Catégories:“ハヤカワepi文庫”

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デヴィッド・ラウリーは、2度の離婚歴のある52歳の大学教授。性的欲望は人一倍強いものの、これまではかなり上手く処理してきたつもり。しかし週に1度会っていた娼婦と会えなくなったのがきっかけで、大学の20歳の教え子に強烈に惹かれ、半ば強引に肉体関係を持つことに。ところが彼女にはたちの悪いボーイフレンドがいたのです。デヴィッドはセクハラで告発されて、追われるように大学を去ることになります。そして、しばらく娘のルーシーが経営する農園に身を寄せるのですが...。

J.M.クッツェーという人は全然知らなかったんですが、ノーベル文学賞を受賞した作家だったんですね。そのクッツェーが2度目のブッカー賞を受賞したという作品。
大学での描写があんまり自然なので読み始めた時はうっかりしてたんですが、これはアパルトヘイト撤廃後の南アフリカが舞台の作品なんですよね。それがものすごく肝心要というか、それがなければ成り立たない作品。大学という、いわば白人社会の中でぬくぬくと過ごしてきた大学教授も、一歩外に出ればそこはアフリカ。大学では、ちょっとカッコをつけて、セクハラの査問会でも下手な言い訳なんて全然しないで自分の行動に自信を持ってるデヴィッドなんですが、その大学という砦から一歩外に出れば、そこは黒人社会なんです。娘のルーシーの農場に滞在している時に起きた事件や何かで、彼はそのことをイヤと言うほど思い知らされることになります。大学でのセクハラと農場での事件は一見違うものに見えるけれど、実は同じなんですね。強者と弱者の立場が入れ替わっただけ。結局、デヴィッドは徐々に黒人社会に隷属させられている自分に気づくことになるし、その結果、彼好みの「若くて美しい女との関係」とはまるで違う価値感の幸福を手に入れることになるし...
淡々と書いているようでいて、読後感は意外と濃厚な作品でした。そういえば、私が小学校の時の友達に、お父さんの仕事の関係で何年か南アにいたという子がいたんです。その頃のことだから、日本人は名誉白人という立場だったはずだし、彼女の家に遊びに行くと実際、欧米人の家みたいでカルチャーショックを受けたものですが(笑)、それでも色々なことがあったようです。その頃も色々な話を聞かせてくれたんですが... その後私も彼女も引越してしまって、今は音信不通になってしまってるんですよね。仲良かったのになあ。とても残念。(ハヤカワepi文庫)

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アダム・トラスクは、1862年、コネチカット州の農家の1人息子として生まれた少年。しかしコネチカット連隊に召集されていた父・サイラスが帰宅すると、トラスク夫人は夫から戦争から持ち帰った感染症にうつされ、それを苦に自殺。サイラスはすぐに近所に住む農夫の娘に目をとめて再婚し、アダムの1歳年下の弟となるチャールズが生まれます。軍隊を礼賛しているサイラスは、2人の息子に軍隊式の訓練を強要。弟のチャールズは力でも技でもアダムに勝り、軍隊式の訓練も受け入れていましたが、暴力や争いの嫌いなアダムにとって、それは苦痛でしかない習慣。しかし父は2人が成長した時、いかにも軍隊に向いていそうなチャールズではなく、アダムを騎兵隊に送り込んだのです。

ジェームス・ディーン主演で映画にもなってるこの作品なんですが、私は映画も観てなければストーリーも全然知らない状態。なんとこんな大河ドラマだったとはー。ええと、アダム・トラスクとその弟チャールズ、アダムの息子のキャルとアロンという、2世代の4人の男たちが中心となってる物語なんですけど、ジェームズ・ディーンがやってたのは、アダムの息子・キャル役だったみたいですね。話の最初から最後までちゃんと映画化してるかどうかは知りませんが。作中にはスタインベック自身もちらっと登場して、自伝的作品でもあったのか! と、またまたびっくり。

で、この作品で唯一事前の知識として知ってたのは、聖書の創世記のカインとアベルの話をなぞらえてるという部分だったんですが、アダムとアロンが「アベル」で、チャールズとキャルが「カイン」ということなんですね。ということはA(アベル...アダムとアロン)とC(カイン...チャールズとキャル)の対立ということなのか。羊飼いであるアベルの捧げ物は神に受け入れられたのに、農夫であるカインの捧げ物は受け入れられなかったのと同様に、アダムとアロンは父に愛され、チャールズとキャルは父の愛情を感じられなかったという図。
でもこの4人を見てて感じたのは、純粋すぎるアダムやアロンの弱さ。この世が既にエデンの園ではない以上、純粋すぎる人間は生き延びていくことができないってことなんですかねえ。アダムもアロンも万人に愛されるような人間だけど、悪に対する抵抗力が全然ないんです。だから悪そのもののキャシーという1人の女性に滅ぼされちゃう。それに比べて、キャルとチャールズは強いです。自分の中にある悪を持て余して苦しみながらも、生きぬく力は十分持っているんですよね。作中に効果的な嘘のつき方の話が出てきたけど、嘘の中に真実を少し混ぜるだけで、あるいは真実の中に嘘を少し混ぜるだけで、その嘘がすごく強くなるのと同じようなことなんだろうな。
読み始めた時はこんな大河小説とは知らなかったので、一体誰が主役なんだろう?って感じだったんですけど、いやあ、面白かったです。こんなに面白いとは思わなかった。随分前に読んだっきりなのですっかり記憶が薄れてるんだけど、パール・バックの「大地」を思い出しました。4人以外の登場人物もそれぞれ良かったですしね。私が断然気に入ったのは、アダムの家にコックとして雇われる中国人のリー。でも映画にはリーは登場しないんだそうです。勿体ないなー。(ハヤカワepi文庫)

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カッスルは、イギリス情報部に入って30年以上経つベテラン情報員。現在は6課でアフリカ担当として、さほど重要とも思えない極秘電報の暗号を解読したり、逆にこちらから電報を送ったりする日々。かつて南アフリカに勤務していた時に知り合った黒人女性のセイラと結婚し、その息子サムと3人で郊外での生活を送っています。しかしその6課から情報が漏洩していることが発覚。6Aにいるのは課長のワトスンとカッスル、そして40代で働き盛りのデイヴィスのみ。調査の結果ワトスンとカッスルは嫌疑を免れ、デイヴィスが疑われることに。独身でジャガーを乗り回し、年代物のポートワインに目がなく、賭け事もするデイヴィスは、調査をした丁度その日の昼食時にも報告書を持ち出そうとしていたのです。

あまりピンと来ないままに、ハヤカワepi文庫に入っている作品を読み続けていたグレアム・グリーン。著者紹介には「イギリスを代表する作家であるとともに、20世紀のもっとも偉大な作家のひとり」とされてるんですけど... いえ、決して悪くはないんですけど、どこかピンと来なかったんですよね。それはもちろん読み手である私が未熟なせいなんでしょうけど。でもこの作品は面白かった!
この作品は、紛れもないスパイ小説ではあるんですけど、私がこれまでに読んだスパイ小説とは雰囲気が全然違いました。スパイ小説といえば普通、東西の駆け引きあり、裏切りあり、恋愛あり、派手なアクションありの、もっと手に汗を握るサスペンスで、ページターナーって感じの作品が多いと思うんですが、この作品は何ていうか、ものすごく静かなんです。イギリスの冬空のようなイメージ。実際、ジェームズ・ボンドシリーズが作中で何度か皮肉られていたりなんかして。
スパイ物というよりも、ずっしりと重い人間ドラマ。最後に明かされる真相も皮肉です。実際にグレアム・グリーンが第二次大戦中にイギリス情報部の仕事をしていたということもこの作品にリアリティを与えているんでしょうけど... それ以上に、ふとした拍子に垣間見えるキリスト教的な部分が作品に深みを出しているのかも。いやあ、良かったです。(ハヤカワepi文庫)


+既読のグレアム・グリーン作品の感想+
「第三の男」グレアム・グリーン
「おとなしいアメリカ人」グレアム・グリーン
「負けた者がみな貰う」グレアム・グリーン
「権力と栄光」グレアム・グリーン
「事件の核心」「二十一の短篇」グレアム・グリーン
「ブライトン・ロック」グレアム・グリーン
「ヒューマン・ファクター」グレアム・グリーン

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1948年10月。かつては名のある画家として尊敬を集め、多くの弟子に囲まれて一世を風靡しながらも、今は引退して、隠居生活を送っている小野益次。終戦を迎えて日本の状況は大きく変わり、戦時中の小野の行動が元で、周囲の目は手を返したように冷たくなったのです。自宅で一見穏やかな日々を送りながら、小野は自らの過去を回想します。

「日の名残り」(感想)のような「信頼できない語り手」による物語なんですが、こちらの方があからさまですね! 主人公がかつてのことを回想しながら物語は進んでいくのは同じですし、その言葉をそのまま額面通りに受けとめられないのも一緒。それでも「日の名残り」は、そのまま受けとめてしまうこともできる作品なんです。でもこちらの作品では、どうしても小野が物事を自分に都合の良いように解釈し、記憶を改竄し、さりげなく自分の行動を正当化していこうとする部分がイヤでも目につきます。周囲の人々との記憶の齟齬も読みどころ。それに、何度も繰り返し「自分の社会的地位を十分に自覚したことなどない、自分は家柄など重視しない」というように語られているんですが、それが逆に自負心を浮き彫りにしているようだし、1年前に娘の紀子が破談された事件が、予想以上に小野を傷つけていることがよく分かります。確かに戦時中の小野は、自分の行動に信念を持っていたのでしょうけれど... 今はそれを屈折した感情で正当化することでしか生きながらえることができないんですね。そんな1人の男の悲哀がよく表されているように思います。
彼の身近な人間、彼の行動をつぶさにみてきた人間の視点から語られたら、この作品とはどれほど違う作品が出来上がるんでしょう。ほんと全く違う物語になってしまいそう。読んでみたいなあ。そんな作品が書かれることは、絶対ないでしょうけど...。(ハヤカワepi文庫)


+既読のカズオ・イシグロ作品の感想+
「日の名残り」カズオ・イシグロ
「遠い山なみの光」カズオ・イシグロ
「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ
「浮世の画家」カズオ・イシグロ
「私を離さないで」カズオ・イシグロ
「充たされざる者」カズオ・イシグロ

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文化大革命の嵐の吹き荒れた1971年のはじめ、再教育のために山奥の小さな村へと送り込まれた羅と馬。羅は有名な歯医者の息子で18歳、馬は普通の医者の息子で17歳。再教育とはいっても、普通なら2年の期間が終われば町に帰ることができるはず。しかし反革命分子の息子である2人が帰れる可能性は、千分の三もないのです。厳しい労働に明け暮れる中、2人は仕立て屋の美しい娘・小裁縫に恋をします。そして友人のメガネがこっそり隠し持っていた本を借りることのできた2人は、初めて読むバルザックの作品に夢中になり、小裁縫にもバルザックのことを語って聞かせることに。

在仏中国人の映画監督、ダイ・シージエが書いた、自伝的作品なのだそうです。
許される本といえば、「毛沢東語録」のみ。それ以外の全ての本は禁書として扱われるような世の中で、こっそり西欧文学を読んだ時の衝撃というのは、私たちが日頃している「読書」とは計り知れないほどの違いがあるんでしょうねー。主人公の「目がくらみそうだった! 心は酔いしれて朦朧となり、気を失うかと思った」という言葉にとてもよく出ていました。分かる気がするなあ...。それまで愛国心や共産主義、政治思想、プロパガンダといったことしか知らなかった彼らに、バルザックの本は色鮮やかな未知の人生を描き出していきます。いくらこういった空間に閉じ込められようとも、「再教育」をされようも、到底抑えきれないものってありますよね。そしてその影響が三人三様で出てくるところが、またいいのです。彼らのその後はどうなるんだろう...。これはぜひ続きを知りたいものです。(ハヤカワepi文庫)


+既読のダイ・シージエ作品の感想+
「バルザックと小さな中国のお針子」ダイ・シージエ
「フロイトの弟子と旅する長椅子」ダイ・シージエ

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1冊目は、カポーティの若き日の紀行文の「ローカル・カラー」と、著名人について書いた「観察記録」。2冊目は、ソ連でオール黒人キャストのミュージカル「ポギーとベス」を上演することになったアメリカの劇団に随行した時の記録「詩神の声聞こゆ」と、京都でのマーロン・ブランド会見記「お山の大将」と、日本人の印象を書いた「文体ーーおよび日本人」。

うーん、とても感想が書きにくい...。どれも小説ではない、ってせいもないのでしょうけど、やっぱりそれも関係あるのかな。まず1冊目の「ローカル・カラー」や「観察記録」は、スケッチと呼ぶのが相応しいような文章。そして「詩神の声聞こゆ」は、カポーティが「初めて短篇喜劇風"ノンフィクション・ノヴェル"として構想した」という作品。
でも私がこの2冊のうちで一番好きなのは、そういう風に表題作となるような作品ではなくて、まずジャン・コクトーの紹介でフランス文学の大女流作家コレットに会った時のことを書いた「白バラ」でした。8ページほどの短い作品なんですが、最初は緊張していたカポーティが、一瞬にしてコレットという人物に魅せられ、その後も影響を受け続けたのが十二分に分かるような気がします。コレットの最後の言葉も印象的。それと、映画「サヨナラ」の撮影のために京都に来ていたマーロン・ブランドと会った時のことを書いた「お山の大将」も好き。ある人物を叙述する時、決してその人が満足するように描かなかったというカポーティですが、そういった人々の中でもっとも心を痛めたのがマーロン・ブランドだったのだそうです。でも、私はすごくいい文章だと思うんだけどな。成功者という位置には相応しくないほどの、強い感受性を持った青年像が浮かび上がってくるようです。

この2冊には、それぞれ「犬が吠える」という副題が付いていて、それはカポーティがアンドレ・ジッドに教えてもらったアラブの諺「犬は吠える、がキャラバンは進む」から来ているのだそうです。解説で青山南さんも書いてたけど、確かに犬は吠えるもの。それでもカポーティは、進み続けていたということなのでしょうね。(ハヤカワepi文庫)


+既読のトルーマン・カポーティ作品の感想+
「カメレオンのための音楽」トルーマン・カポーティ
「ローカル・カラー/観察記録」「詩神の声聞こゆ」トルーマン・カポーティ

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ブライトンに来て数時間のうちに殺されてしまったヘイル。検死結果は自然死だったのですが、殺される直前にヘイルに会っていたアイダは、本当に自然死なのか疑問を持ち、色々と調べ始めます。ヘイルを殺したのは、17歳の少年・ピンキーとその仲間たち。ピンキーたちのやり口は万全のはずだったのですが、彼らは1人だけ、自分たちの行動を証言できる人間がいることに気付きます。ピンキーは早速その1人、16歳の田舎娘・ローズに近づき、今後彼女が証言したりすることのないよう、結婚してしまおうとするのですが...。

ブライトン・ロックと言ったら、私はQueenの曲しか思い浮かばないんですけど(笑)、ブライトンで売られている棒キャンディーのことなんだそうです。棒のどこで折っても「ブライトン」という字が現れる... って、要するに観光地名産の金太郎飴のことなんですね。(笑)
これは初期の傑作とされている作品。これまで読んだグレアム・グリーンの作品の中では、これが一番面白かったです。キリスト教色に関してはいいんですけど、やっぱり戦争色は薄い方がいいなあ... と言いつつ、「権力と栄光」は、実は気に入ってたりするんですが。(読んでから時間が経つにつれ、だんだん印象が鮮明になってきました)
この作品のピンキーは、何をしでかすか分からない不良少年。はっきり言って悪党です。周囲から見れば、どう考えてもローズがピンキーに騙されているとしか見えないでしょうし、アイダもそう考えてるんですが、実際のところはちょっと違うんですよね。ローズは世間知らずだけど、愛する男と結婚できるというだけで有頂天になってしまうような娘ではないんですもん。それでも、アイダは一度会っただけのヘイルのために、そして彼女自身が「正しいことをするのが好き」なために、ローズにつきまといます。...世間一般的には、アイダの方が圧倒的に正しいはずなんですが、この作品の中で魅力的なのは、何と言ってもピンキー。この2人がカトリック信者だということが、後のグリーンの作品の方向性を予感させるようです。(ハヤカワepi文庫)


ということで、これでハヤカワepi文庫の現在刊行されている35冊は全て読了です。
ボリス・ヴィアンの「日々の泡」だけは、先に新潮で読んでたんですが、今年の3月22日にアゴタ・クリストフの「悪童日記」を読んで以来、全部読み終えるのに3ヶ月ちょっと。最後にかたまってしまったグレアム・グリーンは、私にとってはちょっと難物だったんですが、だんだん良さが分かりそうな気もしてきたし、その他に大好きな作品がいっぱい。アゴタ・クリストフ「悪童日記」も、カズオ・イシグロ「日の名残り」も、リチャード・ブローティガン「愛のゆくえ」も、アンジェラ・カーター「ワイズ・チルドレン」も、アニータ・ディアマント「赤い天幕」も、ニコロ・アンマニーティ「ぼくは怖くない」も... と書くとキリがないのでやめますが(笑)、素敵な作家さんとの出会いが多くて、面白い作品も色々とあって、この3ヶ月すごく楽しかったです。早く次の本も刊行されないかな。次にどんな作品が読めるか、今からとっても楽しみです。


+既読のグレアム・グリーン作品の感想+
「第三の男」グレアム・グリーン
「おとなしいアメリカ人」グレアム・グリーン
「負けた者がみな貰う」グレアム・グリーン
「権力と栄光」グレアム・グリーン
「事件の核心」「二十一の短篇」グレアム・グリーン
「ブライトン・ロック」グレアム・グリーン
「ヒューマン・ファクター」グレアム・グリーン

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