! 先日6巻セットを貸してもらったので、いい機会だし最初から全部読み直してみました。

主人公はゲドという魔法使い。1巻の「影との戦い」で登場するゲドはまだ少年です。強い魔法の力を持っているのを見出され、魔法使いたちの学院で正式に魔法について学ぶことになるんですが、自分の力を慢心して、若気の至りでとんでもない事態を引き起こしてしまう... という物語が、この「影との戦い」。そして1巻進むごとに何年も経過していて、最終的に「アースシーの風」の頃のゲドは、なんと70歳ぐらいのおじいさん。(笑)

このゲド戦記、最初は全3巻の作品だったんですよね。最初の3冊は、色々なメッセージを内包してはいるものの、純粋に異世界ファンタジー。でも3巻から16年経って刊行されたという4巻は、どうもフェミニズム論が前面に出すぎていて、初読の時はあまり好きになれなかったんです。ゲドも初老の域に達してるし、3巻の時に力を使い果たしてしまって既に大魔法使いでもなくなってしまってるし、ファンタジーというジャンルを離れてしまったような気がして。4巻であれだったら、5巻では一体どうなるんだろうと思ってあまり期待してなかったんですが... いやー、良かったです。この5巻があって初めて、物語全体が綺麗に閉じたという気がします。それまで当たり前のように受け止めていたこの世界の前提があっさり覆されて、初めて正しい姿がくっきりと見えてきたという感じ。
ゲドが「影との戦い」での失敗のせいですっかり内省的になっちゃうんで、全体的にあまり明るい雰囲気ではないんですが(笑)、でもやっぱりいいです、ゲド戦記。世界の奥行きも抜群。やっぱり今回最初から読んで良かった! 名作ですね。


そして次のジブリは、この「ゲド戦記」なのだそうです。びっくり~。一体どんな感じになるんでしょうね。っていうか、一体どんな風にまとめるつもりなんでしょうね? と思ってたら、ココの記事にありました。3巻を中心にまとめるんですって。ゲド、なんだか脇役になっちゃいそうだなあ。(笑)(岩波書店)


+既読のアーシュラ・K・ル=グウィン作品の感想+
「闇の左手」アーシュラ・K・ル・グイン
「ゲド戦記」アーシュラ・K・ル=グイン
「夜の言葉」アーシュラ・K・ル=グウィン

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友人に連れられて行ったそのクラブは、敷地もあまり大きくなく、部屋数もたかが知れており、ビリヤード台もなく、特別美味しいワインがあるわけでもない、冴えないクラブ。しかし折よくジョーキンズという古株が来ていて、彼に好物のウイスキーのソーダ割を振舞えば、必ず面白い物語を聞かせてくれるというのです。

ビリヤードクラブで語られるホラ話の数々。それは世界中を旅してきた、一度は人魚と結婚までしたたというジョーキンズ氏が語る物語。ダンセイニといえば、これまでは「ぺガーナの神々」や「魔法使いの弟子」のような中世的なファンタジーのイメージだったんですが、これはまるで違うんですね。こんな作品も書いていたとはびっくり。こちらにも妖精や魔女、人魚などは登場しますし、蜃気楼が幻想的な情景を作るんですが、もっと日常に近い物語。しかも「電気王」という作品では火星旅行について、「ビリヤード・クラブの戦略討議」ではなんと原爆戦争について書かれてるんです。この「ビリヤード・クラブの戦略討議」が発表されたのは、広島の原爆投下から3年後なんですよね。最初はちょっと引いたんですが、でも最後のオチは好きでした。...でも、魔女の住む森や丘の上に現れる蜃気楼の情景は美しいけど... ダンセイニなら、もっと重厚なファンタジーが読みたいかな。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のロード・ダンセイニ作品の感想+
「ぺガーナの神々」ロード・ダンセイニ
「魔法使いの弟子」ロード・ダンセイニ
「魔法の国の旅人」ロード・ダンセイニ
「世界の涯の物語」「夢見る人の物語」ロード・ダンセイニ
「妖精族のむすめ」ロード・ダンセイニ
「エルフランドの王女」ロード・ダンセイニ
「影の谷物語」ロード・ダンセイニ
「時と神々の物語」「最後の夢の物語」ロード・ダンセイニ
「ダンセイニ戯曲集」ロード・ダンセイニ
「牧神の祝福」ロード・ダンセイニ

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パトリシア・マキリップによる異世界ファンタジー、イルスの竪琴全3巻です。いやあ、面白かった!
一読して「指輪物語」の影響を感じたし、実際共通する部分が多いんですよね。辺境の小さな平和な村に住む平凡な主人公が、何らかの使命のために旅に出るところとか、実は平和だと思っていたのは主人公たちだけで、戦いの影がすぐそばまで迫ってきていたこととか。でも、この世界ならではのユニークな設定も色々とありました。王国内のそれぞれの領国支配者は、その領国と見えない絆で密接に結びついていて、その領国内でのことは草木の1本1本に至るまで全て感じとることができるし、その人が死ぬと領国支配権は自動的に世継に移るとか... だから君主が死んだ時、世継はそれを真っ先に身体で知ることになるんです。あと、この世界では「謎解き」がとても重要で、大学も謎解きとその教訓を教える場所だし、謎解きのためには命を賭けることも珍しくないとか。主人公も、最初は躊躇ってるんですが、最終的には謎に対する好奇心を抑えきれずに冒険に飛び込んでしまうことになるし... そして謎解きが盛んなだけあって、作品の中では謎がさらに大きな謎を呼んで、もう謎だらけ。って、あらすじもちゃんと書いてないので、何のことやら、ですが。
3冊のほとんどが旅の途上というのも「指輪物語」っぽいところ。でもその旅で訪れる各地の情景の描写がすごく綺麗なんですよねえ。もう、草原を吹き渡る風を肌に感じられるような気がするほど。戦いの場面ですら幻想的で美しいというのが凄いです。

登場人物も地名もすごく色々あって最初は混乱したし、設定を掴むまでが大変だったんですけど、一度掴んでしまえば、あとは夢中で一気読み。巻末に登場人物名と地名の一覧表が載ってるのも助かりました。ええと、現在は1冊目の「星を帯びた者」だけが入手可能のようですね。これ1冊だけだと、「えっ、こんなところで終わらせないでよ!」ってところで終わっちゃうので、どうかと思うんですけど、剣と魔法の異世界ファンタジーが好きな方にはオススメの作品かと~。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のパトリシア・A・マキリップ作品の感想+
留守中に読んだ本(18冊)(「妖女サイベルの呼び声」「影のオンブリア」の感想)
「星を帯びし者」「海と炎の娘」「風の竪琴弾き」パトリシア.A.マキリップ
「ムーンフラッシュ」「ムーンドリーム」パトリシア・A・マキリップ
「オドの魔法学校」パトリシア・A・マキリップ
「ホアズブレスの龍追い人」パトリシア・A・マキリップ
「チェンジリング・シー」パトリシア・A・マキリップ
「茨文字の魔法」パトリシア・A・マキリップ

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「ケルトの薄明」だけ、画像が出ないですが...。

アイルランド生まれの詩人・イエイツが、既存のアイルランドの民間伝承物語や妖精譚の中から話を抜粋し、分類・体系化した本が「FAIRY AND FOLK TALES OF THE IRISH PEASANTRY」と「IRISH FAIRY TALES」。そこから妖精譚だけを抜粋してまとめたのが「ケルト妖精物語」で、妖精譚以外を収めたのが「ケルト幻想物語」。そして他人が集めた物語を編集するのに物足りなくなったのか、イエイツ自身が自分の足でアイルランドを歩き回って話を集めたのが「ケルトの薄明」。
イギリスの妖精について書かれていた「妖精 Who's Who」と同じように、気まぐれで我儘で意地悪な妖精の話が多いです。そして、「ケルト妖精物語」や「ケルト幻想物語」も素朴な物語が多いんですが、「ケルトの薄明」はそれ以上に素朴な印象。物語になり切れないスケッチ的なものも多くて、炉辺などで語る人々の言葉がそのまま伝わってくるようでした。イエイツが、口の堅いおじいさんからなんとか話を引き出そうと苦労してるらしいところも、なんか可笑しくて。でも話によって、読みやすいのと読みにくいのと、ちょっと差が激しかったかなあ。これを読むと、グリム童話やペロー童話って洗練されてるんだなあって実感しちゃいます。

アイルランドにキリスト教を伝えた聖パトリックは、土着のドルイド教を良く理解していたので、そういった信仰を無闇に排除するようなことはなく、むしろそういった宗教を吸収するようにして、キリスト教を広めていったんですよね。それまでの土着の神々は、妖精として残っていったのだそう。そのせいか妖精譚もキリスト教の影響を受けながらも、ちょっと異教的な雰囲気を残してて、そういうところが結構好きです。(ちくま文庫)

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風待屋の sa-ki さんに教えて頂いた、イギリスの妖精をイラスト付きで紹介している本。本当はたらいまわしの第8回「あなたが贈られたい(贈りたい)本はなんですか?」で出してらしたピエール・デュボアの「妖精図鑑」も合わせて見たかったんですけど、そちらはまたいずれ...。

ブラウニーやドワーフ、エルフなんかの有名な妖精は知ってますけど、もう全然名前を聞いたことがない妖精もいっぱい。イギリスには、これほど沢山の妖精がいるんですか! しかも同じくブリッグズの、富山房から刊行された「妖精事典」には約400種類の妖精が紹介されていて、これはその中から101を選んで紹介したのだそう。まだまだこの4倍もいるんですね。
日本で妖精といえば、基本的に可愛らしくて良いイメージなんじゃないかと思うんですが、ここに登場する妖精は気まぐれだったり意地悪だったり、時には残酷だったり。人さらいの話も多いし、人間の日々の仕事を手伝ってくれてても、ある日突然ふいっと出て行ってしまったりするし、昨日までは機嫌が良くても今日はまた分からないし。実際、妖精を信じていた昔の農家の人々は、相手が良い妖精であっても決して怒らせないように気をつけていたようです。妖精とつきあうのは、相当しんどそう...。なんだか妖精というより、単なる駄々っ子の相手をしてるような感じもするなあ。というよりも、むしろ日本の妖怪のイメージ? まあ、妙な現象が起きたらそれを全部妖精のせいにしていたからこそ、こういった妖精が沢山生まれることになったんでしょうけどね。(きっと人為的な「妙な現象」も多かったんでしょうね)
ファンタジー作品を読んでいて聞き慣れない妖精が出てきた時などに、役立ちそうな1冊です。(ちくま文庫)


+既読のキャサリン・ブリッグズ作品の感想+
「妖精 Who's Who」キャサリン・ブリッグズ
「魔女とふたりのケイト」K.M.ブリッグズ

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泉鏡花、学生時代に少し読んだ覚えがあるんですが、それきり全然。ここのところずっと読みたいなあと思っていたんですが、ようやく読めました。「夜叉ヶ池」「天守物語」「高野聖」「眉かくしの霊」の4編の中では、「高野聖」だけが既読。

きっと相当時間がかかるんだろうな... と覚悟してたんですけど、これが全然。もう夢中になって読んでしまいましたー。特に良かったのが「夜叉ヶ池」。そして「天守物語」も。この2編は戯曲です。実際、映画やお芝居にもなってますね。(玉三郎のが観てみたいー) 戯曲を読むなんて、本当に久しぶり。子供の頃は、マルシャークの「森は生きている」とか大好きだったんですが、大人になってからはどうも読みづらくなってしまって敬遠してたんです。それがこんなにさらさらと読めるとは、びっくり。もしかしたら、泉鏡花に関しては、戯曲の方が普通の小説よりも入りやすいのでしょうか? 頭の中で台詞を音読するように読んでいると、泉鏡花ならではの艶やかな世界がぱあっと広がってすごく素敵でした。
「夜叉ヶ池」も「天守物語」も、人間だった時は痛ましい亡くなり方をした女性たちが、物の怪になってから幸せを掴むというのがポイント。それに物の怪の方が、人間よりも約束を律儀に守っているんですよね。夜叉ヶ池の主も、本当は剣ヶ峰千蛇ヶ池にいる恋する若君のところに行きたいのに、そんなことしたら大水になってしまうし、人間との昔からの約束もあるから「ええ、怨めしい...」と我慢しているのに、人間の方が浅はかな考えから約束を簡単に破ろうとしてます。醜い俗世と物の怪の美しい世界の対比?(雨乞いをする人間たちが妙なものを池に投げ込んで困る... と、渋い顔をしてる物の怪の姿が可笑しいです♪)
「高野聖」は、山で何度も遭遇する大蛇や、森の中で上から降ってくる蛭の場面がものすごくリアルで気色悪っ。その後のなまめかしい美女の場面が、余計に妖しく感じられました。川で水浴びをしている時、「うとうとする様子で、疵の痛みがなくなって気が遠くなって、ひたと附ついている婦人の身体で、私は花びらの中へ包まれたような工合」だなんて、イメージとしては恋人よりも母親のようだったけど...(笑)

泉鏡花の本は岩波文庫版が何冊か手元にあるので、ぼちぼちと読んでいくつもりです。(岩波文庫)


+既読の泉鏡花作品の感想+
「夜叉ヶ池・天守物語」「高野聖・眉かくしの霊」泉鏡花
「泉鏡花短篇集」川村二郎編
「海神別荘」「春昼・春昼後刻」泉鏡花
「鏡花百物語集 文豪怪談傑作選・特別篇」東雅夫編

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去年「精霊の守り人」「闇の守り人」「夢の守り人」と読み進めていた守り人シリーズ。その後、積読本減らしのために図書館自粛期間に入ってしまって途切れていたのですが、ようやく続きが読めましたー。やっぱりこのシリーズはいいですねえ。決して派手じゃないんだけど、すごく好きです。ハードカバーだし、字が大きいから図書館で借りてるけど、文庫本になってくれたら絶対揃えるのに! そしてバルサとチャグム皇子の出会いから始まったこのシリーズ、どうやらバルサを主人公にした「守り人」シリーズと、チャグム皇子を主人公とした「旅人」シリーズに枝分かれしたようですね。今回4冊積み上げてて気づいたんですが、「守り人」は二木真希子さん、「旅人」は佐竹美保さんがイラストを描くことになったのかしら?
今までは一応1冊ずつで完結してたんですが(「神の守り人」は2冊組ですが)、「蒼路の旅人」は、これだけでは完結していません。というか、ここからまた新たな物語が始まったみたいな感じ。(表紙の色合いがこれだけ違うのも、それを意識してるのでしょうか) この行方がどうなるのか早く読みたい! バルサやタンダも好きなんですけど、チャグム皇子も好きなんですよねえ。
そして守り人&旅人スペシャルサイトなんてものも見つけました。次は守り人の物語が出るそうなんですが、既に「炎路の旅人」という作品も書かれているようで... これに関しては、「読みたいという読者の声がありましたら、いずれ出版する機会もあるかなぁと思っております」とのこと。勿論読みたいに決まっていますとも! ぜひぜひ出版をお願いしたいものです。
2つに枝分かれしたシリーズも、最終的にはまた1つに戻るのでしょうね。これからどのような物語になっていくのか本当に楽しみです。(偕成社)


+シリーズ既刊の感想+
「精霊の守り人」「闇の守り人」「夢の守り人」......ブログには感想がないので、よろしければLivreへどうぞ
「虚空の旅人」「神の守り人 来訪編」「神の守り人 帰還編」「蒼路の旅人」上橋菜穂子
「天と地の守り人」1~3 上橋菜穂子
「流れ行く者 守り人短編集」上橋菜穂子
「バルサの食卓」上橋菜穂子・チーム北海道

+既読の上橋菜穂子作品の感想+
「獣の奏者」1・2 上橋菜穂子
Livreに「狐笛のかなた」の感想があります

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バレエで有名な「くるみ割り人形」の原作。子供の頃にも読んだことがあるはずなんですが、改めて読んでみるとバレエとはかなり雰囲気が違っていてびっくり。バレエでは、クリスマスプレゼントに貰ったくるみ割り人形がネズミを戦っているのを見たクララが、思わず加勢に入ってくるみ割り人形側が大勝利。人形の国に連れて行ってもらえる... というストーリーですよね。で、全てが終わってみると、クリスマスの夢だった... って感じだったかと。
原作も確かに大筋ではそうなんですが... でも終始「夢の世界~」なバレエとは違って、もっと生々しく現実が迫ってくる感じなんです。最初にネズミとくるみ割り人形が戦う場面なんて、マリー(原作ではクララじゃなくてマリー。クララはマリーの持ってる人形の名前)も実際に怪我をして血を流して倒れてたりするし、親はマリーの再三の話を聞いて、そのたびに「夢をみたのね」と言うんだけど、実は夢オチではなく... なんだか思ってた以上に不気味な話でした。えっ、こんな終わりでいいの?! 状態。
あ、でも人形の国の描写はとっても素敵です。氷砂糖の牧場、アーモンド・干しぶどうの門、麦芽糖の回廊、大理石のように見えるクッキーの敷き詰められた道、オレンジ川にレモネード川、ハチミツクッキーの村、キャンデーの町、コンポートの里、お菓子の都... もう読んでいるだけでも、いい香りが漂ってきそう。美味しそうです~。(岩波少年文庫)


+既読のホフマン作品の感想+
「クルミわりとネズミの王さま」ホフマン
「悪魔の霊酒」上下 ホフマン
「黄金の壷」「スキュデリー嬢」 ホフマン
「ホフマン短篇集」ホフマン
「黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ」ホフマン

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4150201552.jpg 4150201579.jpg [amazon] [amazon]
「白い女神」であるジェンナを中心とした、ケルトの神話を思わせるようなファンタジー。
この作品でまず驚かされたのは、物語が「神話」「伝説」「物語」「歴史」の章に分かれていて、その合間に「歌」や「バラッド」、「寓話」などが挿入されていたこと。そういう風に細かく分かれていると、どうしても流れが分断されやすいと思うんですけど、それがそうでもないんですねえ。分断する以上に、世界をより深く重層的にしていてびっくり。
物語に厚みを持たせるために、その世界の神話が物語中に挿入されるのはそれほど珍しくないと思うんですけど、でもここに書かれた物語が神話となってしまうほど、遥か未来の視点からも書かれてるんです。これが珍しい...。ここでの「物語」が「神話」として高められ、あるいは民間の中の「伝説」として伝わり、その過程で歌やバラッドが出来るんですけど、さらに長い年月が経った未来の歴史家などがこの物語のことを様々な資料で研究してるのが「歴史」の章。
って、言葉で説明するとすごくヤヤコシイですね...(^^;。でもこれによって1つの物語がとても立体的に見えて来ます。真実がどんな風に変化して神話や伝説になっていくのかというのも面白いし、遥か彼方の未来の人々が、見当違いのことを論じてるのも可笑しい♪

私好みの骨太なファンタジーで、すっごく面白かったです。ジェイン・ヨーレンって、叙情的な描写ばかりが前面に出てるのかと思ったけど、それだけじゃないんだなあ。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のジェイン・ヨーレン作品の感想+
「夢織り女」ジェイン・ヨーレン
「水晶の涙」ジェイン・ヨーレン
「三つの魔法」ジェイン・ヨーレン
「光と闇の姉妹」「白い女神」ジェイン・ヨーレン
「月夜のみみずく」ジェイン・ヨーレン ショーエンヘール

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■「雨鱒の川」川上健一 [amazon]
本が好き!お気軽読書日記のもろりんさんのオススメ。美しい自然を舞台にしたなんとも美しい純愛物語。中心となっている2人が10年経ってもまるで変わらないのは、変わりゆく自然との対比? 評判通り、方言がいい味を出していました。東北の言葉ってほとんど馴染みがないし、最初は全然意味が分からなくて、読みづらかったんですけどね。(集英社文庫)


■「時計坂の家」高楼方子 [amazon]
Cross-Roadの瑛里さんが、先日BookBatonで思い入れのある作品として挙げてらしたので興味を持っていたところ、たらいまわし企画でも妖精と黒薔薇の書架のつばきさんが挙げてらっしゃいました。これは児童書ですが、とても奥が深いファンタジー。読み返すたびに新たな発見がありそうな作品です。作中ではC.S.ルイスのナルニアが引き合いに出されていたんですが、この独特の雰囲気は、フィリッパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」に近いような気がします。高楼方子さん、いいですねえ。他の作品も読んでみたいな。(リブリオ出版)


■「ぐるりのこと」梨木香歩 [amazon]
これはエッセイ。境界線とそのこちら側、向こう側の話が多かったです。で、改めて考えてみると梨木さんの書かれる物語もそういう話が多いような。(新潮社)


■「プールに住む河童の謎」緑川聖司 [amazon]
児童書です。「晴れた日は図書館へいこう」が面白かったので、期待していた緑川聖司さんの新作。こちらもなかなか可愛らしい作品でした。森友典子さんのイラストも作品のイメージにぴったり。大人のミステリ読みはすぐにピンと来るでしょうけど、この謎がまた児童書にぴったりだし~。相馬くん、可愛かったなあ。でも宝石店に関する記述には納得できないものがいくつか。こんなことを子供が本当に信じ込んだらイヤだわあ。(小峰書店)


■「ベルガリアード物語」全5巻 デイヴィッド・エディングス [amazon]
Baroque Midnight Gothic Twilightの森山樹さんに教えて頂いたシリーズ。異世界ファンタジー好きには堪らない本格的なエピック・ファンタジー。「指輪物語」の本流を汲む作品だと解説にはあったけど、読み始めはむしろロイド・アリグザンダーのプリデイン物語のシリーズみたいでしたね。面白かったです。かなりボリュームのある作品なのですぐには無理だけど、これは絶対また再読したくなるだろうな。この物語の前日譚(?)「魔術師ベルガラス」全3冊が今月から出始めてるそうなので、そちらも買ってこなくっちゃ。(ハヤカワ文庫FT)


■「マライアおばさん」「七人の魔法使い」「時の町の伝説」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ [amazon]
どれもものすごーくダイアナ・ウィンジョーンズらしい作品で、続けて読むとちょっと胸焼けがしそう... とは言っても、どれも作風は違っていて、DWJの引き出しの多さにびっくりなんですけどね。「マライアおばさん」は、ほんとヤなヤツだらけで、誰が味方なのかも分からないほど。毒気がいっぱい。「七人の魔法使い」の方が明るくて楽しかった。本当にこの終わりでほんとにいいの?って感じでしたが...。「時の町の伝説」はタイムトラベル物。ちょっとややこしかったけど、歴史の捉え方が面白かったです。(徳間書店)


■「妖女サイベルの呼び声」「影のオンブリア」パトリシア・A・マキリップ [amazon] [amazon]
どこまで行ったらお茶の時間の七生子さんのオススメ。どちらも重厚で寡黙な独特のな雰囲気がすごく素敵な作品でした。まるで神話みたい。少しでも飛ばすとすぐ分からなくなってしまいそうで、そういう緊張感も久しぶりでした。マキリップも色々と読んでみたい! 「影のオンブリア」の「オンブリア(Ombria)」は、舞台となる都の名前。それ自体が影を連想させる言葉なので(仏語の「影」はombre、伊語だとombraだし)重箱読みしてるような妙な気分だったんですけど、読んでみるとなんともぴったりな名前でした。KinukoY.Craftさんのイラストの表紙も、ほんとぴったりで素敵。この「影のオンブリア」を原作として、岡野玲子さんが「コーリング」を描かれてるのだそうです。→間違いでした。「妖女サイベルの呼び声」が原作なんですって。maki さん、ありがとうございます!(ハヤカワ文庫FT)


■「ウルフタワー」全4冊 タニス・リー [amazon]
訳のせいもあるんでしょうけど、これじゃあまるでライトノベル。コバルトに入っててもおかしくないぐらい。原文がどうなってるのかは知らないですけど、なにもこんなに軽く訳さなくても...。たまに惹かれる部分はあるものの(主人公の相手役がかっこよかった)、全体にタニス・リーらしさがあまり感じられなくて残念。(産業編集センター)

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岩波少年文庫再読計画第7弾。
大好きな「時の旅人」のアリソン・アトリーの書いた童話集。それぞれに6編ずつ収められています。この2冊は今回初読。読んでいると、まるでファージョンの作品みたいなので驚きました。昔懐かしいお伽話の雰囲気。この2冊の中では、私は南国の香りのする「幻のスパイス売り」(「西風のくれた鍵」)が一番好きかな。でも雪や氷の情景もとても良かったです。「雪むすめ」(「西風のくれた鍵」)もいいし、あと「氷の花たば」の表題作! これが素敵なんですよ。どこかで聞いたことのあるようなお話なのに、読後感がとても良いのです。ひんやりとした情景なのに、読み終わるとなんだか暖かくて♪ (読後感が暖かいのは、「雪むすめ」もですが~)
ピクシーを始めとして、それぞれのお話に不思議な存在も色々と登場します。異形の存在って、異形というだけで警戒されちゃったりするけど、本当はそんな悪いことばかりしてるわけじゃないんですよね。でも人間の娘に真剣に恋をしてても、そうは見てもらえないことも多いし、色々苦労が多いのです。なんとか上手くやろうと水面下の工作をしてみても、その水面下の工作のせいで、逆に真意を疑われてしまったり。なかなか大変なんですねえ。...って、お話の中ではピクシーでも、人間にも十分当てはまりますね。(岩波少年文庫)


+既読のアリソン・アトリー作品の感想+
「西風のくれた鍵」「氷の花たば」アリソン・アトリー
「グレイ・ラビットのおはなし」アリソン・アトリー

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平たい地球シリーズの5作目なんですけど、4作目の「熱夢の女王」と対になってる外伝的な物語でもあります。基本にあるのは、「熱夢の女王」と同様、闇の公子・アズュラーンの娘・アズュリアズと、惑乱の公子・チャズとの魂の遍歴。あの話の時にこんなことがあったのかーという感じがとても楽しかったです。やはりこれは「熱夢の女王」があってこその物語ですね。この2作は続けて読みたかったな... というか、先に「熱夢の女王」を再読しておけば良かったなあ。まあ、いずれまたシリーズを通して再読するつもりではありますが!(ハヤカワ文庫FT)

タニス・リーの本は、これで21冊目。あと手元にあるのは、「ウルフ・タワーの掟」に始まる4冊のシリーズ物だけで、「影に歌えば」と「死霊の都」は未だ探し中です。見つかればいいんですけど...! 「ウルフ・タワーの掟」を早く読みたくもあり、読んでしまうのが勿体無くもあり... と、まだまだ本を撫でている状態。と言いつつ、結構あっさり読み始めちゃうかも。やっぱり本は「読んでナンボ」ですもんね。


+シリーズ既刊の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「銀色の恋人」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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「大魔法使いクレストマンシー」シリーズ外伝。短編が4つ入っています。私が一番気に入ったのは、「魔女と暮らせば」と「トニーノの歌う魔法」の主役同士の共演となる「キャットとトニーノと魂泥棒」かな。男の子2人が可愛いんですよー。あと、夢見師という職業の女の子が出てくる「キャット・オニールの百番目の夢」も、なかなか面白かったです。しかもこの女の子のお父さんは、「クリストファーの魔法の旅」に出てきた、クリストファーの学校時代の親友なんですよー。こんな風に話がどんどん広がっていくのって大好き。でもこれでクレストマンシーシリーズはオシマイらしいです。次世代のクレストマンシーの話とかもちょっと読んでみたかったんだけどな... そういうのが全然なくてちょっと残念。でも十分面白かったです。それにこのシリーズは表紙がとっても可愛くて大好き。手元に本を置いてるだけでも楽しかったし、読んで良かった♪
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品は、手元にはあと「星空から来た犬」と「七人の魔法使い」があるんだけど、さすがに10冊続けて読むと疲れますね。(笑) ということで、ファンタジーは一休み。次は海外ミステリに戻る予定です。(徳間書店)


+シリーズ既刊の感想+
「魔法使いはだれだ」「クリストファーの魔法の旅」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔女と暮らせば」「トニーノの歌う魔法」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法がいっぱい」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法の館にやとわれて」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「キャットと魔法の卵」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

+既読のダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の感想+
「魔法使いハウルと火の悪魔」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「アブダラの空飛ぶ絨毯」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「デイルマーク王国史」1~4 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「わたしが幽霊だった時」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
留守中に読んだ本(18冊)(「マライアおばさん」「七人の魔法使い」「時の町の伝説」の感想)
「呪われた首環の物語」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「花の魔法、白のドラゴン」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「いたずらロバート」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジーランド観光ガイド」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「バウンダーズ」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「星空から来た犬」「魔空の森ヘックスウッド」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「バビロンまでは何マイル」上下 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」「海駆ける騎士の伝説」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「うちの一階には鬼がいる!」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法!魔法!魔法!」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ぼくとルークの一週間と一日」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「牢の中の貴婦人」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
Livreに「ダークホルムの闇の君」「グリフィンの年」「九年目の魔法」の感想があります)

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「大魔法使いクレストマンシー」シリーズの3作目と4作目。でも本当はこの「魔女と暮らせば」が1番最初に、そして「トニーノの歌う魔法」が2番目に書かれたんだそうです。「魔女と暮らせば」は、かつて「魔女集会26番地」という題名で紹介されていた作品の新訳。時系列的には、「クリストファーの魔法の旅」が一番最初で約25年前、「魔女と暮らせば」が比較的最近に起きた話で、「トニーノの歌う魔法」はその半年後、そして「魔法使いはだれだ」が、「たった今起こっていること」とのこと。(結局どこから読んでもいいのね...)
「魔女と暮らせば」は、両親を船の事故で亡くしたグウェンドリンとキャットという姉弟が、クレストマンシーの城に引き取られる話。グウェンドリンは魔法が得意なんですけど、物凄い高慢ちきで自信過剰。クレストマンシーの関心を自分に向けるために、次から次へと悪戯の魔法を繰り返します。この彼女が見ててなんだか痛々しいし、しかも弟のキャットが姉の暴走を止めるどころかすっかり言いなりになってる不甲斐ない男の子。最後は一応ハッピーエンドなんですけど、結構ブラックかなあ。「クリストファーの魔法の旅」と登場人物が一部重なってるので、後日譚的な楽しみもありました。
そして「トニーノの歌う魔法」はイタリアが舞台。ロミオとジュリエットばりの、憎しみ合う2つの家が登場。でもイタリアが舞台のせいか、シリーズの他の作品と随分と雰囲気が違うような~。この2つの家は直接係わり合いのない時はどちらもいい家族だし、大家族でとても暖かいんです。たとえば、魔法使いの家系に生まれてても、魔法が得意じゃない子も当然出てくるわけですが、そういう子がいてもみんな気にしないどころか、失敗した魔法を明るく笑い飛ばしたり、落ち込んでる子を家族中で心配してなぐさめたり。家族の絆が強いんですよね。(だからこそ家同士で憎みあうようなことにもなるんだけど) そしてもう1つイタリアっぽいのが、魔法の呪文の唱え方。普通はまあ言ってみれば詩のように朗読するんだと思うんですけど、ここでは歌のメロディに乗せて呪文を唱えるんです。これが気に入っちゃった。もちろん音が外れたり呪文を間違えたりしたら、何が起こるか分からないのですが...(笑) でも綺麗な歌声がこちらまで響いてくるようで、読んでいてても気持ちの良い物語でした♪(徳間書店)


+シリーズ既刊の感想+
「魔法使いはだれだ」「クリストファーの魔法の旅」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔女と暮らせば」「トニーノの歌う魔法」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法がいっぱい」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法の館にやとわれて」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「キャットと魔法の卵」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

+既読のダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の感想+
「魔法使いハウルと火の悪魔」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「アブダラの空飛ぶ絨毯」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「デイルマーク王国史」1~4 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「わたしが幽霊だった時」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
留守中に読んだ本(18冊)(「マライアおばさん」「七人の魔法使い」「時の町の伝説」の感想)
「呪われた首環の物語」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「花の魔法、白のドラゴン」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「いたずらロバート」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジーランド観光ガイド」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「バウンダーズ」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「星空から来た犬」「魔空の森ヘックスウッド」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「バビロンまでは何マイル」上下 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」「海駆ける騎士の伝説」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「うちの一階には鬼がいる!」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法!魔法!魔法!」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ぼくとルークの一週間と一日」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「牢の中の貴婦人」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
Livreに「ダークホルムの闇の君」「グリフィンの年」「九年目の魔法」の感想があります)

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「大魔法使いクレストマンシー」シリーズの2冊。このシリーズは4部作プラス外伝が1作あるんですが、普通の続き物ではなくて、「クレストマンシー」を巡る色々な物語といった感じなんですね。時系列も舞台もバラバラで、どこから先に読んでも大丈夫みたいです。しかも「クレストマンシー」というのは個人の名前ではなくて、力の強い大魔法使いが引き継いでいく1つの役職の名前なんですって。
まず1作目の「魔法使いはだれだ」は、魔法が法律で禁じられていて、魔法使いや魔女は、見つかり次第火あぶりになってしまうという物騒な世界(...でもその魔法以外の面では、この世界とそっくりな世界)が舞台。それなのに、先生が集めたワークブックに紛れ込んでいたのは、「このクラスに魔法使いがいる」というメモ。不思議な出来事もいくつか起きて、クラスの誰が魔法使いなのかという騒ぎが最高潮に達したところで、大魔法使いクレストマンシーが登場... つまりクレストマンシーは主役ではないわけですね。(笑) そして「クリストファーの魔法の旅」の方は、そのクレストマンシーの子供の頃の物語。幼い頃から魔力が強くて、夢の中から色々な別世界へと冒険に出かけていたクリストファーが、その能力を知った伯父に利用されるようになって... という物語です。
「魔法使いは誰だ」も、まあ普通に面白かったんですけど、なかなか学校の生徒たちの区別がつかなくて最初は話に入るのが大変だったんですよね。(登場人物紹介に挿絵までついてるのに...) それに比べて、「クリストファーの魔法の旅」は、最初から最後まで面白かった! クリストファーが学校に入る前の描写は、なんだか「メアリー・ポピンズ」を彷彿とさせるし、別世界に通じる場所の場面では、C.S.ルイスの「魔術師のおい」を思い出したりしてたんですけど(笑)、でもそこからどんどん発展していくし、テンポも良くて楽しかったです。もう一気に読んじゃった。これこれ、こういうのが読みたかったのよねえって感じ。色々な世界の存在の概念も面白かったし、ちょっと変わった魔法の使い方も楽しーい。(特に本が濡れないように、呪文を破りとって包む場面!) これは残りの3冊を読むのも楽しみです。(徳間書店)


+シリーズ既刊の感想+
「魔法使いはだれだ」「クリストファーの魔法の旅」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔女と暮らせば」「トニーノの歌う魔法」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法がいっぱい」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法の館にやとわれて」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「キャットと魔法の卵」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

+既読のダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の感想+
「魔法使いハウルと火の悪魔」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「アブダラの空飛ぶ絨毯」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「デイルマーク王国史」1~4 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「わたしが幽霊だった時」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
留守中に読んだ本(18冊)(「マライアおばさん」「七人の魔法使い」「時の町の伝説」の感想)
「呪われた首環の物語」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「花の魔法、白のドラゴン」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「いたずらロバート」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジーランド観光ガイド」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「バウンダーズ」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「星空から来た犬」「魔空の森ヘックスウッド」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「バビロンまでは何マイル」上下 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」「海駆ける騎士の伝説」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「うちの一階には鬼がいる!」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「魔法!魔法!魔法!」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「ぼくとルークの一週間と一日」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
「牢の中の貴婦人」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
Livreに「ダークホルムの闇の君」「グリフィンの年」「九年目の魔法」の感想があります)

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ぺガーナの神々
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ダンセイニの創り出した神話の世界。
マアナ=ユウド=スウシャイという神と、その神が創り出した「ちいさき神がみ」の物語です。この「ちいさな神がみ」というのは、丁度ギリシャ神話や北欧神話といった多神教の神話の神々みたいな感じ。(マアナ=ユウド=スウシャイに比べると小さいんですけど、実際には全然小さくありません・笑) でもそういった血の気の多い人間的な神々とはまるで違っていて、このぺガーナの神々は全然人間味を全く感じさせないんですよね。ひたすら冷たく突き放してます。自分たちが世界の全てを創り出したのに(マアナ=ユウド=スウシャイが創ったのはこの「ちいさな神がみ」だけで、その後はすっかりお休み中)、全然愛情なんてないみたい。でも、その「ちいさな神がみ」ですら、マアナ=ユウド=スウシャイがひとたび手を振れば、忽ち消えてしまうような存在なんですよねえ。(ヤヤコシイ)
でも、だからこのマアナ=ユウド=スウシャイが、この世で唯一絶対の存在かといえば、そういうわけでもないんです。実はマアナ=ユウド=スウシャイが<ちいさな神がみ>を生むきっかけになったのは、<宿命>と<偶然>の賭け。勝った方がマアナに、「さあ、わしのために神がみをつくってもらおう」と言ったから。マアナに命令することができる「宿命」と「偶然」って、一体何者? そもそも勝負に勝ったのはどっち...?! そして最後にもこの「宿命」と「偶然」がちらりと登場するんですが、これがまた「フェッセンデンの宇宙」のような...。
私にとっての初ダンセイニ作品。全然サクサクと読めず、薄い本なのにすっかり時間がかかっちゃったんですが、この独特の世界はなかなか心地良かったです。ダンセイニは何冊か積んでるので、そっちも読んでみなくっちゃ。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のロード・ダンセイニ作品の感想+
「ぺガーナの神々」ロード・ダンセイニ
「魔法使いの弟子」ロード・ダンセイニ
「魔法の国の旅人」ロード・ダンセイニ
「世界の涯の物語」「夢見る人の物語」ロード・ダンセイニ
「妖精族のむすめ」ロード・ダンセイニ
「エルフランドの王女」ロード・ダンセイニ
「影の谷物語」ロード・ダンセイニ
「時と神々の物語」「最後の夢の物語」ロード・ダンセイニ
「ダンセイニ戯曲集」ロード・ダンセイニ
「牧神の祝福」ロード・ダンセイニ

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辣腕弁護士のベンは、2年前に妻を亡くして以来、自分の殻に閉じこもりがち。そんなある日、亡き妻宛てに有名デパートのクリスマスカタログが届きます。何とはなしに見ていたベンの目に飛びこんできたのは、「魔法の王国売ります」の文字でした。値段は100万ドル。

ということで、ランドオーヴァーシリーズの1作目。思いっきりファンタジーなんですけど、これが結構現実的なんです。まず、主人公が中年の弁護士。でもって「魔法の王国」が通販のカタログでが買えてしまう。それも10日以内ならクーリングオフが適用が!(笑)
こんなの児童書のファンタジーではまず見られない展開ですよね。しかも主人公は自分の仕事とか顧客とか同僚とか、自分で全部ケリをつけてから、自分の意志で魔法の世界に飛び込むんですよ。異世界物ファンタジーで、巻き込まれ型じゃなくて、こんな風に自ら飛び込んでいくのって珍しいかもー。まあ、こんな風に100万ドルがポンと出せる金持ちぶりがちょっとイヤ~ンな感じなんだけど、腐っても「辣腕」弁護士だしね...。(腐ってません!) でも、いざ着いてみると、その魔法の王国はボロボロのヨレヨレ。魔法の力は失われかけてるし、お城はオバケ屋敷みたいだし、家来はたったの4人。戴冠式を見に来た国民もほんの数人。誰もベンのことを本当に王様だなんて思ってないわけです。そんな中で、法律の知識と法廷で鍛えた話術でなんとか道を切り拓いていこうとする主人公。1つイベントをこなしたらまた1つ次のイベントに向かう辺り、RPGみたい。いわゆる「勇者」からはほど遠い主人公なんですけどね。
このシリーズは、全部で5冊出ているようですね。次も次も!ってとこまではいかなかったんだけど、でもやっぱり面白かったし、この後どうなるのか気になるなー。キャラクターも個性的だしね。手持ちの本がもうちょっと減ったら探しに行こう。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「魔法の王国売ります!」テリー・ブルックス
「魔法の王国売ります!」「黒いユニコーン」「魔術師の大失敗」テリー・ブルックス
「大魔王の逆襲」「見習い魔女にご用心」テリー・ブルックス

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「ケルトの神話」の方は画像は出ませんね。ええと、ケルトの神話というのは、アイルランドに残っている神話。amazonのレビューでは絶賛されてるんですが、私にはちょっと読みにくかったです...。ちょっと気を抜いた途端に分からなくなるので、何度も何度も前に戻って読み返してしまったわ。アーサー王伝説になっていった部分とか、ギリシャ神話や北欧神話を思い起こさせる部分も色々とあって、そういうのは興味深かったんですけどね。1つ「おっ」と思ったのは、「昼と夜」が「永遠」という意味だというクダリ。ジャズのスタンダードナンバーの「Night and Day」にも、実はそういう意味があったのかしら。昼も夜も... ぐらいにしか思ってなかったです(^^;。(それが続くと永遠なのね)
「妖精とその仲間たち」の方は、妖精の案内本。本には妖精の挿絵も沢山入っていて、特に巻頭のカラーの絵がとても綺麗なんですが(本文中に入ってる白黒のもカラーで見たかった)、読んでる間に頭をずっとちらちらしてたのが、エリナー・ファージョンの「ヒナギク野のマーティン・ピピン」。ここでその本の表紙を出したかったんですが、今の本は私が持ってるのと装丁が変わっちゃってるみたいで残念。代わりに、その中に登場する話の1つを絵本にした「エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする」を出してみました。(これも絵は違うんですけどね) あと、妖精の出てくるお話の簡単な紹介も色々とあって、やっぱりどこの国にも似たような民話があるものなんだなーと改めて感心しちゃいました。(羽衣伝説とか浦島太郎とかね) 
日本では黒猫が不吉とされてたりするけど、イギリスでは黒猫の方が縁起が良くて、白猫の方が不吉なんですってー。その割に黒猫は魔女の変身だと信じられてたって... それって本当に縁起いいの?(笑) あと、元々妖精は巨人だったのに、戦いで敗れて海の彼方に逃れたり地下に潜ったりして、そのうちに崇められなくなり供物を捧げられなくなると、だんだん背が低くなって小さな妖精になったんだそうです。スコットランドでは緑が妖精の色だから不吉だとか(ケルト民族は緑を死の色としてたそうな)、青は永遠の冷たさ、赤は地獄の炎を意味するとか、色のイメージもまた全然違う! 知らないことが色々あって、こちらは結構面白かったな。あと、福島県に井村君江妖精美術館があって、妖精絵画コレクションが展示されてるとか。行ってみたーい。(ちくま文庫)


+既読の井村君江作品の感想+
「ケルトの神話」「妖精とその仲間たち」井村君江
「妖精学入門」「ケルト妖精学」井村君江
Livreに「アーサー王ロマンス」の感想があります)

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「陋巷に在り」もとうとう最終巻。「魯の巻」です。いやー、読んだ読んだ。これで案外あっさり終わってしまったのがちょっとびっくりだったんですが、やっぱり面白かったです。全13冊という長大な物語なんですが、結局、孔子が司寇職にいた3年間の物語だったんですね。びっくり。しかもこの作品を読む前は、儒教といえば、ひたすら祖先や年長者を敬い道徳を重んじて、孔子といえば「聖人」だったんですけど、この作品が物の見事に覆してくれました。史実を元にここまで壮大なファンタジーを作り上げるなんて、ほんと凄いや。呪術が当たり前に存在してたこの時代という設定が、またファンタジーなんですよねえ。酒見さんの作風にも良く似合ってたような気がします。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

+既読の酒見賢一作品の感想+
「語り手の事情」酒見賢一
「聖母の部隊」酒見賢一
「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
「泣き虫弱虫諸葛孔明」酒見賢一
「中国雑話 中国的思想」酒見賢一
Livreに「後宮小説」「墨攻」「童貞」「周公旦」の感想があります)

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11巻「顔の巻」と12巻「聖の巻」。中休み的な10巻を挟んで、また話が動きました。でも話としては凄いことになってるし、相変わらず面白いんだけど、やっぱり7~9巻の盛り上がりぶりほどではないかなあ。って、比べる方が酷というものかなあ。
次はいよいよラストの13巻。これまでの12冊はそれほど分厚くなかったんだけど(400ページ平均)、13巻になるといきなり700ページ近くの分厚さになるんです。さて、どうなることやら。読むのが楽しみなような惜しいような... って、また一休みしてしまいそう。(笑)(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

+既読の酒見賢一作品の感想+
「語り手の事情」酒見賢一
「聖母の部隊」酒見賢一
「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
「泣き虫弱虫諸葛孔明」酒見賢一
「中国雑話 中国的思想」酒見賢一
Livreに「後宮小説」「墨攻」「童貞」「周公旦」の感想があります)

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9巻「眩の巻」と10巻「命の巻」。
7巻8巻のゴタゴタも9巻でようやく片がついて、それからはちょっと中休み的な流れになります。でもここでの出来事が、孔子のその後に大きく影響してきそうな予感。それに、今まで名前しか登場してなかった孔子の母親・徴在の話がここに来て語られることになります。で、この徴在がまたいい味出してるんですよね。酒見さんの描く女性って、すごく魅力的ですねー。前の巻に出てきた女神もすっごくかっこよかったし、悪役の子蓉も、他の男性悪役を完全に食っちゃってるし、そういえば、「後宮小説」でも女性が良かったんですよね。銀河も可愛かったし、そのルームメイトもそれぞれに個性的で好きだったし♪(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

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「語り手の事情」酒見賢一
「聖母の部隊」酒見賢一
「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
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「中国雑話 中国的思想」酒見賢一
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土日は一休みしてたんですが、再び「陋巷に在り」です。今日は7巻「医の巻」と8巻「冥の巻」なんですが... うひゃー、面白いっ。これまでもまあ面白かったんですが、ここに来て一気に盛り上がってます。これは全13巻の中でも、屈指の見せ場なんじゃないかしらー。南方から医者が来て、子蓉が妤という女の子にかけた媚術の治療をするんですけど、この治療がすごい呪術決戦なんですよ。もうほんと物凄い緊迫感で全然目が離せないし、読んでる間に思わず息を止めてしまうので窒息してしまいそう。(←おばか) 作者の解説部分にきて、ようやく一息つけるって感じなのです。強烈な個性を発散してる医者もいいし、現代医学とはまるで違う、この時代の医術というのも面白いです。顔回も、とうとう冥界まで行っちゃうしねえ。凄いなあ。神話や何かで冥界に行くエピソードって時々あるけど、これはその中でも屈指じゃないかな?
で、8巻巻末には、この作品が小説新潮に連載されていた時の挿絵も載ってるんですが、これが南伸坊さんの絵なんですよー。やっぱりこの方の絵はめっちゃ好きです。なんとも言えない味わいがあっていいですね。諸星大二郎さんの表紙も評判いいけど、個人的にはこの挿絵で読みたかったな。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
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「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

+既読の酒見賢一作品の感想+
「語り手の事情」酒見賢一
「聖母の部隊」酒見賢一
「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
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「中国雑話 中国的思想」酒見賢一
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今日は5巻「媚の巻」と6巻「徒の巻」。
んんー、5巻には顔回がほとんど登場してなくて、孔子もまるでいいとこなし。悪役ばかりがのさばってて、早くなんとかしてよ!状態。でもようやく顔回が動いて、孔子もいいところを見せた6巻よりも、みんな全然いいとこナシの5巻の方が面白かったのはナゼかしら。(笑) やっぱりこの悪役がいいんでしょうねえ。読んでいる私も、実はこの話術にハマっているのかも... と思いつつ、6巻で一応なんとか収まりがついてほっと一息。これで話も一段落かな。
でも本の画像を見ると、帯に「美少女がカルト教団を結成!」なんて書いてあるけど、美少女っていうのも、どうなんでしょうねー。1つ前のエントリの4巻の帯にも「美少女を襲う鏡の魔力」なんて煽り文句が見えるけど、なんだかいかにもそういうのをウリにして興味を持たせようとしてるっていうのが見えて嫌だな。ほんとはそんな美少女じゃないはずなのに。顔は可愛いのかもしれないけど、むしろ元気一杯でやんちゃなところが魅力って感じの子のはずだったんですよ。おかしいなあ。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

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「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
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今日は3巻「媚の巻」と4巻「徒の巻」。
強力な媚の術を扱う美女・悪子蓉が登場します。「悪」なんて苗字だと、いかにも悪人という感じがしちゃうんですが、中国ではそれほど悪い字ではないのかな?(笑) この子蓉という女性がそりゃもうすごい人なんですよー。並み居る男たちをばったばったと、その魅力で虜にしていっちゃう。彼女が狙った男は、1人のこらず彼女にクラクラ。で、クライマックスは、顔回(主人公ね)との対決! やっぱり顔回が登場するところが面白いなあ。孔子にはそれほど魅力を感じないんですよね。1つ前の日記に書いた「乗り切れない部分」というのは、実はその孔子の部分なのかもしれないなあ、なんて思ってます。でもまあ、それはともかくとして。ちょっと不思議な感じがするのは、孔子が巨漢で異相だったというところ。孔子って、なんとなく細くて小さい人イメージだったんですけど... これって一体どこでついたイメージなのかしら? 「巨漢」とか「異相」とか出てくるたんびにドキッとします。(笑)(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

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「聖母の部隊」酒見賢一
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ということで、昨日書いた全13巻の本というのは、この「陋巷に在り」でした♪
いやー、とうとう読み始めてしまいましたよー。中国歴史物大好きな私ですが、もちろんその歴史全体を網羅できているはずもなく(中国三千年の歴史を網羅だなんて到底無理!)、孔子に関してもほとんど知らない状態。春秋時代は好きなんだけど、今まで読んだ話は、どれも孔子の時代とは微妙にズレてるみたいなんですよね。読み始めてみても、かろうじて晏子を知ってるぐらいだったし。(これは宮城谷昌光さんの「晏子」で)
でも、なかなかいい感じです!
主人公は、孔子の一番愛されたという弟子という顔回。この青年がなかなかいい味出してるんです。普段は、日本で言えば長屋みたいなところに住んで、働きもせず、日がな一日学問をしてるだけのようなぼんやりとした青年。でも、やる時にはやってくれます。というのも、彼は実はただの勉強家ではなく、生まれながらに超自然的存在を感知できる、巫儒の術者だったのでした...!
ただ、1巻の裏のあらすじの「サイコ・ソルジャー」という言葉は、あまりそぐわないと思うんですけどね(^^;。
今日読んだのは、1巻の「儒の巻」と2巻の「呪の巻」。まだちょっぴり乗り切れてない部分もあるんですが、1巻から結構な呪術合戦が繰り広げられてて面白いし、歴史的な説明部分にも、知らなかったことが沢山あって、それがまた面白い。これからの展開が楽しみです。(新潮文庫)


+シリーズ既刊の感想+
「陋巷に在り」1・2 酒見賢一
「陋巷に在り」3・4 酒見賢一
「陋巷に在り」5・6 酒見賢一
「陋巷に在り」7・8 酒見賢一
「陋巷に在り」9・10 酒見賢一
「陋巷に在り」11・12 酒見賢一
「陋巷に在り」13 酒見賢一

+既読の酒見賢一作品の感想+
「語り手の事情」酒見賢一
「聖母の部隊」酒見賢一
「ピュタゴラスの旅」酒見賢一
「泣き虫弱虫諸葛孔明」酒見賢一
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アメリカ人が書いた中国物ということで、もしや痛々しい勘違いぶりと、物凄い違和感があるのでは... と心配してたんですけど(おぃ)、案外ほんとに中国映画にありそうな、猥雑なパワーがいっぱいの作品でした。唐初期の中国に、なんと「北京」があったり、「秦王」が登場したりするんですけど、原著には「A Novel of an Ancient China That Never Was」という副題が付いているそうだし、作者も分かっていて遊んでるんでしょうね。でもって、登場人物の名前や地名、中国特有の固有名詞などがきちんと漢字に訳されているのがありがたかったです。(この作品を翻訳するのは、さぞかし大変だったでしょうね...)
...でもやっぱりどこか読みにくかったんですよね。1冊の中に3冊分ぐらいの内容が詰め込まれてるせいなのかしら...。全体的にすごく詳細な描写なんだけど、肝心なところで一言足りないようなもどかしさ。実は以前にも、冒頭のあまりの読みにくさに一度挫折したことがあるんですが、今回も挫折しそうになりました。ものすごくテンポが良くて、いかにも楽しそうな雰囲気なのに、それが堪能できなくて残念。だってね、話にようやく乗れたのが、後半3分の1なんですよー。あ、でもそこからはなかなか良かったです。それにそれまでのドタバタぶりからは想像もつかないほどの綺麗なラストシーンでした♪(ハヤカワ文庫FT)

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自分へのクリスマスプレゼント2冊目。装丁がとても美しい本で、汚したりしないように普段以上に気を使ってしまいました。青のクロス張りにパラフィン紙。さらに函。クロスの青は、ラピスラズリというよりはむしろトルコ石という感じの明るい青なんだけど(ここの画像の色は函の色で、クロスはもっと明るい色)、表紙に飾られたG.F.ウォッツの「希望」という絵が、この明るい青色と良く合っていて、また素敵なんですよねえ。で、よくよく見たら、函の「Lapislazuli」の文字がラピスラズリ色でした。(笑) 
全部で5章に分かれていて、最初の「銅版」で見た銅版画の情景が、次章以降で物語として展開していきます。すごく静かなのに、なんとも言えない雰囲気があって、イメージを喚起させる文章。絵画的というか、時には手触りや匂いを感じるような気がするほど。一読して、まだあまり理解していない部分もあるんですが、でもそういうのは、これからゆっくり理解していけばいいんでしょうね、きっと。キリスト教的な死と再生を強く感じる作品でした。最終章の「青金石」みたいな話が最後に来るところがまた嬉しいのだわ。(国書刊行会)

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4150201218.jpg 4150201226.jpg [amazon] [amazon]
平たい地球のシリーズの4作目。昨日読んだ「惑乱の公子」の直後の話。
読み始めた時は、「なんかこれまでと雰囲気がちょっと違う...?」と、なかなか話の中に入れず、冒頭50ページを3回ほど読み返してしまいましたが(笑)、やっぱり煌びやかな世界は相変わらずでした~。これまでの3作に登場した人物が沢山登場して、オールキャスト的な楽しみもあるし、新しく登場する人たちがまた凄いんです。でもこの作品の主人公はあくまでも、闇の公子・アズュラーンの娘、アズュリアズ。このアズュリアズの変遷を描く大河ドラマのような作品でした。後半のこの展開も、やっぱりいつもとちょっぴり雰囲気が違う? でも最後のアズュラーンのシーンも良かったなあ。闇の公子も、こうなっちゃあ形無しだなあとも思いましたが。(笑)(ハヤカワ文庫FT)

この本が読めたのは七生子さんのおかげ。七生子さん、ありがとう!!


+シリーズ既刊の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「銀色の恋人」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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平たい地球3作目。これまで、闇の公子・アズュラーン、死の王・ウールムときて、今度は惑乱の公子・チャズが主人公なのね... と読み始めたんですけど、あれれチャズって意外と出番が少ない... むしろ全編に渡って登場しているのはアズュラーンのような。いえ、アズュラーンはとても好きなので、それもまた嬉しいんですけどね♪ でも、そうかといって、チャズの存在感があまりなかったわけではないのです。むしろこれだけの登場で、ここまでインパクトが強いというのも結構凄いかも。...ということで今回は、なんだかアズュラーンとチャズの対決といった感じでした。でもアズュラーンはチャズのこと嫌ってるんだけど、チャズはアズュラーンに対して、なんだか屈折した愛情を持ってるみたいなんですよねえ。
以前にも増して麗しい作品で、すっかり堪能しちゃいました。やっぱり浅羽莢子さんの訳は最高だわー。さて、次はどうなるんでしょう! 続けて「熱夢の女王」にいきまーす。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「銀色の恋人」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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実はちょっと前から読み始めてたんですけど、なかなか話に入れず、他の本に浮気ばかりしてました。(^^ゞ
というのも、一度ブラッドリーの「アヴァロンの霧」を読んでしまったら、もうそれが私の中でのアーサー王伝説の基本になってしまったみたいで、どうも他の作品は難しいんですよね。それにこの作品、なんていうか、すごいパロディ小説なんですよ! 最初のうちなんてまるっきりのドタバタ。一体これっていつの時代の話よ...?!って感じだし、一時はどうしようかと思いました...。蜂蜜酒を飲んでるなら、そう書いてくれた方が、私としてはありがたいのになあ。←今時の人にはこっちの方が分かりやすいだろうからって、ポートワインを飲んでることになってるんです。作者の注釈つきで。
でも、時間を逆に生きているというマーリンの設定は面白いし、その独特な教育ぶりもユニーク。この作品に現代的なユーモアが散りばめてあるのは、きっとアーサー王伝説に対する新しい解釈を打ち出すためなんですね。この作風に一旦慣れてしまいさえすれば、この意欲的な解釈はなかなか凄いです。ほんと斬新だし強烈。でも、いくらアーサーが現代的な思想で頑張ったとしても、最後の結末は変わらないわけで...。そこがとっても切ないところでした。(創元推理文庫)

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魔法の国ザンスシリーズの1作目。前々から名前は知ってたんですけど、ようやく読みました。いやあ、この世界は凄いなあ。普通ファンタジーに出てくる魔法使いといえば、1人で色んな魔法が使えるのが普通ですよね。でもこの作品にはそういう万能な魔法使いはいなくて、基本的に1人につき1種類。でも住人全員が魔法の力を持ってるんです。しかも人間だけでなく、ザンスに住んでいる動物や昆虫、木や草といった植物から、岩や水といった無生物に至るまで魔法の力を持ってるんですよー。迂闊に行動できません。うっかり腰を下ろした草むらが、肉食草だったりするんですもん。怖い怖い。
基本的には、主人公の成長物語なんですけど、善悪がそんなに単純には分けられないというのもいいし、明るくて楽しい雰囲気も良かったです。これは続きも読んでみたくなりました。...んー、でもまだ絶版でもないのに、amazonでもbk1でも画像が出ませんね... もしかして、入手ができなくなる日も近いのかしら?(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「カメレオンの呪文 魔法の国ザンス1」ピアズ・アンソニイ
「カメレオンの呪文」「魔王の聖域」「ルーグナ城の秘密」ピアズ・アンソニイ
「魔法の通廊」「人喰い鬼の探索」ピアズ・アンソニイ
「夢馬の使命」「王女とドラゴン」ピアズ・アンソニイ

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インドを舞台にした短編集。古い時代のインドから未来のインドまで、舞台となる時代は様々なんですが、でもどれもインドならではのエキゾチックで妖しい雰囲気がたっぷり。こういうのやっぱり好きだなあ。タニス・リーの耽美な作風にもぴったり。
「龍(ナーガ)の都」「炎の虎」「月の詩(チャーンド・ヴェーダ)」「運命の手」「象牙の職人」「輝く星」「タマスターラー」という7編が収められているのですが、この中で私が特に好きだったのは、幻想的な「龍の都」と、意外なほど暖かいラストが待っていた「月の詩」。まだタニス・リーは3冊目だけど、タニス・リーってもっと何ていうか、救いがない話を書く人だと思ってたんですよね。なので、この「月の詩」の暖かさにはびっくりしちゃいました。こういうのもいいなあ。...でも救いがない話って本当は苦手な私なのに、タニス・リーだと全然大丈夫で、むしろ逆にその世界にくらくらしてしまうというのがまた凄いところなんですよね。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のタニス・リー作品の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「銀色の恋人」タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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平らな地球シリーズの第2弾。平たい地球シリーズ第2弾。こちらは「闇の公子」のようなオムニバス形式ではなく、普通の長編でした。まあ、それはそれでいいんですけど、やっぱり訳者さんが違うという違和感がありますねー。室住信子さんの訳も決して悪くないんだけど、やっぱり1作目の浅羽莢子さんの訳のインパクトが強かったし。
物語の中心となるのは、人間の永遠のテーマでもある「不死」。この「不死」をめぐって、地上の人間が、死の王・ウールムと闇の公子・アズュラーンの争いに巻き込まれていきます。ある意味、「闇の公子」以上に夢のような情景が繰り広げられるんですけど、いざ手に入れてしまった「不死」は、それまで思い描いていたような素敵なものではなくて...。夢のような情景は、所詮虚像。甘さの中にほんのり苦味のある話でした。それでも、例え虚像だと分かってても、それでもやっぱりこの世界には憧れてしまうのね。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「銀色の恋人」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
「影に歌えば」「死霊の都」タニス・リー
「パイレーティカ 女海賊アートの冒険」タニス・リー
「銀色の愛ふたたび」タニス・リー
「水底の仮面」「炎の聖少女」タニス・リー
「土の褥に眠る者」「復活のヴェヌス」タニス・リー
「悪魔の薔薇」タニス・リー

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闇の公子・アズュラーンと地底の都・ドルーヒム・ヴァナーシュタ、そして地上の人間たちの物語。青味を帯びた黒髪と魔力に富んだ瞳を持つ美しく、すらりとした長身のアズュラーンが、気まぐれに人間の世界に出向いては蒔く災いの数々が描かれていきます。
これは「平たい地球シリーズ」の1作目なのだそう。私にとっては、初タニス・リー作品。いやもう凄いですね、これは。読み始めて最初に浮かんだ言葉は「耽美」「絢爛」。凄まじいまでに妖しく美しいです。しかもこの訳文がなんて素晴らしい!なんとも格調高い日本語で、読んでいてこんな風に心地いい感覚は久しぶりかも...。もちろんアズュラーンはあくまでも「妖魔」なので、人間側からすれば相当酷いことも平気で行われるし、しかも何も救いがないまま流れていったりするんですけどね。幸せな恋人たちは引き裂かれるし、憎しみや欲望は際限なくかきたてられていくし、アズュラーンを裏切った人間には恐ろしい仕打ちが待っているし。でもそのアズュラーンの邪悪さすら美しいんですよ。これが凄い。
1つの小さな物語が次の物語に繋がり、それがさらにまた次の物語へと... というオムニバス形式もいいし、しかも最後には大きな1つの世界を見せてくれるという構成も私好み。屈折してはいるけれど、確かな愛情を感じることができるラストも良かったなあ...。「千夜一夜物語」を意識して書かれたらしいのですが、それも納得の大人のためのお伽話、大人のためのファンタジーでした。エロティシズムも美しい。なんとも夜の闇が似合います。これはぜひとも他の作品も読んでみなくては~。と、大絶賛。(ハヤカワ文庫FT)


+シリーズ既刊の感想+
「闇の公子」タニス・リー
「死の王」タニス・リー
「惑乱の公子」タニス・リー
「熱夢の女王」上下 タニス・リー
「妖魔の戯れ」タニス・リー

+既読のタニス・リー作品の感想+
「タマスターラー」タニス・リー
「ドラゴン探索号の冒険」タニス・リー
「白馬の王子」タニス・リー
「ゴルゴン 幻獣夜話」タニス・リー
「血のごとく赤く」タニス・リー
「バイティング・ザ・サン」タニス・リー
「鏡の森」タニス・リー
「黄金の魔獣」タニス・リー
「幻魔の虜囚」タニス・リー
「幻獣の書」「堕ちたる者の書」タニス・リー
「月と太陽の魔道師」タニス・リー
「冬物語」「闇の城」タニス・リー
「銀色の恋人」タニス・リー
留守中に読んだ本(18冊)(「ウルフタワー」の感想)
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