Catégories:“他 伝承・神話”
[amazon] [amazon]
グリム童話集に匹敵するものを、とカルヴィーノが3年かけて採取し編纂したイタリアの民話集。原書では200話が収められているようですが、この岩波文庫版には75編が収録されています。上巻が北イタリア、下巻が南イタリアのもの。
本当は、先日overQさんが紹介してらした「ペンタローネ」を読もうと思ってたんですけど...(記事)
「ペンタローネ」はイタリアの詩人・バジーレが17世紀に編纂したもので、ペローやグリムにも影響を与えたそうなので、そちらから読むのが筋なんだろうとは思うんですけど、書店にあったのがこちらだけだったので...。なぜか下巻の書影しかありませんが。
さてこの「イタリア民話集」、ヨーロッパやアジアに流布しているような物語も沢山ありましたが、イタリアらしさが感じられるものも色々ありました。たとえば「皇帝ネーロとベルタ」なんて、まさにイタリアならではの登場人物ですしね。ペルセウスとアンドロメダの物語のような「七頭の竜」も、まあモチーフ的には他の地方にも見られるパターンなんですけど、ギリシャ神話を感じさせる辺りがとてもイタリアらしいです。「眠り姫」もイタリアに来ると、王子さまが来てもお姫さまは眠り続けていて、その間に子供ができてしまったり... 目が覚めてから、傍らに赤ん坊がいるのを見てびっくりするお姫さまには、私の方がびっくり。あと、地理的に近いせいか、先日読んだ「スペイン民話集」(感想)と結構近い話もいくつか目につきました。そっちを読んでいなければ、今頃「おー、こういうのがイタリアっぽいのか」なんて思ってたでしょうから、その辺りが難しいところなんですが...
私が好きだったのは「賢女カテリーナ」というシチリアの物語。パレルモの王子が、大評判の賢女カテリーナの学校に通い始めるのですが、質問に答えられなくて、ぴしゃりと平手打ちをされてしまうんですね。で、平手打ちなんてしたことを後悔させるために、王子は父王に頼んで賢女カテリーナと結婚するんです。(そんな後ろ向きな理由で結婚してどうするって感じなんですが、このパターンはスペイン民話にもありました) で、どうやっても後悔しそうにない賢女カテリーナを地下に閉じ込めておいて、自分はナポリに旅に出ちゃう。そしてナポリでカテリーナそっくりの女性を見つけて結婚して子供を作ってしまうのです。2年ほど暮らすと飽きてジェノヴァへ、そしてヴェネツィアへ。どちらでも同じようなことが起こります。そしてパレルモに帰った時...。次々に女性を見初めて結婚する割には、結局同じ女性を選んでしまっているところが情けなくも可愛らしい物語です。
包丁で身体をまっぷたつにされた男の子の話「まっぷたつの男の子」は、カルヴィーノの「まっぷたつの子爵」の元になっているのかな? なんて部分もあって、なかなか面白かったです。巻末にはカルヴィーノによる詳細な原注もあって、そっちも読み応えがあるんですよね。訳者あとがきにあるように「注を主体として読み、本文を従属的に読む」という読み方も良さそうです。(岩波文庫)
+既読のイタロ・カルヴィーノ作品の感想+
「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ
「不在の騎士」イタロ・カルヴィーノ
「レ・コスミコミケ」イタロ・カルヴィーノ
「なぜ古典を読むのか」イタロ・カルヴィーノ
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
「イタリア民話集」上下 カルヴィーノ
[amazon]
エスピノーサは、スペイン系アメリカ人の言語・口承文芸の研究者。原書に収められている280編もの民話から、日本人が興味深く読めるスペインらしい話全87編が選ばれているのだそうです。謎話、笑い話、教訓話、メルヘン、悪者話、動物昔話、だんだん話の7章に分かれています。
スペイン語の原題、採取された場所、グリム童話などに類話がある場合はその題名などが記されていて、かなりきちんとした民話集です。
この中で一番興味深いのは、「聖女カタリーナ」かな。これは教訓話の章に収められている話。幼い頃から信心深く生きていた聖女カタリーナとは対照的に、その母親はとても罪深い女。一足早く亡くなった聖女カタリーナは当然天国へと行くんですが、母親は当然のように地獄行き。でも聖女カタリーナは母親と一緒にいることを望んで、キリストや聖母マリアにお願いするんですね。そして天使たちが母親を迎えに行ってくれることになります。でも母親は、自分ににつかまって一緒に地獄を出ようとした他の魂たちに向かって悪態をついて、それを聞いた天使たちは母親を放してしまう... という話。
どこかで聞いたような話でしょう? これは芥川龍之介「蜘蛛の糸」の原話なんです。
でも同じように宗教的な雰囲気を持っていても「聖女カタリーナ」と「蜘蛛の糸」は全然違ーう。一番違うのは、再び地獄に落ちた母親の魂のために、聖女カタリーナ自身も地獄へ行くことを選ぶというところなんです。なんと母親愛の話だったんですねえ。たった一回蜘蛛を助けたぐらいで、お釈迦様の気紛れに振り回される「蜘蛛の糸」と違って、この「聖女カタリーナ」の方がずっと説得力があるし、話として筋が通ってるし、私はこっちの方が好きだなあ。芥川龍之介の描く極楽と地獄の情景も美しいですけどね。(岩波文庫)
[amazon]
題名こそ「ロシアの神話」なんですが、中身は「スラヴの神話」「リトワニアの神話」「ウグロ=フィンの神話」の3つ。スラヴ民族は東欧からロシアにかけて広がってるし、本来ロシアの神話といえば「スラヴ神話」のはず。リトアニアとフィンランドは関係ありません。まあ、リトアニアもフィンランドも、かつてロシア帝国やソビエト連邦に組み込まれていたことがあるし、それぞれ独立した1冊にするほどの量もないから「ロシア」というくくりで1冊にまとめられたんでしょうけど... とはいえ、目当てはスラヴ神話でも、フィンランドの神話についても以前から知りたいと思ってたので、思わぬ収穫でした♪
メインのスラヴ神話に関しては全然何も知らないので、この本がいいのかどうなのかも分からないんですが...
読み物としてあまり面白味はないんですけど、とても興味深かったです。あらゆる神々の父は「天(スヴァローグ)」で、その2人の息子は「太陽(ダジボーグ)」と「火(スヴァロギッチ)」。この太陽神が、どこかで見たようなイメージなんです。地域によって多少違うようなんですが、基本的に馬車に乗って1日に1回天空を1周するみたい。それは火の息を吐く白馬たちに引かれた光り輝く馬車だったり、黄金のたてがみを持つ12頭の白馬に引かれたダイヤモンドの二輪馬車だったり、銀の馬と金の馬とダイヤモンドの馬との3頭の馬に引かれた馬車だったり。ギリシャ神話にも、太陽神ヘリオスの息子・パエトーンが父親の馬車を引きたがる話がありますよね。北欧神話にも太陽の馬車が出てきていたはず。調べていたら、インド神話の太陽神・スーリヤも7頭の馬が引く戦車に乗ってるようです。それに対して、エジプト神話では「太陽の舟」。空を大地に見立てるか海に見立てるか、どちらかなのでしょうか。となると高天原は? 天照大神も何かに乗ってたのかしら? もしかして牛車?(笑)
あと、同じ名前の精霊でも地方によって姿形や性格が全然違ってたりするのが面白いです。たとえば水に溺れた若い女性は「ルサールカ」になるそうなんですけど、南のルサールカはその優美な美貌と優しい歌声で旅人を誘惑して快い死に至らしめるんですって。まるでセイレーンやローレライみたいですね。でも北のルサールカはざんばら髪に裸でまるで妖怪のよう、邪悪で意地悪で人々を水に突き落として苦しみの中で溺れさせるんだとか。
そしてフィンランドといえば国民的叙事詩「カレワラ」。「カレワラ」についての本は色々あるし、私も多少は読んでるんですけど、神話そのものを解説してる本というのはなかなかないんですよね。こんなところで読めて嬉しーい。カレワラにも天地創造の場面はあるんですけど、神々はそれ以前から存在していたようだし、主人公・ヴァイナミョイネンもその友・鍛冶師のイルマリネンも、2人が戦うことになる北方の魔女ロウヒも、普通の人間ではないにせよ神という感じではないし、どうもすっきりしないままだったんです。
でも神々のことは一応載ってたんですけど、あくまでも「一応」の説明という感じ。読みたかった感じの神話ではなかったです。ギリシャ神話ほどではないにせよ、何かしらのエピソードを期待してたんですけど、そういうのも全然ないし...。神々の誕生にまつわる話なんていうのもないんです。もしかしたら、実際フィンランドにもほとんど残ってないのかなあ。すごく読んでみたいんだけどなあ。どなたかご存知の方がいらしたら、教えてください。(青土社)
[amazon] [amazon]
ラング世界童話集が復刊になって喜んだのもつかの間、東京創元社から刊行された本は新訳になっていてがっかりしたという方も多いはず。私も昔の川端康成訳はすごく好きだったので、新訳になってしまったことを残念に思った1人です。とはいえ、子供の頃に愛読していた偕成社文庫版をそれほど鮮明に覚えているわけでもなく... だから東京創元社版を読んでも「ここが違う!」とは言えない状態。全12巻のうち半分ぐらいは今でも持ってるんですけど、手元には置いてないので、おいそれと比べてみるわけにもいかなくて。
読み比べてみたいなあと思いつつもそのままになってたんですが、ふと気がついたら、偕成社からも改訂版が出てるじゃないですか! 「みどりいろ」と「ばらいろ」が今年の6月に刊行されてました。しかも巻末には他の10冊のリストも載っていたので、これから順次刊行されることになるんでしょう。なんとなんとびっくりです。
実際に読んでみて分かったのは、現在新たに東京創元社から刊行中の本の方が原書に近いということ。
原書ではBlue、Red、Green、Yellow、Pink、Grey、Crimson、Brown、Orange、Olive、Lilacの順に刊行されていて、その最初の「The Blue Fairy Book」にはラングが子供たちにぜひ読んで欲しいと思った主要な物語が、2冊目の「Red」には「それほど有名ではないけれどよいお話」が収められてるんです。そして巻が進むにつれて、徐々に物語の採取範囲が広がっていきます。それにつれて巻ごとの趣きも少しずつ変化したりして。
それに対して、日本で最初に刊行されたのは今と同じく東京創元社からで1958~59年のこと。(ややこしいので当時の版を旧版、今刊行中の版を新版と書きますね)「みどりいろ」「ばらいろ」「そらいろ」「きいろ」「くさいろ」「ちゃいろ」「ねずみいろ」「あかいろ」「みずいろ」「むらさきいろ」「さくらいろ」「くじゃくいろ」の12色で、色の名前も微妙に対応してないんですけど(笑)、収録されてるお話も実は全然対応してません。原書の全438編の中から、日本にまだそれほど知られていないものを中心に165編の物語が選ばれて、12冊に満遍なく振り分けられたのだそう。
だけど東京創元社新版は、色の名前も作品もちゃんと対応しているんです。訳出されている物語は、増えてるとはいえ原書の半分ほどしかないんですが。(それでも十分分厚い本なんだけど)
そうか、だから巻ごとの雰囲気が違うのか... 単純に「みどりいろ」同士を読み比べるなんてことはできないんですね。
ちなみに東京創元社旧版の次はポプラ社から刊行されて、「ちゃいろ」「みずいろ」「むらさきいろ」「さくらいろ」「くじゃくいろ」の代わりに「きんいろ」「ぎんいろ」「あかねいろ」「こはくいろ」「みかんいろ」「すみれいろ」「ふじいろ」「とびいろ」が加わった全15色で刊行。その後偕成社文庫旧版(私が読んでいたのはコレ)が出るようになった時は、東京創元社旧版と同じ12色で刊行されてます。(訳は全て同じはず)
今刊行されている2つの版を比べると、東京創元社新版の方が表紙や挿絵は断然好き。原書にも使われていたというラファエル前派的な挿絵が素敵ですしね。偕成社文庫版のはいかにも児童書っぽいんです。まあ本が立派な分、東京創元社新版は値段が高いんですが... 偕成社文庫版840円に比べて、東京創元社新版は1995円。文章を比べると、偕成社文庫は字が大きくて平仮名が多いのに比べて、東京創元新社は硬くて大人向きという感じ。でもこの辺りのことは、もう少し読み進めてから。同じ話を読み比べてみたいんですけど、今はまだないみたいですしね。(あるのかもしれないんですが、よく分からなかったので)(偕成社文庫)
+シリーズ既刊の感想+(偕成社文庫版)
「みどりいろの童話集」「ばらいろの童話集」アンドルー・ラング
+シリーズ既刊の感想+(東京創元社版)
「あおいろの童話集」「あかいろの童話集」アンドルー・ラング編
「みどりいろの童話集」アンドルー・ラング編
「きいろの童話集」アンドルー・ラング編
[amazon]
様々な少数民族が伝統的な生活様式を守って暮らしてきたシベリア。シベリアにおける口承文芸の本格的な収集と研究は、シベリアに流刑になった革命家たちによって、19世紀後半から行われ始めたのだそうです。この本には17民族・41話が収録されています。
日本で民話や童話といえば「桃太郎」や「したきりすずめ」といった日本の物語か、そうでなければグリムやペローといったヨーロッパ系のものが基本。そういう話に子供の頃から慣れているので、今回初めて読んだシベリアの民話の素朴さには驚かされました。こういった話が19世紀後半とか、場合によっては20世紀半ばまで残ってたんですか! いやあ、ヨーロッパ系の民話はやっぱり相当洗練されてるんですねえ。元々の話から残酷だったり性的だったりする部分がカットされているというのを除いても、それ以前に物語としての体裁が相当きちんと整えられていたんだなと実感。シベリアの民話はもっと原始的なんです。特にシベリアでも東の端の方に住む種族に伝わる物語。凄いです。多少の矛盾どころか、途中で話がとんでも筋が通ってなくても気にしない!? かなりの荒唐無稽ぶりで、読んでて逆に楽しくなってしまうほど。ものすごく独創性があるし、昔ながらの彼らの生活がありありと感じられます。今までネイティブ・アメリカンの民話も独特だと思ってましたが、こちらはそれ以上ですね。例としてちょっと引用したくなるようなのもあるんだけど、それは女性としてはちょっと憚られるような内容だったり...(笑)
でもシベリアの東端の海岸部から内陸部の物語に移るにつれて、だんだんとヨーロッパ系の物語に近くなってきました。話としてまとまっていて読みやすいし読み応えがあるし、たとえば羽衣伝説のような他の地方の民話と似ている物語もあったりします。私が楽しめたのは、どちらかというとそちらの物語かも。プリミティブな力強さのある話も捨てがたいんですけど、話としてのまとまりがいい方がやっぱり読みやすいですしね。特に気に入ったのは、羽衣伝説に他のモチーフが色々と混ざったような「白鳥女房」や、月にまつわる神話的な物語「蛙と美しい女」辺り。洗練とプリミティブの丁度中間辺りに位置するような「三人の息子」なんかも良かったなあ。(岩波文庫)
[amazon]
「あおいろの童話集」「あおいろの童話集」「みどりいろの童話集」に続く第4巻。
北欧系の話の多かった「あおいろ」「あかいろ」に比べて、フランス系の話が多かった「みどりいろ」はなぜかあまり楽しめなかったんですが、今回の「きいろ」は東欧やロシアの話が結構入っていて、また十分楽しめました。
東欧の童話というのはあまり知らないんですけど、ロシアと合わせてスラブ系ということになるのでしょうか。ロシアの民話は、子供の頃から大好きなんですよね。「イワンのばか」とか「せむしの小馬」とか「火の鳥」とか。あ、でも以前スーザン・プライスの「ゴースト・ドラム」を読んだ時に、ババ・ヤガーというスラブ民話の魔女が出てきたんですけど、この作品を読むまで全然知らなかったんですよね。まだまだ知らない話がいっぱいありそうだし、東欧の話も併せてもっと色々読みたいなあ。あとスラブ系の神話もほとんど知らない... これもぜひとも読んでみたいな。(東京創元社)
+シリーズ既刊の感想+(東京創元社版)
「あおいろの童話集」「あかいろの童話集」アンドルー・ラング編
「みどりいろの童話集」アンドルー・ラング編
「きいろの童話集」アンドルー・ラング編
+シリーズ既刊の感想+(偕成社文庫版)
「みどりいろの童話集」「ばらいろの童話集」アンドルー・ラング
[amazon]
「あおいろの童話集」と「あおいろの童話集」に続く第3巻。
でも、うーん、今回は前2冊ほど楽しめなかったような... なんでかしら。北欧系の童話が入ってなかったから? フランス系(多分)の話が結構沢山収められていて、以前読んだ「おしろいとスカート」「十二人の踊る姫君」の雰囲気に近かったのに(感想)、そちらの2冊ほどにも楽しめなかったし... 物語のセレクトのせい? 訳のせい? それともカイ・ニールセンの挿絵じゃなかったから?(笑)
前2冊ではグリム童話が全然採用されていなくて、それがとても意外ながらも好ましかったんですが、今回は全21編のうち最後3作がグリムでした。でもやっぱりグリムはイマイチ。元々嫌いなわけではないんですけど(私が嫌いなのはイソップ)、今の年齢で読むならもっと地方色や民族色の豊かな作品が読みたいって思っちゃうせいなのかも。(東京創元社)
+シリーズ既刊の感想+(東京創元社版)
「あおいろの童話集」「あかいろの童話集」アンドルー・ラング編
「みどりいろの童話集」アンドルー・ラング編
「きいろの童話集」アンドルー・ラング編
+シリーズ既刊の感想+(偕成社文庫版)
「みどりいろの童話集」「ばらいろの童話集」アンドルー・ラング