Catégories:“幻想文学1500”

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豊かな平野にあるドリメア自由国は、西の境は妖精の国と隣接している国。しかし革命が起き、商人階級が当時の支配者・オーブリ公爵に取って代わってからというもの、2国間の交流はすっかり途絶え、魔法や空想の類に関すること、特に「妖精」という言葉はドリメア国では禁句とされていました。しかしそのドリメア国の首都、霧のラッドで一番の名士、チャンティクリア判事の長男・ラナルフが、妖精国の「魔法の果実」を食べたと告白したことから、大騒ぎになります。

解説によれば、作者はアイルランド系英国人とのこと。(どうやらトールキンやルイスと同時期にオックスフォードで教鞭を取っていたこともあるらしいです) 道理で物語全体がとてもケルト風の雰囲気でした。でも、思いっきり妖精の存在を感じさせるような舞台設定にも関わらず、そういった存在自体は、逆になかなか登場しないんですよね。その辺りが独特。しかも妖精にまつわる言葉や妖精を彷彿とさせる言葉は、登場人物たちにとって禁句となってるはずなのに、「太陽と月と星に誓って」「西の国の黄金の林檎に誓って」なんて、いかにも妖精の国の影響が見える決まり文句が頻繁に飛び出すところが可笑しいのです。
登場人物たちは大真面目に現実的な生活を生きようとしていて、中盤には過去の殺人事件の調査なんてミステリ的展開もあって、その辺りはきっちりと白黒はっきりするんですけど、それでもやっぱり最終的にはファンタジー的環境には逆らえず... その辺りの微妙な感じが面白かったです。(ハヤカワ文庫FT)

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「マビノギオン」は、イギリスのウェールズ地方で吟遊詩人たちによって伝えられてきた叙事詩。その後、「ヘルゲストの赤い本」「レゼルッフの白い本」といった本に書き残されることになり、それらに収められた11編の物語が、19世紀になって初めてシャーロット・ゲストによって英訳され、「マビノギオン」という題名で広く知られるようになったのだそうです。
左の「マビノギオン」は、中野節子さんがウェールズ語から日本語へと直接訳したという初の完訳本。右はシャーロット・ゲストが19世紀に英訳した本にアラン・リーが挿絵を描いたのを、井辻朱美さんが日本語に訳したというもの。こちらには、ウェールズに広く流布していたという「タリエシン」という短い物語も収められています。

11編のうちの最初の4編は、まさに超自然的なケルト神話の世界。そこから徐々に現実的な物語へと移り、後半になると、後にアーサー王伝説を作り上げることになる騎士道物語になっていきます。ただ、アーサー王自身も登場するし、アーサー王の宮廷の様子も垣間見えるんですけど、むしろ騎士たちのエピソードが中心なんですよね。ここには魔術師マーリンも登場しませんし(これが残念)、アーサー王自身のエピソードもほとんどありません。
この2冊、内容的にはほぼ一緒なんですが、ウェールズ語からの直接の翻訳と、英訳からの翻訳ということもあって、固有名詞の表記が結構違うんですよね。あとシャーロット・ゲスト版ではまるっきり書かれていなかったり、表現がぼかされてる部分が目につきました。例えば「ダヴェドの大公プイス」(シャーロット・ゲスト版では「ダヴェドの王子プウィル」)では、大公プイスとアラウン王がお互いの立場を密かに入れ替えて1年間過ごすというエピソードがあるんですけど、アラウン王が許可(?)してるのに、プイスは絶世の美女であるアラウン王の妃の体には触れようとしないんです。それが後に友情をさらに強くすることにもなるんですが、シャーロット・ゲスト版では、その辺りがまるっきり欠落してました。こういうのって、18~19世紀のモラルによるものなのかしら? 同じく18~19世紀の作家トマス・ブルフィンチの著作でも、性的な部分が色々と欠落してると聞いた覚えが...。
中野節子さんの日本語訳は、平易で読みやすいです。井辻朱美さんの訳は、わざと古めかしい日本語にしているので、慣れるまでがちょっと読みにくかったんですが、雰囲気はたっぷり。「蒼天なんじに報いたまわんことを」といった感じですね。どちらの本がオススメかといえば、ちょっと難しいですが... シャーロット・ゲスト版の方が美麗な挿画も入っているし、固有名詞の訳でも一般的な名称を使ってるので、純粋に物語として楽しむにはいいかも。(例えばアーサー王に関して、井辻訳では「アーサー」と表記してますが、中野訳では「アルスル」なんです) でも中野訳の方には詳細な解説や、人名や地名の一覧がついているので便利なんですよね。一長一短かな? 私にとっては、どちらも読んで正解でした。(JULA出版局・原書房)

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市の参事官・アージオの書記として、朝から晩までせっせと書類を書き写しているグントラム・は、毎日の味気ない仕事の連続にうんざり。そんなある日、グントラムは年上の書記・ブーボに話しかけられて驚きます。ブーボは天涯孤独だと思い込んでいたグントラムに、実は裕福な親類がいることを明かし、窓から入ってきたスズメをグントラムの姿に変えてグントラムの仕事をさせると、グントラムにスズメの姿になって田舎の親類の元まで飛んでいくようにと勧めたのです。

登場人物たちが、本物の人間なのか本当は鳥なのか分からなくなってしまう可愛らしいファンタジー。以前読んだ「あべこべの日」(感想)は、正直あまり面白くなかったんですけど、こちらは結構楽しかったです。正義が勝つわけでもなく、努力する者が報われるわけでもなく、だからといってハッピーエンドにならないわけでもなく、ファンタジーやおとぎ話の文法を無視したような、あと一歩捻るのか捻らないのか予測不能な展開がいいのかも。...とはいえ、読み終わった途端に忘れてしまうような話でもありましたが...。(ハヤカワ文庫FT)


+既読のハンス・ファラダ作品の感想+
「あべこべの日」ハンス・ファラダ
「田園幻想譚」ハンス・ファラダ

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石造りの城・ゴーメンガーストの周囲には<外>の民のあばら家が、貝がらのようにびっしりと張り付いており、それがこの世界の全て。そのゴーメンガーストの現当主は76代目のセパルクレイヴ。城での生活は、数限りない儀式によって支配されており、老書庫長のサワダストだけがただ1人、それを理解し取り仕切っていました。そしてその日の朝、77代目伯爵となる菫色の瞳をしたタイタスが生まれます。

先日「行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙」の感想で読みかけだと書いたゴーメンガースト3部作、最初の2冊をようやく読み終わりました。
これはトールキンの「指輪物語」と並んで、20世紀のファンタジーの最高峰と言われている作品なのだそう。でもその雰囲気は、正反対と言ってもいいほど違うんですね。「指輪物語」は、その後のファンタジー作品に多大な影響を与えてるし、実際追随する作品がとても多いんですけど、こちらの作品はとにかく独特。並大抵の作家じゃあ、こんな作品に追随する作品なんて書き上げられないんじゃないかしら。全編、陰鬱で重厚な雰囲気。暗くて重苦しいゴーメンガースト城の情景が、質感も含めて、周囲に浮かび上がってくるよう。しかも登場人物たちがまた、揃って個性的... というかアクが強いんです。どうやら美しい人間は1人もいないようで、それぞれに醜さが強調されてるんですけど、それが作品の雰囲気と相まって、ものすごく印象的なんですよね。マーヴィン・ピーク自身による挿絵も異様な雰囲気を醸し出してました。そしてこの作品、展開がとても遅いです。シリーズを通して、主人公は多分タイタスだと思うんですけど、1冊目が終わった時点で、まだ2歳ですから。(笑) でもその展開の遅さが逆に、ゴーメンガースト城をめぐる悠久の時の流れを感じさせます。
きっと絶賛する人は絶賛するんでしょうねー。という私は、絶賛というほどではなかったです。が、それでも読んでから時間が経てば経つほど、場面ごとの印象が鮮明になりそうな作品ではありました。でもとにかく読むのにパワーが... 本当は3冊まとめて感想を書きたかったんですけど、3冊目はやっぱりもうちょっと時間を置いてから読むことにします。ちょっとぐったり。(創元推理文庫)


+既読のマーヴィン・ピーク作品の感想+
「行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙」マーヴィン・ピーク
「タイタス・グローン」「ゴーメンガースト」マーヴィン・ピーク

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イギリスのヴィクトリア朝の作家、メアリ・ド・モーガンの童話集。職業作家ではなかったようなのですが、ウィリアム・モリスや画家のバーン=ジョーンズ、詩人のロゼッティといったラファエル前派の芸術家たちと家族ぐるみでつきあい、仲間内では話上手のレディとして人気があった人なのだそう。という私は、岩波少年文庫は大好きだったのに、この作家さんは全然知りませんでした... 迂闊。

一見昔ながらの童話集に見えるんですけど、いざ読んでみると、その内容はなかなかしたたか。意外と辛口でびっくり。特に表題作の「フィオリモンド姫の首かざり」がすごいです。これは、見かけはとても美しいながらも、実は邪悪なフィオリモンド姫が主人公。王様に「そろそろ結婚を」と言われた姫が、魔女の助けを借りて婚約者たちを1人ずつ宝石の珠にしてしまい、それを首かざりにしてしまうという物語。この本の表紙の絵は、フィオリモンド姫が婚約者たちの変身した宝石の連なる首かざりを、鏡でうっとり見入ってるところです。腰元のヨランダだけは姫の性悪さを知ってるんですが、他の人たちは皆、姫のあまりの美しさに心根も綺麗だと思い込んでいるんですよね。そういう話を読むと、大抵、邪悪な姫よりも健気な腰元に気持ちがいくんですが、この作品は違いました。この良心のかけらもないような姫の存在感がすごい。その邪悪っぷりが堪らなく魅力的。...って、そんなことでいいのかしら。(笑)
妻が黄金の竪琴に変えられてしまったのを知らずに、その竪琴を持って妻を探して諸国を歩き回る楽師の物語「さすらいのアラスモン」や、妖精に呪われて心を盗まれた姫の絵姿に一目惚れして、心を取り戻す旅に出る王子の物語「ジョアン姫のハート」なんかも、当たり前のように頑張ってハッピーエンドになる童話とは一味違ーう。それ以外の作品も、滑稽だったり哲学的だったり、なかなか幅も広いんですね。メアリ・ド・モーガン、気に入っちゃった。図書館にあと2冊あったし、それも借りてこようっと。(岩波少年文庫)


+既読のメアリ・ド・モーガン作品の感想+
「フィオリモンド姫の首かざり」ド・モーガン
「風の妖精たち」「針さしの物語」ド・モーガン

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ローマ時代の詩人・オウィディウスによるギリシャ・ローマ神話。そのキーワードは、「変身」。神々の怒りによって、あるいは哀れみによって、あるいは気まぐれによって、植物や動物に変えられてしまうエピソードが250ほど、次々に語り手を変えながら語られていきます。下巻の後半になると、トロイア戦争とその後の物語へ。

子供の頃愛読していたブルフィンチの「ギリシア・ローマ神話」に「変身物語」のエピソードがかなり取り入れられていたし、ホメーロスの2つの叙事詩や様々なギリシャ悲劇作品も下敷きになってるので、既に知っている部分も多かったんですが、「変身物語」という作品として通して読むのは、今回が初めて。ものすごい量のエピソードが、語り手を代えながらも途切れずに続けられていくのがすごいです。元々は詩の形で書かれた作品が、すっかり散文調になってるのは残念だったんですが、訳注を最小限にとどめるようにしたという訳文はいいですね。ただ、ゼウスがユピテル、ヘラがユノー、アプロディテがウェヌスみたいに、神々の名前がローマ神話名になっているのがちょっと分かりにくい...。ローマ時代の詩人のオウィディウスがローマ神話名、というかラテン語名を使うのは当然としても、日本人にとっては、やはりギリシャ神話名の方が馴染みが深いですよね。なんで「ゼウス」や「ヘラ」じゃあダメだったんでしょう。

ここに描かれているのは、相変わらず人間以上に人間臭い神々の姿。懲りもせず浮気を繰り返すユピテル、自分の夫よりも相手の女に憎しみをぶつけるユノー、気侭な恋を繰り返す男神たち、自分よりも美しかったり技能がすぐれている女に嫉妬する女神たち。変身物語といえば、アントニーヌス・リーベラーリスの「メタモルフォーシス」もそうなんですが、こちらは未読。こちらには載っていないエピソードもあるそうで、興味をそそります。でもリーベラーリスの作品に比べると、こちらの方が遙かに人間や神々の心情を細やかに描いているみたい。まあ、確かに相当ロマンティックではありますね。(笑) それだけに、文学だけでなく、その後の芸術全般に大きな影響を与えたというのも納得なんですが。
この中では、ピュラモスとティスベのエピソードがシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にそっくりで、特に印象に残りました。そっかあ、シェイクスピアはここから題材を取ったのかあ。(岩波文庫)

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旅人の語る物語、そしてその中に登場する青い花に心を奪われた20歳の青年・ハインリヒは、その夜、夢をみます。それは泉のほとりに生えた1本の淡い青色の花の夢。ハインリヒがその花に目を奪われていると、花は姿を変え始め、中にほっそりとした顔がほのかにゆらぎます。夢の青い花のことを考えてふさぎがちになった息子の気分を変えるために、母親はアイゼナハから郷里アウクスブルクに住む実の父のもとに、ハインリヒを連れて旅立つことに。

13世紀初め頃の中世ドイツが舞台の物語。この物語の主人公のハインリヒは、実在のほどは明らかでないにせよ、 13世紀初めに行われた歌合戦で、当時の著名な恋愛詩人たちを相手に競ったという、伝説の詩人なのだそうです。
「うるしのうつわ うたかたの日々の泡」のkotaさんが、たらいまわし企画・第25回「『ドイツ』の文学」で挙げてらして(記事)、その後イギリスの作家ジョージ・マクドナルドが影響を受けたと知って、ますます興味が湧いた本。硬質な質感を持つ作品だと仰ってましたが、確かに...。モチーフという意味では水の方が前面に出てきてるし、水のイメージも強いんですけど、なぜか鉱石のイメージが強く残ります。実際に鉱山の場面もあるんですけどね。とにかく、ものすごく美しい作品でした。特に作中で語られる「アリオン伝説」と「アトランティス物語」、「クリングゾール・メールヒェン」、そして水にまつわる2つの暗示的な夢がすごいです。美しくて幻想的。隠者の本を見る場面も良かったなあ...。
主人公のハインリヒが旅をする物語なんですが、旅を描くのが目的ではなくて、ハインリヒの成長を描くための旅。特に内的葛藤があるわけでもなく、常に受身で、しかしその中で自分の学ぶべきものを謙虚に学んでいくハインリヒの姿は、まるでシュティフターの「晩夏」(感想)の主人公のようだなあ... と思ったら、「晩夏」の主人公の名前もハインリヒではないですか! 何か関連が? それともドイツ人にとって「ハインリヒ」というのは、日本における「太郎」ですか?(笑)
年代的には、ノヴァーリスが1801年に29歳の若さで亡くなって、その4年後にシュティフターが生まれてます。

でもこの「青い花」は、未完の作品なんですよね。本には遺稿も併せて収録されていて、それを読むと完成しなかったのが残念でならないほど。今は美しさに目を眩まされちゃってるし(笑)、そうでなくても、一度読んだだけでは理解しきれたとは到底言えないので、折にふれて読み返してみたいですね。作中で語られているノヴァーリスの文芸観も面白いです。(岩波文庫)

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