Catégories:“新潮クレストブックス”

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アリステア・マクラウド自身が生まれ育ったというカナダのケープ・ブレトンが舞台となった短編集。このマクラウドは、初めての長編が発表されるまでの31年間、わずか16作の短編しか発表しなかったという寡作な作家なのだそうです。
ケープ・ブレトンは、「赤毛のアン」のプリンス・エドワード島の東隣にあるそうなので、自然環境という意味では「赤毛のアン」とそれほど変わらないんじゃないかと思うんですが、「赤毛のアン」からは想像がつかないほどの厳しい自然が描かれていてびっくり。人間を拒否しているとしか思えないほど厳しいです。これを読むと、「赤毛のアン」が夢物語のような気がしてきちゃうぐらい。そしてそんな土地に根ざして生きている祖父母や両親たちの逞しい生活力と、そんな彼らの姿を冷静に見つめる子供たちの目が対照的。親たちがどれだけ必死に生活していようとも、時代は確実に移り変わっていくんですねえ。今はまだ、かつて住んでいたスコットランドや、そこから追われるようにして出てきた記憶が色濃く残ってるけど、それもすぐに今の生々しさを失ってしまうんでしょうね。
炭坑夫の息子として育ち、子供の頃から勉強や読書が好きだったというマクラウドは、最初の作品「船」の「私」のような存在だったのかな? この8編の中で特に好きなのは、「ランキンズ岬への道」。表題作の「灰色の輝ける贈り物」も良かったです。(新潮クレストブックス)


+既読のアリステア・マクラウド作品の感想+
「灰色の輝ける贈り物」アリステア・マクラウド
「冬の犬」アリステア・マクラウド
「彼方なる歌に耳を澄ませよ」アリステア・マクラウド

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新潮クレストブックスから出ていた、ドイツ人作家・ベルンハルト・シュリンクの2冊。「朗読者」が長編で、「逃げてゆく愛」が短編。
いいですねえ。読み始めた途端に、なんだかしみじみと染み込んでくる感じでした。
予想もしてなかったのでびっくりだったんですが、「朗読者」にもナチの問題が登場するし、「逃げてゆく愛」でもドイツ人とユダヤ人、あるいはドイツが内包する政治的問題などを絡めて描いた作品が目につきます。戦争を体験した親世代、戦争を直接知らない子供世代。ごく個人的な存在でありながら、社会情勢の変化の影響を受けずにはいられない愛。ドイツ人とユダヤ人の恋愛の難しさなんかも考えさせられちゃいました。(直接的な戦争物は苦手な私なんですが、こういう作品なら読めるんですよね)
どちらが良かったかといえば、長編の「朗読者」なんですが、「逃げてゆく愛」に収められている「もう一人の男」も良かったです。これはナチは全然関係なくて、奥さんが亡くなった後に、奥さん宛てに知らない男から親しそうな手紙が来て... という話。残された2人が何を考えようと、奥さんの本当の気持ちはどうだったのか、もう誰にも分からないんですよねー。

今気がついたんですけど、この2冊、並べると表紙の雰囲気が似ててすごく綺麗ですね。やっぱりクレストブックスは装幀も素敵です♪ (「朗読者」は文庫の表紙を出してますが、若干フォントが違うだけで、バックの絵は一緒です)(新潮文庫・新潮クレストブックス)


+既読のベルンハルト・シュリンク作品の感想+
「朗読者」「逃げてゆく愛」ベルンハルト・シュリンク
「帰郷者」ベルンハルト・シュリンク

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退行性の病気で痴呆が進み、あっという間に死んでしまったモリーという女性と、かつてその恋人だった3人の男たちの物語。知的で洗練された雰囲気で、大人のための小説といった印象なんですが、男たちの自滅ぶりは実に皮肉な視線で描かれています。かつての恋人たちは、それぞれに高名な作曲家、新聞の編集長、そして外務大臣。そんな世間的に高い地位を築き上げた男性たちでも、一旦歯車が狂い始めてしまったら、崩壊するのは一瞬なんですよね。そこに、このシンプルな文章が効果的。
でも、音楽家が交響楽を作曲するシーンは面白かったし、端正な文章も良かったんですけど、男たちの自滅ぶりがあまりにありきたりに感じられてしまって、あまり楽しめなかったかも...。なんだかタチの悪い冗談みたいで。これが面白かったら、同じマキューアンの「愛の続き」も読もうと思ったんだけど、やっぱりしばらくやめておこう。(新潮文庫)


+既読のイアン・マキューアン作品の感想+
「アムステルダム」イアン・マキューアン
「愛の続き」イアン・マキューアン

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大旱魃の後のモンスーンの到来と共に生まれ、「幸運」という意味のサンパトという名がつけられたサンパト・チャウラーは、しかし20年後、すっかり無気力な人間となっていました。父親が探してくれた郵便局の仕事にもうんざり。局長の娘の結婚式でお尻を出して踊り、とうとう首になってしまいます。しかしサンパトは突然啓示を受け、家を抜け出してグアヴァの木に登ってしまうのです。家族が懇願しても、一向に降りて来ようとしないサンパト。しかし父親のミスター・チャウラは、息子を聖人として売り出すことを思いつきます。

インドを舞台にしたユーモア小説。インドの映画を小説に置き換えたらこんな感じになるのかな~ってそんな作品でした。(インドの映画、実際には観たことないんですが...) インドの庶民の生活ぶりや街中の喧騒がフルカラーで迫ってくるみたい。訳者あとがきによると、インドではそれほど荒唐無稽な話とはされてないらしいんですけど、それでもやっぱり不思議~な雰囲気があります。
この中では、聖者とされてしまったサンパトが語る教訓的な言葉が面白かったです。一見意味がないくだらない言葉のように見えながら、考えようによっては深~い意味がありそうに感じられてくる言葉。そしてグアヴァの樹の下で日々繰り広げられる人間の欲望絵図とは対照的な、サンパト自身の静かで平和な樹上世界も。それだけに物語中盤が一番面白かったですね。猿の群れが登場した後のドタバタ部分は、うーん、あまり...。(新潮クレストブックス)


+既読のキラン・デサイ作品の感想+
「グアヴァ園は大騒ぎ」キラン・デサイ
「喪失の響き」キラン・デサイ

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15歳だったアルネが亡くなって1ヶ月。ハンスは、アルネの遺品を手に取りながら、色々なことを思い出します。アルネは一家心中で1人だけ生き残った少年。ハンスの家に引き取られ、それ以来ハンスはアルネと部屋を共有していたのです。アルネはなぜ死んだのか...

先日読んだ「遺失物管理所」(感想)と同じジークフリート・レンツの作品。あちらも、読み終わってみるとなんだか物悲しく感じられたんですが、こちらは作風がまた少し違っていて、最初から最後まで透明な哀しさの中に沈みこんでいるようなイメージでした。もちろん、アルネという少年が死んでしまっていることが最初から分かっているせいもあるんですけど...
このアルネという少年がものすごく純粋で... でも純粋すぎて、脆く壊れてしまった硝子細工という感じなんですよね。ハンスやハンスの両親みたいな頼れる人間もいたし、誰にも心を開かなかった男にも心を開かせちゃったし、学校の教師はアルネの才能を認めてるんだけど... でも同年代の仲間にしか埋められない孤独というのがあって。切ないなあ。
でも、いい話だったんだけど... 私は「遺失物管理所」の方が好きかな。(新潮クレストブックス)


+既読のジークフリート・レンツ作品の感想+
「遺失物管理所」ジークフリート・レンツ
「アルネの遺品」ジークフリート・レンツ

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列車の車掌の仕事から遺失物管理所へと異動になったヘンリー。遺失物管理所は出世も望めない、列車の待機線のような場所。しかしヘンリーに出世するつもりはまるでなく... ただ気持ちよく仕事ができれば十分なのです。

駅という場所は、これから旅立つ人や帰ってきた人、単に通り過ぎていくだけの人々が集まる、それだけでもドラマを感じさせる場所。帯にも「ここでは、今日もさまざまな人間ドラマが幕を開ける」とあるし、様々な遺失物から色んな人生が見えてくるんだろうなあ、なんて思ってたんですけど、そういう話ではなかったようで...(笑)
むしろこの遺失物管理所にいるヘンリーを中心とした人間ドラマでした。24歳になっても、まだまだ少年のようなヘンリーは、イイとこの坊ちゃんらしくて、第一印象はただの困ったくん。出世欲がないのはいいとしても、お金に無頓着でお姉さんに借りまくってるみたいだし、人妻には無邪気に言い寄ってるし。あと、落し物の受取人に、その遺失物が自分の物だと証明してもらわなければならないんですけど、ナイフ投げの芸人が落とした商売道具を取りに来た時は、そのナイフの特徴を言わせるだけじゃ足りなくて、自分を的にナイフを投げさせちゃおうとするんですよ! 上司に見つかって、当然叱られることになるんですけど(笑)、大体においてそんな感じ。台本を落とした女優と、お芝居の一場面を演じてみたり。でもそんなとこがとても面白いし、そんな風に楽しそうに仕事をしてるのってヘンリーぐらいなんですよね。
作品自体はあまり明るくないんですが、ヘンリーの明るさのおかげで、それがいい具合に緩和されてるような... この空気感が何とも好きです。読み終わった後は、妙に物悲しくなっちゃったんですけどね。ヘンリーの曇りのない純粋さこそが、人々が失ってしまい、遺失物管理所に探しに来るものなのではないかとそんな気さえしてきます。(新潮クレストブックス)


+既読のジークフリート・レンツ作品の感想+
「遺失物管理所」ジークフリート・レンツ
「アルネの遺品」ジークフリート・レンツ

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フランス贔屓のイギリス人・ウィノットは短い休暇を取り、心の我が家である南仏へ。その道すがら、様々な料理の話が、家族や乳母の思い出、現在滞在しているホテルや行ってみたレストランの話を交えながら語られていきます。

1人称で書かれていることもあって、まるで料理エッセイみたいな作品。でもこれはタークィン・ウィノットという人物の自伝的作品という体裁なんですね。「序、謝辞、および本書の構成について」から既に物語は始まっていました。とにかく料理、料理、料理、料理... 物凄く沢山の料理が次々に登場して、そのレシピや薀蓄がイヤってほど語られていきます。で、その博覧強記ぶりに幻惑されていると、あらら... という仕掛け。かなりのブラック・ジョーク。
でもねー、とにかく読みづらいんです。何が読みづらいって、文章が。こんなに大変だったのも久しぶり... これは翻訳にも関係あるんでしょうけど、むしろ原文のせいなんでしょうね。1つ1つの文章の中に情報が目一杯詰め込まれてて、ちょっと気を抜くと目が文字の上を素通りしてしまいそう。しかも一体何が話の核となってるのか、全然見えてこないんです。自分勝手な語りだけが延々と。例えば、ヴォルガ産のキャビアについて。

ヴォルガ産キャビアがほどよい塩加減で処理される過程については、よく知られているといえるほど知られているわけではありません。ベテランの鑑定人--毛糸の帽子などをかぶり眼光鋭く長靴には短剣を差した見た眼はおそらく荒削りな男--が卵を一粒口に入れ舌の上で転がす。すると経験と勘が不思議かつ精妙な合体を遂げて眼前のチョウザメの卵にはどのていど塩をすべきか、瞬時にしてわかってしまう。量を誤れば美食学的にも経済的にも大損害、大打撃を引き起こしかねない(これが長靴に短剣の理由)。芸術家が--別に自分のことだけをいっているのではありませんよ--作品の価値をすばやく見抜くことができるのとこれは相通じるところがあって、眼にするのと判断するのがほぼ同時というか、いや、ごくわずかだが眼にする前にその価値がわかってしまうというか、量子物理学的パラドックスさながらというか、あるいは夢と同じで展開する物語は非常に複雑、大胆に時空を越え人や事物を断片的に次から次へと取り込んでいくうちに--死んだ親戚がテューバとなり飛行機でアルゼンチンへ飛ぶのが初めての性体験と重なってリボルバーが暴発すると実はそれが鬘で--いよいよ恐るべきクライマックスにさしかかる前にロンドン中に響きわたるけたたましいサイレン、じき核戦争が勃発するぞという場面が気がつくとなんのことはない、ありきたりながらどこまでも安心感漂う家のなかでの出来事で、これにて一件落着というかのように目覚まし時計が威勢よく鳴るか玄関でお気に入りの郵便配達人がポストに入りきらない大きな小包を抱えて立っている、そんな瞬間と似ていなくもないのであります。(P.23-24)

ひえー、疲れた...
...でもこういう文章はわざとだったんですね。必要以上に饒舌な文章が煙幕となって、主人公という人間をカモフラージュしていたのでしょう... 実は想像以上に奥が深い作品で、すっかり作者にしてやられてしまったのかもしれません。でも文章が読みにくいっていうのは、やっぱりつらいぞっ。(新潮クレストブックス)

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