Catégories:“幻想文学1500”

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大西洋の沖合いの6000メートルもの深さの海面に浮かぶ小さな村。村を通るただ1本の道に沿って色褪せた赤煉瓦の家や店が並び、沢山の小窓がある鐘楼が立つこの村には、木靴をはいた12歳の少女がたった1人で暮らしています。船が近づくと少女は激しい眠気に襲われ村全体が波の下に沈むため、船乗りの誰1人として、この村を望遠鏡の隅にすら捉えたことがないのです... という「海の上の少女」他、全20篇が収められた短篇集。

日本では最初に堀口大學が紹介して以来、詩人たちのアイドル的存在だったというシュペルヴィエル。聖書のエピソードを膨らませたりアレンジした作品もあれば、ギリシャ神話をモチーフにしているものもあり、フランスの普通の人々を描いた作品もあり、どこか分からない場所の物語もあり、収められている20編はとてもバラエティ豊かです。でもそこに共通しているのは、透明感のある美しさ。どの作品も散文なんですけど、詩人だというだけあって詩的な美しさがありました。
特に印象に残ったのは、大海原に浮かぶ村を描いた幻想的な表題作「海に住む少女」。そして娘の溺死体が海に流れ着く「セーヌからきた名なし嬢」。読んでいると情景が鮮やかに浮かび上がってきます。美しいなあ...。そして驚いたのは、死を感じさせる作品がとても多いこと。大半の作品が何らかの形で「死」を描いてるんですね。「死」そのものというよりも、「生」と「死」の境界線上かも。「死」とは関連していなくても、たとえば「少女」と「女」、「人間」と「人間でないもの」みたいな何らかの境界線上で揺らいでる印象が強いです。それはもしかしたら、フランスと生まれ故郷のウルグアイとの間で揺れ動いていたシュペルヴィエル自身だったのかしら、なんて思ってみたり。
それと思ったのは、作品を自分の方に引き寄せて読むのではなくて、作品の方に歩み寄らなければならないということ。そこに書かれているがままを受け入れ、味わわなければならないというか... 絵画的な美しさが感じられることもあって、まるで静まりかえった美術館で絵画を眺めているような気分になりました。 (みすず書房)

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50年ほど前、ロンドンに1人の豪商と義足作りに関しては類まれな腕の持ち主の親方がいた頃の物語。足を失った豪商は早速親方を呼びつけます。そして体にきっちりと合い、軽く、ひとりで勝手に歩き出すほどの脚が欲しいと注文するのですが... という「義足」他、全14編。

先日イギリス幻想小説傑作集を読んだ時に奇妙な世界の片隅でのkazuouさんに勧められたのが、この「スペイン幻想小説傑作集」。
スペイン文学はリアリズムが主流と言われてるんですが、これはスペインに早くからキリスト教が広まっていたこと、回教徒の侵入に抵抗するために異教的要素を極力排する必要があり、民間信仰や民間伝承の幻想譚が切捨てられたこと、そして宗教改革時に、そういった物語が再び断罪されたことが大きく関係しているのだそう。でも紀元前にケルト人の侵入を受けたイベリア半島北西端のガリシア地方なんかは、雨の多い陰鬱な気候と相まって、今でも民間信仰や異教的雰囲気をかなり残してるし、神秘的・幻想的作品を沢山生み出しているのだそうです。

「イギリス幻想小説傑作集」は怪奇的な作品が多かったんですが、こちらはユーモアがかった作品が多かったかな。特に可笑しいのは上にあらすじを書いた「義足」。すごいブラックユーモアなんですけどね。まさか、義足に連れられて世界中を駆け巡ってしまうとはー。(しかも最後の最後まですごいんです) あと、貧しくとも美しい主人公で、拾った人形を大切にするうちにその人形に魂が宿ってしまう... という一見昔ながらのおとぎ話のような「人形」という作品も、実はユーモアたっぷり。でもこちらは際どい路線。シニカルな笑いなのは、骸骨になってしまった登場人物たちが可笑しい「ガラスの眼」。
ちょっと読んだことのない雰囲気でびっくりしたのは、突然世界が真っ暗闇に覆われてしまった...! という「暗闇」。火が燃えていても、目には見えないんです。なので世界が暗闇になったというより、人々が突然みんな盲目になっちゃったってことなんですけど、主人公の目覚めた頃の長閑な雰囲気が一転して、この世の終わりといった感じになるのが迫力。そしてこの本で一番幻想的な作品だなあと思ったのは(私のイメージの「幻想」ですが)、学校をずる休みした少年が原っぱの祭りに行って、射的で特賞の島を当ててしまうという「島」。これはちょっと恒川光太郎さんの「夜市」(感想)みたいな感じ。この世とあの世の境界線が曖昧で... こういう雰囲気は大好き。

この中にアルバロ・クンケイロの「ポルトガルの雄鶏」という作品があって、この短篇自体はあんまりどうってことないんですけど(失礼)、アーサー王伝説の魔法使い・マーリンが主人公の「マーリンと家族」という長編からの抜粋なんだそうです。マーリンが主人公だなんて、これは読んでみたいなあ。でも未訳。(白水uブックス)


+シリーズ既刊の感想+
「イギリス幻想小説傑作集」由良君美編
「スペイン幻想小説傑作集」東谷穎人編
「ドイツ幻想小説傑作集」種村季弘編

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色んなところに、今年は幻想文学を読みたいです~と書きまくってる私ですが、その指針にしようと思ってるのがこの本です。世界を「イギリス」「アメリカ」「フランス」「ドイツ」「中国」「ロシア」「東欧」「南欧」「ラテンアメリカ」「その他」という10の地域に分けて、その中で「暗黒」「異界」「怪奇」「綺想」「機械と無機物」「幻視と狂気」「神秘の探求」などなど... の項目別に、10作品ずつ紹介してる本です。(ちなみに日本編はありません)

幻想文学には元々すごく興味があったし、石堂藍さんの「ファンタジー・ブックガイド」には日頃とってもお世話になってるので、この本もちょっと前に買ってたんですけど、あまりきちんと見てなかったんです。紹介されてるのが全部で1500作品、というのにもちょっと圧倒されてたし。でも今回パラパラとめくっていたら、もうどれもこれも面白そうで読みたくなってしまって、困ってしまう! 気になる本が大量すぎて、リストを作ることすらできません。それぞれの本の紹介はほんの数行なのに、なんでこんなに読みたくなるツボを押さえてるんでしょう! しかもこの1500作品を選出するために、お2人は一体何冊の本を読んでらっしゃるんでしょうか!
この中で私が読んでるのはざっと200作品強といったところみたい。まだまだ1300作品の本が私を待っているというわけですね。まだ私が知らなかった神話とか叙事詩も見つけたので、これはぜひがんがん読んでみたいと思います。
ああ、今年1年でどれだけ読めるかしら。今から楽しみ!(国書刊行会)

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夜になると暖炉のまわりに集まり怪談に聞き入る人々。その時「子供に幽霊が出たという話は初めてだ」という意見が出たことがきっかけとなって、ダグラスがかつて聞いた、2人の子供に幽霊が出たという話になります。それはかつてダグラスの妹の家庭教師だった女性の体験談。彼女は既に亡くなっているのですが、死ぬ前に、初めて家庭教師をした屋敷で起きた出来事を原稿に書き、ダグラスに送ってきていたのです。それはサセックス州にある田舎の屋敷で、両親を既に亡くした2人の子供、フローラとマイルズの家庭教師をした時に起きたことでした。

恩田さんの「ねじの回転」を読んだ時から気になってはいたんですが、幽霊物と聞いてちょっと躊躇... ひなたでゆるりのリサさんが高校生の頃から大好きな本と伺って、それに背中を押されてようやく読めました。ヘンリー・ジェイムズってアメリカの作家さんかと思ってたんですけど、イギリス的ですねえ! と思ったら、生まれはアメリカだけど子供の頃からイギリスやフランスに何度も行ってるし、最終的にはイギリスに住むことになったと知って納得。読んでる間、中学生の頃に読んだシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」を思い出して仕方なかったんです。

メインの幽霊話は実際にその体験をした家庭教師の女性の1人語り。雇い主の男性と会った頃から、既にちょっぴり不穏な空気が漂ってます。たとえ何が起きても、その男性に苦情は入れないという約束。そして子供たちのいる郊外の屋敷へ。初めての家庭教師の仕事に緊張する彼女。でも天使のように可愛い子供たちにすぐに夢中になってしまいます。最初はすごく上手くいくんです。家政婦の夫人ともすっかり親しくなるし。でも亡霊たちが現れた頃からだんだん歯車が狂ってきて... 彼女は亡霊たちから子供たちを守ろうと奮戦するんですが...
でもね、1人語りですしね。どこからどこまで本当なのか分からないんです。不穏な目で見ると全てが不穏に見えてくるし、まるで世界が崩壊していくのを目の当たりにしてるような感じなんだけど。そしてこの彼女がだんだん追い詰められていく様子がすごく面白かったんだけど!

ただ、訳文がちょっと。これがもっと自然な日本語なら、もっと楽しめたんだろうなあ、と思ってしまいます。でもね、例えば中学の時に「ジェーン・エア」を読んだ時も、もしかしたら訳文はあまり、だったのかもしれない、なんて思うんですよね。その頃はそんなことは全然気にせず、物語の勢いに夢中になってたのだけど... いつの間にかそれができなくなってるというのは、自分が文章を見る目が少し磨かれたということでもあるんでしょうけど、でもやっぱりちょっと悲しいな。(新潮文庫)


+既読のヘンリー・ジェイムズ作品の感想+
「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムズ
「ねじの回転・デイジー・ミラー」ヘンリー・ジェイムズ

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両親がイギリスを離れる半年間、かつて乳母をしてくれていたベスの家に滞在するためにオールダリーの村へとやって来たコリンとスーザン。到着した翌日、2人は早速近くの「丘」へ。そして帰宅後、ベスの夫に丘の散歩で見た様々なものにまつわる言い伝えを聞くことに。その中には、昔、魔法使いに1頭の白馬を売ることになった百姓の物語もありました。百姓は魔法使いに連れられて洞窟に入り、140人の騎士たちが白馬と共に眠る光景を見ることになったのです。

イギリスのウェールズ地方に伝わる民間伝承を元に書き上げたという作品。その伝承がケルト文学の中に織り込まれている、と訳者あとがきにありましたが、洞窟の中で甲冑に身を固めた騎士たちがいつか戦う日のために人知れず眠っている... というのは、そのまんまアーサー王伝説にもある言い伝えですね。この物語でその騎士たちを眠らせたのは「銀のひたいのキャデリン」と呼ばれる魔法使いなんですけど、これがまるでマーリンみたい。で、このキャデリンは「炎の霜」と呼ばれるブリジンガメンの魔法の宝石の力で騎士たちを眠らせてるんですが、この宝石が紛失してしまうんですね。その辺りからは「指輪物語」と似たような展開になります。コリンとスーザンが入り込んでしまう山中の洞窟はまるでモリアのようだし、同行するのはドワーフ、途中で出会うのはエルフ、そして「黄金の手のアンガラット」はガラドリエルといったところ。(キャデリンはガンダルフみたいだとも言えるし)
壮大な歴史を感じさせる作品なんですけど、やっぱり似ているだけに比べてしまうんですよねえ、「指輪物語」と。そうなると、中心人物たちがどうもイマイチ魅力不足...。とはいえ、「黄金のアンガラッド」や「ギャバランジー」といった、背後にいかにも物語が潜んでいそうな人物もいるんですけどね。
この本では「炎の霜」の奪還の物語だけが語られてるんですが、大きな歴史絵巻の一部分を切り取ったという印象の作品でした。この後のことが、続編だという「ゴムラスの月」で語られることになるのかな。でもあと一冊じゃあ、世界の全貌を見れるところまではいかないんだろうな。(評論社)

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社交界の花・サノックス卿夫人と名外科医・ダグラス・ストーンの仲は公然の秘密。しかし夫人がある日突然きっぱりと修道院に入ってしまったことから、いたるところで噂話が飛び交います。しかもその時、ダグラス・ストーンは泥酔してうつろな笑いを浮かべながら従僕と共にベッドに腰掛けていたというのです... というアーサー・コナン・ドイル「サノックス卿夫人秘話」他、全12編の収められた短篇集。

ええと、今年ぜひとも読みたいと思っている幻想文学なんですが... この本の「幻想」って「幻想」というより「怪奇」? 幻想味はあるんだけど、それが不気味な方向に出てる作品が多かったです。面白い作品は結構ありましたが、幻想という意味ではどうなんだろう。ホラー系は基本的にあまり得意ではないので、怖くなりすぎたらどうしよう、と読みながらドキドキしてしまいました。初っ端のコナン・ドイルからして、結構怖かったんですよぅ。

この中で私が好きだったのは、嵐の日に風に飛ばされてきた幽霊船に、村の若い幽霊たちがラム酒を飲みに通っちゃう「幽霊船」(リチャード・バラム・ミドルトン)。なんとも長閑な幽霊話で、こういうのは好き好き。それと、眠るたびに林檎の樹に覆われた谷間の情景の夢を見るという「林檎の谷」(ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ)も良かったです。一番の大きな林檎の樹の枝が分かれているところに金髪の美しい魔女が立ち、林檎を片手に歌っているんですけど、その下の谷底には男の骸がいっぱいなんですよね。さすがダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、絵画のような美しさがありました。あと、インド版狼男話の「獣の印」(ラドヤード・キプリング)も。でもこれは子供の頃に読んだことがあるような気がする...。
読んだことがあるような気がするといえば、「屋敷と呪いの脳髄」(エドワード・ブルワー=リットン)と「ポロックとポロの首」(H.G.ウェルズ)の2作も読んだことがあるような気がします。多分、なんですけどね。エドモンド・ハミルトンの「フェッセンデンの宇宙」なんかと同じ本に入ってた、なんてことはないかしら。いずれにせよ子供の頃に図書館で借りた本だと思うので、今となってはよく分からないのだけど。(白水uブックス)


+シリーズ既刊の感想+
「イギリス幻想小説傑作集」由良君美編
「スペイン幻想小説傑作集」東谷穎人編
「ドイツ幻想小説傑作集」種村季弘編

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「抒情詩」「童謡」「宗教詩」「譚詩」という見出しのもとに88編を収めた詩集。

先日読んだ「ヴィクトリア朝妖精物語」(感想)に収められていた「妖魔の市」がものすごく良かったので、こちらも読んでみることに~。でもあちらの本の刊行が1990年なら、こちらの本の初版が出たのは1940年。なんと50年もの差があるんです。こちらは当然のように旧仮名遣いだし、全然違っていてびっくり。でも「ヴィクトリア朝妖精物語」の矢川澄子さん訳ももちろんすごく良かったんですが、この旧仮名遣いもクリスチナ・ロセッティの雰囲気にはとてもよく合ってるような気がしますね。訳者による「序」には「譯文の硬軟新古一様ならざるは、その時その折の感懐に従ったまでである。深く咎めざらんことを」とありますし、実際、文語体の訳と口語体の訳が混ざってるんですが、でも口語と言っても当時の口語ですしね。とてもいい雰囲気なんです。こういうの、好き好き♪

クリスチナの姉のフランチェスカはダンテ研究家、長兄ダンテ・ガブリエルは前ラファエル派の画家であり詩人。次兄ウィリアム・マイケルも美術評論家。恵まれた芸術的環境にいたクリスチナは13歳から詩を作り始めたのだそうです。清楚で優しくて透明感があって、夢見るような雰囲気がとても素敵。でも同時に死を思わせるようなものがとても多くて驚きました。幼い頃から病弱だったというクリスチナは、それだけ日常的に死を感じていたのですね。(結果的には、60年以上生きることになるのですが)
あまり現代的な詩は分からない私なので、逆にこういう旧仮名遣いで書かれている方がすんなりと入ってきたりします... 抒情詩なのに(「なのに」というところが問題なんですが)すごく素敵! もちろん物語詩の「譚詩」が一番好みではありましたが~。

そして私は今まで知らなかったんですけど、「童謡」に収められているような詩は、実際に曲がつけられているものも多いみたいですね。西条八十の訳詩で「風」とか。「風」と聞いても歌詞を見ても全然ぴんとこないんだけど、聞いたらどんな曲か分かるのかな...。以下、西条八十の詩です。

誰が風を見たでしょう
僕もあなたも見やしない
けれど木 (こ) の葉をふるわせて
風は通りぬけてゆく

誰が風を見たでしょう
あなたも僕も見やしない
けれど樹立 (こだち) が頭をさげて
風は通りすぎてゆく

私が読んだこの本に載ってるのはまた違う訳なんですけどね... 実はかなり有名な歌ですか??(岩波文庫)

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